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安保法制違憲訴訟を考える(番外編)~法律の公布ということ

 今晩(2015年9月30日)配信した「メルマガ金原No.2229」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
安保法制違憲訴訟を考える(番外編)~法律の公布ということ

 官報なるものを手に取ったことのある国民がどの程度いるのでしょうか?私自身、相続財産管理人に選任された際に、相続債権者及び受遺者に対する請求申出催告の公告(民法957条)を官報に掲載した時に(公告出稿者として)手元に官報本体が届いた時くらいですかね。
 しかし、官報は、様々な機能を果たしています。
 「官報」公式ホームページでは、官報のことを以下のように説明しています。
 
「官報について」
(引用開始)
官報とは
 官報は、法律、政令、条約等の公布をはじめとして、国の機関としての諸報告や資料を公表する「国の
広報紙」「国民の公告紙」としての使命を持っています。さらに、法令の規定に基づく各種の公告を掲載
するなど、国が発行する機関紙として極めて重要な役割を果たしています。
 官報は、明治16年(1883年)に初めて発行されました。当初、編集・発行業務は太政官文書局で行っていましたが、その後内閣官報局、内閣印刷局大蔵省印刷局財務省印刷局を経て、平成15年(2003年)4
月以降は独立行政法人国立印刷局が行っており、行政機関の休日を除いて毎日発行されています。
法令の公布
 『法令の公布』として、憲法詔書、法律、政令、条約、省令、告示等があります。公布とは、「成立
した成文の法を公表して一般国民が知ることのできる状態に置くことをいう。成文法は、一定の制定手続によつて成立するが、それが現実に拘束力を発生するためには、一般に公布の要件を満たすことが必要」とされています。(「法令用語辞典」学陽書房 参照)
(引用終わり)
 
 なお、紙媒体の官報を入手しようとすれば、各都道府県に1箇所設けられた官報販売所を通じてということになります。
 また、過去30日間分に限って、上記官報公式サイトにPDFファイル型式で配信されています(インターネット版「官報」)。
 30日以上経過した官報をインターネットで読みたい場合には、有料の「官報情報検索サービス」が用意されています。
 
 さて、私がなぜ長々と官報の説明をしてきたかといえば、いわゆる安全保障関連2法が今日(9月30日)公布されたからです。
 
日本経済新聞 2015/9/30 11:13
政府、安保法を公布 16年3月施行見通し

(引用開始)
 政府は30日午前、集団的自衛権の行使容認などを柱とする安全保障関連法を公布した。施行は来年3月の見通しで、政令で施行日を決める。安保法は自衛隊法など10本の現行法改正案をまとめた「平和安全法制整備法」と、国際紛争に対処する他国軍に後方支援する「国際平和支援法」の2本からなり、今月19日
に成立した。
(引用終わり)
 
 ちなみに、法律の公布について定めた規定を引用しておきます。
 
日本国憲法
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二~十 略
 
国会法(昭和二十二年四月三十日法律第七十九号)
第六十五条 国会の議決を要する議案について、最後の議決があつた場合にはその院の議長から、衆議院の議決が国会の議決となつた場合には衆議院議長から、その公布を要するものは、これを内閣を経由して
奏上し、その他のものは、これを内閣に送付する。
2 略
第六十六条 法律は、奏上の日から三十日以内にこれを公布しなければならない。
 
 以上のとおり、法律の公布は天皇の国事行為とされ、内閣の助言と承認により行われること、公布は奏上の日から30日以内に行われなければならないことについては明文の規定がありますが、それ以上の具体的な規定は見当たらず、慣例により処理されています。
 国会法65条1項による奏上があった後、天皇が法律に署名して御璽を押し(下僚に押させているのかもしれませんが)、法律に法律番号が付されて閣議にかけられ、内閣の助言と承認があったことを示すために内閣総理大臣が副署し(主任の国務大臣も署名するようですが)た上で、官報に掲載されて公布されるということになります。
 戦前は公式令(明治四十年二月一日勅令第六号)に基づき公布手続が執行されていましたが、日本国憲法の施行とともに同勅令が廃止された後も、基本的には公式令時代に行われていた方式に準拠しているようです(つまり、「法律の公布は官報に掲載してする」ことを定めた法令はないのです)。
 廃止された公式令の該当条文を引用しておきます。
 
公式令(明治四十年二月一日勅令第六号/昭和二十二年五月三日廃止)
第六條 法律ハ上諭ヲ附シテ之ヲ公布ス
2 前項ノ上諭ニハ帝國議會ノ協贊ヲ經タル旨ヲ記載シ親署ノ後御璽ヲ鈐シ内閣總理大臣年月日ヲ記入シ之
ニ副署シ又ハ他ノ國務各大臣若ハ主任ノ國務大臣ト倶
ニ之ニ副署ス
3 略
第十二條 前數條ノ公文ヲ公布スルハ官報ヲ以テス
 
 さてそれでは、官報による公布というのが具体的にどういうものか、インターネット版「官報」から引用してご紹介します。(以下略)としている部分が法律の条文(別表を含む)本体です。なお、期間限定(30日間のみ)ですので、早めにご覧ください。
 
平成27年9月30日 水曜日 官報  (号外第224号) 12頁~24頁
 我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律をここに公
布する。
  御 名  御 璽
    平成二十七年九月三十日
                  内閣総理大臣臨時代理
                    国務大臣 麻生 太郎
法律第七十六号
我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律
(以下略)
 
平成27年9月30日 水曜日 官報  (号外第224号) 25頁~28頁
 国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
をここに公布する。
  御 名  御 璽
    平成二十七年九月三十日
                  内閣総理大臣臨時代理
                    国務大臣 麻生 太郎
法律第七十七号
国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
(以下略)

 ところで、当然「内閣総理大臣 安倍 晋三」という署名があってしかるべきところが、「内閣総理大臣
時代理 国務大臣 麻生 太郎」となっているのは、安倍首相が国連総会出席のために日本におらず署名できないからですが、「なんだかなあ」と思わざるを得ませんね。もしかすると、安倍首相本人も不本意だったかもしれませんが。
 
 さて、このようにして公布された安保関連2法の施行期日は、各法律の附則に定められています。以前にもご紹介しましたが、再掲します。
 
我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律
附 則
(施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する
 
国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
附 則
 この法律は、我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法
律(平成二十七年法律第七十六号)の施行の日から施行する。
 
 以上のとおり、政府が安倍首相の帰国を待たず、9月30日に公布したのは、今年度末(2016年3月31日)のちょうど6ヶ月前に公布したかったからでしょう。
 これにより、安保関連2法(実質11法ですが)は、遅くとも来年3月末までに施行されることが確定しました。
  
 こららの法律(改正規定及び新法)が施行されるということは、いつなんどきでも、時の内閣の判断により、存立危機事態や重要影響事態や国際平和共同対処事態が認定され、自衛隊に防衛出動や後方支援活動や協力支援活動が命じられる可能性のある国になるということです。
 小林節さん(慶應義塾大学名誉教授、弁護士)が、この施行日以降の提訴を前提として、違憲訴訟を準備していると公言されていることは既にご紹介したとおりです(安保法制違憲訴訟を考える(1)~小林節タスクフォースへの期待と2008年名古屋高裁判決/2015年9月27日)。

 今日は、シリーズで考えようと思っている「安保法制違憲訴訟を考える(番外編)」として、法律の公布ということについて調べてみました。
 まあ、細かな手続上の問題ではあるものの、法律を施行するためには、その前提として公布がなされていなければならないことは憲法を読めば分かりますが、その肝心の公布方法(官報への掲載)が、実は慣例によっているということなど、私自身、以前どこかで読んだことがあったような・・・という頼りない状態でしたので、自分の勉強のためもあり、少し詳しくご紹介しました。
 
(参考サイト)
 法令の公布についてインターネット上で読める論文としては、中央学院大学法学部の小島和夫教授(当時)が執筆された以下の論考があります。
『中央学院大学 法学論叢』電子版 第13巻第1号(通巻第23号)141頁~169頁 
「法令の公布をめぐる現行法制」 小島和夫(1999年10月31日)

 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり) 
 

(付録)
『忘れないということ』 作詞・作曲・演奏:よしだよしこ