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高山佳奈子京都大学大学院教授による共謀罪法案についての参考人意見陳述(2017年4月25日・衆議院法務委員会)を読む

 今晩(2017年4月27日)配信した「メルマガ金原No.2795」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
高山佳奈子京都大学大学院教授による共謀罪法案についての参考人意見陳述(2017年4月25日・衆議院法務委員会)を読む

 昨日に続く共謀罪シリーズ、通算第23回は、一昨日(4月25日)の衆議院法務委員会で行われた参考人質疑の内、京都大学大学院の高山佳奈子教授(刑事法)による意見陳述部分の文字起こしがIWJに掲載されていましたので(公式の衆議院会議録はまだ公開されていません)、これをご紹介することとしました。
 なお、当日、参考人として意見を述べたのは以下の5人の方々でした。
 
小澤俊朗氏(元在ウィーン国際機関日本政府代表部特命全権大使国際大学客員教授)
井田良氏(中央大学大学院法務研究科教授)
小林よしのり氏(漫画家)
高山佳奈子氏(京都大学大学院法学研究科教授)
早川忠孝氏(元衆議院議員
 
 この発言順と発言内容から、何となく、各参考人の推薦政党は、
  小澤俊朗氏←自由民主党
  井田良氏←公明党
  小林よしのり氏←民進党
  高山佳奈子氏←日本共産党
  早川忠孝氏←日本維新の会
だったのではないか?などと想像しているのですが、確たる根拠はありませんので、信用しないでくださ
いね。

 この日の参考人質疑についての公式動画は、
「衆議院インターネット審議中継→2017年4月25日→法務委員会」で検索できます。全編視聴するには約3時間を要するようです。
 
 この内、高山参考人による意見陳述の部分を切り取ったYouTube動画を(いつまで閲覧できるか分かりませんが)ご紹介しておきます。
 
高山佳奈子参考人【法務委員会】平成29年4月25日(17分01秒)


 以下に、IWJに掲載された文字起こしにリンクするとともに、その内、高山教授による発言部分を引
用します。
 国会における参考人としての意見陳述ですから、それなりに原稿を練り上げた上で臨まれたと推測され、本法案の問題点を刑事法研究者の視点から総括されたものとして大いに参考となりますので、1人でも多くの方にお読みいただければと思います。
 なお、高山教授の陳述の中には、刑事法制についての基礎知識を前提とした部分などもあり、法律分野に無縁な方にとって理解が難しい箇所もあることは事実ですが、リンク先のIWJの記事には、詳細な注記が付されていますので、より詳しく高山教授の意見を理解したいという方には、是非IWJサイトで熟読されますようにとお勧めします。
 
 
 私は、TOC条約の早期締結に賛成する立場です。それと同時に、この法案には反対する立場です。このよ
うな観点から、刑事法の専門家といたしまして、本日は、4つの点についてお話をしたいと思います。

 まず、第一点目です。今般のこの法案の内容を見ますと、『五輪開催のためのテロ対策』をその内容と
しているものではないと考えます。
 第一に、テロの中でも、たったひとりの犯人が行う『単独犯のテロの計画』、それから、継続した団体
のためではない『単発的な集団のテロ』というのが射程に入ってきておりません。
 確かにテロは、意図的に除外はされておりませんけれども、テロの中の重要な部分は、この法案の対象
からは初めから外れているわけです。
 それから、五輪の関係で申しますと、東京五輪の開催が決まりましたのが2013年の秋でございますが、この後に出されました政府の犯罪対策の計画の正式な文書でも、この犯罪の準備段階で処罰する立法の内容と、それからテロ対策の内容とはまったく別々の章に規定されており、五輪招致が決まったあとでも両
者がリンクして論じられていることはありませんでした。
 そしてテロ対策についてはすでに立法的な手当がなされております。五輪の開催、2013年9月に決定いたしましたが、2014年に改正されました『テロ資金提供処罰法』の新しい条文により、テロ目的による資金
、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供が、これが包括的に処罰の対象に新しくなったわけです。
 これでほとんどのテロ目的の行為はカバーできていると理解致します。これをもって五輪対策は事実上
、テロの観点で申しますと、完了しているように思われます。
 それからさらに、ごく最近の最高裁判所の裁判例の展開を見ますと、詐欺罪や建造物侵入罪の適用が、大変、広くなってございます。これは以前に共謀罪法案が議論されていたよりも、後の展開でございます

 例えば、通帳を他人に譲渡する目的でもって、自分の名義の銀行口座を開設する行為が、通帳を騙し盗ったということで詐欺罪、また、飛行機に他人を搭乗させる目的で自分の買った搭乗券の受領を行う行為
、これも搭乗券の詐欺罪とされております。
 さらに暴力団関係者がゴルフ場を利用すると、ゴルフ場を勝手に使った罪ということで、場合により詐
欺罪が成立する。暴力団関係者が銀行口座を開設する行為も、それではない(暴力団ではない)と偽って通帳を騙し盗ったということで、通帳に対する詐欺罪が成立してございます。
 建造物侵入の観点で申しますと、他人の暗証番号を盗撮する目的で、誰でも入れるATMコーナーに立ち入
った行為、これが建造物侵入罪の既遂として処罰されている。
 というように、違法な目的をもって何かを入手する行為――これはテロに限られません――や、ある場所に赴く行為、入る行為というのが、かなり広い範囲で、新しい裁判例によって処罰の対象になっているという面がございまして、テロの対策としてはかなり日本は諸外国と比べましても広い処罰範囲をすでに有しているということができます。

 次に第二点。TOC条約との関係を申し上げたいと思います。私は締結に賛成しますけれども、そのために
この法案を可決することには反対という立場でございます。
 条約に対する各国の参加の仕方というのには色々ございます。確かにこのTOC条約はその5条におきまして参加罪、あるいは結集罪と呼ばれる類型か、それとも共謀罪の類型か、どちらかのタイプを選んで――
まぁ両方選んでやってもいいんですけども――組織犯罪に対処してくださいということを求めています。
 しかし、これを、この5条という条文だけを見て、それを形式的、杓子定規に全部国内法化して犯罪対象
にしなければならないものではありません。
 国連が2004年に公表しております、『各国のための参考資料としての立法ガイド』という文書がございますが、この51項は、参加罪や結集罪の制度か、共謀罪の制度か、そのひとつの制度を欠いている国が、
必ずしもそれを導入する必要はない、という趣旨のことを述べています。
 条約の全体を見ますと、各国はこの組織犯罪対策として、国内法の基本原則に適合するように、対処することを求めているのでして、憲法の範囲で対処をしてくださいということを言っています。それから、一カ条のみを形式的に理解して、その内容を形式杓子定規的に、全面的に国内法化することは求められて
いないわけです。
 例えば過失犯という類型を考えますと、過失犯とは認識がないものを言いますから、それを計画するということは論理的に考えがたいわけでして、懲役、禁錮4年以上の刑を含んでいたとしても過失犯はこれは
条約は計画段階での処罰を求めていないということが明らかであります。
 この形式的な適用は求められていないということを示す一例として、共謀罪を処罰している典型的な国であるアメリカ合衆国は、いくつかの州の刑法が、共謀罪の一般的な処罰規定をもっていないために、この処罰がない部分があるということを背景と致しまして、この条約に留保を付したうえで参加をしているわけです。共謀罪の包括的な法制度がない、一部欠けているので、その部分については留保をして参加す
る、ということを行っています。
 日本に引き直してみてみますと、日本には明治以来の組織犯罪対策の伝統である『共謀共同正犯』という処罰、制度があるんですけれども、これは共謀罪ととても似ているものですが、実行準備行為のところがより限定的で、実質的な危険のある行為でなければならないというふうになっていますので、例えばア
メリカが留保できるんだったら日本も留保はしようと思えばできると考えられます。
 それから、日本のこれまでの国際法上の対応でも、形式的に条約の一部分だけをみて、それに対処する
ということを行っていない例がいくつかございます。
 例えば、海賊行為の普遍的な処罰を求めている『国連海洋法条約』というのがありますが、日本はこの条約を1996年に批准しましたが、国内の対応の法律である『海賊行為対処法』を制定して海賊行為の処罰
規定を導入したのは10年以上後の2009年でございます。国内の対処は後でもいいんですね。
 それから第一次安倍政権下の2007年に『国際刑事裁判所規程』に日本が参加したときにも、国際刑事裁判所規程の中には犯罪の定義が非常に細かく広範囲にわたって規定されているのですが、これに対応する
国内法の改正を行っての処罰範囲の拡張というのは一切行っておりません。
 また、対象犯罪については時効にかからないこと、と規定ではなっているんですが、日本では殺人罪を除いて、公訴時効の撤廃は行われていません。なぜこれが問題ないのかといいますと、この規定の1条には
、国際的な関心事であるもっとも重大な犯罪が管轄の対象だから、と書いてあるからです。
 ようするに一カ条だけ形式的に見るのではなく、条約全体の趣旨を、目的を考慮して各国それぞれの法
制度に合った対策をとればよいということになります。
 そして国際協力の範囲を他国に合わせるために今般の法案の可決が必要であると言われることもあるん
ですけども、日本の現行法の処罰はすでに他国よりも広範なケースが多いのであります。
 例えば共謀罪のある国でも抽象的危険犯や予備罪などの処罰が日本のように広く行われていない国もご
ざいます。
 また、結集罪参加型の立法を行っている国で、そもそも団体の結成の当初からの目的が犯罪でなければならないというふうに限定している国、あるいは予備罪処罰がそもそもない、といった国では、かなり、
処罰の対象は大幅に限定されているわけです。
 そこで、日本がこのTOC条約を締結するのにあたっても色々な方法が考えられます。海賊の場合と同じように、先に条約を締結してしまってから国内法の内容については慎重に考えるということもあり得るでし
ょう。
 先ほど小澤(俊朗)参考人から『各国の大使によって、なぜ日本が条約に加盟しないのかが理解してもらえない』というお話がありましたが、当然だろうと思います。他の国の方から見ればですね、日本はこ
の状態ですぐに条約に参加できると見えるからではないでしょうか。
 それから、この立法ガイドの監修に当たりました、アメリカノースイースタン大学のニコス・パスタス教授という方がいて、私と同じ学会に所属しているメンバーなのですが、この方にお聞きしましても、『条約への参加の仕方はいろいろあるので、まずその条約を締結して、その後で国内法についてより改善し
ていくというやり方も十分認められる』というようなお答えをいただいております。

 さて、今般の法案の対象が限定されているのかどうかにつきましては、先ほど井田(良)参考人がおっしゃった問題でございます。これが第三の点でございますが、井田参考人は私の聞き間違いでなければ、
最高裁判所平成27年9月15日の決定の結論に反対の立場を述べておられたかと思います。
 集団が形成された当初の目的が犯罪でない場合、その集団の一部が詐欺を始めたという場合が問題にな
ったケースなんですけども、これに『組織的詐欺罪』が適用されるとした最高裁の決定でございます。
 もし、オウム真理教のように、当初は宗教団体として市民の団体として形成されたけども、一部の人たちが犯罪を始めたといったケースに適用をしないのであれば、当初の全体の集団の結成の目的が犯罪でな
ければならないという要件を課すことができるかと思います。
 しかし、含めようとするのであれば、団体の一部が性格を犯罪的なものに一変させた場合も対象に含め
ざるを得ません。一般人の通常の団体として結成された場合は除外できないことになります。
 それから犯罪の計画につきまして、これも計画というのは行為であるので、それを具体的に事実認定できなければならない、ということが言われましたけども、その計画の成立自体が『黙示の合意』、『順次的な合意』、『未必的な故意』による合意をすべて含むことが従来の判例からは推測されますし、また事実認定と致しましても、従来の犯罪でも、何月何日何時何分に何が起こったところまでの認定が要求され
ているわけではありません。
 例えばある家の中から白骨化した子どもの遺体が出てきた、ということであれば、いつ、どのように亡
くなったのかという詳細はわかりませんが、家族が遺棄して子どもが死んだ、あるいは殺してしまったかどちらかであろうということはわかるわけで、それで誰も処罰されないということにはならないわけです。事実の認定はそれほど神様がみているようなかたちで厳密に必要となるものではありません。
 それから、最後の実行準備行為でございますが、今般の法案の条文の書きぶりは、構成要件要素ではなくて、客観的処罰要件です。で、特段の危険性がその条件として要求されておりませんので、外形的な行為であれば、特に限定なく、その他の中に含まれるという読み方ができるかと思います。

 最後に、4番目に本法案の対象犯罪が選別されているやり方が理解できないものであるという問題点を指摘したいと思います。これは法定刑が比較的軽い犯罪が除外されているのではなく、ええ、そうではない
んですね。
 特にTOC条約との関係で懸念される点がいくつかございます。まず公権力を私物化するような行為が含ま
れるべきであると思われるんですけども、それが除かれている。
 公職選挙法政治資金規正法、政党助成法違反はすべて除外されております。それから警察などによる
特別公務員職権濫用罪・暴行陵虐罪は重い犯罪ですけども、除外されています。
 先ほど小林参考人からご経験のお話がありました。いったん、不当な扱いを手続きの中で受けてしまい
ますと、これが正当な扱いに回復するまでには相当な時間と労力がかかります。
 先日出されましたGPSを使った違法な捜査、これの最高裁の判断が出るまでに5年かかっております。その他、私が関与しました大阪風営法裁判のダンス営業規制の事件もですね、4年がかかって、最高裁でやっと判断が出たということで、いったん、その行政権力が使われてしまいますと、正しい扱いを受けられる
ようになるまでには相当な時間がかかってしまいます。
 ここ最近の犯罪情勢は非常に好転しておりまして、一番犯罪の多かった2002年から最新の統計の2015年までの違いをみてみますと、犯罪の認知件数は年間あたり200万件以上が減少し、40数%にまで落ち込んで
おります。これに対し、警察職員の人数は、同じ年間で2万人の増員になっています。
 本来ですと、増えた警察の人員は適切なマンパワーとして、適材適所で使っていただかなければならないんですけども、これがもし乱用されるということになりますと、回復されるのに相当な年数がかかって
しまいます。
 それから公用文書電磁的記録の毀棄罪などのような重大な犯罪類型が除外されています。
 で、もうひとつの類型は組織的な経済犯罪が除かれている。これも条約との関連では問題となる点です

 一般に「商業賄賂罪」と呼ばれ、諸外国で規制が強化されてきているような、会社法金融商品取引法商品先物取引法投資信託投資法人法、医薬品医療機器法、労働安全衛生法貸金業法、資産流動化法
、仲裁法、一般社団財団法人法などの収賄罪が対象犯罪から除外されております。
 また、加重類型も除外されているんですが、これはなぜなのかよくわかりません。加重類型が計画された犯罪なのか、そうでないのかというのは共謀罪の量刑…ごめんなさい、『テロ等準備罪』と申しますか
、計画段階で処罰する犯罪の量刑にとっても重要なのですが、なぜ除外されているのか。
 しかし組織的殺人罪や組織的詐欺罪については除かれていません。加重類型なのに除かれていないのは
、目立つからではないかと思います。
 それから主に組織による遂行が想定される酒税法違反や石油税法違反なども除外されており、相続税法
違反が除外されています。で、所得税法違反は含まれています。なぜ、このようになっているのか。
 もし、過去に適用のない類型を除外するというのであれば、重大な犯罪も取り除くべきことになってし
まい、不当な結論に至ります。そして除外されずに残っている犯罪の中には、例えばその違法なキノコ狩りですとか、性犯罪のような、五輪とも暴力団とも関係のないものが多数含まれているということです。
 このような内容が不可解な法案にそのまま賛成するわけにはいきません。国民の理解できる合理的な説
明がなければ、やはり民主的な議論というのはできないのではないでしょうか。 
 また、水道水に毒物を混入することを計画し、実際に毒物を準備した場合、これが現行法上、処罰できないというふうな情報も流れているんですけれども、実際には殺人予備罪、毒物劇物取締法違反の罪、先ほど述べましたテロ資金提供処罰法違反の罪がそれぞれ成立するのであって、やはり正しい情報を広く共
有して、社会の中で議論して初めてよい法律ができるものと確信しています。
 以上です。ありがとうございました。

(引用終わり)

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
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2017年2月7日
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2017年4月18日
声明「許せない「共謀罪」」~「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が引き継ぐ「志」
2017年4月26日
緊急開催!和歌山弁護士会「共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集会」(5/10@プラザホープ)

緊急開催!和歌山弁護士会「共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集会」(5/10@プラザホープ)

 今晩(2017年4月26日)配信した「メルマガ金原No.2794」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
緊急開催!和歌山弁護士会共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集会」(5/10@プラザホープ

 今年の2月6日から始めた私のメルマガ(ブログ)における共謀罪シリーズの第22回をお届
けします。
 私も会員である和歌山弁護士会が、来る5月10日(水)午後6時から、和歌山県勤労福祉会館プラザ
ホープ4階ホールにおいて、「共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集会」を緊急開催するというお知らせです。
 何しろ、今国会(常会)の会期末は6月18日であり、東京都議選への影響を恐れる公明党が延長に強
く反対していると伝えられる中、この種の企画を実施するにしても、悠長なことはしていられないということで、この日程となりました。
 ただし、和歌山弁護士会常議員会の承認を得て開催が正式に決定したのは、何と昨日(4月25日)の
ことであり、チラシのデザイン確定と発注が今日(4月26日)というのですから、私は、チラシ担当ではないので、納品日がいつかまで確認していませんが、「印刷しても、配る時間があるのか?」というのが心配です。何しろゴールデンウィーク突入寸前ですからね。

 ということで、まだチラシも出来上がっていないこのタイミングで、個人的な広報(このメルマガ&ブ
ログの他、Facebooktwitterなどでの)を開始したという次第です。皆さんも、是非、情報拡散にご協力ください。
 
 さて、集会の中身ですが、第1部では、山下幸夫弁護士(東京弁護士会日弁連共謀罪法案対策本部事務局長)に基調報告をしていただきます。
 第2部は、登壇者5名の内、名波正晴共同通信社和歌山支局長以外の4名が全て弁護士というのはやや
偏っているのでは?というご意見もあろうかと思いますが、第2部のパネルディスカッションでは、共謀罪法案をめぐる主要な論点について「多角度から考える」ことにより、議論を深めることを狙いとしてい
ます。
 端的に言えば、弁護士会の中の法案推進派も登壇して意見を述べるということであり、コーディネータ
ーの藤井幹雄弁護士のドライブがなかなか難しいだろうなあと同情したりしています。

 以前、共謀罪シリーズとして、「共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”」(20
17年3月6日)という記事を書いたことがあったのをご記憶でしょうか?5月10日にパネラーとして登壇予定の山崎和成弁護士は、その記事でご紹介した「組織犯罪対策の推進を求める弁護士一同」による3月6日付「提言」の呼びかけ人の1人です。
 ちなみに、私は、その「提言」を、今月初旬に開かれた和歌山弁護士会共謀罪法案対策プロジェクトチームの会議の席上、
山崎和成弁護士から提供して貰って初めて読みました。それまで、インターネットでいくら探しても見当たらなかったので、読めたこと自体はありがたかったですね。それにしても、「組織犯罪対策の推進を求める弁護士一同」の呼びかけ人や賛同者の中で、自分の事務所のホームページや個人のブログにこの「提言」をアップして、広く自分たちの主張を社会に訴えようと考えた者は1人もいなかったのでしょうか?(もしかしたら、私が見つけられていないだけで、どこかにアップされているのかもしれませんが)。

 私が推進派の「提言」を紹介する義理はないのですが、とりあえず「提言」の「4 結論」だけ引用し
ておきます。

(引用開始)
 組織的犯罪対策として純粋に考えられるべき本件条約(金原注:国連国際組織犯罪防止条約)に必須の
共謀罪(テロ等準備罪)が政争の具となり、何年も本件条約の批准が遅延し、本件条約に参加した190
カ国のうち批准をしていないのは、イラン、コンゴ共和国及び我が国の3カ国となってしまった。
 このような状態は、日本国憲法が定める国際協調主義に反するのみならず、国民の生命・身体・財産を
組織犯罪の脅威にさらすものであり、早急に本件条約を批准するため、共謀罪(テロ等準備罪)に関する
規定の制定を求めるものである。
(引用終わり)

 要するに、「提言」の言わんとすることは、国連国際組織犯罪防止条約を一刻も早く批准する必要があ
り、批准のためには、共謀罪の制定が必須である、というものです。この後段の主張については、反対派と推進派の間でかねてから鋭い意見の対立が続いており、これについて私があれこれ書いても、まあ仕方がないで
しょう。
 ただし、上記の短い「結論」部分を書き写しながら、私が著しい「違和感」を感じた部分だけ指摘して
おきましょう。それは、何の留保も付けずに「テロ等準備罪」という言葉が繰り返し使用されていること
(「提言」の冒頭からそうです)、それから、反対派を批判するために「政争の具」という言葉を持ち出していることです。
 もともと、私は「理論派」ではなく「文章派」を自認しており、なぜ「違和感」を持ったか説明せよと
言われれば、「私ならそんな文章は絶対に書かないから」ということに尽きるのですけどね。

 ・・・という次第で、反対運動にかかわる各界の代表者を集めてリレートークを行うというような景気
付けのための集会とは相当に雰囲気の異なる集会になりそうですが、「共謀罪について理論的な問題点を深く考えてみたい」という方にはお薦めです。

 それでは、以下にチラシ記載情報を転記しますが、一言お断りする必要があるのは、このチラシに使わ
れたレッドカードを掲げる審判の写真と「共謀罪 名前を変えても レッドカード」というコピーは、大
弁護士会のご厚意で使用許諾いただいたものだということです。正直、自前で考えている時間がなかったもので。

チラシから引用開始)
共謀罪法案(テロ等準備罪)を考える県民集

共謀罪(テロ等準備罪)が国会で議論されています。
その問題点について、多角度から考えます。

日時 2017年5月10日(水) 開会:18時00分(開場:17時30分)
場所 和歌山県勤労福祉会館プラザホープ4Fホール
     和歌山市北出島1丁目5-47
入場無料 
予約不要

基調報告
山下幸夫弁護士日弁連共謀罪法案対策本部事務局長)

パネルディスカッション
【パネラー】
・山下幸夫弁護士
・名波正晴氏(共同通信社和歌山支局長)
・波床昌則弁護士(和歌山弁護士会会員・元裁判官)
・山崎和成弁護士(和歌山弁護士会民事介入暴力及び非弁護士活動対策委員会委員)
コーディネーター
・藤井幹雄(和歌山弁護士会共謀罪法案対策PT座長)

主催:和歌山弁護士会
共催:日本弁護士連合、近畿弁護士会連合会(いずれも予定)
お問い合わせ 和歌山弁護士会
 和歌山市四番丁5番地 TEL:073-422-4580 FAX:073-436-5322
(引用終わり)

 なお、和歌山弁護士会も、共催予定の日本弁護士連合会も、会全体としては共謀罪法案に対して明確に
反対の意見を表明しています。
 
日本弁護士連合会 2017年3月31日
いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明


(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
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2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
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2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年3月31日
2017年4月7日
2017年4月14日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む
2017年4月18日

後藤政志さんが語る「東芝が落ち込んだ闇」と飯田哲也さんが語る「日の丸原発に明日はない」

 今晩(2017年4月25日)配信した「メルマガ金原No.2793」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
後藤政志さんが語る「東芝が落ち込んだ闇」と飯田哲也さんが語る「日の丸原発に明日はない」

 原子力発電事業に突き進んだ東芝が落ち込んだ「闇」については、様々な方が論評していますが、やは
りこの方の意見に耳を傾けたいと思います。
 3.11以降、東京電力福島第一原発で一体何が起こっているのか、多くの国民が、インターネットを
通じて流れる後藤政志(ごとう・まさし)さんの技術解説を頼りにしたことと思います。
 その、元東芝格納容器設計技術者であった後藤さんが、自らの古巣の破綻を語ることは、それなりに重
いことだろうと想像されますが、それだけに、聴くべき価値ある発言だと思います。
 ここでは2種類の動画をご紹介します。

 1つは、一昨日(4月23日)、京都市下京区の「ひと・まち交流館京都」で開かれた後藤政志・守田敏也緊急講演会「東芝ウェスチングハウスはなぜ崩壊したのか?トルコへの原発輸出-三菱重工・アレバはどうなるのか?」(主催:市民環境研究所/共催:ウチら困ってんねん@京都)のIWJ京都によるTwicasting動画です。画質は落ちますし、音声レベルも低いのですが、耳をすませば何とか聴き取れる範囲だと思います。
 
後藤政志・守田敏也緊急講演会 東芝・ウェスチングハウスはなぜ崩壊したのか?トルコへの原発輸出 ―三菱重工・アレバはどうなるのか? 2017.4.23(2時間42分)
冒頭~ 開会
2分~ 後藤政志氏(工学博士、APAST理事長、元東芝格納容器設計技術者)
     講演「原発事業リスクを認識できなかった東芝の経営破綻」
1時間20分~ 守田敏也氏(フリーライター)講演
2時間14分~ 質疑応答

 もう1つは、今年の2月、YouTubeの「デモクラシータイムス」チャンネルにアップされた山田厚史さん(ジャーナリスト)と後藤政志さんによる対談です。前後編の2本に分かれています。

2017.2.23(前半)山田厚史の闇と死角 東芝だけか?原発底なし沼の危機(28分)

2017.2.23(後半)山田厚史の闇と死角 原発、世界の潮流とガラパゴス日本(26分)
 
 


 ここまで来れば、東芝が落ち込んだ「闇」というか「罠」というか、はたまた「底なし沼」というか、そこに三菱重工や日立も踏み込んでしまってはいないのか?ということが気になりますよね。正直、三菱、日立が東芝の二の舞、三の舞になれば、日本経済全体に及ぼすダメージの大きさも相当なものと想像されるだけではなく、ここまで作ってしまった日本の原発廃炉事業は誰が担っていくんだ?ということも
問題になるかもしれない、などと心配になります。それでも、「原発輸出に活路を見出そう」などと本気で思っているとしたら・・・。

 ということで、最後に、この方の意見も伺っておきましょう。環境エネルギー政策研究所所長の飯田哲也(いいだ・てつなり)さんです。やはり、「デモクラシータイムス」にアップされた山岡淳一郎さん(
ノンフィクション作家)との対談です(2017年3月14日公開)。これも、前後編の2本に分かれています。
 この対談を聴いていると、東芝三菱重工、日立だけではなく、経産相官僚の頭の構造も心配になってきます。これも、知りたくもない「不都合な真実」なのでしょうが、目を背けている訳にもいかないし。
 
山岡淳一郎のニッポンの崖っぷち 日の丸原発に明日はない~東芝崩落の道程と進むべき道~ 山岡淳一郎×飯田哲也(39分)

山岡淳一郎のニッポンの崖っぷち(後半)日の丸原発に明日はない~東芝崩落の道程と進むべき道~ 山岡淳一郎×飯田哲也(31分)
  

中野晃一氏『つながり、変える 私たちの立憲政治』を読み、4月28日の講演会@和歌山市に期待する

 今晩(2017年4月24日)配信した「メルマガ金原No.2792」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
中野晃一氏『つながり、変える 私たちの立憲政治』を読み、4月28日の講演会@和歌山市に期待す

 中野晃一上智大学教授(国際教養学部長)をお招きした講演会(主催:青年法律家協会和歌山支部)が今週末(4月28日)に迫ってきました。既にこのメルマガ(ブログ)でご案内しましたが(
中野晃一氏講演会「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」(4/28和歌山県民文化会館)のご案内/2016年3月18日)、開催概要を以下に再掲します。

青法協憲法記念行事 憲法を考える夕べ
講演 中野晃一氏(上智大学国際教養学部長、教授)
「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」
日時 2017年4月28日(金) 
     開場:午後5時30分 開演:午後6時00分
場所 和歌山県民文化会館 小ホール
      和歌山市松原通1丁目1 電話:073-436-1331
入場無料 予約不要
主催 青年法律家協会和歌山支部
連絡先 和歌山市岡山丁50番地2 電話:073-436-5517
        岡本法律事務所(弁護士 岡 正人)

 多忙を極める中野先生は、講演会開始の直前に会場入りし、講演会終了後、関西空港から即日帰京され
るというハードスケジュールのため、ゆっくりお話する時間もとれないのが残念です。
 出来れば、講演を終えられた後は、奥様や小学生の息子さんを伴われて、白浜アドベンチャーワールドでパンダファミリーでも見学されれば、今ならまだ8頭生活していますし、昨年9月に生まれた末娘の結浜(ゆいひん)は可愛いさかりですから、連休明けに学校に行った息子さんがクラスメートに自慢できるのではないか、などと期待したのですけどね。またの機会に、是非和歌山をゆっくり観光していただければと思います。

 ところで、私自身、中野先生の講演に大いに期待していることは、末尾に掲載した、過去私のブログで
中野先生を取り上げた記事を参照していただければご理解いただけるかと思います。
 その私が、講演会を前に気になっていることが一つあります。それは、講演の演題のうち、サブテーマである「他者性を踏まえた連帯の可能性」についてです。これは、中野先生からご提案いただいたものだということを、交渉にあたった青法協和歌山支部の事務局長から聞いているのですが、何となく分かるような気もする
けれど、明確に説明できるか?と言われても困惑する、というテーマなのです。
 おそらく、この演題を目にして、私と同じように「気になった」人もいるのではないかと推測します。
 そして、そのような疑問を持ちながら聴講すること、つまり、講師のお話によって、自分の抱いた疑問
を何とか解きたいと意識付けしながら講演を受け止めるというのが、実は最も身になる聴き方なのだろうと思います。

 ということで、今日は、28日の講演会のだめ押しの予告編として、皆さんに是非ご来場くださいと呼
びかけるのが主な目的なのですが、昨年の10月に刊行された中野先生の近著をご紹介したいというのがもう一つの目的です。
 実は、先週末、私は、28日の講演会の予習をしようと一念発起し(というのは大げさですが)、中野先生の以下の著書3冊を入手しました。
 
『右傾化する日本政治』 岩波新書(単著) 2015年7月22日刊


『いまこそ民主主義の再生を!――新しい政治参加への希望』 岩波ブックレット(共著/中野晃一、コ
リン・クラウチ、エイミー・グッドマン) 2015年12月3日刊
 


『つながり、変える 私たちの立憲政治』 大月書店 (単著/田中章史氏による聞き書き) 2016
年10月20日刊

 
 時間の都合で、まだ通読できたのは『つながり、変える 私たちの立憲政治』だけです。何しろ「聞き
書き」なので読みやすく、また、市民が主導して立憲野党に共闘を呼びかけ、全国32の全ての1人区で市民と野党の共闘を実現した参院選を総括した上で、今後に向けた課題を確認しながら展望を語るという内容に惹かれて一気に読了しました。
 実は、「他者性を踏まえた連帯の可能性」という私が気になったテーマを読み解くヒントももちろん語
られています。
 1つは、「第2章 新たな「リベラル左派」勢力の再起動」で語られる「メタレベルのリベラリズム」(60頁~)です。一部引用します。
 
「社会の中には多様な意見があり、ひとつの声に収斂されないということが政治の前提であって、そのうえで、それぞれが保守だったり革新だったり、社民党であれ、共産党であれ、民進党であれ、互いの存在と価値を認め、それぞれの立場をふまえて、どうしたら一緒に政治を構築できるかを議論する。それがメタレベルのリベラリズムです。
 いま安倍政権にノーを突きつけているのは、こうしたメタレベルのリベラリズムを前提とした人たちです。それは、安倍さんの政治が、メタレベルのリベラリズムを壊すような、反自由主義を体質としているからです。個人の自己決定権をとにかく否定したい。労働にせよ性の問題にせよ、もちろん教育もそうで
すね。」

 もう1箇所、「第3章 「安倍政権」の本質とは何か」の中で、「「連帯の名乗り」という抵抗運動」
(111頁~)から一部引用します。

「現在のように自己責任論が蔓延し、政治に対する期待がなくなり、野党が分断され、投票率が低ければ、何度やっても自民党が勝てます。国民全体を代表したり、より多くの人を代表することによって政権を
維持しようなんてことは最初から考えていないでしょう。
 それに対する「連帯の名乗り」は、自分のアイデンティティとは異なるアイデンティティをあえて名乗
ることによって連帯の意思を表明し、水平的な方向で社会を再生させようという動きです。
 自己責任によって分断され、アイデンティティのタコツボに入った状態を乗り越えて「保育園落ちたの私だ」と言うことによって、あなたの問題は私の問題でもあり社会の問題なのだとと言って、そこに「社
会」をつくるのです。一人と一人がつながるだけでは線にしかなりませんが、複数の人どうしがつながれば、面になり場ができる。」

 私は、『つながり、変える 私たちの立憲政治』を読んで多くのことを学びましたが、とりわけ感銘深
かったのは、上記引用箇所の「そこに「社会」をつくるのです。」という認識です。
 マーガレット・サッチャーが、雑誌のインタビューに答え、「社会などというものは存在しない」と言い放ったことは、新自由主義の本質を象徴する言葉として有名ですが、新自由主義による「改革」というまやかしに対抗するためには、意識して「社会」をつくり出す営みが必要であり、そこにこそ目指すべき
方向性があるという有力な示唆を得ることができました。
 そういう意味でいうと、私が先週入手した3冊は、岩波ブックレットのタイトルを借りれば、「民主主義の
再生」という大きな流れの中にそれぞれ位置を占めている著作なのだということに気がつきます。
 やはり、残りの2冊もちゃんと読まなければ。

 なお、「疑問を持ちながら聴講すること」が大事だと言いながら、疑問を解くための予習の成果を紹介するのは矛盾ではないか?と思われるかもしれませんが、「何を知りたいのか」と疑問を意識化した上で、可能な限り予習を行い、それでも分からぬ点や気付いていなかった点を知ろうとすることが、あるべき学びの姿勢というものだと思いますから、少しも矛盾していなはずです。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/「市民連合わかやま」関係)
2015年12月24日
「安保法制の廃止を求める和歌山の会(仮称)」が野党統一候補の擁立を目指して走り出しました
2016年4月17日
「市民連合わかやま」の新たなスタート~由良登信(ゆら・たかのぶ)さんとともに 
2016年6月12日
ゆら登信(たかのぶ)さん@和歌山が市民連合と関西市民連合から推薦を得ました
2016年11月23日
「市民連合わかやま」が再スタートを切りました~11/23「賛同団体・賛同者の集い」開催
2017年2月5日
「憲法と平和・原発・沖縄問題を考えるシンポジウム(基調講演:森ゆうこ参議院議員)」2017年2月5日@和歌山市を振り返る

(弁護士・金原徹雄のブログから/中野晃一氏関係)
2014年10月10日
日弁連が集団的自衛権行使に反対する集会とパレードを主催する意義 
2014年10月11日
安倍晋三首相の“正気とは思えない”歴史認識と積極的平和主義~第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)での基調講演から
2015年8月28日
動画紹介「100大学有志共同行動記者会見」&「日弁連・学者の会合同記者会見」(8/26)
2015年10月26日
動画紹介10/25シンポジウム「岐路に立つ日本の立憲主義・民主主義・平和主義―大学人の使命と責任を問い直す」(安全保障関連法に反対する学者の会)
2015年11月24日
『「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機』(日本再建イニシアティブ)の刊行について

2016年1月8日
中野晃一上智大学教授による「グローバルな寡頭支配vs.立憲デモクラシー」~1/8立憲デモクラシー講座 第4回)
2016年2月2日
中野晃一上智大学教授ふたたび~秋田で語った「憲法九条の力-立憲主義を守る 市民運動のこれから-」
2016年4月6日
中野晃一氏が獨協大学で語った「安倍政権の押しつける『自発的服従』」(1/29)
2016年8月2日
中野晃一上智大学教授(市民連合)による「参議院選の結果と今後」に耳を傾ける(7/29自治体議員立憲ネットワーク)
2017年2月11日
杉尾秀哉参議院議員と中野晃一氏が語る長野の闘いと野党共闘の今後(2017年2月7日@東京) 
2017年3月18日
中野晃一氏 講演会「市民の力で立憲民主主義を創る~他者性を踏まえた連帯の可能性~」(4/28和歌山県民文化会館)のご案内

中野晃一氏講演会(青法協)チラシ 

映画『校庭に東風(こち)吹いて』和歌山上映会(6/4)のご案内

 今晩(2017年4月23日)配信した「メルマガ金原No.2791」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
映画『校庭に東風(こち)吹いて』和歌山上映会(6/4)のご案内

 今日は、6月4日(日)に開催される和歌山での映画上映会をご案内します。
 作品は、沢口靖子さんが小学校教諭を演じる『校庭に東風(こち)吹いて』(金田敬監督/2016年)です。
 どんな映画なんだ?という疑問に答えるため、まずは予告編をどうぞ。
 
映画「校庭に東風吹いて」予告篇(1分45秒)


 ということで、私もまず予告編を見てみたのですが、次から次と多彩な登場人物が一言ずつしゃべってはあっという間に次のカットに移っていくので、予告編というのはそういうものだとはいえ、いくら何でもやり過ぎで、どんな映画なのかイメージが掴みにくいなあ(大塚まさじさんがいい味出しているのでは?という期待は抱きましたが)。
 そこで、もう少し映画の中身が伝わってくる動画はないものかと探したところ、撮影風景や主演女優へのインタビューなどを交えた、いわゆる「特報」を見つけました。
 
校庭に東風吹いて(予告編)/特報(6分01秒)


 6分間の「特報」の4分40秒ころに、画面に以下のようなキャプションがあらわれます。
 
声を出さず心を閉ざした少女
貧困から問題を起こす少年
彼らと向き合う教師たちの情熱で
〈涙〉は〈希望〉に変えられるのだろうか
 
 映画公式サイトに掲載された【物語】を引用します。
 
(引用開始)
三木知世は、転勤で小学3年のミチルのクラスを担当する。
ミチルは、家では少し話せるのに学校では話せない。
一人でトイレにいけない、一人で給食を食べられない、歌えない、絵を描かない…。
場面緘黙症」の疾患を持つミチルに、知世は、共感と愛情をもって接する。
同じクラスに、問題行動の多い安川純平がいる。
離婚した母親の理恵と純平は貧しい生活を送っている。
教室に飛び込んで来た青いインコを巡ってミチルと純平は幼い友情を芽生えさせる。
しかしある日インコが逃げ出してしまう…。
様々な問題に奔走する知世は、子どもたちの〈涙〉を〈希望〉に変えることができるのだろうか。
(引用終わり)
 
 映画鑑賞のための予備知識としてはこれ位で十分でしょう。
 ただ、「場面緘黙症」の少女が重要な役割を担って登場しますので、その点について事前に勉強しておきたいという方には、「かんもくネット」(場面緘黙の症状がある子どもや大人、経験者、家族、教師、専門家が協力しあい、活発な情報交換と正しい理解促進を目指す団体)の公式サイトを閲覧されることをお勧めします。
 
 さて、映画『校庭に東風(こち)吹いて』の和歌山上映会です。
 以下に、チラシと「参加のお願い」のPDFファイルから、必要な情報を抜き書きしてご紹介します。私も(頼まれてではありますが)呼びかけ人の1人になっており、是非観ようと思っています。皆さんもいかがですか?
 
映画『校庭に東風(こち)吹いて』

原作:柴垣文子(新日本出版社・刊)

監督:金田敬 脚本:長津晴子 企画・製作:桂荘三郎
出演:沢口靖子、岩崎未来、向鈴鳥、遠藤久美子、柊子
製作:ゴーゴービジュアル企画 2016年/112分/カラービスタビジョン作品
 
和歌山上映会
日時 2017年6月4日(日) 2回上映(午前・午後)
●午前の部 10:00~(開場9:30)
●午後の部 14:00~(開場13:30)
※午前・午後の上映会後に、柴垣文子さん(原作者)のお話があります。
場所 男女共生推進センター6F(あいあいセンター内)
     
和歌山市小人町29 TEL:073-432-4704
入場料 1000円(前売・当日共) ※中高生・障碍者の方 500円
主催 映画『校庭に東風吹いて』和歌山上映実行委員会
連絡先 同実行委員会 和歌山市九番丁5 TEL:073-431-7317(島宏幸)
 
私たちは映画『校庭に東風吹いて』を応援し上映会への参加を呼びかけます。
青貝正子、池田光子、井本千代、岩田清彦、岩野久美、上杉文代、植西一義、浦口裕成、大川克人、大平喜代、岡本房雄、小倉佳典、太田勝、小野原アイ子、加藤明、上井紀宏、神谷米子、河原径子、神崎務、貴志芳子、北村悦子、金原徹雄、鈴木栄作、西郷章、崎山善久、佐々木真理子、里﨑正、澤田淳、島知子、島宏幸、瀬戸全子、田中順也、田中秀樹、田村悠紀栄、津村知恵子、冨村佳子、中谷弘子、中谷吉冶、中畑博文、中浜倫太郎、中村行子、にしでいづみ、西本真美、花田惠子、引地延子、桶尻雅昭、日野のぞみ、藤田かすみ、平松ルミ子、馬場潔子、堀八重子、松永久視子、南本禮子、龍神志乃、龍神弘幸、藪野寛、山塚操、湯川とし子、由比勝 (呼びかけ人/敬称略
/4月13日現在)

「校庭に東風吹いて」チラシ表「校庭に東風吹いて」チラシ裏 

司法に安保法制の違憲を訴える意義(14)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告による意見陳述(様々な立場から)

 今晩(2017年4月22日)配信した「メルマガ金原No.2790」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(14)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告による意見陳述(様々な立場から)

東京地方裁判所(民事第一部) 
平成28年(行ウ)第169号 安保法制違憲・差止請求事件
原告 志田陽子、石川德信ほか50名
被告 国

 昨年4月26日、東京地方裁判所に提訴された2件の安保法制違憲訴訟のうち、差止請求訴訟について
、同年9月29日、12月21日に続く第3回口頭弁論が、去る2017年4月14日(金)午前10時
30分から、東京地裁103号法廷で開かれました。
 昨日、原告代理人2名による陳述(原告「準備書面(3)」~同「(6)」の概要をそれぞれ説明する
もの)をご紹介しましたが、今日は、3名の原告による意見陳述の内容をご紹介します。
 陳述されたのは、
  原かほるさん(両親ともに障がいを持つ女性)
  高橋俊敬さん(戦地での加害に苦しんだ父を持つ医療従事者)
  山口宏弥さん(元国際線機長)
という様々なバックグラウンドを持つみなさんでした。
 以下には、法廷で読み上げられた陳述書の全文を転載しますが、三輪祐児さん(UPLAN)が撮影された記者会見と報告集会の動画を併せて視聴することにより、法廷での陳述の様子がありありと目に浮かぶもの
と思います。

20170414 UPLAN 東京地裁103号法廷を満席に!安保法制違憲訴訟 第3回差し止め訴訟期日& 報告集会(2
時間05分)

冒頭~ 入廷前集会(東京地裁正門前)
16分~ 裁判終了後の記者会見
46分~ 報告集会(司会 黒岩哲彦弁護士)
 46分~ あいさつ 寺井一弘弁護士
 52分~ 高橋俊敬さん(戦地での加害に苦しんだ父を持つ医療従事者)
 58分~ 原かほるさん(両親ともに障がいを持つ女性)
 1時間05分~ 山口宏弥さん(元国際線機長)
 1時間12分~ 古川(こがわ)健三弁護士
 1時間20分~ 福田 護弁護士
 1時間42分~ 黒岩哲彦弁護士
 1時間45分~ 質疑応答・意見交換
  1時間48分~ 飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)
 2時間01分~ 閉会あいさつ 寺井一弘弁護士

 なお、昨日も書きましたが、報告集会の中で、司会の黒岩哲彦弁護士が「素晴らしい」と絶賛した岡山国賠訴訟(3月22日に行われた第2回口頭弁論)での17歳の女子高校生(原発事故により、横浜市から岡山市に避難)の意見陳述も是非お読みいただければと思います。
 

原告意見陳述 原 かほる   
 
 私の家族は、両親と私の 3 人ですが、3 人とも障害者手帳を持っています。父(67 歳)は脳性小児麻痺の後遺症による歩行障害で、母(73 歳)はポリオの後遺症による歩行障害です。二人とも、車椅子を使っており、また年金暮らしです。母は、洋裁の技能士として知事表彰を受ける等、体が不自由ながらも身に着けた技能を如何なく発揮し、地域社会において生活を確立してきました。けれども加齢とともに障害の程度が進み、今では手指の自由を失い、ハサミや針を扱うことができません。また父も、以前はタクシー会社で配車の仕事をしていましたが、長年の無理がたたって歩行の困難度も増し、痛みに耐えながら生活をしています。
 私は、痙性対麻痺という病気で子どもの時から歩行障害がありました。進行性の障害ではないものの、緩やかに、けれど確実に、自分の運動の範囲が狭められていくのを感じながら、今は、車椅子や杖を使って歩行しています。
 私は、大学を卒業後、大学院を経て、自立して働いてきましたが、現在は少しでも両親の力になりたいと地元に戻り、実家の近くで暮らしています。介護サービスを利用し、仕事との両立を工夫しながら、両親の生活を支える日々です。私は、県の職員として働いてきましたが、昨年の 4 月からは休職し、労働組合の専従役員として職場の問題解決に努めています。
 今回の安保法制で、私や両親が受けた衝撃は大変大きなものでした。両親は、戦中・戦後の混乱の中、障害者として困難な人生を歩んできました。その中で、特に母は、障害を持つ私が仕事を得て、社会的に自立できるようにと支援してくれました。母の時代、障害者は公立高校に入ることが許されておらず、必要な教育を受けることができなかったそうです。そこで、私にはできるだけの教育を受けさせ、自分の仕事で食べていけるようにと配慮してくれたのでした。そのおかげで、私は現在、県の職員として地域住民のために働いています。けれども、私のこの生活も安保法制の現実化の下で、維持できないのではないかという強い不安と言い知れぬ恐怖を感じています。それは戦争中にこの国で、障害者がどう扱われてきたかという歴史から思うのです。戦時中の学童疎開では、障害児は対象外であったといいます。障害者は生きるに値しない存在と国家に見なされていたわけです。ナチスによる障害者虐殺の事実もあります。
 安保法制は人を殺すことを認める法律で、軍事への莫大な支出を重ねる一方、医療・福祉への予算は削られていきます。それにより、障害者は「お荷物」で、役に立たない、疎ましい存在だという空気が、社会に蔓延していくことが恐ろしいのです。
 戦後、世界では、障害者が健常者と同じように暮らせる社会を目指して動いてきました。21世紀になり、障害者権利条約が国連総会で採択された後は、日本も国内法の整備を進め、やっと批准に漕ぎつけました。現実には障害者として日々の生活に困難を抱える者にとって、障害者を健常者と同じ価値を持つ存在として認め、同じように暮らせるための施策が進められ、その差別解消を目指す動きは、私にとって、社会が少しずつ明るく変わっていくような動きでした。希望そのものでした。ところが、安保法制によって、この社会を取り巻く空気が私たち障害者にとっては一変したのです。昨日今日、社会は変わっていないように見えても、すでに舵は切られたのです。抗いきれない大きな力によって、暗闇に向かってゆっくり引きずり込まれるような、そんな恐怖と不安に押しつぶされそうになっています。
                                        以上
 

原告意見陳述 高橋 俊敬(柳原診療所事務長)

1.亡父の戦争体験
 私の亡父、高橋國雄は、大正 9 年(1920 年)宮城県の田舎町に生まれ、尋常高等小学校卒業後上京し、旋盤工をしながら日大工学部の夜間部に通いましたが、戦局の悪化に伴って昭和18年に繰り上げ卒業となり関東軍重砲部隊に配属されました。
 父が配置されたのはソ連国境、東寧という巨大な要塞でした。1945年8月9日未明、突然雷鳴のような砲撃が始まり、東寧要塞にも砲弾が集中されましたが、分厚いペトンで造られた要塞は持ち堪え、直ちに反撃の砲撃戦となりました。口径20cmを超える重砲も何発も立て続けに撃ち続けると砲身が真っ赤に焼け付き、初年兵が外に出て砲身にバケツの水を浴びせて冷やす作業をするのですが、周囲をソ連軍に包囲された中、機関銃弾が浴びせられ何人も死んでいきました。父は、入隊したばかりの10代の若者たちが次々に戦死する有様を見て「戦争の怖さ」を初めて知ったそうです。
 やがて、要塞の外周から次々に突破され、中隊長から砲台を自壊して脱出するよう命令され、重砲中隊の残存者たちは森林の中に逃げ込みました。
 玉音放送から5日後の8月20日。日本軍の格好をした3人の兵隊を発見し、詰問したところ動員された朝鮮兵と分かり、中隊長は「敵前逃亡」と決めつけて3人の斬首を命じたのです。
 命じられたのは父と軍曹の二人。父も一人の朝鮮人青年の首を切り落としました。父はその瞬間の、軍刀の刃先が頸椎に食い込んだ瞬間の感覚が忘れられず、死ぬまで「恐ろしいことをしてしまった」と悔やんでいました。夜中に突然うなされることも死ぬまで続きました。

2.史学科を選択し、 地域医療に

 父や東京大空襲で被災した伯父たちの悲惨な戦争体験を小さな頃から聞いて育った私は、「何故、戦争が起きるのか?」、それを理解しようと大学の文学部西洋史専攻に入学し、戦争史を中心に学びました。そして、戦争は自然現象ではなく、戦争しようとする勢力がいてはじめて勃発するというごく当たり前な結論に至りました。
 現在私は、北千住にある小さな診療所の事務長として、命を守る仕事に尽くしています。

3.集団的自衛権・安保法制は憲法違反であり、私には耐えられない!
 2014年7月1日、政府は「集団的自衛権」を閣議決定しました。2015年9月19日に安保法制(戦争法)が強行採決されるに及んで、私の怒りと不安は最大限に募り、怒髪天を突くような思いでした。私の一人息子や同年代の若者たちが、戦地に駆り出され銃火にさらされる時代が始まってしまいました。今、歯止めをかけなければ、私の父が経験したような、いや、それよりもっと悲惨な日々が必ずやってきます。
 憲法前文と九条が明確に禁じている戦争を絶対に認めるわけにはいきません。
 前の大戦で、2000万を超えるアジアの人々が犠牲となり、日本兵も海外で240万人が犠牲となっています。厚労省の公表資料によっても、117万人の戦死者の遺骨が今も遺族に還されておりません。
 私は、2013年2月に厚労省の公募ボランティアとして約2週間、「玉砕」の島=硫黄島に行き、地下壕を掘り御遺骨を回収して来ました。硫黄島では有毒ガスが流出しているので、陸上自衛隊の不発弾処理班と化学防護班の隊員たちが随伴してくれました。2週間の間、お互いの出身地や父母兄弟のこと、なぜ自衛隊に入隊したのか?などを聞く中で彼らへの尊敬と愛情が沸いて来ました。
 2016年11月20日、陸自部隊が「駆けつけ警護」「共同宿営地防御」の任務を付与されて南スーダンに派遣されてしまいました。私は硫黄島で一緒だった彼らも派遣されるのかと思うと身が削られるような深い悲しみに陥りました。安保法制がある限り、自衛隊の危険な地域への派遣は行われるでしょう。
 また、「武力攻撃事態法」では、「存立危機事態」を総理大臣が宣言すれば、私たち医療従事者も動員され、私や私の同僚も戦争に協力させられます。
 72年前の戦争の後始末さえできない国が、「集団的自衛権」の名の下にふたたび戦争ができるようになることなど断じて許せません!
 シベリアから奇跡的に生還した父もお墓の中から「戦争だけはしちゃいかん!」と叫んでいると思いま
す。「玉砕」した硫黄島の将兵も約半分の1万1千人が未だに未帰還です。彼らも土砂で埋まった地下壕の奥から「戦争しちゃいかん!」と叫んでいる声が私には聞こえます。
 平和に生きる権利を守るため、私は政府の違法性を訴え、安保法制の即時廃止を訴えるものです。
                                        以上
 

原告意見陳述 山口 宏弥

 私は1972年にパイロットとして日本航空に入社、1991年からの19年間は、機長として主にヨーロッパを中心に乗務してきました。
 飛行機の運航は,気候や地震・火山などに影響されますが,特に国際線は,世界各地の政情や治安の状況に大きく影響されています。
 民間航空は平和であってこそ存在できる産業です。そのために航空労働者は民間航空が戦争に巻き込まれることに,一貫して反対してきました。しかし、1999年5月の周辺事態法を契機に,自衛隊の民間機利用が目立つなど取り巻く環境が悪化してきました。
 国際民間航空条約は,民間機を使った軍需輸送を禁じています。条約は例外的に2国間の軍需輸送を認めていますが、日本の航空法に日本国籍機の軍需品輸送の規定がありません。それは憲法9条があり、軍需品の輸送を想定していないからです。
 ところが,政府は周辺事態法以後「安全基準を満たせば危険品輸送として可能」「民間機による武器・弾薬の輸送も排除されない」とそれまでの航空法の解釈を変えました。
 2000 年8月には、アメリカ国防総省から当時の防衛施設庁を通して国内航空各社に対して米軍の輸送資格を取得するよう申し入れがありました。これには労働組合の強い反対もあり航空会社は、受け入れていませんが、要請は現在でも続いています。
 2003年のイラク戦争では「戦争反対」の声が高まり、自衛隊派遣では日本の民間機を使用しませんでした。しかし2006年のイラクからの撤退。2009年のジプチへのPKO「派遣」では、日本航空は民生支援を理由に自衛隊輸送を受け入れました。
 昨年11月30日、日航機がチャーターされ南スーダンへ119名の自衛隊員が輸送されました。これは「集団的自衛権行使」を容認する安保法制の成立後の閣議決定で、「駆け付け警護」などの任務が付与され、武力行使も前提とした自衛隊員の輸送でした。
 今日まで、日本の民間機は「報復テロ」の標的にはされませんでした。しかし安保法制の成立で、他国の戦争の助太刀をする自衛隊員の輸送は、これまでの輸送とは根本的に異なります。輸送そのものが相手国から敵視され攻撃されるだけでなく、報復テロの対象が日本国民・国内へと広がるからです。
 かつて世界一の航空会社であったパンアメリカン航空は、80年代にパレスチナリビアなどのテロ集団から相次いで攻撃され、多くの犠牲者を出した結果、信頼を失い、旅客が離れ、倒産に追い込まれました。パンナムがテロの標的とされた理由は軍需輸送を行っていただけではありません。「戦争する国・アメリカ」の象徴であったからです。
 今年 1 月、アメリカでトランプ政権が誕生しました。安倍首相は世界に先駆けてトランプ大統領と会談。「日米の価値観が100%一致した」として日米同盟の更なる深化を評価しています。これまで以上に日本に軍事協力を求めて来ることは明らかです。安保法制は、日本政府がアメリカの求める際限のない軍事的な協力を断る理由としていた憲法9条の歯止めを取り払ったものです。

 安倍政権は、安保法制の制定で日本を「戦争のできる国」に変貌させました。これによって、日本の民間機が、テロ集団の標的にされる可能性は極度に高まりました。飛行機の旅客や乗務する仲間、後輩が犠牲となることが現実味を帯びてきています。私は、憲法を蹂躙し、国民の命を軽んじる政権に対して、いいたたまらない気持でいると同時に、止めることのできない口惜しさと憤りを感じています。

 貴裁判所には、大統領令を違憲と判断したアメリカ連邦裁判所のように、法の番人として、三権分立の範を示す判断を下されますよう切望いたします。
                                        以上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)
※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述

2016年12月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述
2017年1月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(7)~寺井一弘弁護士(長崎国賠訴訟)と吉岡康祐弁護士(岡山国賠訴訟)の第1回口頭弁論における意見陳述
2017年1月7日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年1月8日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(9)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告(田中煕巳さんと小倉志郎さん)による意見陳述

2017年2月14日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(10)~東京「女の会」訴訟(第1回口頭弁論)における原告・原告代理人による意見陳述

2017年3月15日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(11)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述 
2017年3月16日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(12)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告(田島諦氏ほか)による意見陳述
2017年4月21日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(13)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述

司法に安保法制の違憲を訴える意義(13)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述

 今晩(2017年4月21日)配信した「メルマガ金原No.2789」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(13)~東京・差止請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述

東京地方裁判所(民事第一部) 
平成28年(行ウ)第169号 安保法制違憲・差止請求事件
原告 志田陽子、石川德信ほか50名
被告 国

 昨年4月26日、東京地方裁判所に提訴された2件の安保法制違憲訴訟のうち、差止請求訴訟について、同年9月29日、12月21日に続く第3回口頭弁論が、去る2017年4月14日(金)午前10時
30分から、東京地裁103号法廷で開かれました。
 原告代理人2名による陳述(原告「準備書面(3)」~同「(6)」の概要をそれぞれ説明するもの)
の他に、3名の原告による意見陳述が行われました。
 今日は、そのうち、原告代理人2名による陳述をご紹介します。
 福田護弁護士が「厚木基地判決と差止めの訴えの正当性」(原告「準備書面(3)」)について、古川(こがわ)健三弁護士が、「立法不法行為と新安保法制法制定過程の違法性」(原告「準備書面(4)」)、「憲法改正・決定権とその侵害による被害」(原告「準備書面(5)」)及び「被害論・その1」(原告「準備書面(6)」)について論じています。

 いつものように、三輪祐児さん(UPLAN)撮影による記者会見と報告集会の動画がアップされています。

20170414 UPLAN 東京地裁103号法廷を満席に!安保法制違憲訴訟 第3回差し止め訴訟期日& 報告集会(2
時間05分)

冒頭~ 入廷前集会(東京地裁正門前)
16分~ 裁判終了後の記者会見
46分~ 報告集会(司会 黒岩哲彦弁護士)
 46分~ あいさつ 寺井一弘弁護士
 52分~ 高橋俊敬さん(戦地での加害に苦しんだ父を持つ医療従事者)
 58分~ 原かほるさん(両親ともに障がいを持つ女性)
 1時間05分~ 山口宏弥さん(元国際線機長)
 1時間12分~ 古川(こがわ)健三弁護士
 1時間20分~ 福田 護弁護士
 1時間42分~ 黒岩哲彦弁護士
 1時間45分~ 質疑応答・意見交換
  1時間48分~ 飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)
 2時間01分~ 閉会あいさつ 寺井一弘弁護士

 記者会見の中で、司会の黒岩哲彦弁護士が「素晴らしい」と絶賛した岡山国賠訴訟(3月22日に行われた第2回口頭弁論)での17歳の女子高校生の意見陳述は、実は私も一読して「是非多くの方に読んでいただきたい」と思っていました。「安保法制違憲訴訟おかやま」のホームページに陳述書全文が掲載されていますので、是非お読みください。
 
 以下に、上記陳述内容を報じた地元紙・山陽新聞の記事を引用しておきます。

山陽新聞デジタル(2017年03月22日 22時03分 更新)
岡山地裁で安保法違憲訴訟弁論 原告高校生、子どもの将来に不安

(抜粋引用開始)
 集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法は憲法違反だとして、同法に反対する岡山県民ら560人が、1人当たり10万円の損害賠償を国に求めた訴訟の第2回口頭弁論が22日、岡山地裁であり、原告の高校2年女子生徒(17)=岡山市=は「将来結婚する相手や愛する子どもが戦地に行くかもしれな
い不安がある」と意見陳述した。
 生徒は原告最年少。「戦争被害者だけでなく、加害者にもなるという大きな恐怖がある」と心境を吐露し「戦争経験者が少なくなる中、過去を忘れず未来を思って平和を維持することこそ、私たち若い世代の
使命。安保法を認めるわけにはいかない」と訴えた。(略)
(引用終わり)
 
 なお、上の記事には書かれていませんが、彼女は、福島第一原発事故からの避難者でもあります。陳述書冒頭の一節を引用します。

(抜粋引用開始)
 私は平成11年に神奈川県横浜市で生まれました。6年前の東日本大震災が原因の福島原発事故により,幼少期から身体が弱かった私を案じた家族と相談して中学校2年生の時に岡山市自主避難し,今は岡山市で生活をしています。私の父はまだ仕事の関係で横浜に住んでおり,福島原発の事故は私の家族の生
活を一変させる出来事でした。
(引用終わり)

 彼女の陳述書を読みながら、私は、西日本の中で、岡山県がとりわけ多くの東日本大震災東京電力福島第一原発事故)からの避難者を受け入れている県であることを思い出していました。

 ところで、以下に陳述全文を掲載する東京差止請求訴訟における原告代理人による弁論では、特に訴訟の枠組みを決定付ける「処分性」についての国の「二枚舌」を指摘した福田護弁護士の陳述(と原告「準備書面(3)」)が要注目であり、報告集会でも強調されていたように、是非大いに広めましょう。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 福 田  護 
―準備書面(3)について(厚木基地判決と差止めの訴えの正当性)―


※参照 
原告「準備書面(3)」(厚木基地判決と差止めの訴えの正当性)
目次
第1 厚木基地航空機運航差止行政訴訟最高裁判決と本件
1 はじめに
2 厚木1次最判及び差止行政訴訟事件各判決の判断内容
3 厚木基地関連判例における処分の内容と差止めの訴えの構成
4 厚木行訴最判の「重大な損害を生ずるおそれ」の判断について
5 厚木行訴最判の判断内容と本件
第2 行政処分性を認める被告の主張(横浜地裁答弁書)について
1 横浜地裁の安保法制違憲訴訟における民事上の差止請求
2 横浜地裁事件における被告国の答弁
3 同事件の被告国の答弁と本件との矛盾

1 厚木基地行政訴訟最高裁判決と本件の処分性

 本件の最大の争点は、現在のところ、差止め対象行為の処分性にあります。
 原告らは、本件において、集団的自衛権の行使等の事実行為が、国民の平和的生存権等の権利を侵害し、その受忍を強いるものとして、国民に対する公権力の行使、すなわち処分であることを主張して、その差止め等を請求しています。しかし被告は、その請求の内容の審理に入ることなく却下すべきことを求め、基本的な理由として、集団的自衛権の行使等が行政事件訴訟法3条2項の「処分」に当たらないから、本件審理の対象にならないと主張しているものです。
 ところで最高裁は、昨年12月8日、厚木基地における自衛隊機の運航の差止めを行政訴訟で求めた事件において、東京高裁が夜間の一部差止めを認めたのに対し、防衛大臣自衛隊機の運航は裁量権の範囲内だとして差止めの結論は否定しましたが、自衛隊機の運航を行政事件訴訟法上の「処分」として、同法3条7項の差止めの訴えを起こすことができること自体は明確にしました。
 その法的構成は、防衛大臣の権限に基づく自衛隊機の運航という事実行為が基地周辺住民に対する関係で、騒音等の被害の受忍を義務づける公権力の行使に当たるとするもので、それは、本件で原告らが主張する法的構成とパラレルな関係にあります。したがって、本件のような「処分」の捉え方と、これに対する差止めの訴えという訴訟類型を採ることが、最高裁判例として肯定されたということになります。
 被告は、厚木基地訴訟の場合は、「自衛隊機の運航に必然的に伴う騒音等が、周辺住民の法的地位に直接的に影響を及ぼす事案」であるのに対し、本件の集団的自衛権の行使等は「原告らの権利義務に何ら直接的な影響を及ぼさない」から、事案を異にすると主張しています。
 しかし、厚木基地判決において公権力性を示すものとされる「受忍義務」というのも、周辺住民に何らの作為・不作為を求めるものでもないし、最高裁調査官の判例解説でも、住民は「運航に伴う不利益な結果を受忍すべき一般的な拘束を受けている」と解説されているところであり、それは、航空機騒音を曝露されている周辺住民の「法的地位」に何ら影響を及ぼすものではありません。それは、事実行為としての公権力の行使によって不利益な結果を受ける事実状態に置かれるということにほかならず、「法的な権利義務関係に直接的な影響を及ぼさない」という点では、本件と厚木基地航空機騒音のケースとで違いはないのです。
 
2 横浜地裁での被告答弁書は処分性を自認していること
 安保法制違憲訴訟は、横浜地方裁判所にも提起され、ここでは原告らは民事訴訟を提起し、集団的自衛権の行使等の差止めを、平和的生存権・人格権等による妨害排除請求権という私法上の権利に基づいて求めています。
 これに対し同じ被告国は、集団的自衛権の行使等は、「私法上の行為ではなく行政権の行使そのものであるから、本件各差止請求は、必然的に、内閣総理大臣防衛大臣又はその委任を受けた者の行政上の権限の行使の取消変更又はその発動を求める請求を包含するものである」から、民事訴訟による請求は不適法だと主張して却下を求め、その根拠として、運輸大臣防衛庁長官の権限の行使を「公権力の行使」だとした大阪国際空港最高裁判決と厚木基地第1次訴訟最高裁判決を援用しています。したがって被告は、集団的自衛権の行使等について、横浜地裁では公権力の行使(処分)だと主張し、本件東京地裁では公権力の行使(処分)ではないと主張していることになります。
 これは、まさに自己矛盾・自家撞着であり、ご都合主義以外の何ものでもありません。そしてそれは、本件請求について被告が却下を求める拠り所を、みずから否定するものにほかなりません。
 よって被告は、双方の主張の関係について明らかにするとともに、速やかに処分性否定の答弁を撤回し、本件本案について正面から議論することを、強く求めるものです。
                                        以上
 
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 古川(こがわ)健三
―準備書面(4)ないし(6)について (原告らの権利侵害と事前救済の必要性)―
 
 

※参照 
原告「準備書面(4)」(立法不法行為と新安保法制法制定過程の違法性)
目次(抄)
第1 新安保法制法の制定行為の違法性
1 昭和60年判決及び平成17年判決による判断枠組み
2 人権規範以外の憲法規範に違反する立法の制定行為の違法性
3 改めて昭和60年判決の判断枠組みの意味
4 憲法適合性の判断順序について
第2 憲法9条に関する憲法解釈の変遷の歴史的・具体的事実
1 クーデターともいえる憲法違反の閣議決定と新安保法制法の国会成立
2 憲法9条の解釈の変遷の歴史的・具体的事実
3 クーデターと評される憲法破壊行為
第3 明白に違憲違法な憲法破壊の国会審議
1 国会審議の異常性、違法性
2 新聞記事
3 憲法審査会における憲法学者の指摘
4 6月4日以降の国会審議と世論
5 不十分な国会審議
6 強行採決に至る経緯
7 その後
8 結語
第4 新安保法制法による重大な権利侵害
1 はじめに
2 平和的生存権・人格権に対する侵害の明白性
3 国会審議と新聞記事
目次(抄)
第1 はじめに
第2 総論
第3 憲法改正・決定権の法的性質
1 主権者である国民(人民)が国政のあり方を決定する最終的権限を有している
2 国民の有する憲法制定権から派生する憲法改正についての最終決定権である
3 国家のあり方を決める国民の政治への参加権(参政権)という性質も有する
4 憲法改正・決定権の権利内容
5 憲法改正・決定権の具体的権利性
第4 国民に憲法改正・決定権が認められる法的根拠
1 憲法前文の規定(前文第1段)の存在
2 憲法改正の手続規定(96条)の存在
3 公務員の憲法尊重養護義務規定(99条)の存在
第5 憲法改正が許されるための要件
1 明文改正における正当性要件
2 非明文改正(憲法解釈の変更)について
第6 内閣(政府)及び国会の憲法破壊行為による原告らを含む国民の憲法改正・決定権の侵害
1 硬性憲法下における憲法改正手続の有する意味
2 憲法9条の従来の政府解釈が有する規範的意味内容
3 憲法改正手続の潜脱による憲法破壊行為
4 被告の「憲法の条文を改正するものではない」との反論は許されない
第7 憲法改正・決定権の侵害による原告ら国民各人の被害内容
1 憲法改正・決定権の侵害とこれによる被害
2 原告らの被害の具体的内容
3 憲法改正・決定権及びその侵害の具体性・個別性
第8 原告が差止めを求める対象としている各処分がされれば憲法改正・決定権がさらなる重大な損害を
被るおそれがあること
第9 結論
 
原告「準備書面(6)」(被害論・その1)
目次
第1 はじめに
第2 総説
1.新安保法制が原告らにもたらしたもの(総説)
(1) 憲法の平和主義・平和的生存権の意義と、原告らの人格形成に果たしている憲法の役割
(2) 新安保法制による憲法 9 条の実質的破壊
2.新安保法制が原告らにもたらしたもの(類型別概説)
(1) その 1:戦争に巻き込まれ、加担させられる蓋然性の高まり
(2) その 2:テロの標的とされる蓋然性の高まり
(3) その 3:新安保法制の制定施行により、思想・良心の自由、学問の自由など精神的自由権を踏みにじられた原告たち
第3 原告らが受けている損害・利益侵害は司法的に救済されなければならない
1.原告らの権利・利益の要保護性と侵害行為の違法性
2.差止めの必要性
第4 個別的検討
 
 新安保法制法の制定は、「立法行為」のかたちによる、憲法破壊行為であった。立法の内容が憲法の一義的な文言に反しているにもかかわらず、あえて立法行為が行われた場合に、立法行為が国家賠償法上違法と評価される場合があることは、昭和60年11月21日の最高裁判決が認めるところである。さらに平成17年9月14日の最高裁大法廷判決(在外邦人選挙権制限違憲訴訟上告審判決)は、「立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合」には国会議員の立法行為又は立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法との評価を受ける旨判示した。
 立法行為の違法性の判断は、立法内容の違憲性とは区別される。そうだとしても、本件において、歴代の政府見解として示され規範として定着していた憲法9条の解釈、すなわち集団的自衛権の行使を認めず、非戦闘地域以外での後方支援活動は認められないとしてきたこれまでの政府見解を覆し、大多数の憲法学者、元内閣法制局長官や元最高裁判所判事による違憲との指摘を無視して、強行採決の結果として新安保法制法が成立したとされ、これにより、後に述べるように戦争被害者をはじめとする原告らの平和的生存権、人格権、そして憲法改正・決定権を侵害しており、立法行為の違法性が認められるべき例外的な事案である。
 新安保法制法の制定は、確立された憲法規範を憲法改正手続を経ずに変更したもので、憲法改正手続の潜脱である。このことは、2017年2月8日の衆院予算委員会で、防衛大臣が、南スーダンの情勢について事実行為としての殺傷行為などはあったが法的意味での戦闘行為ではない、憲法9条上問題になるので「武力衝突」という言葉を用いている、と強弁したことがよく示している。これは、新安保法制法にもとづく新任務を付与しての南スーダンへの自衛隊派遣は、憲法9条に違反するものであることを政府自ら自白したものである。
 憲法改正・決定権が国民に存することは、国民主権及び民主主義原理の根幹であり、かつそれは抽象的なものではなく、個別の国民の、憲法改正手続に参加し、意思を表明する具体的な権利である。これを侵して憲法を蹂躙し破壊することは、国民の主権を奪うことであり、立憲主義に対する重大な挑戦行為であって、決して許されてはならない。
 ましてや、今後集団的自衛権の行使としての自衛隊出動などが行われることになるとすれば、憲法に違反する状態が固定化し、現状への回復は極めて困難であるから、事前の差し止めを行う必要性は極めて高い。
 以上、準備書面4、5ではそれぞれ違法性論と憲法改正・決定権の侵害について述べたほか、準備書面6では、原告らのうち15名の具体的な陳述をもとにしてその被害の内容を述べている。戦争体験者の空襲体験、原爆による被爆体験は、いずれも想像を絶するものがある。新安保法制法の成立は、彼らのうちにトラウマを呼び起こし、新たな精神的苦痛をもたらしている。海外の紛争地を取材するジャーナリストは、深刻な身体・生命の危機を感じるに至っている。
 特別永住資格を持って日本に在留する在日コリアン2世の原告は、新安保法制下で、もしも、朝鮮半島で有事ということになれば、自分は「敵国人」とみなされるのではないか、太平洋戦争当時、在米日本人が強制収容されたのと同じ事態が起きるのではないか、と危惧している。
 原発技術者、運輸労働者などもテロの危険を感じ、また新安保法制法の下、戦争に協力させられることになる。
 新安保法制法が強行採決され施行されてから 1年。今、国会では共謀罪の審議が始まっている。宗教家、社会科学者たちに対する、治安維持法による思想弾圧・宗教弾圧はもはや過去のものではなく、近い将来に再び繰り返されると予想せざるを得ない。立法府と行政府が著しく劣化し、その腐敗が著しい今日、この流れを司法が押しとどめなければならない。この法廷には、日本の未来がかかっていると言っても過言ではない。
 裁判所には、ぜひ、原告一人一人の陳述書に込められた心からの訴えを真剣に受け止めて慎重にご審理いただきたい。
                                        以上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)
※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述

2016年12月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述
2017年1月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(7)~寺井一弘弁護士(長崎国賠訴訟)と吉岡康祐弁護士(岡山国賠訴訟)の第1回口頭弁論における意見陳述
2017年1月7日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(8)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告訴訟代理人による陳述
2017年1月8日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(9)~東京・差止請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告(田中煕巳さんと小倉志郎さん)による意見陳述

2017年2月14日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(10)~東京「女の会」訴訟(第1回口頭弁論)における原告・原告代理人による意見陳述

2017年3月15日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(11)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告代理人による陳述 
2017年3月16日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(12)~東京・国家賠償請求訴訟(第3回口頭弁論)における原告(田島諦氏ほか)による意見陳述

放送予告・トランプ米国大統領をめぐる2本のドキュメンタリー(4/22NHKスペシャル&5/7NNNドキュメント)

 今晩(2017年4月20日)配信した「メルマガ金原No.2788」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送予告・トランプ米国大統領をめぐる2本のドキュメンタリー(4/22NHKスペシャル&5/7NNNドキュメント)

 「なるべきでない者をその国の最高指導者にしてしまった国民はどうすれば良いのでしょうか?」とい
う問いに対しては、それなりの答えがあるはずです(実現可能性の大小は別として)。
 けれども、「自国と密接な関係を有する大国の指導者に、なるべきでない者が選ばれてしまった時、ど
うすれば良いのでしょうか?」という問いに対しては、なす術なく佇むだけでしょうか。

 「なるべきでない者」を足かけ6年(!)も内閣総理大臣の地位にとどまらせ続けている国の国民に、「宗主国」の大統領の善し悪しを云々(「でんでん」とは読まない)する資格があるのか疑問ではありま
すが、それにしてもトランプ米国大統領は不安です。

 おそらくそのような問題意識にも導かれてだと思いますが、NHKスペシャルとNNNドキュメントが
、以下のような番組を放送すると予告されています。
 私は、半ば「怖い物見たさ」もあって視聴することになるだろうと思います。
 皆さんはどうされますか?

NHK総合テレビ
2017年4月22日(土)午後9時00分~9時49分
NHKスペシャル『シリーズ 激震“トランプ時代”第1集  トランプ 混迷のアメリカ』

(番組案内から引用開始)
“トランプ時代”の世界の行方を展望する新シリーズ。第1集は、アメリカ。突然のシリア攻撃。そして
西太平洋への空母の派遣。そこに至るまでに、ホワイトハウスで何が起きていたのか。アメリカ第一主義、雇用を守るという政策の一方で、白人労働者が直面している意外な現実とは。そしてトランプ大統領の政策に脅える移民家族の抑圧された日々とは。トランプ政権は、アメリカを、世界をどう変えるのか。混迷の100日から探る。
(引用終わり)
 
日本テレビ系列
2017年5月7日(日)24時55分~(8日・0時55分~)
NNNドキュメント『トランプに揺れる"指先"のウソと希望(仮)』

(番組案内から引用開始)
トランプ米大統領が就任して100日...
世界が"予測不可能な男"に揺れる一方で"メディア"も問われた。いまや手元の携帯で情報を読む時代、そ
こには「都合のいいウソ」もあふれている。"黒幕"バノン戦略官に注目、さらに「フェイクニュース」を
つくる人物を独自取材。
簡単に拡散する「都合のいいウソ」とは?
奮闘するメディアや翻弄される人たちを通して、数年後には日本に訪れるかもしれない「SNS政治」の
危うさに迫る。【制作:日本テレビ
再放送
5月14日(日)11:00~ BS日テレ
5月14日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24
(引用終わり)

「自由なラジオ LIGHT UP!」最新アーカイブを聴く(053~055)~命を見つめ続けてきた人たち

 今晩(2017年4月19日)配信した「メルマガ金原No.2787」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「自由なラジオ LIGHT UP!」最新アーカイブを聴く(053~055)~命を見つめ続けてきた人たち

 「ラジオフォーラム」の事実上の後継番組として、昨年の4月にスタートした「自由なラジオ LIGHT UP!」ですが、無事1年が経過して2年目に突入しました。
 今日は、2年目の4月に放送された3番組(053~055)をご紹介します。
 これまでも非常に多彩なゲストが招かれてきた「自由なラジオ LIGHT UP!」ですが、2年目の最初の3本は、「命を見つめ続けてきた人たち」の声に満ちているように思われました。
 是非じっくりと耳を傾けていただければと思います。
 

「2017年3月末、国による除染作業のための財政支援が終了、これに伴い各地方自治体でも除染作業は大幅に縮小することになることでしょう。「空間線量を毎時0.23マイクロシーベルト以下に下げれば、年間の外部被ばく線量を1ミリシーベルト以下に抑えることができる」という基準により進められて来た除染だが、発災当時から子どもたちを被ばくから守るために積極的に活動してきた福島在住のお二人のママたちは、国は被災地の現実を何もわかっていないと憤ります。復興という名のもと、事態の収束に向けて「計画通り」被災地を見捨てていく国のやり方は、あまりにも残酷だと訴えます。
 なぜならば、自分たちの手で自分たちの住む町の線量を測定しつづけるママたちは、モニタリングポストや四つ角と真ん中しか測定しない計測の数値には表れない、「現実」を知っています。広範囲に汚染された土の上で子どもたちが座り、遊ぶ。高線量を知っていながらそれを見過ごすわけにはいきません。原発事故前はなかった学校給食の地元食材採用に踏み切る地域もあり、それは子どもたちを実験台にしながらの復興アピールキャンペーンに外ならないと訴えます。これ以上の子どもたちの追加被ばくをどう防いだらよいのか?リスナーの皆さんとともに考えたいと思います。
 また今回の「Light Up!ジャーナル」は、おしどりが2月に訪れた脱原発先進国ドイツでの取材レポートをお届けします。ここでも衝撃の事実が!こちらもお楽しみに。
はっぴーあいらんど☆ネットワーク演劇プロジェクト
■Light-Upジャーナル:「おしどりの脱原発先進国ドイツレポート」

「政治圧力によって従軍慰安婦問題を取り扱ったNHKの番組が急遽放送前夜から当日にかけて凄まじく改変されたとされる「NHK番組改変問題」(2001年)をご記憶の方も多いことでしょう。その番組「ETV2001・戦争をどう裁くか」の統括プロデューサーだったのが、永田浩三さんです。迷彩服を着た右翼が渋谷のNHK局舎に乱入し、名指しで「殺す」と言われた永田さん。それでもメディアが国家に迎合しながら腐敗する様に、今でも警鐘を鳴らし続けておられます。それは、永田さんのお母様が広島原爆投下の爆心地から800メートルの場所で被爆したことから、戦争を憎み、争いのない平和な世の中を願う永田さんの心の底からの叫びでもあるようです。
 今回この番組では、永田浩三さんのご著書「ベン・シャーンを追いかけて」と「広島を伝える詩画人・四國五郎と原爆の表現者たち」という2冊の著書をひもときながら、誰もが望む戦火のない世の中とは真逆を行くような危なげな今の日本を見つめていきます。日本でも著名なベン・シャーンは、「核は人類に幸せをもたらさない」とはっきりと主張し、身の危険を顧みず当時の米国家と対立してきた画家です。永田さんは、ベン・シャーンが残したものが現代にどのような影響を与えているのかを調べる旅に出掛け、それを「ベン・シャーンを追いかけて」にまとめられました。その中で、永田さんはご自身の生い立ちとベン・シャーンの奇妙なつながりを発見されます・・・・。
 またこの番組の収録日にたまたま東京にいらっしゃった四国五郎さんのご子息、四國光さんが、スタジオに遊びに来てくださいました(自由なラジオ第28回にもゲスト出演されています。
)。永田浩三さんの本を読んだ四國光さんが永田さんに連絡をとり交流が始まったというお二人。それをきっかけに「広島を伝える詩画人・四國五郎と原爆の表現者たち」が生まれたといいます。今回の放送では改めて、平和のための静かな炎を絶やさなかった反戦画家・四國五郎さんの生涯を、四國光さんとともに辿りました。
 語り継ぐことの大切さ、言葉で表現し言葉で残すことの大切さが、体温のような温かさで伝わる永田浩三さん、四國光さんのお話です。広島、福島の当事者たちが、苦しい現実の中で残した言葉を、私たちはどう残し、未来へ運んで行けるのか?ずっしりと重い宿題を背負ったように感じた今回の対談となりました。
著書紹介
ベン・シャーンを追いかけて』
 
ベン・シャーンを追いかけて
永田 浩三
大月書店
2014-10-30

『広島を伝える詩画人・四國五郎と原爆の表現者たち』

 また今回は音楽の時間にも、スタジオにお客様をお迎えしました。東京芸大民族音楽を研究するキルギス共和国ご出身の演奏家、ウメトバエワ・カリマンさんに、コムズという珍しい楽器の生演奏をお聞かせいただきました。デジタルの音に耳が慣れてしまった方には、本当に癒される時間になっています。こちらもどうぞお楽しみに。
●今回と同じく四國 光さんをゲストにお迎えした第28回も是非合わせてご聴取ください。
第28回 シベリアヒロシマ、そしてこれから……。

戦争を静かに描き続けた父・四國五郎のぶれない思い


「久々にアーサー・ビナードがナビゲートする市民のための自由なラジオ“Light Up!”。今回は、小さくて不器用な者たちに優しい視線を向けながらも、読む人に力強いパワーを与えてくれる絵本作家、田島征三さんを訪ねました。
 「落ちこぼれみたいな動物、あまり走るのも早くない、飛ぶのも上手くない、そんなものを描くのが好きなんです。」子どものようないたずらな笑顔を見せながら、インタビューに応えてくださった田島征三さん。
 彼の作品の原点は、戦争の記憶でした。5歳のとき疎開先で終戦を迎えたあと、ろくに食べるものがない戦後のくらしを高知の山奥で過ごします。国破れて山河あり、生き物たちと対話しながら、生かされている自分に気づく中、自然と「機械類とか自動車とか描くのが下手な画家」になります。それらは書いたとしても「鳥のような、動物のような、虫のようなもの」になってしまう。彼の作風は一貫して、子どもが落書きしたようであったりします。デッサンをせずに一気に書き始めるという田島さんの作品には、じんわりと伝わる温かさと、社会に対する確かなメッセージが潜んでいるのです。
 かつて田島さんが移り住んだ東京都西多摩郡にある「日の出の森」での暮らしからも、たくさんの作品が生まれました。しかし1989年、その豊かな自然を取り壊し巨大なごみ処分場が建つ計画が持ち上がり、田島さんはごみ処分場建設の反対運動を始めます。そこで田島さんは、ただ住民運動を繰り広げたのではなく、その運動を「文化」ととらえ、ユニークな活動を続けて来られました。残念ながら日の出の森は、ダイオキシンなどの有害物質に汚染された化学工場に変わってしまいましたが、田島さんたちが遺したものは、確かな財産となって次の世の中につながっていると思います。
 その「文化」の継承のひとつの形が、「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」です。この美術館は、新潟県十日町市の廃校になった小学校をそのまま利用して、全体を立体絵本として田島さんがデザインしたものです。ここからは、人の息づかいがたくさん残っているものが「ごみ」として焼却されるのは偲びないという温かな思いが伝わってきます。自然とのハーモニーをそのまま活かしながら、ユニークな作品の数々にふれることができるこの美術館は、動植物たちと同じように雪深い冬は冬眠(休館)し、4月29日、春の訪れとともにまた再開します。番組では、この「鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館」の魅力についてもじっくりと伺いました。
 「細胞が躍る!」と言いながら制作中の絵本「虫けら君の旅」は、ひどい目にあってもあきらめない多足類の「虫けら」が果敢に旅を続けるものがたりだとか。がんを患うも抗がん剤を断った田島さんが、伊豆の潮風とこごみを好み、自然から力をもらって元気を取り戻したエピソードに重なり、また何よりも今、私たちが、この息苦し社会の中で、どこを見つめて歩いて行けばいいのか、そんなことが少しだけ見えてくる時間になりました。」
田島征三さん 公式ホームページ
鉢&田島征三 絵本と木の実の美術館
田島征三さんの絵本
 

(付録)
キルギスの伝統楽器1 コムズ(三味線)の演奏
  

声明「許せない「共謀罪」」~「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が引き継ぐ「志」

 今晩(2017年4月18日)配信した「メルマガ金原No.2786」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
声明「許せない「共謀罪」」~「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が引き継ぐ「志」

 私がこのメルマガ(ブログ)で、いわゆる「大逆事件」を取り上げたことが、少なくとも2回ありました。
 一つは、2013年12月8日に、和歌山市で映画『100年の谺 大逆事件は生きている』(企画:白井堯子・富田玲子・藤原智子 脚本:藤原智子 演出:田中啓)を自主上映するために結成された「映画「100年の谺」を観る会」の呼びかけ人に私自身が名前を連ね、開催案内の記事を書いた時です。

 うっすらとしか認識していなかった「大逆事件と和歌山」について、映画の上映を機に、勉強するための素材を少し探してみたというものでした。
 もっとも、「大逆事件と和歌山」という言い方はやや正確性を欠き、「大逆事件と熊野・新宮」と言うべきところでした(いずれも紀州藩領であった熊野地方の牟婁郡が、明治以降、西牟婁郡東牟婁郡和歌山県に、北牟婁郡南牟婁郡三重県にそれぞれ編入されました)。
 大逆事件(いわゆる幸徳事件)によって1911年1月18日、24名に死刑が宣告され(内12名は翌日無期に減軽)、幸徳秋水、管野スガ、大石誠之助ら12名に死刑が執行され、減軽された者の内5名までが獄中死しましたが、死刑を宣告された24名の実に1/4にあたる大石ら6名が「紀州グループ」であったのです(三重県在住者も含まれていました)。
 上記記事に書いたことを繰り返すことはしませんが、是非参照いただければと思います。
 ここでは、映画の予告編のみ再掲します。

映画「100年の谺(こだま)-大逆事件は生きている」予告編(ポレポレ東中野ver.)(3分07秒)


 もう一度、私が「大逆事件」を取り上げたのは、映画『100年の谺 大逆事件は生きている』上映後、実行委員会で話し合った結果、熊野・新宮と「大逆事件」についてさらに認識を深めるための企画をやろうということになり、新宮市佐藤春夫記念館館長である辻本雄一さんを講師にお招きした講演会「熊野・新宮の「大逆事件」」を、2014年5月31日に開催することを告知した時でした。
 

 長らく新宮高校などで教鞭をとられ、中上健次さんが始めた熊野大学にも当初から関与されてきた辻本さん(本当は「しんにゅう」の左上の点が1つです)は、1980年代から積み重ねられてきた熊野・新宮の「大逆事件」についての研究をまとめられた著書『熊野・新宮の「大逆事件」前後 大石誠之助の言論とその周辺』(論創社)を、2014年2月に刊行されたばかりでした。
 熊野・新宮の「大逆事件」を考える上で、最も基本的な文献として推奨させていただきます。

 
 さて、私があらためて「大逆事件」を想起することになったのは、4月12日付・朝日新聞朝刊の和歌山版を読んだ(正確に言えば、三重県紀宝町在住の知人から、掲載されたことをメールで教えていただいてあわてて読んだのですが)ことによります。
 
朝日新聞デジタル 2017年4月11日03時00分(和歌山)
「共謀罪」に反対声明 大逆事件犠牲者顕彰の会
 
(引用開始)
 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案は、明治時代に社会主義者らが不当に弾圧された「大逆事件」のような冤罪(えんざい)を生みかねないとして、新宮市を中心に活動している「『大逆事件』の犠牲者を顕彰する会」が10日、市内で記者会見し、法案に反対する声明を発表した。
 会は声明の中で、「共謀罪」は人権侵害や冤罪を増やし、表現の自由や人の心の内の自由をも脅かすことが可能になると指摘し、廃案を求めている。今後、親交のある社民党福島瑞穂参院議員を通じて多くの国会議員にこの声明を伝えていくほか、高知、岡山県など大逆事件犠牲者ゆかりの地の顕彰団体に届け、連携を呼びかける。
 1910~11年の大逆事件で、新宮グループとして医師や僧侶ら6人が死刑や無期懲役となった。新宮市議会は2001年に6人の名誉回復を決議している。会長の二河通夫さん(86)は「大逆事件は自由闊達(かったつ)に論議していた人たちが犠牲になった。彼らのことを思えば、いろんな問題を自由に議論できる今の平和な世の中を、守っていかなければならない」と語った。(東孝司) 
(引用終わり)
※部分引用にとどめようと思ったのですが、どこもカットできるところが見当たりませんでした。それだけ、無駄のないすぐれた記事だということでしょう。

 先述した紀宝町の知人からのメールによると、地元紙には「『大逆事件』の犠牲者を顕彰する会」による声明が全文掲載されており、大変感銘を受けたということでした。
 そこで、是非その声明全文を私のメルマガ(ブログ)でご紹介したいものだと考え、「顕彰する会」に掲載の許可とデータの提供をお願いしたところ、快くご了解いただくことができました。
 以下に、その全文をご紹介します。
 
(引用開始)
共謀罪」に反対する声明
 
許せない「共謀罪

 過日、テロ対策を名目に「共謀罪」(「テロ等準備罪」)という法案が閣議決定され、国会に上程されました。これは、犯罪行為が発生する以前から人を逮捕できるという、刑法の原則を完全に無視したもので、人権侵害や冤罪事件を増やし、表現の自由や人それぞれの心の内の自由をも脅かすことが可能になる、問題を多く含んだ法案です。私たちは強い危機意識の下にこの法案が廃案になる事を強く求めるものであります。
 私たちが生きる熊野新宮の地では、明治時代の一大冤罪事件であった「大逆事件」の犠牲者の志を継ぐために顕彰する会を立ち上げ、彼等一人ひとりに寄り添い、その志を現代から未来へと生かすべく、学習し、運動に取り組んでまいりました。当地の犠牲者6人は、悩み多き者として真摯に考え、煩悶し、ごく普通に生活をしていた市民でした。そうした人たちを襲ったのが、まさにこの「共謀罪」のような、国家による謀略です。熊野川での単なる舟遊びが「天皇暗殺謀議」に仕立て上げられたのです。担当の検事は、行為ではなく考え方を裁くのだと公言してはばかりませんでした。
 さらに戦時下の治安維持法で断罪された「横浜事件」の犠牲者のひとり、木村亨氏がやはり熊野新宮の出身であったことも忘れてはなりません。出版祝賀の酒宴が非合法活動と目され、逮捕・死者が出たのです。私たちは「大逆事件」と「横浜事件」の真実を共に学んでまいりました。
 そして今、「平成の治安維持法」とも言われる「共謀罪」法案がまたもや持ち出されています。オリンピックを安全に催すためという「大義」など、国際的にみれば妄言に過ぎません。
 この法案に反対する全国の人たちと共に、国会での議論を見極め、廃案への動きに連動出来ればと強く思う次第です。
 「大逆事件」の犠牲者と遺族の方々の無念の思いを改めて噛みしめ、彼等の志の高さを今一度想起しなければならないと思います。

2017年4月10日
 
大逆事件」の犠牲者を顕彰する会
会長 二河通夫
(引用終わり)

 いかがでしょうか。「オリンピックを安全に催すためという「大義」など、国際的にみれば妄言に過ぎません。」という箇所に、思わず「至言だ」と叫びたくなりませんでしたか?
 厳密に言えば、第一段落の「これは、犯罪行為が発生する以前から人を逮捕できるという、刑法の原則を完全に無視したもので」とある部分は、もう少し言葉を足さないと、言わんとするところが伝わりにくいのではないかという気がしますが、それは瑕瑾に過ぎません。
 新宮市内にある大逆事件犠牲者顕彰碑には、「志を継ぐ」という決意が刻されています。
 今回の「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」による声明「許せない「共謀罪」」は、この「志を継ぐ」ための実践に他なりません。
 共謀罪法案に反対する声明は様々な団体から出されていますが、「顕彰する会」の声明は、「国家による謀略」の犠牲者の視点から反対の声を上げたことに特色があります。
 共謀罪が必要と主張する人たちの視野の中に、「国家による謀略」の犠牲者など存在しないのだろうと私は思っています。
 その意味からも、私は「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」が上記声明を発表されたことに大変勇気付けられました。
 是非多くの人々にお読みいただきたいと思います。
 なお、本稿は、本メルマガ(ブログ)における共謀罪シリーズの第21回でもあります。

(参考サイト)
 上記に引用した朝日新聞の記事に、「今後、親交のある社民党福島瑞穂参院議員を通じて多くの国会議員にこの声明を伝えていく」とあるのを読んで、なぜ特に「福島瑞穂」さんなのか?と思われた方もいらっしゃるでしょう。
 私もそんなに詳しい訳ではないのですが、福島みずほさんは、大逆事件の現代的意味を考える院内集会を、過去何度か主催しておられるようです。以下に、目に付いた集会概要(文字起こし)あるいは動画をご紹介しておきます。
 
大逆事件百年後の意味 院内集会
2011年1月24日(月)参議院議員会館講堂にて

※和歌山からも、辻本雄一さんがリレートークで発言されており、また、「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」の二河通夫会長がメッセージを寄せておられます。
 
20130124 UPLAN 102年後に大逆事件を問う(1時間46分)
2013年1月24日 参議院議員会館講堂にて

※講演
大逆事件の意味」山泉進氏(明治大学大学院教授)
「不逞の復権」田原牧氏(東京新聞記者)
自民党改憲案、国家安全保障基本法案の問題点を斬る」伊藤真氏(伊藤塾塾長・弁護士)
  
(追記)
 本稿の下書きを終えた後、高知県四万十市「幸徳秋水を顕彰する会」も、去る4月15日に「共謀罪に反対する声明」を発表していることを知りました。同会公式WEBサイトにPDFファイルがアップされています。
 「「大逆事件」の犠牲者を顕彰する会」の声明と併せ、この声明も是非お読みください。

(引用開始)
共謀罪に反対する声明

 1910年(明治43年)の「大逆事件」では、幸徳秋水ら26名が逮捕され、うち24名が死刑判決を受けました(12名は翌日無期懲役減刑)。理由は、天皇暗殺や社会転覆を企てる「謀議」をおこなったというものでした。
 明治政府の狙いは、朝鮮侵略に反対し平和と自由平等を訴えていた幸徳秋水らの運動を弾圧、根絶やしにすることにあり、その口実となる「事件」をつくりだし、フレームアップしたものでした。
 「大逆事件」以降、言論の自由は完全に封殺され、日本は侵略戦争の道をひた走り、その結果、国民は塗炭の苦しみを味わっただけでなく、周辺諸国にも多大の被害を与えました。
 戦後、「大逆事件」をリードした元検事は、秋水らの「思想を裁いた」ものであったことを認めています。
 このほど、テロ対策、オリンピック対策を名目に共謀罪(「テロ等組織犯罪準備罪」)という法案が閣議決定され、国会に上程されました。
 これは、犯罪行為が発生する以前から人を逮捕できるという法律であり、「未遂」「予備」「共謀」を例外とするわが国刑法の原則を無視したものであることから、過去の国会でも三度廃案になったものです。
 共謀罪では、人と人のコミュニケーションそのものが犯罪の対象となることから、捜査機関の判断によって恣意的な検挙が行われたり、日常的に市民一人一人の人権やプライバシーが監視される怖れがあります。
 政府は共謀罪がないと「国際組織犯罪防止条約」を批准できないと言っていますが、この条約はマフィアなどの国際経済犯罪対策であり、テロとは明確に区別されており、真の狙いを隠すカモフラージュであることは明らかです。
 戦後憲法で認められた内心の自由言論の自由などのわれわれの大切な基本的人権が侵害されることがあってはなりません。
 私どもは、再び「大逆事件」をつくりだす暗黒社会に逆戻りするような共謀罪には反対であることを、ここに表明します。

                          2017年4月15日
                          幸徳秋水を顕彰する会

(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日
閣議決定された「共謀罪」法案~闘うための基礎資料を集めました
2017年3月31日
2017年4月7日
2017年4月14日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.9~民科法律部会の声明を読む
 

(付録)
『僕らは熊野(ここ)で歌っていく~笠木透さんに捧ぐ~』 作詞・作曲・演奏:松原洋一

※紀宝9条の会、くまの平和ネットワーク、そして「わがらーず」の松原洋一さんによる『僕らは熊野(ここ)で歌っていく』は、既にご紹介していましたが、今回のテーマにまことにふさわしいということで、再度登場していただきました。

水平線に朝日が昇り 山の緑が動き出す
伝え切れない想いを胸に 今この時と弾けるように
 心豊かに 自由を語れ
 僕らは現在(いま)を 歌いたい
 あなたの歌を こころに留めて
 僕らは熊野(ここ)で 歌っていく

青い空に雲が往き 海と山とを繋いでいる
語り切れない言葉に替えて もう大丈夫と囁くように
 心静かに 平和を祈れ
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 胸に抱いて
 僕らは熊野で 歌っていく

山の連なり夕日に染まり 風が止んだ不思議な空間
納め切れない今日一日の 喜び哀しみ癒すように
 心解いて 自然と遊べ
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 思い出かさね
 僕らは熊野で 歌っていく

夜の静寂(しじま)に星が流れる 赤く輝く銀河の果てに
押さえ切れない見果てぬ夢を いつかこの手で届けよう
 心許して 友と歌え
 僕らは現在を 歌いたい
 あなたの歌を 希望に染めて
 僕らは熊野で 歌っていく

 心広げて未来はどっちだ 私は現在を歌いたい
 あなたの歌に 出会えて良かった
 私は熊野で 歌っていく
 あなたの歌に 出会えて良かった
 私は熊野で歌っていく

※非売品CD『僕らは熊野(ここ)で歌っていく 「帰ってきた新曲たち」LIVE from FOLKS』(松原洋一/2016年1月20日)ライナーノートより
「14年12月22日に亡くなった笠木さん。あなたのような曲を作りたいと思ってきましたが、まだまだです。天頂の星の上からどうぞ見守っていてくださいね。」