wakaben6888のブログ

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講演「《命の戦場》を歩いて ―フォトジャーナリスト 広河隆一の軌跡」(12/12京都大学大学院 人間・環境学研究科 岡真理研究室)動画のご紹介(IWJ京都)

 今晩(2016年12月16日)配信した「メルマガ金原No.2662」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
講演「《命の戦場》を歩いて ―フォトジャーナリスト 広河隆一の軌跡」(12/12京都大学大学院 人間環境学研究科 岡真理研究室)動画のご紹介(IWJ京都)

 昨日に引き続き、IWJ京都による講演動画のご紹介です。
 ということは、昨日に引き続き、風邪引きの影響による体力低下のため、資料をあれこれ博捜している余裕がないということでもありますが、ご紹介する動画自体は、是非とも多くの方々に視聴していただく価値があると確信をもってお薦めできるものです。
 
 
 12月12日(月)午後6時30分から、京都大学吉田南キャンパス吉田南総合館南棟地下01教室で開かれた広河隆一さんの講演会で、主催はPJ21(京都大学大学院 人間・環境学研究科 岡真理研究室)であり、冒頭の広河さんのお話によれば、これまでも何年かごとに、岡真理研究室の招きで講演されてきたようです。
 
 特に今回は、映画『広河隆一 人間の戦場』(長谷川三郎監督作品/2015年)が京都市京都シネマで上映される(12月10日~23日)機会に併せての開催となったようです。
 
映画『広河隆一 人間の戦場』予告編

 
 私が広河さんとお目にかかったのは一度だけ、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」(私はその年の1月総会で事務局長を退任していましたが、企画自体は退任前に決まっていました)が、「9条ネットわかやま」との共催で、広河さんの写真展&講演会を和歌山ビッグ愛で開催した2012年3月20日のことでした(再録)2012/3/20開催予告!広河隆一氏講演会&写真展(in和歌山市))。
 広河さんの高校の後輩で、この企画の提案者であったN弁護士とともに、JR和歌山駅までお迎えに行き、私の車で会場までご案内したのですが、道中というほどもない短い車中での第一印象は、「物静かな方だな」という、まことにありきたりのものでした。それに、当時はまだ「DAYS JAPAN」の編集長でもあり、様々な疲れがたまっておられるのだろうなという印象も受けました。
 3.11からほぼ1年後に和歌山で開催された写真展&講演会のタイトルが「子どもたちをどう守るか~パレスチナチェルノブイリ・フクシマ~」に決まったのは、私たちからの提案を広河さんがご了解くださったことによりますが、それから4年半以上が経過した12月12日の講演のタイトルに転用することも可能かもしれないと思いました。・・・というか、広河さんをフォト・ジャーナリストしての行動に駆り立てるものが一貫している以上、撮影される写真や講演で訴える内容に一貫性があるのは当然ということな
のでしょう。

藤田早苗氏講演会「改憲するとどうなる?―日本の『言論・報道の自由』は今」(12/10安全保障関連法に反対する関西圏大学・有志の会)視聴の薦め(IWJ京都)

 今晩(2016年12月15日)配信した「メルマガ金原No.2661」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
藤田早苗氏講演会「改憲するとどうなる?―日本の『言論・報道の自由』は今」(12/10安全保障関連法に反対する関西圏大学・有志の会)視聴の薦め(IWJ京都)
 
 風邪引き、なのでしょうね。熱は全くないのでインフルエンザとも思いにくいし。まだ夕方5時にもならないうちに「早退け」したのは何年ぶりかですが。
 こんな日にも、メルマガ(ブログ)「毎日配信」を続けようというのですから、我ながら「異常」というか「意地」というか。
 ただ、さすがにあれこれ情報を検索している体力はないので、IWJ京都が中継した動画が気になっていましたので、これをご紹介することにしました。
 それは、「安全保障関連法に反対する関西圏大学・有志の会」が主催し、奇しくも国際人権デー当日の12月10日、京都市龍谷大学響都ホールで開かれた藤田早苗氏(英エセックス大学人権センターフェロー)講演会「改憲するとどうなる? ―日本の『言論・報道の自由』は今」です。
 IWJの地方局の中では、大阪や岡山と並び、京都はその取り上げるラインナップが充実しており、画質はともかく、音質・音量は概ね聴き取りやすいレベルであり、しかも、原則として、非会員でも全編視聴できますので、お薦めです。 
 
 
 講演の冒頭で藤田さんが紹介している2015年2月2日に駐英日本大使館から在英邦人に送られたメールの内容は衝撃的です。藤田さんから岩上安身さんに送られ、すぐにIWJで公開された記事も是非読み返して欲しいですね。
 
IWJ 安倍総理の報復宣言で150万人の在外邦人の安全が脅かされる! 平和国家・日本の「ブランド」に終幕!? イギリスから岩上安身に届いた在外邦人の叫び 2015.2.10
(抜粋引用開始)
岩上さま、(スタッフの皆様)
 イギリスから藤田です。昨日の古賀さんのインタビュー拝見しました。
 インタビューで話された内容、もう「ステップ」まで来ている、ということ、今回の「外交ミス」は実は確信犯だったというのも、気がめいりましたが、とても勉強になりました。ありがとうございます。
 今日、「在英国日本大使館からのお知らせ」がメールできました。「今回の事案の発生によって、日本人及び日本の関連施設がテロ・誘拐等のターゲットになり得ることが改めて明らかになりました」と。そして注意事項として:○常にアンテナを張って、○連絡手段の再確認、○その日の行動日程の共有… そして、こんなことまで・・

目立たない
 当地は様々な人種の人たちが住んでいるので、日本語であっても公の場(レストランなど)での言動に注意→政治的な話や特定の国や民族、宗教、習慣、文化などについて大声で話さない。
周囲に注意を向ける
 人が多く集まる場所を訪れる際には、周囲にも注意を払うようにする。また、一つの場所に不必要に長居しない(待ち合わせ場所の選定等にも注意)。
 
 2005年7月7日のロンドンでのテロ事件の時も、「私の国は大丈夫だ」と日本の平和主義を本当に誇りに思い、感謝したのに、現政権の悪政のおかげでみるみるそれが崩れていくのを見ていて毎日いたたまれない思いです。ほんとに最近気がめいっています(特に周りに日本人の仲間がいないのもきついかな)。
(引用終わり)

立憲デモクラシーの会「議会政治の劣化と解散問題に関する見解」(2016年12月12日)読む~付・「主要国議会の解散制度」(国立国会図書館)のご紹介

 今晩(2016年12月14日)配信した「メルマガ金原No.2660」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
立憲デモクラシーの会「議会政治の劣化と解散問題に関する見解」(2016年12月12日)読む~付・「主要国議会の解散制度」(国立国会図書館)のご紹介

 私が「メルマガ金原」で配信する記事は、その日のうちに私の2つのブログ、「弁護士・金原徹雄のブログ」「wakaben6888のブログ」に転載していますが、その際、それぞれの記事をカテゴライズしています。例えば、「原発」、「憲法」、「報道」などなど。
 ところで、ここ3日ほど、毎日「政治」と「声明」に分類する記事が続いています。偶然は偶然なのでしょうが、衆議院選挙に向けた野党協力といい(市民連合わかやま)、自衛隊南スーダンからの撤収といい(101人の憲法研究者)、カジノ解禁推進法反対といい(大阪弁護士会)、今の政権与党の暴政をこのまま放置しておくわけにはいかないというやむにやまれぬ思いから作成された「要請書」や「声明」であるというれっきとした共通点があるのです。
 
 今日ご紹介する「立憲デモクラシーの会」による「見解」も、同じ流れで公表されたものだと思いますが、とりわけ、同会ならではの、議会政治の劣化に対する根源的な批判が突きつけられており、大げさでなく、全ての国民に読んで欲しいと思い、微力ながら「拡散」に協力すべくご紹介することとしたものです。
 
議会政治の劣化と解散問題に関する見解
(引用開始)
 議会制民主主義における議会の役割は本来、特定の党派、特定の利害を超えた、国民全体に共通する中長期的利益を実現すること、ジャン-ジャック・ルソーのことばを借りるならば、「一般意思」を実現することにある。一般意思の追求など偽善的スローガンにすぎないとのシニカルな見方もあるかも知れない。しかし、政治から偽善を取り去れば、残るのはその場その場における特殊利益むき出しの権力闘争のみである。
 
 残念ながら、現在の政府・与党の振る舞いには、多様な利害、多様な見解を統合して、将来にわたる国民の利益を実現しようとする態度は見受けられない。それを装おうとする努力さえない。非現実的な適用事例を挙げるのみで、必要性も合理性も説明することなく、いわゆる安保関連法制を強行採決につぐ強行採決によって制定した昨年の通常国会での行動はその典型である。そうした振る舞いは、TPP関連法案、年金制度改革法案、カジノ法案の採決を、数々の懸念や疑問点にもかかわらず強行する近時の行動でも変わるところはない。数の力は、説明や説得の代わりにはならない。国会が各党派の議席数の登録と計算の場にすぎないのであれば、審議などはじめから無用のはずである。政権中枢から発出される数々の暴言・失言を含め、議会政治の劣化は、目を覆うしかない状況にある。
 
 数の力によって特定の党派、特定の見解を無理やりに実現しようとする現在の政府・与党の態度の背景には、与党によって有利な時機を選んで衆議院総選挙を施行する、長年にわたる政治慣行も控えている。この政治慣行は、その一つの帰結として、解散風を吹かせることで与党内部を引き締めるとともに、野党に脅しをかける力を政府に与えることにもなる。むき出しの権力闘争の手段である。小選挙区比例代表並立制の下での、政権中枢への権力の集中とあいまって、現在の政権は、選挙戦略で手に入れた両院の議席の多さを、世論での支持の広がりと見誤っているおそれもある。
 
 しばしば誤解されることがあるが、議院内閣制の下では必ず、行政権に自由な議会解散権があるわけではない。ドイツ基本法に典型的に見られるように、「議院内閣制の合理化」の一環として、憲法典によって解散権の行使を厳しく制約する国も多い。
 
 さらに、議院内閣制の母国であり、その典型例とされるイギリスでは、2011年9月15日成立した立法期固定法(The Fixed-term Parliaments Act 2011)により、次の選挙の期日を2015年5月7日と定めるとともに、その後の総選挙は、直近の総選挙から5年目の5月の最初の木曜日に施行することを原則とするにいたった。
 議院内閣制である以上は、内閣あるいは首相が自由に議会を解散できるという主張自体は、ますます説得力を失いつつある。政府与党が自らにとって最も有利な時期に総選挙を施行する党利に基づく解散権の行使は、もともと議会の解散が稀なフランスでは「イギリス流の解散 dissolution anglaise」と否定的に語られる。
 
 日本の議会政治がその本来の姿へ回帰するためには、長年にわたって疑われることのなかった解散権に関する慣行の是非も改めて検討の対象とする必要があろう。
 
  2016年12月12日
  立憲デモクラシーの会
(引用終わり)
 
 なお、上記の「見解」を公表するための記者会見が、12月12日(月)午後3時から、衆議院第二議員会館地下1階第7会議室で行われました。
 その開催を告知する文書で「立憲デモクラシーの会」は次のように述べています。
 
(引用開始)
このほど立憲デモクラシーの会では、下記の趣旨に基づく声明を発表する記者会見を開催いたします。
【趣旨】安倍晋三政権及び与党の最近の政治運営は、TPP条約及び関連法案、年金改革法案、IR整備推進法案の強行採決に現れている通り、乱暴を極めています。もはや、言論の府としての国会の機能は全く停止し、政府与党が提出する法案を自動的に成立させる機械のようなものに堕した感があります。このような議会民主主義の危機に対して、立憲デモクラシーの会として、批判の声明を発表し、あわせて、年明けにも想定される衆議院の解散に関して憲法学的な問題点も指摘したいと存じます。
(引用終わり)
 
 以下に記者会見の動画をご紹介します。
 衆議院解散権の所在、根拠条文、解散権を行使するための要件などは、必ずしも憲法の条文上明らかとは言えず、解釈及び慣行によって律されてきた側面が大きいのですが、「見解」でも言及されているとおり、議院内閣制の母国と言われる英国における新たな動向は、日本国憲法の解釈にも大きな示唆と影響を与えるものと思われます。
 そのような問題意識も持ちながら、会見での発言に耳を傾けていただければと思います。
 
1212緊急記者会見 立憲デモクラシーの会(57分)

冒頭~ 山口二郎氏(共同代表・法政大学教授・政治学)
5分~ 長谷部恭男氏(早稲田大学教授・憲法学)
9分~ 小森陽一氏(東京大学教授・日本文学)
13分~ 千葉眞氏(国際基督教大学特任教授・政治学)
22分~ 西谷修氏(立教大学特任教授・哲学)
37分~ 質疑応答
 
 冒頭発言が、最初の3人が各4分だったものが、あとのお2人、特に西谷修さんでぐんと長くなってしまいましたが、マイクを手に持って話してくれたからでしょうが、西谷さんの話が一番聴き取りやすかったし、内容的にも分かりやすかったと思います。1時間の記者会見を通しで聴くのはしんどいという方は、まず西谷さんの15分間のスピーチを聴かれてはどうでしょうか。
 
(参考文献)
 「立憲デモクラシーの会」の今回の「見解」をより深く理解するための好個の論文が、国立国会図書館発行の「調査と情報」第923号(2016年10月18日発行)に掲載されていますので、ご紹介します。
国立国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF― NUMBER 923(2016.10.18.)
「主要国議会の解散制度」
 国立国会図書館 調査及び立法考査局政治議会課 高澤美有紀

(概要を引用開始)
● 議会の解散制度があるイギリス、イタリア、カナダ、ドイツ及びフランスについて、その制度及び実例を見ると、解散の要件の違いに伴い、解散が行われる頻度も国によって異なっている。
● ドイツ及び 2011 年議会期固定法制定後のイギリスでは、非常に制限的な要件の下で解散が可能となっている。大統領が解散権を有するイタリア及びフランスでは、制度上の要件はドイツやイギリスほど厳格ではないが、自由に解散を行うことは一般的とはなっていない。
● 議会の解散制度の在り方を比較検討するに当たっては、各国の立法府と行政府の関係の違い等に留意する必要がある。
(引用終わり)
 
 

カジノ解禁推進法案の廃案を求める大阪弁護士会・会長声明(2016年12月12日)のご紹介~付・2014年10月の和歌山弁護士会・会長声明

 今晩(2016年12月13日)配信した「メルマガ金原No.2659」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
カジノ解禁推進法案の廃案を求める大阪弁護士会・会長声明(2016年12月12日)のご紹介~付・2014年10月の和歌山弁護士会・会長声明

 この稿を書き始めた2016年12月13日(火)午後7時時点では、参議院インターネット審議中継で「中継中」の内閣委員会をクリックしてみると、「-休憩-」という表示しか写っていませんでした。
 
 「自民党民進党の幹事長らは午後断続的に会談して、対応を協議していますが、法案を審議する参議院内閣委員会は民進党が委員長ポストを握っているため、自民党は委員会採決を省略して本会議で採決する「中間報告」という手段を検討しています。一方、民進党は、自民党が中間報告などの手段に出てきた場合には、強行的だとして、内閣不信任決議案を衆議院に提出して抵抗する方針です。」(TBSニュース/13日17:56)などというニュースに接すると、もしかすると安倍首相が「年末カジノ解散」に打って出るのではないかというあまりにもばかばかしい想像をたくましくせざるを得ない状況のようです。
 冷静に考えれば、15日のプーチン大統領を招いての山口県での日露首脳会談を控えながら「14日解散」はあり得ないでしょうけど(会期を再延長するという可能性もありますが)。
 
 ところで、自民党日本維新の会などがあくまで14日会期末でのカジノ推進法案の成立を目指す中、昨日(12月13日)、カジノ誘致について最も熱心な自治体の1つである大阪の弁護士会大阪弁護士会)が、法案の廃案を求める会長声明を発表しました。
 既に、日本弁護士連合会をはじめ、いくつかの弁護士会が反対の会長声明を発表していますが、さすがは立地地元候補(?)だけあり、「声明案」のとりまとめのための時間が少なかった割には、よく論点が整理されており、反対運動のための力になると思いますので、その全文をご紹介します。
 
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)の廃案を求める会長声明
(引用開始)
 2016年(平成28年)12月6日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が衆議院本会議で可決され参議院に送られた。同年12月12日に参議院内閣委員会で参考人質疑等の審議を行い、会期末である同年12月14日の参議院本会議での法案の可決成立を目指す、との
報道がなされている。
 カジノ解禁推進法案は、2013年(平成25年)12月に国会に提出され実質的な議論が行われないまま一旦廃案となったが、2015年(平成27年)4月に再提出され1年半以上もの間全く審議されないでいた。ところが、本年11月30日、突如として審議入りし、わずか6時間弱の審議を経たのみで、同年12月6日に衆議院本会議
で可決されたものである。
 当会は、2014年(平成26年)6月、暴力団などの関与、犯罪の発生、風俗環境の悪化、青少年への悪影響、ギャンブル依存症患者の増加、経済的効果を上回る社会的コストの存在、多重債務問題再燃の危険性など
を理由に、カジノ解禁推進法案の廃案を求める会長声明を公表した。
 その後も、カジノ解禁の問題点について議論するシンポジウムなどを開催した。そこでは、諸外国のカジノ事情の調査結果などを踏まえて、ギャンブル依存症の拡大への懸念はもちろんのこと、カジノ設置が決して期待されるような経済効果をもたらすものではなく、かえって地域経済への回復しがたいダメージ
を与える懸念が大きいことなどの問題点が指摘された。
 加えて、カジノはマネーロンダリングの温床になる可能性が高く、かかる観点からも、カジノ解禁には
慎重であるべきである。
 この間、各種世論調査では、カジノ解禁に反対あるいは慎重との意見が賛成意見を圧倒する結果が示さ
れており、新聞各紙も揃ってカジノ解禁に疑問を呈する社説を掲げている。
 カジノ解禁推進法案は、カジノ解禁に伴う上記の問題点を解消するものとは全くなっておらず、また、弊害に対応した対策をとる旨の附帯決議がなされたものの、いまだいかなる対策が講じられるかについての方向性すら検討されていない。また、衆議院における審議経過に鑑みても、人々の懸念に真摯に応える
ものにはなっていない。
 加えて、カジノ解禁推進法案は、我が国では近代法制定以前から厳禁され、刑罰の対象とされてきた賭博行為を、特定の場所、特定の者に限定して非犯罪化するものであり、また、史上初めて民間賭博を公認するという、我が国の刑事司法政策に極めて重大な変更をもたらすものであり、この点からも慎重な審議を要する。しかし、衆議院におけるカジノ解禁推進法案の審議過程は、あまりに短時間かつ内容に乏しく
、拙速にすぎるものである。
 よって、当会は、カジノ解禁推進法案の衆議院での可決に強く抗議するとともに、その廃案を求める。
 
                          2016年(平成28年)12月12日
                            大阪弁護士会      
                            会長 山 口 健 一
 
(引用終わり)
 
 上記大阪弁護士会の会長声明にも記述があるとおり、同会としてカジノ解禁推進法案に反対する会長声明を出すのはこれが2回目です。
 
 
 そして、この2014年には、多くの弁護士会がカジノ解禁推進法案に反対する会長声明を発出しましたが、いまや大阪とデッドヒートを繰り広げて「カジノ一番乗り」を目指していると揶揄されるまでになった(?)立地地元候補和歌山県弁護士会(和歌山弁護士会)も、同じく2014年に以下のような会長声明を発し、カジノ解禁には絶対反対であることを明確にしていますので、今回の急場には会長声明が間に合わなかった(かどうかは未確認ですが)けれど、既に2年前に和歌山弁護士会としての意見を表明しているということを知っていただくため、以下に全文引用します。
 
「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
(引用開始)
                    
2014年(平成26年)10月10日
                      和歌山弁護士会
                      会長 小野原 聡史
 
 昨年12月、国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する議員によって国会に提出された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「本法案」という。)が、先の通常国会で審議入りし、IR議連は今秋の臨時国会で成立を目指すとの報道がされている。
 本法案は、カジノを含む統合型リゾート(Integrated Resort(IR))の設置を推進することが、観光
及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に結びつくとして、現在、刑法上は賭博罪に該当することとなるカジノについて、一定の条件の下で合法化するものである。
 
 しかしながら、本法案には、以下に述べるとおり、多くの問題点がある。
 
経済効果への疑問
 本法案に期待される経済効果については十分な検証により評価される必要があるが、経済効果のプラス面のみが喧伝され、マイナス面を含めた客観的な検証がほとんどなされていない。
 
民間事業者がカジノを設置、運営することの問題
 本法案は、民間事業者がカジノを設置、運営することを前提としているが、既に公認されている公営ギャンブルと異なり、不正行為の防止や運営に伴う有害な影響の排除措置等は何ら具体的でなく、公共の信頼を担保することは困難といわざるをえない。
 
暴力団の関与及びマネー・ロンダリングの問題
 暴力団が新たな資金源としてカジノの関与に強い意欲を持つことは容易に想定されるところ、カジノの設置は、近時、官民一体となり活動してきた暴排運動に逆行し、暴力団に新たな資金源確保の機会を与えることになりかねない。また、カジノがマネー・ロンダリングに利用される可能性も否定できない。
 
ギャンブル依存症の拡大、多重債務問題及び青少年への悪影響
 2013年の厚生労働省の調査によれば、我が国のギャンブル依存症発症率は世界各国と比べて極めて高い状況にある。また、ギャンブルは多重債務問題の要因の一つに挙げられる。このような状況でカジノ
を解禁すれば、ギャンブル依存症患者が拡大し、また、多重債務者が増加するおそれがある。
 さらに、本法案におけるIR方式は、家族が観光で出かける場にカジノが存在することとなり、青少年
が賭博に対する抵抗感を喪失したまま成長することになりかねず、青少年の健全な育成に悪影響を及ぼすおそれがある。
 
 以上のとおり多くの問題点があるが、本法案は、これらの弊害除去のための具体的な対策を示さないまま、カジノ合法化という結論を先取りしている。このような状況で、刑法上「賭博」となるカジノについて合法化できるような正当理由は認められない。
 したがって、当会は、本法案に反対するものである。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年12月8日
カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判
 
(追記)
 要するに民進党の腰がくだけて明日(14日)成立だそうです。
NHKニュースWEB 12月13日 19時58分
カジノ含むIR法案 参院内閣委で可決 あす成立へ
(抜粋引用開始)
カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備を推進する法案は、ギャンブル依存症の対策を明示することなどを盛り込む修正を行ったうえで、13日夜、参議院内閣委員会で、採決が行われ、自民党日本維新の会などの賛成多数で可決されました。法案は14日の参議院本会議で可決されたあと、衆議院本会議で、改めて採決され、可決・成立する見通しです。
カジノを含むIR=統合型リゾート施設の整備を推進する法案をめぐっては、自民党民進党参議院幹事長らが断続的に協議し、自民党が、これまでの審議で、民進党などから出された指摘を踏まえ、ギャンブル依存症の対策を明示することなどを盛り込む法案の修正を行う方針を伝え、理解を求めました。
これを受けて、13日夜、参議院内閣委員会の理事会が開かれ、自民党が法案を修正する考えを正式に示したうえで、13日中に採決を行いたいと提案し、民進党も、これに応じる考えを示しました。
(略)
討論に続いて採決が行われ、カジノを含む統合型リゾート施設の整備推進法案は、修正のうえ自民党日本維新の会などの賛成多数で可決されました。
自主投票を決めている公明党は1人が賛成、1人が反対しました。
このあと、依存症を予防するため、カジノに厳格な入場規制を導入することや、依存症の患者への対策を抜本的に強化することなどを政府に求める付帯決議が、自民・公明両党や日本維新の会などの賛成多数で可決されました。
法案は14日の参議院本会議で可決されたあと、衆議院本会議で、改めて採決され、可決・成立する見通しです。
(略)
民進「採決応じざるをえなかった」
野党側の筆頭理事を務める、民進党相原久美子参議院議員は、記者団に対し、「十分な審議をずっと求めてきたが、あすが閉会日という予定の中で、採決に応じざるをえなかったので、じくじたる思いがある。しっかりと衆議院で審議してもらいたい」と述べました。
(略)
(引用終わり) 

「南スーダン・自衛隊PKO派遣に反対し、即刻撤収することを要求する憲法研究者声明」(2016年12月9日)を読む

 今晩(2016年12月12日)配信した「メルマガ金原No.2658」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
南スーダン自衛隊PKO派遣に反対し、即刻撤収することを要求する憲法研究者声明」(2016年12月9日)を読む

 去る12月9日、101名の憲法研究者が、「南スーダン自衛隊PKO派遣に反対し、即刻撤収することを要求する」声明を発表しました。
 同日、5人の声明事務局から飯島滋明さん(名古屋学院大学教授)、石川裕一郎さん(聖学院大学教授)、清水雅彦さん(日本体育大学教授)、それから賛同者の中から藤井正希さん(群馬大学准教授)が出席して、参議院議員会館において記者会見が開かれました。
 私も登録しているMLに流れてきた飯島滋明さんの投稿によれば、「12月8日までの約1週間で憲法研究者101名の賛同を得ることができました。」「メディア関係者に対する宣伝があまりに直前過ぎたため、たとえば東京新聞などが取材に来ることはありませんでしたが、朝日、共同通信日刊ゲンダイしんぶん赤旗、社会新報、IWJの各メディアから取材に来ていただけました。」ということでしたから、ネットで配信されている記者会見動画はIWJだけと思われます。
 清水雅彦さんがMLやブログで紹介してくださった動画(IWJチャンネル4)にリンクします。この稿を書いている時点では、IWJホームページの「アーカイブ」にはアップされていないものの、チャンネル4の「録画ビデオ」では全編視聴できます(今のところ)。
 
IWJチャンネル4 「南スーダン・自衛隊PKO派遣に反対し、即刻撤収することを要求する憲法研究者声明」記者会見
3分~ 開会 司会 石川裕一郎氏(聖学院大学教授)
4分~ 趣旨説明 清水雅彦氏(日本体育大学教授)
12分~ 賛同状況 石川裕一郎氏
19分~ 事務局から 飯島滋明氏(名古屋学院大学教授)
※飯島氏は『安保法制を語る! 自衛隊員・NGOからの発言』(現代人文社/2016年5月刊)の共著者です。
24分~ 賛同人から 藤井正希氏(群馬大学准教授)
31分~ 質疑応答
 
 12分からの石川裕一郎さんの説明を聞けば、1週間で賛同を得た101人の憲法研究者の中にも様々な意見があることが分かります。
 憲法研究者の中にも、そもそも、
〇今年の11月よりも前から南スーダンでは既にPKO5原則の要件を欠いており撤収すべきであった。
〇1992年に成立したPKO協力法自体が違憲である。
自衛隊の存在そのものが違憲である。
などという様々な見解がある中で、どこに軸足を置くか、どこを最大公約数とするかについて、声明のとりまとめはなかなか大変だったでしょうね(清水雅彦さんが中心になって起案されたのでしょうが)。
 けれども、そのような苦心の末に多くの研究者の賛同を得てまとめられたものであるからこそ、この「声明」は、多くの国民の共感を得るだけの普遍性を持ち得ていると思います。
 是非、1人でも多くの方に読んでいただけるよう、「拡散」にご協力をお願いします。

 「声明」全文は、清水雅彦さんのブログ(清水雅彦の憲法・鉄道・バイクetc.本文記者会見
及び「憲法研究者共同ブログ」に掲載されています。
 
(引用開始)
               南スーダン自衛隊PKO派遣に反対し、
             即刻撤収することを要求する憲法研究者声明
 
 わたしたち憲法研究者は、安倍内閣自衛隊南スーダンPKO活動に対して新たに付与した「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」任務は、日本国憲法第9条で禁止された「武力の行使」に当たると考えます。それゆえ、わたしたち憲法研究者は日本政府に対し、以下の理由から自衛隊南スーダンPKO活動から即刻撤収させることを要求します。
 
(1)安倍内閣の「積極的平和主義」(proactive contribution to peace)の危険性
安倍内閣は2014年7月1日の閣議決定で、自衛隊発足以来60年間維持されていた憲法解釈を変更しました。その閣議決定に基づき、2015年9月19日には、いわゆる「安保関連法」が強行的に制定されました。「安保関連法」は、安倍内閣のいう「積極的平和主義」(proactive contribution to peace)に依拠しています。これは、軍事力によって軍事力をおさえるものです。そうした「積極的平和主義」が、日本国憲法が依拠する平和主義とは全く考えられません。最近のアフガン戦争やイラク戦争をみても、「武力で平和はつくれない」ことは事実が証明しています。
 
(2)「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(いわゆる「PKO法」)の危険な改正
 そもそも1992年6月にPKO法が制定された時、PKO活動の変質(米ソ冷戦前は北欧やカナダなどが原則非武装で、派遣国の停戦・受入合意がある場合にPKO活動を行っていましたが、冷戦後はアメリカなどの大国が重武装で、しかも派遣国の停戦・受入合意がない場合でもPKO活動を実施するようになりました)と参議院決議(1954年の「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」)、憲法との関係(自衛隊PKO活動に「派遣」するのは憲法第9条違反という議論)から、当時の野党は国会で牛歩戦術や議員の総辞職願いの提出までして抵抗したほど議論がありました。
 国会外でも市民集会、デモ、ハンストなどが行われ、その後、1992年10月提訴のカンボジアPKO違憲訴訟と1996年1月提訴のゴラン高原PKF違憲訴訟という違憲訴訟も行われました。
 そのため、政府・与党もPKO法を制定したものの、こうした根強い反対を無視できず、PKO法に基づく参加に際しての基本方針として5原則(①紛争当事者間での停戦合意の成立、②紛争当事者のPKO活動と日本のPKO活動への参加の同意、③中立的立場の厳守、④上記原則が満たされない場合の部隊撤収、⑤武器使用は要員の生命等の防護のために必要最小限のものに限定)を定めました。自衛隊PKO活動はあくまで復興支援が中心で、武器使用は原則として自己を守るために限定し、派遣部隊も施設部隊が中心でした。
 ところが2015年9月に強行採決された「安保関連法」では「PKO法」も改正され、2016年3月29日に施行されました。この改正PKO法を根拠として、安倍内閣は今年11月に南スーダンへ「派遣」された青森駐屯地の陸上自衛隊第9師団第5普通科連隊を中心とした部隊に、NGO職員などの救出を行う「駆け付け警護」と、国連施設などを他国軍と共に守る「宿営地の共同防護」の任務を付与しました。他国PKO部隊員の救出は、11月15日の政府の「新任務付与に関する基本的な考え方」では「想定されない」としたものの、法制度上は想定されています。
 
(3)内戦状態の南スーダンへの「派遣」で自衛隊員の生命をおろそかにする安倍内閣
 今回の南スーダンPKO活動への「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」任務の付与は、「安保関連法」に基づいて初めて自衛隊が活動することを意味します。
 ところが南スーダンでは、今年7月に大統領派(政府軍)と前第1副大統領派(反政府勢力)との間で大規模な戦闘が発生しました。この戦闘ではPKO部隊への攻撃も発生し、中国のPKO隊員と国連職員が死亡しています。結果として270人以上の死者が出ています。国連安保理は、8月にアメリカ主導で南スーダン政府を含めたいかなる相手に対しても武力行使を認める権限を付与した4000人の地域防衛部隊の追加派遣をする決議案を採択しましたが、この決議に対しては南スーダンの代表自体が主要な紛争当事者の同意というPKOの原則に反しているという理由で当初は反対し、ロシアや中国なども棄権しています。10月も大統領派と前第1副大統領派との間での戦闘が発生、1週間で60人もの死者が出ました。こうした南スーダンの状況は、とてもPKO参加5原則を満たしているとは言えません。
 また、こうした状況で自衛隊が「国家又は国家に準ずる組織」である政府軍又は反政府軍に対し、任務遂行のための武器使用に踏み切れば、憲法第9条で禁止された武力行使にあたります。
 したがって、本来であれば自衛隊PKO部隊は撤収しなければなりません。ましてや「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」任務を付与し、自衛隊員を殺し殺される状態に置き、違憲武力行使を行わせるなどもってのほかです。
 11月15日の閣議決定がわたしたちに教えているのは、「安保関連法」を進めた人たちが、自衛隊員の命を大事にしようとしていないということです。自衛隊員の命を大切にするのであれば、実質的に内戦状態にある南スーダンから自衛隊を撤退させるはずです。ましてや戦闘に巻き込まれる可能性の高い「駆けつけ警護」と「宿営地の共同防護」任務を付与するはずがありません。今回、政府が派遣された自衛隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛任務」を付与するという決断をしたことは、たとえ自衛隊員の命に危険が及ぼうとも、軍事力で軍事力を抑えることで成り立つ「平和」の構築の実績作りを優先する、安倍政権と「安保関連法」の危険な本質を明確に示すものです。
 
(4)必要なのは憲法による真の「積極的平和」(positive peace)の実践
 日本国憲法は、前文と第9条によって軍事力によらない国際平和を希求しています。特に、従来、平和学や憲法学でいわれてきた「積極的平和」(positive peace)の追求は、単に戦争など物理的暴力の解消を目指すだけでなく、国内外の社会構造による貧困・飢餓・抑圧・疎外・差別などの構造的暴力のない状態を積極的に作り出すものです。こうした「積極的平和主義」の考え方は、日本国憲法前文の「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」の部分に明確に表れています。
 この立場こそ、本来の意味での平和主義の名にふさわしいものであり、日本国憲法をもつ日本政府は、「全世界の国民」に戦争と貧困のない状態の実現のために努力しなければなりません。南スーダンの現状において日本政府ができる支援は、自衛隊PKO参加ではなく、文民の派遣や教育支援、社会インフラ整備などです。そういう努力をせず、自衛隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」任務を付与する政府に対し、わたしたちは、憲法を守れと主張すべきと考えます。
 
(5)南スーダンからの自衛隊の撤収と憲法違反の「安保関連法」の廃案廃止を
 現在、自衛隊員は安倍内閣の誤った判断により、加害者にも被害者にもなる危険性の高い任務を遂行することを強いられています。これは、日本国憲法の平和主義とは矛盾する「安保関連法」が全面的に発動されたときの日本国民全員の姿と重なるものと思えてなりません。わたしたちは憲法研究者として、そのような不幸な未来への第一歩となる南スーダンPKO活動への「駆け付け警護」と「宿営地の共同防護」任務の付与に強く反対します。そして日本政府に対し、自衛隊南スーダンPKO活動から即刻撤収させることを要求します。
 さらには、自衛隊員の生命を危険な状況にさらすことになる法的根拠が、改正PKO法を含む「安保関連法」であり、「武力の行使」を禁じた憲法に反する法律である以上、憲法違反の「安保関連法」の廃止も強く要求します。
 
2016年12月9日
 
声明事務局:飯島 滋明(名古屋学院大学教授) 石川 裕一郎(聖学院大学教授) 上脇 博之(神戸学院大学教授) 清水 雅彦(日本体育大学教授) 成澤 孝人(信州大学教授)
 
【賛同者】
愛敬浩二(名古屋大学教授) 青井未帆(学習院大学教授) 麻生多聞(鳴門教育大学准教授) 足立英郎(大阪電気通信大学名誉教授) *飯島滋明(名古屋学院大学教授) 飯野賢一(愛知学院大学教授) *石川裕一郎(聖学院大学教授) 石埼学(龍谷大学教授) 石村修(専修大学教授) 稲正樹(国際基督教大学元教員) 井端正幸(沖縄国際大学教授) 今関源成(早稲田大学教授) 岩本一郎(北星学園大学教授) 植野妙実子(中央大学教授) 植松健一(立命館大学教授) 植村勝慶(國學院大學教授) 右崎正博(獨協大学教授) 浦田一郎(明治大学教授) 浦田賢治(早稲田大学名誉教授) 榎澤幸広(名古屋学院大学准教授) 榎本弘行(東京農工大学専任講師) 江原勝行(岩手大学准教授) 大田肇(津山工業高等専門学校教授) 大野友也(鹿児島大学准教授) 岡田健一郎(高知大学教員) 岡本篤尚(神戸学院大学教授) 奥田喜道(跡見学園女子大学助教) 奥野恒久(龍谷大学教授) 小栗実(鹿児島大学教員) 小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授) 片山等(国士舘大学教授) *上脇博之(神戸学院大学教授) 河合正雄(弘前大学講師) 河上暁弘(広島市立大学准教授) 川畑博昭(愛知県立大学准教授) 木下智史(関西大学教授) 清末愛砂(室蘭工業大学准教授) 久保田穣(東京農工大学名誉教授) 倉田原志(立命館大学教授) 倉持孝司(南山大学教授) 小竹聡(拓殖大学教授) 小林武(沖縄大学客員教授) 小林直三(名古屋市立大学教授) 小松浩(立命館大学教授) 近藤真(岐阜大学教授) 斉藤小百合(恵泉女学園大学教授) 坂田隆介(立命館大学准教授) 笹川紀勝(国際基督教大学名誉教授) 笹沼弘志(静岡大学教授) 澤野義一(大阪経済法科大学教授) 沢登文治(南山大学教授) 志田陽子(武蔵野美術大学教授) *清水雅彦(日本体育大学教授) 鈴木眞澄(龍谷大学教授) 髙佐智美(青山学院大学教授) 高橋利安(広島修道大学教授) 高橋洋愛知学院大学教授) 高良沙哉(沖縄大学准教授) 竹内俊子(広島修道大学教授) 竹森正孝(岐阜大学名誉教授) 多田一路(立命館大学教授) 只野雅人(一橋大学教授) 千國亮介(岩手県立大学講師) 塚田哲之(神戸学院大学教授) 寺川史朗(龍谷大学教授) 内藤光博(専修大学教授) 中川律(埼玉大学准教授) 中里見博大阪電気通信大学教員) 中島茂樹(立命館大学名誉教授) 永田秀樹(関西学院大学教授) 中富公一(岡山大学教授) 長峯信彦(愛知大学教授) 永山茂樹(東海大学教授) *成澤孝人(信州大学教授) 成嶋隆(獨協大学教授) 丹羽徹(龍谷大学教授) 根森健(神奈川大学教授) 濵口晶子(龍谷大学准教授) 福嶋敏明(神戸学院大学准教授) 藤井正希(群馬大学准教授) 船木正文(大東文化大学教員) 前原清隆(日本福祉大学教授) 松井幸夫(関西学院大学教授) 松原幸恵(山口大学准教授) 水島朝穂早稲田大学教授) 三宅裕一郎(三重短期大学教授) 宮地基(明治学院大学教授) 村田尚紀(関西大学教授) 本秀紀(名古屋大学教授) 森英樹(名古屋大学名誉教授) 安原陽平(沖縄国際大学講師) 山内敏弘(一橋大学名誉教授) 山崎英壽(都留文科大学非常勤講師) 横田力(都留文科大学教授) 若尾典子(佛教大学教授) 脇田吉隆(神戸学院大学准教授) 和田進(神戸大学名誉教授) 渡辺治一橋大学名誉教授) 渡辺洋(神戸学院大学教授) 渡邊弘(鹿児島大学准教授) 他匿名希望1名 以上計101名 *は事務局
(引用終わり)

「市民連合わかやま」が衆院選での共闘を立憲野党4党に要請(2016年12月8日)

 今晩(2016年12月11日)配信した「メルマガ金原No.2657」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「市民連合わかやま」が衆院選での共闘を立憲野党4党に要請(2016年12月8日)

 昨年に引き続き、というのも変かもしれませんが、師走12月8日(木)午後1時30分から、和歌山県庁内の県政記者室において、市民連合わかやまが、立憲野党各党(民進党日本共産党社民党自由党)に、次の衆議院議員総選挙において、和歌山県下の各小選挙区(1区~3区)に、
 ① 昨年9月に成立した安全保障関連法の廃止
 ② 集団的自衛権行使容認の2014年7月の閣議決定の撤回
 ③ 日本の政治に立憲主義と民主主義を取り戻す
 ④ 個人の尊厳を擁護する政治を実現する
という政策を実行する統一候補を擁立し、協力して選挙に取り組むことと、その実現に向けた野党各党と市民連合わかやまによる合同会議の早急な開催を要請することを記者発表しました。
 
 各メディアの報道の中から、県内紙である紀伊民報とわかやま新法の記事にリンクしておきます。
 
紀伊民報 2016年12月9日
次期衆院選で野党統一候補を

(引用開始)
 
安保法制廃止などを求めて活動する市民団体「市民連合わかやま」は8日、和歌山県庁で記者会見し、次期衆院選で県内各選挙区から野党統一候補の擁立を、各野党に働き掛けることを発表した。
 要請内容は、安保関連法廃止、集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回などの政策を実行する統一候補の擁立▽市民連合と各党との合同会議の早急な開催。要請書はこの日、民進、共産、社民、自由の各党の事務所に手渡したり、送付したりした。
 共同代表の豊田泰史弁護士は「安倍政権の下で日本の軍事大国化が推し進められ、平和国家の先行きが危ぶまれる。これを打破しないといけない。野党共闘すれば、解決策は見いだせる」と話した。
 7月の参院選では、市民連合が和歌山選挙区に弁護士の由良登信氏を擁立。野党3党の推薦を受け「事実上の野党統一候補」として無所属で出馬したが、落選した。衆院選では「市民連合」として独自候補の擁立はせず、野党公認候補の一本化を促し、応援する形を取りたいとしている。
(引用終わり)
 
わかやま新報 2016年12月9日
衆院選に野党統一候補を 市民連合が要請

(引用開始)
 
市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合わかやま」は8日付で、県内の野党各党に対し、次期衆院選の県内各小選挙区統一候補を擁立するよう求める要請書を提出した。
 市民連合わかやまは、ことし7月の参院選和歌山選挙区に候補を擁立。共産・社民・生活(当時)の3党が推薦し、民進党は自主投票だったものの、自党の候補を取り下げたことで事実上の野党統一候補が実現した。和歌山選挙区は自民党現職に敗れたが、全国では32の1人区のうち11区で野党統一候補が勝利する成果を上げた。次期衆院選でも野党共闘の行方が焦点となる。
(略)
 県内3小選挙区を巡る野党の情勢は、民進党が1区に現職を抱え、2区に予定候補を立てており、共産党は2区と3区で候補擁立を発表し、1区でも擁立を進めるとしている。現状は1区、2区で野党の候補が競合する見通しとなっており、市民連合わかやまの要請を受けて選挙協力が進むのか、野党各党の対応が注目される。
(引用終わり)
 
 思い起こせば1年前の2015年12月24日、所も同じ県政記者説において、「安保法制の廃止を求める和歌山の会」(その後、「市民連合わかやま」と改称)が記者会見を開き、2016年7月の参院選和歌山県選挙区に統一候補を擁立することを県内野党に要請することを発表したのでした(「安保法制の廃止を求める和歌山の会(仮称)」が野党統一候補の擁立を目指して走り出しました/2015年12月24日)。
 あれから1年の間に様々なことがありました。私たちが要請した政党だけでいっても、維新の党は分裂を経て民主党と合体して民進党となり、生活の党と山本太郎となかまたち自由党となり、という具合です。もちろん、今夏の参院選に、ゆら登信弁護士を無所属候補として擁立し、推薦してくださった政党とともに選挙戦を戦うという予想外の(?)事態を経験したりしました。
 そして、1年後の今月、今度は衆議院選での共闘を、立憲野党に申し入れるということになったという次第です。なお、私がいちいち立憲野党と言うのは、「日本維新の会」や「日本のこころを大切にする党」、それに「幸福実現党」などは、政策の方向性が全く違うので要請するだけ無駄と思っているからです(彼らも我々のことなど眼中にないでしょうけど)。
 
 ところで、1年前の記者会見は私も事実上同席しましたが、今年は所用のため同席していません。出席者は、5人の共同代表のうちの4人、豊田泰史さん、花田惠子さん、松浦攸吉さん、由良登信さんでした(という顔ぶれであったということも、紀伊民報の写真を見て確認しました)。
 以下に、野党各党への要請書を全文掲載します。記者会見の前日(8日)の午後遅く、この要請書の起案担当者と電話で話したところ、「まだできていないけれど、1年前の要請書と基本は同じだから。」ということでした。たしかに、「要請の趣旨」の基本は同じなのですが、参院選衆院選では選挙制度も違うので、同じ「統一候補」という用語が使われていても、その具体的内容は微妙に違う、というのが私の考えです。
 さらにいえば、実体として、立憲野党間で有効な選挙協力が実現することを獲得目標とするのであれば、「統一候補」という表現がはたして適切か?という疑問がないわけではありませんが、まあ、文章全体を読んでいただければ、市民連合わかやまが求めるところはご理解いただけるかと思います。
 
(引用開始)
                                       2016年12月8日
                  御 中
 
                      要      請      書
 
要請の趣旨
1 野党各党が、次の衆議院議員総選挙において、和歌山県下の各小選挙区で下記の政策を実行する統一候補を擁立し、協力して選挙に取り組まれるよう要請いたします。
 ① 昨年9月に成立した安全保障関連法の廃止
 ② 集団的自衛権行使容認の2014年7月の閣議決定の撤回
 ③ 日本の政治に立憲主義と民主主義を取り戻す
 ④ 個人の尊厳を擁護する政治を実現する
2 上記統一候補擁立に向け、野党各党と当会による合同会議を早急に開催されるよう要請いたします。
 
要請の理由
 昨年9月19日、安倍政権は、海外で集団的自衛権行使等を可能にするために、憲法違反の安全保障法制を数の力で強行成立させました。私たちは、主権者として、日本国憲法が命じる恒久平和主義の破壊を許すわけにはゆきません。この憲法違反の安全保障法制を廃止する法案を国会で可決して廃止し、1日も早く立憲主義と民主主義を回復しなければなりません。また、社会保障の切り下げ、TPPの強行、非正規雇用の推進など国民生活を破壊する安倍政権を一日も早く退陣させなければなりません。
 そのために、本年7月の参議院選挙で、和歌山選挙区でも「事実上の野党統一候補」を擁立して闘いました。和歌山においては勝利することはできませんでしたが、全国32の内11の1人区で当選するという成果が上がりました。そして、今、次の衆議院議員総選挙における小選挙区で市民と野党の統一候補が多数の当選を勝ち取ることが是非とも必要となっています。
 そこで、私たちは、和歌山の各選挙区においても野党各党と市民が統一候補を擁立して当選を目指すことが是非とも必要と考え、上記のとおり要請いたします。
 私たちも、統一候補の当選に向けて共に行動する覚悟でおりますので、どうかよろしくお願いいたします。
 
   安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合わかやま
    (連絡先)和歌山市六番丁24 ニッセイ和歌山ビル11階
            あすか綜合法律事務所
             TEL(073)433-3980、FAX(073)433-3981
(引用終わり)
 
 「市民連合わかやま」は、記者会見終了後、民進党和歌山県総支部連合会と日本共産党和歌山県委員会にはこの要請書を直接持参し、社会民主党和歌山県連合と自由党には郵送したと聞いています。
 まだまだ早期解散の目は消えていないと思われる中、野党4党、とりわけ民進党の動向が注目されるところです。

司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述

 今晩(2016年12月10日)配信した「メルマガ金原No.2656」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述

東京地方裁判所(民事第一部) 
平成28年(ワ)第13525号 安保法制違憲・国家賠償請求事件
原告 堀尾輝久、辻仁美、菱山南帆子ほか454名
被告 国


 昨日の原告代理人3名の陳述に引き続き、去る9月2日(金)、東京地方裁判所で開かれた安保法制違
憲・国家賠償請求訴訟の第2回口頭弁論から、今日は3名の原告による意見陳述をご紹介します。
 意見陳述されたのは、
〇本望隆司さん 元船員として
〇牟田満子さん 長崎原爆被爆者として
〇安海和宣さん キリスト教会の牧師として
でした。
 
 被爆者あるいは宗教者としての意見にも胸を打たれましたが、本望さんの陳述には、多くのことを教えられました。
 第二次世界大戦中、輸送船として徴用された日本の民間船舶が、ろくな護衛もない中、米軍(主として潜水艦)による攻撃の標的となり、次々と海の藻屑と消えたことはよく知られていると思います(そうで
もないか)。
 例えば、「公益財団法人日本殉職船員顕彰会」ホームページの中の「太平洋戦争と戦没船員」のページ、「全日本海員組合」が運営する「戦没した船と海員の資料館」ホームページなどをご参照ください。
 
 ところで、本望さんの陳述の中で「2016年には軍需物資の海上輸送に、防衛省と船舶会社との間で、既に、2隻のチャーター契約を結んでいます。」とあるのは、防衛省が進めている「民間船舶の運航・管理事業」のことです。
 今年の3月15日付で、防衛大臣「民間船舶の運航・管理事業 事業契約の内容の公表について」いう文書を公表しています。
 それによると、選定事業者の商号は「高速マリン・トランスポート株式会社(代表取締役 万願寺 拓秋)」、契約期間は「平成28年3月11日から平成37年12月31日まで」、契約金額は「24,964,958,057円(税込)」とあります。
 ちなみに、この「民間船舶の運航・管理事業」の事業目的は、以下のように規定されています。
 
民間船舶の運航・管理事業 実施方針
(引用開始)
 国は、一層厳しさを増す安全保障環境の下、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備し、柔軟かつ即応性の高い統合運用の体制を構築する必要があり、海上輸送においては、迅速かつ大規模な輸送・展開
能力を確保し、所要の部隊を機動的に展開・移動させることが求められている。
 特に、災害時、緊急時等における機動的な展開には、常時運航可能な体制確保が必要であるとともに、自衛隊の輸送能力だけでは不足する事態も想定されることから、人員・車両・物資等を海上輸送できる複
数の民間フェリーの早期確保が不可欠である。
 そのような背景のもと、本事業では、自衛隊の輸送力と連携して大規模輸送を効率的に実施できるよう、輸送所要に合致した民間フェリーの調達・維持管理・運航、予備自衛官の活用を含む船員の確保等を一元的に行い、災害時、緊急時等における機動的な展開能力を常時確保するとともに、公的機関のための輸
送等を行うことを目的とする。
(引用終わり)
 
 着々と戦争は準備されているのだという意識を常に持っていないと、このような重要な情報も見過ごしてしまうことになりかねません。
 そういう問題意識も持ちながら、12月2日の原告意見陳述を読んでいただければと思います。
 
 なお、今年の2月、社民党照屋寛徳衆議院議員が、「海上自衛隊による民間船舶借り上げ及び民間船員の予備自衛官任用に関する質問主意書」を提出していますので、内閣による答弁書と併せてリンクしておきます。
 質問主位書 
 

原告  本 望  隆 司
 
 私は、1962 年から 1987 年まで、主にタンカーや鉱石船で資源を運搬する船舶に乗船しました。
 印象深いのは、1980 年に始まったイラン・イラク戦争の際に、ペルシャ湾内を航行する船舶を攻撃すると両国が言いだしたときです。日本船も対象になるということで、大変な問題になりました。この時、タンカー攻撃を避けて日本の石油輸送を守ることができたのは、憲法9条のおかげでした。つまり日本がいずれの国にも武力で加担しない中立国であるとの認識が国際的に確立していたからです。日本船をペルシャ湾の入り口にまとめ、船団を組んでペルシャ湾に入ることを外交ルートを通じて両国に通報し、タンカーにはデッキと船側に日本船と判明できるよう、大きな日の丸を描いて視認できる日中に航行しました。当時攻撃を受け被弾した世界全体の船舶は407隻、333人の死者、317人の負傷者が出ました。しかし日本船は被弾ゼロ、日本人船員は外国籍船の乗船者のみ2名の犠牲を出しました。(1999 年5月18日参議院「新ガイドライン関連法」特別委員会中央広聴会での海員組合・平山公述人の口述から)こうして、日本船は攻撃をまぬがれ石油輸送を守ったのです。
 
 ところが、政府が憲法9条の精神を捨て去り、海外での武力の行使が可能になる集団的自衛権を閣議決定してから、我が海運業界もその影響が現れています。
 2016 年には軍需物資の海上輸送に、防衛省と船舶会社との間で、既に、2隻のチャーター契約を結んでいます。これは、普段はこの船舶を通常利用してもよいが、有事の際には、防衛省の命令によって、これらの船舶を自衛隊に提供するというものです。そして、船舶を操船するのは、自衛官となっていますが、現役の自衛官では操船が無理ですから、船員を予備自衛官として、自衛官の身分で、船舶を航行させることになります。この契約は10年で合計250億円という金額ですから、船舶会社としては、黙ってもお金が入ってくる非常に魅力的な取引ですが、現場の船員にとっては、「後方支援」の名の下、いつ攻撃されるか分からない危険な状態におかれます。そして、これらの船舶会社に就職する際に、予備自衛官補
なることを条件としています。それを拒否すれば下船させられます。
 政府は、あたかも「後方支援」は安全であるかのような説明をしておりますが、実際のところ、兵站活動です。前線部隊に兵員、食糧、武器弾薬、医療物資等を運ぶのですから、敵からみれば、それを攻撃し、補給を遮断するのがもっとも効率的であることは当然です。「後方支援」だからといって安全であることは全くなく、輸送船は反撃の手段を持っていませんから、むしろ前線より危険ともいえるわけです。このことは、第二次世界大戦中に、日本の民間の船舶が輸送船として徴用され、攻撃対象になって、約半数の船員が犠牲となり、保有船舶もわずか数隻にまで壊滅した歴史で明らかです。日本海運が立ち直るために長い年月を要したのです。これは我々船員としては繰り返してはならない歴史です。「海員不戦の誓い
」は海運界の切実な願いです。
 さらには、集団的自衛権の行使容認を政府が決めてから、日本の船舶だから安全ということは全くなくなりました。先日のダッカでの日本人襲撃でも明らかなように、むしろ日本が攻撃対象として扱われる事態になっており、海運業界を初めとする運送に関わる業界にもろに影響が出て来るのではないかと非常に恐れています。イラン・イラク戦争の当時、憲法9条のもと日本は戦力を保持しない平和国家であると国際的に認知されていたが、その国際的認知は崩れ去り戦争やテロに巻き込まれる可能性が増大したと言わざるを得ません。船舶が攻撃される危険性に恐怖を感じます。正規の憲法改正の手続をとらず、専門家を初め多くの人たちが違憲であると言っている安保法制を強行採決し、海運業界がまた、再び戦争への協力をさせられる途がひらかれてしまったことに対し、海運業界にいた者として、これほどの苦痛はありません

                                        以上
 

原告  牟 田  満 子
 
1 長崎に原爆が落とされたとき、私は9歳でした。爆心地となった浦上の東にある山を越えた、西山町に住んでいました。
 家族は、 祖父母と脊髄カリエスで寝たきりの父と母、そして私が長女で4姉妹の8人家族でした。
 
2 8月9日のことはよく覚えています。
 この日の朝、母は、父の薬をもらいに、爆心地となる浦上の病院に出掛けていきました。空襲でなかなか薬をもらいに行けず、薬がなくなってしまったので「今のうちに行ってくる」と、1歳半の一番下の妹を背負って出かけました。
 私は、夏休み中でしたが、同級生12,3人と一緒に公民館で、先生も来て下さって自習をしていました。ピカーッと光って窓から外をみると、外は一面真っ黄色でした。外に明るい電気がついたみたいでした。防空頭巾をとる間もなく、爆風で窓ガラスが全部割れて落ちて、ガラスがみんなにささりました。子どもたちは皆泣いていました。私も顔とかにあちこち刺さりました。みんな血まみれでした。私は、防空壕で簡単な手当してもらい、家に帰りました。
 
3 帰ってみると、 家は屋根瓦が飛んで、見上げると空が見える状態でした。
 家の外の様子は、 異様なものでした。焼けただれた人たちがぞろぞろと数珠つなぎになって、爆心地の浦上から東の山の方へ逃れ、金比羅山の峠を越えて、私の家のある西山町の方へと歩いて来たのです。すり鉢状の爆心地浦上は火の海になり、そこを逃げて山越えをして来た人の数は数えられるようなものではなく、列の終わりが見えませんでした。
 歩いてくる人たちは、まともに生きていた人は一人もいませんでした。皮膚がずるっとめくれて剥(む)け、ぴらぴらしていました。服の布も皮膚にくっついて、一緒になってぴらぴらとしていました。靴など履いていないで、 皆裸足でした。この浦上からの無残な被爆者の列は、今も映像になって脳裏にこびり
ついて、一生わすれられません。
 みんな「水を下さい」「水を下さい」と口々に求めてきました。私は何も恐く感じませんでした。感覚
が麻痺してしまっていたのだと思います。私は一生懸命に家の井戸の釣瓶(つるべ)に水を入れて、そのまま水をあげましたが、近所のおばさんから「水飲ませたらいかんよ。死んでしまう。」と言われてやめ
ました。あとで、飲ませてあげればよかったと後悔しました。
 死体は、学校の校庭で、どんどん荼毘に付されていました。においは煙と一緒に上がって来て、何日も続き、また街が焼けたにおいも上がってきました。
 
4 浦上へ行った母と妹は、帰ってきませんでした。
 母が帰ってこなかったことはとても悲しかったです。終戦は15日に、 家にあった小さなラジオで聞い
て知りました。父は原爆の翌年亡くなりました。
 
5 私は、戦争さえなかったら、 原爆さえなかったらと何度も思いました。
 親が亡くなった寂しさと、 長女として家事の負担や農業を支えなければならず、学校に行けなかったことは辛かったです。
 また、被爆者だということでの差別がありました。「被爆しているから子どもが産めない」、「カタワが生まれる」ということも言われました。だから、原爆の被害については救済をして欲しいと思いながらも、大きな声では言えませんでした。私は戦争を心から憎んでいます。私のこれまでの人生を踏みにじってきた戦争を許すことができません。
 
6 私は今の憲法になって、もう二度と戦争が起こることはないという安心感の中で過ごしてきました。海外で戦争が続いているのを聞くと、自分の体験を思い出し、かわいそうにと思っていました。しかし、昨年9月の安保法制の国会成立が強行されたのを目の当たりにし、こんな法律を作った政治家たちは口では平和を言いながら、 戦争のことは何も分かっていません。私たちを苦しめ続けた核兵器の被害は長崎を最後にしてほしいです。
 今、戦争が起こって核兵器が使われたら、何十万、 何百万人という方が亡くなり,多くの方が被爆します。絶対にあの悲劇は繰り返して欲しくないです。
 それをどうしても訴えたくて、私は本日長崎から東京へ参りました。
 裁判官の皆様、どうか私たち被爆者の思いを受け止めてください。
                                        以上
 

原告  安 海  和 宣
 
1 私はキリスト教会の牧師です。憲法違反の安保法制は「平和をつくる者たれ!」というイエス・キリストの教えに反します。イエス・キリストを主と告白し信仰する私の信条に反し、信徒の信仰を守る牧師の立場としても大きな侵害を受けています。
 
2 「剣をもとに納めなさい。剣を取る者はみな剣で滅びます」とイエス・キリストは言いました。武力による威嚇・偽りの抑止力は、真の平和ではありません。日本国憲法前文と第9条は国民を守り、日本はそれゆえ緊張関係にある諸外国に対して対話する力を持ってきました。平和憲法のブランド、和を重んじる気質、敵対する相手にさえ敬意を持って向き合う精神は、キリストの教えと一致します。
 安保法制の強行採決と施行は、我々キリスト者の信仰信条を脅かしています。健全な宗教活動が制限されるのではないかという不安。戦中のような迫害が起こるのではないかという危惧。安保法制があるがゆえに、発言を自制し、忖度する社会に迎合していくことは、聖書の教えに反し、多大なストレスを抱えることになり、「権利侵害への漠然たる不安」の域を超えています。
 
3 戦争しようとする国は、必ず言論や思想を統制するということは歴史が教えています。日本キリスト教史を紐解きますと、1941 年、改正治安維持法の下でキリスト教会に対する迫害は始まりました。翌年から231名の牧師が全国で一斉検挙され、300以上の教会が閉鎖されました。それは、神社参拝を拒否したこと、キリストの再臨信仰・すなわち神の子であるキリストがやがてもう一度この地上に来られるという信仰が同法に抵触したという理由です。
 時を同じくして、宗教団体法が施行され、管理統制のためにプロテスタント教会日本基督教団として一つにされました。日本基督教団は国体へ迎合し、戦争に協力していきました。1942年1月には、日本基督教団統理の富田満牧師が伊勢神宮に参拝し、1943年には全国の教会から献金を募り、ゼロ戦2機ずつ陸軍と海軍に献納しています。1943年10月にはアジア諸国の教会に「日本基督教団より大東亜共栄圏に在る基督教徒に送る書翰」が送られ、侵略に加担していきました。宗教弾圧の歴史であり、負の歴史です。このような苦しみを経て日本国憲法が誕生し、第20条「信教の自由」によって、日本にキリスト教が伝えられた400年目にして初めて私たちは信教の自由を認められたのです。
 
4 私は宣教師の子として、インドネシア・ジャワのマラン市で生まれ 15 年を過ごしました。子ども時代ポンティアナックという町に住むとき、何人もの友人から「安海和宣は日本人だから友達になっちゃだめだと親に言われている。ごめんね。」といわれました。彼らの親族は、日本軍に拷問を受け、虐殺されるなど、戦争の被害に遭っていました。そのとき、牧師である父は「かつて日本軍は刀を持ってやってきた。しかし、私は平和の福音を携えてこの地に戻ってきました」と語りかけ、受け入れられていきました。神様からの赦しと和解。キリスト教の教えと平和憲法の力です。このように現地の方たちとの間に築いた信仰の絆を、今回の法律で破壊されることは宗教者としては耐えられないことです。
 
5 平和憲法の力は海外の方がより強く感じられます。日本のパスポートは世界最強と言われ、日本人は数国を除いて世界中の国々を行き来することができます。それを受けて現在131万人(2015年外務省発表による)の在留邦人が世界中で活躍しています。私どもの教会は、海外に宣教師を派遣していますが、安保法制により日米両国が一体となって軍事活動をすると世界から見られることは、宣教師のいのちと宣教を危険に曝すリスクを格段に高めています。犠牲者が出てからでは遅いのです。どんなに科学が発達しても命を生み出すことは神様のわざによってしかできません。
 宗教者として、牧師として、安保法制の違憲性が証明され、廃止されることを願いつつこれからも声を上げてまいります。
                                        以上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年8月29日
自衛隊員等の「服務宣誓」と日本国憲法

2014年7月3日
今あらためて考える 自衛隊員の「服務宣誓」

2015年5月31日
もう一度問う 自衛隊員の「服務の宣誓」~宣誓をやり直さねばおかしい

2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)

※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年12月9日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述

司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述

 今晩(2016年12月9日)配信した「メルマガ金原No.2655」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
司法に安保法制の違憲を訴える意義(5)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告代理人による意見陳述

東京地方裁判所(民事第一部) 
平成28年(ワ)第13525号 安保法制違憲・国家賠償請求事件
原告 堀尾輝久、辻仁美、菱山南帆子ほか454名
被告 国
 
 去る4月26日、東京地方裁判所に提訴された2件の安保法制違憲訴訟のうち、国家賠償請求訴訟についての第2回口頭弁論が、12月2日(金)午前10時30分から、東京地裁103号法廷で開かれました。
 9月2日の第1回口頭弁論に続き、原告代理人3名による陳述(原告「準備書面(1)」~同「(3)」の概要をそれぞれ説明するもの)の他に、3名の原告による意見陳述が行われました。
 今日は、そのうち、原告代理人3名による陳述をご紹介します。
 主として古川(こがわ)健三弁護士が説明した「準備書面(1)」に詳述されています
が、国は、原告による「新安保法制法の違憲性についての主張、集団自衛権の行使の違憲性についての主張、新安保法制法の制定過程において立憲主義が否定され、国民の憲法改正決定権が侵害されているという主張、そして後方支援活動・協力支援活動の違憲性についての主張のいずれについても、「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない」として認否を明らかにしない」方針をとっており、これをどのように突き崩していくかが、今後の各地における安保法制違憲訴訟にとって極めて重要なポイントであることは明らかです。
 また、国が訴訟の主戦場に設定しようとしている「具体的権利性の存否」「権利侵害の有無」についても、黒岩哲彦弁護士が陳述しているとおり、「準備書面(2)―平和的生存権の権利性・被侵害利益性―」で具体的な主張を展開しています。
 このような法的な観点にも注目しながら、お読みいただければと思います。
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 古川(こがわ)健三
―「本件権利侵害の基本構造と答弁書の対応の誤り」について―
※参照 原告「準備書面(1)」
 
1.被告の主張について
 被告は、請求原因に対する認否において、違憲性の主張についての認否をことごとく避けている。
 すなわち、新安保法制法の違憲性についての主張、集団自衛権の行使の違憲性についての主張、新安保法制法の制定過程において立憲主義が否定され、国民の憲法改正決定権が侵害されているという主張、そして後方支援活動・協力支援活動の違憲性についての主張のいずれについても、「事実の主張ではなく、争点とも関連しないので、認否の要を認めない」として認否を明らかにしない。
 しかし、これらの明白かつ重大な憲法秩序の破壊こそが、原告らの具体的な権利を踏みにじり、原告らを不安と苦悩に陥れた根本的・直接的な原因であり、これらが争点と関係しない、などというのは詭弁というほかはない。
 2015 年、新安保法制法案の国会審議において「わかりやすく丁寧な説明を行うよう引き続き努力する」と政府首脳が繰り返し述べていたことは記憶に新しい。ところがいざことが法廷に及んで、被告は、「丁寧な説明」どころか認否すら行わないというのはいったいどういうことなのであろうか。
 被告のこのような答弁の態度は、傲慢不遜、不誠実極まりないものといわざるを得ない。
 
2.新安保法制は憲法秩序の核心部分を破壊したこと
 新安保法制法は、憲法が拠ってたつ基本原則である平和主義を、根本から破壊した。それも、閣議決定と法律の制定という方法によって。このことを、石川健治東京大学教授は、「クーデター」と呼んでいる。
 また、濱田邦夫元最高裁判所判事は、参議院平和安全法制委員会公聴会に公述人として出席し、集団的自衛権の行使が容認される根拠についての政府の説明に触れ、「法匪」という言葉を用いて厳しく非難した。新安保法制法は制定手続きにおいてもその内容においても著しく違憲性を帯びたものであることは、多数の憲法学者有識者が指摘するところである。
 私たちが戦後70年間の永きにわたり平和を享受し、平和の礎の上に基本的人権の尊重を受けることができたのは、まさに憲法が徹底した平和主義を謳い、私たちがこれまでそれを守ってきたからであった。その道は平坦ではなく、幾多の試練もあった。これまで、法廷の場で平和的生存権について語られたのは、常に平和憲法が危機に瀕したときであった。
 しかし、今ほど憲法が重大な危機に瀕しているときはない。激しい戦闘の現場である南スーダンへ、新安保法制法にもとづく駆けつけ警護任務が付与された陸上自衛隊の派遣が11月20日から始まっている。南スーダンに派遣された国連PKO部隊からは、戦闘に巻き込まれた犠牲者が出ている。日本から派遣された自衛隊員が無事で済むと言う保障はどこにもない。彼ら自衛官にも家族もあれば友人もあり、恋人、あるいは妻や幼い子もあるだろう。彼ら彼女らの心中はいかばかりであろうか。戦争を体験した原告たちは、家族に見送られながら紛争地域に送り出される自衛官の映像をみるとき、みずからの体験を重ねずにはいられない。新安保法制法の下、記憶の片隅にあった凄惨で過酷な体験が、今現実のものとして原告のうちに蘇ってくるのである。
 
3.憲法の破壊と原告の権利侵害は密接不可分であること
 憲法のかつてない危機は、あたかもパンドラの箱を開けるかのごとく、原告たちの脳裏に、かの戦争体験をまざまざと蘇らせた。そして原告たちの人格の核心部分を形成する個人の尊厳を著しく傷つけた。それはまさしく新安保法制法の著しい違憲性、言い換えれば、著しい憲法秩序の破壊がもたらしたものである。憲法秩序は、基本的人権の土台である。その土台が大きく揺るがされたときに、個人の権利と尊厳が無事ではありえない。そして憲法の基本理念である平和主義は、個人の基本的人権と深く結びついて切り離すことはできない。平和があってこそ個人の人権が尊重されうるからである。
 憲法が危機に瀕したときは、個人の人権・権利に対しても重大な危機が迫っているときである。すなわち憲法の破壊と原告の権利侵害とは一体不可分であり、憲法秩序のあり方を検証することを抜きにして、個人の権利侵害の有無を語るなど、ありえないことである。権利侵害の重大性と、違法行為の違法性の程度は、互いに相関関係をもつ。したがって違法性の程度について判断することなしに、原告らの権利侵害の程度を判断することはできない。その違法行為が単なる違法ではなく、憲法秩序の破壊である本件においては、なおさらである。したがって、この憲法秩序最大の危機に際して、悪夢のような戦争体験を反芻し追体験している原告ら、個人の尊厳を著しく蹂躙されている原告らの権利侵害の重大性を、それぞれの原告について個別に検討し判断するとき、それらの被害を直接もたらした原因である新安保法制法とその立法過程の違憲性を検討すべきであることはいうまでもない。まさに、新安保法制法の違憲性の問題は本件において最大の争点である。
 それを争点ではないという被告の主張は、きわめて不当である。
 被告は、本件の請求の原因中で認否を行わなかった部分について、被告としての認否反論を明らかにし、議論に応じるべきである。
                                        以上
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 黒岩哲彦
―平和的生存権の権利性・被侵害利益性―
※参照 原告「準備書面(2)」
 
1 原告らは、新安保法制法によって侵害される原告らの権利・法的利益として、第1に平和的生存権を主張するものであるが、これに対し、被告は、答弁書において、原告ら主張の被侵害利益は、いずれも具体的な法的利益ではなく、国家賠償法上保護された権利ないし法的利益の侵害をいうものでもないから、主張自体失当であると主張している。そこで、本準備書面では、平和的生存権の権利性・被侵害利益性について主張を補充するものである。
 平和的生存権は、平和のための世界的な努力(平和的生存権の根拠1)、憲法前文、9条、13条をはじめとする第3章の諸条項の憲法の規定(平和的生存権の根拠2)、憲法学説の研究の成果と裁判例(平和的生存権の根拠3)、平和を守るための動き(平和的生存権の根拠4)により、平和的生存権の具体的権利性・裁判規範性は認められる。
 
2 平和的生存権を認めた主要な裁判例は、①長沼訴訟(福島判決)、②自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋地裁判決(田近判決)、③自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋高裁判決(青山判決)、④自衛隊イラク派遣違憲確認等請求事件の岡山地裁判決(近下判決)がある。
 自衛隊イラク派遣差止等請求事件の名古屋高裁判決(青山判決)は、平和的生存権について、「このような平和的生存権は、現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ないことからして、全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ、単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない。法規範性を有するというべき憲法前文が上記のとおり『平和のうちに生存する権利』を明言している上に、憲法9条が国の行為の側から客観的制度として戦争放棄や戦力不保持を規定し、さらに、人格権を規定する憲法13条をはじめ、憲法第3章が個別的な基本的人権を規定していることからすれば、平和的生存権は、憲法上の法的な権利として認められるべきである。そして、この平和的生存権は、局面に応じて自由権的、社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ、裁判所に対して保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合がある」としている。
 なお、1990年代初頭に湾岸戦争における多国籍軍への戦費支出・自衛隊掃海艇の派遣等の違憲を主張する「市民平和訴訟」についての1996(平成8)年5月10日東京地裁判決が、「いまだ主権国家間、民族、地域間の対立による武力紛争が地上から除去されていない国際社会において、全世界の国民の平和のうちに生存する権利を確保するため、政府は、憲法九条の命ずるところに従い、平和を維持するよう努め、国民の基本的人権を侵害抑圧する事態を生じさせることのないように努めるべき憲法上の責務を負うものということができ、この責務に反した結果、基本的人権について違法な侵害抑圧が具体的に生じるときは、この基本的人権の侵害を理由として裁判所に対して権利救済を求めることは可能といえよう。」と判示した点は、平和的生存権を考える上でも軽視すべきでない。
 
3 平和的生存権の具体的権利性・裁判規範性は十分肯定される。
 原告らは、訴状及び準備書面で詳しく主張したとおり、アジア・太平洋戦争の際における空襲や原爆の被害体験者、兵役とシベリア抑留の経験者、航空機・船舶・鉄道等の乗務員経験者、学者・教育者、宗教者、基地周辺の居住者、医師等医療関係者、ジャーナリスト、障がい者原発関係者のほか、母親、若者などで、いずれも戦争に限りない恐怖を覚え、平和を念願し、日本国憲法を大事に思ってきた国民・市民である。
 今回の新安保法制によって、平和国家の法制度から戦争のできる国家の法制度に大きく変わるのであるから、政治、経済、社会、文化など全般に影響が現れ、国民・市民の生活に影響せざるを得ない。原告らの立場は様々であり、それぞれの立場によって新安保法制に抱く不安や恐怖、怒りや悲しみなどの精神的苦痛は異なるが、平和を愛し、これを願い、心の拠り所としてきた心情が痛く傷つけられ、平和的生存権が侵害されたものであることは共通している。原告らは、戦争の被害者になることを拒否するだけでなく、それ以上に加害者になることを拒否するのである。それは、憲法前文にあるとおり、恒久の平和を念願し、平和を維持することを国際社会に固く誓ったからであり、この誓いを果すことがわが国で生きる者の責務であり、誇りに思っているからである。
 
4 平和的生存権は、憲法前文2項と9条及び第3章の人権規定から基本的人権の基底的権利として具体的権利性があり、裁判規範であること認められ、原告ら主張の平和的生存権不法行為法上の被侵害利益性があることも明らかである。新安保法制法の制定によって、前文及び憲法9条とこれらに依拠する平和的生存権は、平和主義そのものと一緒に破壊され、葬られようとしている。今般のように内閣と国会が暴走する場合、立憲民主主義の観点からこれを合法的に牽制するのは、司法の責務である。
 原告らは、違憲の新安保法制法による被侵害利益の第1に平和的生存権を主張するものである。裁判所は、憲法の要請と国民・市民の声に真摯に向き合い、平和的生存権を正面から認め、新安保法制法の違憲判断と原告らの被害の回復を宣言されることを強く要請するものである。
                                        以 上
 

原告ら訴訟代理人 弁護士 杉浦ひとみ
―「被害論その1」について―  
          
※参考 原告「準備書面(3)」
 
1 原告らは、新安保法制法の成立によって受けた平和的生存権、人格権、憲法改正・決定権を侵害されたと訴えています。
 これに対し、被告国は「原告らの主張は、法的に保護された権利ないし利益とは認められない」、「原告らが人格権の内容として述べるところは、漠然とした不安感を抱いたという域を超えないもの」と反論してきました。しかし、それは、被告国が原告らに起こっている事実をまったく理解していないか、理解しないようにしてこの裁判を終わらせようとしているとしか、言いようがありません。被告国は、何を根拠に、何を調査して「漠然とした不安の域を出ない」と判断したのでしょうか。
 原告らが負っている被害は、提訴時の私たち代理人の想像をはるかに超えるものでした。被害については、一度では主張しきれるものではなく、提出する準備書面はその一部です。以下、概略を述べます。
 
2 新安保法制法によって破壊されようとしている憲法9条や、曲がりなりにも70余年守り抜いてきた「戦争をしない国日本」の存在意義は、すでに世界の中に浸透し、また原告らを含めた多くの国民・市民の安堵となり自信となりプライドとなってきていました。それによって、原告らは、計り知れない価値を得てきました。
 
3(1)アジア・太平洋戦争の被害を受けた原告らは、当時、壮絶な被害によって心的外傷=トラウマを負いました。ある空襲被害者は炎に追われ3月の隅田川に逃れ一命を取り留め、橋桁のところで暖をとったそのたき火は山となった死骸がもえていたものでした。長崎では、原爆爆心地から逃れて来る被害者は、みな皮膚がめくれて垂れ下がり、ひらひらさせながら、数珠つなぎに列をなし、よろよろ歩いていたその姿を、小学生だった原告は忘れることができません。
 原告らはその後70余年の間に、実生活の多忙に紛れ、このトラウマはかさぶたをはったような状態にありました。しかし、本法制の成立により、人を殺し殺されることが現実となり、再びその心の傷が蘇り、被害を増悪させ原告らを苦しめています。また、生木を裂かれるような悲惨な肉親との死別の苦しみも「9 条を残してくれたから、犬死にではなかったから」と平和憲法の存在が原告らをかろうじて納得させ、心の平静を取り戻してきた70年でした。にもかかわらず、本法制により、原告らは「この平和を守りきれなかった」という親きょうだいへの慚愧の念を、晩年になって再び背負っていくことになりました。これが、人格の本質に関わる被害以外のなにものでしょうか。
(2)子どもを持つ親の立場にある原告も苦しみ抜いています。子どもや孫の将来を案ずることは人間の本性であり、近時やっと目を向けられてきた被害者問題で、子を失う親たちの慟哭がいかばかりかは、誰もが察することができるところです。戦う若者が少なくなれば順番は回ってきます。過去の戦争がそうだったではないですか。子や孫が人を殺し・殺される状況に置かれることは人間としての根源的な幸福を奪われることです。生きて帰ってもアメリカで1日平均22人の退役軍人が自殺しているといいます(米 NPO「IAVA」による)。
 「まだ戦地に行ってもいない、死んでいない」という話ではなく、今ならそれを止めることができるはずなのに、政府がそれを促し、誰も止めようとしないこの焦燥感は塗炭の苦しみです。
 これ以上の人間の核心部分の侵害はありません。国はそれでも「漠然とした不安感」というのでしょうか。人格権の侵害であり、さらには平和的生存権も侵害された状態です。
(3)航空機関、船舶、鉄道で働く労働者らは、新安保法制法の下においては、いったん事があれば、自分の意思に反しても、物品の輸送、人の輸送によって戦争行為に協力することが求められる立場にあり、危険と背中合わせの現場におかれます。物資の輸送は攻撃の矢面に立たされます。まさに「平和的生存権」を侵され、意に反して危険を強いられ人格権を侵害されます。
(4)また、本法制により「戦わない国日本」への世界の信頼を失い、アメリカと一緒に戦争する国になったことから、テロの恐怖は現実性を持ってきています。この国には、原子力空母も配するような基地があり、狭い国土に約50基の原発を置いているのです。テロの危険の大きさに基地周辺住民である原告や、原発設計者である原告は生きた心地がせず、日々平和的生存権が侵害されています。
(5)そのほか、平和であるための教育の重要性を確信し研究を続け、指導を続け、そのような教科書を作るべきであると裁判を戦った原告らは、戦後平和であることが国民・市民、とりわけ子どもたちに何より大切であると、人生を賭けて取り組んできました。これらの信念を否定されることは、生きてきたすべてを抹消されることであり人格としての核心部分を侵害されたのです。
 
4 このように、安保法制法の成立は、これまで憲法が国民・市民に保障してきた平和的生存権や人格権を、憲法改正手続を踏まない形で侵害しているのです。裁判所には、結論ありきではなく、人権の砦としての機関であることの使命に賭けて、原告らの被っている被害をしっかり捉えていただきたいのです。
                                        以上
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年8月29日
自衛隊員等の「服務宣誓」と日本国憲法
2014年7月3日
今あらためて考える 自衛隊員の「服務宣誓」
2015年5月31日
もう一度問う 自衛隊員の「服務の宣誓」~宣誓をやり直さねばおかしい

2016年9月3日
東京・安保法制違憲訴訟(国賠請求)が始まりました(2016年9月2日)
※過去の安保法制違憲訴訟関連のブログ記事にリンクしています。
2016年9月6日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(1)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述
2016年9月10日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(2)~東京・国家賠償請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述
2016年10月4日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(3)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告訴訟代理人による意見陳述

2016年10月5日
司法に安保法制の違憲を訴える意義(4)~東京・差止請求訴訟(第1回口頭弁論)における原告による意見陳述

カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判

 今晩(2016年12月8日)配信した「メルマガ金原No.2654」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判

 和歌山市民にとって「カジノ」が対岸の火事どころでなくなったことは、ようやく以下のような報道で明らかになってきました。
 
NHK 関西 NEWS WEB 12月07日 16時35分
カジノ含むIR和歌山市が検討

(抜粋引用開始)
 カジノを含むIR・統合型リゾート施設の整備を推進する法案が衆議院を通過し、7日、参議院本会議で審議入りした中、和歌山市候補地の選定作業や経済効果の試算を進めていて、IRの誘致を目指すか
どうか検討を急ぐことにしています。
 和歌山市は去年5月、カジノを含むIR・統合型リゾート施設に関するプロジェクトチームを作り、メ
リットやデメリットについて検討を進めてきました。
 これまでの議論では、候補地として、関西空港から車で30分程度で、高野山や白浜などの観光地にも
近い、市の南部の人工の島「マリーナシティ」や、北部の「コスモパーク加太」があがっています。
 「マリーナシティ」は22年前の世界リゾート博の会場で、現在はテーマパークやヨットハーバー、それにリゾートマンションなどがあり、「コスモパーク加太」は和歌山県が宅地として開発した大規模造成
地ですが、大部分は買い手が付いていません。
 また市のプロジェクトチームは、仮に施設への来場者が年間1000万人とすると経済効果は2000
億円にのぼり、2万人の雇用が生まれると試算しています。
 一方で、ギャンブル依存症の増加や青少年への悪影響なども懸念されるとして、ギャンブル広告の禁止
などの対策の効果も検討した上で、誘致を推進すべきかどうか判断する必要があるとしています。
 和歌山市はIR事業を手がける企業やほかの自治体の動向も見ながら、誘致を目指すかどうか検討を急
ぐことにしています。
(引用終わり)
 
 「知らなかった」と愕然としている和歌山市民も結構多いのではないでしょうか。「和歌山市は去年5月、カジノを含むIR・統合型リゾート施設に関するプロジェクトチームを作り、メリットやデメリットについて検討を進めてきました。」とありますが、そのプロジェクトチームによる研究レポートが、今年の4月27日に公表されていました。
 このレポートでは、「カジノによる悪影響」として、「韓国には17ヵ所のカジノがあり、自国民が入場できる江原ランドカジノのみ」「カジノ周辺には質屋が乱立し、高級腕時計や宝石類、中には車まで質に入れる人もいる」「「街にカジノ中毒者がいる」「子育てに向かない」などと一家で引っ越す人が相次ぎ、20年前は約2万5000人だった周辺の人口が、1万2000人に半減(2015.5.21 読売新聞)」というような記載もあり、必ずしも推進一辺倒でもないようですが、「友が島」「コスモパーク加太」「和歌山北港西防波堤」「まちなかエリア」「中央卸売市場」「マリーナシティ」などを候補地として具体的に検討しています・・・と知ったらびっくりする人もいるでしょう。
 「友が島」?冗談にしても悪い冗談だと思いませんか?
 
 また、昨日(12月7日)の毎日新聞「和歌山市世論調査 IR誘致52.7%賛成 市長「方針急いで決める」/和歌山」という記事にも驚きました。和歌山市「カジノを含むIR誘致について市民(満18歳以上)を対象に今年9~10月に世論調査を実施したところ、賛成派が52・7%(速報値)と半数を超えた。」というのですからね。
 これは、和歌山市が毎年行っている「市政世論調査」の一部であり、その平成28年度の概要が同市のホームページで公開されています。
 もっとも、平成27年度の「市政世論調査」には、IRについての質問項目はなかったようです。
 
 もともと、新聞のコラムで堂々とカジノ推進を宣言したり、Facebookにマカオ視察の報告を載せ、「「百聞は一見に如かず」一人でも多くの皆さんに現地を是非見てもらいたいと思います。」とまで主張する自民党衆議院議員がいたりはしたものの、ここまで行政が前のめりだったとは、私自身、うかつにも最近ようやく知った次第です。
 なにしろ、「カジノ/和歌山」でGoogle検索してトップでヒットするのは、和歌山県のホームページで
すからね。
 
 
 これによると、平成28年5月に和歌山県は、「特定複合観光施設区域への地方の選定を政府要望」あり、要望した「具体的な措置」が、
1 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法制度の早期整備を図ること
2 地方創生を実現するため、特定複合観光施設区域に「地方」を選定するよう明文化すること
3 和歌山県を特定複合観光施設区域に選定すること
というのです。
 
 国会議員から県までカジノ推進一辺倒とは、やれやれ(民進党岸本周平衆議院議員は党方針に従って本会議採決は退席したのでしょうが/twitterにもfacebookにも何とも書いていないけれど)。
 和歌山市はまだ態度未定とはいえ、IRに関するプロジェクトチームを作って鋭意調査を進めているのですから、知らぬは県民・市民ばかり、という情けなさ。
 まあ、知っている人はとっくに知っていたのでしょうが。
 
 ところで、IR法案(カジノ法案)、正式名称は「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案というもので、全23条という、比較的短めの法案です。
 私は、一つの関心をもって特定の条文を探しました。それは、この法案で「カジノ」をどのように定義
しているかを知りたかったのです。
 ところが、第二条の(定義)を読んで驚きましたね。
 
(定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業
者が設置及び運営をするものをいう。
2 この法律において「特定複合観光施設区域」とは、特定複合観光施設を設置することができる区域として、別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域
をいう。
 
 これによれば、「別に法律で定めるところ」を待たねば、解禁される「カジノ」の実体が不明ではないですか。この法案では「ご存知」のという前提で「カジノ施設」という用語が使われ、例えば第十条二号では「カジノ施設において用いられるチップその他の金銭の代替物」などという表現が出てきますが、ここでいう「カジノ」も「ご存知」のという以上の意味は読み取れません。
 議員立法とはこういうものかもしれませんが、技術的に非常にレベルの低い法案であり、法律の体をなしていないとさえ思います。
 
 和歌山県民、和歌山市民として、何とも情けない思いを禁じ得ませんが、最後は少しは力が出る話題で締めくくりましょう。
 それはカジノ法案推進勢力に対する読売新聞の「連続社説」による徹底批判です。
 正直、私が読売新聞の社説を読んで「よく書いてくれた」とか「元気をもらった」とかいう感想をいだ
く日が来ようとは思ってもいませんでしたが、これは紹介しない訳にはいかないでしょう。
 衆議院で審議入りした後の12月2日、本会議採決翌日の7日、そして党首討論の翌日の今日(8日)と、わずか1週間のあいだに社説で取り上げること3回、これは尋常ではありません。私は、ナベツネこと渡邉恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆が、「徹底的にやれ」と論説室を叱咤しているのではないか
、などと勝手に想像しています。
 ことカジノ法案については、是非、読売新聞に頑張っていただきたいと思います。
 
読売新聞 社説 2016年12月2日(金)
カジノ法案審議 人の不幸を踏み台にするのか

(抜粋引用開始)
 カジノの合法化は、多くの重大な副作用が指摘されている。十分な審議もせずに採決するのは、国会の
責任放棄だ。
(略)
 自民党は、観光や地域経済の振興といったカジノ解禁の効用を強調している。しかし、海外でも、カジノが一時的なブームに終わったり、周辺の商業が衰退したりするなど、地域振興策としては失敗した例が
少なくない。
 そもそもカジノは、賭博客の負け分が収益の柱となる。ギャンブルにはまった人や外国人観光客らの“
散財”に期待し、他人の不幸や不運を踏み台にするような成長戦略は極めて不健全である。
 さらに問題なのは、自民党などがカジノの様々な「負の側面」に目をつぶり、その具体的な対策を政府
に丸投げしていることだ。
(略)
 カジノは、競馬など公営ギャンブルより賭け金が高額になりがちとされる。客が借金を負って犯罪に走
り、家族が崩壊するといった悲惨な例も生もう。こうした社会的コストは軽視できない。
 与野党がカジノの弊害について正面から議論すれば、法案を慎重に審議せざるを得ないだろう。

(引用終わり)
 
読売新聞 社説 2016年12月7日(水) 
カジノ法案可決 参院審議で問題点を洗い出せ

(抜粋引用開始)
 わずか約6時間の衆院審議で、様々な問題をはらむカジノを賭博の例外扱いにしようとする。あまりに
乱暴かつ無責任だと言うほかない。
 統合型リゾート(IR)整備推進法案が衆院本会議で、自民党日本維新の会などの賛成多数で可決、
参院に送付された。
(略)
 議員立法の法案は本来、丁寧に手続きを踏み、各党の幅広い合意形成を図るのが常道である。今回のよ
うに、強引に採決に持ち込む手法は、今後の国会運営にも禍根を残しかねない。
 公明党の対応にも疑問がある。山口代表や井上幹事長ら幹部は、慎重な審議の必要性を強調しながら、自民党などが主導する委員会運営を容認した。公明党が採決に反対すれば、自民党も再考せざるを得なか
ったのではないか。
 採決の際、公明党は自主投票にし、民進党は退席した。いずれも党内に賛成、反対の両論があり、一本
化できなかった。これだけ国民の関心が高い法案で党の方針を決められないのは異例である。
(略)
 カジノの合法化には、多くの課題が指摘されている。暴力団や海外の犯罪組織の関与や、ギャンブル依存症者による犯罪や自殺の増加、青少年への悪影響などだ。こうした深刻な副作用を伴う成長戦略は、明
らかに筋が悪い。
 カジノの経済効果についても、一定の観光客の増加や雇用創出を見込む民間試算の一方で、東アジアで
はカジノが乱立し、市場が飽和状態にあるとの厳しい見方がある。過剰な期待は禁物だろう。
 与野党は、対策や制度設計について政府に丸投げせず、自らが腰を据えて議論すべきだ。
(引用終わり)
 
読売新聞 社説 2016年12月8日(木)
党首討論 首相はカジノの説明を尽くせ

(抜粋引用開始)
 今国会初の党首討論が行われた。安倍首相と野党党首の論戦は、すれ違いが目立った。より建設的な議
論にするには双方の努力が欠かせない。
 民進党蓮舫代表は、統合型リゾート(IR)整備推進法案の衆院通過を取り上げた。「カジノは賭博
だ。勤労を怠り、副次的犯罪を誘発する」と訴え、約6時間の審議での採決を批判した。
 首相は「(政府が今後策定する)法案で、懸念にも具体的な答えを出していく」と応じた。自民党など
による拙速な衆院採決に関しては、「議員立法だから、国会が決めることだ」とかわした。
 ギャンブル依存症の増加や資金洗浄の恐れなど、カジノの弊害に対する国民の懸念は大きい。
 首相は以前、法案を作成した議員連盟の最高顧問を務めた。カジノを推進するなら、その経済効果や、
副作用の対策について、自ら丁寧に説明する責任がある。
(引用終わり)
 
 いっそ、来たるべき衆議院選挙、少なくとも和歌山では、「カジノ推進」か「カジノ反対」かを争点に設定してはどうですか?民進党さん、共産党さん。

予告12/12~15『ドラマ 東京裁判』(NHKスペシャル)のご紹介

 今晩(2016年12月7日)配信した「メルマガ金原No.2653」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
予告12/12~15『ドラマ 東京裁判』(NHKスペシャル)のご紹介

 このところ、1週間か2週間に一度、興味深いTV番組が近々放送されるのではないかと調べてみた結
果をメルマガ(ブログ)でご紹介するのが慣例化しつつあります。
 もちろん、まだ見ぬうちに書くことで、しかも映画とは違い、予告編すらないことも多いのですから、
本当に「見るに値する」かどうかなど確約できるはずがありません。
 それでも、ドキュメンタリー番組であれば、その素材の選択から、長年つちかってきた直感で、ある程
度は見通しが立つこともあり、普段はそのような「勘」に基づいて紹介する番組を選択しているのです
 けれども、これがドラマとなると、正直全く見当もつきません。これが劇映画であれば、監督のそれま
での実績から想像を広げるということもできるでしょうが、TVでは、前提となる知識が圧倒的に不足しており、「見てみなければ分からない」としか言いようがありません。
 それにもかかわらず、来週の月曜日(12月12日)から木曜日(15日)まで4夜連続で放送される
NHKスペシャル『ドラマ 東京裁判』はとても気になります。
 
 
 NHKスペシャル公式サイトの説明だけではよく分からぬところがあり、もう少し詳しく説明した文章はないか?と探したところ、NHK広報局が11月16日に発表した「報道資料」が、(基本は一緒ですが)少しは詳しい説明がなされていましたので、こちらを引用しつつ、公式サイトにしか記載されていない情報を付加します(下線を引いた部分です)。
 
(引用開始)
報道資料                             平成28年11月16日
                                    NHK広報局
NHKスペシャ
ドラマ 東京裁判 ~人は戦争を裁けるか~
 第1話:12月12日(月)午後10:25~11:25 総合
 第2話:12月13日(火)午後10:25~11:20 総合
 第3話:12月14日(水)午後10:25~11:20 総合
 第4話:12月15日(木)午後10:25~11:20 総合
 
70年前の東京で、11人の判事たちが「戦争は犯罪なのか」という根源的な問いに真剣な議論で取り組んだ東京裁判。NHKは世界各地の公文書館や関係者に取材を行い、判事たちの公的、私的両面にわたる文書や手記、証言を入手した。浮かび上がるのは、彼ら一人一人が出身国の威信と歴史文化を背負いつつ、仲間である判事たちとの激しいあつれきを経てようやく判決へ達したという、裁判の舞台裏の姿だった。11か国から集まった多彩な背景を持つ判事たちの多角的な視点で「東京裁判」を描く。人は戦争を裁くことができるか、という厳しい問いに向き合った男たちが繰り広げる、緊迫感あふれるヒューマンドラマ。
 
出演:ジョナサン・ハイド(豪・ウエッブ裁判長役)、ポール・フリーマン(英・パトリック判事)、マルセル・ヘンセマ(蘭・レーリンク判事)、イルファン・カーン(印・パル判事)、マイケル・アイアンサイド(加・マッカーサー)、塚本晋也(日・竹山道雄)ほか
テーマ音楽 中島ノブユキ  題字 赤松陽構造  語り 草笛光子
*NHKの企画原案による、カナダ、オランダとの国際共同制作
*判事役を演じる俳優たちは、それぞれの判事の母国出身
 
【ドラマあらすじ】
 1946年の春。東京の帝国ホテルに戦勝国11か国の判事たちが集まった。日本の戦争指導者を裁く「東京裁判」を開くためだ。裁判の焦点になったのは、ナチスを裁くニュルンベルク裁判と同時に新しく制定された「平和に対する罪」。それまで国際法では合法とされていた「戦争」そのものを史上初めて犯罪とみなし、国家の指導者個人の責任を問う新しい罪の概念であった。この「平和に対する罪」を弁護側は事後法として否定する。判事室では各々の判事の意見が鋭く対立、最初は短期間で決着がつくと思われた裁判
は、混迷と長期化の様相を見せてゆく。
 裁判の舞台裏の攻防に、日本滞在中の判事たちの私的な行動や、周辺に現われる人物の思惑が混じり合う。1948年の秋、ついに11人の判事たちは2年半に及んだ東京裁判の結論となる判決を出すべく、最後の評議の場に臨むのだった。被告たちの生と死が分かれる瞬間。それは、「人は戦争を裁けるか」という、人類の根源的な問いに答えが出されるときでもあった。
 
◆NHK、オランダ、カナダの国際共同制作
 ニュルンベルク裁判の陰に隠れ、海外ではその存在さえあまり知られていない『東京裁判』。
 戦後70年、戦争のやまない世界へのメッセージとして、このドラマを広く世界の視聴者にも訴えるため国際共同制作とした。NHKが企画し、世界各国での取材を経て原案を作成したあと、海外のパートナーを募った。その結果、10数社から申し出があり、このうちオランダのFATTプロダクションとカナダのDCTVプロダクションの2つの制作会社の参加を得て制作が進められた。せりふは英語(Nスペ版は日本語吹き替え)とし、出演者のほとんどが外国人であることなどから、監督はパートナーの国の出身者が担い、NHKが歴史的事実の精査を担当した。
 
Netflixでも国際発信へ
 動画配信大手のNetflixから、共同制作者であるカナダのプロダクションに対し配信権を得たいとの申し出があり、番組が世界に配信される運びとなった。NHK総合テレビで日本国内で放送したあと、Netflix
が世界20言語でインターネット動画配信を行う予定と聞いている。
 ただし国内ではNHKオンデマンドが先行し、Netflixは1月から配信予定。

(引用終わり)
 
 ここまで読んできても、ドラマは英語で制作され、監督もオランダ人とカナダ人が務めているらしい(共同監督ということでしょう)ということは分かりますが、名前が書いていない!正式なプレスリリースがこれでいいんだろうか?
 ということで、監督は誰?と探したところ、バラエティ・ジャパンのサイトに以下のようなニュースがあるのを発見しました。
 
Netflix、NHKと『ドラマ 東京裁判~人は戦争を裁けるか~』でパートナーシップ
(抜粋引用開始)
Netflixと日本の公共放送局NHKが、来月に放送となる全4話の歴史ドラマでパートナーシップを結んだ。
(略)
両社は共に製作費を出しており、NHKはロサンゼルスとトロントを拠点とするドン・カーモディ・テレビジ
ョン、そしてアムステルダムに拠点を置くFATTプロダクションズと共同製作契約を結んでいる。ピーター・ヴァーヘフとロブ・キングが本作の共同監督を務める。
2015年の秋に日本でサービスを始めて以降、Netflixはフジテレビ、タレント事務所の吉本興業、広告代理店の電通と番組を作ってきた。NHKにとって、Netflixと製作と放送でパートナーシップを結ぶのは初めて
だ。
(引用終わり)
 
 ちなみに、ロブ・キング監督で検索してみると、「超巨大ハリケーン カテゴリー5(2014)」というバート・レイノルズ主演のパニックムービーがヒットしましたが、これで「ドラマ 東京裁判」の仕上がりを予想するのは無理というものですね。

 
 ドキュメンタリーの中にドラマが挿入されているタイプの作品を時々見かけますが、私はそういう作品は苦手です。ドキュメンタリーならドキュメンタリーだけ、ドラマならドラマだけにして欲しいと考える方なのですが、この『ドラマ 東京裁判』は、どうやらドラマだけのようです(確証はないものの)。
 「人は戦争を裁けるか」というサブタイトルに相応しいドラマになっているかどうか、過大な期待は禁
物ですが、見逃してから「良かった!」という評判を聞いたらシャクなので、「気になる作品」としてご紹介します。
 なお、NHKスペシャルの公式サイトの放送予定では、「人は戦争を裁けるか」というサブタイトルは
表記されていません。放送直前にサブタイトルを外すことになったのか、それとも公式サイト用の原稿に書き忘れたのか、放送された番組自体を見てみなければどちらとも決めかねます。