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安保法制違憲訴訟を考える(1)~小林節タスクフォースへの期待と2008年名古屋高裁判決

 今晩(2015年9月27日)配信した「メルマガ金原No.2226」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制違憲訴訟を考える(1)~小林節タスクフォースへの期待と2008年名古屋高裁判決

 9月19日未明に通過してしまった安保関連法案、成立した法律は2つあります。
 もっとも、以上のように書く前提として断っておくべきことは、そもそも、法律成立の要件たる衆参両院での採決に重大な瑕疵があり(あるいは存在せず)、成立もしていないという主張があり得るということです。とりあえず、以下では、成立はしているが無効であるという前提で話を進めたいと思います。
 とはいえ(と我ながら回りくどいですね)、成立はしているが無効であるという場合、それも、憲法に違反しているから無効であると主張する場合、普通は成立した法律の中に、憲法違反で無効な部分と、そ
こまでは言えない部分があるのが普通であって、法律全体を無効と主張するのは相当に困難と思われます。
 もしもさまざまな論理を駆使して法律全体が違憲無効だと主張するとすれば、それはほとんど法律成立否定論と同じことになるような気がします。
 抽象的に法律の憲法適合性を審査する憲法裁判所を持たない日本の場合、具体的な権利又は法律関係をめぐる争訟の発生を必要とするため、どの法律のどの条項が憲法のどの条項に違反して違憲無効なのかという主張がどうしても必要となります。
 私自身、まだ具体的な検討などしていませんが、安保法制成立に備えて違憲訴訟を準備してきた優秀な弁護士有志の皆さん(かなりいるはずですが)は、当然その理論構成を深めていることでしょうね。
 
 さて、その成立してしまった法律ですが、参議院ホームページから、名称(法律案)、施行期日を定めた附則、本会議での各議員による投票結果をご紹介しておきます。
 
我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する

投票結果
 
国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
附 則
 この法律は、我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法
律(平成二十七年法律第▼▼▼号)の施行の日から施行する。
投票結果 
 
 上記2法の公布日については、9月25日の閣議において、同月30日に公布することが決定したとじられています
 従って、遅くとも2016年3月末までには施行されることになります。
 
 ちなみに、衆議院本会議での採決は起立採決で行われたため、議院の公式記録に個々の議員の投票結果は記録されません。そこで、東京新聞が調査した結果を一覧表にして掲載したものが出回っています(この一覧表に誤りがあるという指摘があったという話は少なくとも私は聞いていません)。
 
 さて、遅くとも来年3月末には施行されることになった新安保法制に対し、小林節さん(慶應義塾大学名誉教授、弁護士)を弁護団長とする集団違憲訴訟が準備されているということは、小林さん自身が各所で公言していますので、かなり知られるようになってきていると思います。
 実際、去る9月15日に行われた参議院特別委員会での中央公聴会で、小林さんは、法案が成立した場合、施行日以降に提訴することを明言しています。参議院特別委員会で強行採決があった日のメルマガ(ブログ)でも紹介しましたが(参議院安保特別委員会の強行採決を目に焼き付ける(付・小林節弁護団長が違憲訴訟の出訴時期を明言~9/15中央公聴会)/2015年9月15日)、小林節さんが、社民党又市征治幹事長からの質問に答えて違憲訴訟について語った部分(1時間09分~1時間11分)を文字起こししておきます。
 
参院特別委・中央公聴会(2)~安保法案
 

小林節公述人
 今、日本は戦争しようがないですから、平和に暮らしてます。(日本国憲法)前文に「平和的生存権」(が規定され)、それを制度として9条がバックアップしてます。ところが、この法案が成
立して施行期間が過ぎて有効になった瞬間からですね、いつでも政府が自称「客観的、合理的に総合的に判断した」と言えば、自衛隊を米軍の友軍(遊軍)とする、海外に出せる、戦争が始まるんですね。平和という概念、定義ですが、戦争又は戦争の危険のない状態なのです。ですから、今も議論されている法律が有効になった瞬間から、我々は日々戦争の危険のある国に暮らすことになって、これが平和的生存権の侵害状態で、いわば我々の人格が、戦争の不安で傷ついていくんですよね。国家賠償請求訴訟を構えようという相談はしています。ただ、今は言論戦でつぶすことに全力(を尽くしますが)、でも頭の中には、チームもできてます。ただし、我々としてはですね、最初に申し上げたように、政治の過失は政治で取り返す。ですから、日本人は忘れっぽいんで、毎月弁護団と弁護団会議を開いて、記者会見をすることによってですね、アナウンスメント効果を考えてる。だって、最高裁まで4年かかるじゃないですか。その間に、参議院選挙と総選挙があるじゃないですか。そして、とにかく自民と公明が連立することによって、過半数に満たない票で圧倒的多数の議席をとって今威張ってる訳ですよね。だから野党が本当に、本当に素直に連立を構えて、過半数に満たないけども自公より多い票で、議席を、圧倒的多数を取り返すこと。かつて民主党政権を作ったじゃないですか。だから、できるんですよ。だから、政治の手段としての憲法訴訟を、使えるものは何でも使う。それを考えています。
 
 小林節団長とそのタスクフォースの詳細な作戦は存じ上げないものの、漏れ聞く噂によれば、原告の中に多くの著名人を迎え、1000人規模の大弁護団を結成するなどということが伝えられており、まさに小林先生のキャラクターともあいまって、「アナウンスメント効果」は抜群になりそうで、その違憲訴訟に対する期待は大なるものがあります。
 もっとも、これで「勝てるのか?」ということになると、「それはまた別の問題で」ということになるでしょうし、小林先生が言われるとおり、この安保法制の全体が間違っていたということをはっきりさせて是正する方法は、9月19日に成立した2法を「廃止する」という法律を新たに作ることに合意した政治勢力が、衆参両院で過半数の議席を確保するしかないはずです。
 
 ところで、自衛隊の海外派兵と違憲訴訟ということを考える場合、直ちに想起されるのが、2008年(平成20年)4月17日に名古屋高裁(民事第3部)が言い渡した自衛隊イラク派兵差止等請求控訴事件判決です。
 この判決は、イラクにおいて航空自衛隊が行っていた空輸活動が、武力行使を禁止したイラク特措法2条2項、活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し、かつ、憲法9条1項に違反する活動を含むものであったことを明確に認定したばかりか、憲法前文の平和的生存権について「憲法上の法的な権利として認められるべきである」とした上で、「この平和的生存権は,局面に応じて自由権的,社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ,裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合があるということができる」と判示した画期的な判決でした。従って、今後展開される違憲訴訟においても、最大限に活用すべき判例であることは間違いないでしょう。

 ただし、この名古屋高裁判決が憲法9条1項に違反すると判断したのは、航空自衛隊による空輸活動そのものであって、その根拠となっていたイラク特措法違憲と判断したものではなかったことに注意すべきです。小林団長が用意している違憲訴訟は、法律の施行をまって提起するようですから、具体的な自衛隊に対する出動命令がない訳で、それにもかかわらず、平和的生存権の侵害があったと主張する論拠をどうするか、かなり詰めた議論が必要でしょう。
 もちろん、イラク特措法と比較して、今回成立した2法の危険性(自衛隊憲法で禁止された武力行使に及び、国民の平和的生存権が侵害される危険性)は格段に高まったことは明らかですから、弁護団としては、その点を強調するのだろう、などと推測しています。
 
 実は、今日のメルマガ(ブログ)では、この名古屋高裁2008年判決のおさらいをしようと考えていたのですが、前説だけで時間切れになってしまいました。
 いずれ、私自身の勉強のために本格的に取り上げたいと思いますが、関心を持って自分でも勉強したいという方は、「イラク自衛隊派兵差し止め訴訟の会」ホームページがまだ公開されていますので、参照されることをお勧めします。
 
 また、長らく絶版となっていた川口創さん(弁護団事務局長)と大塚英志さん(原告)による『「自衛隊イラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(2009年/角川)が、新装版となって別会社から今年の5月に刊行されていましたので、ご一読をお勧めします。 
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり) 
 

(付録)
『同じ目の高さで』 作曲:PANTA 作詞・演奏:中川五郎