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続・珍道世直さんからの手紙~戦争のない世界・人を最も大切にする社会の創出に向けて

 今晩(2015年8月4日)配信した「メルマガ金原No.2172」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
続・珍道世直さんからの手紙~戦争のない世界・人を最も大切にする社会の創出に向けて

 三重県津市にお住まいの元三重県職員・珍道世直(ちんどう・ときなお)さんは、昨年7月1日の閣議決定のわずか10日後である2014年7月11日、東京地方裁判所に対し、安倍晋三以下、当時の閣僚全員を被告として、
 ① 7月1日閣議決定憲法第9条に違反して無効であることの確認を求める。
 ② 閣議決定を先導した内閣総理大臣とこれに加担した各大臣の懲戒処分を求める。
 ③ 閣議決定によって被った精神的苦痛に対する慰謝料10万円の支払を求める。
訴えを提起しましたが、同地裁は、同年12月12日、この訴えを却下(③については棄却)する判決を言い渡しました。
 ここまでの経緯については、私も2度にわたってブログでご紹介しました。
 
 
 上記2度目のブログでもご紹介しましたが、1審・東京地裁における原告・被告双方の主張の骨子は、珍道さん自身が要領よくまとめられています。

「集団的自衛権行使容認閣議決定違憲訴訟」第1回口頭弁論概要報告(原告 珍道世直) 
 
 珍道さんは、1審での敗訴にもめげず、2014年12月19日、東京高等裁判所控訴を申し立てましたが、同裁判所は2015年4月21日、控訴棄却の判決を言い渡しました。
 
産経ニュース 2015.4.21 16:53
閣議決定無効の訴え、控訴審も却下 集団的自衛権で東京高裁

(引用開始)
 集団的自衛権の行使を容認した憲法解釈変更の閣議決定憲法違反だとして、元三重県職員の珍道世直さん(75)=津市=が閣議決定の無効確認などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は21日、一審東京地裁判決と同様、訴えを退けた。珍道さんは上告する。
 大段亨裁判長は一審判決を支持し「閣議決定がすぐに原告の権利を制限するわけではなく、法律関係の争いではないので訴えは不適法だ」として無効確認の訴えを却下。精神的な苦痛を受けたとする10万円の慰謝料請求は「個人的感情にすぎない」と棄却した。
(引用終わり)
 
 そして、同年5月1日、最高裁判所に申し立てた上告について、去る7月29日、最高裁判所第二小法廷は、上告を棄却する旨の決定を言い渡しました。
 
時事ドットコム
集団的自衛権無効の却下確定=閣議決定めぐり-最高裁

(引用開始)
 集団的自衛権の行使を容認した昨年7月の閣議決定違憲だとして、元三重県職員の珍道世直さん(76)=津市=が閣議決定の無効確認を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は29日付で、珍道さん側の上告を棄却する決定をした。訴えを却下した一、二審判決が確定した。(2015/07/31-21:18) 
(引用終わり)
 
 弁護士にとってはお馴染みの定型文ですが、最高裁判所の決定を全文ご紹介しておきます(珍道さんから調書(決定)の写しを送っていただきました)。
 
(引用開始)
裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定。
第1 主文
 1 本件上告を棄却する。
 2 上告費用は上告人の負担とする。
第2 理由
 民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは民訴法312条1稿又は2項所定の場合に限られるところ、本件上告の理由は、違憲をいうが、その実質は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
(引用終わり)
 
参照条文
民事訴訟法(平成八年六月二十六日法律第百九号)
(上告の理由)
第三百十二条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。 

 ちなみに、珍道さんの上告を棄却した最高裁第二小法廷の裁判長(小法廷の裁判長は持ち回り)は、奇しくも、外務省出身で集団的自衛権行使容認論者である小松一郎氏を慣例を破って内閣法制局長官に押し込むため、安倍内閣によって最高裁判所判事に「栄転」させられた第64代内閣法制局長官・山本庸幸(やまもと・つねゆき)氏であったというのは、ある種の因縁を感じます(もっとも、最高裁に小法廷は3つしかないので、確率3分の1ですが)。
 山本氏は、2013年8月、最高裁判所判事就任に際しての記者会見で、「集団的自衛権の行使は、従来の憲法解釈では容認は難しい。実現するには憲法改正が適切だろうが、それは国民と国会の判断だ」と述べ、これに対して菅義偉官房長官が「非常に違和感がある」と反発したことは有名ですね。
 
 さて、昨年7月から続いた珍道世直さんの「たった1人の裁判闘争」は、ちょうど1年で、とりあえずの終結を迎えました。
 珍道さんは、この間、直接間接に支援してくれた人々に、最終的な結果を報告する責任を感じておられたのではないかと思います。
 最高裁から送達された調書(決定)の写しを添えて、私のもとにも丁重な感謝の言葉を述べられたお手紙が届きました。
 珍道さんは、最高裁憲法判断を回避したことを、「最高裁は「違憲審査権」を放棄したに等しく、「三権分立の原則」の崩壊につながる憂慮すべき事態であると考えます」とする一方、(安保関連法案が廃案とならずに成立してしまった場合には)「最高裁が、速やかに「安全保障法制」について、憲法判断を下されるよう切望する処です。」という期待も述べておられます。
 そして、手紙の末尾に書かれていた「先生におかれましては、どうかご健勝で、今後とも「戦争のない世界・人を最も大切にする社会」の創出に向けてお取組み賜りますよう、お願い申し上げます。」という言葉は、私たちに対する、「バトンは渡しましたよ」という珍道さんからの叱咤激励だろうと受け止めました。
 まずは“戦争法案”成立阻止に全力を傾け、万一成立してしまった時には、いよいよ弁護士が中心となっての違憲訴訟の提起が必要となるでしょう。提訴の必要がなくなることを願いつつ、万一の時の心構えも必要だと、珍道さんの手紙を読んであらためて思いました。