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沖縄県が国を相手取り岩礁破砕等の差止を求めて訴訟を提起し仮処分を申し立てました

 2017年7月24日配信(予定)のメルマガ金原.No.2883を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
沖縄県が国を相手取り岩礁破砕等の差止を求めて訴訟を提起し仮処分を申し立てました
 
琉球新報電子版 2017年7月24日 14:36
沖縄県辺野古差し止めで提訴 国と再び法廷闘争に
 
(引用開始)
 名護市辺野古の新基地建設で県の岩礁破砕許可を得ずに工事を進めるのは違法だとして沖縄県は24日午後、国を相手にした差し止め訴訟を那覇地裁に提起した。県の弁護団が24日午後2時34分、那覇地裁に訴状を提出した。岩礁破砕許可を県に申請するよう国に求めている。差し止め訴訟と併せて判決が出るまで工事を止めるよう求める仮処分も申し立てた。24日夕には翁長雄志知事が記者会見で提訴について見解を述べる。新基地建設を巡り、国と県が再び法廷闘争に入る。
 県は工事海域に漁業権が存在し、埋め立て工事を進めるには知事による岩礁破砕許可が必要だと主張している。一方、国は名護漁協の決議で工事海域の漁業権はすでに消滅し、岩礁破砕許可は不要と主張している。裁判所が漁業権の存否、岩礁破砕許可の要否について、どのような判断を示すか注目される。
 辺野古新基地建設を巡っては、2015年10月の翁長知事による埋め立て承認取り消しを受けて国が代執行訴訟を提起した。その後、和解が成立したが、あらためて国が知事を相手に不作為の違法確認訴訟を起こし、昨年12月に最高裁で県敗訴の判決が確定した。
(引用終わり)
 
 既に6月7日の臨時記者会見において、翁長雄志(おなが・たけし)沖縄県知事は、国が、知事の許可を得ずに岩礁を破壊しようとしていることを差し止めるための訴訟を提起するという方針を発表していました。
 
沖縄県公式動画 臨時記者会見(平成29年6月7日)(28分)

 
 上記の記者会見で読み上げられた知事コメントは以下のとおりでした。
 
(引用開始)
 本日は、普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立工事において、沖縄防衛局が沖縄県知事の許可を得ずに岩礁破砕等行為を行おうとしていることに対し、差止訴訟を提起することについて私から報告を申し上げます。 
 これまで、沖縄防衛局は、平成29年3月14日付け水産庁長官通知を根拠として、岩礁破砕等許可申請を行わない旨を繰り返し回答しておりました。
 沖縄県水産庁長官に対し、二度にわたり当該通知に係る個別具体的な照会を行いましたが、それに対する回答はいずれも県の照会事項に全く答えられておらず、過去の政府見解等との整合性が合理的に説明されていませんでした。
 このような状況においては、自治事務である漁業権免許制度を運用する立場として、水産庁長官通知の見解を採用できないと判断し、去る5月29日、沖縄防衛局長宛てに改めて許可申請の手続が必要である旨を通知し、当該手続を実施する意思を確認したところです。 
 これに対し沖縄防衛局長から、6月1日付けの回答文書により、許可申請手続を行う意思が無いことが改めて示されました。
 沖縄県としては、漁業法の趣旨、従来の政府見解や水産庁の技術的助言等に照らし、沖縄防衛局が工事を行っている海域は当然に「漁業権の設定されている漁場」に当たることから、知事の許可が必要になると考えております。
 公有水面埋立承認願書に記載されている工事の内容から、今後、沖縄防衛局が岩礁破砕等行為を行うことは確実な状況にあることから、沖縄県としては、許可のない岩礁破砕等行為が行われないよう、法的措置を求める必要があると判断いたしました。   
 今後、県議会6月定例会において、訴えの提起についての議案を上程し、議決をいただいた上で、国に対し、差止訴訟を提起するとともに、仮処分の申立てを行ってまいりたいと考えております。
 政府は、なりふり構わず埋立工事の着手という既成事実を作ろうと躍起になっておりますが、豊かな生物多様性を誇り、現在の我々にとっても、未来の世代にとっても、かけがえのない財産である辺野古・大浦湾の海を埋め立て、県民の手が届かない国有地に、耐用年数200年ともいわれる基地を建設することは、到底容認することはできません。
 私は、今後ともあらゆる手法を用いて、辺野古に新基地は造らせないとの公約実現に向け、不退転の決意で取り組んでまいります。
 県民の皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げます。
 以上、私からの報告でございます。
(引用終わり)
 
 以上が6月7日の記者会見に際しての知事コメントであり、その後の質疑応答でのポイントをまとめた記事が沖縄県ホームページに掲載されています。
 
 以上の方針に基づき、沖縄県議会(6月定例会)に承認を求めた議案は以下のとおりです(翁長知事による知事提出議案説明要旨を引用します)。
 
(引用開始)
甲第1号議案「平成29年度沖縄県一般会計補正予算(第1号)」は、普天間飛行場代替施設建設事業に係る岩礁破砕等行為の差止請求事件に係る弁護士への訴訟委託料として517万2千円を計上するものであります。
(略)
乙第9号議案「訴えの提起について」ご説明いたします。漁業権の設定されている漁場内で、知事の許可なく岩礁破砕等を行うことは禁止されておりますが、沖縄防衛局は、県の再三の行政指導にも応じず、普天間飛行場代替施設建設事業の護岸工事に着手し、岩礁破砕等を行うことが確実な状況となっております。これらのことから、岩礁破砕等行為の差し止めについて、訴えを提起するため議決を求めるものであります。
(引用終わり)
 
 沖縄県議会のホームページには、議案についての議員の賛否の状況が掲載されており、議会情報の公開としては、当然こうあるべきですよね。和歌山県議会が沖縄県議会並みになるのはいつのことやら。
 ところで、訴訟提起に向けた甲第1号議案と乙第9号議案の採決は7月14日に行われ、その結果は以下のとおりでした。
 
両議案共通
議決結果 原案可決
出席者数46人(定数48人、現員47人)
議決者数41人(議長は採決に加わらず、公明党4人が退席)
賛成者数24人(社民・社大・結連合11人、おきなわ7人、日本共産党6人)
反対者数17人(沖縄・自民党14人、維新の会2人、無所属1人)
 
 以上のとおり、議会の承認が得られたため、本日の提訴となったものです。
 
 提訴後、17時から行われた翁長知事記者会見の動画とその際に発表された知事コメントが、いずれ沖縄県ホームページに掲載されるはずですが、本稿執筆時点では未掲載であったため、とりあえず、IWJ沖縄によるTwitcasting録画を(聴き取りにくいですけど)ご紹介しておきます。
 
 
 今日は、差止訴訟が提起されるとともに、仮処分も申し立てられた訳ですが、沖縄県ホームページに、早くも「訴状概要版」「訴状(全文)」「仮処分命令申立書」がアップされていました。
 そこで、以下には、「訴状(全文)」の「請求の趣旨」、「仮処分命令申立書」の「申立ての趣旨」をご紹介するとともに、やや長くなりますが、「訴状概要版」を全文引用したいと思います。
 私も、これを読み、沖縄県の主張を理解したいと思います。是非皆さんにもご一読いただければと思います。
 
原告 沖縄県(上記代表者知事 翁長雄志)
被告 国(上記代表者法務大臣 金田勝年
請求の趣旨
1 被告は、別紙図面1図示の 1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12、1-13、1-14、1-1 の各点を順次に結ぶ線(1-14と 1-1 の点を結ぶ線は、陸岸又は第一橋梁の上流端の線とする。)によって囲まれる水域、2-1、2-2、2-3、2-4、2-1の各点を順次に結ぶ線(2-1と 2-4 を結ぶ線は陸岸の線とする。)によって囲まれる区域および 2-5、2-6、2-7、2-5 の各点を順次に結ぶ線(2-5 と 2-7 を結ぶ線は陸岸の線とする。)によって囲まれる水域及び 2-8、2-9、2-10、2-8 の各点を順次に結ぶ線 (2-8 と 2-10 を結ぶ線は陸岸の線とする。)によって囲まれる水域において、沖縄県漁業調整規則39条所定の沖縄県知事の許可を受けることなく、岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取してはならない。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。
 
債権者 沖縄県(上記代表者知事 翁長雄志)
債務者 国(上記代表者法務大臣 金田勝年
仮処分により保全すべき権利 沖縄県漁業調整規則39条に基づく岩礁破砕等差止請求権
申立ての趣旨
 債務者は、別紙図面1図示の 1-1、1-2、1-3、1-4、1-5、1-6、1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12、1-13、1-14、1-1 の各点を順次に結ぶ線(1-14と 1-1 の点を結ぶ線は、陸岸又は第一橋梁の上流端の線とする。)によって囲まれる水域、2-1、2-2、2-3、2-4、2-1 の各点を順次に結ぶ線(2-1と 2-4 を結ぶ線は陸岸の線とする。)によって囲まれる区域および 2-5、2-6、2-7、2-5 の各点を順次に結ぶ線(2-5 と 2-7 を結ぶ線は陸岸の線とする。)によって囲まれる水域及び 2-8、2-9、2-10、2-8 の各点を順次に結ぶ線 (2-8 と 2-10 を結ぶ線は陸岸の線とする。)によって囲まれる水域において、沖縄県漁業調整規則 39 条所定の沖縄県知事の許可を受けることなく、岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取してはならない。
との裁判を求める。
 
(引用開始)
第1 本件水域は「漁業権が設定されている漁場」に該当すること
1 防衛省の地方組織である沖縄防衛局(所在地 沖縄県中頭郡嘉手納町字嘉手納290番地9)は、普天間飛行場代替施設建設事業の事業主として、公有水面埋立承認を得て、工事施工水域において、公有水面埋立てに係る工事を行っている。
 沖縄県漁業調整規則39 条1項は「漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。」と定めているところ、本件水域を「漁場の区域」に含む共同漁業権の免許が、名護漁業協同組合に付与されており、本件水域は、「漁業権の設定されている漁場」に該当する。
2 沖縄防衛局は、平成26年8月28日に、本件水域に係る公有水面埋立事業のため、同日から平成29年3月31日までを許可期間とする沖縄県漁業調整規則所定の沖縄県知事の許可(以下「岩礁破砕等許可」という。)を受けたものの、その後は改めて岩礁破砕等許可の申請をすることなく平成29年3月31日を経過した。
 沖縄防衛局、防衛省は、岩礁破砕等許可を得ない理由について、平成25年3月11日に名護漁業協同組合が総会において漁業権の一部放棄の総会決議をしたことによって漁業権が一部消滅したためであるとしている。
3 しかし、漁業法(昭和24年法律第267号)は、「放棄」と「変更」を書き分け、「放棄」については漁業権者の意思表示のほかに行政行為を必要とする規定を設けていないが、他方で、同法22条において漁業権者の意思に基づく漁業権の「変更」については変更免許による(すなわち、漁業権者の意思表示のみでは効力を生じない)ことを定めているところ、「漁場の区域」は免許によって定められた漁業権の内容をなすものであるから(漁業法11条1項)、漁業権者の意思に基づく「漁場の区域」の縮小は、漁業法上は、同法22 条で規律される漁業権の「変更」に該当する。
 したがって、漁業権者である漁業協同組合がいわゆる漁業権の一部放棄の総会決議をしても、その総会決議のみにより免許内容である「漁場の区域」の変動(縮小)という効力が生じるものではない。
 漁業権者の意思に基づく漁場の縮小が漁業権の「変更」に該当するということは、明治漁業法以来、当然のこととされてきたものであり、現行漁業法下の水産行政も一貫してこの立場をとってきていたものであった。
 また、漁場計画制度を漁業法の目的達成のための基本的仕組みとして採用した現行漁業法においては、なお一層のこと、私人(漁業権者)の意思表示のみで漁業権の内容を変動させることは認められないものである。
 すなわち、現行漁業法1条は「漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ること」を目的とし、この目的を実現するための方法として「水面の総合的利用」をあげている。
 そして、私的恣意を排して水面を総合的利用するための基本的仕組みとして、免許の内容を事前に樹立する漁場計画によって決定し、その後に免許申請をさせ、漁場計画と異なる免許は認めないこととして、私人が「漁場の区域」等の漁業権の内容(免許の内容たるべき事項)を決めることはできないとする漁場計画制度(漁業法11条以下)を採用して
いる。
 この漁場計画制度は漁業法の根幹をなすものであり、漁業権者の意思表示のみで漁場計画によって定められた漁業権の内容を変動させることは、漁業法の根幹に違背することとなるから、漁業権者の意思表示で漁業権の内容である「漁場の区域」を変動させることは認めえないものである。
 名護漁業協同組合がいわゆる漁業権の一部放棄の総会決議をしても、「漁場の区域」の縮小を内容とする変更免許がない以上、「漁場の区域」の縮小は生じないものであり、名護漁業協同組合の決議後も本件水域は、「漁業権の設定されている漁場」に該当する。
4 沖縄防衛局は普天間飛行場代替施設建設事業のための公有水面埋立承認を得ているが、その願書に示された公有水面埋立工事の内容は岩礁破砕等を伴うものである。
 そして、沖縄防衛局は、沖縄県知事に対して岩礁破砕等許可等申請を行わないで公有水面埋立工事を行うことを再三にわたって明確に表明し、平成29年4月25日に公有水面埋立本体工事着工を強行した。
 沖縄防衛局により、今後、岩礁破砕行為等が行われることは、確実である。
 
第2 司法手続による公法上の不作為義務の履行請求が認められること
1 沖縄県漁業調整規則39条により、「漁業権の設定されている漁場内」において岩礁破砕等行為をする者は皆、知事の許可を受けてそれを行わなければならないという作為義務を課されている。
 このことは裏を返していえば、何人も知事の許可を受けずには岩礁破砕等行為を行ってはならないという不作為義務を沖縄県知事及びその所属する行政主体である沖縄県に対する関係で負っていることを意味し、かかる義務は、地域の水域に存する水産資源を保護培養するという公益を保護するために課された義務である。
 したがって、地域の水域の水産資源を保護培養するという公益保護の主体として法令上位置づけられている沖縄県は、かかる義務の違反者に対してこの義務履行を求める権利を有し、知事の許可を得ずに岩礁破砕等行為がなされることが確実であるといるような場合には、そのような義務違反行為を事前に防止するための予防的な義務履行請求も認められ
る。
2 岩礁破砕等の不作為を訴求することは、被告の岩礁破砕等許可を得ずに岩礁破砕等を行ってはならない不作為義務の存否が争われる事件であり、水産資源保護法沖縄県漁業調整規則という法令の適用により、解決することができるものであるから、法律上の争訟に該当する。
3 この点、いわゆる宝塚市パチンコ条例事件最高裁判決(以下、「平成14年最高裁判決」という。)との関係が問題となる。
4 しかし、本件は、以下の3点の理由により、平成14年最高裁判決の射程外である。
(1) 平成 14 年最高裁判決は、「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟」を、不適法としているところ、本件訴訟は、地域の水域に存する水産資源という地域の資源の保護培養に強い利害関係を有する者としての立場においても提起された訴訟でもあり、「専ら」行政権の主体として提起した訴訟とは言えず、本件は、同判決の射程外である。
(2) 平成 14 年最高裁判決は、「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟」を不適法としているところ、本件における被告は国であり、「国民」に対して行政上の義務の履行を求める訴訟ではないことから、本件は同判決の射程外である。
(3) 平成14年最高裁判決により変更されていない最高裁平成8年10月29日判決・判例タイムズ947号185頁(以下、「平成8年最高裁判決」という。)は、道路管理権(公物管理権)に基づく訴えが法律上の争訟にあたることを認めている。
 本件訴訟は、海という公共用物について、財産管理、機能管理を行う主体である原告が、その公物管理権の保護救済を求めて提起するものでもあることから、平成14年最高裁判決の元でも許容される。
5 仮に、本件が、平成14年最高裁判決の判示と抵触するとしても、平成14年最高裁判決がとる法律上の争訟概念には問題がある。
 平成14年最高裁判決は、板まんだら事件における法律上の争訟概念に、私権保護目的という新たな要素を加えたものであるが、刑事訴訟を包含できず、また、同じ訴訟の対象が、国民が訴えれば法律上の争訟に含まれ、行政が訴えれば法律上の争訟に含まれない、という言わば片面的法律上の争訟概念を認めるものである。
 しかし、「法律上の争訟」を定める裁判所法の立法経緯からしても、「法律上の争訟」に刑事訴訟が含まれ、また、「法律上の争訟」が訴訟の対象(目的ではない)を意味する概念であることは明らかであり、平成14年最高裁判決の採る「法律上の争訟」概念は、裁判所法の解釈としては、採り得ない。
(引用終わり)