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「報告・高レベル放射性廃棄物の処分をテーマとしたWeb 上の討論型世論調査」(日本学術会議・社会学委員会討論型世論調査分科会)のご紹介

 今晩(2016年10月11日)配信した「メルマガ金原No.2596」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「報告・高レベル放射性廃棄物の処分をテーマとしたWeb 上の討論型世論調査」(日本学術会議社会学委員会討論型世論調査分科会)のご紹介

 巻末に一覧を掲げておきましたが、3.11以降、高レベル放射性廃棄物の処分に関する日本学術会議の動向は、ある程度継続的にフォローしてきました。
 この間の経緯については、昨年(2015年)4月24日、日本学術会議・高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会が公表した「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定保管」の「要旨 1 作成の背景」に簡潔に説明されています。
 
 
(引用開始)
 日本学術会議は、2010年9月7日、原子力委員会委員長から「高レベル放射性廃棄物の処分の取組における国民に対する説明や情報提供のあり方についての提言のとりまとめ」という審議依頼を受け、課題別委員会「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」を設置した。委員会では、原点に立ち返った審議を行い、2012年9月 11日に原子力委員会委員長に回答を行った。
 回答で提示した提言を政府等が政策等に反映しやすくするために、より一層の具体化を図ることが重要であるとの認識から、2013年5月に「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」を設置し、回答のより具体的な方策について技術と社会という総合的視点から検討を重ねた結果、以下の12の提言を取りまとめた。
(引用終わり)
 
 上に述べられた、原子力委員会からの審議依頼(これは3.11の半年前)に対し、「原点に立ち帰った審議」(つまり依頼の趣旨を超える、ということ)をとりまとめた「回答」は以下のようなものでした。
 
 
 2012年「回答」後、上記のとおり、「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」における2年間の検討を経て、2015年4月に「政策提言」がなされたのですが、12点に要約された「提言」をもう一度振り返っておきましょう。
 
(引用開始)
(1) 暫定保管の方法と期間
提言1
 暫定保管の方法については、ガラス固化体の場合も使用済燃料の場合も、安全性・経済性の両面から考えて、乾式(空冷)で、密封・遮蔽機能を持つキャスク(容器)あるいはボールト(ピット)貯蔵技術による地上保管が望ましい。
提言2 暫定保管の期間は原則50年とし、最初の30年までを目途に最終処分のための合
意形成と適地選定、さらに立地候補地選定を行い、その後20年以内を目途に処分場の建設を行う。なお、天変地異など不測の事態が生じた場合は延長もあり得る。
(2) 事業者の発生責任と地域間負担の公平性
提言3 高レベル放射性廃棄物の保管と処分については、発電に伴いそれを発生させた事業者の発生責任が問われるべきである。また、国民は、本意か不本意かにかかわらず原子力発電の受益者となっていたことを自覚し、暫定保管施設や最終処分場の選定と建設に関する公論形成への積極的な参加が求められる。
提言4 暫定保管施設は原子力発電所を保有する電力会社の配電圏域内の少なくとも1か所に、電力会社の自己責任において立地選定及び建設を行うことが望ましい。また、負担の公平性の観点から、この施設は原子力発電所立地点以外での建設が望ましい。
提言5 暫定保管や最終処分の立地候補地の選定及び施設の建設と管理に当たっては、立地候補地域及びそれが含まれる圏域(集落、市区町村や都道府県など多様な近隣自治体)の意向を十分に反映すべきである。
(3) 将来世代への責任ある行動
提言6
 原子力発電による高レベル放射性廃棄物の産出という不可逆的な行為を選択した現世代の将来世代に対する世代責任を真摯に反省し、暫定保管についての安全性の確保は言うまでもなく、その期間について不必要に引き延ばすことは避けるべきである。
提言7 原子力発電所の再稼働問題に対する判断は、安全性の確保と地元の了解だけでなく、新たに発生する高レベル放射性廃棄物の保管容量の確保及び暫定保管に関する計画の作成を条件とすべきである。暫定保管に関する計画をあいまいにしたままの再稼働は、将来世代に対する無責任を意味する。
(4) 最終処分へ向けた立地候補地とリスク評価
提言8
 最終処分のための適地について、現状の地質学的知見を詳細に吟味して全国くまなくリスト化すべきである。その上で、立地候補地を選定するには、国からの申し入れを前提とした方法だけではなく、該当する地域が位置している自治体の自発的な受入れを尊重すべきである。この適地のリスト化は、「科学技術的問題検討専門調査委員会(仮称)」が担う。
提言9 暫定保管期間中になすべき重要課題は、地層処分のリスク評価とリスク低減策を検討することである。地層処分の安全性に関して、原子力発電に対して異なる見解を持つ多様な専門家によって、十分な議論がなされることが必要である。これらの課題の取りまとめも「科学技術的問題検討専門調査委員会」が担う。
(5) 合意形成に向けた組織体制
提言10 
高レベル放射性廃棄物問題を社会的合意の下に解決するために、国民の意見を反映した政策形成を担う「高レベル放射性廃棄物問題総合政策委員会(仮称)」を設置すべきである。この委員会は、「核のごみ問題国民会議(仮称)」及び「科学技術的問題検討専門調査委員会」を統括する。本委員会は様々な立場の利害関係者に開かれた形で委員を選出する必要があるが、その中核メンバーは原子力事業の推進に利害関係を持たない者とする。
提言11 福島第一原子力発電所の激甚な事故とその後の処理過程において、国民は科学者集団、電力会社及び政府に対する不信感を募らせ、原子力発電関係者に対する国民の信頼は大きく損なわれた。高レベル放射性廃棄物処分問題ではこの信頼の回復が特に重要である。損なわれた信頼関係を回復するために、市民参加に重きを置いた「核のごみ問題国民会議」を設置すべきである。
提言12 暫定保管及び地層処分の施設と管理の安全性に関する科学技術的問題の調査研究を徹底して行う諮問機関として「科学技術的問題検討専門調査委員会」を設置すべきである。この委員会の設置に当たっては、自律性・第三者性・公正中立性を確保し社会的信頼を得られるよう、専門家の利害関係状況の確認、公募推薦制、公的支援の原則を採用する。
(引用終わり)
 
 さて、今日ご紹介しようとするのは、今年の8月24日、日本学術会議内に設置された「社会学委員会討論型世論調査分科会」が公表した報告「高レベル放射性廃棄物の処分をテーマとしたWeb上の討論型世論調査」です。
 その経緯や調査結果については、報告の冒頭に掲げられた「要約」を引用したいと思います。
 
 
(引用開始)
                   要             旨
1 作成の背景
 日本学術会議は、2012年9月に『高レベル放射性廃棄物の処分について』と題する回答を原子力委員会に提出したが、より一層の具体化を図るために、2013年5月にフォローアップ検討委員会を設置し、2015年4月に『高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言-国民的合意形成に向けた暫定保管』と題する提言をまとめた。また、このフォローアップ委員会と並行して、2013年5月、日本学術会議社会学委員会の下に、討議デモクラシーの一つである討論型世論調査分科会を設置して、高レベル放射性廃棄物の処分問題をテーマとしたオンライン上の討論型世論調査(Deliberative Polling®; 以下 DP と略す)の実施と審議を進めることにした。
①討議テーマである高レベル放射性廃棄物の処分方法については、日本学術会議が先の回答で新たに提言した暫定保管、総量管理を中心に扱った。日本学術会議の提言は必ずしも地層処分を否定するのではなく、それに至る前に総合的なエネルギー政策の提示と高レベル放射性廃棄物の処分に関する国民的合意形成の必要性を強調する点に特徴がある。そこで政府の既定方針となっている地層処分と日本学術会議の提案のどちらが望ましいかをめぐり参加者による討議を実施し、討議前後の態度変容を計測した。
②討議参加者の募集はインターネット調査会社に依頼。同社登録のモニターからWeb討議参加者125人を募集した。層化抽出条件として、男女比、年齢分布、居住地域を用いたほか、Web 会議システム利用可能という条件を加えて参加者を募った。最終的には、101 人の有効参加者を得た。
③2015 年1月から討議参加者の応募を開始し同年3月1日に討議実験を実施した。
④その間、協力者には、応募時、討議直前、討議直後の計3回にわたり同一のアンケート調査を実施。比較のために、層化抽出された討議参加者以外のモニター1000名に対し同一の質問紙調査を実施した。
⑤討議実験は、1グループ6から8名で構成される14のグループに分け、グループごとの自由討議を75分間行い、討議の最後に専門家に対する質問をグループごとに作成し、続く全体会で立場の異なる専門家集団と2つのサブテーマについて質疑を各70分間行った。サブテーマとして、「地層処分 vs. 暫定保管・総量管理」、「処分地立地の方針と負担・便益の分担」の2つが設定されている。なお、討議参加者には、A4 版41頁の討議用資料を第一回アンケート調査後に配布した。

2 討議参加者の代表性、参加者による Web DP に対する評価
①討議参加者の学歴が非参加者に比べて高い傾向があること、及び 70 歳以上の参加者を得ることができなかったものの、性別、年齢、居住地、職業については有意差のないサンプルを得ることができた。
②討議参加者のWeb討議会に対する評価として、グループ討議、専門家との質疑応答セッションともに、およそ80%から90%が役に立ったと回答している。自由記入欄でのコメントを読むと、国民の理解と合意を要する政策について市民同士が市民目線で話し合う場をもっと作って欲しいという意見もあり、潜在的ニーズは高いと考えられる。
③北海道から沖縄まで日本全国からほぼ無作為に参加募集をした人が、14 グループにわかれ政策について議論し合う討議空間が作れたことの意義は大きい。

3 Web 討議参加による態度変容
 今回の実験では、Web会議システムを通じたグループ討議と質疑応答セッションであっても実空間上のDPと同様の態度変容が起きることが確認できた。主な結果は以下のとおり。
①「地層処分に対する賛成者」の割合は、討議前 32.7%から討議後 48.5%へと有意に増加した。また、処分の立地を受け入れるという者の割合も、討議前 11.9%から討議後 23.8%に増加した。このことは、討議を行うことによって、漠然とした不安がより客観的なリスクとして捉えられるようになったためと推察される。また、迷惑施設に対する責任を回避しないという倫理的選択を促す手掛かりになる可能性も示唆している。
②地層処分に対する支持が増加するのと同時に、「地層処分に性急に着手するのではなく、今しばらく時間をかけて、広く国民的議論を行うべきである」とする暫定保管の意見に対する支持も強まった。当初、地層処分と暫定保管が対立するものとして報道される傾向があり被験者もそのように考えることが想定されたが、討議参加者はそのように捉えていない。現状では、地層処分の必要性や安全性についての理解が深まったが、その危険性に対する危惧は高い水準にとどまっている。また、安全性を確保することは可能であるという認識も高まったものの、その技術が実現するまでには長期間を要すると認識することにより、暫定保管の支持率が高まったと考えられる。さらに、高レベル放射性廃棄物の総量に対する社会的合意がない状態で、その処分方法について議論することに対する異議も、暫定保管を支持する理由になっていると考えられる。
③暫定保管の期間については、討議前は10 年未満が最も多かった。これが、討議後には最頻値が10年~30年にシフトする。ただ、30年以上とする者は、討議後でも14.8%にしかならない。討議の結果、問題の性格から考えて短期に解決できない問題であるとの認識が高まったこと、しかしそれにもかかわらず、一世代程度30年の間に決着すべきという考えを反映した判断とみなせる。つまり、自分たちが作り出した問題を将来世代に押し付けるのではなく自己責任において解決すべきと考えていることである。
 通常の世論調査は、十分な情報や人の意見を聞く機会がないままの意見しか捉えることができず、熟慮した場合に人々がどのような意見を持つようになるのかを知ることはできない。今回の結果は、Web 会議システムを用いたDPが通常の世論調査の問題点を克服し、無作為抽出された市民からなる公共空間としてのミニ・パブリックスによる討議と民意の形成に、有力な手法となることを示している。高レベル放射性廃棄物の処分についての国民的合意形成にも有効な方法であることが示されたといえる。
 なお本報告は、文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(C)「Web会議システムを用
いたオンラインDP(討議型世論調査)の社会実験」(2013~2015年度、研究代表者・坂野
達郎)の助成を受けて、社会学委員会討論型世論調査分科会の監修の下に実施した調査の審議結果を取りまとめて公表するものである。
(引用終わり)
 
 上の「要約」では、「暫定保管の期間については、(略)一世代程度30年の間に決着すべきという考えを反映した判断とみなせる。つまり、自分たちが作り出した問題を将来世代に押し付けるのではなく自己責任において解決すべきと考えていることである。」というのは納得できるとしても、「「地層処分に対する賛成者」の割合は、討議前 32.7%から討議後 48.5%へと有意に増加した。また、処分の立地を受け入れるという者の割合も、討議前 11.9%から討議後 23.8%に増加した。このことは、討議を行うことによって、漠然とした不安がより客観的なリスクとして捉えられるようになったためと推察される。」というのは、「どうして?」と思いますよね。「全体会で立場の異なる専門家集団と2つのサブテーマについて質疑を各70分間行った。」とありますので、その「専門家集団」って具体的に誰?ということが気になり、調べてみました(「報告」の26頁に記載がありました)。
 
テーマⅠ:最終処分のリスクと責任(午前)
司会
 寿楽浩太(東京電気大学未来科学部人間科学系列助教
専門家
梅木博之(原子力発電環境整備機構理事)
鈴木達治郎(長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授)
藤村陽(神奈川工科大学基礎・教養教育センター教授)
柴田徳思(東京大学名誉教授、高エネルギー加速器研究機構名誉教授)
千木良雅弘京都大学防災研究所教授)
長谷川公一(東北大学大学院文学研究科教授)
 
テーマⅡ:処分地を受け入れますか?(午後)
司会
 寿楽浩太(東京電気大学未来科学部人間科学系列助教
専門家
武田精悦(原子力発電環境整備機構技術顧問)
鈴木達治郎(長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授)
山口幸夫(NPO法人原子力資料情報室共同代表)
新野良子(柏崎市男女共同参画審議会副会長)
千木良雅弘京都大学防災研究所教授)
長谷川公一(東北大学大学院文学研究科教授))
 
 「司会」を担当された東京電気大学助教の寿楽浩太(じゅらく・こうた)さんは、例えば以下のような論考を書いておられる方です。
 
 
 「専門家」の中には、私でも名前を聞いたことがある人もおられます。例えば、梅木博之さんは、3.11の4ヶ月ほど前、資源エネルギー庁が主催する「双方向シンポジウム どうする高レベル放射性廃棄物」(於:岡山市)小出裕章さんと対論した人で、当時の肩書きは「(独)日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発部門 研究主席」という、「地層処分」推進研究者の代表のような人でしたね。
 それから、鈴木達治郎さんは、現職の前は、「原子力委員会・委員長代理」だった方です。
 また、長谷川公一東北大学大学院教授は、2015年「提言」公表後、原子力資料情報室の公開研究会の講師を務めておられました(原子力資料情報室の理事でもあったと思います)。
 テーマⅠについてのそれ以外の「専門家」の方の経歴などは全然存じ上げませんが、「専門家の人選は、DPの運営委員会が行う。人選にあたっては、討議テーマに対する立場の違いを反映するように選ぶこととなっている。今回は、前述の日本学術会議社会学委員会討論型世論調査分科会の監修のもとにこの人選を行った。」ということです。
 
 この「報告」を子細に読み込めば、多くの示唆が得られるかもしれませんが、今はそれだけの時間的余裕がありませんので、とりあえず、高レベル放射性廃棄物をテーマとした世論調査、それも「Web 上の討論型世論調査」という手法を用いた調査が行われ、その報告書が公表されているということをご紹介するにとどめます。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2012年10月1日(2014年1月18日にブログに再アップ)
2012/9/11 日本学術会議による高レベル放射性廃棄物の処分に関する「提言」

2012年12月31日(2013年2月13日にブログに再アップ)
12/2日本学術会議 学術フォーラム「高レベル放射性廃棄物の処分を巡って」
2014年10月3日
日本学術会議・分科会が公表した高レベル放射性廃棄物問題についての2つの「報告」
2015年2月19日
「核のごみ」をめぐる注目すべき動き~国の「基本方針」改訂と日本学術会議の「提言」
2015年5月7日
日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言―国民的合意形成に向けた暫定保管」をこれから読む
2015年11月17日
長谷川公一氏「日本学術会議 暫定保管提言を考える」講演と意見交換(11/16原子力資料情報室 第88回公開研究会)