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今こそ「運動としての学習会」が必要だ

 今晩(2015年10月12日)配信した「メルマガ金原No.2241」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
今こそ「運動としての学習会」が必要だ

 9月17日の参議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会での強行採決に続き、同月19日未明にいわゆる安全保障関連2法が成立し、同月30日に官報に掲載されて公布されましたので、遅くとも来年3月末までに両法が施行されることになりました(2015年9月30日/安保法制違憲訴訟を考える(番外編)~法律の公布ということ)。
 
 さて、それでこれからどうする?ということが問題となるのですが、法案成立から間髪を入れずに最も重要な提案を行ったのが日本共産党志位和夫委員長でした(もちろん、正式に機関決定を経た上での党の提案であることは言うまでもありません)。
 

 その「国民連合政府」構想は、憲法違反の安保関連法の廃止を最優先課題と考える、とりわけ党派色のない国民から大きな共感を呼んでいると思うのですが(私自身もそう思っています)、自民党の現職参議院議員にどう挑むつもりかが厳しく問われる地方1人区では、なかなか国民の期待するような情勢が生まれる状況にない、というところも少なくないことと思います。
 
 正直、私の地元和歌山県でも状況は芳しくありません。
 日本共産党は、国民連合政府を提案する1ヶ月以上前の8月26日、看護師の坂口多美子氏を、2016年参院選和歌山選挙区に擁立することを発表していました。
 そして、9月19日の志位和夫共産党委員長による提案から3週間経過した昨日(10月11日)、民主党は(候補者公募をしているということは聞いていましたが)、坂田隆徳氏(会社役員、元国会議員秘書)を来年の参議院選挙(和歌山選挙区)の候補者に内定したと発表しました。
 お2人とも、その人となりや政治的見識などについてはほとんど(坂田氏については「全く」)知るところがありませんので、その優劣を云々するつもりはありませんが、共産党民主党の両党とも、本気で自民党の現職候補に勝つつもりで候補者を人選したのか?一県民としてそこが一番知りたいところです(とりわけ民主党和歌山県連に対しては、ですが)。
 私は共産党とも民主党とも何の関係もありませんので、候補者選びにとやかく言うような立場ではあま
せんが、少なくとも私のように両党と何の関係もないが、安倍政権を打倒しなければどうしようもないと考えている県民の闘う意欲をはじめから削ぐような愚かな振る舞いだけはしないで欲しいと願うばかりです。
 
 さて、弁護士である私のフィールドは、選挙や政党ではありません。
 その私は何をすべきなのかと考える時思い出すのが、2006年7月にマガジン9(当時は「マガジン9条」)に掲載された小林節さんのインタビューの一節です。以前にも紹介したことがありましたが、もう一度引用してみましょう。
 
マガジン9条 この人に聞きたい 2006年7月26日
小林節さんに聞いた(その1)
無知・無教養がはびこるこの国の政治

(抜粋引用開始)
編集部 『ルポ 改憲潮流』(斉藤貴男、岩波新書)のなかで、筆者が読売新聞の論説委員長にインタビューしている箇所があるのですが、この論説委員は、「立憲主義なんていうのは、大学の狭いアカデミズムだけの話なんだ」ということを言っていますね(※「憲法学者というのは、伝統的に現行憲法ファン学
者であってね。逆に言えば、ある時期まで、そうでなければ生きていけなかった。ギルド社会の話ですよ
」と発言。P169)。
小林 「立憲主義?ああそんなのは…」っていうその傲慢さ。それが平気でできるというのは、やはり無知だからです。しかしいまの改憲主流派に読売新聞の影響は大きい。その準備に、かつて僕も付き合っ
てきたのだけれど・・・。
 だけど、これは護憲派に言っておきたいけど、きちんとした憲法常識が世の中に浸透していないという
ことは、護憲派がそれをきちんと何十年も語って来なかったということなんですよ。
編集部 憲法は国民が権力者である国家、つまり政治家と公務員を縛るものだという、立憲主義の原則を
広く啓蒙してこなかったツケがまわっていると。
小林 そうです。「9条を守りさえすればこの国は平和で、9条を改正されたらこの国は危ない」なんて言って内輪で会合を開いて、影響力のないところで護憲念仏を唱えて、うっとりしていた時代が長すぎた
んです。
 そんなことより、小・中・高校と大学の憲法講座、一般教養の法学講座できちんとした憲法教育をすることが護憲派の役目なんですよ。立憲主義の教育を全然してこなかった。それでいま襲われて焦っている
わけだからね。
 立憲主義は、人間の本質に根ざした真理です。つまり、権力は必ず堕落する。なぜなら権力というのは、抽象的に存在するのではなくて、本来的に不完全な生身の人間が預かるからなんです。つまり政治家と
公務員が、個人の能力を超えた国家権力なるものを預かって堕落してしまうということです。
 歴史上、完全な人間は一人もいない。不完全だから、必ず堕落するんです。権力者の地位に着くと、自分に「よきにはからえ」となる。だからこそ憲法をつくって権力を管理しよう、そういう仕組みになって
いるんです。
編集部 その点で言うと、自民党船田元代議士(自民党憲法調査会長)などが「新しい憲法観は、国家
と国民が協力するという関係を前提とする」と主張するのは、根本からズレているわけですね。
小林 ズレてますね。僕らは有権者として選挙し、国民として納税していますから、すべて国民は、国家
に協力しているんです。国家と国民が協力しろと言っているのは、国家権力を握っている人たちです。1億円もらっても都合悪くなると忘れちゃったり、都合悪すぎると思い出したりする、でも責任は取らないというような人々が国家権力者であり、国家そのものなの!そういう人たちが我々非力な国民に対して「
協力しろ」と言うのは、要するに「黙って従え」か「少なくとも批判するな」という話なんです。
 僕は弁護士活動をして初めてわかったけど、国家って、本当にちょっとした事実で人を疑ったら、犯罪
者に仕立てるために証拠をつくるようなこともやるんですよ。「お前、隠しているな」としか見えないならば、“引っかけて”でも絶対に有罪にしてやろうという意識がある。だから僕は、本当に権力というも
のは恐ろしいと思っています。 
(引用終わり)
 
 これが9年前の小林節さんの発言です。集団的自衛権についての小林さんの見解にはかなり大きな変化があったようですが、こと「立憲主義の危機」については、既に9年以上前から、声を大にして警鐘を鳴らし続けていた訳です。小林さんは、私たちが「9条の危機」に目を奪われている間に、実は「立憲主義の危機」こそが問題なのだという非常に重要なことを指摘していたのでした。
 私がこのインタビューにあらためて目を開かれたのは、うかつなことに、掲載されてから既に7年が経過した一昨年のことでした(2013年7月13日/この7年間、私たちは何をしていたのか?~「小林節さんに聞いた」(2006年/マガジン9条)を読んで~)。
 
 安保関連法制廃止、それを実現するための政治勢力の結集、来たるべき国政選挙に向けた世論喚起など、やるべきことは山のようにあるのは間違いありませんが、弁護士としては、そのような状況だからこそ、立憲主義の意義を説き、安保関連法制のどこが憲法違反なのかを分かりやすく解説する「運動としての学習会」を組織的にやるべきだと考えています。
 あるいは、それは弁護士会憲法委員会)こそが中心となって取り組むべきことかもしれませんし(学
校などに働きかけるのは弁護士会がふさわしい)、あすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)が推進する憲法カフェでもいいかもしれません。活動実績は各地でばらばらのようですが、弁護士9条の会に期待できる地域もあるでしょう(少なくとも、私が所属する「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」は継続して講師派遣活動に取り組んできています)。青年法律家協会自由法曹団の支部が活発に活動している地域なら、そのような法律家団体が中心になってもいいと思います。
 来年の参議院選挙から選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることを見据えた運動論も是非とも必要です。
 「学習会」というと、「この非常時に悠長な」とか、「いつもお馴染みの顔ぶれだけで自己満足の学習
会をしても意味がない」というような否定的評価を下し、結局何もしないということになりがちです。しかし、そのような側面があることに注意を払いながらも、「運動としての学習会」は是非とも必要だと思っています。
 今でこそ、「立憲主義とは何か」について、少しは知る人が増えてきたとはいえ、国民的常識にはほど
遠いでしょう。自民党日本国憲法改正草案(2012年)の何が問題なのかを知ってもらうためには、
立憲主義についての理解が不可欠です。
 それに、これから廃止運動を推進しなければならない安保関連法制について、どの部分が、どういう理
由で、憲法のどの規定に違反しているのか、国民がみんな知っているとは到底思えません。それどころか、熱心に反対運動に関わってくれている人の中でも、その理解の程度はばらばらでしょう。
 何しろ、この違憲の法案が国民誰もが知り得る状態となったのは、衆議院提出の前日(5月14日)、閣議決定された後に内閣官房のホームページに掲載されたのが最初のことで、私も初めてその日に法案(の一部)を読みました。
 そして、その4ヶ月後には、あの膨大な法案の中身について十分な国民的議論をする間もなく成立してしまったのですから無茶苦茶です。
 遅ればせながらでも何でも、この違憲の安保関連法制について正しい知識を持つ国民を着実に増やしていくことによって、
〇法律が施行されても事実上自衛隊の海外派兵をさせないための世論を盛り上げる。
〇政府が承認を求めても、少なくとも参議院が拒否できるだけの政治勢力を生み出す。
自公政権に終止符を打ち、安保関連法制を廃止し、7.1閣議決定を撤回する政権を誕生させる。
ための道筋をつけることが私たち法律家の使命なのではないかと考えています(もちろん、学習会の講師は弁護士でなければばらないと言っている訳ではありません)。
 
 そこで最後に、これから依頼が殺到するはずの(?)学習会講師を引き受けなければならない若手弁護士のために、これだけは視聴して、そして読んで欲しい教材をご紹介します。

 まず、憲法の伝道師、伊藤真弁護士による語り下ろし動画と、講演録(文字起こし)です。
 2013年4月27日に収録された語り下ろしDVD「憲法ってなあに?憲法改正ってどういうこと?」が、2014年4月から「憲法ってなあに」と題されてYouTubeで無償公開されています。
 未見の人は是非とも視聴して欲しいと思います。2年以上前、このDVDを初めて視聴した私の感想は、「目からうろこが落ちる」とはこういうことか!というものでした。そして、1枚500円というバーゲンプライスのこのDVDを200枚以上仕入れて和歌山県内各所で売りまくったものでした。
 当初のタイトルのとおり、立憲主義の基本(憲法とは何か?)ということがまことに分かりやすく語られていますし、その前提を話してから説き及ぶので、自民党改憲案批判も非常に説得力豊かです。
 
憲法ってなあに?(55分)
 
英語吹替版韓国語吹替版もあります。
 
 また、伊藤真弁護士が和歌山弁護士会の招きにより、同会主催の市民集会「集団的自衛権って何ですか?~憲法集団的自衛権を考える~」(2014年9月16日)で行った講演を文字起こしした報告集(PDF)が、同会ホームページに掲載されていますので、これを上記動画の副教材として推奨します。伊藤弁護士作成のパワポ資料も完全収録、文字起こしした原稿を伊藤弁護士自ら校正し、小見出しも付けてくれたという貴重な資料です。是非ご一読ください。
 
和歌山弁護士会
市民集会「集団的自衛権って何ですか?~憲法と集団的自衛権を考える~」報告集


 それから、今年5月15日に国会に上程され、9月19日未明に成立した安保関連法制についての参考文献は、これからおいおい出版されるとは思いますが、とりあえずは、自由法曹団が公開した以下の意見書を参照すればよいと思います。
 
 
 実は、学習会の講師として必要な見識を身につけるためにまずやるべきことは、必要な資料を自分で探し出すことだと思います。従って、このような資料の紹介は「余計なおせっかい」に他なりません。願わくは、多くの若手弁護士が意欲をもって研鑽を積まれんことを。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2015年7月9日
“戦争法案”学習会用レジュメ(第2版)
 

(忘れないために)
 「自由と平和のための京大有志の会」による「あしたのための声明書」(2015年9月19日)を、「忘れないために」しばらくメルマガ(ブログ)の末尾に掲載することにしました。
 
(引用開始)
  あしたのための声明書
 
わたしたちは、忘れない。
人びとの声に耳をふさぎ、まともに答弁もせず法案を通した首相の厚顔を。
戦争に行きたくないと叫ぶ若者を「利己的」と罵った議員の無恥を。
強行採決も連休を過ぎれば忘れると言い放った官房長官の傲慢を。
 
わたしたちは、忘れない。
マスコミを懲らしめる、と恫喝した議員の思い上がりを。
権力に媚び、おもねるだけの報道人と言論人の醜さを。
居眠りに耽る議員たちの弛緩を。
 
わたしたちは、忘れない。
声を上げた若者たちの美しさを。
街頭に立ったお年寄りたちの威厳を。
内部からの告発に踏み切った人びとの勇気を。
 
わたしたちは、忘れない。
戦争の体験者が学生のデモに加わっていた姿を。
路上で、職場で、田んぼで、プラカードを掲げた人びとの決意を。
聞き届けられない声を、それでも上げつづけてきた人びとの苦しく切ない歴史を。
 
きょうは、はじまりの日。
憲法を貶めた法律を葬り去る作業のはじまり。
賛成票を投じたツケを議員たちが苦々しく噛みしめる日々のはじまり。
人の生命を軽んじ、人の尊厳を踏みにじる独裁政治の終わりのはじまり。
自由と平和への願いをさらに深く、さらに広く共有するための、あらゆる試みのはじまり。
 
わたしたちは、忘れない、あきらめない、屈しない。
 
     自由と平和のための京大有志の会
(引用終わり)