2018年12月28日配信(予定)のメルマガ金原No.3375を転載します。
去る12月4日、参議院議員会館において、「優生保護法 被害者の声を聞く院内集会」(主催:優生手術に対する謝罪を求める会・全国優生保護法被害弁護団)が開かれ、私もUPLANチャンネルの動画にリンクして、その模様をブログでご紹介しました(優生保護法 被害者の声を聞く院内集会(2018年12月4日)から~「被害者・家族の会 声明」をご紹介します/2018年12月6日)。
もっとも、間もなくこの動画が削除されてしまったため、今では視聴することができません。被害者の方の映像は撮影しない等の配慮はなされていましたが、何らかの事情による削除要請があったのでしょう。デリケートな内容なので、やむを得ないことかもしれません。
ところで、この院内集会が行われた6日後の12月10日に大きな動きがありました。
与党旧優生保護法に関するワーキングチームと優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟とが、それまでそれぞれが検討してきた優生保護法に基づく被害者の被害回復に向けた検討結果を一本化した「基本方針案」を発表し、来年の通常国会に法案
を提出する方針であることを明らかにしたのです。
今日ご紹介しようと思うのは、この「基本方針案」に対して寄せられた様々な意見のほんの一端だと思いますが、何を言うにも、まずその一本化された「基本方針案」自体を読んで自分自身で考えるということをした上でないと、批判にせよ賛同意見にせよ、しっかりと腑に落ちるという訳にはいきません。
そこで、この「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」がネット上にアップされていないかと調べてみたところ、「精神障害者権利主張センター・絆」WEBサイトに転載されており、
さらに、「認定NPO法人 DPI日本会議」WEBサイトにワードファイルとしてアップされているのを発見しました(「旧優生保護法下の強制不妊手術被害に関する11月・12月の主な動き」というページからワードファイルを開けることができます)。
そこで、まずこの「基本方針案」を全文ご紹介しますので、しっかり読んでいただければと思います(ワード版をそのまま転載しました)。
(引用開始)
旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)
1 前文
(1)昭和23年に制定された優生保護法に基づき、あるいは同法の存在を背景として、特定の疾病や障害を有すること等を理由として多くの方々が、平成8年に改正が行われるまでの間、その生殖を不能とする手術や放射線の照射を強いられ、心身に多大な苦痛を受けてきたことに対して、我々は、真摯に反省し、心から深くおわびする。
(2)今後、このような事態を二度と繰り返すことのないよう、障害や疾病の有無によって分け隔てられることなく全ての国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて努力を尽くす決意を新たにするものである。
(3)ここに、国としてこの問題に今後誠実に対応していく立場にあることを深く自覚し、対象者に対する一時金の支給に関し必要な事項を定めるため、この法律を制定する。
2 対象者
次に掲げる者であって、この法律の施行の日において生存しているもの
①旧優生保護法第2章の規定により優生手術(同法第2条第1項に規定する優生手術をいう。)を受けた者(同法第3条第1項第4号又は第5号に規定する者に該当することのみを理由として、同項の規定により優生手術を受けた者を除く。)
②①のほか、旧優生保護法が施行されている間(昭和23年9月11日から平成8年9月25日までの間)に、本人又は配偶者が旧優生保護法に規定する疾病若しくは障害又は当該障害以外の障害を有していること等を理由として、生殖を不能とすることを目的とする手術又は放射線の照射を受けた者
3 一時金の支給
(1)対象者には、一時金を支給する。一時金の額は、一律とする。
[※一時金の具体的な額は、諸外国の例も参考に引き続き検討し、法律案を提出するまでの間に決定する。]
(2)対象者が、4(1)の一時金の請求をした後に死亡した場合であって、その者が受けるべき一時金があるときは、その者の配偶者等で死亡時に生計同一であった遺族に支給し、遺族がないときは相続人に支給する。
4 権利の認定
(1)一時金の支給を受ける権利の認定は、これを受けようとする者の請求に基づいて、厚生労働大臣が行う。
(3)請求は、この法律の施行の日から起算して5年以内に行わなければならない。この請求期限については、この法律の施行後における一時金の支給の請求の状況を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする。
(4)厚生労働大臣は、請求があったときは、優生手術に関する記録に当該請求に係る事実の記録がある場合を除き、当該事実があったかどうかに関し旧優生保護法一時金支給認定審査会〔仮称〕(以下「認定審査会」という。)に審査を求めなければならない。
(6)認定審査会は、(4)の審査において、請求に係る事実について記録した資料がない場合においても、本人及び関係者の供述、医師の所見その他の資料を総合的に勘案して、適切な判断を行うものとする。
[※参考とする資料の例
・本人及び家族の証言
・処置をした医師、福祉施設職員その他の関係者の証言
・手術痕等についての医師の診断書
(7)厚生労働大臣は、(4)により認定審査会に審査を求めた請求については、その審査の結果に基づき、認定に関する処分を行わなければならない。
(9)認定審査会は、必要があると認めるときは、請求者に対して、指定する医師の診断を受けるよう求めることができる。
5 周知等
(1)国は、この法律の趣旨について、広報活動等を通じて国民に周知を図り、その理解を得るよう努めるものとする。
(2)国及び地方公共団体は、国民に対し二時金(※金原注:おそらく「一時金」の誤記)の支給を受けるのに必要な情報を十分かつ速やかに提供するために一時金の支給に関する制度の周知を適切に行うとともに、一時金の支給の請求に関し利便を図るための相談支援の業務その他の必要な措置を適切に講ずるものとする。この場合において、対象者の多くが障害者であることを踏まえ、障害者支援施設その他の関係者の協力を得るとともに、障害の特性に十分に配慮するものとする。
[※具体的な周知等の措置のイメージ
・行政による相談窓口の設置
・弁護士会、医療関係者等の幅広い関係者の協力を得た相談支援の実施
・広報用ポスター・パンフレットの活用
・医療機関、障害者支援施設等を通じての申請の呼びかけ]
6 その他
一時金については、公租公課を課することができない。
[※優生手術等に関する調査の在り方については、法律案を提出するまでの間に検討する]
(引用終わり)
これをとにかく読んで自ら考えた上で、様々な団体等の意見に耳を傾けてみたいと思います。
(引用開始)
1 与党旧優生保護法に関するワーキングチーム(以下「与党ワーキングチーム」という。)と優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟(以下「議連」という。)は,2018年12月10日,それぞれが検討してきた優生保護法に基づく被害者の被害回復に向けた検討結果を一本化した「基本方針案」を発表し,来年の通常国会へ法案を提出する方針を発表した。
被害者の被害を回復する法律の制定は,本来であれば1996年の母体保護法への改正時に検討されるべきことであり,遅きに失するものではあるが,裁判などによって優生保護法による重大な人権侵害事実が表面化したことをきっかけに,与党ワーキングチーム及び議連が結成され,それぞれに被害回復に向けた検討が重ねられたこと,当弁護団や障害者団体等の意見を踏まえて意見を一本化したことなど,被害回復法案の制定に向けて前進していることには敬意を表するものである。
しかしながら,今般まとめられた基本方針案については,重要な部分において,弁護団がこれまで表明してきた意見が反映されていない部分もあり,不十分な点もある。
2 まず,基本方針案には被害者への「反省とおわび」が盛り込まれているが,その主体
が「我々」では,「国」が立法,行政の誤りを謝罪したことにならず,不十分といわざる
をえない。
基本方針案は,優生保護法が国会の全会一致で成立し,被害が長らく見過ごされたことを踏まえ,国民全体による謝罪と位置付けているようであるが,国が違憲な法律を制定し,その法律に基づき,施策として重大な人権侵害を行ってきたことに鑑みれば,主体は「国」となるべきである。
重大な人権侵害を行ってきた国としての責任を明確にすることは,優生思想を正当化した法律によって名誉及び尊厳が著しく損なわれたという点でも甚大な被害を受けている被害者にとって,謝罪の前提条件であり,被害回復の基礎となるものである。国は,法律によって,憲法に違反する著しい人権侵害が行われたことを認めたうえで,真摯な謝罪をするべきである。
3 補償対象者を優生手術等による被害者本人及び請求した後の一定の遺族に限るとした点については,配偶者,法施行前に被害者(手術を受けた者)が死亡している遺族や人工妊娠中絶に基づく被害者も含めて検討すべきである。
4 また,被害認定は,認定審査会の審査の上,厚生労働大臣によるとのことであるが,
被害者は,長年,厚生労働省に被害の訴えを無視し続けられており,厳しい不信感を有している。
2018年12月4日付議連宛要望書に記載した組織,構成等を参考に,被害者にさらなる被害を生じさせたり,大きな負担を負わせることのないよう検討をすべきである。
5 次に,基本方針案が,被害者の速やかな救済のため,被害者が居住する都道府県に申
請することとし,弁護士の相談支援体制も含む周知等の配慮を行うこととした点,法律に国及び自治体が必要な調査及び個別の被害者への通知を行うための権限規定を新たに設けることとした点については,評価できる。
これまでも再三指摘したとおり,被害者は,自ら意思表明することが困難な者も少なくないことから,手術記録の確認や救済策の周知,広報などだけでは不十分であり,漏れなく全ての被害者の被害回復を実効的に進めるためには,周知措置のみならず,国及び自治体の責任において全ての被害者の現況調査を行うことが必要である。
そして,被害者が優生手術に関する記録開示請求や補償請求を心理的抵抗感なく行えるような仕組みを作り,一人でも多くの被害者に,国の謝罪と補償が届く方策について,今後も検討を重ねるべきである。
6 真相究明等のための検証委員会を設置することが基本方針案に明記されないことは遺
憾である。
国が積極的に,優生思想を打破・根絶するための継続的な啓発活動や障害のある人に対する差別をなくすための施策を推進することは,我が国が批准している障害者権利条約上の義務でもあり,真の意味の被害回復の観点からも必要不可欠である。
7 優生手術等による被害者は,重大な人権侵害を受けながら長年放置され続けたのであ
るから,早急に,被害回復に向けた法律制定がなされるべきことは当然である。
しかし,上記のとおり,現在検討されている基本方針案は,被害者の真の被害回復のためには重要な点において不十分であるといわざるを得ず,当弁護団は,国としての責任を自覚した,さらなる検討がなされることを期待する。
以上
2018年12月11日
共同代表 新 里 宏 二
同 西 村 武 彦
(引用終わり)
また、4日後(12月14日)に、「基本方針案」を社説で取り上げたのが朝日新聞でした。
朝日新聞 2018年12月14日 社説
優生手術救済 検証と謝罪が問われる
(抜粋引用開始)
まだ課題が山積みだ。救済制度のあり方だけでなく、過去の検証と謝罪が問われている。
個別の通知は見送られた。手術について周りに知られたくない人もいて、郵便などで知らせると混乱しかねないという。
(略)
救済法案では前文で、被害者が受けた心身の多大な苦痛に触れつつ「我々は、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわびする」とうたうことになった。
「我々」とは誰なのか。与党WT座長の田村憲久衆院議員(自民)は「政府と国会が含まれる。広くは地方自治体、優生思想という風潮があったことからすると社会も含まれるかもしれない」と説明する。旧優生保護法が議員立法で成立し、政府の方針に従って自治体が競うように手術を推進した経緯を踏まえた発言だろう。
人権を踏みにじる政策がなぜ立案され、歯止めがかからないまま2万5千人もの人に優生手術が行われてしまったのか。その過程と責任の所在を明らかにする検証作業が欠かせない。
基本方針は「調査のあり方について法案の国会への提出までに検討する」と触れただけだ。過ちを二度と繰り返さないためにも、早急に検証態勢を整えるべきだ。
被害者側は国による謝罪を求めている。その思いにこたえなければならない。
(引用終わり)
12月20日付で、日本弁護士連合会が「旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書」をとりまとめています。
ということは、まさか12月10日から起案を始めたはずはなく、かねてから準備していたものを、12月10日の「基本方針案」の発表をうけて微修正したに違いありません。 ただ、これを全文転載するのは、いかにも長過ぎるので、是非リンク先で全文をお読みいただきたいとお願いしつつ、ここでは前文と「第1 意見の趣旨」のみ引用し、「第2 意見の理由」は省略します。
日本弁護士連合会 2018年12月20日
旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書
(抜粋引用開始)
旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等に対する補償立法措置に関する意見書
2018年(平成30年)12月20日
日本弁護士連合会
当連合会は,2017年2月16日付けで,「旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な措置を求める意見書」を発出した。
こうした動きを受け,同年3月には与党旧優生保護法に関するワーキングチーム及び優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟が結成され,同年12月10日,双方の合意により,「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する立法措置について(基本方針案)」(以下「基本方針案」という。)が公表された。
そこで,当連合会は,旧優生保護法下における優生手術及び人工妊娠中絶等の被害に対する補償立法措置の在り方について次のとおり意見を述べるとともに,基本方針案を修正すべき点について付言する。
第1 意見の趣旨
1 国は,旧優生保護法が,自己決定権,リプロダクティブ・ヘルス/ライツ及び平等権を侵害する違憲な法律であったことを認め,同法下において実施された優生手術及び人工妊娠中絶等の被害者に対して謝罪すべきである。
3 被害者本人が補償請求権を行使することなく死亡した場合には,少なくとも,同人の死亡当時に生計を同じくしていた一定範囲の遺族に補償請求権の行使を認めるべきである。
4 被害の認定に当たっては,手術記録の有無や特定の証拠の有無に拘泥することなく,被害者及び関係者の陳述等を積極的に考慮して柔軟な認定を行うべきである。
6 補償制度の広報に当たっては,被害者の有する障がいの特性に配慮した広報の仕方を工夫すべきであり,かつ,行政が把握している被害者については,被害者の現況調査を行った上で,十分にプライバシーに配慮した方法での個別の通知を行うべきである。
7 補償の申請期間は,申告をしにくい性質の被害であること,被害者の有する障がいの特性により補償制度の周知徹底には時間を要すること及び被害の実態調査が不十分であることに鑑み,十分な申請期間を設けるべきである。
8 被害者が被害全般及び補償申請の方法について相談できる窓口を各自治体に設置するとともに,被害者に対してカウンセリング等の支援を提供すべきである。
9 被害の実態調査及び真相究明のための検証を目的とする第三者委員会を設置し,再発防止に向け,全ての個人の存在と決定が等しく尊重される社会を実現するための継続的な取組を行うべきである。
*本意見書では,「優生手術」とは旧優生保護法3条1項1号ないし3号,4条及び12条を根拠とする優生手術を指し,「人工妊娠中絶」とは同法14条1項1号ないし3号を根拠とする人工妊娠中絶を指すものとする。すなわち,優生手術と人工妊娠中絶のいずれについても,優生思想に基づくもののみを指し,母体保護目的のものを含まない。
(引用終わり)
来月には通常国会が始まりますが、与党ワーキンググループと超党派の議連が話し合ってまとめた「基本方針案」ですから、国会に法案が上程されれば、そのままほぼ全会一致で成立する公算が高いはずです。だからこそ、より良い法案にするための働きかけが今必要とされているということになります。
(弁護士・金原徹雄のブログから/旧優生保護法関連)
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