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憲法学習会用標準レジュメ(2013年6月版) 中編

今晩(2013年6月29日)配信した「メルマガ金原No.1402」を転載します。
 
憲法学習会用標準レジュメ(2013年6月版) 中編
 
 今日(6月29日)、和歌山県田辺市龍神村において、「輝け9条龍神の会」総会後の憲法学習会でお話させていただきました。時間配分がうまくなく、「96条」と集団的自衛権」を話し終えた時点でほとんど時間が残っておらず、自民党改憲案の具体的内容については、非常に駆け足になってしまいました。
 その「埋め合わせ」にはなりませんが、今日は中編として、「立憲主義」と「9条」を取り上げます。
 
【本日のお話の構成】
1 はじめに
2 目前に迫る2つの「危機」
(1)集団的自衛権容認の動き(解釈改憲と立法改憲)
(2)憲法96条改悪の動き
 ※以上「前編」
  http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/28935557.html
3 自民党「日本国憲法改正草案」は何が問題なのか
(1)自民党「日本国憲法改正草案」の最大の問題点-立憲主義の危機-
(2)9条(平和主義)の危機
 ※以上「中編」
(3)自民党「日本国憲法改正草案」のその他の問題点
4 終わりに(様々な「危機」に立ち向かうために)
 ※以上「後編」
 

 
3 自民党「日本国憲法改正草案」は何が問題なのか
 
(1)自民党「日本国憲法改正草案」の最大の問題点-立憲主義の危機-
 
(現行憲法)
  第十章 最高法規
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわ
る自由獲 得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、在及び将来の 国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命
令、詔勅 及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守する
ことを必要とする。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務
員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

(自民党改憲案)
(憲法の最高法規性等)
第百一条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、
勅及 び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守する
ことを必要とする。
(憲法尊重擁護義務)
第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務
を負う。
 
 97条→全面削除
 98条→ほぼそのまま新101条
 99条→国民の憲法尊重義務を新設し、憲法擁護義務を負う者から「天皇又
は摂政」を削除
 
 
(1789年 フランス「人及び市民の権利宣言」から)
「第16条 権利の保障が確保されず、権力の分立が規定されないすべての社会
は、憲法をもつものでない」岩波文庫「人権宣言集」の訳による)    
 
 
(1888年(明治21年)6月22日 枢密院での伊藤博文の発言)
「そもそも、憲法を創設するの精神は、第一君権を制限し、第二臣民の権利を保
護するにあり。ゆえに、もし憲法において臣民の権利を列記せず、ただ責任のみを記載せば、憲法を設くるの必要なし」(原文は旧字・旧仮名、カタカナ表記、句読点なし)
 
 
 伊藤博文が正しく指摘しているように、そもそもなぜ憲法を定めるかと言えば、それは国民の権利・自由を保障する(臣民の権利を保護する)ためであって、そのために国家権力に制限を加える(君権を制限し)必要があるからである。つまり、「憲法を守らなければならない」という規範の名宛人は国家であって国民ではない、というのが大原則なのであって、これが「立憲主義」の本質である。
 ここまで書けば、現行憲法の「第10章 最高法規」において、憲法の形式的最
高法規性を明示した98条に先立ち、基本的人権の不可侵性を強調した97条がなぜその直前に置かれねばならなかったかが理解されるであろう。
 97条は、憲法が最高法規でなければならないその根拠を明示した規定なので
ある。
 そして、99条の憲法尊重擁護義務に列挙された「天皇又は摂政及び国務大
臣、国会議員、裁判官その他の公務員」は、正に最高法規である憲法規範の名宛人である国家を実際に運営する主体であるがゆえに、明示的に「憲法尊重擁護義務」が課せられているのである。
 以上のとおり、97条-98条-99条という第10章の3箇条は、非常に論理的
なつながりをもって構成されており、最も根本的な憲法の基本原理である「立憲主義」を明らかにした規定なのである。
 
 
 さて、自民党改憲草案である。
 97条が全面削除されることにより、伊藤博文の言う「臣民の権利を保護する」と
いう憲法の最も重要な目的が消えてなくなっている。
 98条の形式的最高法規性はそのまま残っているが、現行の第10章において、
真に重要な規定は97条と99条であり、98条はこれらの条文の存在理由を論理的に明らかにするために必要であったため、97条と99条の間に置かれたものである。
 考えてもみよう。憲法が形式的に法律等の規範より上位にあるなどということは、
定があろうがなかろうが「当たり前」であろう?
 自民党改憲草案が98条を残したことは全く評価に値しない。
 そしてとどめは99条である。自民党は新102条で、あろうことか国民の憲法尊
重義務をまず規定している。
 実はこの規定に限らず、自民党改憲草案には国民に義務を課す規定が次から
次へと出てくる。数え方にもよるが、新たな義務規定が少なくとも10箇所はある。
 自民党改憲草案は、国際標準で言えば「憲法」の名に値しない。
 もちろん、世界には様々な国家があり、それぞれ憲法を持っているのであるから、
伊藤博文が述べたような意味での「立憲主義」に立脚した憲法ばかりではなく、国民の自由・権利よりも「公益や公の秩序」を重しとする全体主義国家の憲法もあるだろう。
 しかし、そのような「立憲主義」に立脚しない「憲法」は、「近代的意義の憲法」とは言わない(学会の通説)。
 自民党は、「立憲主義」を捨て去り、日本を全体主義国家にしようと提唱して
いるのである。
※決め文句として「自民党は要するに日本を北朝鮮のような国にしようとしている
のだ」という表現を使うかどうかは、個々の判断による。
 
 
(2)9条(平和主義)の危機
① 前文を全面的に書き変えている
 「戦争の惨禍」に対する悼みなどあとかたもない。「平和的生存権」も消滅
している。
 
 
(現行憲法・前文抜粋)
「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」
「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想
を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」
   ↓    
(自民党改憲案・前文)
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴
く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国
際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重す
るとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科
学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、こ
の憲法を制定する。
 
 その憲法がどのような思想を基礎として作られたかは、「前文」を読めばだいたい分かるものであるが、自民党「日本国憲法改正草案」の「前文」も、まさに「正直すぎる」位、その本性を明らかにしてくれている。
 「突っ込みどころ」満載すぎて、かえってどこを指摘したら良いか迷ってしまうが、とにかく「平和を希求する精神」が消滅したことは間違いない。
 
② 9条について
 基本的な構成自体は2005年「新憲法草案」を踏襲しているが、よく読んで
みると2005年版では改正の対象となっていなかった9条1項にも手を入れている。
 自民党改憲案の9条~9条の3を読む際には、現行憲法下の「政府解釈」ではなし得ないとされてきた「どのようなこと」を可能にしようとしているのか?という点に着目して欲しい。最も重要なのは以下の2点。
 
9条2項 「自衛権の行使を妨げるものではない」
→個別的自衛権と集団的自衛権の双方の行使を明文で認めた規定であり、もちろん、後者に主眼がある(前者だけなら、今までの政府解釈でも行使できるとされてきた)。
 
9条の2 3項 「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調してわれる活動~を行うことができる」
→国連決議に基づいて実施されるPKO活動などは今でも自衛隊が行っている
活動である。この規定が「出来てしまえば」PKOもこの条項に含まれる活動であると解釈される余地はあるが、この規定の本来の趣旨は、いわゆる「多国籍軍(米軍が主導するものであるにきまっている)に参加し、(もちろん)国外で戦闘を行えるようにするということにある。しかも、国連決議は要件となっていないら、政府の決定次第で(「法律の定めるところにより」であるから、何ら憲法的約はない)、どんな「大義なき戦争」でも、国防軍を派兵することが可能とな(例えば「イラク戦争」のごときに)。

 

    
(現行憲法)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国
権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない。
   ↓
(自民党改憲案)
(平和主義)
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国
の発動と しての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段と しては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
(国防軍)
第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内
閣総理大 臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、
国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定
めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るため活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する
事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防
軍の機密に 関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。
 この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければな
らない。
(領土等の保全等)
第九条の三 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び
領空を保全し、その資源を確保しなければならない。