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原子力市民委員会 特別レポート No.2「核廃棄物管理・処分政策のあり方」を読む

 今晩(2016年1月2日)配信した「メルマガ金原No.2323」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
原子力市民委員会 特別レポート No.2「核廃棄物管理・処分政策のあり方」を読む

 年末12月30日に書いたメルマガ&ブログ(「原子力施設立地・周辺自治体の財政・経済自立に向けた課題」(12/26第十五回 原子力市民委員会)を視聴しながら高浜原発再稼働を思う)で少し予告しましたが、原子力市民委員会(核廃棄物問題プロジェクトチーム)が12月25日に発表した特別レポート「核廃棄物管理・処分政策のあり方」を、とても精読とはいきませんが、ざっと目を通しましたので、メル
マガ(ブログ)でも取り上げることにしました。
 表紙と奥書を含めて全部で51ページのレポートなので、その盛り沢山な内容をご紹介するのは難しいのですが、とりあえず、その概要を知っていただくために、【奥書】、【目次(中項目まで)】、【序章
 0.4 本レポートの要旨】を引用します。 
 
 
【奥書】
原子力市民委員会 特別レポート No.2「核廃棄物管理・処分政策のあり方」
作成:原子力市民委員会 核廃棄物問題プロジェクトチーム
執筆:茅野恒秀、吉岡 斉、大沼淳一、伴 英幸
執筆協力:石井秀樹、井野博満、島薗 進、菅波 完、筒井哲郎、細川弘明、村上正子
発行日:2015 年 12 月 25 日
発行者:原子力市民委員会
www.ccnejapan.com
【目次(中項目まで引用)】
序章
0.1 本レポートのねらい
0.2 混迷の度合いを深める核廃棄物問題
0.3 現実を直視しない核廃棄物政策から脱却せよ
0.4 本レポートの要旨
第1章 核廃棄物の管理・処分の基本原則
1.1 核廃棄物管理・処分の技術的三原則
1.2 核廃棄物管理・処分の社会的三原則
1.3 基本原則をふまえた責任と負担のあり方
第2章 東京電力福島原発事故廃棄物の管理・処分政策
2.1 最優先課題としての事故廃棄物の管理・処分
2.2 核燃料デブリの取扱い
2.3 汚染水の隔離と処理
2.4 地表汚染物質の隔離と処分
第3章 事故由来放射能汚染物の管理・処分に関する重要な論点
3.1 放射性物質汚染対処特措法の問題点
3.2 放射能管理の法令体系・行政組織の改変は必要か
3.3 事故由来放射能汚染物の管理・処分の監視体制
第4章 従来型の核廃棄物の管理・処分政策
4.1 はじめに
4.2 高レベル放射性廃棄物の種類と量
4.3 処理・処分対象となる高レベル放射性廃棄物
4.4 高レベル放射性廃棄物の処理・処分への政府の対応
4.5 日本学術会議の対応
4.6 従来型の核廃棄物の管理・処分に対する提案
参考資料: 放射能汚染物の総量試算
 
【序章 0.4 本レポートの要旨(7頁~)】
 第1章では、核廃棄物の管理・処分の基本原則を示す。原則には技術的原則と社会的原則がある。技術的三原則は、①被ばくの最小化、②環境汚染の最小化、③国民負担の最小化であり(1.1)、社会的三原則は、①汚染者負担、②負担の公正・公平、③処分量の確定である(1.2)。これらの基本原則をふまえた責任と負担のあり方について論ずる(1.3)。核廃棄物に対しては、日本国民の多くが何らかの責任を負っているが、とりわけ原発を稼働させてきた各電力会社(汚染者)と原子力規制機関および政府(監督者)の責任が重大である。責任ある者がこれを自覚せず、適切な対処を怠っている。
 本レポートでは、核廃棄物の対処の優先順位を以下のように設定する。
(1)東京電力福島原発事故廃棄物(第2章および第3章で扱う)
(2)未固化の高レベル廃液や放熱量の大きい使用済み核燃料など、安全管理上の問題を抱えている従来型の核廃棄物(第4章で扱う)
(3)それ以外の核廃棄物(第4章で扱う)
 第2章では、東京電力福島原発事故廃棄物の管理・処分政策の問題と代案を論ずる。核燃料デブリ、汚染水、事故廃棄物・地表汚染物質は、可及的すみやかに隔離管理を進める必要がある(2.1)。原子炉建屋については石棺化して、100~200 年の隔離管理期間で、できるだけ放射能を減衰させ、処分方策について検討すべきである(2.2)。汚染水対策は地下汚染エリアの封鎖を現実的な手法で進めるとともに浄化と貯蔵を進める必要がある(2.3)。高濃度の事故廃棄物処分には、六ヶ所村低レベル放射性廃棄物埋設センターと同等のスペックが必須である(2.4)。敷地外に拡散した事故廃棄物は、拡散させず集中管理施設を設置し、半永久的に管理することが妥当である(政府が想定する 30 年の「中間貯蔵」では十分に減衰しない)。その集中管理施設の計画は、汚染者(東京電力)と監督者として連帯責任
を負う政府と、立地予定地域住民の民主的な協議が不可欠である(2.4.3)。
 第3章は、原子炉敷地外に飛散した事故由来放射能汚染物に絞って、問題点と対策を検討する。事故由来の放射能汚染物は少なくとも 17 都県にまたがって広範囲に蓄積しているが、集中管理
し、拡散しないことが肝要である。しかし、放射性物質汚染対処特措法等によって、さまざまなダブルスタンダードが横行し、各地で放射能汚染物の焼却が安易に行われ、汚染が広がっている(3.1)。こうした状況を抜本的に改めるために、汚染者の責任において集中管理することを軸に、放射性物質汚染対処特措法は廃止し、適切な監視・管理体制が整えられないままに設定された基準を見直し、一刻も早く監視と規制の体制を構築する必要がある(3.3)。
 第4章は、「従来型」の核廃棄物の管理・処分政策の現状と問題点を抽出して対策を提起する。環境への放射能漏えいの危険性と、その場合の影響の深刻さからして、液体または粉末の状態に置かれている高レベル放射性廃棄物への対応を第一に行うべきである(4.1)。東海再処理工場と六ヶ所再処理工場には、ガラス固化されていない高レベルの放射性廃液が合計 653m3あり、液体状態での保管には危険性が伴う。これらは(むろん、再処理工場の稼働とは切り離した上で)できうる限り早期にガラス固化されることが現実的に求められる(4.2.1)。第二に、使用済み核燃料は多くがプールに湿式貯蔵されているが、プール貯蔵には脆弱性がある。このため、発熱量の高低に応じて湿式貯蔵と乾式貯蔵を組み合わせる必要があるが、乾式貯蔵の拡大は進んでいない。脱原発を進める際にも、残存する使用済み核燃料を最終処分するまでの間の適切な管理のために、乾式貯蔵能力の拡大が必要である(4.2.2)。高レベル放射性廃棄物に関する政府の取り組みは、従来の政策的枠組みを前提としたもので、住民合意に基づく処分地選定は困難である(4.4)。さまざまな議論をテーブルに乗せて、ひとつひとつ丁寧に議論し合意形成に向けた作業を続けていくことが重要である。その社会的合意を形成する期間は長期に及ぶため、対処の優先順位が高い核廃
棄物を含め、長期貯蔵を考えて対応することが必要である(4.6)。
 本レポートは、原子力市民委員会の第2部会(核廃棄物管理・処分部会)での討議をふまえ、第1部会(福島原発事故部会)および第4部会(原子力規制部会)のメンバーも参加したプロジェクトチームで原案を作成した。2015年9月の第14回原子力市民委員会において公開討論をおこない、そこからさらに委員会内部での議論と推敲を重ね、原案にかなりの加筆修正がなされた。数々の重要なご指摘、ご批判、ご提案をお寄せ下さった委員会内外の皆様方に感謝したい。執筆は、第1章と第2章を吉岡斉、第3章および巻末の参考資料を大沼淳一、第4章を伴英幸が担当し、茅野恒秀が序章および全体の編集調整を担当した。
 
 以上でお分かりかと思いますが、本レポートは、従来から(3.11前からと言っても良いのですが)議論されてきたいわゆる高レベル放射性廃棄物の問題と同等、あるいはそれ以上の比重をかけて、東京電力福島原発事故由来の廃棄物をどうするのかということを論じているのが大きな特徴だと思います。
 
 なお、12月25日には、この特別レポートの発表会・意見交換会が行われ、UPLANに動画がアップされていますので、レポートを理解するために、是非視聴をお勧めしたいと思います。【奥書】に表記された執筆者(茅野恒秀、吉岡 斉、大沼淳一、伴 英幸各氏)全員が出席し、レポートの狙いなどを説明されています。
 
20151225 UPLAN【発表会・意見交換会】原子力市民委員会核廃棄物問題プロジェクトチーム特別レポート「核廃棄物管理・処分政策のあり方」(2時間01分)
 
冒頭~ 司会(細川弘明事務局長、京都精華大学人文学部教授)
8分~ 茅野恒秀氏(核廃棄物部会コーディネーター、信州大学人文学部准教授)
21分~ 吉岡 斉氏(市民委員会座長、九州大学大学院比較社会文化研究院教授、元政府原発事故調査委
員会委員、高木基金顧問)
41分~ 大沼淳一氏(市民委員会委員、元愛知県環境調査センター主任研究員、中部大学非常勤講師、
市民放射能測定センター運営委員、高木基金顧問)
1時間01分~ 伴 英幸氏(市民委員会委員、原子力資料情報室共同代表)
1時間15分~ 質疑応答・意見交換
 
 もしも時間があれば、という前提はあるのですが、動画を先に視聴するのではなく、まずレポートを(できればプリントアウトして)分かろうが分かるまいが、とにかく通読してみる。そして、特に理解が難しかったところに付箋を貼っておく。その上で、上記動画を視聴して、各執筆者の説明に耳を傾けるという方法を推奨したいと思います。必ずしも、自分が分かりにくいと思った箇所を執筆者が詳しく説明してくれているとは限りませんが、このような「急がば回れ」式のアプローチが、問題の本質に接近する近道ではないかと思います。
 私も、流し読み、流し視聴(?)ではなく、もっとじっくりとこの特別レポートを読み込みたいと思っています。
 
 
(参考資料)
平成27年(2015年)4月24日 日本学術会議
「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定保管」(高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会)
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2012年10月1日(2014年1月18日に再配信)
2012/9/11 日本学術会議による高レベル放射性廃棄物の処分に関する「提言」
2012年12月31日(2013年2月22日に再配信)
12/2日本学術会議 学術フォーラム「高レベル放射性廃棄物の処分を巡って」
2014年10月3日
日本学術会議・分科会が公表した高レベル放射性廃棄物問題についての2つの「報告」

2015年2月19日
「核のごみ」をめぐる注目すべき動き~国の「基本方針」改訂と日本学術会議の「提言」
2015年5月7日
日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」をこれから読む
2015年11月17日
長谷川公一氏「日本学術会議 暫定保管提言を考える」講演と意見交換(11/16原子力資料情報室 第88回公開研究会)