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「松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の安定ヨウ素剤についての記述を読んで欲しい

 今晩(2016年10月2日)配信した「メルマガ金原No.2587」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の安定ヨウ素剤についての記述を読んで欲しい

 今日お届けするのは、昨日ご紹介した「自由なラジオ LIGHT UP!」第26回に登場された菅谷昭(すげのや・あきら)さんが市長を務める長野県松本市が制定した「松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の中の、特に「安定ヨウ素剤」について定めた部分です。
 内陸県である長野県には原子力発電所はありませんし、隣接する静岡県の浜岡原発新潟県柏崎刈羽原発からも30㎞以上は離れています。けれども、日本での地位をなげうち、ベラルーシでの小児甲状腺癌の外科治療を中心とした医療支援活動に献身的に従事された菅谷さんが市長を務めるだけあり、松本市の上記マニュアルは、原子力災害に備えて実に周到な定めをしており(特に安定ヨウ素剤の予防服用について)、是非多くの人に読んでいただきたいと思いました。
 
 実は、この「災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の存在に気がついたのは、「自由なラジオ LIGHT UP!」ホームページの中の第26回アーカイブの画像において、パーソナリティのいまにしのりゆきさん、一緒にゲスト出演した小出裕章さんと並んで写真に写っている菅谷市長が、誇らしげに手に持っておられる冊子の存在が目にとまったからでした。
 文字は小さくてよく読めませんが、黄色い表紙に赤い原子力マークがあざやかでした。そして、文字起こしされたテキストを読んでいくと、松本市では、3.11の翌年(平成24年)から、地元の医師会、歯科医師会、薬剤師会などと一緒になってしっかり検討し、「災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」を作成したこと、安定ヨウ素剤については、住民の分だけではなく、観光客などのための分も備蓄して万一に備えているということが分かりました。
 そこで、松本市ホームページを調べてみたという次第です。
 
 なお、これまでもメルマガ(ブログ)でご紹介してきたところですが、都道府県及び市町村は、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)第28条第1項の規定により読み替えて適用する災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第40条及び第42条の規定により、防災基本計画及び原子力災害対策指針(平成24年10月31日原子力規制委員会)に基づく地域防災計画を作成することが求められています。
 当然、松本市でも「地域防災計画 原子力災害対策編」を定めています。
 その中で、「安定ヨウ素剤」についてどのように定められているかを見ておきましょう。
 
松本市地域防災計画 原子力災害対策編
(抜粋引用開始)
第3章 災害応急対策
第4節 防護措置等
第3 医療体制及び安定ヨウ素剤の予防服用(健康福祉部、危機管理部)
 原子力災害時における医療体制及び安定ヨウ素剤の予防服用に関する実施手順等は、「松
本市災害時医療救護活動マニュアル原子力災害編」に規定する。
(引用終わり)
 
 このように、原子力災害に備えた防災計画の中で、「医療体制及び安定ヨウ素剤の予防服用に関する実施手順等」は別に詳細・具体的なマニュアルを作っているのです。
 その「松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の中から、「安定ヨウ素剤の予防服用」に関わる部分を(これだけでも何ページにもなりますが)、煩をいとわず引用したいと思います。

 ただ、この松本市のマニュアルをお読みいただく前に、現在の「原子力災害対策指針」(原子力規制委員会)が、「安定ヨウ素剤の予防服用」についてどのように定めているかを見ておきましょう。これにより、松本市のマニュアルの特色がより良く理解できると思いますので。
 以下、「原子力災害対策指針」(茶色)と「松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」(紺色)のうち、「安定ヨウ素剤の予防服用」に関わる部分を、いずれも相当長文ですが、全部引用します。
 
 この両者を読み比べた上での私の感想を、早手回しではありますが、ここで書いておきます。
 松本市の「松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の「安定ヨウ素剤」に関わる部分の重要ポイントは以下の3点だと思います。
 第1に、各戸配布、学校備蓄、緊急配布用備蓄などを通して、十分な量の安定ヨウ素剤を事前に備蓄しておくことがきめ細かく定められており、万一の場合に速やかな対応がとれるようになっています。
 松本市は、原子力災害対策重点区域ではありませんが、このような備蓄を行うことにより、緊急時に安定ヨウ素剤を入手するために駆け回るなどの必要がなくなり、以下に述べるような独自の「判定」や「勧告」を行うための物質的基盤が平常時から準備されているということになります。
 第2に、住民に安定ヨウ素剤の服用を「勧告」するかどうかは、松本市に設置される「本部医務班」(マニュアルに「本部医務班は、松本市医師会、松本市歯科医師会、松本薬剤師会、医療機関、関係行政機関及び松本市で構成し、松本市医師会長が班長及び災害医療コーディネーターを担って、原子力災害医療活動の総合調整を行います。」とあります)が「判定」を行った上で市長に「提言」し、これを踏まえて市長が服用の「勧告」を行うことになっています。つまり、国や長野県の指示を待つのではなく、松本市が自分たちで決めることにしているのです。福島第一原発事故に際し、多くの自治体が国や福島県からの指示を待ちながら時機を逸し、あたら住民を被ばくさせてしまった(自治体が独自の判断で住民に安定ヨウ素剤の組織的な服用を勧めたのは三春町だけだった)という「教訓」を誠実に受け止め、今後に活かそうとすれば、こういうやり方しかないだろうと私は思います。
第3に、安定ヨウ素剤の「備蓄量」を定めるにあたり、「市民」のためだけではなく、「市内滞留者(学生、就業者、観光客、避難者等)のうち40歳未満の者及び妊産婦約2万人分」も備蓄することになっているということです。これを読んで、福島県から関西に避難してきた女性の手記を思い出していただけた方は、相当以前から私のブログを熱心に読んでくださっている方でしょう。その女性は、3.11の地震によって自宅が損壊し、無事だった実家に子どもとともに避難していたところ、実家のある町で40歳以上の「住民」に安定ヨウ素剤が配布されることになったものの、他の町に住民登録していたため、子どものための安定ヨウ素剤をどうしても入手してやることができなかった母親の痛切な悲しみを手記で述べられていました。このような悲劇を二度と繰り返さないようにするためには、松本市のような対策がどうしても必要だと思います。もちろん、原発を動かさないことが最大の安全対策であることは言うまでもありませんが。
 
 なお、国の「原子力災害対策指針」においても、UPZ(概ね半径30㎞圏)内の地方自治体に対し、安定ヨウ素剤を備蓄すべきことは指示されていますが、松本市のような原子力災害対策重点区域ではない圏外の自治体については、特段の指示はないようです。
 また、松本市のマニュアルにいう「市内滞留者」については、国の指針でも「・地方公共団体は紛失等により安定ヨウ素剤を即時に服用できない住民や一時滞在者等に対して追加配布できるよう予備の安定ヨウ素剤を備蓄する。」という規定はあるものの、直接には、PAZ(概ね半径5㎞圏)内の自治体を対象とした規定ですから、松本市のように、圏外にもかかわらず、観光客や避難者も想定した上で、日ごろから十分な備蓄しておく地方自治体はめったにないかもしれません。
 それよりも、「原子力災害対策指針」で問題だと思うのは、「放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐため、原則として、原子力規制委員会が服用の必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づいて、安定ヨウ素剤を服用させる必要がある。」という部分です。これでは東京電力福島第一原発事故の教訓を全く活かせないないのではないかという懸念をぬぐうことができません。
 ここで、今年8月に3号機が再稼働した四国電力伊方原子力発電所の立地自治体である愛媛県伊方町の「地域防災計画 原子力災害対策編」を見てみましょう。
 
伊方町 地域防災計画(原子力災害編)
伊方町避難行動計画

(抜粋引用開始)
7-1 安定ヨウ素剤の配備、服用等
(1)PAZ(金原注:概ね半径5㎞圏)内においては、全面緊急事態に至った時点で、直ちに、避難と安定ヨウ素剤の服用について指示を出すため、原則として、原子力規制委員会の指示に従い安定ヨウ素剤を服用するものとする。
 ただし、安定ヨウ素剤を服用できない者、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの健康影響が大人よりも大きい乳幼児、乳幼児の保護者等については、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において、優先的に避難するものとする。
 このような迅速な服用を可能とするために、住民に対して事前に安定ヨウ素剤を配布する。この事前配布にあたっては、原則として医師による説明会などを開催する。
(2)UPZ(金原注:概ね半径30㎞圏)内においては、全面緊急事態に至った場合、町においては全面緊急事態において町内全域避難としたことから、安定ヨウ素剤は、一時集結所で受取り、避難等の際、指示に従い服用する。
(下線は金原による)
(引用終わり)
 
 基本的に「指針」のとおりであり、「原子力規制委員会の指示に従い」「服用する」です。大丈夫なんでしょうか?
 
 以下、「原子力災害対策指針(原子力規制委員会)」と「松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編」の「安定ヨウ素剤」に関する記述を引用します。かなり長いものであり、技術的な部分もありますが、「我がこと」として、読み込んでいただければと思います。
 
原子力災害対策指針(原子力規制委員会)
(抜粋引用開始)
第2 原子力災害事前対策
(7)原子力災害時における医療体制の整備・
安定ヨウ素剤予防服用の体制
(ⅰ)安定ヨウ素剤の予防服用について
 放射性ヨウ素は、身体に取り込まれると、甲状腺に集積し、数年~十数年後に甲状腺がん等を発生させる可能性がある。このような内部被ばくは、安定ヨウ素剤をあらかじめ服用することで低減することが可能である。このため、放射性ヨウ素による内部被ばくのおそれがある場合には、安定ヨウ素剤を服用できるよう、その準備をしておくことが必要である。
 ただし、安定ヨウ素剤の服用は、その効果が服用の時期に大きく左右されること、また、副作用の可能性もあることから、医療関係者の指示を尊重して合理的かつ効果的な防護措置として実施すべきである。また、体制整備に際しては、関連法制度及び技術面等の最新の状況を反映するよう努めるとともに、以下のような点に留意する必要がある。
・服用の目的や効果とともに副作用や禁忌者等に関する注意点等については事前に周知する。
地方公共団体は、原子力災害時の副作用の発生に備えて事前に周辺医療機関に受入の協力を依頼等するとともに、緊急時には服用した者の体調等を医師等が観察して必要な場合に緊急搬送が行うことができる等の医療体制の整備に努める。また、平時から訓練等により配布・服用方法の実効性等を検証・評価し、改善に努める必要がある。
(ⅱ)事前配布の方法
 原子力災害対策重点区域のうちPAZ(金原注:概ね半径5㎞圏)においては、全面緊急事態に至った場合、避難を即時に実施するなど予防的防護措置を実施することが必要となる。この避難に際して、安定ヨウ素剤の服用が適時かつ円滑に行うことができるよう、以下の点に留意し、平時から地方公共団体が事前に住民に対し安定ヨウ素剤を配布することができる体制を整備する必要がある。
地方公共団体は、事前配布用の安定ヨウ素剤を購入し、公共施設(庁舎、保健所、医療施設、学校等)で管理する。
地方公共団体は、事前配布のために原則として住民への説明会を開催する。説明会においては、原則として医師により、安定ヨウ素剤の配布目的、予防効果、服用指示の手順とその連絡方法、配布後の保管方法、服用時期、禁忌者やアレルギーを有する者に生じ得る健康被害、副作用、過剰服用による影響等の留意点等を説明し、それらを記載した説明書とともに安定ヨウ素剤を配布する。
地方公共団体は、説明会に参加できない住民に対しては、医師による説明を受けることができる公共施設や医療機関に住民が出向き、説明を受けた上で受領できるよう対応する必要がある。歩行困難である等のやむを得ない事情により説明が受けられない者には、説明会に参加した家族や公共施設等に出向いた家族等が代理受領し、説明書とともに説明内容を当該対象者に伝えることを確認した上で配布する。
地方公共団体は、配布や代理受領に際しては、他の者に譲り渡さないよう指示するとともに、調査票等への回答や問診の実施等を通じて禁忌者やアレルギーの有無等の把握に努める。
地方公共団体は、配布等を円滑に行うために、説明会等において、薬剤師に医師を補助等させることができる。
地方公共団体は紛失等により安定ヨウ素剤を即時に服用できない住民や一時滞在者等に対して追加配布できるよう予備の安定ヨウ素剤を備蓄する。また、追加配布方法等について説明会等を通じて説明する。
地方公共団体は、放射性ヨウ素による内部被ばく予防が必要な住民に対して必要な量の安定ヨウ素剤のみを事前配布する。
地方公共団体は、転出者又は転入者があった場合は速やかに安定ヨウ素剤を回収又は配布するよう努める。また、安定ヨウ素剤の更新時期の管理方法と期限切れ製剤の確実な回収方法についてあらかじめ定め、実施する。
(ⅲ)事前配布以外の配布方法
 UPZ(金原注:概ね半径30㎞圏)においては、全面緊急事態に至った場合、プラント状況や空間放射線量率等に応じて、避難等の防護措置を講じることとなる。そのため、以下の点に留意して、避難等と併せて安定ヨウ素剤の服用を行うことができる体制を整備する必要がある。
地方公共団体は、緊急時に備え安定ヨウ素剤を購入し、避難の際に学校や公民館等で配布する等の配布手続きを定め、適切な場所に備蓄する。
安定ヨウ素剤の配布・服用は、原則として医師が関与して行うべきである。ただし、時間的制約等のため必ずしも医師が関与できない場合には、薬剤師の協力を求める等、状況に応じて適切な方法により配布・服用を行う。なお、EALの設定内容に応じてPAZ内と同様に予防的な即時避難を実施する可能性のある地域、避難の際に学校や公民館等の配布場所で安定ヨウ素剤を受け取ることが困難と想定される地域等においては、地方公共団体安定ヨウ素剤の事前配布を必要と判断する場合は、前述のPAZ内の住民に事前配布する手順を採用して、行うことができる。
(略)
第3 緊急事態応急対策
(5)防護措置
安定ヨウ素剤の予防服用
 放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐため、原則として、原子力規制委員会が服用の必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体の指示に基づいて、安定ヨウ素剤を服用させる必要がある。原子力規制委員会の判断及び原子力災害対策本部の指示は安定ヨウ素剤を備蓄している地方公共団体に速やかに伝達されることが必要である。
 安定ヨウ素剤の予防服用に当たっては、副作用や禁忌者等に関する注意を事前に周知するほか、以下の点を留意すべきである。
安定ヨウ素剤の服用は、放射性ヨウ素以外の他の放射性核種に対しては防護効果が無い。
安定ヨウ素剤の予防服用は、その防護効果のみに過度に依存せず、避難、屋内退避、飲食物摂取制限等の防護措置とともに講ずる必要がある。また、不注意による経口摂取の防止対策も講じる必要がある。
・緊急時に投与・服用する場合は、精神的な不安などにより平時には見られない反応が認められる可能性がある。
・年齢に応じた服用量に留意する必要がある。特に乳幼児については過剰服用に注意し、服用量を守って投与する必要がある。
 また、安定ヨウ素剤の服用の方法は、原子力災害対策重点区域の内容に合わせて以下のとおりとするべきである。
・PAZ(金原注:概ね半径5㎞圏)においては、全面緊急事態に至った時点で、直ちに、避難と安定ヨウ素剤の服用について原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示を出すため、原則として、その指示に従い服用する。ただし、安定ヨウ素剤を服用できない者、放射性ヨウ素による甲状腺被ばくの健康影響が大人よりも大きい乳幼児、乳幼児の保護者等については、安定ヨウ素剤を服用する必要性のない段階である施設敷地緊急事態において、優先的に避難する。
・PAZ外においては、全面緊急事態に至った後に、原子力施設の状況や緊急時モニタリング結果等に応じて、避難や一時移転等と併せて安定ヨウ素剤の配布・服用について、原子力規制委員会が必要性を判断し、原子力災害対策本部又は地方公共団体が指示を出すため、原則として、その指示に従い服用する。
(引用終わり)
 
松本市災害時医療救護活動マニュアル 原子力災害編(平成27年3月改訂)
(抜粋引用開始)
第1章 被ばく医療の活動内容
第3節 安定ヨウ素剤について
1 服用の目的と効果
 原子力災害で放出される放射性ヨウ素は、人が吸入し、身体に取り込むと、甲状腺に集積するため、放射線の内部被ばくによる甲状腺がん等が発生する可能性があります。
 これに対して、安定ヨウ素剤を予防的に服用すれば、放射性ヨウ素甲状腺への集積を防ぐことができるため、特に子どもの甲状腺発癌の危険度を低減・阻止する効果があります。
2 予防服用
(1)予防服用の検討・判定
ア 本部医務班は、「安定ヨウ素剤の予防服用の実施」について、原子力規制委員会の判断等に基づき総合的に検討し、松本市としてその必要性を判定します。
イ 判定基準等
 次の基準、関連情報等を検討して総合的に判定します。
 (ア)屋内退避基準の最小値である、外部実効線量 10mSv
 (イ)SPEEDI(予測情報緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報
 (ウ)中部電力株式会社及び東京電力株式会社と長野県との連絡通報体制に基づく情報
(エ)IAEA(International Atomic Energy Agency:国際原子力機関)等が示す小児甲状腺等価線量の予測線量 50mSv/7 日間
 (オ)国の示す EAL(Emergency Action Level:緊急時活動レベル)及び OIL(Operational Intervention Level:運用上の介入レベル)の基準
 (カ)安定ヨウ素剤服用効果の有効時間(事前 12 時間、事後 8 時間)
 (キ)その他気象情報等の関連情報
ウ 原子力発電所の立地県等からの関連情報等
 原子力発電所の立地県等から発信される関連情報等は、長野県を経由して松本市危機管理部が入手します。
(2)市長への提言
 本部医務班は、「安定ヨウ素剤の予防服用を実施するべき状況である」と判定したときは、その旨を市長に対し、提言します。
(3)市長による勧告等
ア 決定
 市長は、本部医務班からの提言を受けたときは、「安定ヨウ素剤の予防服用の実施勧告」を決定することができるものとします。
イ 勧告等
 (ア)市長は、「安定ヨウ素剤の予防服用の実施勧告」を決定したときは、その旨を市民に周知し、安定ヨウ素剤の予防服用を勧め、促します。
 (イ)市長は、勧告にあたっては、安定ヨウ素剤の服用により副作用が発生する恐れがあることについて十分周知するとともに、服用を見合わせるべき者又は注意が必要な者等についての情報を提供します。
 ※ 副作用の例
 a 火照り感、皮疹、頭痛、関節痛、吐き気や下痢等の症状
 b ヨウ素に対する特異体質(過敏症)を有する者が、ヨウ素を含む製剤を服用した場合にアレルギー反応を引き起こし、服用直後から数時間後に急性反応として、発熱、関節痛、浮腫、蕁麻疹用皮疹が生じ、重篤になるとショックに陥ることがあります。
 ただし、単回服用での重大な副作用の発生は、稀とされています。
 ※ヨウ素摂取により重い副作用が発生する恐れのある者
 a ヨウ素過敏症の既往歴のある者
 b 造影剤過敏症の既往歴のある者
 c 低補体性血管炎の既往歴のある者又は治療中の者
 d ジューリング疱疹状皮膚炎の既往歴のある者又は治療中の者
 (ウ)市長勧告の市民周知の方法
 a 同報系防災行政無線(屋外に設置したスピーカー等で、住民へ一斉に通報を行う通信システム)による周知
 b 報道機関による周知
 c 広報宣伝車による周知
 d 緊急速報メール(携帯電話への一斉メール(NTT ドコモ エリアメール等))
 e 松本市公式ホームページ、公式ツイッター等による周知
 (エ)市長勧告を受けた市民は、自己(保護者)の責任において、安定ヨウ素剤を予防服用するものとします。
(4)服用対象者と服用量等
ア 服用対象者
 原則として、40 歳未満の者及び妊産婦とします。
イ 服用量
 (ア)新生児(1 カ月未満)
   1 包 0.1g(ヨウ化カリウム量 16.3mg)
 (イ)生後 1 カ月以上 3 歳未満
   1 包 0.2g(ヨウ化カリウム量 32.5mg)
 (ウ)3 歳以上 13 歳未満
   丸薬 1 丸 (ヨウ化カリウム量 50.0mg) なお、丸薬を服用できない場合は分包(0.3g)
 (エ)13 歳以上及び妊産婦
   丸薬 2 丸(ヨウ化カリウム量 100.0mg)
ウ 服用の運用等
 (ア)緊急時における迅速な服用を図るため、一律、小学1年生から6年生までの児童に対して丸薬1丸、中学1年生以上に対して丸薬2丸の服用をすることができるものとします。
 (イ)3歳未満及び丸薬を服用できない3歳以上13歳未満の対象者に服用させるにあたっては、ヨウ化カリウムの粉末を水に溶解し、必要に応じて単シロップを適当量添加する等の対応をとります。
(5)服用回数
 服用は、原則1回とします。2回目の服用を考慮しなければならない状況が見込まれる場合には、安全な区域への避難を優先させます。
3 住民等への配布
(1) 配布対象者
 安定ヨウ素剤の配布の対象者は、原則として、市民並びに市内滞留者のうち40歳未満の者及び妊産婦とします。
(2) 配布方法
ア 市長勧告前の配布(事前配布)
 有事の際に迅速な服用ができるようにするために、次の事前配布ができるものとします。
 (ア)各戸配布
 (イ)学校等(市内の保育園、幼稚園、小学校及び中学校)への備蓄
イ 市長勧告後の配布(緊急配布)
 安定ヨウ素剤予防服用の市長勧告後において、緊急配布として対象者へ配布します。
(3) 各戸配布について(事前配布)
ア 概要
 服用対象者がいる世帯に対し、本人に即した服用量の薬剤を事前に配布する方法です。
 具体的な配布の時期、方法等については、別途対応するものとします。
イ 留意点
 (ア)各世帯に配布する際には、薬剤とともに、服用量、禁忌、副作用、適切な保管方法及び保存期限を超えた薬剤の回収・廃棄等を説明した「各戸配布説明書」(資料編 P35)を配布する必要があります。
 (イ)薬剤を配布した世帯から、本人又は保護者等の署名のある「安定ヨウ素剤受取書」(資料編 P35)の提出を受けることとします。
 (ウ)配布した薬剤の保存期限が切れる場合には、当該薬剤の確実な回収・廃棄処分を周知するとともに、必要に応じ、新たな薬剤に更新します。
 なお、更新に当たっては、対象者の年齢が上がることによる、薬剤の服用量(配布量)に注意が必要です。
 (エ)転入者等への対応も配慮します。
(4) 学校等への備蓄について(事前配布)
ア 概要
 市内の保育園、幼稚園、小学校及び中学校(以下「学校等」という。)に対して、その所属する園児、児童及び生徒(以下「児童等」という。)に即した服用量の薬剤を事前に配備する方法です。
 学校等は、市長から安定ヨウ素剤の服用について勧告のあったときは、あらかじめ児童等の保護者から学校等へ提出されている承諾書に基づき、配備されている安定ヨウ素剤のうちから、本人に即した服用量の薬剤を児童等へ配布します。
イ 留意点
 (ア)学校等は、あらかじめ児童等の保護者に対し、服用量、禁忌及び副作用等を説明した「学校等での安定ヨウ素剤服用に関する説明書」(資料編 P36)を配布するとともに、「安定ヨウ素剤服用承諾書」(資料編 P36)の提出を受けておきます。
 (イ)学校等では、配布した薬剤の保存期限が切れる場合には、当該薬剤を確実に回収・廃棄処分する必要があります。また、児童等の変動に応じて、必要な薬剤の配備に配慮する必要があります。
(5) 緊急配布について
ア 概要
 市長から安定ヨウ素剤の服用について勧告のあったときは、配布拠点において、安定ヨウ素剤を対象者へ配布します。
 なお、事前配布等している薬剤がある場合には、原則としてそちらの服用を優先します。
イ 配布拠点
 配布拠点は、市立小学校28校、原子力災害医療救護所・原子力災害避難所(総合体育館)、市役所、保健センター(南部、北部、中央、西部)、松本駅、長野県松本合同庁舎等とします。
ウ 留意点
 (ア)医師が配布に立ち会うことを原則としますが、困難な場合には、薬剤師等の立会いにおいて実施することができるものとします。
 (イ)配布に当たっては、「安定ヨウ素剤緊急配布説明書」(資料編 P37)をもって服用量、禁忌、副作用等を示したうえで、本人に即した服用量を、本人又は保護者等の署名のある「安定ヨウ素剤受取・服用承諾書」(資料編 P37)と引換えに、配布することとします。
 (ウ)副作用が懸念される場合、医師等は、しばらくの間(30 分間が目安)、服用者の様態を慎重に観察するものとします。
(6) 緊急配布用安定ヨウ素剤の備蓄
ア 備蓄量
 緊急配布用の安定ヨウ素剤として、次の量を備蓄します。
 (ア)市民のうち40歳未満の者及び妊産婦約11万人分
 (イ)市内滞留者(学生、就業者、観光客、避難者等)のうち40歳未満の者及び妊産婦 約2万人分
イ 備蓄場所等
 (ア)緊急配布用の安定ヨウ素剤は、次の4カ所と市立小学校28校に備蓄します。
  ※金原注:備蓄場所一覧表及び備蓄小学校一覧表の引用は省略します。
 (イ)服用区分ごとの備蓄量
※金原注:一覧表の引用は省略します。
ウ 搬送
 各備蓄場所から配布拠点への薬剤の搬送は、原則として薬剤師の立会いのもと、松本市災害対策本部物資輸送担当等が行います。
4 安定ヨウ素剤の取扱い
保管方法
 安定ヨウ素剤の保管に当たっては、乳幼児等の手の届かない、湿気のない環境で保管します。
 一般家庭においては、災害時の非常持出袋等へ入れて保管することを推奨します。
(2) 保存期限
 安定ヨウ素剤の保存期限は、次のとおりとします。
 なお松本薬剤師会が保存状況等を検証し、保存期限の延長等の見直しができるものとします。
 ア 丸薬 3 年
 イ 分包 1 年
(3) 廃棄方法
 安定ヨウ素剤の保存期限後の廃棄に当たっては、松本市が回収した上で、一般廃棄物(可燃物)として適切に処理するものとします。
(引用終わり)
 
(付記)
 上でご紹介した福島県から関西に避難された女性の手記は、まず、『20年後のあなたへ 東日本大震災避難ママ体験手記集』(避難ママのお茶べり会/2013年3月11日刊)に収録され、その後、『red kimono(福島原子力発電所事故からの避難者たちによるスピーチ、手紙、そして避難手記)』(東日本大震災避難者の会Thanks & Dream/2016年3月11日刊)に再録されました。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年1月6日(同年2月13日に再配信)
三春町の4日間(安定ヨウ素剤配布・自治体の決断) 前編
2013年1月6日(同年2月13日に再配信)
三春町の4日間(安定ヨウ素剤配布・自治体の決断) 後編
2013年8月31日
『20年後のあなたへ-東日本大震災避難ママ体験手記集-』を読んで
2014年4月30日
もう一度「安定ヨウ素剤の予防服用」を考える
2015年4月11日
原発賠償関西訴訟(第1回、第2回)を模擬法廷・報告会の動画で振り返る(付・森松明希子原告団代表が陳述した意見)
2016年4月1日
浜岡原発「防波壁」完成と「避難計画」策定から石橋克彦氏の論考『原発震災 破滅を避けるために』(1997年)を思い出す