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自民党改憲マンガに反駁するために~渡辺輝人弁護士、上脇博之教授、“あすわか”の論考を推奨します

 今晩(2015年5月9日)配信した「メルマガ金原No.2085」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
自民党改憲マンガに反駁するために~渡辺輝人弁護士、上脇博之教授、“あすわか”の論考を推奨します
 
 4月28日に自民党憲法改正推進本部)が公表した漫画政策パンフレット「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」は、予想通り様々な反響を呼んでいますが、私も速報的に以下のような文章を書きました。
 
「そして、この表紙を含めて68頁の冊子を一読した上での私の感想は、自民党日本会議、美しい日本の憲法をつくる国民の会などのかかげる方針を相当程度忠実に実現する広報ツールになっているというものでした。つまり「あなどってはいられない」ということです。
 少なくとも、
  押しつけ憲法
  人権制約原理(公益及び公の秩序)
  緊急事態条項
  シビリアンコントロール自衛隊を統制するために憲法改正が必要)
  憲法改正条の難易度(96条改正)
など、「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」が強調している項目について、明確に反論できるだけのスキルを身につけることは、私たちにとって必須だろうと思います。
 私たちが、どのような動きと対峙しなければならないのかを自覚し、対策を考える前提として、ある意味、「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」は、護憲派にとってこそ必読文献かもしれません。」
(2015年4月29日/護憲派こそ読むべき「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」(自民党憲法改正推進本部制作)
 
 さて、私は課題だけ提示してまだその実践に取りかかれていないのですが、早くも具体的な反撃に打って出た人たちがいるのは心強く、以下にご紹介しますので、是非リンク先でお読みいただきたいと思います。
  
 まず最初にご紹介するのは、弁護士の渡辺輝人さん(京都弁護士会)が書かれた論考です。
 自民党改憲マンガの主張の中の主に「押しつけ憲法論」について、的確に反論されています。分量も長過ぎず短か過ぎず、ちょうど読みやすく書かれていてお薦めです。
 
 
 また、改憲マンガからさらに自民党「日本国憲法改正草案」(2012年)や同「Q&A」にまでさかのぼり、自民党が目指す改憲の方向性全般を明らかにしつつ、これに対する理論的反駁の基礎を提供してくれているのが、上脇博之(かみわき・ひろし)さん(神戸学院大学大学院教授・憲法学)がご自身のブログ「ある憲法研究者の情報発信の場」に、5月4日から8日まで連載された論考「「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?」です。
 以下に、項目のみご紹介します。かなり長いものですが、是非、リンク先で全文をお読みください。
 
はじめに
1.日本国憲法天皇帝国議会に命じて審議・議決させ公布した憲法
 
 
「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
(3):「ポツダム宣言」に合致する日本国憲法

4.「ポツダム宣言」に反する憲法はつくれない!
5.日本独自の主張を無視・軽視し、「実際の押しつけ」には反対していないのが「押しつけ憲法」論者
 
「日本国憲法=押しつけ憲法」論は理論に値するのか?
(4):環境権など「新しい人権」の保障を否定している

6.「押しつけ憲法」論の自民党改憲案は環境権などの「新しい人権」の保障を否定している!
7.戦争等の緊急事態で人権が制限されることの説明なし!
 
 
 
 
 
 
 以上(1)~(9)の連載の内、「押しつけ憲法論」に対する直接的な反論は、(1)、(2)、(3)、(8)、(9)であり、(4)~(7)では、自民党日本国憲法改正草案」の拠って立つ憲法観が明からかにされています。
 
 なお、「押しつけ憲法論者」がよく持ち出すハーグ陸戦条約(陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約)についても、(8)において明快に反駁が加えられていますので、是非熟読してください。
 以下にその主要部分を引用します。
 
(引用開始)
(略)
(3)法律学者で、「日本国憲法がハーグ(陸戦)条約違反で無効である」旨、主張する者は、ほとんど見られないので、その主張は論外の主張ですから、私があえて、これに応答する必要もないとは思いますが、一応、解説しておきましょう。
(4)まず、当該条約ですが、それは、1899年にオランダのハーグで採択され、1907年に改定されたもので、「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」です。
該当する条文は以下のようです。
 
第四三條 國ノ權力カ事實上占領者ノ手ニ移リタル上ハ占領者ハ絶對的ノ支障ナキ限占領地ノ現行法律ヲ尊重シテ成ルヘク公共ノ秩序及生活ヲ囘復確保スル爲施シ得ヘキ一切ノ手段ヲ盡スヘシ
 
(5)この「ハーグ陸戦条約」は、その名称からもわかるように、戦時国際法です。
 ですから、この条約の適用があるのは、戦争(交戦)中の場合ですし、同条約第43条の適用があるのは、戦争(交戦)中の占領者です。
 それゆえ、交戦後(休戦中)の占領には適用がありません。
 日本国憲法が”制定”されたのは、日本が無条件降伏した後ですから、そもそも「陸戰ノ法規慣例ニ關スル條約」=ハーグ陸戦条約の適用はないのです。
 ですから、そもそも適用されない条約を考慮して日本国憲法”制定”過程を論述する必要はないのです。
(6)かりに百歩譲って、
 ハーグ陸戦条約の適用が日本の無条件降伏後の占領にも適用があるとしても、ハーグ陸戦条約は一般法であり、ポツダム宣言・降伏文書という休戦協定は特別法であり、「特別法は一般法を破る」という原則がありますので、ポツダム宣言・降伏文書という休戦協定が優先的に適用されることになります。
 「特別法は一般法を破る」という原則は、法学部で必ず学ぶ原則です。
(7)また、千歩譲って、
 かりにハーグ陸戦条約が同時に適用されるとしても、日本国憲法の”制定”は、ポツダム宣言に反しないですし、大日本帝国憲法の改正手続きに従って帝国議会で行われましたので、同条約第43条に違反しないという法的論理も、考えられるかもしれません。
(8)学説の通説は上記(5)・(6)の立場です。
 ですから、法律学者で、ハーグ陸戦条約を持ち出して日本国憲法が無効であると主張する見解はほとんんどないのです。
 私も通説が妥当だと思います。
(略)
(引用終わり)
 
 上記、渡辺輝人弁護士、上脇博之教授の他にも、「あすわか」(明日の自由を守る若手弁護士の会)が発表した「自民党憲法マンガ ツッコミ入れずにはいられないネシリーズ」があります。第3回で「とりあえず最終回」とありますが、場合によればまた復活するかもしれません。
 

 自民党改憲マンガ「ほのぼの一家の憲法改正ってなぁに?」発表から間髪を入れずに上記のような反撃がなされたのは、「あすわか」が言うとおり、ツッコミどころがあり過ぎるからでもあるでしょうが、「これは放置できない」という危機感の表れであるようにも思われます。
 私たちは、これらの論考によって理論武装しつつ、広く社会に打って出る方策を考えねばならないでしょう。
 
(その他の参考サイト)
 「押しつけ憲法」かどうかを論ずる前提として、日本国憲法制定史を検証するための基礎資料が集積されている国立国会図書館サイトの中の「日本国憲法の誕生」が非常に重要です。
 また、9条誕生にまつわる「平野ノート」も、是非一読しておくべきでしょう。ネット環境で読めるものの中では、「みんなの知識 ちょっと便利帳」に掲載されたものが一番情報量が豊富なようです。
 
 なお、以下の拙稿などもお読みいただければ幸いです(弁護士・金原徹雄のブログから)。
2014年1月1日
2014年8月30日