2017年11月19配信(予定)のメルマガ金原.No.2991を転載します。
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「沖縄から模索する日本の新しい安全保障」(2017/9/30)
一昨日のブログ(放送予告11/18『ペリーの告白~元米国防長官・沖縄への旅~』(ETV特集))で予告したとおり、去る9月30日に那覇市の沖縄県青年館2階大ホールで開催された自衛隊を活かす会主催によるシンポジウム「沖縄から模索する日本の新しい安全保障」の動画と完全書き起こしが同会ホームページにアップされていますので、ご紹介します。
今回は、自衛隊を活かす会としては初の沖縄で開催されるシンポジウムとなりました。柳澤協二さんにとっては、評議員をされているND(新外交イニシアティブ)が主催するシンポでは何度も沖縄を訪問されていますが、自衛隊を活かす会代表として参加された今回のシンポには、それなりの感慨がおありだったのではないかなどと想像しています。
最初の登壇者・伊波洋一さんは、「辺野古新基地建設と南西諸島への陸上自衛隊基地建設の背景——米軍戦略から見える狙い」「外交防衛委員会の質疑で分かったこと」を中心に報告され、続く渡邊隆さんは、「日本における南西諸島とその中心にある沖縄の戦略的価値がどのように変わってきたのか」について、そして柳澤協二さんは、「抑止力とは何か」「米軍は何を守るのか?」「沖縄の地理的優位性とは何か?」「同盟の抑止力論は現代に通用するか」「沖縄から安保を発信する意義」についてお話をされました。
以下に、まず動画をご紹介し、次に、各登壇者の発言中、私が特に感銘深く聞いた点を書き起こしから少しだけ引用します。
是非、動画全編視聴、もしくは書き起こし全編通読されますよう(私は後者の方を実行しました)お薦めします。
沖縄から模索する日本の新しい安全保障|自衛隊を活かす会(2時間57分)
45分~ 報告2 渡邊隆さん(元陸将・東北方面総監)
2時間18分~ 再コメント1 伊波洋一さん
2時間23分~ 再コメント2 渡邊隆さん
2時間24分~ まとめ 柳澤協二さん
2時間27分~ 質疑応答
(シンポ書き起こしから抜粋引用開始)
報告1 伊波洋一さん
結局、日本にとっての現在の日米安保というのは、中国に対しては日本列島を盾として戦場にしてアメリカが戦争をすることにならざるを得ないということです。米中は、核戦争にエスカレートさせないため、互いに相手国を攻撃しないことになっているからです。その戦略説明で「経済的な現実として、グローバルな繁栄は、中国の繁栄に多く依存する」と書いてある論文が海上自衛隊幹部学校のコラムでも紹介されているわけです。私は、日米同盟のために日本国土を戦場にすることが、本当に日本の安全保障なのかと、参議院の外交防衛委員会で問うているわけです。
論文「米国のアジア太平洋戦略と我が国防衛」(陸戦研究26年2月号)でも、水陸機動団が駐屯する相浦駐屯地司令の中澤剛1等陸佐は、九州から南西諸島に展開する自衛隊部隊に対して中国から弾道ミサイルや巡航ミサイルによる攻撃が繰り返されることに対して、米軍が打撃しないとするのは、従来の日米同盟の役割を「盾」と「矛」になぞらえてきたことにも矛盾し、日米同盟の信頼性を揺るがすことになりかねないと指摘して、そうであるならば日本が敵基地攻撃能力を持つべきではないか、と提起しています。
でも、それはアメリカの思う壺です。日本が敵基地攻撃能力を持てば、中国と日本の戦争になってそこで終わるわけです。今年1月の予算委員会でも、前防衛大臣の小野寺委員がアメリカは日本を守らないのではないかということを質問しているのです。だから、敵基地攻撃ミサイルを導入すべきではないかと提起しました。現在、小野寺氏は防衛大臣になっています。
中国についての日米安保の現状は、日米同盟のために日本が戦場を引き受けざるを得ないところにまで追い詰められているということです。私たちの安全保障は、誰を守るための安全保障なのかということを問わなければならないと思っています。
報告2 渡邊隆さん
沖縄をもう一度確認してみると、このような形になります。中国の観点で見るならば、主としてアメリカの軍事関係者が沖縄は近すぎるのではないかと言っているのは間違いのないところだと思います。
したがって、沖縄の米軍基地は力のバランスや戦略的な優位性、あるいはオフショアコントロールという中国に対する対抗手段を取るために、グアムまで下がるのだというのは考えられないことではございませんが、これを明確に宣言したことはありません。アメリカの政策、軍事戦略として明確に宣言はされていませんが、そのように考えるのは極めて妥当だろうと思います。
ただし、それは中国に対してだけです。現在の主要な、喫緊の課題はどこかと言われれば、実際にアメリカが対応しているのは38度線、北朝鮮ですから、北朝鮮が最近、核開発やミサイル開発を含めて非常に挑戦的な活動を高めていることを考えれば、北朝鮮に対してしっかりと手を尽くすというのは非常に重要なことなのだろうと思います。
アメリカの陸軍と空軍は明確に北朝鮮に対する対応を取っています。韓国にはアメリカ陸軍の第8軍という非常に大きな組織、4つ星の大将が指揮する組織を韓国に常駐させて、有事になれば韓国軍を含めてアメリカの大将が指揮するという戦時統制権まで一時期は持って、北朝鮮の侵攻に備えようとしています。アメリカ空軍は第5空軍がこのエリアを統括しています。第5空軍の司令部は横田にあります。在日米軍司令官はこの第5空軍司令官が兼務しており、第5空軍司令官は韓国まで自らのエリアとしています。北朝鮮の脅威に対して直接的にしっかりと守っているというのがお分かりになると思います。
ポイントはアメリカ海軍です。海軍は船を主体とした機動部隊ですので、北朝鮮に一番近い沖縄の第3海兵遠征軍(3MEF)の司令部が今、グアムに移ろうとしています。グアムとの兼ね合いの中で動きがあるというのは事実で、その中に沖縄もあり、キャンプ・シュワブもあるということになります。
報告3 柳澤協二さん
抑止力と戦争というのは同じコインの裏表なのですが、日本人の受け止めというのは「抑止力がある、だから戦争にならない、だから戦争のことを考えなくて良い」という感じで見ていると思います。
では、その抑止力としての戦争に勝つ力は何か、何のためにあるのかということですが、当然、損害はありますから、何を失って何を守るのかということが問われます。アメリカにとっては、アメリカの秩序やアメリカの覇権というのが一番大きな目的で、そのために拠点となる日本を守っていかなければいけないというのがあって、その手段として、沖縄が軍事拠点としてあるということです。この発想からすると、沖縄そのものの安全はゼロと言うか、逆にマイナスの話にもなりかねません。要は沖縄は踏み石なんです。それで日本を守り、結果としてアメリカの秩序を守るという発想です。アメリカの抑止力に依存するということは、こういう発想にならざるを得ないということです。
しかしそうは言っても中国の覇権の下に入るのは嫌だ、私も嫌だけれども、中国の覇権の下に入ったら具体的に何が困るのかということについては、いろいろな論文を読んだりしますと、中国の覇権を許してはならないからアメリカと一緒に力をつけていくしかないのだ、という結論になっていて、許してはならない中国の覇権については何が困るのかというところがスポッと抜けてしまっているのです。今や、そういうことまでちゃんと考えていかなければいけないのではないかと思います。
覇権国同士の勢力争いは、どこかでバランスの良い棲み分けがいるのだろうと思います。先ほどの渡邊さんのお話にあった、均衡点がグアムに行ったという図——データの入れ方によって均衡点はずれるのですが——、が示唆するものは何かと言えば、グアムつまり第2列島線のあたりで、その内側の米中の相場観がどう形成されるかということが、米中の一番の関心事になっていることだと思います。
米中の相場観が形成されて、中国も安心して海軍を出してきてもいいよ、という話になってくると、それは日本にとって許し難いと言ったって、何が許しがたいのですかということになる。そのこと自体はトレンドとして防ぎようがないものだろうという意味で、私は10年、20年先の日本を考えた時に、中国の支配って何をどう支配されるの、日本は何が許せないの、許せなければその部分をどうしたらいいの、ということを今まで議論をしていませんから、そういう観点の議論が是非必要だと思います。
特に中国との関係では、沖縄の立場は古くから一番交流があるところですから、ある方が酒飲み話で、わしが若い頃は台湾から来た奴と福建省から来た奴とみんなで尖閣で酒盛りしていたんだみたいな本当か嘘か分からない話をされていたのを聞いたことがありますが、そういう歴史的な立場にいる沖縄からの発信はとても重要なのではないかと思います。
コメント1 伊勢﨑賢治さん
重要なのは、その休戦の構図に、開戦になれば最も大きな被害を受ける韓国が独立した当事者としていないことです。
朝鮮半島の休戦協定とは何か。休戦というのはAとBが戦っていて、相撲の土俵で睨み合っている。AとBは戦えばお互いにぶつかり合い、どちらも被害を被る「開戦の被害」の当事者です。Aは北朝鮮。その後ろには中国がいます。片やBは誰か。
開戦したら、もちろん北朝鮮は傷つく。韓国が一番傷つきます。38度線から50キロしか離れていないソウルは火の海になります。でも、韓国は独立した力士として土俵の上に乗っていないのです。仕切り線の向こうにはアメリカが力士としているのです。「開戦の被害」の当事者でもないのになぜ?と、それでは見栄えが悪いので「国連」を纏っている。
非常にいびつな構造なのです。アメリカが何千キロも離れたところからしゃしゃり出てきて、当事者として全てを牛耳っているのです。
もし、開戦したら傷つくもの同士、北朝鮮と韓国がそれぞれ独立した力士として土俵で睨み合う休戦の構造に変えれば、少なくとも北朝鮮は弾道ミサイルとか核開発をする動機が薄れます。だって単独の韓国が相手なら通常兵器で済むわけですから。なぜ北朝鮮が弾道ミサイル開発や核開発をしなければいけないのか。北朝鮮は、韓国ではなくアメリカを睨まなければならないからですよ。
少なくとも、アメリカが中国のように、北朝鮮の後ろで応援団として土俵に足をかけつつも一旦外に出ている構造にすれば、休戦が和平に移行する可能性ができるのです。その時は、“本当の国連”が仲介者になって。アメリカが「偽装国連」で土俵に力士として上がっている限り、この構造が生まれない。
一足飛びに、民族融和なんて考える必要はない。まず休戦を「通常戦力で殺しあえる」構造にすればいいのです。その第一歩は、国連旗をアメリカから取り戻すことです。
アメリカが自分でそれをやるわけがありません。日本の今の政権も無理でしょう。韓国の今の政権は少し望みがあるかもしれません。別に「アメリカに出て行け」と言うわけじゃないので。
北朝鮮と国交のあるヨーロッパの第三国がやってもいいでしょう。
コメント2 加藤朗さん
日本の立ち位置ですが、私たちはいまだに大国幻想に囚われています。日本はもう間違いなく中級国家です。大国ではありません。中級国家というのは既存の秩序を維持する力のある国です。他方、大国というのは秩序を形成する力のある国です。
戦後の日本には世界の秩序を形成する力はありませんでしたが、少なくとも東アジア地域における秩序の形成ができるだけの力を持っていました。でも今、その力は完全に中国に奪われています。さらに北朝鮮にも奪われようとしています。もはや日本には主体的に東アジア地域の状況を変えていく力はありません。中級国家として、せいぜいアメリカに協力して東アジア地域の現状を維持していくことしかできません。
(略)
今、その視点から見ると、安倍ドクトリンというのは見捨てられの恐怖に基づいています。日本がアメリカから見捨てられて、もう二進も三進もいかなくなるという恐れこそが、安倍ドクトリンの本質なのだろうと思います。
でも、柳澤さんが言うように、米中関係が和解した後、別に中国の支配に入ってもいいじゃないかという覚悟があれば、それはそれで問題ありません。米中間が和解してしまえば、おそらく戦争などということはもうありません。この地域には平和と秩序が長らく続くことになると思います。沖縄が戦争に巻き込まれることもありません。対立する関係がなくなって来ます。
ただ、その時に作られた米中2国間による覇権体制が日本にどのような意味を持つのかということを考えなければいけない。その時にはおそらく朝鮮半島も統一されているでしょう。核付き統一ということになるのかもしれません。そうすると、日本が置かれた立場というのは一体どうなるだろうか。中級国家でさえなくなる可能性が出てくるということです。それでも我々が平和を望むのであれば、それはそれで1つの生き方だろうと思います。
つまり全ては私たちの覚悟です。どのように覚悟するかです。屈服させられるか和解か、その次には屈服するなというもう1つの選択肢があります。以上です。
まとめ 柳澤協二さん
私が一番言いたいのは、それは誰の戦争なんですか、誰のための何を解決しようとする戦争なのですか、ということを考えていった場合に、日本という要素がどのくらい出てくるのですかということです。確かに覚悟はいるのだけれども、それは日本が覚悟しなければいけないことなのかどうかということにもなってくるだろうと思うのですね。
戦争の危険が無いなんてことはない。やっぱり危険はあるんです。もちろん仲良くするに越したことは無い、仲良くすればいいじゃないかというのも1つの考え方ですが、そう簡単に仲良くできないというのはお互い様ですからね。
状況が非常に複雑に絡み合った中で、今日の日本人の危機感があるとなると、それをほぐす作業がどうしても必要です。そこで、ほぐしの道具として何を使うのかということですが、私が申し上げたいのは、「これは何の戦争ですか、これは誰の戦争ですか、目的は何なのですか、何が解決なんですか」ということです。それが見えないと「戦争なんだから相手をやっつけるしかないじゃないか。そうじゃないとこっちがやられちゃうじゃないか」という論理にはまっていって、結局、脳みそを使ったことにならないんじゃないかという感じをさらに強く受けた次第です。
質疑応答から 伊勢﨑賢治さん
「主権なき平和国家:地位協定の国際比較からみる日本の姿」
※金原注:冒頭から33頁まで試し読みができます。
地位協定を国際比較すると非情なことがわかります。米韓地位協定と日米地位協定は被差別義兄弟みたいな感じです。例えば嘉手納ラプコン(Rader Approach Control)とか横田ラプコンとか、あんなものはアフガニスタンでもあり得ません。米軍基地をどう使うか、何を持ち込むか、どういう訓練をするか、ましてや他国の攻撃にどう使うか、これは全部、受け入れ国の許可制です。協議ではないですよ。許可制です。主権国家として当たり前なんです。イラクでもアフガニスタンでも、駐留米軍に対して主権国家は許可を与える立場なのです。それがないのは韓国と日本だけで、「平和時」の地位協定の中では日本だけなんです。どうしてでしょう。
同時に、日本人に気付いてほしいのは、日本は「既に地位協定の加害者」であるということです。
現在も日ジブチ地位協定があります。我々は2国間地位協定の加害者側に立っているんです。加えて「加害者としての日本は日米地位協定のアメリカより凶悪」なのです。なぜかというと、例えば米軍のオスプレイが住宅地に落っこちて、日本人が多数犠牲になる。こういうのが軍事的過失です。「公務内」の事故ですね。裁判権はアメリカにあり、アメリカの軍事法廷が裁きます。それが日本にはないんですよ!
これが、ジブチの民にとってどういうことか、お分かりになりますよね?
質疑応答から 加藤朗さん
米中関係の話ですが、戦前、近衛文麿が「英米本位の平和主義を排す」と言って、英米の秩序に挑戦して、我々は完膚なきまでに叩きのめされました。次に我々は「米中本位の平和主義を排す」かどうかという問題です。米中本位の平和主義を拒否しなければ、私たちはおそらくは平和——平和の内実は問いません——、戦争はないだろうと思います。でもそれは嫌だというならば、一体どういうことを考えなければいけないのか。私たちが迫られているのは、そういう局面なのかもしれない。戦争の問題というよりも、私たちはどういう生き方をすべきなのかということを日本国民全体に問われているのではないかと思います。
(弁護士・金原徹雄のブログから/「自衛隊を活かす会」シンポジウム関連)
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