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日弁連「被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書」(2018年8月23日)を読む

 2018年8月26日配信(予定)のメルマガ金原No.3251を転載します。
 
日弁連「被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書」(2018年8月23日)を読む
 
 日本弁護士連合会は、年間にどれ位の数の「意見書」を発表しているか、会員であっても、正確に答えられる者はほとんどいないでしょう。
 一例として、「2018年」に公表された意見書がどれ位あるのか、日弁連ホームページを検索してみました。
 
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 私の数え間違いでなければ、今月(8月)23日に公表された4つの意見書を含め、1月以来の累計「意見書」数は47にのぼっています。
 今年が特に多いということではなく、例年、こういうペースのようです。
 しかも、その扱う分野も実に多彩であり、とても1人の会員が全分野に通暁することなど不可能であり、私にしても、日弁連「意見書」のうち目を通す機会があるのは、ごく限られたものだけです。
 試みに、さて、8月23日に公表された最新の4つの意見書の概略は以下のとおりです。
 
被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書
本意見書の趣旨
当連合会は、被災者の生活再建に資するため、国に対し、以下の施策を実施することを求める。
1 被災した自治体に対し、以下の事項を周知すべきである。
(1) 住家の被害認定について、その趣旨が被災者支援にあることに鑑み、被災地の被害状況に即した柔軟な判断を行うとともに、迅速性・個別性を重視して被災者の利益に資する認定を行うこと。
(2) 災害救助法の運用に当たって、被災者の支援及び保護の目的を達するため、①「人命最優先の原則」「柔軟性の原則」「生活再建継承の原則」「救助費国庫負担の原則」「自治体基本責務の原則」「被災者中心の原則」に基づいて弾力的運用を行い、②応急仮設住宅に関する要件等を加重せずにできる限り緩和し、③応急修理制度を積極的に活用できるように要件を緩和すること。
(3) 大規模な土砂災害に際しては、災害救助法の活用や特例措置を設けるなどの方法によって、公費による土砂等撤去を実施すること。
2 大規模な土砂災害に際し、被災自治体の行政事務が混乱することを回避するため、土砂の撤去に関する権限分掌の統一的な事務要領の作成等を行うべきである。
3 被災自治体の各施策の実施に当たり、被災自治体の財政的負担が軽減されるよう、災害救助法の適用に当たって被災自治体が要求する特別基準を積極的に認めるとともに、地方自治体が策定する土砂等撤去や被災者支援にかかる特例措置の実施を裏付ける補助金交付税等を措置するべきである。
 
災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書
本意見書の趣旨
国は、将来の災害関連死を減らすために、災害関連死の事例を全国の地方自治体から集め、多様な分野の専門家をもって構成される調査機関を設置した上で、当該調査機関をして、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析するとともに、分析結果を匿名化して公表すべきである。
 
「確約手続に関する対応方針(案)」についての意見書
本意見書の趣旨
1 確約手続ガイドライン案「4 確約手続の流れ」に、確約手続の対象となる違反被疑行為に関して確約手続通知を行うか否かについて判断する際の考慮要素を明記すべきである。
2 確約手続ガイドライン案「6(3)ア(ア)措置内容の十分性」に、確約手続においては違反被疑行為が独占禁止法に違反するとの判断が行われないことや、事案によっては取引先等の利害関係人の利益を考慮することが有益である場合があり得ることなどを踏まえ、措置内容の十分性について嫌疑の程度との権衡を考慮し柔軟に検討する旨を追記すべきである。
3 確約手続ガイドライン案「7 意見募集」に、申請を受けた確約計画に対する第三者からの意見募集を行うか否かを判断する際の基準又は考慮要素を明記すべきである。
4 確約手続ガイドライン案「12(3)確約手続において事業者から提出された資料の取扱い」について、確約認定申請に当たって申請者が提出した資料を法的措置を採る上で必要となる事実の認定を行うための証拠として使用することもあり得る旨の記載を削除した上、事業者が公正取引委員会に当該事案を確約手続に付すことを希望する旨を申し出、公正取引委員会が当該相談に応じる旨の回答をした後に当該事業者が提出した資料及び録取された当該事業者の従業員等の供述調書は、違反事実を認定する証拠として用いない旨を明記すべきである。
 
ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)~企業・投資家・金融機関の協働・対話に向けて~
本ガイダンスについて
この度日本弁護士連合会は、ESG(環境・社会・ガバナンス)課題のリスク面である人権侵害や環境破壊などへの対応が、企業および企業に対し投融資を行う投資家・金融機関において求められていることを背景として、日本の企業・投資家・金融機関がESG関連リスクへの対応に向けて協働・対話を行うためのガイダンス(手引)を公表しました。
本ガイダンスの背景・意義
国連が、2006年に、投資家が取るべき行動として、責任投資原則(PRI)を発表し、ESGに配慮した投資を提唱したことなどを契機として、企業・投資家・金融機関をはじめとする利害関係者において、ESG課題への企業の対応の在り方に対する関心が高まっています。
近年、企業活動を通じて、ESG課題のリスク面として、人権侵害・環境破壊などの負の影響が生じていることも認識されており、「ビジネスと人権に関する国連指導原則」、「気候変動に関するパリ協定」、「持続可能な開発目標(SDGs)」などの採択を契機とした国内外のルール形成も加速化しています。その結果、企業の経営トップが重要なリスク管理としてESG課題を認識し、対処することが求められています。また、投資家・金融機関も、投融資先企業のESG関連リスクへの対応状況を把握し、エンゲージメント(対話)を行うことが期待されています。
そこで、当連合会は、特にESG課題のリスク面に焦点を当てて、企業・投資家・金融機関及びこれらの組織に対し法的助言を行う弁護士を対象として、ESGに関連するリスクへの対応に向けた協働・対話のためのガイダンス(手引)を提示するものです。
本ガイダンスの構成
本ガイダンスは、①企業向けのガイダンス(第1章)、②機関投資家向けのガイダンス(第2章)、③金融機関向けのガイダンス(第3章)の3部により構成されています。ESG関連リスクへの対応のためには、企業・投資家・金融機関の協働やエンゲージメント(対話)が不可欠であることから、各ガイダンスの内容は相互に密接関連しています。
① 第1章 企業の非財務情報開示
主に上場企業を対象に、コーポレートガバナンス・コードや経済産業省「価値協創ガイダンス」を補完する形で、ESG関連リスクへの対応のための体制整備の方法、非財務情報の開示項目の例、開示の方法・媒体に関する実務的指針を提供しています。
② 第2章 機関投資家のESG投資におけるエンゲージメント(対話)
特に中長期の株式保有を通じたパッシブ運用を行う機関投資家を対象として、スチュワードシップ・コード及び価値協創ガイダンスを補完する形で、ESG関連リスクが顕在化した企業不祥事発生時の際の対話の在り方、及び、企業不祥事発生を防止するための平時の際の対話の在り方についての実務的な指針を提供しています。
日本取引所自主規制法人が「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」「上場企業における不祥事予防のプリンシプル」を発表していることを踏まえ、機関投資家が投資先企業に対し不祥事の対応・予防に向けていかなるエンゲージメント(対話)を行うべきかに関する共通理解を明確化し、対話の方法に関する選択肢を提示したものとなっています。
③ 第3章 金融機関のESG融資における審査~ESGモデル条項の提示
赤道原則や21世紀金融行動原則の趣旨を踏まえつつ、融資取引からの反社会的勢力の排除に関する金融庁の監督指針を発展する形で、融資金融機関に対し、ESGに配慮した融資審査や融資先企業との対話・支援の在り方を示しています。
また、融資契約に盛り込むことを検討すべきESGモデル条項も提示し、その解説を行うと共に、条項運用における留意点も示しています。さらに、中小企業への融資の際における留意点も規定しています。
ガイダンスの性質
本ガイダンスは、現時点のESG関連リスクへの対応の在り方に関するグッド・プラクティスを取りまとめたものであり、企業等を拘束するものではなく、むしろリソース(人材・資本・情報)を十分に有していない企業が効果的な対応を行うための補助となることを目的としています。
ESG課題への対応については、企業等の規模、事業の内容、投融資の内容等の特性にもより異なるところであり、プリンシプルベース・アプローチ(原則主義)が妥当します。企業等は、本ガイダンスに基づき対応を行わない場合にはその合理的な理由を説明することが期待されるという意味で、コンプライ・オア・エクスプレイン(従うか、そうでなければ従わない理由を説明するか)の手法の活用も有用であると考えます。
なお、本ガイダンスは、ESG関連リスクへの対応のために推奨する取組を「すべき」と表記した上で規定していますが、物的・人的・経済的環境に応じて推奨するにとどまる取組に関しては「望ましい」と表記しています。
 
 4つ目の「ESG(環境・社会・ガバナンス)関連リスク対応におけるガイダンス(手引)」についての説明を、長さを厭わず引用したのは、自分自身の理解のためであり、他意はありません。
 このガイダンスにしろ、3つ目の「「確約手続に関する対応方針(案)」についての意見書」にしろ、いわゆる企業法務に関連の深い分野についての意見書、あるいは一種の提言であり、正直言って、私からは縁遠い分野であり、タイトルを見ただけでは何のことか分からないといった有り様なのです。
 とはいえ、こういう不得意分野についての意見書にも、極力目を通すように努めれば、それなりに勉強にはなるのでしょうけどね。
 
 ということで、この2つはさておき、残る2つの「災害」関連の意見書をご紹介(つまり全文引用)したいと思います。
 引用するためには、私自身が全文を読み通す必要がありますので、とても勉強になります。
 今日は、まず「被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書」を読んでみたいと思います。
 近時全国で続発する大水害等の災害被災者支援のため、緊急に国に対応を求めるべき点をまとめたものです。
 是非ご一緒にお読みください。
 
被災者支援に資する住家被害認定、災害救助法の弾力的運用及び公費による土砂等撤去の措置を求める意見書
(引用開始)
                       2018年(平成30年)8月23日
                               日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 当連合会は,被災者の生活再建に資するため,国に対し,以下の施策を実施することを求める。
1 被災した自治体に対し,以下の事項を周知すべきである。
(1) 住家の被害認定について,その趣旨が被災者支援にあることに鑑み,被災地の被害状況に即した柔軟な判断を行うとともに,迅速性・個別性を重視して被災者の利益に資する認定を行うこと。
(2) 災害救助法の運用に当たって,被災者の支援及び保護の目的を達するため,①「人命最優先の原則」「柔軟性の原則」「生活再建継承の原則」「救助費国庫負担の原則」「自治体基本責務の原則」「被災者中心の原則」に基づいて弾力的運用を行い,②応急仮設住宅に関する要件等を加重せずにできる限り緩和し,③応急修理制度を積極的に活用できるように要件を緩和すること。
(3) 大規模な土砂災害に際しては,災害救助法の活用や特例措置を設けるなどの方法によって,公費による土砂等撤去を実施すること。
2 大規模な土砂災害に際し,被災自治体の行政事務が混乱することを回避するため,土砂の撤去に関する権限分掌の統一的な事務要領の作成等を行うべきである。
3 被災自治体の各施策の実施に当たり,被災自治体の財政的負担が軽減されるよう,災害救助法の適用に当たって被災自治体が要求する特別基準を積極的に認めるとともに,地方自治体が策定する土砂等撤去や被災者支援に係る特例措置の実施を裏付ける補助金交付税等を措置するべきである。
 
第2 意見の理由
1 災害に係る住家の被害認定(以下「住家被害認定」という。)について
(1) 市町村長は,当該市町村の地域に係る災害が発生した場合において,当該災害の被災者から申請があったときは,遅滞なく,住家の被害その他当該市町村長が定める種類の被害の状況を調査し,罹災証明書(災害による被害の程度を証明する書面)を交付しなければならないとされている(災害対策基本法90条の2)。
 罹災証明書には,「全壊」「大規模半壊」「半壊」「半壊に至らない(一部損壊)」の4区分の住家被害認定の結果を記載するのが一般的である。罹災証明書における住家被害認定の結果は,被災者生活再建支援法に基づく支援の要件になっているほか,義援金仮設住宅への入居要件など官民問わず様々な被災者支援制度を利用する判断材料として活用されており,行政にとっても,災害救助法の適用を始め災害対応の基本的かつ重要な指標となっている。
 そのため,被災者にとって,住家被害認定の結果はその後の生活再建の帰趨を決する死活問題と言っても過言ではない。
(2) そもそも,被災者の生活再建のための各種の制度は,「人間の復興」の視点に立ち,被災者の生活再建を第一に考えて運用されなければならない。住家被害認定の運用も例外ではなく,自治事務地方自治法2条8項)の中でも最も被災者支援の趣旨を重視すべき事務である。
 他方で,住家被害認定について複数回にわたる再調査が行われることが多く,それが市町村の負担となっているのが実情であることは理解できる。
 ただ,被災者の生活再建を第一に考えて柔軟に住家被害認定を行うことで,再調査による事務の停滞を防止できることとなり,災害復興に係る行政事務の大幅な効率化・迅速化にも資することとなる。平成30年7月豪雨(以下「西日本豪雨」という。)における岡山県倉敷市真備町での一括全壊認定や,平成30年6月大阪府北部地震における写真提示による一部損壊の罹災証明書の即時発行処理等は,被災者の利益に資する事務迅速化の一例である。
 したがって,国は,被災地の市町村長において,被災者の生活再建の目的に資する住家被害認定を行うよう,より一層働きかけるべきである。
(3) この点内閣府(防災担当)では,住家被害認定の程度については「災害の被害認定基準について(平成13年6月28日付け府政防第518号内閣府政策統括官(防災担当)通知)」(以下「被害認定基準」という。)を定めるとともに,被害認定基準に規定される住家損害割合による場合の具体的な調査方法や判定方法として「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」(以下「運用指針」という。)を定めている。
 そして,平成27年9月関東・東北豪雨(以下「関東・東北豪雨」という。),平成28年熊本地震(以下「熊本地震」という。),平成29年7月九州北部豪雨(以下「九州北部豪雨」という。)等での経験を踏まえ,2018年3月に,水害による被害に係る運用指針が改定された。この改定で,運用指針は,被災者の利益に資する内容に改められ,調査の効率化・迅速化も進められた。こうした被災者の利益に資する改定は率直に評価すべきである。
 しかし,住家被害認定は,もとより各市町村長の自治事務であり,上記の基準や指針の策定により大幅に画一化・定型化が図られ,事務の軽減が図られたとはいえ,住家被害認定に関する判断の権限は各市町村長に帰属している。市町村長は,被災者に最も近い基礎自治体の長であり,市町村の被災状況が最もよく分かる立場にある。それゆえ,国は,各自治体が自らの判断で,当該災害の被害状況に応じて柔軟に認定することを尊重すべきである。
(4) 市町村長が住家被害認定を行うに当たり,特に重要な考慮要素は,被災した建物が「住家」である以上は,その建物に以後も居住することが可能か否かである。被害の状況は各被災した建物の置かれた状況により様々であるから,認定が困難な限界事例や特殊事例が存することは住家被害認定の常である。被災地で行っている法律相談にはそうした限界事例や特殊事例が多数寄せられている。
 例えば,九州北部豪雨の被災自治体の一部では,災害自体が運用指針改定以前のものであることから,法の不遡及を理由に住家被害認定の見直しを行わず,流出土砂によって住家が重大な被害を被っているのに一部損壊のまま放置されている被災者も存在しており,被災者の生活再建に配慮した住家被害認定がなされていない。
 西日本豪雨の被災地では,床上浸水に加えてアルミ工場爆発による破片飛散等によって近隣住家に大きな被害が生じた自治体で,住家被害認定に当たり,自然災害と人災を区別すべきではないかという疑問も呈されたが,この工場爆発は,浸水した水が高温のアルミニウムに触れて爆発したものとされており,自然災害と因果関係があることは明らかである。このような被害は,地震による隣家の倒壊や台風による瓦の飛来で近隣住家が被害を
受けた場合と本質は何ら変わらないのであって,住家として住めない以上,全壊であることは明らかである。
 また,同じく西日本豪雨において,自宅につながる人道橋が落下して立ち入れなくなった被害もあったが,東日本大震災熊本地震の際には,同様の被害で全壊又は長期避難認定(被災者生活再建支援法2条2号ハ)にした例があり,当該事例でもこれと同等の柔軟な対応が求められる。
 国は,現在までに分かっている西日本豪雨等の事例のいずれについても,「人間の復興」の観点から被災者支援を第一に考えた柔軟な認定を行うことを,被災した自治体に対して,あらためて周知すべきである。
2 災害救助法の運用・解釈について
(1) 災害救助法は,第1条において被災者の保護をその目的としている。かかる目的から,「救助の万全を期する観点から,臨機応変に対応しなければならない。」「被害状況等は災害の規模,態様,発生地域等によりそれぞれ異なるので,応急救助の実施に際してはこれらの例に固執することなく,柔軟に対応するようにされたい。」(「災害救助の運用と実務-平成26年版―」災害救助実務研究会編著,第一法規293頁)とあるとおり,被災者の保護という目的に沿って特別基準を活用して弾力的に運用すべきである。
 その一方で,国は,2014年6月付け「災害救助事務取扱要領」等において,法による救助の原則を挙げているところ,当連合会は,2012年4月20日付け「防災対策推進検討会議中間報告に対する意見書」において,災害救助事務取扱要領に掲げた原則を改め,法による救助は以下の6原則によるべきことを提言した。改めて,以下に記して災害救助法の運用原則とすることを求める。
① 「人命最優先の原則」…災害救助においては,何よりも人命尊重が優先し,徹底した救命措置はもとより,避難中に人命を失うことがないように最善を尽くすべきであるとするもの。
② 「柔軟性の原則」…その災害に適合した最適な救助方法を,柔軟な発想をもって積極的に考案することとし,一般基準に固執した硬直的な運用をしてはならないとするもの。
③ 「生活再建継承の原則」…災害救助は無理に応急的なものにとどめず,長期にわたる避難生活に配慮し,さらにその後の被災者の生活再建につなげていく対応を行うべきとするもの。
④ 「救助費国庫負担の原則」…大災害時の救助費は,原則として国庫が負担することとし,災害救助に当たる地方公共団体が一時的な費用負担をおそれて,救助を躊躇してはならないとするもの。
⑤ 「自治体基本責務の原則」…災害救助は地方公共団体の基本的な責務であり,国の機関事務でないことはもとより,被災者に対して責任を負って遂行されるべきとするもの。
⑥ 「被災者中心の原則」…災害救助は被災者のために行われるものであり,被災者の生命,健康,生活を救済することを目的に行われるべきとするもの。
(2) 災害救助で予定されている被災者支援の制度のうち,今後最も重要となるのは,応急仮設住宅の提供であり,特に「借上型応急仮設住宅」(いわゆる「みなし仮設住宅」)の運用を重視すべきである。会計検査院も,応急仮設住宅の提供においては,みなし仮設住宅を本則にすべきとしており(2012年10月付け「東日本大震災等の被災者を救助するために設置するなどした応急仮設住宅の供与等の状況について」会計検査院法第30
条の2の規定に基づく報告書),西日本豪雨でも既に提供が行われている。
 これまでの災害時におけるみなし仮設住宅の提供では,都道府県が建物所有者等との間で賃貸借契約を締結し,建物を借り上げた上で被災者に提供するという仕組みで住宅の提供が行われてきた。しかし,この方法では法律関係が複雑となり,更新や引っ越しの際に様々な問題を引き起こす原因となっている。このような様々な問題を生じさせないよう,みなし仮設住宅の提供においては,運用を緩和し,被災者と建物所有者との間で直接賃貸借契約を締結し,家賃補助の形にするのが最も合理的である。
(3) ところで,都道府県がみなし仮設住宅を提供するに当たり不必要な制限が付されることがある。
① 九州北部豪雨では,賃貸住宅に建築基準法上の耐震基準を設け,耐震基準を満たさない住宅はみなし仮設住宅として認めないとの運用がなされた。その結果,家賃の大部分を自己負担しなければならないという結果を強いられた事例が数十件発生しており,同じ災害で同じような住家被害であったにもかかわらず,被災者間で著しい処遇上の不公平が生じている。
 この運用は,「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定等について」(社援総発0427第1号,国土動第47号,国住備第35号)及び当該通知に添付された「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定運用細則例」の記載を根拠とするものであるが,当該通知は,平時からみなし仮設住宅に提供できる物件を十分に確保すべく都道府県が選定する住宅の条件を記載したものであって,被災者が,災害後の避難生活のために緊急に住宅を探し出したにもかかわらず,たまたま当該住宅が耐震基準を満たさなかったときに当てはめるべきものではない。過去の通知等を形式的に厳格運用したものであって,上記の柔軟性の原則に反するものである。
 そもそも災害時において建築される応急仮設住宅には建築基準法の適用が除外されていることと不均衡であること,自ら住宅を探し出した被災者は自助による復興を目指す者として推奨すべく手厚い保護が期待されるべきこと,過去においては甚大な震災でも耐震基準を求めない扱いとなっており合理性が存しないことなどから,みなし仮設住宅に耐震基準を求めることが不当であることは明らかである。以上のことから,みなし仮設住宅の提供に当たって賃貸住宅に耐震基準を求めるのは適当ではない。
② また,上記の災害救助事務取扱要領には,応急仮設住宅は,住宅の応急修理や障害物の除去と併給できないという運用方法が示されている。これは,応急修理や障害物除去を実施すれば,生活環境が回復されるので,更に応急仮設住宅を提供すると救助重複になるという考えに基づいているものと思われる。
 しかし,西日本豪雨のような大規模災害の被災住家で,最小限度の障害物の除去をしたところで,応急仮設住宅と同等の生活水準まで回復できる状態になるとは考えにくい。応急修理も同様である。したがって,その制度設計自体が現実から大きく乖離していると言わざるを得ず,上記運用方針は著しく非現実的と言うべきである。
 そもそも,応急修理や障害物除去を実施するとしても,その間,被災者に対してどこかで生活環境を確保する必要があり,それには応急仮設住宅を供与するのが合理的である。また,被災地域において応急修理や障害物除去を網羅的かつ速やかに実施することが望ましく,仮に,住家の損壊状況等によって障害物除去の実施の有無が区々となり,実施されない住家における災害廃棄物や土砂等の除去を被災者個人に任せることとすると,かえって混乱を招き,被災地域全体の復旧復興を妨げる要因にもなりかねない。むしろ,障害物除去は,全壊となって再建等を選択せざるを得ない住家であっても実施できるよう運用すべきである。
 したがって,併給を認めない上記解釈は非現実的かつ不合理であるから,かかる要件の加重は改められるべきである。
③ 以上の観点から,国は,被災自治体に対して,応急仮設住宅の提供に関しては,要件等を加重することなく,できる限り緩和して運用されるよう周知すべきである。
(4) 今後の生活再建においては,住宅の応急修理も重要である。
 しかし,過去の災害においても,修理が十分に行われず,在宅被災者が生じてきた。
 東日本大震災の被災地や関東・東北豪雨の被災地等では,今なおカビだらけの家や,床板のない建物で暮らしている人がいる。災害救助法に基づく応急修理制度は,不十分ではあるが,積極的に活用されるべきである。
 ところが,応急修理制度は,行政から修理業者に直接委託する手続を経る必要があるほか,上記のとおり仮設住宅との併用ができない運用が存在していることから,応急修理制度を利用したことが原因で生活再建プロセスに決定的な支障を生じている例が散見される。また,収入要件があるため自宅の再建をなかなか進めることができないことも多い。
 一般的に,家屋修理により生活再建する方が,解体・建替えよりも経済的合理性があり,早期の生活回復が図れ,地域コミュニティも維持されるので,修理制度の充実こそ優先されるべきである。しかし,上記のとおり運用上の支障があり,応急修理制度は活用されていない。
 西日本豪雨の被災地を始め,今後の災害においては,応急修理制度を積極的に活用できるように要件を大幅に緩和するなど,被災者中心の原則に即して運用を改善するべきである。
3 土砂等の撤去について
(1) 西日本豪雨では,広島県岡山県愛媛県を中心に多くの住家に土砂が流入し,その撤去に困難を極めており,復旧の大きな足かせとなっている。
 本年7月11日以降,広島県岡山県愛媛県弁護士会で実施している無料電話相談では,8月20日までに1,122件の相談が寄せられているが,7月末までの相談のうち,全体の約4割から5割(速報値:広島46.7%,岡山34.9%,愛媛50%)が土砂等の撤去に関する相談であった。
 土砂中には巨大な流木や岩石も含まれ,人力で運搬撤去することが困難なものもあった。民間ボランティア頼りになっている地域も多いが,民間の善意による土砂等の撤去だけでは明らかに不十分である。九州北部豪雨や関東・東北豪雨でも,土砂等の早期撤去が重要な課題となったところである。
(2) 災害救助法には「災害によって住居又はその周辺に運ばれた土石,竹木等で,日常生活に著しい支障を及ぼしているものの除去」(法4条1項10号,同施行令2条2号)の規定があり,住家内に流入した土砂の撤去は同条項に基づいて撤去が可能である。一般基準では生活に不可欠な場所に限って1世帯当たり平均13万5400円の限度とされているが(内閣府告示第228号第12条),特別基準を設けて弾力的に活用することで,公費による土砂等の撤去は可能である。上記のように応急仮設住宅との重複が認められないという運用も見られるが,それは非現実的な要件加重であり,こうした制限的運用を改め,できる限り弾力的な運用を行うべきである。
 過去の災害では,道路啓開作業を行うのと同時に住家内に流入した土砂等の撤去を行った例(災害対策基本法と災害救助法の一括適用),家屋の応急修理と土砂等の撤去を同時に行った例(災害救助法の複数の救助の一括適用)等があり,これに伴い救助費の増額をする特別基準が設けられたことがある。
(3) また,西日本豪雨では,広島市呉市等において,公有地と民有地を問わず,公費において土砂等の撤去を行う特例措置を講じている。
 阪神・淡路大震災東日本大震災等の大規模災害時において,土砂に限らず,廃棄物を公費で撤去した多数の先例があり,西日本豪雨でも,環境省において災害等廃棄物処理事業を活用した土砂等の撤去費用の負担等の特例措置も講じられたところである。
(4) したがって,被災自治体においては,大規模な土砂災害が発生した時には,加重要件を緩和して特別基準を活用したり,他制度との同時利用をしたりするなどして災害救助法を活用し,あるいは,独自の特例措置を設けるなどの方法によって,公費による土砂等の撤去を行うことを検討していただきたい。
4 国の役割について
(1) 以上のように,大規模な土砂災害時には,被災自治体における被害状況に応じた独自の施策が柔軟かつ積極的に行われることが望ましい。
 これを阻んでいるのは,第1に被災自治体が住家被害認定に関して国の「被害認定基準」や「運用指針」に事実上拘束されていること,第2に災害救助の一般基準に関しては「災害救助事務取扱要領」に掲げられた限定された記載に事実上拘束されていること,第3に災害救助の特別基準に関する独自施策を行う知識や経験が不足していること,第4に環境省による災害廃棄物処理事業等と災害救助の特別基準との間の権限分掌が不明確であるために行政事務に混乱が生じていること,第5に災害救助の特別基準に関する独自施策を実施すると被災自治体の財政負担が重くなることにある。
 上記のうち第1点については住家被害認定の被害認定基準や運用指針に法的拘束力がないこと,第2点については災害救助事務取扱要領にも法的拘束力がないこと,第3点については特別基準の先例等の情報を得て克服することができることを周知するとともに,その旨を,被災経験のある他の自治体によるサポート,研究者や経験豊富な災害ボランティア等による専門的助言に加え,弁護士及び当連合会として支援に力を尽くすことによって克服できるものと思われる。そこで,まず国に被災自治体に対する周知を求める。
(2) 一方,権限分掌の問題については,国の事業の範囲が判然としなければ,自治体としても独自事業を行うべきか否かの判断が困難である。
 例えば,西日本豪雨相談の内容の多くが土砂等の撤去に関するものであったが,その背景には,土砂等の撤去に関する権限分掌の範囲が不明確であるという事情がうかがわれる。被災自治体の多くは,被災直後から行政事務が著しく混乱した状況が続いており,発災から約2週間経過した時点で環境省が土砂等の撤去に関して補助金を手当てする旨の連絡文書を発出したにもかかわらず,対象自治体の一部では補助金対象事業の範囲が決まらず2018年8月2日の時点でなお担当窓口さえ決まらないところもある。
 各施策に関して国と自治体との間の権限分掌が不明確であると,どうしても施策の実施の判断が先送りになってしまうという状況が浮き彫りになっている。
 その結果,独自の上乗せ支援を先行させている自治体と,制度を十分に整理できずに支援が先送りになっている他の自治体との間で,被災者の支援に格差が生じているという実態が生じている(2018年8月2日現在)。
 被災者の視点から見れば,不条理というほかない。 
 このような被災自治体における行政事務の混乱を避けるためにも,国においては,国と自治体について,土砂の撤去に関する権限分掌の統一的な事務要領の作成を行うべきである。
(3) また,国による財政的負担については,積極的な支援が強く期待されるところである。 そこで,国は,被災自治体が被災者支援施策を実施するに当たり,被災自治体の財政的負担が軽減されるよう,災害救助法の適用に当たって要件緩和を含め被災自治体が要求する特別基準を積極的に認めるべきである。そして,地方自治体が策定する土砂等の撤去や被災者支援に係る特例措置の実施を裏付ける補助金の手当て,あるいは,地方交付税特別交付税等の積極的な配分等の措置を講じるべきである。
                                                                             以上
(引用終わり)
 
(参考資料)
災害の被害認定基準について(平成13年6月28日 府政防第518号 内閣府政策統括官(防災担当)から警察庁警備局長、消防庁次長、厚生労働省社会・援護局長、中小企業庁次長、国土交通省住宅局長あて通知)
災害に係る住家の被害認定基準運用指針(平成25年6月 内閣府(防災担当))
防災対策推進検討会議中間報告に対する意見書(2012年(平成24年)4月20日 日本弁護士連合会)
災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供に関する協定等について(社援総発0427第1号 国土動第47号 国住備第35号 平成24年4月27日)