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植松健一氏(立命館大学教授)「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」講演レジュメを読む(守ろう9条 紀の川 市民の会 第13回総会)

 今晩(2017年4月2日)配信した「メルマガ金原No.2770」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
植松健一氏(立命館大学教授)「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」講演レジュメを読む(守ろう9条 紀の川 市民の会 第13回総会)

 昨日(4月1日)午後2時から、私も運営委員の1人に名前を連ねる地域9条の会「守ろう9条 紀の川 市民の会」(原通範代表)が13回目の総会を開きました。
 2005年1月に設立総会を開いて結成された当会は、毎年の総会開催時に記念講演を行うのを例としてきました。
 当初は、会員でもある和歌山の弁護士(私もその1人です)が講師を務め、やがて、会員ではない和歌山や関西圏の弁護士に講演を依頼したのですが、やがてそれも一巡し、「田舎の9条の会だけれど、当たってくだけろ」の精神で(?)、憲法研究者を中心に、大学教員の皆さんに講演を依頼するようになりました(春の総会だけではなく、秋の憲法フェスタも)。
 たいした講演料も払えない上に遠いという悪条件にもかかわらず、これまで、以下の学者の皆さんが「守ろう9条 紀の川 市民の会」の招きに応えて講演してくださっています。
 
吉田栄司先生(関西大学教授)→2012年 憲法フェスタ
二宮厚美先生(神戸大学名誉教授)→2013年 総会
森 英樹先生(名古屋大学名誉教授)→2014年 総会
清水雅彦先生(日本体育大学教授)→2014年 憲法フェスタ
高作正博先生(関西大学教授)→2015年 憲法フェスタ
石埼 学先生(龍谷大学法科大学院教授)→2016年 総会
 
CIMG6998 そして、昨日開かれた第13回総会における記念講演は、立命館大学法学部教授(憲法学)の植松健一先生に、「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」と題してご講演いただきました。
 なお、付言すると、植松先生は、清水雅彦先生、石埼学先生についで、当会で講演された3人目の明治大学雄辯部出身者です(先輩・後輩の序列は当会で講演された順番のとおりだそうです)。

 主催者から講師の植松先生に提案してご了解いただいた演題は、「安倍首相はなぜ憲法を変えたいのか~私たちの生活はどうなるのか~」でしたが、植松先生が書かれたレジュメやパワーポイント資料のタイトルは「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」となっていました。
 あえて、「憲法」に括弧書きで(constitution)という英語表記が付け加えられているのは、植松先生のご了解を得て以下に全文掲載する講演用レジュメの第1章のタイトルが、「Ⅰ すでに「憲法」(constitution)を変えてしまった(!?)安倍政権」とされていることからお分かりかと思いますが、ここで言う「憲法」とは、「日本国憲法」という名称を付された憲法典をさしているのではなく、憲法的慣行を含む「この国のかたち」を意味するものとして使われています(講学上のいわゆる「実質的意味の憲法」に近いかもしれません)。
 実は、昨日の植松先生のお話の中で、とりわけ私が感銘を受けたのは(ということは、私が講師を頼まれた際に「使える」と思ったということですが)、安倍政権は「すでに「憲法」(constitution)を変えてしまった」という部分でした。
 というのも、最近、家庭教育支援法案について考えた際、2006年(平成18年)12月の第一次安倍政権による教育基本法の全部「改正」が、実質的には「改憲」だったのではないかという感を強くしていたからです(「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む/2017年3月29日)。
 
 さらに、「文芸懇話会(1934年)」、「国防の本義と其強化の提唱(1934年)」、「唯研事件(1938年)」などの1930年代の動きとここ数年の政治状況との著しい近似性や公共の福祉のために基本的人権を利用する責任という考え方など、教えられることの多い講演会でした。

CIMG7001 昨日の講演会には、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の会員でない方も来てくださっていましたが、本当なら、もっとたくさんの方においで戴きたかったと(いつものことですが)思います。私たち主催者の力不足であり、まことにもったいないことで、講師にも申し訳なく思います。
 既に、秋の憲法フェスタのメイン企画をどうするか、企画会議はこれからですが、個々の運営委員は(私を含め)もう既に具体的な検討を始めています(と思います)。必ずや、各地の「9条の会」のみならず、多くの方に喜んでいただける企画を実現したいと思いますので、是非、私たち「守ろう9条 紀の川 市民の会」の憲法フェスタに足をお運びください。
 
 さて、上にも書いたとおり、植松先生から、講演用にお送りいただいたレジュメやパワーポイント資料のメルマガ(ブログ)への転載を快くご了解いただきましたので、以下に掲載させていただきます。是非じっくりと考えながらお読みいただければと思います。
 転載の方針について若干説明しますと、まず、レジュメは全文引用します(黒色)。その上で、レジュ
メには記載されていないけれど、パワーポイント資料には記載のあった事項については、該当箇所に【PP(パワーポイント)より】と表記した上で引用しました(紺色)。
 なお、レジュメは6章構成(0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ)となっていますが、時間の都合により、「Ⅲ 15
年安保体制下の自衛隊防衛省の力学の変動」の部分は、昨日の講演では省略されました。
 
CIMG7019 それから、昨日の総会では、第1部の記念講演が終わった後、総会議事が行われました。総会議案書の内、情勢分析のパート(私たちを取り巻く情勢)については、事前にメルマガ(ブログ)でご紹介していますが(植松健一立命館大学教授(憲法学)講演のお知らせと「情勢分析2016-2017」(守ろう9条 紀の川 市民の会)/2017年3月14日)、活動報告やこれからの活動方針なども含めた総会議案書全体もPDF化しましたので、お目通しいただければと思います。
 
 それでは、植松健一先生による講演「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」レジュメ全文をご紹介します。
 
 

守ろう9条 紀の川 市民の会(2017年4月1日:河北コミュニティセンター)
 
     安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか
 
                             植松健一(立命館大学憲法学)
 
0 はじめに――秘密保護法・共謀罪・政策芸術  
 哲学者・戸坂潤の時評(「文化統制の種々相」(1935年)『全集5巻』(勁草書房・1967年)所収245‐246頁(傍点は原文(金原注:赤字での表記に変えました)、下線は植松)
「現代の日本に於ける文化統制の内で、最も典型的なものは所謂国体明徴運動である。憲法学説に就いての一定の学的立場と学的解釈方法とをば、一個の行政府に過ぎない政府が公的に決定して之を施行するのだから、ここではこの問題に関する限り、言論の自由と信教の自由とが全く制約されるのであって、これ以上の公的な文化統制振りは今の処日本には先ず存在し得ないのである…。
 …統制がこのように一定の露骨な形を取ることが出来たのも、国民の或る意味における「総意」が之を支持するからなのである。というのは、国民が総体から云ってこの統制に対して、何等本当の抵抗を試みようとしないからなのである。というのは、別な言葉で云うと、実は国民は全体から云って、それ程、この問題に対して無関係だからなのである。統制政策はいつも、国民のこうした一種の無関心による支持見出し得る場合に限って容易に成功するのであり、或いはそういう無関心な支持を期待出来そうな場合だけを選んでも最も容易に発動するのである。」
 
【PP(パワーポイント)より】
唯研事件(1938年)
 1938年11月、雑誌『唯物論研究』改め『学芸』にかかわる主要メンバーの一斉検挙に始まる弾圧。戸坂
潤、岡邦雄、森宏一、古在由重、新島繁ら30名が検挙。
 40年1月の第2次一斉検挙後は、雑誌購読者にも捜査が及び、検挙者総数100人余ともいわれる。
 裁判所は「…日本共産党ノ目的達成ニ寄与…支援スルコトヲ目的トスル唯物論研究会ナル結社ヲ組織シ」(控訴審判決)と認定し、戸坂を懲役3年とする。戸坂は45年8月9日、栄養失調と腎臓不全で獄死。
 
【PP(パワーポイント)より】
文芸懇話会とは?

・1934年3月、内務省警保局長・松本学が、文化統制を目的に、直樹三十五らを抱え込んで創立した官民合
同の文学団体。 
 
安倍首相支持の勉強会「文化芸術懇話会」(産経デジタル2015年6月25日21:55)
自民党の若手国会議員有志は25日、芸術家を講師に招いて意見交換する勉強会を発足させた。出席者には、安倍晋三首相(自民党総裁)に近い議員も多く、9月の総裁選を前に首相の無投票再選の機運を高める狙いがある。新勉強会は「文化芸術懇話会」。設立趣意書によると、芸術家との意見交換を通じ「心を打つ『政策芸術』を立案し、実行する知恵と力を習得すること」を目的としている。
 この日、党本部で開いた初会合には加藤勝信官房副長官薗浦健太郎外務政務官萩生田光一総裁特別補佐ら首相を支持する議員を中心に37人が出席、作家の百田尚樹氏の講演に耳を傾けた。代表に就任した木原稔党青年局長は会合後、記者団に「党所属国会議員として、党や政府が進めようとしていることを後押しするのは当然だ」と強調。総裁選に向け、首相の「応援団」として活動するとみられる。…」
 
【PP(パワーポイント)より】
国防の本義と其強化の提唱(1934年・陸軍省新聞班)
・科学的研究機関を統制し、合理化し、其能率を向上し…
・発明を奨励し、資金供給、研究機関の利用の道を拓き特許制度に改善を加う。
・民族特有の文化を顕揚し、泰西文物の無批判的吸収を防止すること。
・智育偏重の教育を改め訓育を重視し且つ実務的、実際的教育を主とすること。 
 
【PP(パワーポイント)より】
国家安全保障戦略(2013年12月17日閣議決定
国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進
①防衛生産・技術基盤の維持・強化
②情報発信の強化
③社会的基盤の強化
④知的基盤の強化
 

Ⅰ すでに「憲法」(constitution)を変えてしまった(!?)安倍政権
・人事権をフル稼働させての権力内ブレーキの破壊
 日本銀行総裁NHK経営委員・会長、内閣法制局長官内閣人事局設置… 
 最高裁裁判官人事(山口厚氏の任命)も?
集団的自衛権の政府解釈変更による行使容認
・内閣もスキップする国家安全保障会議による意思決定
・「憲法の常道」の破壊⇒2015年臨時国会の非招集
小選挙区制効果としての、「自民1強」と自民党内の「安倍1強」
 
【PP(パワーポイント)より】
憲法(constitution)=「この国のかたち」
・国憲に関する法=(constitutional law)=憲法
・内閣が人事権を有していても、恣意的な行使はできない
日本銀行内閣法制局の専門性に基づく自立性
・大学、報道機関、農協などの自治の尊重
自民党内の派閥による「疑似政権交代
・少なくとも、集団的自衛権憲法上行使できない
 

Ⅱ では、なんのための改憲日本国憲法の改定)?
(1)そもそも安倍政権を担うのは、どのような勢力
①米国の権益の擁護(外務省・自衛隊統幕):「強固な日米同盟」・「積極的平和主義」
 自衛隊と米軍の運用一体化、自衛隊の権限拡大・装備充実(2017年3月護衛艦「かが」就役)、防衛省内部における制服組の台頭、大学での軍事研究誘導、辺野古基地建設の強行
②グローバル企業の利益の擁護(経産省・防衛装備庁):アベノミクス+成長戦略としての「積極的平和主義」
 ……金融緩和、TPP、国家戦略特区、「一億総活躍」、「官製春闘」、武器・原発の輸出促進
③右翼的勢力の擁護(日本会議):国粋・民族主義
 ……閣僚の靖国参拝、「日本第一」の教科書検定、道徳の教科化
 
第2次以降の安倍政権の特徴=後期新自由主義政権(渡辺治)・「関わっていく政治」(柿﨑明二)
①のための改憲集団的自衛権規定、愛国心条項(日の丸・君が代規定含む)、緊急事態条項
②のための改憲=健全財政条項、社会権条項の削除、首相公選制、道州制参議院見直し+フォローとしての愛国心条項、「公益」による人権制限、家族条項  
③のための改憲=「押しつけ憲法」の破棄、天皇の元首化、愛国心条項、個人尊重的要素の削減、「公益」による人権制限、家族条項、政教分離緩和
      ↓
①→解釈改憲(自衛のために必要な限定的な集団的自衛権行使は合憲)により必要なくなった
②→多くは法律レベルで対応可能(生活保護費や年金制度の切下げ)
③→実は①②に比べ優先順位は低い!?:=「保守」を語らなくなった安倍首相、一定のヘイトスピーチ規制、森友問題での「しっぽ切り」
 
(2)では、なぜ改憲なのか?
①「自分らしさ改憲」=保守層の結束、安倍首相の個人的思い入れ
②「どさくさ改憲」=緊急事態条項(まずは議員任期特例規定)、参議院の地方代表化、健全財政条項
③「思いやり(のふり)改憲」=高校無償化、同性婚
④「あわよくば改憲」=「限定」を取り払った完全な軍隊、基本的人権の制限規定
 
【PP(パワーポイント)より】
『あたらしい憲法草案のはなし』 自民党憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合(著)
あたらしい憲法草案のはなし
自民党憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
太郎次郎社エディタス
2016-07-02



Ⅲ 15年安保体制下の自衛隊防衛省の力学の変動
1 安保関連法の本格始動
南スーダンPKO第11次要員(陸自第9師団第5普通科連隊等)の「駆け付け警護」「宿営地共同防護」「任務遂行型武器使用」(16年11月18日防衛大臣命令→17年5月末には撤退予定)
・日米共同統合演習(16年11月7日・うるま市沿岸)「重要影響事態」を想定した訓練
・空自と英空軍の共同訓練(16年11月3日・三沢基地
・日韓軍事情報包括協定(GSOMIA)締結(16年11月23日)

2 一体化する自衛隊・米軍(実際には米軍優位の「対等」化)
 「同盟調整メカニズム」の常設(15年ガイドライン)=日米の共同軍令機構(横田=市ヶ谷=ハワイ)
 「共同計画策定メカニズム」による計画策定 

3 台頭する制服組
(1)統合幕僚長の政治的役割の向上
・第2次安倍政権発足(2012年12月)以降~2016年4月23日段階までで首相と統幕長との面会は76回(2006年の統幕長ポスト発足から2012年12月の野田政権までは24回)
国家安全保障会議4大臣会合にも「首相の求めに応じて」出席可能
国家安全保障局にも影響力(6つの部局に幹部自衛官2名を配置)
 国家安全保障局顧問会議:座長・山内昌之(東大名誉教授)、特別顧問・三村昭夫(日本商工会議所会頭)、顧問・折木良一(富士通顧問・元統合幕僚長)、片岡晴彦(IHI顧問・元航空幕僚長)、香田洋二(ジャパンマリンユナイデット顧問・元自衛艦隊司令官)、細谷雄一(慶大教授・安保法制懇委員)ほか7名(2016年6月現在)
(2)防衛省設置法改定(2015年6月)
・内局優位から内局と統幕が「対等」に防衛大臣を補佐することを明文上明確に(12条)
・運用企画局(「自衛隊の行動の基本」についての大臣の補佐が所掌事務)の廃止→部隊運用は統幕に一元化
(3)日本型「文民統制」システムにおける「文官統制」の意義
①国会による統制→・批判的エキスパートの少なさ=エキスパートはミイラとり(防衛族)に…
・「特定秘密の壁」→国家安全保障会議4大臣会合は特定秘密以外でも「率直な意見交換」のため「非開示が原則」(衆院情報監視審査会2015・9・25の政府参考人答弁)
②内閣による統制→南スーダンPKO派遣部隊の「日報隠し」問題での稲田防衛大臣の統制力の無さ
③文官による統制→防衛参事官制度を中心とする文官統制がかろうじて、「軍」の統制を行ってきた⇒現在はこれが破壊された状態(「軍からの自由」保障の真空常態!)
(4)政治エリート化する幹部自衛官
陸自による自民党憲法草案(2004年)たたき台への関与
・安保関連法成立前に法案成立を先取りした自衛隊と米軍との覚書き
・元幹部自衛官の政界進出(中谷元衆議院議員[元2等陸尉]、佐藤正久参議院議員[元1等陸佐])
(5)増殖する軍産学複合体~司令塔としての防衛装備庁
「成長戦略」(グローバル競争国家路線)と「積極的平和主義」(対米従属型軍事大国路線)の一体的追及
 国家安全保障戦略(2013年12月)=「積極的平和主義の観点から、防衛装備品の活用等による平和貢献
・国際協力に一層積極的に関与するとともに、防衛装備品等の共同開発・生産等に参画する」
 デュアル・ユース技術などの一層の振興のため、「技術開発関連情報等、科学技術に関する動向を平素から把握し、産学官の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用するように努め」る。
・防衛装備庁の発足(2015年10月):事務官・技官1400名・自衛官200名
 「防衛装備庁は、装備品等について、その開発及び生産のための基盤の強化を図りつつ、研究開発、調達、補給及び管理の適正かつ効率的な遂行並びに国際協力の推進を図ることを任務とする」(防衛省設置法36条)⇒海外の武器輸入業者や外国政府などへの武器の購入資金の低金利融資や武器製造の海外合弁会社の設立などにも関与
・軍事下請け化される大学:「安全保障技術研究促進制度」(防衛装備庁所管):
 15年総額3億⇒16年総額6億円:自民党政調会国防部会は100億規模への拡大を提言
・歯止めなき軍拡予算
・2016年度予算5兆5千億円、2017年度概算要求5兆1千億円規模
・長期契約特例法(2015年4月成立):国庫債務負担行為の上限を5年とする財政法15条の縛りを解除し、最長10年の複数年契約を可能とする(護衛艦などの建造)⇒予算単年度主義(憲法86条)との関係で問題
・民間企業にとっての安保関連法:「存立危機事態」や「重要影響事態」において後方支援のために「民間が有する能力を適切に活用する」(15年ガイドライン)⇒⇒「武力攻撃事態」での空港や港湾などの民間施設の自衛隊・米軍の優先利用を可能にする特定公共施設利用法の「存立危機事態」への拡大 //フェリー船員の予備自衛官化の推進
 
 
Ⅳ 「政治的公正中立」論に抗う日本国憲法12条の論理
自治体における「憲法集会」の「後援」の取りやめ、安保法学習会などへの公民館の利用拒否(さいたま市の九条俳句不掲載事件、神戸市の後援取止め、姫路市の集会中止要請事件など)。
     しかし↓
 「憲法尊重擁護義務」(99条)から憲法立憲主義の普及・擁護を目的とする催しについて自治体がサポートすることは当然では?⇒⇒(憲法擁護以外の)特定の立場の政治的・社会的意見を内容とする催しであっても、住民への「多様な観点」の提供は自治体の責務だといえるのではないか?
・教育公務員特例法改定の動き:「政治的行為」をした公立高校の教職員に対して「3年以下の懲役又は百万円以下の罰金」程度の罰則を設ける
・「高等学校における政治的教養の教育と高等学校の生徒による政治的活動について(通知)」(2015年10月)、生徒指導者向けの「Q&A」(16年1月):高校生の学校外での政治活動を届け出制にすることも可能
・小中学校で政治活動をした教職員に罰則を科す「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」を私立高校教職員への適用も検討(2016年5月10日の産経新聞
・市立三重短期大学教員による安保関連法反対の活動に対する、市議会での追及
 
「公共の福祉のために基本的人権を利用する責任」:
 拙稿「『憲法擁護』・『公正中立』・『人権を利用する責任』」月刊憲法運動452号(2016年)4頁以下
より抜粋
「…もともと「立憲主義」(constitutionalism)とは当然に「ある」状態を指すのではない。「立憲主義」とは、複数の「ありうる」政治制度・憲法体制(例えば、専制君主制や独裁制)から「あるべきもの」
として選択された1つのスタンス(-ism)である。国民が主権者=憲法制定権者として、専制主義や全体主義ではなく、「立憲主義」の価値観と憲法体制を選び取ったという基本線においては、人は「中立」ではありえない。これは、日本国憲法という立憲主義憲法体制に関しても、当然の事理である。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」ものであり、かつ、これらの権利を国民は「常に公共の福祉のために」「利用する責務を負ふ」のだと説く憲法12条の文言は、この事理を表現したものといえるのではなかろうか。
 「不断の努力」とは同時に「普段の努力」でもある。日々の生活の中で、国や自治体や大企業の振舞いが憲法の観点からみておかしいと市民が感じたときに、抗議行動、抗議集会、SNSでの発信、反対請願、訴訟の提起など、いろんな手を尽くして抗議の意思表示をし、これを是正させる――その意味での国民の「普段からの努力」によって日本国憲法の精神は維持されるのであり、憲法97条との強い連関を持つ憲法12条後段の「公共の福祉」の意味も、そのように読まれるべきである。この12条に基づく基本的人権の行使は「人権の立憲主義回復的な行使」と呼ぶべきもので、いわゆる「国民の抵抗権」が問題となるような立憲主義秩序が根底から破壊されるような局面とは一応区別された、まさに「普段の」抵抗をバック・アップするものと理解できるのである。
 公権力が憲法の条規やその精神に反した行動をとるときには――「選挙」国民投票」という「非日常」での意思表出の機会はもちろんのこと、それにとどまらず――表現の自由、請願権、財産権、「知る権利」、平和的生存権、裁判を受ける権利など、多種多様な基本的人権の行使によって、これを是正する。さらに、報道機関、教員集団、大学人、弁護士会などの専門家集団、政党、労働組合NPOなどがそれぞれの「立場」「持ち場」において、基本的人権をこの意味での「公共の福祉のために利用する」ことも憲法12条に由来する「責任」といえるかもしれない。
 いずれにしても、国民ないし団体が憲法12条の「責任」を果たす場面では、その時々の公権力との関係において「中立」ではいられないはずである。とりわけ憲法尊重擁護義務を負っているはずの公権力がそれを無視する行為に及んだ局面において、それと対峙することをせず、「公正中立」を理由に沈黙を続けることは、そのような憲法違反の公権力への「加担」にほかならないし、憲法12条が訓示する「責任」の放棄とみなされるよう。
 こうした観点から、自民党改憲案が試みる現行憲法の改変の対象に12条後段が入っている事実も看過してはならない。自民改憲案の12条後段では、国民に「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公共の秩序に反してはならない」ことを求める内容に改められている。現行憲法にある「公共の福祉」を「公益及び公共の秩序」に替えたことの意図や「権利には義務が伴う」式の人権に対す無理解はかねてより批判されてきた点であるが、12条後段の削除は、「人権の立憲主義回復的な行使」という発想を憲法から消し去ることに他ならない。」
 

Ⅴ まとめ~排外主義・差別主義に抗い「個人として尊重される」(憲法13条)世界へ

・世界規模での排外主義・差別主義の台頭―「ポピュリズム権力者の暴言・放言」(橋下からトランプまで)が一般民衆の差別心を促進(「籠池小学校」からイスラム差別まで)
・沖縄への冷たい視点:国による「合法的暴力」(不服審査請求制度の趣旨外使用、反対派市民の不当拘束、知事への個人賠償請求の示唆など)が民間の「沖縄ヘイト」を援助・助長
★自らが「個人として尊重される」ことの重要性を知る者は、他者もまた「個人として尊重」されてしかるべきと考えることができる=他者に対する「共感力」「想像力」→共生のための「創造力」
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/講演会レポート)
2013年2月13日
予告3/30「二宮厚美氏講演会と第9回総会」(守ろう9条 紀の川 市民の会)
 ⇒二宮厚美先生 ※レポートではなく予告記事です。
2014年3月30日
森英樹氏講演会を開催しました(守ろう9条 紀の川 市民の会・第10回総会)
 ⇒森英樹先生
2014年11月8日
『脱走兵』が日本の現実とならないように~11/8守ろう9条紀の川市民の会「第11回 憲法フェスタ」
 ⇒清水雅彦先生
2015年11月8日
「第12回 憲法フェスタ」(11/3 守ろう9条 紀の川 市民の会)レポートと11月中の和歌山での取組予定のお知らせ ⇒高作正博先生
2016年4月2日
石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演をレジュメから振り返る~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」第12回総会から ⇒石埼学先生