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半田滋さんの『新エンブレムに刀 陸自、こわもてイメージに』を読む

 今晩(2016年6月3日)配信した「メルマガ金原No.2476」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
半田滋さんの『新エンブレムに刀 陸自、こわもてイメージに』を読む

 今日(6月3日)の東京新聞・朝刊に掲載された論説兼編集委員・半田滋さんによる署名記事「陸上自衛隊の新エンブレムに刀 こわもてイメージに」をご紹介がてら、若干の補注と感想を付します。
 これまで、私は、半田さんが東京新聞の「私説・論説室」のために書かれた論説に補注を施した「半田滋さんの論説を読む」シリーズを5編書いており、今回もその流れで書いているのですが、今回取り上げた記事は、「私説・論説室から」に掲載されたものではなく、分量も短めであるため、タイトルから「論説」という文字は外しました。けれども、実質的にはシリーズの第6弾です。
 なお、以下、引用する半田さんの文章は紺色、私が書き加えた補注・感想は黒色、私が引用した文章は茶色で表記しています。

東京新聞 2016年6月3日 朝刊
陸上自衛隊の新エンブレムに刀 こわもてイメージに

(全文引用開始)
 
陸上自衛隊は初めて公式エンブレムを採用し、ホームページなどで使い始めた。日の丸を中央に配し、これを日本刀で守るこわもてのデザイン。題して「桜刀(さくらかたな)」。海外での武力行使を認めた安全保障関連法の施行に合わせたのか-。
 これまでは「守りたい人がいる陸上自衛隊」のキャッチフレーズとともに人に見立てた日本列島を手のひらで包むシンボルマークを使ってきた。人と国土を守るメッセージが込められていたが、エンブレムからは人が消え、日の丸に象徴される国家を守る印象を強めている。「手のひら」から「日本刀」への変化も象徴的だ。
 陸自のシンボル桜星を下段中央に置き、「陸自が前進する姿を国鳥であるキジの翼でイメージ化」(陸自ホームページ)したという。
 陸上幕僚監部広報室は「これまで陸上自衛隊には儀礼上、海外の軍人と交換するメダルなどエンブレム入りの贈答品がなかった。今後は陸自のシンボルとして国内外で活用していきたい」と説明する。
 一方、シンボルマークは、自衛官募集などに使い続けるため、ソフトなイメージにあこがれて採用された新隊員は入隊後、こわもてのエンブレムと向き合うことになる。(編集委員・半田滋)
(引用終わり)
 
 陸上自衛隊は初めて公式エンブレムを採用し、ホームページなどで使い始めた。日の丸を中央に配し、これを日本刀で守るこわもてのデザイン。題して「桜刀(さくらかたな)」。海外での武力行使を認めた安全保障関連法の施行に合わせたのか-。
 
 「桜刀(さくらかたな)」と題した公式エンブレムの制定を発表した陸上自衛隊広報資料「エンブレムについて」を、少し長くなりますが引用します。
 
(引用開始)
作成の目的
 陸上自衛隊は、近年、国際平和協力活動はもとより、能力構築支援、防衛協力、防衛交流等に積極的に取り組んでまいりましたが、今後は国家安全保障戦略(平成25年12月17日閣議決定)に示された「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を具現するため、その活動の場はますます広がっていくものと考えております。このような海外における活動に際しましては、国際儀礼上、自国軍のエンブレム入りギフト(メダル等)を交換することが慣例となっておりますが、陸上自衛隊ではこれまで組織を象徴するエンブレムを作成しておりませんでした。
 また、平成26年度以降に係る防衛計画の大綱(平成25年12月17日閣議決定)や中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)(平成25年12月17日閣議決定)で示されておりますように、陸上自衛隊は、島しょ部に対する攻撃を始めとする各種事態に即応し、実効的かつ機動的に対処し得るよう陸上総隊、水陸機動団等の新編等、陸上自衛隊創隊以来の大改革を断行してまいります。このような大改革を効果的に成し遂げていくためには、日本の平和と独立を守るという強固な意志、陸上自衛官としての誇りとアイデンティティを今一度、各隊員まで再認識させるとともに、国民の方々にも陸上自衛隊の強さと今後の体制改革への取り組みについてご理解頂くことが重要であると考えております。
 かかる状況に鑑み、他国の軍人等に日本及び陸上自衛隊の歴史・伝統・文化を感じて頂くとともに、国内外で活動している隊員等に日本の平和と独立を守るという強固な意志等を再認識させることを目的に、この度陸上自衛隊の公式エンブレムを作成しました。
エンブレムの概要
 我が国の平和と独立を守るという陸上自衛隊の使命を踏まえ、上段に日の丸を、下段に陸上自衛隊を象徴するモチーフとして従来から制服等に装飾している桜星を配置するとともに、古来より武人の象徴とされてきた日本刀を中央に配置して、その「刃」に強靭さ、「鞘」に平和を愛する心を表現しました。
 刃と鞘にかかる帯には、陸上自衛隊の前身である警察予備隊の創隊時期を記して創隊以来の伝統を表現するとともに、奥に刃、手前に鞘、帯を配置することで、陸上自衛隊が「国土防衛の最後の砦」であること、そして、国家危急の時に初めて戦う意思を表現しました。
 陸自(桜星)が前進する姿を国鳥である雉(きじ)の翼(羽の枚数は都道府県数と同じ47)でイメージ化しました。また、「焼け野の雉、夜の鶴」という諺は、「巣を営んでいる野を焼かれた雉子が自分の身を忘れて子を救う」(広辞苑)という意味ですが、それらは、事に臨んでは危険を顧みず我が国の防衛にあたる陸上自衛官に通じるものがあると感じています。
 縁取りは、陸上自衛隊をイメージする緑を基調として、その上に白字で「日本国陸上自衛隊」の文字を漢字と英語で併記しました。
使用する場面 
 陸上自衛隊エンブレムは、陸上自衛隊を象徴するものとして国内外で使用してまいります。陸上自衛隊には、陸上自衛隊シンボルマークとキャッチコピー「守りたい人がいる陸上自衛隊」がありますが、こちらは引き続き、主に国内にて、自衛官募集等の際に使用してまいります。
その他
 陸上自衛隊エンブレムの著作権・版権は陸上自衛隊が有しています。インターネットやプレゼンテーション等で公開のために使用することができるのは、防衛省関係者が防衛省陸上自衛隊の広報目的に使用する場合に限られます。防衛省関係者以外の方が陸上自衛隊エンブレムの使用を希望される場合は、陸上幕僚監部広報室までお問い合わせください。
(引用終わり)
 
 引用文最後の「その他」に注記されているとおり、このエンブレムの「著作権・版権は陸上自衛隊が有してい」ることから、私のメルマガ(ブログ)に画像そのものを引用することは控えることにしました。
 今日の東京新聞朝刊の記事には、エンブレム「桜刀」の丸型(基本形)及びシンボルマークとキャッチコピー「守りたい人がいる陸上自衛隊」とが掲載されていますが、おそらく「陸上幕僚監部広報室」に話を通した上での掲載でしょう。
 
 これまでは「守りたい人がいる陸上自衛隊」のキャッチフレーズとともに人に見立てた日本列島を手のひらで包むシンボルマークを使ってきた。人と国土を守るメッセージが込められていたが、エンブレムからは人が消え、日の丸に象徴される国家を守る印象を強めている。「手のひら」から「日本刀」への変化も象徴的だ。
 
 このシンボルマーク及びキャッチコピーについて説明した陸上自衛隊ホームページの文章を引用します。
 
(引用開始)
 シンボルマークの中心のデザインは、守りたい人と日本列島を、左右のデザインは、手を表しています。 左手で「逞しさ・強さ」を、右手で「優しさ」を表現しており、両手で人・日本列島を包み込むことによって陸上自衛隊が守るという意志を表現しています。また、中心のデザインに躍動感を与え、将来に向かって飛躍する日本を表すとともに、デザイン全体を10度斜めに傾けることによって、新たな世紀に向かって旅立とうとする陸上自衛隊を表しています。
 このコピーに言う「人」とは、愛する家族であり、ふれあう地域の人々であり、我が国の美しい自然や文化をも表しています。わたくしたちは、この「守りたい人がいる」を通じて、愛する人、愛する日本のために「事に臨んでは身の危険を顧みず任務に邁進する」という陸上自衛隊の存在の原点を明らかにし、逞しく頼りがいのある陸上自衛隊を目指します。
 陸上自衛隊WEBサイトで使用しているキャッチコピー「守りたい人がいる」及びロゴ画像の著作権・版権は陸上自衛隊にあります。
 「守りたい人がいる」及びロゴ画像をインターネットあるいはプレゼンテーション等で公開のために使用することができるのは、防衛省関係者が防衛省陸上自衛隊の広報目的に利用する場合のみに限られています。
 ロゴ画像を利用する場合、拡大・縮小以外の加工を加えることはできません。
※「守りたい人がいる」及びロゴは陸上自衛隊登録商標です。
(引用終わり)
 
 陸自のシンボル桜星を下段中央に置き、「陸自が前進する姿を国鳥であるキジの翼でイメージ化」(陸自ホームページ)したという。
 
 図像を言葉で表すのは難しいので、リンク先の陸上自衛隊ホームページに基本形(丸型)の他、盾型、四角型、縁なしの計4パターンのエンブレムが掲載されていますので、そちらでご覧ください。
 その上で、あえて言葉で説明するとすれば、縁取り部分(緑地)の上方に「日本国 陸上自衛隊」、下方に「JAPAN GROUND SELF-DEFENSE FORCE」という文字を書き込み、その内部の図像部分は、上に日の丸を、下に桜星を配し、その左右に雉の翼をイメージした羽を47枚描いた上(左右対称で奇数というからにはどちらかが1枚多いのだろうか?)、その羽の上に、抜き身の日本刀と鞘とを、鞘が上に来るようにして交叉させ、その交叉部分に赤字に金文字で「Since 1950」と記載した帯があしらわれている、といったところでしょうか。あまり上手い説明ではありませんが。
 
 陸上幕僚監部広報室は「これまで陸上自衛隊には儀礼上、海外の軍人と交換するメダルなどエンブレム入りの贈答品がなかった。今後は陸自のシンボルとして国内外で活用していきたい」と説明する。
 
 専守防衛を旨とするはずの陸上自衛隊に「海外の軍人と交換する」贈答品など不要だという人もいるかもしれませんが、多くの人は、陸上自衛隊が「エンブレム入りの贈答品」を作ること自体に文句は言わないでしょう。問題は、それが何故「桜刀」なのか?ということです。
 私など、「他国の軍人等に日本及び陸上自衛隊の歴史・伝統・文化を感じて頂くとともに、国内外で活動している隊員等に日本の平和と独立を守るという強固な意志等を再認識させることを目的」とすること自体に違和感を感じますけどね。
 各国それぞれ固有の「歴史・伝統・文化」があるのですから、どうして他国の軍人に「日本及び陸上自衛隊の歴史・伝統・文化」を感じてもらう必要があるのか分かりませんし、それに第一、一体誰が「歴史・伝統・文化」の内容を決めるのでしょう。陸幕長が「これが陸自の歴史・伝統・文化だ」と言えばそうなるのですか?「日本の歴史・伝統・文化」が何かは安倍首相が決めるのですか?(もしかすると日本会議?)。
 それよりも問題なのは、「隊員等に日本の平和と独立を守るという強固な意志等を再認識させる」の方です。
 まず、前後の文脈から考えると、「隊員等」の「等」には「国民の方々」を含むという解釈も十分に成り立ちます。
 さらに、自衛隊員だけに限っても、「日本の平和と独立を守るという強固な意志等を再認識させる」という目的が何を主眼としているのか、不気味だとは思いませんか?
 たしかに、自衛隊法第3条1項が「自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。」とされているとおり、自衛隊の本来任務は「国」を守ることであって、「国民」を守ることではありません(軍隊というのは元来そういうものです。もっとも、自衛隊って軍隊でしたっけ?という根本的な問題はあるのですが)。
 従って、従来使われてきた陸上自衛隊のシンボルマーク及びキャッチコピー「守りたい人がいる」というのは、「国民」を守るのではなく(それは警察や消防の役割)、「国」を守るという軍隊の本質から目をそらさせ、あたかも自衛隊が頼りになる災害救助隊であるかのような「誤解」を意図的に与えることによって、隊員のリクルートや国民から自衛隊への支持の調達を有利に運ぼうという戦略に基づくものであったと考えられます。
 そうすると、「桜刀」をモチーフとした新エンブレムによって、「日本の平和と独立を守るという強固な意志等を再認識させる」という意味は、自衛隊の本務が、災害から国民を守ることだなどと「誤解」している隊員の意識を、軍人としてあるべき正しい姿に矯正するという趣旨だろうというのは、はたして深読みに過ぎるでしょうか?
 
 一方、シンボルマークは、自衛官募集などに使い続けるため、ソフトなイメージにあこがれて採用された新隊員は入隊後、こわもてのエンブレムと向き合うことになる。(編集委員・半田滋)
 
 既に引用していますが、陸上自衛隊ホームページに掲載された「エンブレムについて」の中から、該当箇所を再度引用します。
 
(引用開始)
使用する場面 
 陸上自衛隊エンブレムは、陸上自衛隊を象徴するものとして国内外で使用してまいります。陸上自衛隊には、陸上自衛隊シンボルマークとキャッチコピー「守りたい人がいる陸上自衛隊」がありますが、こちらは引き続き、主に国内にて、自衛官募集等の際に使用してまいります。
(引用終わり)
 
 エンブレム制定の目的についての私の感想は既に述べました。そして、シンボルマークの継続使用(「主に国内にて、自衛官募集等の際に使用してまいります。」)に対しては、昨年の夏に私が書いたブログの表題をもう一度引用すれば十分でしょう。
 
「若者をだましてはいけない」
 さらにもう1つ、「二枚舌」という言葉をオマケに付けても良いでしょうが。
 
 今回は、半田さんの本文自体がごく短いものだったので、注釈を加えるというほどのことはできず、単に感想を述べるにとどまりました。
 「ミリタリーオタク」の世界では今回の陸自エンブレムは、ネットでざっと検索する限り概ね好評のようです。もっとも、自衛隊関係者や支持者のうちの心ある人は、ネットで批判的見解を公表などしないでしょうから、実際のところはよく分かりませんが。
 純粋に美的センスだけのことで言っても、この陸自エンブレムは最低だと思います。
 また、諸外国の軍隊には、剣を交叉させたエンブレムを持つところが、カナダ陸軍などいくつかあるようで、陸自もそれらを参考にしたのでしょうが、日本刀の抜き身と鞘を見て、外国の軍人がどう思うかはどうでも良いとして、陸上自衛隊員や一般の国民がこれをどう受け止めるかが問題です。
 私は、心が冷え冷えとしてきました。私の中では、自衛隊の存在を認めるべきか、あくまで違憲の存在と考えるべきかの葛藤がなお続いているのですが、自衛隊(とりわけ幹部自衛官)が、このようなエンブレムを良しとするメンタリティを強固に有しているのであれば、好むと好まざるとにかかわらず、違憲論に傾かざるを得ません。
 そのようなことは、自衛隊にとっても不幸なことだと思うのですが。  
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年9月25日
半田滋さんの論説『条約無視して解釈改憲か』を読む

(付録)
『世界』 作詞・作曲:ヒポポ田 演奏:ヒポポフォークゲリラ