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水島朝穂教授による自民党改憲案「緊急事態条項」批判論文(2013年)がネットで公開されました

 今晩(2016年1月26日)配信した「メルマガ金原No.2347」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
水島朝穂教授による自民党改憲案「緊急事態条項」批判論文(2013年)がネットで公開されました

自由民主党 日本国憲法改正草案 (平成24年4月27日決定)
同Q&A(増補版)
   
第九章 緊急事態
 (緊急事態の宣言)
第九十八条
 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震
等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法
律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急
事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において
、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
 (緊急事態の宣言の効果)
第九十九条
 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力
を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方
自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければ
ならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示
に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
 
 かねてから、ワイマール憲法下の授権法にも匹敵する危険な内容を持つと指摘されてきた緊急事態条項を含む改憲案を2012年に発表している自民党が、安倍晋三総裁(というより首相として発言していますよね)を先頭に、いよいよその条項を盛り込む明文改憲への強い意欲を明らかにしてきており、これに対する批判が様々なところでなされるようになってきました。
 例えば、IWJでは、かねてから緊急事態条項の危険性にフォーカスした番組を提供し続けています。
 また、岩波書店の「世界」本年1月号に「日本国憲法に緊急事態条項は不要である」という論文を書かれた長谷部恭男氏 (早稲田大学教授) が基調講演を行う「立憲デモクラシーの会」主催のシンポジウムが、2月5日(金)18時30分から、全電通労働会館多目的ホールで開かれるということは、昨日ご紹介したばかりです。


 今日は、自民党日本国憲法改正草案」発表の翌2013年に岩波書店から刊行された奥平康弘・愛敬浩二・青井未帆編『改憲の何が問題か』に収録された(Ⅱ5[185-198頁]所収)、水島朝穂早稲田大学教授による論考「緊急事態条項」が、著者のサイト「直言」に、出版社の了解の下、全文転載されていましたので、これを皆さまにお知らせし、是非一読されるようにお薦めしたいと思います。

 
 
 
 この種の学術論文を、あちこちつまみ食い的に引用するのは避けるべきだと思いますので、是非、リンク先でじっくり読みこんでください。
 ・・・と言ったばかりで恐縮ですが、私としては、冒頭に引用した自民党改憲案の99条3項に定めら
れた「何人も~国その他公の機関の指示に従わなければならない。」という恐るべき規定に引き続く「この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」に対する水島教授の批判は、是非引用したくなりました。
 
(引用開始)
 99条3項には緊急事態下で「尊重」されるべき人権が列挙されている。だが、自民党の「Q&A」にもある通り、この文言自体は、武力攻撃事態法の引き写しである。法律のなかで人権への配慮を求めている規定と同一の文言を、その人権を保障する憲法の条文のなかにそのまま転写(コピペ)する神経は相当なものである。例えば、令状による捜索と押収を求める憲法35条(「改正草案」もほぼ同趣旨)に、「捜索又は押収にあたっては、財産権やプライバシーの保障を最大限尊重しなければならない」といった文言が挿入されることはあり得ない。憲法は人権保障の規範であり、個別の条項が念を押すまでもなく、第3章に定められる各種の人権の保障は、権力の行使に当たって当然に「最大限に配慮」されなければならないからである。武力攻撃事態法における「配慮」規定を、憲法そのものに転写(コピペ)し、それで人権保障に配慮したかのような体裁を取り繕う「改正草案」のこの部分には、人権保障や立憲主義に対する無理解と
無自覚が最も鮮明にあらわれていると言えよう。
(引用終わり)
 
 日本国憲法14条は平等条項、18条は奴隷的拘束・苦役の禁止、19条は思想・良心の自由、21条は表現の自由ですが、ここで一言付け加えておくと、自民党改憲案99条3項にいう「21条」は、現行憲法の21条ではなく、自民党改憲案の21条を指していることは注意しておいてください。
 
現行 日本国憲法
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。 2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
 
自民党 日本国憲法改正草案
 
表現の自由
第二十一条
 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目
的として結社をすることは、認められない。
3 検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
 
 水島教授の批判のポイントを呑み込むのに少し時間がかかる人もいるかもしれませんが、健全な常識を備えていれば、絶対に理解できます。
 そして、得心したあかつきには、この緊急事態条項を起案し、それを承認した人々の思想の根源に触れ
、寒気がすることでしょう。
 小林節先生なら、「無教養」という一言を投げつけるところかもしれませんが、こういう人たちが憲法
に手をつけようとしており、そのことに何の危機感も抱かない国民が相当程度存在するという事態は、真に恐るべきことです。
 その恐れを1人でも多くの人に共有してもらえるように努力するためにも、この水島先生の論考のよう
な論理的批判を武器とすることが重要であると思い、ご紹介しました。 
 

(付録)
『ラブソング・フォー・ユー』 作詞・作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ
2015年 戸倉中学校仮設でのコンサートから
 
『ラブソング・フォー・ユー』 作詞・作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポ大王 ほか
2014.4.29 DOVEチャリティーコンサートにて
 
『ラブソング・フォー・ユー(LOVESONG FOR YOU)』(歌詞字幕付き)
作詞・作曲:ヒポポ大王 演奏:ヒポポフォークゲリラ