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wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

自民党「日本国憲法改正草案」批判レジュメ~2016年参院選直前ヴァージョン

憲法 講演
 今晩(2016年6月15日)配信した「メルマガ金原No.2488」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
自民党日本国憲法改正草案」批判レジュメ~2016年参院選直前ヴァージョン
 
 今晩(6月15日)、「憲法をまもりくらしに活かす田辺・西牟婁会議」主催の学習会で、自民党改憲案についてお話する機会をいただきました。
 田辺市で夜7時からの開催であったため、当然、和歌山市の自宅に帰り着く時間は遅くなり、それからメルマガ(ブログ)の記事を書いている時間はありませんので、当初から、メルマガ(ブログ)に掲載することを前提にレジュメを書いていました。
 ということで、今晩の講演用に書いたレジュメ(というより講演用台本)をそのままお届けします。
 ただし、今日の講演は、質疑応答の時間を含めて1時間以内ということでしたので、これだけの分量の話ができたはずはなく、大幅にはしょりながら、「詳しくは帰宅後レジュメを読んでください」ということになったことをお断りします(結果的に、活発に質問していただいたということもあり、トータル約1時間半の学習会になりましたが)。
 講演の最初の方でもお話しましたが、私が各地の学習会で集中的に自民党改憲案についての話をして回っていたのは2013年の参院選までの時期でした。そして、今回久々に自民党改憲案について話して欲しいというご依頼があったのが、再び参院選直前の時期となったのは、決して偶然ではないでしょう。
 なお、講演の演題は、主催者からご提案があったものをそのまま採用しました。
レジュメPDFファイル(印刷される場合はこちらからどうぞ)
 

2016年6月15日(水) 西牟婁教育会館にて
憲法をまもりくらしに活かす田辺・西牟婁会議
 
           自  民  党  改  憲  案  を  斬  る 
                         ~いま主権者がなすべきこと~
 
                                      弁護士 金 原 徹 雄
                                                                
【本日のお話の構成】
1 はじめに
2 憲法をめぐる重要論点の推移
3 明文改憲の危機と参議院選
4 自民党改憲案を知るための“教材”
5 憲法は誰が守るべきものか(立憲主義とは何か)
6 「個人」が消えた自民党改憲
7 復古主義の衣をまとった「新自由主義」至上憲法
8 平和主義の放棄
9 緊急事態条項は不要であるばかりか有害
10 終わりに~いま主権者がなすべきこと~
 
1 はじめに
 本日は、「憲法をまもりくらしに活かす田辺・西牟婁会議」の学習会でお話をさせていただく機会を頂戴し、まことにありがとうございます。
 和歌山県下で行われる憲法学習会で講師を務める弁護士としては、皆さまもよくご存知のゆら登信(たかのぶ)弁護士が第一人者であり、今日の講演も、本来であれば、ゆら弁護士が最適任だったのではないかと思うのですが、いかんせん、ご存知のような事情で、学習会の講師どころではありません。
 ゆら弁護士並みのお話が出来るかどうか心許ない点もありますが、質疑応答も含めて約1時間お付き合いください。
 
 なお、話を始める前に1つお断りしておくことがあります。今日は自民党改憲案についてお話するのですが、自民党は、2012年改憲案に先立ち、2005年10月28日に「新憲法草案」を発表しています。
 同草案でも、①前文を全面的に書き換える、②9条2項を削除して自衛軍を保持する、③「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に置き換える、④22条の経済的自由を制約していた「公共の福祉に反しない限り」を削除する、⑤最高裁の下にある下級裁判所としての軍事裁判所を設置する、⑥96条の改正発議の要件を各議院の総議員の2/3から過半数に緩和する、などを提案しており、前文や9条2項の削除、改正要件の緩和などは大問題でしたが、2012年改憲案に比べれば、まだしも近代憲法の枠内に収まっていたというべきでしょう。
 従って、今日のお話で「自民党改憲案」といえば、特に断らない限り、自民党が野党時代の2012年4月27日に発表した「日本国憲法改正草案」のことを指します。 

2 憲法をめぐる重要論点の推移
 私は、ゆら弁護士ほどではありませんが、いろいろな団体から頼まれて憲法学習会の講師を務めることがあります。振り返ってみると、第二次安倍政権が誕生してからの3年半、主催者から依頼される講演のテーマが、ほぼ1年おきに交替してきたことが分かります。はなはだ大ざっぱに言えば、
 2013年:自民党日本国憲法改正草案」批判、96条先行改憲論批判
 2014年:集団的自衛権行使容認批判、立憲主義無視批判
 2015年:安保関連法(戦争法)批判
 2016年:戦争法批判(継続)、緊急事態条項批判
というものであったと思います。もちろん、これは重点の置き所が換わっていったということです。
 ところで、私にとって、自民党日本国憲法改正草案」批判をメインテーマとした講演の依頼があったのは、ほぼ3年ぶりと言ってもよいので、思えば、2013年の春から初夏にかけて、つまり前回の参院選の直前までということですが、県下の様々なところ、和歌山市だけではなく、田辺、新宮、龍神などで、自民党改憲案の危険性を指摘して回っていました。もっとも、その甲斐なく、与党(自民・公明)の圧勝を食い止めることは出来ませんでしたけど。
 
3 明文改憲の危機と参議院選
 今回、「憲法をまもりくらしに活かす田辺西牟婁会議」が学習会のテーマを自民党改憲案批判にしようとされた趣旨まではうかがっておりませんが、改憲を目指す諸政党(自民党公明党、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党)が、既に衆議院で2/3以上の勢力を持っている現在、7月の参議院選挙の結果、同院でも改憲政党が2/3以上の議席を確保するような事態となれば、いつでも改憲発議が可能となり、取り返しのつかない事態を招きかねないという危機感からではないかと推測しています。
 ここで、現在の参議院における会派別議席状況をご紹介することで、憲法を取り巻く情勢分析に代えたいと思います。
 参議院は任期6年の議員(定数242人)を3年ごとに半数(121人/選挙区73人・比例代表48人)ずつ改選します。
 現在の会派別議席状況は以下のとおりです。なお、括弧内に、今回改選期を迎える議員数と選挙区・比例の内訳を記載します。
 自由民主党           116(改選50/選挙区38+比例12)
 公明党               20(改選9/選挙区3+比例6)
 おおさか維新の会          7(改選2/比例2)
 日本のこころを大切にする党    3(改選0)
  改憲政党計   146(改選61/選挙区41+比例20)
 民進党新緑風会        64(改選46/選挙区27+比例19)
 日本共産党            11(改選3/比例3)
 日本を元気にする会・無所属会  4(改選2/選挙区1+比例1)
 社会民主党・護憲連合       3(改選2/比例2)
 生活の党と山本太郎となかまたち   3(改選2/選挙区1+比例1)
 無所属クラブ             2(改選0)
 新党改革無所属の会       2(改選1/比例1)
 無所属                7(改選4/選挙区3+比例1)
  改憲4党以外計   96(改選60/選挙区32+比例28)
 以上の議席状況によれば、改憲4党が参議院の2/3(162議席)以上を確保するためには、改選議席61を確保した上で、あと16議席上積みすれば良いということが分かります。
 今回改選期を迎えるのは、2010年、民主党菅直人政権時の選挙で当選した議員であり、各会派別の改選数を見れば分かるとおり、6年前の選挙では、比例では、自民12議席に対し、民主が16議席確保していたのです。今から見れば信じられないと思いますが(民進党で改選期を迎える比例議員数19となっているのは、6年前にみんなの党で当選した議員3人を含むという趣旨でしょう)。
 従って、手をこまねいて選挙になだれ込めば、仮に他の政党の獲得議席が6年前と全く一緒であったとしても、自民党が50+16=66、民進党が46-16=30になっただけで、改憲4党が2/3確保です。
 ちなみに、3年前の参議院選挙での獲得議席数は以下のとおりでした。
  自由民主党   65(選挙区47+比例18)
  民主党      17(選挙区10+比例7)
  公明党      11(選挙区4+比例7)
  日本維新の会   8(選挙区2+比例6)
  日本共産党    8(選挙区3+比例5)
  みんなの党      8(選挙区4+比例4)
  社会民主党    1(比例1)
  沖縄社会大衆党 1(選挙区1)
  無所属       2(選挙区2)  
 これを一瞥するだけでも、民進党が(旧みんなの党系の議員の一部が合流したにせよ)30議席確保するということでさえ、非常にハードルが高いということが分かります。
 選挙区のうち、32の1人区で「野党統一候補」擁立が目指されたのも、比例代表選挙でぎりぎりまで「統一名簿方式」が模索されるであろうことも、以上のような状況を踏まえた上でのことであり、事態はまことに危機的と言わざるを得ません。
 逆に言うと、来月の参議院選挙で改憲派が2/3を超える議席を確保できなければ、3年後の参議院選挙で改憲派がこれ以上議席を増やすことは難しく(3年前に民主党があまりに負け過ぎている)、「改憲のチャンス」が当面遠のく可能性が高いとも言えるのです。
 日本会議神社本庁などが中心となって構成する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が、有名神社の境内で初詣客に「1,000万人賛同署名」を呼びかけたり、全国各地で「憲法おしゃべりカフェ」なる改憲推進イベントを活発に開催しているのも、今年の参議院選挙後の国会による改憲発議を目指した動きであることは明らかです。
 改憲派護憲派の決戦の場が7月10日の参議院選挙であるということをあらためて強調しておきたいと思います。 

4 自民党改憲案を知るための“教材”
 わずか1時間の講演の前置きにしては長く時間をかけ過ぎましたが、ここからはいよいよ本論の「自民党改憲案を斬る」です。
 ただし、時間の都合により、細かな問題点を解説している余裕はありませんので、はじめに、皆さんが自習するための“教材”をご紹介しておきます。
 
 まず、2012年4月27日に発表された自民党改憲案そのものを読まなければ話になりません。その全文は、自民党ホームページにPDFファイルで掲載されています(現行憲法との対照形式で縦書きのもの/全30ページ)。
自由民主党「日本国憲法改正草案」(現行憲法対照) 平成24年4月27日(決定)
 それから、条文を横書きにし、条文の前に問答式の解説を添えた「Q&A」もダウンロードできます。ただし、全部で88ページもあります。
自由民主党「日本国憲法改正草案Q&A 増補版」
 自宅に家庭用プリンターのある方には、少し手間でも、88ページの「Q&A」をプリントアウトして手元に置かれることをお勧めします(モノクロ印刷で十分です)。現行憲法との対照条文自体、横書きの方が読みやすいですし、「Q&A」の解説がまた、突っ込みどころ満載で、この改憲案を作った人々の思想的背景を推測する有力な材料になりますから。
 
 次に、自習の手引きとなる参考書として、以下の2冊を推奨します。
 1冊目は、自民党改憲案の逐条解説、それも鼎談なので読みやすい(情報を詰め込むために文字がやや小さめなのが難点ですが)本です。ジャーナリストの岩上休身さんが、2人のベテラン弁護士と縦横無尽に語り合い、鼎談後に詳細な注釈も付けたというコンメンタールです。
『前夜』(増補改訂版) 梓澤和幸、岩上安身、澤藤統一郎
 現代書館 2015年12月16日刊 2700円(税込)


 もう1冊は、高名な憲法学者2人(樋口陽一東京大学名誉教授・東北大学名誉教授・日本学士院会員、小林節慶應義塾大学名誉教授・弁護士)による対談で、自民党改憲案の本質的問題点を、深い学識を踏まえ、これほど分かりやすく解説してくれた本は他にないと思います(絶対のお奨めです)。
『「憲法改正」の真実』 樋口陽一、小林 節
 集英社新書 2016年3月22日刊 861円(税込)
 
 
 
 “教材”の最後は視聴覚教材です。しかも、無料で視聴できます(1枚500円のDVDも継続販売されていますが)。弁護士の伊藤真さんが2013年4月に語りおろしたDVD「憲法ってなあに?憲法改正ってどういうこと?」(55分)は、タイトルのとおり、憲法とは何か?自民党改憲案の問題点はどういうところにあるのか?について、実に分かりやすく解説されており、初めて視聴した時、私は「目から鱗とはこのことだ!」と感激し、以後、和歌山県下で憲法学習会の講師を頼まれるたびに持参し、2013年のうちに200枚以上売りまくりました。
 そして、収録から丸1年が経過した2014年4月30日、この動画は「憲法ってなあに?」というタイトルでYouTubeに無償アップロードされました。


5 憲法は誰が守るべきものか(立憲主義とは何か)
 問題続出の自民党改憲案の中でも、とりわけ重大な肝となる条文は、樋口先生、小林先生が語られているとおり、現行13条「すべて国民は、個人として尊重される。」が「全て国民は、人として尊重される。」に変更され、「個人」が消滅していることでしょう。
 この点については後ほど触れられればと思いますが、以下には、2012年4月27日に自民党改憲案が発表された後、私自身が自民党ホームページに掲載された改憲案をざっと通読した時に最も衝撃を受けた条文「102条1項 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」を中心に、やや詳細に自民党改憲案の反立憲主義ぶりをご紹介しようと思います。
 
 さて、この改憲案を最初の前文から読み始めた人は、「なんて義務規定が多いんだ」と思われるでしょう。ざっと目に付く規定を抜き出してみます。
 
3条2項 日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない。
9条の3 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
12条後文 国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
19条の2 何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。
21条2項 前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
24条1項後文 家族は、互いに助け合わなければならない。
25条の2 国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるように
その保全に努めなければならない。
28条2項前文 公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。
92条2項 住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。
99条3項 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
102条1項 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
 
 この一々にコメントを付すことも可能ですが、それをやり出すときりがありません。ただ、12条後文は、まず日本語になっていません。改憲派は、現行憲法が翻訳憲法であって日本語としておかしいと批判しますが、十分意味は伝わります。これに対し、自民党改憲案の12条後文はそもそも文法的に成り立ちません。
 
 それはそれとして、私は、この自民党改憲案を、発表されてから遅くとも6日以内には読んでいます。なぜはっきりそう言えるかと言うと、2012年5月3日に配信した「メルマガ金原」で「憲法記念日に考える(立憲主義ということ)」という記事を書いているからです。
  ブログに転載した前編
 それは、改憲案102条1項「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」を読んだ衝撃によって一気に書き上げたものでした。
 私が言わんとしたのはこういうことです。やや長くなりますが、この部分が今日のお話のポイントなので、我慢してお付き合いください。
 
 現行の日本国憲法は、97条から99条までの3箇条で「第10章 最高法規」という章を設けています。引用してみます。

第97条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第98条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。 第99条 天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
 
 「第1章 天皇」「第2章 戦争の放棄」「第3章 国民の権利及び義務」「第4章 国会」「第5章 内閣」「第6章 司法」「第7章 財政」「第8章 地方自治」「第9章 改正」までは、どういうことが規定されているのか、章の標題だけからでも、ある程度は推測がつくと思いますが、「最高法規」という第10章の標題を読んだだけで何らかのイメージがわく人がどれほどいるでしょうか?実際に3箇条の条文を読んでみたらどうでしょう?
 「どうやら憲法が一番偉い規定であって、他の法律などは憲法に違反すると効力がないということを定めたのかな」位のことは(98条にそう書いてあるのですから)誰でも分かると思いますが、最高法規性を定めた98条と、その前後の97条、99条との関係、何故この3箇条で一つの章をわざわざ設けているのか、ということは少し説明を加える必要があります。
 実は、今日のお話は、この第10章の意義とこれをなきものにしようとしている自民党改憲案の対比を説明すれば、ほぼそれで尽きると言ってもよい位なのです(というか、他にも重要な論点はあるのですが、多分お話している時間がありません)。
私自身、日本国憲法の条文を初めて通読したのは、大学の1回生として教養課程の「憲法」を受講した時だったから相当昔のことですが、その時は、「第10章 最高法規」の本当の意義は全然分かっていませんでした。
 学生時代の私が何より疑問に思ったのは97条でした。基本的人権の重要性を強調するのであれば、「第3章 国民の権利及び義務」の最初の方に置けば良いし、実際、第3章には既に以下のような条文が置かれています。
 
第11条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
 
 大学に入ったばかりの私には97条の存在意義が理解できず、「11条や12条と無駄に重複しているのではないか」などと考えていたものです。97条や99条の重要性を理解するまで、相当時間がかかったように記憶しています。
 ここで、97条及び99条の意義を理解するためのこれ以上ない「反面教師」として、自民党改憲案「第11章 最高法規」を読んでおきましょう。
 
現行の第97条 → 全文削除
憲法の最高法規性等)
第101条 この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
憲法尊重擁護義務)
第102条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。
 
 どこをどう変えようとしているのかを確認しましょう。
 97条はどうなったか?「全面削除」です。これについて、自民党「Q&A(増補版)」は、「我が党の憲法改正草案では、基本的人権の本質について定める現行憲法 97条を削除しましたが、これは、現行憲法 11 条と内容的に重複していると考えたために削除したものであり、「人権が生まれながらにして当然に有するものである」ことを否定したものではありません。」としています。
 けれども、そらなら何故11条ではなく97条の方を削除したのかについては一言も触れられていません。
 現行98条は、ほぼそのまま101条となっていますが、現行99条の憲法尊重擁護義務はどうなったか?
 まず、現行規定にはなかった「国民」の憲法尊重義務なるものが102条1項として規定されています。
 102条2項には、現行の99条からあえて「天皇又は摂政」を削除した上で、公務員の憲法擁護義務を残しています。
 
 ここで、「立憲主義」とは何かを考えるために、迂遠なようではありますが、日本で最初の近代的「憲法」として制定された「大日本帝国憲法」を振り返っておきたいと思います。
 1888年(明治21年)6月22日(大日本帝国憲法公布の約8か月前)、憲法草案を審議していた枢密院において、議長である伊藤博文が述べた以下の発言は非常に著名なものです。
 
「そもそも、憲法を創設するの精神は、第一君権を制限し、第二臣民の権利を保護するにあり。ゆえに、もし憲法において臣民の権利を列記せず、ただ責任のみを記載せば、憲法を設くるの必要なし」(原文は旧字・カタカナ・句読点なしなので、読みやすくしました)
 
 そして、大日本帝国憲法「第2章 臣民権利義務」の中で、臣民に直接義務を課す規定は、兵役の義務(20条)と納税の義務(21条)を定めた2箇条だけにとどめられていました。
 伊藤博文が正しく指摘しているように、そもそもなぜ憲法を定めるかと言えば、それは国民の権利・自由を保障する(臣民の権利を保護する)ためであって、そのために国家権力に制限を加える(君権を制限し)必要があるからです。つまり、「憲法を守らなければならない」という規範の名宛人は国家であって国民ではない、というのが大原則なのであって、これが「立憲主義」の本質です。
伊藤博文の発言の淵源の1つが、1789年~大日本帝国憲法発布のちょうど100年前~フランス人権宣言(人及び市民の権利の宣言)16条「権利の保障が確保されず、権力の分立が規定されないすべての社会は、憲法をもつものでない。」(岩波文庫「人権宣言集」の訳による)にあることは言うまでもありません。
 
 ここまで書けば、現行憲法の「第10章 最高法規」において、憲法の形式的最高法規性を明示した98条に先立ち、基本的人権の不可侵性を強調した97条がなぜその直前に置かれねばならなかったかが理解されるでしょう。
 97条は、憲法が最高法規でなければならないその根拠を明示した規定なのです。
 そして、99条の憲法尊重擁護義務に列挙された「天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員」は、正に最高法規である憲法規範の名宛人である国家を実際に運営する主体であるがゆえに、明示的に「憲法尊重擁護義務」が課せられているのです。
 以上のとおり、97条-98条-99条という第10章の3箇条は、非常に論理的なつながりをもって構成されており、最も根本的な憲法の基本原理である「立憲主義」を明らかにした章なのです。
 
 さて、自民党改憲案です。
 97条が全面削除されることにより、伊藤博文の言う「臣民の権利を保護する」という憲法の最も重要な目的が消えてなくなっています。
 98条の形式的最高法規性はそのまま残っていますが、現行の第10章において、真に重要な規定は97条と99条であり、98条はこれらの条文の存在理由を論理的に明らかにするために必要であったため、97条と99条の間に置かれた規定です。
 考えてもみましょう。憲法が形式的に法律等の規範より上位にあるなどということは、規定があろうがなかろうが「当たり前」でしょう?
 そしてとどめは99条です。自民党は新102条で、あろうことか国民の憲法尊重義務をまず規定しました。
 実はこの規定に限らず、先に列挙したとおり、自民党改憲案には国民に義務を課す規定が目白押しです。数え方にもよりますが、新たな義務規定が少なくとも10箇所はあります。
 自民党改憲案は、国際標準で言えば「憲法」の名に値しません。
 もちろん、世界には様々な国家があり、それぞれ憲法を持っているのですから、伊藤博文が述べたような意味での「立憲主義」に立脚した憲法ばかりではなく、国民の自由・権利よりも「公益や公の秩序」を重しとする全体主義国家の憲法もあるでしょう(特定のファミリーが三代にわたって強権的に国民を支配している国も近隣にありますしね)。
 しかし、そのような「立憲主義」に立脚しない「憲法」は、「近代的意義の憲法」とは言いません。自民党は、「立憲主義」を捨て去ることによって、日本を全体主義国家にしようと提唱していると言わざるを得ません。 

6 「個人」が消えた自民党改憲
 立憲主義について詳しく論じたため、それ以外の論点については簡単に触れるにとどめます(時間がなくなってきました)。もともと、こういうことになるだろうと思い、「4 自民党改憲案を知るための“教材”」を先にご紹介しておいたのです。
 ただ、そうは言うものの、13条の「個人」の消滅には一言せざるを得ません。
 先にも少し触れましたが、多くの憲法学者が、現行憲法の最重要条文(の1つ)と認める13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」を、自民党改憲案は「全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。」に改めようとしています。
 「公共の福祉」から「公益及び公の秩序」への変更については、憲法学者の間でも意見が別れるところのようですが、それよりも問題なのは、「個人」から「人」への変更です。
 これについて自民党「Q&A」は、黙して語りません。  
 しかし、総論部分の「Q&A」を読むことにより、だいたいの推測はつきます。
 
Q14「日本国憲法改正草案」では、国民の権利義務について、どのような方針で規定したのですか?
 国民の権利義務については、現行憲法が制定されてからの時代の変化に的確に対応するため、国民の権利の保障を充実していくということを考えました。そのため、新しい人権に関する規定を幾つか設けました。
 また、権利は、共同体の歴史、伝統、文化の中で徐々に生成されてきたものです。したがって、人権規定も、我が国の歴史、文化、伝統を踏まえたものであることも必要だと考えます。現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。
例えば、憲法 11 条の「基本的人権は、……現在及び将来の国民に与へられる」という規定は、「基本的人権は侵すことのできない永久の権利である」と改めました。
 
 これについては、Q44の答において、「人権は、人間であることによって当然に有するものです。我が党の憲法改正草案でも、自然権としての人権は、当然の前提として考えているところです。ただし、そのことを憲法上表すために、人権は神や造物主から「与えられる」というように表現する必要はないと考えます。こうしたことから、我が党の憲法改正草案11条では、「国民は、全ての基本的人権を享有する。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利である。」と規定し、人権は神から人間に与えられるという西欧の天賦人権思想に基づいたと考えられる表現を改めたところです。」と説明しており、Q14において「西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われる」「こうした規定は改める必要がある」としたのは、単なる「表現」の問題について述べただけだと主張しているようです。
 
 しかし、問題の本質は、造物主(などと日本国憲法は書いていない)から「与へられる」と書こうが「永久の権利である」と書こうが、権利(人権)の主体が、他人とは異なった一人一人のかけがえなのない「個人」であると考えるかどうかという点にあるのです。
 「Q&A」Q14における「現行憲法の規定の中には、西欧の天賦人権説に基づいて規定されていると思われるものが散見されることから、こうした規定は改める必要があると考えました。」は、表面上は、「表現」の問題にとどまるようでありながら、「個人の尊重」という日本国憲法の最重要規定を骨抜きにし、国家主義憲法を確立しようという底意が透けて見えてしまったということでしょう。
 
7 復古主義の衣をまとった「新自由主義」至上憲法
 「4 自民党改憲案を知るための“教材”」で推奨した『「憲法改正」の真実』では多くのことを学ばせてもらいましたが、その中でも重要ポイントの1つがこの論点です。
 上記著書から樋口陽一先生の発言を引用します(149~156頁)。
 
「「美しい国土」などについて謳う前文をもう一度、見てください。同じ前文のなかに、異様な規定があるでしょう。「活力ある経済活動を通じて国を成長させる。」」
「つまり、自民党改正草案が憲法になると、いわゆる新自由主義が国是になってしまうのです。」
「うっかり制限をつけ忘れたわけではないのでしょう(金原注:22条の経済活動の自由から「公共の福祉」による制限を削除したこと)。用意周到に、前文で新自由主義を国是とする宣言を行い、経済的領域における基本権だけ自由を拡大しているのです。」
「効率重視、競争の拡大を進めて、無限の経済成長を目標に置けば、「国と郷土」「和」「家族」「美しい国土と自然環境」「良き伝統」、この全部は壊れていまいます。片方で日本独特の価値を追及しつつ、他方国境の垣根を取り払い、ヒト・モノ・カネの自由自在な流通を図るグローバル化を推進するというのは、矛盾というほかありません。」
「論理的にはひどく矛盾していますね。けれども、実はこの二つは表裏一体なのかもしれません。つまり、「美しい国土」など復古調の美辞麗句は、競争によって破綻していく日本社会への癒しとして必要とされた、偽装の「復古」なのではないかと思うのです。」
 
 22条1項の経済的自由についての規定を比較しておきましょう。
 
現行憲法
22条1項 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
自民党改憲
22条1項 何人も、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
 
 はたして樋口先生が言われるように、復古調の美辞麗句が「偽装の「復古」」なのかどうかについて、私にはにわかに断言することができません。
 しかし、2012年の改憲案制定から現在の安倍政権に至るまで、事実上、日本政治の駆動力が、復古反動勢力と新自由主義勢力の微妙な(これまでは絶妙な?)バランスの上に成り立っていると考えれば、かなり明瞭な見取図を描くことができるように思います。 

8 平和主義の放棄
 2014年7月の閣議決定、2015年9月の安保関連法強行成立により、憲法の平和主義は蹂躙されてきましたが、その総仕上げが9条「改正」です。
 自民党改憲案を参照しておきましょう。
 まず、現行憲法の前文を全面的に書き換え(そんなことが論理的に可能なのか?という疑問もあるのですが)、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」も、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」も、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」も、「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」も一切なく、単に「平和主義の下」と書くだけです。
 ついでに、自民党改憲案の前文について一言すれば、「先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し」には「反省」という契機は完全に欠落しており、「今や国際社会において重要な地位を占めており」に至っては、夜郎自大の卑しい表現と言うしかありません。
 あと、現行憲法9条2項の戦力不保持、交戦権否認を削除した上で認める「自衛権の発動」には、当然ながら集団的自衛権も含まれます。
 なお、9条の2以下の規定については、「法律の定めるところにより」とか「法律で定める」が頻出しており(他の条項でもそうですが)、ほとんど憲法でしばりをかけるという機能を果たしていません。
 
(前文)
 日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
 我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
 日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
 我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
 日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。
(平和主義)
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
国防軍
第9条の2 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2 国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。
 この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
(領土等の保全等)
第9条の3 国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
 
9 緊急事態条項は不要であるばかりか有害
 自民党改憲案は、「第9章 緊急事態」という一章を設けています。まず条文を読んでみましょう。
 
(緊急事態の宣言)
第98条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。
4 第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を準用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
(緊急事態の宣言の効果)
第99条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上 必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。2 前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
 
 該当部分の「Q&A」も引用しておきます。
 
Q39緊急事態に関する規定を置いたのは、なぜですか?
 8章の次に2条から成る新たな章を設け、「緊急事態」について規定しました。具体的には、有事や大規模災害などが発生したときに、緊急事態の宣言を行い、内閣総理大臣等に一時的に緊急事態に対処するための権限を付与することができることなどを規定しました。
 国民の生命、身体、財産の保護は、平常時のみならず、緊急時においても国家の最も重要な役割です。今回の草案では、東日本大震災における政府の対応の反省も踏まえて、緊急事態に対処するための仕組みを、憲法上明確に規定しました。このような規定は、外国の憲法でも、ほとんどの国で盛り込まれているところです。
 
 以上のとおり、立法事実として挙げられているのは「東日本大震災における政府(注・民主党政権)の対応の反省」とある部分だけです。
 このようなあるのかないのかすら曖昧な立法事実で、99条に規定するような強大な独裁権限を内閣総理大臣に付与する規定を新設する必要性・合理性がどこにあるのでしょうか。
 しかもこの緊急事態条項は、改憲政党が参議院でも2/3以上の議席を確保すれば、まず最初の改憲発議の対象となるものと想定されており、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」なども、重点的に緊急事態条項の必要性を訴えるパンフレット類を配布するなどして、改憲機運の醸成に躍起となっています。
 改憲派のいう「外国の憲法でも、ほとんどの国で盛り込まれているところです。」について、東京大学石川健治教授(憲法学)が、今年の4月30日、日弁連主催のシンポジウムで次のように述べたことが印象に残っているのでご紹介します。
 
「『海外では(憲法に緊急事態条項があるのが)普通である』ということですが、確かに、緊急事態条項を持っている国は多いということがあります。何故そうなのかというと、その国は『戦争する』からなんですね。簡単にいえば、戦争をする準備である。我々は少なくとも『戦争を絶対しない』という憲法を持っているということですから、結局、根本問題はどこかということです。逆にいえば、根本問題を先送りして、緊急事態条項だけを作るということには意味がないということです。」
 
 日本では、大規模災害に備えて緊急事態条項が必要というプロパガンダが盛んですが、災害時には現場に権限を下ろすことこそ重要であって、内閣総理大臣に権限を集中する緊急事態条項は百害あって一利なしであることは、災害支援に深く関わってきた弁護士やNPO関係者らの一致した意見です。
 また、日本国憲法制定時の国会審議における政府側答弁者(金森徳次郎国務大臣)の答弁内容からも、現行憲法に旧憲法における緊急勅令等に相当する規定を置かなかったのは意図的であったことが分かります。
 そのことを示す文献(現行憲法公布時に内閣が発行した『新憲法の解説』)から該当部分を引用します。
 
明治憲法においては、緊急勅令、緊急財政処分、また、いわゆる非常大権制度等緊急の場合に処する途が広くひらけていたのである。これ等の制度は行政当局にとっては極めて便利に出来ており、それだけ、濫用され易く、議会及び国民の意思を無視して国政が行われる危険が多分にあった。すなわち、法律案として議会に提出すれば否決されると予想された場合に、緊急勅令として、政府の独断で事を運ぶような事例も、しばしば見受けられたのである。
 新憲法はあくまでも民主政治の本義に徹し、国会中心主義の建前から、臨時の必要が起れば必ずその都度国会の臨時会を召集し、又は参議院の緊急集会を求めて、立憲的に、万事を措置するの方針をとっているのである。」 
 
10 終わりに~いま主権者がなすべきこと~
(1)憲法を取り巻く様々な「危機」の具体的内容をしっかりと見定める必要があります。そのためにも学習を怠らないようにしなければなりません。
(2)とりわけ、自民党日本国憲法改正草案」については、集中的に理解を進める必要があります。そのために、「4 自民党改憲案を知るための“教材”」でご紹介した文献や動画を活用してください。
(3)そして、学んだ者は、自らが改憲阻止のための「伝道師」としての役割を果たす自覚を持たなければなりません。まずは家族、親戚から。さらに自らの周囲へ。憲法に関心の薄かった者を1人でも説得できれば、立派な「護憲の伝道師」です。
(4)「伝道」の方法は、1人1人が最も得意とするところで力を発揮すべきです。対面による話し合いが効果的だとは思いますが、それが不得手な人は手紙やメールでもよいでしょう。
 食わず嫌いでソーシャルメディアを敬遠するのではなく、TwitterFacebookにも果敢に挑戦してください。ただし、あまりのめり込み過ぎても問題ですが。
(5)来るべき7月の参議院議員通常選挙に向けての目標は明確です。改憲政党(自民党公明党、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党)の獲得議席を1議席でも少なくすることに尽きます。その結果として、何としても改憲政党が参議院で2/3以上の議席を確保することを阻止しなければなりません。
(6)新たに選挙権を持つに至った18歳、19歳の有権者をはじめ、これまであまり投票所に足を運んでいなかった若者層への働きかけを最優先課題として取り組んでいただきたいと思います。手近なところで、自分の子供や孫、甥、姪に声をかけていますか?
(7)現実の情勢は冷静に分析しなければなりませんが、とはいえ、いかに情勢が厳しくとも、絶対に諦めないように1人1人が仲間を鼓舞するという意識を常に持つことが必要です。「評論家」になって、上から目線で仲間を批判したりするのは最悪です。
(8)ともに頑張りましょう。 
                                             以上
 

(付録)
『この島~憲法九条のうた~』 作詞・作曲:からすのまさき 演奏:m&n

※“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2015”より
 
(歌詞)
この島が誇り高く
思うべきことは
小惑星の探査機じゃない
空の中を木登りすることじゃない
 
ハイブリッドのくるまじゃない
細胞研究の成果じゃない
それはわずか数行のことば
じっくり読んでみたことがあるかい
 
この島は 平和を求め
その民に託す
争そうときには 力ずく以外で 解決しなさい
 
「平和」を名乗る定めは
受け継がれるだろうか
いくさから解き放たれた
人類のこれからの手引き
 
この島は 平和を守り
その民へと つなぐ
武器を持つことも 使うことも 認めてはならない
 
ひとよりひどいことをひとにして
ひとよりひどい仕打ちをひとにされ
当然の報いとしての裁きが
いま 恵みとなる
 
一度侵した過ちを
二度と繰り返さぬよう
 
この島は 平和を守り
未来へとつなぐ
争そうときには 力ずく以外で 解決しなさい