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高橋和夫教授の「パレスチナ問題('16)」(放送大学)受講の奨め

 今晩(2016年8月6日)配信した「メルマガ金原No.2530」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
高橋和夫教授の「パレスチナ問題('16)」(放送大学)受講の奨め

 巻末のリストをご覧いただければ分かるとおり、過去何本も、放送大学や同大学専任教員である高橋和夫教授についての記事をメルマガ(ブログ)で書いてきました。
 私は、2008年4月、1年限定の選科履修生として放送学の学生となり、翌2009年4月から、正式に全科履修生となりました。いったん、全科履修生となれば、最長10年間は在籍可能なので(私の場合、2018年度まで)、あと2年半の間に卒業すればよいのですが、今学期履修中の科目を全て単位取得したと仮定すると、卒業までに必要な総単位数(124単位)まで残り13単位(語学を1単位含むことが必要)ということになります。最近は、各学期ごとに放送授業2科目(計4単位)、面接授業1科目(1単位)のペースで履修しているため、このままでは10年ではなく9年で卒業してしまうため、さらにペースを落とすか、必修の語学1単位を2018年度回しにして調整するか、などと考えています。
 
 この間、私がメルマガ(ブログ)で取り上げた放送大学関係の記事の中では、昨年10月に書いた「日本美術史('14)」事件をめぐる2本が異彩を放って(?)いますが、本来であれば、こんな記事は書きたくなかったのであって、多くの人に「あなたも放送大学の優れた科目を受講しませんか」とお勧めしたいのです。
 これまで書いてきたものでいうと、「社会福祉と権利擁護('12)」(大曽根寛教授)、「現代の国際政治('13)」(高橋和夫教授)、「日本美術史('14)」(佐藤康宏東大教授)~結局受講できませんでしたけど~、「貧困と社会('15)」((西澤晃彦客員教授)などということになります。
 
 今日は、日本を代表する中東ウォッチャーである高橋和夫教授が2016年度に新規開講した「パレスチナ問題('16)」のシラバスをご紹介し、是非、受講(が無理でも番組を視聴)されるようにお勧めしたいと思っています。
 私は、放送大学(BSのテレビ及びラジオで放送)の番組をケーブルテレビで視聴しているのですが、いずれ受講するかもしれないと関心を持った新規開設科目は極力、録画(または録音)することにしており、「パレスチナ問題('16)」についても、45分×15回の全回を録画して、少しずつ視聴し、今日(8月6日)、最終第15回の講義を聴き終わったところなのです。
 そして、全講義をひとわたり視聴した結果、10月から始まる第2学期で正式に科目登録することを決意するとともに、メルマガ(ブログ)でもご紹介したいと考えた次第です。

 講義の具体的中身は、以下に引用するシラバスをご参照いただければと思いますが、私が、是非この科目を皆さんに紹介したいと考えるに至った理由が2つあります。
 1つは、2015年1月20日、ISILにより、後藤健二さんと湯川遥菜さんを殺害するとの予告動画が公開された直後、中東歴訪中であった安倍晋三首相が、エルサレムウォルドルフ・アストリア・ホテルで行った記者会見の場に、日の丸と並んでイスラエル国旗が掲出されているのを映像で見た瞬間の衝撃がいまだに尾を引いており、その衝撃の正体は何だったのか、中東におけるイスラエルという国家の誕生から現在まで(それはパレスチナ問題と表裏の関係にあるのですが)について知りたい、そして多くの日本人にも知ってもらいたいと考えたことです(※首相官邸ホームページより)。
 もう1つは、最終回の講義の終わりにあたり、高橋教授から受講生・視聴者に送られた以下のメッセージ(録画から文字起こししました)に感銘を受けたことにあります。
 そこで、シラバスに先立ち、まず、最終講義における高橋教授からのメッセージをご紹介しようと思います。
 
「最後に、皆さんに一言だけお願いしたいことがあって、このお願いは、是非この風景の中でしたいと思って、この映像を撮ってまいりました。
~スタジオからエルサレムに転換~
 このシリーズの冒頭でエルサレムをご覧いただきました。その時はひどいサンドストームに覆われたエルサレムでした。
 今日このシリーズを締めくくるにあたって、再び同じエルサレムをご覧いただきたいと思います。しかし、今日のエルサレムは、朝日を浴びたエルサレムです。鮮明に見えていると思います。エルサレムが鮮明に見えるように、皆さまの中東理解も、より鮮明になったものと期待いたしております。
 このシリーズを終わるにあたり、私は、1つだけ皆さまにお願いしたいと思います。
 シリーズは終わるんですけど、これをもって皆さまのパレスチナ問題との関わりを終わりにしていただきたくないのです。これをきっかけに、パレスチナ問題を考え続けていただきたいと思います。関心を持ち続けていただきたいと思います。
 そして、この問題の解決のために、国際政治は何を出来るのか、そして、日本が何を出来るのか、そして、1人1人が何をできるのかを考えていただきたいと思います。
 さらに、この問題を見つめるにあたっては、国際政治という大きな枠組から見ていただきたいんですけれど、同時に、国際政治の動きが、現地の難民キャンプのパレスチナ人、占領地のパレスチナ人、あるいは、1人のイスラエルの母親に、父親にどういうインパクトを与えるのかという、下からの視点を大切にしていただきたいと思います。
 私も皆さまとともに、この問題を見つめる新しい旅に今出発したいと思います。」
 
 以下に、「パレスチナ問題('16)」のシラバスをご紹介します。なお、本科目は、主任講師の高橋和夫教授が全講義を担当しています。

(引用開始)
主任講師 高橋 和夫(放送大学教授)
放送メディア テレビ
放送時間
平成28年度第2学期:(月曜)8時15分~9時00分(2016年10月~)
講義概要
パレスチナ問題の起源から説き起こし現状を解説し、この問題の展開を跡付ける。そして、その将来を展望する。パレスチナ地域の情勢の記述を縦糸に、周辺諸国や地域外の大国の動きを横糸にして、陰影の深いパレスチナ問題のタペストリーを編み上げる。
「現代の国際政治('13)」や「国際理解のために('13)」などの関連科目にも目配りしつつ勉強していただきたい。
 
シラバス
第1回 パレスチナ問題以前のパレスチナ
パレスチナ問題はイスラムとユダヤの二千年の対立として語られる例が多いが、それは事実に反している。なぜならばイスラムには1400年ほどの歴史しかないからだ。そのイスラムが二千年も争っているはずがない。またパレスチナ人にはキリスト教徒も多い。こうした基礎的な事実を踏まえながら、パレスチナ問題が起こる以前のパレスチナの歴史を概観する。
【キーワード】バビロン捕囚、十字軍、オスマン帝国キリスト教イスラム教、アラブ人、パレスチナ
 
第2回 ポグロムシオニズム
ヨーロッパにおける民族主義の高揚がポグロムの背景にあった。そして、それがシオニズムを生みだすことになった。シオニズムの背景にあった帝国主義的な発想や社会主義の思潮にも言及しつつ、パレスチナをめぐる国際情勢を紹介する。
【キーワード】民族主義ポグロム、ヘルツル、ユダヤ人国家、シオニズムフセイン・マクマホン書簡、バルフォア宣言委任統治
 
第3回 夢と悪夢
イスラエルの成立時に発生したパレスチナ難民の問題をめぐる議論を振り返る。また大国の関与について語る。
【キーワード】イスラエルの成立、ナクバ、豊穣なる記憶、元兵士たちの証言、11分後の承認、トルーマン大統領
 
第4回 スエズのかなたへ
スエズ運河をめぐる国際政治を振り返る。1956年戦争とアラブ民族主義の高まり、そして1967年戦争のアラブ統一運動の挫折が、そのテーマとなる。
【キーワード】スエズ運河ムスリム同胞団スエズ動乱ハンガリー動乱アイゼンハワーの決断、6日戦争
 
第5回 アラブ世界の反撃
1967年の戦争での敗北が、パレスチナ解放闘争の指導者アラファトの台頭を準備した。そしてエジプトとシリアは1973年10月イスラエルを奇襲して、中東情勢に新しい局面を開いた。
【キーワード】カラメの戦い、ファタハ、サダト、ミサイルの森、石油危機、キャンプ・デービッド合意
 
第6回 変わるイスラエル
イスラエルは、中東系の人々の流入により、ヨーロッパ的な国家から中東的な雰囲気の国家へと変貌しつつある。また経済的に豊かになったイスラエルは、世界各地からの「ユダヤ教徒」の流入に直面している。変化するイスラエルの姿を描く。
【キーワード】アシュケナジムセファルディムイスラエル市民権を持つアラブ人、三階建ての家、ユダヤ人の定義問題
 
第7回 レバノン戦争
平和条約によってエジプトからの圧力から解放されたイスラエルは、その軍事力をレバノンに拠点を置いていたPLOへの攻撃に向けた。イスラエル史上初の「選択による戦争」であった。
【キーワード】生きた宗教の博物館、レバノン内戦、選択による戦争、チュニスへ、サブラとシャティーラ
 
第8回 ペレストロイカと冷戦の終結
1985年3月にゴルバチョフソ連の最高権力者になると冷戦が終わり始めた。それは国際政治における地殻変動を意味していた。対米関係の改善を目指したゴルバチョフはユダヤ人のソ連からの出国を認めた。洪水のように移民がソ連からイスラエルに押し寄せ中東情勢に大きな影響を与えた。
【キーワード】ゴルバチョフペレストロイカ、新思考、ユダヤ人出国問題
 
第9回 インティファーダ
1987年パレスチナヨルダン川西岸とガザ地区で民衆のインティファーダ(一斉蜂起)が開始された。武器を使わずに石を投げたりタイヤを燃やしたりの抗議行動がイスラエルの占領政策を揺さぶった。
【キーワード】石の戦い、「腕を折れ」、折れないパレスチナ人、ハマスの登場
 
第10回 オスロ合意
冷戦の終結と湾岸戦争でのイラクの敗北が、PLOを決定的に不利な状況に追い込んだ。その状況下でノルウェーイスラエルPLOの間のオスロ合意で大きな役割を果たしたのは、中立的であったからではない。それは親イスラエル的であったからだ。30年以上の時の流れの後に、この合意の意味を考える。
【キーワード】湾岸危機、湾岸戦争アラファト金脈の構図、ノルウェーという国、ガザ・エリコ先行自治、アラファトの足元と手の内、ノルウェーの森
 
第11回 ラビン/その栄光と暗殺
オスロ合意以降の情勢を動かした中心人物はラビンであった。その栄光に満ちた経歴を振り返る。また、その暗殺が中東和平プロセスに与えた意味を考える。
【キーワード】ネクタイを締められなかった男、1967年戦争の勝利、イスラエルの「ドゴール」、中東和平プロセス、暗殺
 
第12回 ネタニヤフとバラク
ラビンの死亡以降の情勢をネタニヤフとバラクというイスラエルの二人のライバル政治家に焦点をあてながら跡付ける。そして2期8年を務めたアメリカのビル・クリントン大統領の中東和平を仲介への努力を歴史的な文脈に位置付ける。
【キーワード】エンテベの軌跡、恐怖と希望、「ピアノを弾くゴルゴ13」、クリントンの中東和平
 
第13回 揺らぐシリアのアサド体制
イスラエルと一貫して対立してきたシリアでは、1970年代より二代にわたるアサド家の支配が続いている。両国間の懸案はイスラエル占領下にあるシリア領土のゴラン高原である。しかし、アサド体制が揺らいでいる現在、交渉は期待できない。アサド家の支配を揺るがしているのは、シリア内戦である。内戦の混乱はイラク情勢と連動して「イスラム国」という異物を生み出した。混迷するシリア情勢の地域政治への意味を考える。
【キーワード】ダマスカスのスフィンクス、眼科医、ゴラン高原アラブの春とシリア内戦、アラウィー派、「イスラム国」、シリアという地名
 
第14回 アメリカの中東政策
アメリカの中東政策を特徴づけているのは、イスラエルへの強い支持である。なぜアメリカはイスラエルを支持するのだろうか。その背景を考えたい。
【キーワード】AIPAC、キリスト教原理主義、Jストリート、変わるアメリカのユダヤ社会
 
第15回 残された課題
クリントンの和平努力の挫折後の情勢を概観する。その特徴はアラファトの逝去とハマースの台頭である。そして最後に和平実現のために越えなければならない残された課題を語る。
【キーワード】キャンプ・デービッド、ハマース、国境、入植地、エルサレム、帰還権 
(引用終わり)
 
(番組視聴の方法)
 BS231チャンネル(無料)で視聴できます。多くのケーブルテレビでも無料で再配信を受信できます。
 「パレスチナ問題('16)」の平成28年度第2学期の放送は、毎週月曜日の午前8時15分~9時00分です。10月3日(月)からスタートします。
 なお、BSやケーブルテレビは、放送大学の学生にならなくても、誰でも視聴できます。
 放送大学の学生(1学期だけの科目履修生、1年間の選科履修生、それから卒業を目指す全科履修生)になると、インターネット(学生専用ページ)でほぼ全講義、いつでも視聴できます(科目登録していない科目でも自由に視聴できます)。
 
(入学の方法)
 番組を視聴するだけでなく、正式に学生として受講したいという方は、インターネット出願が便利です。平成28年度第2学期からの入学受付は、8月31日までです。
 なお、入学を検討する場合に気になる学費については、こちらのページをご覧ください。
 
(印刷教材(テキスト)は市販もされています)
 入学して科目登録すれば(放送授業は1科目11,000円)、その授業料の中には当然放送教材(テキスト)代も含まれていますが、このテキストは市販もされています。
パレスチナ問題 (放送大学教材)』高橋和夫(著)
パレスチナ問題 (放送大学教材)


高橋和夫教授の近著)
『中東から世界が崩れる―イランの復活、サウジアラビアの変貌(NHK出版新書)』(2016年6月刊)
中東から世界が崩れる―イランの復活、サウジアラビアの変貌 (NHK出版新書 490)


(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年8月17日
高橋和夫放送大学教授に岩上安身氏が“中東問題”をきく ※追記あり(高橋教授から受講者・視聴者への訴え)
2015年1月23日
「イスラム国」人質事件について柳澤協二さんと高橋和夫さんの意見を聴く~IWJに会員登録をして

2015年1月30日
放送大学(オープンコースウェア)受講の勧め~学ぶことは楽しい
2015年10月22日
放送大学「日本美術史('14)」単位認定試験にかかわる見過ごせない大学の措置について

2015年10月24日
放送大学長「単位認定試験問題に関する件について」を批判的に読む
2016年1月30日
放送大学で学ぶ“貧困”~「貧困と社会('15)」(西澤晃彦神戸大学大学院教授)受講の奨め

月刊レファレンス(2016年4月号)の小特集「新安保法制の今後の課題」掲載論文のご紹介

 2016年8月5日に配信した「メルマガ金原No.2529」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
月刊レファレンス(2016年4月号)の小特集「新安保法制の今後の課題」掲載論文のご紹介

 国立国会図書館が発行する「各分野の国政課題の分析、内外の制度の紹介、国政課題の歴史的考察等、国政の中長期的課題に関する本格的な論説を掲載した月刊の調査論文集」「レファレンス」については、過去何度かその掲載論文をご紹介したことがあります。
 今回ご紹介する小特集「新安保法制の今後の課題」(2016年4月号)は、昨年9月にご紹介した小特集「集団的自衛権」(2015年3月号)が、いわゆる新安保法制の国会上程前における、集団的自衛権にフォーカスした特集であったのに対し、昨年9月の新安保法制成立及び本年3月の施行という事態を承け、「新安保法制に関する議論においてなお残る今後の課題のいくつかを論じる3本の論文を収めた」(緒言より)ものです。
 かなり細かな専門分野に踏み込んだ論考もありますが(第1論文、第2論文)、昨年の国会審議では必ずしも十分な議論がなされなかった個別分野について多角的な検討がなされており、安保法制の廃止を目指す立場からも、しっかりと学ぶ必要があると思います。
 そして、第3論文は、「戦後日本の安全保障法制の展開と世論」という相当に読み応えのある、自衛隊創設から新安保法制まで、安全保障法制と世論調査の結果を後付けた労作です。もっとも、読み終わった後、冷や汗が流れかねませんけどね。

小特集「新安保法制の今後の課題」<緒言>
前国立国会図書館調査及び立法考査局
専門調査員外交防衛調査室主任 等 雄一郎

(抜粋引用開始)
 2015(平成27)年5月15日の国会上程の後、5月26日の衆議院本会議趣旨説明に始まり、9月19日未明の参議院本会議における可決を経て、平和安全法制整備法と国際平和支援法の2 つから成るいわゆる新安保法制が9月30日に公布され、翌2016(平成28)年3月29日に施行された。新安保法制審議のため、第189回通常国会では、両院それぞれに委員数45 人という大規模な特別委員会(名称は両院ともに、我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会)が設置された。特別委員会での審議時間は、衆議院が116時間30分、参議院が103時間32分で、合計220時間余となり、安全保障関連の法律案・条約承認案件で記録が残るものの中では最長であった。
 2014(平成26)年7月1日の閣議決定を受けて、新安保法制は、集団的自衛権の限定的行使が可能となる「存立危機事態」を自衛隊の防衛出動の対象とすること、「重要影響事態」において自衛隊が地理的制約なしに米軍等外国軍の後方支援活動を行うことができるようにすること、「国際平和共同対処事態」において自衛隊が時々の立法措置を経ずに外国軍への協力支援活動を実施できるようにすることなどを定め、新たに幅広い活動を自衛隊に可能とした(表1及び表2参照)。
 表1と表2に見るように新安保法制は多岐の法改正に及ぶとともに、自衛隊の活動の幅広い領域に影響を与えることになるため、新安保法制に関する国会審議においては多種多様な議論が行われた。
 そのうち国の安全保障政策全般に関わる主な議論として、①従来の憲法解釈との整合性や法的安定性を問う議論、②新安保法制提案の背景としての安全保障環境に関する政府の認識や法制整備に伴う国、国民及び自衛隊員のリスクを問う議論、③ 2015(平成27)年4 月の新たな日米防衛協力のための指針と新安保法制の関連性を問う議論、④従来の抑制的な政策である専守防衛や海外派兵禁止などの原則との関係を問う議論、⑤防衛予算や防衛力整備への影響を問う議論、さらには⑥新安保法制が徴兵制に結びつく可能性を指摘する議論などであった。
 個別的な論点に関する主な議論としては、⑦存立危機事態の認定の基準如何と政府が示した事例の妥当性、⑧自衛隊による外国軍への後方支援、⑨自衛隊による国連PKO 等での「安全確保業務」と「駆け付け警護」、⑩自衛隊による在外邦人の警護・救出、⑪自衛隊による米軍等外国軍部隊の武器等の防護、⑫自衛隊派遣の際の国会の関与などがあった。
 小論ではこれらの個々の議論や論点を取り上げて論じる余裕はないが、審議を通じてそれぞれに議論や論点が整理されて深掘りされた部分もあるものの、そうでない部分も多く残っている。この小特集には、新安保法制に関する議論においてなお残る今後の課題のいくつかを論じる3本の論文を収めた。以下に小特集の各論文の内容を簡単に紹介する。
(略)
 安倍晋三首相は、新安保法制の国会通過後の記者会見において新安保法制に関する国民の理解が深まっていない点を念頭に、あらゆるレベルの国民の理解を得るべく丁寧な説明を続けると述べており、今後も新安保法制やそれによって可能となる新たな自衛隊の活動に関して議論が続けられるものと思われる。もとより3論文で取り上げた課題は新安保法制をめぐる今後の課題のごく一部でしかないが、この小特集が今後の議論に資することになれば幸いである。
(引用終わり)
 
ユニット・セルフディフェンスから見た新安保法制の論点
―米軍等武器等防護の意義と限界―
前国立国会図書館調査及び立法考査局
専門調査員外交防衛調査室主任 等 雄一郎

(〈緒言〉から引用開始)
 まず、上記の個別的な論点の1つであった自衛隊による米軍等外国軍部隊の武器等防護に関して掘り下げて論じるのが、第1論文の等雄一郎「ユニット・セルフディフェンスから見た新安保法制の論点―米軍等武器等防護の意義と限界―」である。米軍等武器等防護規定は改正自衛隊法第95条の2によって新設された。新安保法制論議において、同規定は武力攻撃に至らない侵害に部隊指揮官の判断で防護措置をとることを指すユニット・セルフディフェンスという概念と関連づけて議論された。同論文は、米軍統合参謀本部の標準交戦規則(SROE)やサンレモROEハンドブックなどを手掛かりに、ユニット・セルフディフェンスの国際的な考え方について検討する。この検討によれば、ユニット・セルフディフェンスの行使としての米軍等武器等防護の実施に際して重要となるのが、自衛隊による防護対象となる米軍等外国軍部隊の「ユニット性」及び「事前回避義務と事後追撃禁止」の確保という2点である。これらは憲法第9条の要請から導かれる米軍等武器等防護規定に関する論点とも重なっており、同規定に基づく自衛隊の実際の運用が始まった後も、これらの2点が確保されるかどうかは重要な論点であり続けるであろう。
(引用終わり)
 
他国軍隊の敵対行為への支援の国際法上の評価
国立国会図書館調査及び立法考査局
外交防衛課長 松山健二

(〈緒言〉から引用開始)
 
第2論文の松山健二「他国軍隊の敵対行為への支援の国際法上の評価」は、国際法の観点から、敵対行為を行っている他国への軍隊による支援が法的にどう位置づけられるのかを明らかにしようとする試みである。同論文はこれを2つの切り口から行う。1つは当該支援が国際法上の武力行使と位置づけられるか否かの評価である。被支援国の武力行使が違法のとき、当該支援が武力行使禁止原則に反する武力行使を構成する可能性がある一方、被支援国の武力行使自衛権に基づく適法な行為のとき、当該支援の国際法上の評価は必ずしも定まっていない。
 もう1つの切り口は当該支援がジュネーヴ諸条約等の武力紛争法の適用対象かどうかの評価である。武力紛争法は武力紛争の存在という事実によって適用され、当事国の認否とは無関係である。結論として、当該支援の実施国の認識にかかわらず、敵対行為を受ける国からは当該支援が国際違法行為を構成すると評価される可能性があり、また、武力紛争法上では、支援実施国が当該支援行為のみをもって紛争当事国になるかどうかは定かでないものの、支援実施国が敵対行為を受けたときは紛争当事国になることがあるという。この結論は新安保法制をめぐる政府答弁とどのように整合するのか、今後の議論が待たれる。
(引用終わり)
 
戦後日本の安全保障法制の展開と世論
国立国会図書館調査及び立法考査局
外交防衛課 山本健太郎

(〈緒言〉から引用開始)
 第3論文の山本健太郎「戦後日本の安全保障法制の展開と世論」は、長期のスパンでわが国の安全保障関連法制が国民にどのようにとらえられてきたかを世論調査から読み解いて、今回の新安保法制の今後を考えようとするものである。自衛隊創設、日米安保条約改定に始まり、1990年代の自衛隊海外派遣論議、その後の周辺事態法や有事法制、2000年代の自衛隊による米軍等の国際平和活動支援のための各種の特別措置法の制定、そして新安保法制まで、その時々の世論調査の分析からは、今回の新安保法制において反対の世論が他の時期に比べて特に強かったと言える。その一方で、過去に議論となってきた自衛隊日米安保条約、それに自衛隊の海外派遣について、現在では国民世論が許容するところとなっていると同論文は指摘し、新安保法制に基づく実際の運用開始後の世論の推移に注目すべきであるとしている。
(引用終わり)
 
 ここまで読んで来てくださった方の中には、〈緒言〉による第3論文の要約「過去に議論となってきた自衛隊日米安保条約、それに自衛隊の海外派遣について、現在では国民世論が許容するところとなっていると同論文は指摘し、新安保法制に基づく実際の運用開始後の世論の推移に注目すべきであるとしている。」に、心穏やかでない方も多いのではないかと推測します。
 この論文を読むことで、継続的な世論への働きかけの死活的な重要性が一層身にしみて理解されると思います。
 

「原発震災・破局的災害を止めるための集い」@京都市(2016年7月31日)~運動と裁判は手を携えて

 今晩(2016年8月4日)配信した「メルマガ金原No.2528」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
原発震災・破局的災害を止めるための集い」@京都市(2016年7月31日)~運動と裁判は手を携えて

 島崎邦彦東京大学名誉教授(前原子力規制委員会委員長代理)が、大飯原発のように震源断層が垂直に近い場合に入倉・三宅式で計算すると、地震動を過小評価する可能性が高いと指摘した問題は、7月27日に原子力規制委員会が、大飯原発の基準地震動を見直さないという結論を出し、いわば責任を放棄したことにより、問題は再び市民、学界、裁判所に投げ返されたと見ることができます。
 今日は、以下4回にわたってメルマガ(ブログ)でフォローしてきたことの続編(不定期連載第5回)として、去る7月31日(日)に、京都市同志社大学・烏丸キャンパス内の志高館で開かれた「島崎邦彦氏(元原子力規制委員会委員長代理)の警告 原発地震評価は過小 原発震災・破局的災害を止めるための集い」(主催:原発地震の過小評価を考える集い・連絡会)という一息では言えないほど長いタイトルの集会の中継録画をIWJ京都で視聴することができますので、それをご紹介します。
 私もまだ少しずつ流し視聴(?)しただけですが、IWJ京都によるアーカイブは非常にクリアに聴取できますし、第1部の講演者3人のお話は、いずれも明晰で、科学的素養が怪しい者にも、かなりの程度まで理解が進むのではないかと思います。
 
 
(開催概要)
島崎邦彦氏(元原子力規制委員会委員長代理)の警告 
原発の地震評価は過小 原発震災・破局的災害を止めるための集い

時間 13:45(開場13:30)~17:00
場所 同志社大学 烏丸キャンパス 志高館 SK112
資料代 500円(学生:無料)
内容
「担当弁護士が語る島崎邦彦氏が主張する入倉・三宅式問題の意味」
  甫守一樹氏(弁護士 大飯原発3・4号機差止め訴訟など)
「島崎提言の意味と意義、さらにその枠を超えて」
  小山英之氏(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)代表)
「入倉・三宅式問題と新レシピ~なぜ重要なのか」
  長沢啓行氏(若狭ネット資料室 室長)
各地の裁判から発言・アピール
主催 原発地震の過小評価を考える集い・連絡会
問い合わせ:グリーン・アクション
 
 
Ustream録画 1/2(13:52~ 1時間57分) 第1部
冒頭~
 甫守一樹(ほもり・かずき)氏(弁護士、大飯原発3・4号機差止め訴訟など)
「担当弁護士が語る島崎邦彦氏が主張する入倉・三宅式問題の意味」
19分~ 小山英之氏(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会〔美浜の会〕代表)
「島崎提言の意味と意義、さらにその枠を超えて」
45分~ 長沢啓行氏(若狭ネット資料室室長、大阪府立大学名誉教授)
「入倉・三宅式問題と新レシピ〜なぜ重要なのか」
1時間19分~ 質疑応答
 
Ustream録画 2/2(15:57~ 1時間20分) 第2部
2分~
 再開
3分~ 各地の裁判から
30分~ 各地の運動から
52分~ ディスカッション
1間14分~ 挨拶
 和田喜彦氏(同志社大学教授、環境経済学
 鹿島啓一氏(弁護士)
 
 ここで、最後の鹿島啓一弁護士による閉会挨拶(1時間17分~)に感銘を受けましたので、文字起こししておきます。是非、お読みください。
 
鹿島啓一弁護士(金沢弁護士会 本当に今日は、長沢先生、小山先生、甫守先生はじめとしまして、皆さん、お集まりいただきましてありがとうございます。私が今回このような集会を開きたいと思った一つの理由はですね、私は、樋口判決を受けた大飯控訴審を闘っている訳なんですが、絶対負けられない裁判だと思っています。本当に、負けることは許されないという風に思っているんですが、他方で、どうなるか分からないというのが正直なところです。この細腕にですね、あまり期待しないでくださいっていうのは、ちょっとあれなんですけども、やっぱり裁判だけで、裁判が非常にいい結果を出している部分がありますので、期待いただくのは、もちろんいいことだと思うんですけども、それだけじゃないということを知っていただきたいという風に思ってます。今、(後ろのホワイトボードに)書いてある伊方原発については、広島と松山、あと大分でも仮処分が起こって、まあ甫守弁護士が主にやってるんですけれども、無責任な言い方をすると、おそらくどこかで勝つと、私は思っています。あとはまあ、岩淵先生が仰った金沢でも、「おそらく志賀原発勝てるだろう」という無責任発言をしたいと思うんですが、そこで勝つということは非常に大きくて、特に伊方原発が事故を起こす前に止めるということは非常に重要なことだと思います。ただ、その時にですね、「じゃあ、もう裁判だ、裁判だと。運動よりも裁判の方が結果出るから」ということで、そういう風に皆さん流れてしまうのは危険だなあと思いますし、ここにいらっしゃる皆さんはそうではないと思うんですけれども。今回の入倉・三宅問題というのは、先ほど長沢先生からご紹介があったとおり、裁判と運動が一つ結びついた結果だという風に思っています。これは、非常に難しい専門技術的な問題もあるんですが、島崎先生のアクションとか、規制委員会のアクションを追うだけでも、非常に分かりやすい、ストーリー性のある、伝えやすいトピックなのかなあと思いまして、こういった重要な問題をですね、是非皆さんで広めていくとともに、また裁判と運動が一緒になってですね、絶対に脱原発を成し遂げるという形に持って行きたいと思っております。本当に本日はありがとうございました。

講演・「新自由主義」と市場原理主義(天野光則千葉商科大学名誉教授)視聴(受講)のすすめ

 今晩(2016年8月3日)配信した「メルマガ金原No.2527」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
講演・「新自由主義」と市場原理主義(天野光則千葉商科大学名誉教授)視聴(受講)のすすめ

 私自身のことを振り返ってみると、「新自由主義」という概念を、特に批判的な文脈であたりまえのように使用することがありますが、よく考えてみると、どれだけその意味内容を理解しているのか、まことに心許ないと言わざるを得ません。
 はるか昔、大阪市立大学法学部の学生であった頃(ということは1970年代半ば)、日本で「新自由主義」という概念が一般に使われていたのかどうかも記憶になく、その後、サッチャーレーガンという英米の指導者が掲げる経済政策との関連で、何とはないしに「新自由主義」という用語が使われるようになったようだという、はなはだ頼りない記憶があるだけです。
 イメージとしては、こと日本においては、「グローバリゼーション」と「ニューリベラリズム」とはほとんどセットのように語られてきたという印象があるのですが、その相互関係についても、実は何も分かっていません。
 ということで、今日は、NPJ動画ニュースで紹介された天野光則氏(千葉商科大学名誉教授)による講演「「新自由主義」と市場原理主義」で勉強してみたいと思い立ち、私のメルマガ(ブログ)を読んでくださっている読者の方にもご紹介することにしました。
 質疑応答を除く講演本体は約1時間程度なので、視聴するにも手頃な時間であり、最低限押さえておくべき基礎知識は身につけられるのではないかと思います。
 
新自由主義」と市場原理主義 講師:天野光則(千葉商科大学名誉教授)
【『ハケン』(原作『時の行路』)映画化推進のための学習会】
(2時間02分)
 
~2016年07月19日~
【チャプター】
00:00:08 
○第1部 講演 「新自由主義」と市場原理主義
00:02:23 ○はじめに ~「新自由主義」とは何か~
00:05:54 ○1. 「新自由主義」の起点
00:12:05  ・ハイエクの「自由主義」観 (人間の尊厳や自由の本質的諸条件)
00:14:00  ・ハイエクの経歴 (Friedrich August von Hayek 1899-1992)
00:19:41  ・(1)フリードマンの経済政策 ~政府が行うべきでない(廃止すべき)政策~
00:24:00 ○2. フリードマンの政策関与 (Milton Friedman 1912-2006)
00:31:15  ・(2)為替先物取引市場の開設をめぐって
00:35:57  ・(3)労働組合に対する偏見 ~労働組合についてのフリードマンの言説~
00:40:31 ○3. 「サッチャリズム」と「レーガノミクス
00:41:06  ・①「サッチャーリズム」の内実 (1979-1990)
00:45:02  ・②「レーガノミクス」の内実 (1981-1989)
00:48:44 ○4. 「新自由主義」の問題点
00:50:16  ・①「新自由主義」の人間観
00:54:31  ・②「新自由主義」の自由観
00:56:33 ○おわりに (「新自由主義」が世界を席巻し何をもたらしたか?)
 
01:06:17 ○質疑応答
01:06:41  ・質問① 貨幣が「金管理通貨(金本位制度)」から、1971年の変動相場制以降「管理通貨」へと移行したと思うが、その点についての先生の認識を教えてほしい。
01:07:59  ・意見② 「派遣」とは労働力商品の「最高(使い勝手の良い)」の形態だと考えるが、それら労働者が、現在のような容赦のない市場経済原理によって駆動する社会において、いかにして「闘争」していくかが今後重要であると考える。
01:11:05  ・質問①への回答
01:14:45 ○補足:派遣法制定経緯と制定後の改正動向
 
01:17:52 ○第2部 『ハケン(仮称)』及び「映画化推進会議」の紹介
 
主催:「ハケン(仮称)原作 時の行路」映画化推進会議(Facebook)
 
(映画化(予定)の原作)
『時の行路』(2011年9月刊)田島 一 (著)

 
『続・時の行路』(2014年8月刊)田島 一 (著)

中野晃一上智大学教授(市民連合)による「参議院選の結果と今後」に耳を傾ける(7/29自治体議員立憲ネットワーク)

 今晩(2016年8月2日)配信した「メルマガ金原No.2526」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
中野晃一上智大学教授(市民連合)による「参議院選の結果と今後」に耳を傾ける(7/29自治体議員立憲ネットワーク)

 第24回参議院議員通常選挙が終わってはや3週間、そろそろ様々な団体で本格的な総括が行われ、今後を見据えた方針が話し合われているのではないかと思います。
 とりわけ、今回の選挙において、野党共闘を働きかける市民運動の渦中にあったところでは、「参院選の結果を踏まえて、これからどうするんだ?」ということについて、そろそろ方向性を出す必要があるだろうと思います(もちろん、「市民連合わかやま」もそうです)。
 各地、様々に事情は異なるでしょうが、そのような検討をするための非常に有益な参考となる意見を聴くことのできる動画を見つけました。
 
 去る7月28日(木)、29日(金)の両日、自治体議員立憲ネットワークが東京で開催した集会の2日目の動画です。特に「参議院選の結果と今後」について、上智大学の中野晃一教授(市民連合)が語られた分析は、大いに参考になります。また、最後に挨拶された千葉県選挙区で当選したばかりの大西洋之参議院議員民進党)の短いスピーチも、その分析と提案に肯かざるを得ないところが「恐い」と思う人も多いのではないでしょうかね。
 
20160729 UPLAN 伊藤真伊波洋一・中野晃一 自治体議員立憲ネットワーク第3回定期総会&講演会(1時間50分)
 

冒頭~ 伊藤真弁護士「違憲訴訟の現状と今後の展望」
参院選改憲勢力が2/3を超える議席を確保したことについては、選挙直後に伊藤さんがマガジン9に寄稿した以下の論考をお読みいただければと思います。
 
 
 また、各地で提訴が続く安保法制違憲訴訟についての報告の中で、特に東京地裁で2つの訴訟を提起した「安保法制違憲訴訟の会」の課題として伊藤さんが指摘したのが、①若手の実働弁護士が少ない(若手弁護士の置かれた経済的苦境が大きな要因)、②原告から費用は一切徴収せずカンパで賄う方針だったが、思いの他金が集まらず財政的な立て直しが急務という、なかなか切実な問題(何しろ「人」と「金」が足りないというのですから)であったのには、妙に感心してしまいました。
 
23分~ 伊波洋一参議院議員
※オール沖縄で当選したばかりの伊波洋一(いは・よういち)さんの短いスピーチですが、前日(7月28日)にもっと長い講演をされていますので(憲法・沖縄問題からみる参院選後の政治)、そちらの方の動画を視聴することをお勧めします。伊波さんの講演は動画の5分~39分、また、その後1時間27分まで仲村未央沖縄県議会議員のお話があります。質疑応答は1時間33分~です。
 
20160728 UPLAN 憲法・沖縄問題からみる参院選後の政治(2時間30分)

 
32分~ 中野晃一上智大学教授(政治学)「参議院選の結果と今後」
1時間15分~ 質疑応答

※立憲デモクラシーの会呼びかけ人でもある中野さんですが、この日は市民連合の中心メンバーの1人としてのお話でした。冒頭、動画の33分~を少し文字起こししてみます。
 
「私もいろんなところで、みんなイライラしているな、気持ちがささくれ立っているなという風に正直感じております。それはやっぱり、すっきりして、「ああ、やったやった」というような結果がですね、参議院選挙で収めることが出来れば良かったんですけれども、そういうことにはならなかったということで、どうしてもやっぱり今は、しばらくのところは、何て言うんですか、やや内ゲバモードになりがちなところもあるので、そういうのは避けてですね。私は、根本的には喧嘩っ早い人間なんですけれども、やっぱり、1つポイントかなと思って自分に言い聞かせてるのは、黙ってた方がいいことは黙ってる、っていうことですね。やっぱり、一言余計なことを言いたくなるっていう時はあって、一言余計っていうのはやっぱり「余計」なんで。(笑)余計だけど一言言わせてくださいというのは、余計だから言わない方がいいって、やっぱり多いんですね。それは、ちょっと我慢すれば、そのあとどうでもよくなることが多々ありますけど、言っちゃうと、それ自体がその次にさらに反応を惹起するっていうことがありますんで、非常に当たり前の話なんですけども、辛抱するところは辛抱するっていうことがやっぱり大事かなという風に思っております。」
 
 中野さんの上記発言自体は、普遍的な人間心理を踏まえたものでしょうが、私がわざわざこの部分を文字起こししたのは、もちろん和歌山の特殊事情を踏まえた上での特定の「意図」があってのことです。詳しくは、1週間前の私のメルマガ(ブログ)をご参照いただければと思います(「今後の市民連合の活動方針について」(2016年7月26日)を読む/2016年7月26日)。
 
 中野晃一さんによる分析は、非常に首肯できる部分が多いもので、一々をご紹介できませんが、是非皆さん、約1時間を何とか確保して、質疑応答も含めて全部視聴して欲しいと思います。
 
1時間37分~ 小西洋之参議院議員
※昨年9月17日の参議院特別委員会での奮闘で有名になり、今度の参院選千葉県選挙区を勝ち抜いた小西洋之議員(民進党)によるスピーチですが、感銘を受けた撮影者の三輪祐児さんは、小西議員のスピーチだけスピンオフさせてアップしています。
 
20160729 UPLAN【抜粋】小西洋之参議院議員改憲阻止と安倍政権打倒にむけて(10分)

※三輪祐児さんのFacebookから
参議院議員選挙で再選を果たした民進党の小西ひろゆき議員が、7月29日に開催された自治体議員立憲ネットワークの定期総会であいさつに立ち、そして改憲阻止、安倍打倒に向けた具体的行動提起をおこなった。
 国民投票になったら場合は好色占拠法の枠組みが適用されないから、自公マス政権は思い通り、カネをふんだんに使いまくってテレビ、新聞広告、ポスター、ティッシュ・うちわ配りなどで思う存分改憲投票の宣伝をしまくれる。その前にどう阻止するか。根幹にある解釈改憲のインチキを衝くこと、憲法擁護義務をもつ地方議員や、地方紙に質問状などを送る、そして憲法審査会で「総合的調査と審査」に追い込む。この小西戦法への援護射撃をお願いしたいと思う。」
 
 とにかく、現在の政治情勢下で「改憲」のステージに上がってしまえば、国民投票運動は金にあかせてやりたい放題で、とんでもないことになりそうだということは、少しは知られつつありますが、まだまだ広く国民の共通認識になっているとは言えません(投票日当日の自民党などによる新聞広告は憲法改正国民投票運動の前触れか?/2016年7月11日)。この10分の小西議員の訴えは、是非多くの人に聴いてもらいたいですね。
 
 こういう情勢の下、無邪気に「立憲的改憲論」(新九条論を含む)など主張している場合ではないだろう、というのが中野晃一さんの主張であり、私も賛意を表さずにはおられません。けれど、これも一種の「内ゲバ」なんでしょうかね?

由良登信(ゆら・たかのぶ)弁護士の「自民党「憲法改正草案」を斬る!」~動画とレジュメによる受講のすすめ

 今晩(2016年8月1日)配信した「メルマガ金原No.2525」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
由良登信(ゆら・たかのぶ)弁護士の「自民党憲法改正草案」を斬る!」~動画とレジュメによる受講のすすめ

 7月10日の参議院議員通常選挙の結果、改憲勢力が衆議院に続き参議院でも2/3以上の議席を確保することとなり、いよいよ明文改憲が具体的な政治日程にのぼる公算が高まっています。
 もちろん、一口に改憲勢力と言っても、日本国憲法に対するスタンスには各党によって差異はあり、具体的な「改正発議」を行うための条文のすり合わせにはそれなりの時間を要するでしょうが、2014年の集団的自衛権行使を容認した閣議決定、2015年のいわゆる安保関連法の成立を目の当たりにした国民としては、結局、自民党が主導して他の政党はついていくんでしょう、と考えざるを得ず、マスコミ各社が自民党公明党、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の4党(その他無所属の一部)をひっくるめて改憲勢力と称することには合理性があると言わねばなりません。
 
 そこで、改憲勢力を主導する立場にある自民党が2012年4月27日に発表した「日本国憲法改正草案」が、当面の批判の対象であり続けることになります。
 これまでも、私たちは、自民党が政権に復帰した2012年12月以来、同党改憲案の問題点・危険性を1人でも多くの国民に知ってもらおうと、相当な努力を重ねてきましたが、これからは、質的にも量的にも、今までの常識を覆す憲法学習会の継続的、波状的な開催が必要だと思います。
 あすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)や各地の弁護士9条の会、青法協や自由法曹団の各支部など、あらゆる組織が、自民党改憲案の反立憲ぶりへの理解を訴える学習会に講師を派遣することを重点活動目標として取り組むべきでしょう(既に取り組んでいるところも多いでしょうが)。
 そして、このムーブメントが成功するためには、弁護士だけが頑張ってもどうにもならないのであり、いかに、これまでの殻を打ち破り、多彩な層の人々が参加する学習会を企画できるかが死活的に重要です。
 
CIMG6411 というような運動論を踏まえ、早急に和歌山県下100箇所で自民党改憲案を批判する学習会を開催しよう!と呼びかけている弁護士がいます。3週間前の7月10日まで、参議院議員選挙和歌山県選挙区の野党統一候補として県下を駆け巡っていた由良登信(ゆら・たかのぶ)弁護士その人です。
 落選から1週間も経たぬうちに、7月31日開催の緊急勉強会「自民党憲法改正草案」を斬る!」の講師を務めるというチラシが出回っていた由良さんは、その後、私が聞いただけでも他に2箇所(もしかしたら増えているかも)の学習会講師を引き受けたそうで、和歌山県下100箇所学習会構想の実現に意欲満々です。
 
 その由良さんが、予定通り、昨7月31日(日)午後2時から、JR和歌山駅前の新橘ビル8階会議室において、市9条センター(憲法9条を守る和歌山市共同センター)主催による緊急勉強会「自民党憲法改正草案」を斬る!」の講師を務めました。
 私自身は、ブログやFacebookなどで告知に協力したものの(由良登信(ゆら・たかのぶ)弁護士の“復活”~予告7/31緊急勉強会・自民党「憲法改正草案」を斬る!/2016年7月16日)、最初は聴きに行くつもりはありませんでした。普通、弁護士が他の弁護士の講演をわざわざ聴きに行くことはありませんからね。
 それよりも、私として、今後県下各地の学習会への講師派遣依頼が増えた場合(増えてもらわねば困ります)、講師を務める若手弁護士こそ由良さんの講演を聴くべきだと思い、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」の定例会議の席上、由良さん自身が7月31日勉強会のチラシを配った際、「是非若手には聴きに行って欲しい」と呼びかけたのですが、残念ながら効果はありませんでした。みんな予定が入っていたのでしょう。
 結局、由良さんから「来ないの?」と声をかけられ、何となく行かないと悪いような気になった私だけが(由良さん以外の弁護士としては)参加することになりました。最初は行かないつもりでしたが、やはり聴いて良かったですね。同じように、自民党改憲案の問題点を解説する学習会の講師を頼まれても、講師の個性によって、論じる内容や論じ方は全然違うということがよく分かりました。
 
CIMG6414 昨日の学習会の模様は、参院選の間、市民連合わかやま・動画班チーフとして大活躍された小谷英治さんが撮影してYouTubeにアップしてくださることになり、由良さんからも詳細なレジュメのデータを提供してもらえることになりましたので、まとめて今日のメルマガ(ブログ)でご紹介することとしました。
 全部で14ページのレジュメと約1時間40分の動画(質疑応答部分はカットされています)をセットにして、是非あなたも由良登信弁護士の講演を受講してください。
 また、昨日、新橘ビル8階会議室を立錐の余地なく埋め尽くした聴衆の皆さんにとっては、復習教材として活用していただけると思います。
 それでは、以下に、受講用の教材及び参考資料をご紹介します。
 
【動画教材】
由良登信 自民党憲法改正草案」を斬る 20160731 憲法9条を守る和歌山市共同センター緊急勉強会(1時間39分45秒)
 
 
【講師作成のレジュメ/印刷される場合はこちらからどうぞ】
(1)「自民党「憲法改正草案」を斬る!」(PDFファイル12頁)
(2)「自民党改憲草案「第九章 緊急事態」条項の危険性」(PDFファイル2頁)
 
【参考資料 自民党日本国憲法改正草案】
(1)自由民主党「日本国憲法改正草案」(現行憲法対照) 平成24年4月27日(決定)(PDFファイル縦書30頁)
(2)自由民主党「日本国憲法改正草案Q&A 増補版」(PDFファイル横書88頁)
※昨日の緊急勉強会では、この横書ファイルの現行憲法対照部分が配布されました。
 
【参考資料 同じテーマで書かれた他の弁護士(金原)のレジュメ】
2016年6月15日
自民党「日本国憲法改正草案」批判レジュメ~2016年参院選直前ヴァージョン
「自民党改憲案を斬る~いま主権者がなすべきこと~」(PDFファイル14頁)
 
 

2016.7.31
憲法9条を守る和歌山市共同センター
 
              自民党憲法改正草案」を斬る!
 
                       弁護士 由 良 登 信(ゆらたかのぶ)
                    
1 戦後最大の憲法の危機!
 今、戦後最大の憲法の危機を迎えている。
 憲法改正を企てている側も、憲法を変えられるとしたら今しかないと考えている。
 英BBC(公共放送)「日本の政治における地盤をさらに固めた安倍政権は、今後、憲法改正への動きを一段と進めるだろう。」「次のステップは平和主義の憲法を改正するかどうかの国民投票を行うことだ」(2016.7.11 NHK NEWS)
(1)衆議院参議院の会派別議員構成(改憲派議員が3分の2以上を占める)
 憲法改正の発議が可能な議員構成に衆・参ともなった。
(2)安倍晋三の思想の危険性(タカ派、歴史に逆行する思想)
 ア 「憲法前文には、敗戦国としての連合国に対する詫び証文のような宣言がある。」「アメリカは、自らと連合国側の国益を守るために戦争の放棄の条項をつくった。」(「美しい国へ」) 
 →ここには、日本の侵略戦争に対する反省の気持ちがない。日本国民310万人、アジアの2000万人の命が奪われたことへの謝罪の気持ちがない。侵略戦争であったことも認めようとしない。
 イ 「文化・伝統・自然・歴史を大切にする国=日本にふさわしい憲法を制定する。」(2006年9月1日政権構想)  
 → 日本国憲法の3原理を認めず、戦前の価値観から憲法を作りかえようとしている。
 ウ 「世界とアジアのための日米同盟」を強化し、日米双方が「ともに汗をかく」体制を確立する。
 エ 「戦後レジームからの脱却」が日本にとって最大のテーマである。「『日本を、取り戻す。』これは戦後の歴史から、日本という国を国民の手に取り戻す戦いであります。」(「新しい国へ」)
  「憲法改正は(私の)『歴史的使命』だ」
(3)財界の戦略(「希望の国、日本」2007年1月1日 日本経団連
 ・「現行憲法が一度も改正されずにきたなかで、規定と現実の乖離、国際平和に向けた主体的活動の制約など、多くの問題が生じている事実を直視しなければならない。」(P87)
 ・「自衛隊や集団的自衛権憲法上の位置づけが不明確であり、実効ある安全保障政策の展開が制約されている。・・・・自衛隊が国際社会と協調して国際平和に寄与する活動に貢献・協力できる旨を、憲法上、明示する必要性が高まっている。」
 ・「経団連は、2010年代初頭までに憲法の改正の実現をめざす。」(P88)
(4)アメリカの安全保障戦略と日本の役割
 ・「21世紀の国際関係における平和と繁栄を突き崩す可能性をもつ最も重要な地域はアジアだ。アジアは、アメリカの繁栄にとって死活的に重要な地域である。」「米日同盟は、アメリカの地球的安全保障戦略の中心だ。」(2002年ブッシュ国家安全保障戦略)
 ・(アーミテージ報告)
  「日本が集団的自衛権を禁止していることは、同盟間の協力にとって制約となっている。この禁止事項を取り払うことで、より密接でより効果的な安全保障協力が可能になる。これは、日本国民のみが下せる決定である。」「憲法9条は、日米同盟の邪魔だ」
 
2 憲法って何?(憲法が変わるとどうなるの?)
 「あたらしい憲法のはなし」(文部省作成、昭和22年から昭和27年の春まで中学1年生の社会科教科書として使用された)には次のように書かれています。
 「憲法とは、国でいちばん大事な規則、すなわち、「最高法規」というもので、その中には、だいたい二つのことが記されています。その一つは、国の治めかた、国の仕事のやりかたをきめた規則です。もう一つは、国民の一番大事な権利、すなわち「基本的人権」をきめた規則です。このほかにはまた憲法は、その必要により、いろいろなことをきめることがあります。こんどの憲法にも、これからは戦争をけっしてしないという、たいせつなことがきめられています。」
(1)憲法は、国民が、国家権力をしばる鎖です(近代立憲主義の考え方)
 国家権力を制限して、国民の人権を保障するもの(強い者(多数者)から弱い者(少数者)を守るもの)
憲法前文「日本国民は、・・・・ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」(国民が憲法制定者=主権者)
 憲法99条「天皇又は摂政及び国務大臣国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。」
(※ 国民が義務を負う者の中に入っていない。)
(2)憲法は、国の最高法規です
 憲法97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
憲法98条①「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」
憲法81条 「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」
(3)日本国憲法は、それまでの人類の進歩の成果の上に立ってつくられました。
 憲法97条「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪え、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
前文「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法はかかる原理に基くものである。」
(4)日本国憲法侵略戦争の反省の上に立ってつくられました。
(5)日本国憲法は3つの基本原理を柱にしてつくられています。
 ① 平和主義(←軍国主義)「天皇は陸海軍を統師す」
 ② 国民(人民)主権(民主主義)(←天皇主権)「天皇は統治権を総覧す」
 ③ 基本的人権の尊重(←天皇の臣民)権利は法律の範囲内で天皇から与えられる。
13条 個人の尊厳・幸福追求権(※ 国家・社会より個人が尊重される)
 25条 生存権
 ※ この日本国憲法の3原理を「改正」することは、理論上認められない。
 
3 自民党日本国憲法改正草案」の内容(問題点)
(1)立憲主義の崩壊
ア 「前文」の全面書きかえ(まず、国家ありき)
「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するために、ここに、この憲法を制定する。」
 イ 102条で、国民に憲法尊重義務を明記し、天皇憲法尊重擁護義務をはずす。(国家権力を縛るためのルールから、権力の側が国民を縛るルールへと転換!)
 ウ 憲法にたくさんの国民の義務を書き込んでいる。
  現行憲法の3つの義務(納税の義務、勤労の義務、保護する子女に普通教育を受けさせる義務)に加え、新たに10の義務を国民に課す。
  ① 国防義務(前文3項)
  ② 日の丸・君が代尊重義務(3条)
  ③ 領土・資源確保義務(9条の3)
  ④ 公益及び秩序服従義務(12条)
  ⑤ 個人情報不正取得等禁止義務(19条の2)
  ⑥ 家族助け合い義務(24条)
  ⑦ 環境保全義務(25条の2)
  ⑧ 地方自治負担分担義務(92条の2項)
  ⑨ 緊急事態指示服従義務(99条3項)
  ⑩ 憲法尊重義務(102条1項)
 エ 憲法改正のための発議要件(96条)を各議院の総議員の3分の2から2分の1に変えて、憲法を改正しやすくする。
(2)憲法前文の削除・書き直し
 ア 憲法前文は、憲法の根本原理を示し、憲法の諸規定の解釈の導びきとなるもの。
 イ 戦後の日本の原点であった不戦の誓い「日本国民は、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」を削除。→アジアの国々は、不戦の誓いを降ろした日本を受け入れようとしないだろう。再び軍事国家となるのではないかという懸念を生じさせる。
 ウ 平和的生存権を削除。(世界で初めて、平和のうちに生存することを憲法上の権利に高めた規定)
 エ 国家主権の尊重、対等平等な国家関係を前提とした国際協調主義の文章(前文第3段)を削除。
 オ 国民主権・民主主義の宣言がほとんど消えている。
自民党改憲案の前文〉
・「日本国は、・・・・天皇を戴く国家であって」
 ・日本国民に国と郷土を守る義務をうたう
 ・「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」
  →少数意見が和を乱すとして非難を受ける。
→ 自立・家族による支えの強調により国の社会保障の怠りを免罪する。
 ・「日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する。」
  →憲法は国家権力をコントロールするものではなく、国民が天皇を戴く国家を子孫に継承するよう求めている。
  →まったく異質な憲法に変えてしまうもの!
(3)戦争の放棄(第二章)
日本国憲法9条
1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 │
 憲法9条によって守られてきたこと(憲法9条は「宝」)
※「国家には本来自衛権が認められており、自衛の目的のために必要な限度の自衛力をもつことは9条のもとで許され、自衛隊は9条2項が禁じる戦力にあたらない。」(政府S29年見解、S55.12.8提出政府答弁書
自衛隊が「憲法9条2項の戦力ではない」という建前から出てくる限界(これまでの政府答弁)⇒しかし、安倍政権は、立法と閣議決定で、これらをなし崩しにきている。
① 海外派兵(武力行使目的で武装した部隊を他国に派遣)
② 集団的自衛権の行使(自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を実力をもって阻止すること)
③ 国連の平和維持活動を行う国連軍で、その目的・任務が武力行使を伴うものに参加
④ 攻撃的・壊滅的破壊能力を持つ兵器の所有
⑤ 徴兵制(13条、18条からも)
⑥ 交戦権(敵国領土への積極的攻撃、敵性船舶のだ捕など)
⑦ 先制攻撃
⑧ 非核三原則
⑨ 武器輸出禁止3原則
⑩ 軍事費支出GNP1%枠
 △また、自衛のための実力の行使については、次の3要件に該当する場合に限られる(S60.9.27提出政府答弁書
① 我が国に対する急迫不正の侵害があること(わが国に対する武力攻撃が発生したこと)
② これを排除するために他に適当な手段がないこと
③ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
自民党改憲案〉
 ア 章の名称を「戦争の放棄」から「安全保障」へ変え、戦争しない国から「戦争をする国」へ変える
 イ 憲法9条2項を削除!それに代え、「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」と規定し、集団的自衛権憲法に書き込む。
 ウ 「国防軍」という軍隊を持つ。
  国防軍は、保持できる軍事力について無制約
国防軍が行う活動
※国会による統制が不十分
① 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保する活動
    ※集団的自衛権行使も含む
  ② 「法律の定めるところにより」
   ア、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動
     ※国連の活動に限定されない
   イ、公の秩序を維持する活動
     ※ 治安活動により、国民に銃口が向けられる。
   ウ、国民の生命若しくは自由を守るための活動
     ※ 海外における邦人救出を口実にした派兵も
   エ 国民に「国と郷土を守る」義務をうたう(前文)
     ※ 前文の平和的生存権を削除!
   オ 国防軍の機密保持に関する法律をつくる(9条の2④項)
     ※ 特定秘密保護法
   カ 国防軍に審判所(軍法会議)を置く(⑤項)
   キ 9条の3で国に領土保全等を義務づける。
   ク 第9章に「緊急事態の宣言」の規定を新設。
(4)国民主権の後退
 ア 天皇を「日本国の元首」との明文を置く(1条)。
 イ 日章旗を国旗、君が代を国歌と定め、国民に尊重義務を課す(3条)。「元号」を憲法に明記(4条)
 ウ 天皇の国事行為に内閣の「助言と承認」が必要とされているのを、「内閣の進言」に変えた(6条4項)
 エ 天皇ができる行為を「その他の公的な行為を行う」(6条5項)と拡大。
(5)国民の基本的人権保障の後退   
 ア 権利は、「公益及び公の秩序に反しない限り」での保障とされ、権利の制約が拡大できることにする(12条)(13条)。→基本的人権は国家といえども侵すことのできない人間の生来の権利(自然権)という考えの否定。
 イ 13条「個人として尊重される」を「人として尊重される」に書き換える→「個人」とは国家・社会に対する概念であり、「個人」と書いていることが重要であり、これを「人」とすることは本来の意味を失う。
 「国家」や「公の秩序」、「公益」が、個人の上の価値として考えられている。
 ウ 12条 「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」という文言を新設。
 エ 21条 表現の自由(集会・結社・出版その他一切の表現の自由)に、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」(2項)を新設。
 ※ 政党についての規定(64条の2)を新設→政党規制に道を開く。
 オ 20条で、政教分離をゆるくする(3項)。
 カ これまでとは逆に、22条の営業の自由については、「公共の福祉に反しない限り」を削除。
※前文に「活力ある経済活動を通じて国を成長させる」と記載
 キ 国民に「国旗及び国家尊重」義務(3条2項)を課すことで、「思想・良心の自由(19条)が制約される。
 ク 公務員について「全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより」労働基本権の全部又は一部を制限できると定めた(28条2項)。
 ケ 97条の削除
(6)憲法改正手続を緩和
 現行96条「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認(国民投票において、その過半数の賛成)を経なければならない。」
  ↓
自民党改憲案〉
 改憲手続をやりやすく「各議院の議員の過半数で発議」できるようにする(100条)
△ 憲法改正手続の改正を先行させるという企みについて(その本質と狙い)
 96条改正派の主張と反論
 1 Q「世界的に見ても改正しにくい憲法だ。日本は一度も改正できてないが、戦後アメリカ6回、フランスは27回、イタリアは15回、ドイツは58回も改正している」「新しい人権を定める必要がある」
 A 他の国も憲法改正手続は、厳格な要件を置いている。
 ☆ 日本国憲法が改正されなかったのは、国民に改正要求がなかったから。(むしろ改正を阻止してきた)
 ・世界的に見ても、今でも先進的(朝日新聞
 ・他の国(ドイツ)の憲法には、法律レベルで規定されるような細かいことまで基本法で規定しているため、頻繁な改正が求められるが、日本国憲法は、人権とそれを支える統治機構の本質的な内容に絞り込んだ規定となっている。
 ・新しい人権は、13条、25条で対応できる。
 2 Q「国民に提案される前の国会での手続を余りに厳格にするのは、国民が憲法について意思を表明する機会を狭められることになり、国民の意思を反映しないことになる」。
 (橋下徹)「国民に改正案の是非を問うこともできない状態を放置していいのか。」
 A 憲法は最高法規であり、国の根本(骨格)を示しているので、万人の十分な納得のもとに行われなければならない
 ☆ 憲法の定める基本価値秩序を時の多数派による安易な手段(法律と同じような通常の手続)により変えられるのを守る。=憲法は国家権力を縛るもの。それを、権力をとった者(多数派)が容易に変えられるようにするのは、立憲主義憲法の自殺行為だ。
 3 改正要件(発議要件)の緩和がもたらすもの
 ・その時の多数者の意向で、少数派の基本的人権が制約されてはならない。
 ・国の骨格をころころと変えては混乱する(憲法の安定性を貫く必要)。
  ※ 本当の多数派でもない政党により発議すべきではない。
  ※ 「有効投票数」の過半数、では国民の過半数ではない。最低投票率も定めていない。投票率50%なら、20%台の賛成で改正承認とされてしまう。
 ・国民投票運動のとき有料意見広告野放し
 ・議席数に応じて構成される広報協議会がつくる改憲案のPR紙が全戸配布される。
  ※ そもそも、このように改正を容易にする改正規定の変更は、憲法改正の限界を超えているのではないか。
 4 憲法96条改正の目的
 ・次々に改憲を発議してゆく。
 ・改憲派の自信のなさ(国民の意向に反していることの自覚)、弱さの表れ。
 ・「裏口入学みたい」「姑息」
  説得して2/3の賛成を得るべきで、それができないから手続を変えるというのは邪道だ(小林節慶応大名誉教授)
 ・「手続部分だけ先行するのは邪道だ。憲法のあり方、国家像を明示して議論すべきだ」(小沢一郎、H25年4/8)
(7)「第9章緊急事態」の新設
 ア 武力攻撃、内乱等の社会秩序の混乱、大規模な自然災害、その他法律で定める緊急事態において、内閣総理大臣が緊急事態の宣言を発することができる(98条1項)。
 ※ 国会における民主的統制が不十分。総理大臣の独裁の危険!
 イ 内閣は、法律と同一の効力を有する政令を制定できるほか、財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をできる(99条1項)。
 ウ 何人も・・・・指示に従わなければならない(99条3項)
 →憲法は停止してしまう!権力を内閣総理大臣に集中するもの。(非常に危険)
 →大規模災害への対応は法律の整備で対応十分
 →日本国憲法の立場-参議院の緊急集会で対応
 
4 改憲論者はもっともらしく言うけれど
(1)「押しつけられた憲法を自分たちの手でつくり直す。」って言うけど・・
 ・国民は歓迎した。誰が押しつけられたと感じたのか。
憲法25条も追加した。1条も国民主権が明確になるよう修正した。制定後、吉田首相が「憲法を変える意思はない」とマッカーサーに回答した。
 ・68年も経って今さら。国民が憲法を守り通してきた。憲法改正は誰が求めているのか。
(2)「70年ほど前につくった憲法は時代に合わない。新しい時代に合う憲法を。新しい人権もとり入れる。」って言うけど・・・  
・今でも新しい内容。世界の宝。改憲論者は戦前へ戻ろうとしている。
 ※ スイスの「軍隊のないスイスをめざす」グループ(3万人以上のメンバー)日本国憲法9条を知り「こんなすばらしい憲法があったのか」
 ※ 世界市民平和会議(世界100カ国以上のNGO参加)1995年5月「公正な世界秩序のための10の基本原則」採択
 その第1原則「各国議会は、日本国憲法9条のような、政府が戦争をすることを禁止する決議を採択すべきである。」
 ※ 2000年5月 国連ミレニアムフォーラム
  「平和・安全保障フォーラム最終報告書」
 「すべての国が、日本国憲法9条に述べられる戦争放棄の原則を自国の憲法において採択する。」
憲法13条・25条はドラえもんのポケット(新しい人権を取り出せる)
 ※ 自民党改正草案の「新しい人権」は、権利として不十分な規定の仕方をしているので、意味がない。
(3)「自衛隊がすでに存在しているんだから、憲法でも認めるようにした方がよい。」って言うけど・・・
・9条を改正すると、自衛隊は今の自衛隊ではなくなる(現状を認めるものではない)。
(4)「日米同盟を重視するのが国益にかなう。」って言うけど・・・
・アメリカの先制攻撃戦略、単独行動主義は世界の嫌われ者。
・9条がなくなると、日本の軍隊が危険な最前線へ
・軍事費拡大とめどなく
・アジアの一員として日本が進む方が国益にそう
(5)「国際貢献のために対応できる普通の国にする」ためって言うけど・・・
・軍隊を外国に送り込むのは「普通の国」ではない。
(6)「北朝鮮の脅威から日本を守るのに、有事法制憲法改正も必要だ。」って言うけど・・・
 ・本当に脅威か。
・脅威を感じているのは北朝鮮の方。追いつめず、「日朝平壌宣言」の道が平の道 
国防軍にしても、テポドンが発射されたらふせげるか。(アメリカの9.11)
(7)尖閣諸島の領土問題を9条改正の理由として言われるが・・・・
 ・尖閣は日本の領土。しかし、中国と軍事力で対抗するべきではない(孫崎) 
 ・平和的に解決する道をとるべき
 
5 平和憲法を守りぬくために!(わたしたちの運動)
(1)自民党改憲案の異常さ、危険性を知らせよう
(2)平和憲法を守りたいという1点で、広く手をつないでゆく-私たちの運動をもっと広げ、確かなものに。国民の過半数が9条を守れという姿勢を維持すれば、必ず9条は守れる!
※ 国民投票に持ち込まさない闘いを!
(3)ひとりひとり、自分の思いと言葉で話してゆく-たくさん話し合いの場をつくろう。過半数署名をとりきろう!
(4)主権者として、責任感をもって。
 そして、楽しく、取り組もう!
                                          以 上
 

         自民党改憲草案「第九章 緊急事態」条項の危険性
   
                                                          弁護士 由 良 登 信
 
1 日本国憲法が国家緊急権についての規定を置いていないことについて
 →積極的意味を持つ(従来の多数説)
 ① 明治憲法のもとでの天皇による戒厳の宣告、戒厳令下で軍司令官が立法権と行政権を持つこととされ、国民の権利義務に関する規定が停止された。その体験と反省にもとづき、国家権力を立憲主義憲法体制の枠内に閉じ込めようとした。
 ② 民主主義国家でもワイマール憲法のもとで大統領の緊急権が濫用され、ヒトラー独裁の露払いの役割りを演じた。緊急権がきわめて濫用されやすいものであることを反省した。
 ③ 日本国憲法の前文や第9条により一切の戦争、陸海空軍その他の戦力、交戦権を放棄・否認したことから、軍事力の発動を伴うような緊急権を否認して、平和国家の確立を志向して、規定を置かなかった。
 ④ 憲法秩序のもとで、予め緊急時の対処について法律で備えておけば対応できる(東日本大震災でも憲法に緊急権を創設する必要はなかった)。災害対策基本法警察法自衛隊法、武力攻撃事態法などに緊急の場合の対処を定めていて、これで十分である(必要であれば法改正すればよい)。
 ⑤ 衆議院が解散されたときに、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会の規定を置いて対応しようとしている。

2 自民党の「緊急事態条項」の危険性
(1)「緊急事態」の非限定性
  「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害、その他の法律で定める緊急事態において」
 ※ 「等」に何を含めるかによって対象は拡大する。
 ※ 法律(議会の過半数の議員)で、緊急事態の対象を拡大できる。
 ※ 3つの例示事態はそれぞれ性質が異なっているにもかかわらず、一律に取り扱っていいのか。
(2)緊急事態宣言を内閣総理大臣にほぼフリーで可能とする(要件・手続の問題)
 「内閣総理大臣は、・・・・特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」
 「緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。」
 ※ 「特に必要があると認めるとき」は歯止めにならない。
 ※ 「閣議にかけて」は「閣議決定」を不要とするもの
 ※ 国会の承認は、事後でもよい。そして、事後何日後までに承認が必要なのかも定めていない。
 ※ ドイツでは、この認証を議会の合同委員会に委ねている。
(3)法律への委任が多い(8カ所)
  憲法を停止する権限の行使について、議員の過半数により制定可能な法律に委ねてよいのか。憲法で法律の内容も縛っておく必要があるはず。
(4)緊急事態宣言の効果の問題
  「法律と同一の効力を有する政令を制定可」
  「財政上必要な支出その他の処分を行える」
  「地方自治体の長に対して必要な指示ができる」
  「何人も・・・・国その他公の機関の指示に従わなければならない」
  ※ 内閣が法律を変え、廃止し、新たに作れることになる。
    これは、国会中心政治、議会制民主主義の停止。
    三権分立の停止=政府の独裁を可能にするもの
  ※ 政令によって改正できる事項について無限定。
    場合によっては、98条、99条の「法律の定め」も政令でつくり、変えられることになる。人権制約の政令も出てくる。
  ※ 政令は「事後に国会の承認」を得ることにしているが、「事後」何日までに承認を得なければならないのか時期の限定がない。
  また、承認される前の政令や処分の効力についても定めがない。承認されなかった時に、すでに行った処分についての定めがない。
(5)司法的統制の不存在
  緊急事態における司法権のあり方について言及がない。
  実際上、憲法裁判所がないので、その政令を裁判所でコントロールすることは困難。
(6)衆議院は解散されず、両議院の議員の任期及び選挙期日の特例を設けることができる。
 ※ 緊急事態宣言が濫用される危険がある。
 → 緊急事態宣言で、憲法は停止し、憲法によって縛られない内閣(総理大臣)が何でもできるようになってしまう。安倍首相にこんな権限を与えるのは危険すぎる。
                                                  以 上
 

(付録)
『この島~憲法9条のうた』 作詞・作曲:烏野政樹 演奏:M&N(クロウフィールド)
 
※“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama (2014)”より

放送予告・2016年8月のNHKスペシャル

 2016年7月31日に配信した「メルマガ金原No.2523」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送予告・2016年8月のNHKスペシャ

 例年8月を迎えると、各放送局のドキュメンタリー番組枠から、相当に力のこもった、丁寧な取材を積み重ねた番組(とりわけ戦争関連であることが多い)が放送されます。
 そのうち、今日はNHKスペシャルの放送予定を調べてみました。
 今日(7月31日)の時点で9作品が放送予定番組として掲載されています。
 正直、オリンピックには何の興味も湧かないので、以下の5番組のみ番組案内をご紹介します。皆さんなら、どの番組に興味を持たれるでしょうか?
 
初回放送 2016年8月6日(土) 午後9時00分~9時49分
原爆投下 書き替えられた真実 (仮)
(引用開始)
「原爆投下は戦争を早く終わらせ、数百万の米兵の命を救うため、2発が必要だとしてトルーマンが決断した」。
アメリカでは原爆投下は、大統領が明確な意思のもとに決断した“意義ある作戦だった”という捉え方が今も一般的だ。その定説が今、歴史家たちによって見直されようとしている。
アメリカではこれまで軍の責任を問うような研究は、退役軍人らの反発を受けるため、歴史家たちが避けてきたが、多くが世を去る中、検証が不十分だった軍内部の資料や、政権との親書が解析され、意思決定をめぐる新事実が次々と明らかになっている。
最新の研究からは、原爆投下を巡る決断は、終始、軍の主導で進められ、トルーマン大統領は、それに追随していく他なかったこと、そして、広島・長崎の「市街地」への投下には気付いていなかった可能性が浮かび上がっている。それにも関わらず大統領は、戦後しばらくたってから、原爆投下を「必要だと考え自らが指示した」とアナウンスしていたのだ。
今回、NHKでは投下作戦に加わった10人を超える元軍人の証言、原爆開発の指揮官・陸軍グローブズ将軍らの肉声を録音したテープを相次いで発見した。そして、証言を裏付けるため、軍の内部資料や、各地に散逸していた政権中枢の極秘文書を読み解いた。
トルーマン大統領は、実は何も決断していなかった…」
アメリカを代表する歴史家の多くがいま口を揃えて声にし始めた新事実。71年目の夏、その検証と共に独自取材によって21万人の命を奪い去った原爆投下の知られざる真実に迫る。
(引用終わり)
 
初回放送 2016年8月13日(土) 午後9時00分~9時49分
ある文民警察官の死 ~カンボジアPKO 23年目の真実~(仮)
(引用開始)
1993年5月4日。タイ国境に近いカンボジア北西部アンピルで、UNTACに文民として初めて参加していた日本人警察官5人が、ポルポト派とみられる武装ゲリラに襲撃された。岡山県警警視、高田晴行さん(当時警部補・33歳)が殺害され、4人が重軽傷を負った。湾岸戦争以来、日本の悲願であった人的な国際貢献の場で起きた惨劇は検証されることなく、23年の月日が流れた。しかし、今、当時の隊員たちが重い口を開き始めている。番組ではカンボジアPKOの襲撃事件を様々な角度から描き出す。そこには、戦後日本の安全保障政策が大きく転換しPKOでもさらなる任務が求められることになった今、私たちが目を背けてはならない多くの“真実”がある。 
(引用終わり)
 
初回放送 2016年8月14日(日) 午後9時00分~9時49分
村人はこうして満州へ送られた ~国策『満蒙開拓』 71年目の真実~ (仮)
(引用開始)
昭和20年8月、旧満州中国東北部)。ソ連の侵攻で軍が撤退、取り残された人々は攻撃にさらされ、逃げ惑い、およそ8万人以上が犠牲となり、中国残留孤児など数々の悲劇を生んだ。それが、植民地の治安安定や軍への食糧供給を目的に27万の人々が満州に送り込まれた『満蒙開拓』、移民事業の結末だった。これまで「関係資料は破棄され、人々が渡った経緯は不明」とされていて、その詳細は知られてこなかった。だが、村人を送り出した、ある村長の記録や破棄されたはずの極秘文書が発見され、農村を中心に村人がどのように送りだされたのか実態が明らかになってきた。今回、日記や関係資料の全容取材が許された。また、専門家によって軍や国が『満蒙開拓』にどう関与したかを探る調査も進められている。番組では新たに発見された日記や国側の資料を通じて、国策はいかに遂行され、地方の山村から人々は、なぜ満州へ渡ることになったのか、その真相を明らかにする。
(引用終わり)
 
初回放送 2016年8月15日(月) 午後8時00分~8時49分
ふたりの贖罪(しょくざい) 日本とアメリカ・憎しみを越えて (仮)
(引用開始)
憎悪が、世界を覆い尽くしている。どうすれば、憎しみの連鎖を断ち切ることができるのか。その手がかりを与えてくれる2人の人物がいる。70年前、殺戮の最前線にいた日米2人のパイロットである。
「トラトラトラ」を打電した真珠湾攻撃の総指揮官、淵田美津雄。その後もラバウル、ミッドウェーを戦い、戦場の修羅場をくぐってきた淵田だが、1951年、キリスト教へ回心し、アメリカに渡り、伝道者となった。
淵田が回心したのは、ある人物との出会いがきっかけだった。元米陸軍のパイロット、ジェイコブ・ディシェイザー、真珠湾への復讐心に燃え、日本本土への初空襲を志願、名古屋に4発の爆弾を投下した。そのディシェイザーもまた戦後キリスト教に回心、日本にとどまり、自分が爆撃した名古屋を拠点に宣教師となった。
戦争から4年後の冬、ふたりは運命の出会いを果たす。ディシェイザーの書いた布教活動の小冊子「私は日本の捕虜だった」を淵田が渋谷駅で偶然受け取ったのだ。以来ふたりは、人生をかけて贖罪と自省の旅を続ける。淵田はアメリカで、ディシェイザーは日本で。
ふたりの物語は、「憎しみと報復の連鎖」に覆われた今の世界に、確かなメッセージとなるはずである。
(引用終わり)
 
初回放送 2016年8月20日(土) 午後9時00分~9時49分
オキナワ “空白の1年” ~戦後はこうして始まった~ (仮)
(引用開始)
1945年8月15日、本土の人々が太平洋戦争の終わりを告げる玉音放送を聞き、悲嘆に暮れる中、沖縄では、人口のおよそ9割が「収容所」に入れられるなど、全く別の「戦後」がはじまろうとしていた。
今回NHKは、アメリカ軍の占領直後―――「1945年6月から1946年にかけて」の映像や、米軍の機密資料、未公開の沖縄の指導者たちの日記等を入手した。資料を詳細にみていくと、この時期、アメリカの占領政策は揺れており、まさに沖縄が「これからどうなるか」が決められていく期間でもあったことが分かってきた。沖縄はこの時期、アメリカでもなく日本でもない、“空白の状態”に置かれながら、次第に「基地の島」へと変貌させられていったのだ。戦後、本土が平和と繁栄を謳歌する一方、その代償として重い負担を背負った沖縄。「空白の1年」を通して、沖縄の戦後の歩みと今を考える。
(引用終わり)
 

(付録)
『この島~憲法9条のうた』 作詞・作曲
:烏野政樹 演奏:M&N(クロウフィールド)
 
※“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2015”より

 

戦地からの“最愛の妻”への手紙~「2016平和のための戦争展わかやま」から

 今晩(2016年7月30日)配信した「メルマガ金原No.2523」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
戦地からの“最愛の妻”への手紙~「2016平和のための戦争展わかやま」から

 今日(7月30日)の午前10時から、和歌山勤労福祉会館プラザホープを会場として開催された「2016平和のための戦争展わかやま」に行ってきました。都合により、午後のピースライブに参加できなかったのはまことに残念でしたが、明日も10時から12時半まで、2Fギャラリーで展示が、2F多目的室で市民参加企画(群読、朗読、戦争体験や抑留体験など)行われますので、まだ行かれていない方に是非お奨めします。。
チラシPDF
 
 午前10時~12時は、4Fホールを会場として、オープニングに引き続き、東京新聞論説兼編集委員の半田滋さんによる講演「日本は戦争をするのか-集団的自衛権自衛隊」が10時半から行われました。2014年4月に青年法律家協会和歌山支部が憲法記念講演会の講師にお招きして以来、2年ぶりに半田さんが和歌山で講演されるということで、朝の講演会というのはほとんど経験がありませんでしたが(映画の上映会なら時々ありますが)、連日の睡眠不足でいささか睡い目をこすりながら、聴講に駆け付けたという次第です。
CIMG6400 いつもながら、しっかりとファクトを踏まえながら、論旨明快に説き進める半田さんのお話はよく分かり、非常に勉強になりました。
 私がとりわけ感心したのは、第二次安倍政権が決定的に対米従属路線をとるに至った転機が、2014年2月、短期間のうちに集中的に米国政府から示された露骨な服従を求めるサインの連続(相次ぐ日米合同訓練のドタキャン、駐日米国大使のNHK番組への出演拒否等)であり、安倍政権がこれに震え上がったのだという見解でした。
 講演会終了後、東京へ戻られる前に少しだけ2Fギャラリーの展示を見ておられた半田さんと久しぶりに少しだけお話できたのですが、てっきり前泊だと思っていたのに、何と今朝5時起きして和歌山に来られ、すぐに東京に戻ることになっているとかで、「朝の講演だと日帰りができてしまうのでよくないですねえ」とぼやいて(?)おられました。
 余談ですが、短くても質疑応答の時間を設けるのに反対する訳ではありませんが、私が主催者なら、適切な質問をしてくれそうな人に根回ししておきますけどね。質疑応答というのは本当に難しい。
 
 ところで、今日メインで取り上げるのは、2Fギャラリーの一画に展示された「戦地からの手紙」です。実は、この手紙は、今年の5月3日に和歌山城西の丸広場で開催された
“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2016”のブースでも紹介されていた手紙であり、私は、その便箋6枚の手紙の1枚目と6枚目をメルマガ(ブログ)でご紹介したのでした。
 
2016年5月5日
写真レポートで振り返る“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2016”
(抜粋引用開始)
 今年の “HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama 2016”の私個人にとってのハイライトは、展示コーナーに置かれた1通の手紙(PDF化したものを拡大してプリントアウトしたのでしょうか)でした。便せん6枚にびっしり書かれたその手紙は、妻と3人の子どもを残して帝国海軍に召集され、駆逐艦乗組となった一兵員が、妻に送った多くの手紙のうちの1通ということでした。もともと字が上手な方であったのだとは思いますが、これを受け取った妻が読みやすいように丁寧に書こうという心遣いを私は感じました。
 私は、開会前にこのコーナーを訪れ、引き入れられるように6枚の便せんの文字を追いながら、その手紙を声に出して読み始めていました。傍らには、この手紙を書いた中村富雄さんの孫娘にあたる方もおられ、判読しにくい箇所の読み方や、登場する人名の執筆者との血縁関係などを説明してくださいました。
(引用終わり)
 
 その「孫娘にあたる方」が、私たちの仲間である歌舞さんこと「にしでいづみ」さんなのですが、今回の「2016平和のための戦争展わかやま」では、西の丸広場でも展示されたPDFファイルを拡大したものに加え、オリジナルの手紙そのものもの展示されるとともに、手紙を判読してワープロ打ちしたものも併せて展示されていました。そして、「にしでいづみ」さんによる「戦地からの手紙」と題した出展者の言葉が掲載されていました。
 
CIMG6392 「にしでいづみ」さんも書かれているとおり、この手紙を妻に送った中村富雄さんは、海軍一等機関兵曹として乗り組んでいた駆逐艦「早波」が米海軍潜水艦の魚雷攻撃によって撃沈され、戦死されました。歳35。乗組員の内、戦死者253名、救助者45名であったと伝えられています。
 
 以下に、「にしでいづみ」さんのご了解を得て、にしでさんが出展にあたって書かれた文章と、お祖父様(中村富雄さん)が“最愛の妻”(すが江さん)宛に戦地から送った手紙の全文を書き写します。
 なお、以下に掲載したものは、展示用に拡大された手紙を(私が)写真撮影し、これを基に私自身の責任において判読した結果を転記したものです。
 この手紙は、基本的に句読点が(例外はありますが)使われておりませんので、そのとおりに再現することにしました。また、本来であれば読点があっても不思議でない箇所に心持ち空白の間隔が置かれていることがありますので、その箇所は半角スペースで表示しました。
 さらに、難読と思われる漢字には括弧書きで読み方を示しました。
 ところで、(おそらく)主催者が行った判読の結果と思われるワープロ打ちの再現原稿とも照合しました。参考とさせていただいた箇所も多いのですが、異なった判読結果を採用した箇所も少なくありません。以下に掲載した内容は、あくまで私の責任で転記したものであり、読み誤りがあった場合の責任は全て私にあります。
 
 まず、「にしでいづみ」さんによる出展者の言葉をお読みください。
 
(引用開始)
戦地からの手紙
                              にしでいづみ
 
 夏休みに祖母の家に遊びに行くと、朝に夕に、仏壇に炊きたてのご飯を供え、祖父の遺影に静かに手を合わせる祖母の姿を見ていた。ある夏の日、もう理解できる歳だと思ったのだろうか。祖母は、戦地に就いていた祖父から来た手紙の束を古い箱から取り出し、私に見せてくれた。祖母は手紙を読むでもなく、当時の話しをするでもなく、ただ黙ってそばに座っていた。
 続け字で漢字も多く、ところどころしか読めなかったが、どの手紙も、最後はこう締めくくられていた。
 
「最愛の我が妻 すが江へ」
 
CIMG6391 昭和19年6月7日、祖父は、魚雷を受けた駆逐艦とともに、南海の底深くに沈んでいった。享年35歳。祖母は28歳だった。
 戦争になれば、兵士たちは家族と離れ、戦地に向かう。それは誰かを殺すためであると同時に、殺されるかもしれない旅立ちになるということ。前線で過ごす夜、家族や故郷を思いながら手紙を認(したた)める時間を想像してみる。故郷では、きっと無事に帰ってくると祈りながら待ち続ける家族の気持ちを想像してみる。
 憲法を変えようとする動きが始まった時、何の躊躇(ためら)いもなく反対運動に加われたのは、祖父の手紙があったからかもしれない。
 憲法改悪が現実味を帯びてきた今、もう誰にもこんなに悲しい手紙を書かせたくない、もう誰にもんなに悲しい手紙を受け取らせたくない、一人でも多くの人に戦争の現実を伝えたい、そんな思いから、今年の憲法記念日のイベントで祖父の手紙を紹介させて頂いた。
 70年余りの時を経て、便箋の白は赤茶け、風化し、今にもハラハラとまるで櫻の花びらのように散ってしまいそうになっている。
 そうなってしまわないうちに・・・子どもたちに平和な世の中を手渡せるよう、これからも声をあげ続けよう。祖父もそれを願っていると思う。
(引用終わり)
 
 以下に、中村富雄さんから妻・すが江さんへの手紙を全文転記します。
 
(1枚目)
拝啓
其の後 躰
(からだ)の方は、如何(いかが)
ですか 一別以来絶えて
たよりに接せぬままに あの当時の事ばかり偲ばれ
如何
(どう)して居る事かと 按(あん)
じて居ります
由紀子や重樹は無事進學
(しんがく)
しましたか
母上は達者ですか 立つ時、禎二の納骨に京都へ
行く様云って居たの お参り致しましたか
何だか、あの彼岸頃に夢を何度も見ました
私も日々の勤務にも少し宛
(ずつ)
落付きが出来る程に
なれて来た様に感じ 前戦の日々も送って居ります
日が経つ程に気を付けてゐる所為
(せい)
か胃の方の患ひも
忘れ 目方も十六貫目と 肥えて来ました
誰ともなく 今日も感謝の一日は終れり と
(2枚目)
夜すぎ 電気の消える頃ともなれは ひとり 私にも その気持が
する。朝起きれは 遙拝
(ようはい)を 家郷(かきょう)
の方に向いて 朝の
挨拶を 毎朝して居ます
体操もその朝禮
(ちょうれい)の済んだ直後に 十分位宛(ずつ)
するのです
海軍体操 それは朝のラヂオ体操とは全然違って居り
やる程に躰を鍛える様なものです
好きだけれど 未だ充分に出来ない感じがする
いつか休みの時に戰友達が機械体操をして居るのを見て
あゝ 自分は出来ない、と 今更乍
(いまさらなが)
ら 年少の頃から 体を
鍛えてなかった事を フット 偲び出される
人の出来る事かと思ふが どうも不得手だ
重樹等も一度浦田さんと浜寺へ連れて行ってやった
時 とても水を恐れて入りたがらなかった が
(3枚目)
あの様な事から想像して もっとのびのびと遊ばせてやり
少し位乱暴でも 人並には何でも出来る様で無いと
可愛そうなと思ふ 何かと不足勝
(ふそくがち)
であり 不自由な昨今
では 子達の発育に就而
(ついて)
も お前も相当気を遣ふ事と
思ふが 要は精神力で せめてもしっかり 育てゝやって
呉れる様
(くれるよう) それのみ 寫眞(しゃしん)を見る度(たび)
思って居る
前線の勤務にも はげしい訓練の後には 十分な睡眠と
酒保
(しゅほ)等許されるが 此(この)
若い 元気一杯張り切って居る
人達ばかりなので随分 面白い事もある
その中で自分は 子達は三人もあり 二人進學
(しんがく)
して
居る事を話すと 何かと話の花が咲く
年も相当上であり 海軍に入ったのも早いと云ふ点より
或る意味で信頼もされるが 仲々に 萬事を頭に入れる
(4枚目)
事は一苦労だ 内地の事を絶えず〇〇(注:読み取り不能。「戦争展」主催者は「特写」と解読)電報で聞く
相当銃後も引締められて居り 一億が緊張して来たの
を眼
(ま)
のあたり見る様です
此の頃大本營の発表も少ない様ですが 兎も角
(ともかく)
日の
過つ
(たつ)
程に基地の(大東亜共榮圏)開発も進み 敵としても
取り返す事は至難になって来る事でせう
此方
(こちら)
が苦しい戰ひなら 敵も矢張り苦しいのだと思って
前線は勿論銃後は只(ただ)生産一途(いちず)に邁進(まいしん)しなければな
らぬと思ひます
此の様な事を考へるだけ 前線の兵士達に暇がある
のかと思われるかも知れぬが 戰争は化學(かがく)の力に依っ
て支配されるとまで云はれるのからして考へても
銃後の化學の力をドンドン前線に送って貰ひ度い(もらいたい)
(5枚目)
化學の方面では未だ未だ(まだまだ)日本は相手に遅れて居る
のではないかと思ふ
そんな事は他所事
(よそごと)
と思ふだろうか あらゆる角度から
検討する時 隣組や町会で兎や角
(とやかく)
云ふ事に對す
る応答も 正確な戰争意識 云い換えれば 日本は
この戰争に必ず勝つんだ との気持が はっきり掴めると
思ふ 戰果の擧
(あが)
らぬのは 満を持して居るのだ 又一つには
銃後生産陣の責任であるのだと 自分は思ふ
 (注:この後3~4字程度が抹消されたのではないかと思われる)
だ 今年こそと頑張って居る様子なので 桜花咲けども
われ関せずで 花見等 今年こそ少ない事と思ふ
天長の佳節を週日の後に向ふ
(注:「迎ふ」の宛字か)
 何卒 皆 元気に
出来れは速水
(注:滋賀県長浜市速水)
引越しの件も充分考慮して 良いと
思ふ方向にどんどん進んで欲しい
(6枚目)
あれ程云って置いたので 躰の方は 充分手当をして
元気になって居る事と思ふが 要はお前の躰
(からだ)
が一番
大事なんだから 充分気を付けて
母様や子達の生長を手落なくやって呉れる様
色々とりとめもなく書いたが
右の意味を充分かみしめて 日々の事に当る様
             前線ニテ
                  中 村 富 雄
最愛の
 我が妻
  すが江 殿

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原子力規制委員会は大飯原発の基準地震動を見直さないことにした(2016年7月27日)

 2016年7月29日に配信した「メルマガ金原No.2522」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
原子力規制委員会大飯原発の基準地震動を見直さないことにした(2016年7月27日)

 島崎邦彦東京大学名誉教授(前原子力規制委員会委員長代理)が、大飯原発の基準地震動を入倉・三宅式によって計算すると過小評価となる可能性が高く、再計算すべきだと主張したことをきっかけに始まった原子力規制委員会と島崎氏とのやりとり、及び同規制委員会による再検討の経過については、以下のとおり、3回にわたって私のメルマガ(ブログ)でフォローしてきました。
 
 
 今日は、その最新版として、7月26日に行われた「原発地震動評価見直しと美浜3号審査中止を求める緊急要請・院内集会」、及びその翌27日に開催された第23回原子力規制委員会の模様をご紹介します。
 日程は前後しますが、まず7月27日に開催された原子力規制委員会の結果を報じた東京新聞の記事を引用します。

東京新聞 2016年7月28日 朝刊
規制委、大飯地震動「見直さず」 新基準審査優先で結論急ぐ

(引用開始)
 原子力規制委員会は二十七日、関西電力大飯(おおい)原発福井県)で想定する地震動が過小評価されているとの指摘を巡り、関電の手法は妥当で、現状では見直さないことを決めた。原発の安全性を考える上で、極めて重要な議論だったが、「この問題が解決しないと、新基準の審査結果が出せない」と、早期の幕引きをした。
 議論の発端は、大飯原発のように震源断層が垂直に近いと、関電の計算式では地震動を数分の一に過小評価するとの前規制委員長代理の島崎邦彦東大名誉教授からの問題提起。
 規制委事務局は、別の式で再計算を試みた。その過程で浮かんだのは、計算には多数の値が使われ、設定によって地震動の値はいかようにも出せることと、規制委も電力会社の計算内容を完全にはつかみ切れていないことだった。
 別の式を使えば関電の値より大きくなるはず-。その見込みに合わせようと、事務局は断層のずれる面積などの値を操作し、無理に計算を進めたが、規制委メンバーからは「科学を逸脱している」と指摘された。関電と同じ式を使った結果も出したが、同等の値になるはずなのに、半分以下と大きな開きが出た。事務局は「関電とは、地震波を合成する際のプロセスが異なるためではないか」と釈明している。
 地震動をはじく式は、過去の地震をうまく説明し、予測に活用しようと多様なものが考案されてきた。ただし、見えない地下を相手にする上、過去の事例から外れた地震も起きてきた。少なからず誤差が生じることは避けられない。
 誤差を見越して強度を高め「想定外」をなくすのが新規制基準の柱の一つ。規制委は連動する断層の長さなどを「安全側で審査している」と、評価手法は見直さないと結論づけた。だが、全国で起きている原発再稼働の訴訟では、まさに過小評価か否かが重要な争点。今回の一件は、裁判にも影響を与えそうだ。(山川剛史)
(引用終わり)
 
 「見直さない」という結論は容易に予想されたことで、全く驚きはありませんが、東京新聞の山川記者が書くとおり、全国で争われている原発差止訴訟にも大きな影響を与える、少なくとも住民側弁護団がこの点を重要な争点の1つとして攻勢をかけることは間違いないでしょう。その際、裁判所に提出する証拠となり得るのが、7月27日に開催された第23回原子力規制委員会の議事録ということになるでしょうが、それが公開されるまでの間は、動画を弁護団で文字起こしすることになりますかね。大飯原子力発電所の基準地震動については、議題1として、会議の冒頭から議論されています。
 
第23回原子力規制委員会(平成28年07月27日)(2時間21分)
 

 そして、会議終了後の田中俊一原子力規制委員会委員長らによる記者会見の模様です。
 
原子力規制委員会 定例記者会見(平成28年07月27日)(48分)
 

 次に、その前日の7月26日に、参議院議員会館で開催された「原発地震動評価見直しと美浜3号審査中止を求める緊急要請・院内集会」についてお伝えします。
 まず、その概要については、集会での基調報告も担当された阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)が書かれた「転載歓迎」のレポートをまず以下に引用します。
 
(引用開始)
みなさまへ(転載歓迎)
 
本日ご参加していただいたみなさん、ありがとうございました。
小山さん、アイリーンさんもお疲れ様でした。記者のみなさん含めて40名ほどの参加でした。
 
冒頭、規制委員会あての要請書を提出しました。要請は、呼びかけ、賛同含めて98団体、565名の賛同を付けて提出しました。ご協力ありがとうございました。
 
規制庁からは、規制部の地震担当が1名、技術基盤部(旧JNES)から1名来ました。要請書提出のあと、15分ほど状況説明と簡単なやり取りをしました。
 
規制庁規制部の担当者は、島崎氏とのこれまでのやりとりの経緯を話した上で、明日の規制委定例会合での再協議について、規制庁が行った再計算について詳しい説明を行うことになっている、再計算の過程でどのような問題があるのかが問題になるだろう、再計算の取り扱いがどうなるかはわからない、いま詳しい話はできないとのことでした。
 
こちらからは、不確かさや基本ケースで規制庁の値が関電よりも小さいことについても議論するのかと聞きましたが、計算の過程について説明をすることになっているとだけ答えました。
 
こちらの要望として
・不確かさや基本ケースの扱いについても議論すべき
・規制庁が武村式で再計算したことそのものは評価している。撤回すべきではない。これをより適正なやり方で行う方向で検討してほしい
・その場合、美浜3号の地震動計算も見直しが必要となることから、審査を止めて欲しい
・今回再協議中であることを理由に交渉を断わったがが、再協議中で結論がでていないときこそ、きちんと交渉に応じて、疑問に答えて意見を聞くべき
といったことを話して終わりました。技術基盤部の人にもいまの状況をどう受け止めているのか聞いたのですが、規制部の役人がさえぎってしまい、結局一言も話しませんでした。
 
その後は院内集会となり、私のほうから、島崎氏と規制委とのこの間の経緯と、規制庁の再計算について、2つのごまかしと、その一方で、島崎氏の聞き取りにより、武村式では入倉式の1.8倍になることが明らかになったことの意義について、これを恐れた規制委が、再計算そのものをなかったことにしようと動いていることについて、規制委と島崎氏
のやりとりのビデオを交えて話しました。
 
美浜の会の小山さんからは、熊本地震で武村式の正しさが証明されたこと、規制庁の再計算で、武村式に不確かさを考慮しないことの誤りについて、入倉式が過小評価になる原因(経験式の対象地震のとりかた)について、地震モーメントと地震動の加速度の関係について、詳しい説明がありました。その後活発な質疑があり、後藤政志さんからもコメント
をいただきました。
 
明日の規制委の会合が注目ですが、規制庁の再計算の意義と低くみせるからくりを広く知らせながら、原発を止めたうえでの武村式での評価を要求し、大飯原発美浜原発をはじめ、各地の原発で再稼働ができない状況をつくっていこうと確認しておわりました。
 
31日には京都でこの問題で集会がもたれるということです。
資料をアップしたらまたお知らせします。
 
阪上 武
(引用終わり)
 
 この集会の模様は、UPLAN(三輪祐児さん)によって撮影・アップされています。この動画は、音声も非常にクリアで聴き取りやすいです。これによって、少しでもこの難解な技術上の問題についての理解を深めたいと思います。
 
20160726 UPLAN 原発地震動見直しと美浜3号審査中止を求める緊急要請・院内集会(2時間06分)

冒頭~ 司会 満田夏花さん(国際環境NGO FoE Japan)
4分~ 緊急要請書提出と原子力規制庁による説明
26分~ 「「入倉・三宅式」過小評価問題の経緯」 阪上武さん(原子力規制を監視する市民の会)
49分~ 「入倉・三宅式の過小評価 武村式で再評価を 規制庁試算が表す原稿基準地震動評価の破たん」 小山英之さん(美浜の会)
 聴き手 アイリーン・美緒子・スミスさん(グリーン・アクション)
1時間15分~ 質疑応答
 
 なお、以前の記事でもご紹介しましたが、上記動画の小山英之さんのお話を聴く前に、同氏の以下の論考にざっとでも目を通しておいた方が良いと思います。
 
 
最後に、明後日(7月31日)、アイリーンさんの地元・京都の同志社大学烏丸キャンパスで行われる集いの案内を再掲しておきます。
 
島崎邦彦氏(元原子力規制委員会委員長代理)の警告 
原発の地震評価は過小 原発震災・破局的災害を止めるための集い

時間 13:45(開場13:30)~17:00
場所 同志社大学 烏丸キャンパス 志高館 SK112
資料代 500円(学生:無料)
内容
「担当弁護士が語る島崎邦彦氏が主張する入倉・三宅式問題の意味」
  甫守一樹氏(弁護士 大飯原発3・4号機差止め訴訟など)
「島崎提言の意味と意義、さらにその枠を超えて」
  小山英之氏(美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会(美浜の会)代表)
「入倉・三宅式問題と新レシピ? なぜ重要なのか」
  長沢啓行氏(若狭ネット資料室 室長)
各地の裁判から発言・アピール
主催 原発地震の過小評価を考える集い・連絡会
問い合わせ:グリーン・アクション
京都市左京区田中関田町 22-75-103. E-mail:
info@greenaction-japan.org
Tel: 075-701-7223 Fax: 075-702-1952 HP: http://www.greenaction-japan.org/

放送予告・自衛官の今を追ったドキュメンタリー番組2本~映像'16とNNNドキュメント'16

 

 2016年7月28日に配信した「メルマガ金原No.2521」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送予告・自衛官の今を追ったドキュメンタリー番組2本~映像'16とNNNドキュメント'16

 今年の3月下旬、しんぶん赤旗に掲載された以下の記事に驚いた方も多かったのではないかと思います。
 
しんぶん赤旗 2016年3月25日
陸自北部方面隊、隊員に“遺書”強要 「家族への手紙」置いていけ 「戦争立法」備える事態

(抜粋引用開始)
(前略)
 “遺書”を強要したのは陸自北部方面隊(札幌市)。同方面隊関係者によると2010年夏以降、所属部隊の隊長ら上司から、「『家族への手紙』を書き、ロッカーに置くように」と“服務指導”されたといいます。これは自衛官にとって事実上の「命令」に等しく、絶対服従が求められています。
 同方面隊の道東の部隊では、上司の説明に納得せず「苦情申し立て」をした隊員もいました。苦情を申し立てた隊員への部隊からの処理通知(回答)には、「有事の際直ちに任務につくことができるよう常に物心両面の準備を整えること」が陸自服務規則などに明記されていることをあげ、こう意義付けています。
 「(家族への手紙は)物心両面の準備をより具体化したものであり(略)長期の任務に急きょ就くことに備え(略)あらかじめ本人の意思を整理しておくことにより、個人の即応性を向上させるものである」
 陸自北部方面総監部は本紙の取材に「(同方面隊の)千葉徳次郎総監の提案で、就任中の2010年7月から12年7月にかけて全ての隊員(約3万8000人)を対象に実施した。遺書とは認識していない。入隊時に宣誓した任務を完遂するための具体的な方策の一つで、任意であり服務指導の範囲だ」としています。
 同方面隊は、陸自隊員の約4分の1を擁し、最も多く海外派兵している部隊です。
(後略)
(引用終わり)
 
 後に、社民党照屋寛徳衆院議員からの質問主意書に対し、政府は事実関係については概ね認めました。
 
朝日新聞デジタル 2016年3月11日18時28分
家族への手紙、一部部隊で作成させる 陸自北部方面隊

(引用開始)
 安倍内閣は11日、陸上自衛隊の北部方面総監を2010~12年に務めた陸将(当時)が部下に対し、任務に対する準備の一つとして「家族への手紙」を作成してロッカーに保存するよう求め、部隊の一部で実施されていた、とする答弁書閣議決定した。
 社民党照屋寛徳衆院議員が質問主意書で「(元北部方面隊員によると)総監の提案で、服務指導として隊員に『遺書』を書かせ、個人用ロッカーに保管させていたようだ」と指摘したのに答えた。防衛省は「総監は、遺書を書け、とは言っていない。手紙の作成は、家族との緊密な関係を築くなどの狙いがある」と説明している。
 だが、こうした「家族への手紙」の作成は、陸自国分駐屯地(鹿児島県霧島市)でも12~15年に行われていたことが明らかになっている。他の事例の有無について、同省は「調べていないので分からない」としている。(二階堂勇)
(引用終わり)
 
 既に総監が交替した後は、“遺書”の強要はなくなったかもしれませんが、そのようなものを書かされた隊員が多く所属していると思われる北部方面隊の施設隊が、現在、南スーダンに派遣されています。
 
 
 現在、派遣されている部隊と交替する次の部隊から、駆け付け警護等の新たな任務が命ぜられるとも言われており、そのような意味からも自衛隊の動向に注目が集まる中、近く、現役自衛官に密着したドキュメンタリー番組が放送されます。
 もちろん、自衛隊の了解の下、撮影が進められた番組であることから、必然的に課せられる制約があるのは当然で、そのようなことは前提としながら、それでも見るべき価値はあるのではないかと思います。
 ただし、視聴する側の私たちには、心眼を研ぎ澄まし、画面で語られる表面的な言葉の奥にあるものを想像する努力が求められるのだろうと思います。
 以下に、2つのドキュメンタリー番組の放送日時をご紹介しておきます。
 
2016年8月1日(月)午前0時59分~1時59分(日曜深夜)
毎日放送 ドキュメンタリー映像'16
『自衛官とその家族~戦後71年目の夏に~』

(引用開始)
取材ディレクターより
集団的自衛権を容認する新しい安保関連法の運用がまもなく始まります。今月上旬、取材班は兵庫県伊丹市にある陸上自衛隊の官舎を訪ねました。その台所で目にとまったのは、使いこまれたジューサーミキサーと手作りスコーン。小学生の子ども3人がはしゃいでいます。幹部自衛官である夫の隣に座った妻は、カメラの前でさらっとこう語りました。「どんな法律になっても命令に従うだけ。いってらっしゃいと。危険なところにいくことも多くなるのかなあ。でも命令なら仕方がない」。
今回の番組は「自衛官とその家族」しか登場しません。正確にいうと自衛官OBも登場します。憲法に風穴を開けたと言われる新安保関連法で彼らが背負う目の前の任務は何なのか。その安保法は将来に禍根を残すものだと指摘する元官僚も少なくありません。シビリアン・コントロール文民統制)されている自衛隊は、政治が決断すれば、その任務を遂行し、自衛官は危険を顧みず従います。
若い自衛官たちが日々たくさんの汗を流している自衛隊。その家族が先々を心配する声にも耳を傾けました。欧米では軍隊が政治の道具であることは紛れもない事実。自衛隊は軍隊ではありませんが、国際貢献の名の下に自衛官が戦闘に巻き込まれる事態がくるやもしれません。そのとき自衛官は兵士になるのでしょうか。シビリアンの論理でいえば、その答えは国民の側が握っています。番組が多くの視聴者にいま一度、戦後の日本と自衛隊について考えるきっかけになればと願っています。
(引用終わり)
 
2016年8月8日(日)午前1時05分~(日曜深夜)
NNNドキュメント'16
ホルスタインと落下傘~秋田・戦後開拓70年 若者の選択~

(引用開始)
秋田県鹿角市田代平は、戦後開拓された標高600メートルの酪農地帯。小林大峰さん(24)はこの地区で最も若い農業後継者。乳製品の輸入拡大やエサ高騰の影響で、厳しい経営を強いられている。たったひとりの同級生の小川隼人さん(23)は、酪農の仕事を継がずに陸上自衛隊のパラシュート部隊に入った。折しもTPP交渉がまとまり、安保法も成立、目指す道は違っても、国の政策と関わりの深い仕事を選んだ2人の若者の生き様を追う。
再放送
8月14日(日)11:00~ BS日テレ
8月14日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24」 
(引用終わり)