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「国民安保法制懇見解-安保関連法制定から 1 年を経て-」(2016年9月19日)を読む

 今晩(2016年11月22日)配信した「メルマガ金原No.2638」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「国民安保法制懇見解-安保関連法制定から 1 年を経て-」(2016年9月19日)を読む

 2014年5月、12人の識者が、「政府の恣意的な「解釈変更」によって、これまで憲法が禁止してきた集団的自衛権行使を可能にすることは、憲法が統治権力に課している縛りを政府自らが取り外すことに他ならず、立憲主義の破壊に等しい歴史的暴挙と言わざるを得ない。私たちは、主権者である国民としてこの暴挙を黙認することは到底できない。かかる立憲主義の破壊に抗うべく、憲法国際法、安全保障
などの分野の専門家、実務家が結集し、ここに「国民安保法制懇」を設立する。」と宣言しました。
 その後、国民安保法制懇によって公表された「声明」は、末尾にリンクしたとおり、その都度メルマガ
(ブログ)でご紹介してきました。
 
 設立当初12人で発足した国民安保法制懇ですが、現在のメンバーは以下の10人(少なくとも最近の声明に名前を連ねているのは)です(敬称略・五十音順)。
 
愛敬 浩二(名古屋大学教授)
青井 未帆(学習院大学教授)
伊勢崎賢治東京外国語大学教授)
伊藤 真(弁護士)
大森 政輔(元内閣法制局長官
小林 節(慶應義塾大学名誉教授)
長谷部恭男早稲田大学教授)
樋口 陽一(東京大学名誉教授)
孫崎 享(元外務省国際情報局長)
柳澤 協二(元内閣官房副長官補)
 
 上記メンバーは、個々に様々な活動を行っている方々であり、国民安保法制懇として恒常的な活動を行うということはありませんが、活動を休止したという訳でもなく、重要な節目に際し、メンバーの意見を集約した「声明」を発表することにしているようです。

 最近まで気がついていなかったのですが、去る9月19日には、「国民安保法制懇見解-安保関連法制定
から1年を経て-」を公表していました。
 この「見解」は、「南スーダンPKO派遣の点に焦点を絞りつつ、安倍政権の非民主的な政権運営に対して
も批判する」ことを内容とするものです。

 新任務を付与された青森の陸上自衛隊第9師団第5普通科連隊を中心とした編成された部隊が、21日に南スーダンのジュバに到着したというニュースに接した今日(11月22日)、この「国民安保法制懇見解」をご紹介するというのは遅きに過ぎたかもしれませんが、やはり読んでいただこうと思います。
 以下に、国民安保法制懇ホームページに掲載された「お知らせ」と「見解」全文を引用します。
 「この「見解」は、これまで同様、元内閣法制局長官や元政府高官、憲法学者らそれぞれが意見を出し合い、議論を重ねて一致点を形成し、取りまとめたものです。」とあるとおり、「この部分は伊勢﨑さんか柳澤さんが主張したのだろう」とか、「ここは憲法学者の誰かが強く主張したのだろう」などと想像されたりもしますが、いずれにせよ、10人の尊敬すべき識者が「議論を重ねて一致点を形成」した「見解」であり、聴くべきところの多い意見だと思い、ご紹介することとしました。
※注 「お知らせ」の文章はどう考えても推敲不足ですが、勝手に修正する訳にもいきませんので、そのまま引用しています。
 
2016年9月19日
国民安保法制懇見解-安保関連法制定から1年を経て

(引用開始)
9月19日、安保関連法が制定されて1年を迎えました。
安保関連法制定から1年を経て、安倍政権は、いよいよ安保関連法を作動し始めようとしています。
焦点となるのは、今後、南スーダンPKOに派遣される自衛隊の部隊に「駆けつけ警護」の任務が付与される
かどうかです。「駆けつけ警護」任務での武器使用は、憲法の禁止する「武力行使」に踏み出しかねませ
ん。
国民安保法制懇は、元内閣法制局長官や元政府高官、憲法学者らで結成しましたが、この間もメンバーそれぞれの立場で、安保関連法等、憲法9条を正面から破壊しようとする安倍政権の行動を批判してきまし
た。
安倍政権が現実に安保関連法を作動し始めようとしていることに対し、国民安保法制懇のメンバーとして一致した「見解」を出そう、ということとなり、南スーダンPKO派遣の点に焦点を絞りつつ、安倍政権の非
民主的な政権運営に対しても批判する「見解」を作成いたしました。
この「見解」は、これまで同様、元内閣法制局長官や元政府高官、憲法学者らそれぞれが意見を出し合い
、議論を重ねて一致点を形成し、取りまとめたものです。
見解は下記です。PDFにしておりますので、ご確認下さい。
 国民安保法制懇見解-安保関連法制定から1年を経て-
国民安保法制懇のメンバーは、今後も、より積極的に安保関連法の問題に対して積極的に発言し、行動してゆく覚悟であることも申し添えます。
(引用終わり)
 
 それでは、「国民安保法制懇見解」の全文をご紹介します。
 
(引用開始)
                  国民安保法制懇見解
              ─安保関連法制定から 1 年を経て-
 
                                   2016年9月19日
                                    国民安保法制懇
 
 われわれ国民安保法制懇のメンバーは、集団的自衛権行使容認へと踏み出した 2014年7月の政府見解、昨年5月に法案が提出され同年9月に制定された安全保障関連法等、憲法9条を正面から破壊しようとする安倍政権の行動を批判し、日本の安全保障および自衛隊の活動に関する冷静で理性的な判断と対応を求めてきた。安全保障関連法の制定から1年が経過したことを踏まえ、現時点でのわれわれの見解を示したい。
 政府は、参議院選挙後の8月24日、安全保障関連法に基づく自衛隊活動の訓練を順次実施すると発表した。選挙が終わるまではなりをひそめて安保法への目を逸らし、選挙が終わってから安保法を運用に移したことになる。さらに、いかなる訓練を行うかについて、具体的な説明はまったくない。予想される訓練の中には、PKO活動に参加する国連NGO の職員らが武装集団等に襲われたとき、武器を携行して救援に赴く「駆けつけ警護」も含まれる。
 
 焦点となるのは、今後、南スーダンPKOに派遣される部隊に「駆けつけ警護」の任務が付与されるか否かである。最近の南スーダンでは、首都ジュバで大規模な戦闘が行われるなど、そもそも派遣要件であるPKO参加5原則、中でも紛争当事者間での停戦への合意が満たされているか否かに疑いがある。そうした状況下で自衛隊に「駆けつけ警護」の任務を与えるならば、自衛隊員の安全に従来を大きく上回るリスクをもたらすことが予想される上、「駆けつけ警護」任務での武器使用が、憲法の禁止する武力の行使に踏み出すことになりはしないか、再度の慎重な検討が必要となっている。
 また、自衛隊の武器使用が不幸にも民間人の殺傷をもたらした場合に、それがいかなる責任をもたらし、その責任を国と個々の自衛隊員がいかに分担することになるかがきわめて不分明であることも懸念材料である。さらに、1999年8月12日付国連事務総長告示「国連主導多国籍軍による国際人道法の遵守」はすでに、戦闘時においてPKO部隊が紛争の当事者として限定的に交戦権を行使することを一般論として想定しており、PKO活動に関する内外の認識が大きく変容しつつあることも、自衛隊の任務遂行の是非に関して考慮すべき要素であろう。
 
 安保法はすでに本年3月に施行されている。自衛隊の活動によって生じる現地での住民感情の悪化や緊張の激化は、やがては国内外における国民の安全を脅かすリスクを含むのであるから、この法制の下でどのような活動を行い、どのようなリスク・効果が見込まれるのかにつき、政府は国民に真摯に説明し理解を求める努力を行うべきであった。しかしながら、政府から国民に対する真摯な説明は全くなされていない。
 国民への説明を怠って選挙を戦い、選挙が終わりさえすればあたかも国民の白紙委任を得たかのように周囲の声に耳を傾けることなく、強引にことを進める政府の姿勢、人がそれぞれ自律的な判断主体であることを無視し、説明を通じて納得を求めることもしない政府の姿勢、すべては選挙結果を目当てとして人心を操作するための術策であるかのように振る舞う政府の態度は、普遍的価値を標榜するリベラル・デモクラシーの政府にはおよそ似つかわしくない。それは、形ばかりの選挙を施行する非民主的な独裁国家に、むしろふさわしい。
 政府が集団的自衛権容認の根拠としてあげた憲法第13条にいう国民の生命、自由、幸福追求の権利を真に守るのであれば、同条が定めるように、すべての国民を個人として尊重することこそが、政府には求め
られるであろう。
                                              以上
 
国民安保法制懇
 愛敬 浩二(名古屋大学教授)
 青井 未帆(学習院大学教授)
 伊勢崎賢治東京外国語大学教授)
 伊藤 真(弁護士)
 大森 政輔(元内閣法制局長官
 小林 節(慶應義塾大学名誉教授)
 長谷部恭男早稲田大学教授)
 樋口 陽一(東京大学名誉教授)
 孫崎 享(元外務省国際情報局長)
 柳澤 協二(元内閣官房副長官補)
(引用終わり)