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護憲派こそ読むべき「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」(自民党憲法改正推進本部制作)

 今晩(2015年4月29日)配信した「メルマガ金原No.2075」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
護憲派こそ読むべき「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」(自民党憲法改正推進本部制作)

 沖縄県名護市キャンプ・シュワブゲート前など各地で、「4・28県民屈辱の日 県民大行動・大集会」が行われていた昨日(4月28日)、東京の自由民主党本部では、同党憲法改正推進本部の船田元本部長と礒崎陽輔事務局長が記者会見を開き、自由民主党憲法改正推進本部が憲法改正のポイントを解説した漫画政策パンフレット「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」(本文全64頁)を制作したことを発表しました。

憲法漫画「ほのぼの家族の憲法改正ってなぁに?」制作発表記者会見(2015.4.28)
 

 発表された「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」は、自民党サイトからPDFファイルをダウンロードできます。
 
 私は、今日、青法協憲法記念行事「学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して」(ご来場いただいた多数の皆さま、ありがとうございました)第2部への出演を終えてから事務所に戻り、「表紙を入れて68頁は多いなあ」と思いつつ、いったん印刷したのですが(各頁A4サイズで計68枚)、よく考えてみたら、複合機なら「小冊子印刷」の指定も簡単にできることに気がつき、A4両面印刷17枚でコピーし、これを2つ折りにしてA5サイズ64頁の小冊子が出来上がりました。
 もっとも、こんな手間暇をかけるまでもなく、自民党本部や同党各都道府県連などに電話して「入手して読んでみたい」と言えば、送ってくれるのかもしれませんが、その辺のところは未確認です。
 
 さて、このプリントアウトした「ほのぼの家族の憲法改正ってなぁに?」を通読してみました。一語一語、読み飛ばさずにじっくり読んで、私の場合、所要時間15分でした。
 自民党憲法改正推進本部が制作したものですから、もちろん、同党が2012年4月に公表した「日本国憲法改正草案」の基本的立場に準拠するものであることは当然ですが、個々の条項については、その改正の方向性は強く示唆しつつ、具体的な改正案は示さないという方針で作られています。

 一読後、私が直ちに想起したのは、日本会議が首唱し、各地の地方議会で採択が進む憲法改正推促進意見書でした。
 試みに、昨年9月26日に和歌山県議会が採択した意見書(石川県議会意見書の丸写しですが)の本文を以下に引用してみましょう。

(引用開始)
 日本国憲法は、昭和22年5月3日の施行以来、今日に至るまでの約70年間、一度の改正も行われて
いない。
 しかしこの間、わが国を巡る内外の諸情勢は劇的に変化を遂げている。すなわち、我が国を取り巻く東アジア情勢は、一刻の猶予も許されない事態に直面している。さらに、家族、環境などの諸問題や大規模
災害等への対応が求められている。
 このような状況変化を受け、様々な憲法改正案が各政党、各報道機関、民間団体等から提唱されている。国会でも、平成19年の国民投票法の成立を機に憲法審査会が設置され、憲法改正に向けた制度が整備
されるに至った。
 新たな時代にふさわしい憲法に改めるため、国会は憲法審査会において憲法改正案を早期に作成し、国
民が自ら判断する国民投票を実現することを求める。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
(引用終わり)
 
 ▽70年間一度も改正されていない、▽内外諸情勢は劇的に変化している、▽家族、環境、大規模災害対応などが必要、などと指摘して改正の方向性は示唆しつつ、具体的な改正内容を明示せず、ただ「新たな時代にふさわしい憲法に改める」必要があるというもので、まさに、自民党が作ったマンガ「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」が誘導しようとする狙いはこの線にぴったり沿ったものです。
 
 もう一つ、これも、以前本メルマガ(ブログ)でご紹介したことがありましたが、やはり念頭に置いていた方が良いのは、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の動きです。
 同会ホームページの「Q&A」の一部を引用します。

(引用開始)
Qなぜ、憲法改正が必要なのですか?
私たちの国が世界に誇れる国に生まれ変わるために、憲法改正は喫緊の課題です。
日本国憲法は、敗戦後、連合国軍の占領下でGHQに押しつけられた「占領憲法」です。さらに憲法(成文憲
法)を持つ世界188ヶ国のうち、日本の憲法は14番目に古く、しかも、一度も改正されていない憲法としては、世界最古の憲法なのです。そもそも憲法は、時代の変化と共に改正されるものであるのに、日本国憲
法は約70年間、一度も改正されていません。
この間、大規模な自然災害、地球規模の環境破壊、安全保障環境の劇的な変化、家族の崩壊、固有の伝統
的価値の喪失など、憲法が想定していなかった様々な事態に直面しています。
近年、制定された100カ国の新しい憲法には、「緊急事態」「平和」「環境」「政党」「家族保護」など、大切な条項が規定されていますが、日本の憲法には、平和条項しか規定されていないのです。
時代も、世界も、環境も、社会も大きく変わっています。世界の国々では、その変化に対応すべく憲法が改正されているのに、日本の憲法だけいつまでも変わっていません。このままで本当に良いのでしょうか

(引用終わり)
 
 「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」は、まさに上記「Q&A」をマンガで表現したものだと考えれば間違いありません。
 具体的な「改正案」を示すことなく、とにかく「今の憲法のままではだめみたい」「変えた方がいいんでしょう」という「空気」を国民の間に広げようという戦略を具体化するためのツールの1つがこの「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」です。
 
 そして、その行き着く先が何であるかは、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が推進する「美しい日本の憲法をつくる国民1000万人賛同署名」のための署名用紙を一覧すればはっきりと分かります。
 一応、同会ホームページでは「賛同署名」用紙と説明されていますが、上記の用紙自体には「署名」という用語は書かれていません。
 確かに、これは普通に私たちが目にする「署名」用紙とは明らかに違います。
 何しろ、この用紙には、「私は憲法改正に賛成します」と書かれているだけで、憲法のどの条項をどのように改正することに「賛成」なのかは一切書かれていないという、ある意味恐るべき書式なのです。
 既に賛同署名への取組は始まっていますから、この「1000万人賛同署名」用紙に「署名」した人もたくさんいるのでしょうが、その人たちはいったい何に賛同したのでしょうかね?
 「私たちは、ナチス授権法(全権委任法)と同じように、内容如何にかかわらず、とにかく日本国憲法を改正することに賛成します」ということなのでしょうか?論理的に言えば、そうとしか思えないのですが。
 
 「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」について、昨日の記者会見で、船田元氏も礒崎陽輔氏も、具体的な改正案を押しつけるのではなく、とにかく憲法について考えて欲しいということで作ったという趣旨の発言をしていましたが、彼らが誘導しようとしている方向性は以上に述べたとおりはっきりしています。
 そして、この表紙を含めて68頁の冊子を一読した上での私の感想は、自民党日本会議、美しい日本の憲法をつくる国民の会などのかかげる方針を相当程度忠実に実現する広報ツールになっているというものでした。つまり「あなどってはいられない」ということです。
 少なくとも、
  押しつけ憲法
  人権制約原理(公益及び公の秩序)
  緊急事態条項
  シビリアンコントロール自衛隊を統制するために憲法改正が必要)
  憲法改正条の難易度(96条改正)
など、「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」が強調している項目について、明確に反論できるだけのスキルを身につけることは、私たちにとって必須だろうと思います。

 私たちが、どのような動きと対峙しなければならないのかを自覚し、対策を考える前提として、ある意味、「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」は、護憲派にとってこそ必読文献かもしれません。