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浜岡原発「防波壁」完成と「避難計画」策定から石橋克彦氏の論考『原発震災 破滅を避けるために』(1997年)を思い出す

 今晩(2016年4月1日)配信した「メルマガ金原No.2413」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
浜岡原発「防波壁」完成と「避難計画」策定から石橋克彦氏の論考『原発震災 破滅を避けるために』(1997年)を思い出す

 昨日(3月31日)、中部電力浜岡原子力発電所に関して大きなニュースが2つ報じられました。
 1つは、中部電力が建設していた防波壁が、両端の盛り土工事の完了により、完成したというものです。
 
毎日新聞2016年3月31日 11時01分(最終更新 3月31日 11時16分)
防波壁完成 海抜22メートル、全長1.6キロ

(引用開始)
 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)で建設していた海抜22メートル、全長1.6キロの防波壁が31日、完成した。本体部分の工事が昨年12月に終了後、両端の盛り土工事が続いていた。盛り土部分
は防波壁を直撃した津波が、回り込んで構内に流入するのを防ぐ役割もあるという。
 浜岡原発南海トラフ巨大地震の想定震源域にあり、当時の菅直人首相の要請で2011年5月に運転を停止。中部電力は同年11月、海抜18メートルの予定で着工したが、内閣府有識者検討会は12年
8月、御前崎市で最大19メートルの津波が想定されると発表し、4メートルかさ上げした。
 中部電は3、4号機の安全審査を原子力規制委員会に申請中。フィルター付きベント(排気)装置の設置など残る安全対策について、4号機は今年9月、3号機は17年9月までに完了させる予定。安全対策
の総工費は既に4000億円を上回っている。【荒木涼子】
(引用終わり)
 
 

 もう1つのニュースは、静岡県が、浜岡原発で過酷事故が発生した場合の広域避難計画を策定したというものです。
 
中日新聞(静岡版) 2016年4月1日
浜岡事故時に避難94万人 県が広域計画策定

(抜粋引用開始)
◆31キロ圏内住民 12都県受け入れ
 静岡県は三十一日、中部電力浜岡原発御前崎市)の過酷事故を想定した広域避難計画を策定した。避
難対象は、県が定める緊急防護措置区域(UPZ)三十一キロ圏内にある十一市町の計九十四万人。国内の原発では日本原子力発電東海第二原発茨城県東海村)に次ぎ、二番目に多い。南海トラフ巨大地震などの災害と原発事故が重なった「複合災害」に備え、二段階で選定した避難先は県内に留まらず、十二都
県に及んだ。
(略)
 避難開始は、すぐに避難が必要な予防防護措置区域(PAZ)五キロ圏内が、放射性物質が放出される前に発令される原子力緊急事態宣言の直後とした。三十一キロ圏内は放射性物質排出後に外部被ばくを避
けるため一時的に屋内に退避し、段階的に避難する。
 避難手段は原則自家用車を使う。車での避難が難しい場合は県や市町が用意するバスで避難する。
 被ばく対策では、県が三十一キロ圏外の主要道路周辺で汚染検査と簡易除染を実施し、検査に適合したことを示す証明書を発行する。五キロ圏内では甲状腺被ばくを抑える安定ヨウ素剤を事前配布し、原子力
緊急事態宣言発令後、直ちに服用するよう住民に指示するとした。
 今後の検討課題には、渋滞対策や緊急交通路での避難車両の通行、緊急時迅速放射能影響予測ネットワ
ークシステム(SPEEDI)など予測的手法の活用を挙げた。
(略)
 <京都大原子炉実験所・今中哲二研究員(元助教)の話> 百万人近い人が無事に避難するのは不可能。浜岡原発廃炉にすべきだ。事故発生を知った住民はすぐにでも逃げたいはず。五キロ圏、三十一キロ圏と距離を区切って避難統制するのは現実的ではない。原発で事故が起きれば、次にどうなるのか予測できない。福島第一原発以上の放射能が放出される可能性もある。想定外の事故が起きた時に誰がリーダー
シップを取るのか、危機管理を強化すべきだ。
(引用終わり)
 
読売新聞(静岡版) 2016年04月01日
「原発事故」94万人避難計画

(抜粋引用開始)
◆浜岡半径31キロ圏内、県外市町村示されず
 県が31日、策定した中部電力浜岡原子力発電所御前崎市)の過酷事故を想定した広域避難計画は、
浜岡原発から半径31キロ圏内のUPZ(緊急時防護措置準備区域)に位置する11市町の住民約94万人が有事の際に頼りとするものだ。ただ、県の計画で示された県外12都県の避難先は、受け入れ先との協議の遅れから、県名にとどまり、市町村名まで明記されなかった。11市町の首長らからは「詳細な計
画が立てられない」との声が上がり、現段階では実効性に不安が残る計画となった。
 東京電力福島第一原発の事故を受け、県は2012年度から浜岡原発で事故が起きた場合に備えた広域
避難計画の策定に向け、識者を交えて検討を重ねてきた。
 県の計画では、浜岡原発の事故による放射性物質放射線の放出、またはそのおそれのある事態を想定。事故の深刻さに応じ、市町ごとに順次避難していくことを定め、原子力災害が単独で発生した場合の避
難先に加え、南海トラフ巨大地震などとの複合災害が起きた場合を想定した避難先も示した。
(略)
 ただ、今回策定された計画では、11市町ごとに県外に避難する場合の都県名は示されたが、県外に避難した場合の受け入れ先となる具体的な市町村名は明示されなかった。県によると、避難先となる都県と
協議を進めているが、進捗しんちょく状況に差があり、「公表できる段階にない」という。
 県原子力安全対策課の塩崎弘典課長は「改めて交渉の難しさを感じた。時間がかかってしまったと思う」としたうえで、「11市町が相手と協議いただく中で、市町の計画が早く進めるように県としても力を
注いでいきたい」と話した。
(引用終わり)
 
 防波壁については、一言、自然の威力をなめていないか?と言えばおしまいではないかという気がするのですが、この工事に要した膨大な経費(さぞゼネコンを潤したことでしょう)も、最終的には中部電力が徴収する電気料金に転嫁されるのでしょうね。それでも、中部電力との契約を続けます?
 
 そして、静岡県が公表した避難計画です。
 静岡県ホームページに避難計画が掲載されています。
 
「浜岡地域原子力災害広域避難計画」 平成28年3月 静岡県(PDF48ページ)
(目次)
1 総則
2 避難等の判断基準と実施
3 避難先
4 避難経路
5 避難手段
6 避難退域時検査及び簡易除染
7 安定ヨウ素剤の配布・服用
8 要配慮者等の避難等
9 今後の検討課題
 
 そもそも、地方公共団体が、なぜ原子力災害に備えた避難計画を策定しなければならないのか、その法
的根拠については、内閣府ホームページの説明を引用しておきます。
 
地域防災計画・避難計画策定支援
(引用開始)
 原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)第28条第1項の規定により読み替えて適用する災害対策基本法昭和36年法律第223号)第40条及び第42条の規定により、都道府県及び市町村には、防災基本
計画及び原子力災害対策指針に基づく地域防災計画を作成することが求められています。
 また、原子力災害対策指針に基づき原子力災害対策重点区域を設定する都道府県及び市町村においては、地域防災計画の中で、当該区域の対象となる原子力事業所を明確にした原子力災害対策編を定めること
となります。
 内閣府原子力防災担当では、地域防災計画(原子力災害対策編)を作成する都道府県及び市町村に対する支援を行っています。
 
 
 根拠となる法令は、上記の「関連条文」に抜き書きされています。
 
 「浜岡地域原子力災害広域避難計画」については、既に様々な批判が寄せられています。
 例えば「避難経路」(16~19頁)に目を通してみるとすと、「東名高速」「新東名高速」などを通ることを想定したルートが圧倒的に多いのですが、大規模地震に見舞われて高速道路が寸断されたらどうするんでしょう?
 また、「避難手段」(20頁)は次のように書かれています。
 
(引用開始)
(1)主な避難手段
 避難手段は、原則として、自家用車とする。この場合は、世帯単位で乗り合わせるなどして、渋滞緩和
に努める。
 自家用車避難が困難な住民等は、一時集合場所から、バス等の避難手段により避難を行う。
(2)避難手段の確保
 県及び避難元市町は、国の支援を受け、県バス協会等の輸送関係機関や事業者と協議し、バス等の避難
手段の確保に努め、一時集合場所等必要な箇所へ手配する。
 バス等で避難が困難な場合や確保台数等が不足する場合は、自衛隊海上保安庁へ車両、船舶、ヘリ等
の派遣要請を行う。
(引用終わり)
 
 たしかに、自家用車のある者は、とりあえず車で避難しようとするでしょうから、それを駄目だというような避難計画を作ったところで実効性は疑わしく、こう書くしかないのかなとは思います。しかし、避難対象人数が(31㎞圏で)94万人ですからね。自家用車って何台あるんでしょう。それに、自家用車での避難を「原則」とするとして、燃料はどうやって確保すればいいのでしょうか?
 そもそも、「避難等は、原子力災害対策指針(原子力規制委員会、平成27年8月26日全部改正)に基づき、発電所の状況や放射線測定値等により国が判断し、国、県、避難元市町、事業者等が連携し実施する。
」(避難等の判断基準と実施 5頁~)ということになっているのですが、国の判断が適切になされるという保障があるのか、などと言い出せば、「避難計画」を作ること自体の意義が疑わしくなってきますね。
 もう1つ、「安定ヨウ素剤の配布・服用」(22頁)も引用しておきます。
 
(引用開始)
7 安定ヨウ素剤の配布・服用
 安定ヨウ素剤の服用については、放射性ヨウ素による内部被ばくに対する防護効果に限定されることか
ら、避難や一時移転等の防護措置と組み合わせて活用することに留意の上、県及び関係市町は、原則とし
て、以下により安定ヨウ素剤を服用するよう住民等に指示するものとする。
(1)PAZ圏内
 県及び関係市は、全面緊急事態に至った時点で、原則として国の指示に基づき、直ちに安定ヨウ素剤
服用するよう住民等に指示するものとする。
 ただし、安定ヨウ素剤を服用できない者、3歳未満の乳幼児及び当該乳幼児の保護者等については、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において、優先的に避難するものとする

(2)UPZ圏内
 全面緊急事態に至った後に、発電所の状況や緊急時モニタリング結果等に応じて、避難や一時移転等と併せて安定ヨウ素剤の配布・服用について、原子力規制委員会が必要性を判断する。県及び関係市町は、
原則として国の指示に基づき、安定ヨウ素剤を配布し、服用するよう住民等に指示するものとする。
(引用終わり)
 
 PAZ(予防的防護措置を準備する区域/5㎞圏内/御前崎市の全域と牧之原市の一部)の住民については、全面緊急事態に至った時点で、「国の指示」をまって自治体が住民に服用を指示するということなので、安定ヨウ素剤自体は事前に配布しておくということでしょうか。また、UPZ(緊急時防護措置を準備する区域/31㎞圏内/牧之原市の一部など10市町)については、「原子力規制委員会」が必要と判断したら、「国の指示」に基づいて「配布」「服用指示」を行うということです。
 安定ヨウ素剤服用に関する東京電力福島第一原発事故の最大の教訓(反省点)は、大半の自治体が、国や県の指示を待っていたにもかかわらず、何の指示も得られず、あたら住民を無防備に被曝させてしまったというこ
とであったはずですが、その教訓はこの避難計画にどう反映されたというのでしょうか?
 ・・・と静岡県を非難したところで仕方がないことで、そもそも、国の「原子力災害対策指針」(58
頁)に以下のように定められている以上、いかんともしがたかったということでしょう。
 
(引用開始)
③ 安定ヨウ素剤の予防服用
 放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐため、原則として、原子力規制委員会が服用の必要性を判断し、
原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づいて、安定ヨウ素剤を服用させる必要がある。原子力規制委員会の判断及び原子力災害対策本部の指示は安定ヨウ素剤を備蓄している地方公共団体に速やかに
伝達されることが必要である。
 安定ヨウ素剤の予防服用に当たっては、副作用や禁忌者等に関する注意を事前に周知するほか、以下の
点を留意すべきである。
安定ヨウ素剤の服用は、放射性ヨウ素以外の他の放射性核種に対しては防護効果が無い。
安定ヨウ素剤の予防服用は、その防護効果のみに過度に依存せず、避難、屋内退避、飲食物摂取制限等
の防護措置とともに講ずる必要がある。また、不注意による経口摂取の防止対策も講じる必要がある。
・緊急時に投与・服用する場合は、精神的な不安などにより平時には見られない反応が認められる可能性
がある。
・年齢に応じた服用量に留意する必要がある。特に乳幼児については過剰服用に注意し、服用量を守って
投与する必要がある。
 また、安定ヨウ素剤の服用の方法は、原子力災害対策重点区域の内容に合わせて以下のとおりとするべ
きである。
・PAZにおいては、全面緊急事態に至った時点で、直ちに、避難と安定ヨウ素剤の服用について原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示を出すため、原則として、その指示に従い服用する。ただし、安定ヨウ素剤を服用できない者、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの健康影響が大人よりも大きい乳幼児、乳幼児の保護者等については、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において
、優先的に避難する。
・PAZ外においては、全面緊急事態に至った後に、原子力施設の状況や緊急時モニタリング結果等に応じて、避難や一時移転等と併せて安定ヨウ素剤の配布・服用について、原子力規制委員会が必要性を判断
し、原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示を出すため、原則として、その指示に従い服用する。
(引用終わり)
 
 「原子力災害対策指針」が以上のままであれば、再び過酷事故が起これば、(安定ヨウ素剤をめぐる)悲劇は繰り返すということにならざるを得ないのではなかと懸念されます。
 
 浜岡原発をめぐる「防波壁」の完成と「避難計画」の策定という2つのニュースには、もちろん大きな関連があります。
 中部電力は、浜岡原発の4号炉については2014年2月に、3号炉について2015年6月に、原子力規制委員会に対して「新規制基準適合性に係る審査」を申請しており、以上の2つのニュースは、その
審査に合格し、再稼働にこぎ着けるための重要なステップだからです。
 
 浜岡原発における過酷事故と避難計画といえば、どうしても思い起こさざるを得ない論文があります。地震学者の石橋克彦さん(神戸大学名誉教授)が、岩波書店の雑誌「科学」1997年10月号に掲載した「原発震災 破滅を避けるために」です。
 3.11直後、岩波書店ホームページ石橋克彦さんの個人ホームページに、この5頁の論考のPDFファ
イルが公開されました。
 
 今、再稼働を目指し、膨大な費用を投入して「防波壁」を作り、「避難計画」を策定することにどういう意味があるのかと考える時、19年前に発表されたこの論文を、1人でも多くの国民が繰り返し読むべきだと思い、その一部を引用して本稿を終えます。
 
原発にとって大地震が恐ろしいのは、強烈な地震動による個別的な損傷もさることながら、平常時の事故と違って、無数の故障の可能性のいくつもが同時多発することだろう。とくに、ある事故とそのバックアップ機能の事故の同時発生、たとえば外部電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しないというような事態がおこりかねない。したがって想定外の対処を迫られるが、運転員も大地震で身体的・精神的影響を受けているだろうから、対処しきれなくて一挙に大事故に発展する恐れが強い。このことは、最悪の地震でなくてもあてはまることである。」
 
「しかし、防災対策で原発震災をなくせないのは明らかだから、根本的には、原子力からの脱却に向けて努力すべきである。86年のチェルノブイリ原発事故によって日本まで放射能の影響を受けたことを考えれば、地震大国日本が原発を多数運転しているのは世界にたいしても大迷惑である。いまや原発は、使用済み核燃料や将来の廃炉の問題が深刻で、経済的ではないし、地球環境問題に対する救世主でもありえない。原発がなければ電気が足りないようにいわれるが、電力事業規制緩和をいっそう進め、ゴミ焼却熱や自然エネルギーをもっと有効に活用すれば、適正な電力を供給できる。電力需要の増加を当然のこととして、それを原発の増設でまかなうというやり方は、持続可能な人間活動が切実に求められているいま、もはや通用しない。」 
 

(付録)
メルトダウン』(高田渡『値上げ』の替え歌) 作詞・演奏:ヒポポ大王(?)