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共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

 今晩(2017年3月4日)配信した「メルマガ金原No.2741」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

 3月3日の「共謀罪」学習会(和歌山県平和フォーラムなど主催)の講師を引き受けたのを機に、今年の2月6日から私のメルマガ(ブログ)で始めた共謀罪シリーズも、学習会を終えた当日のうちに発信した昨晩の「「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも」でちょうど切りの良い第10回となりました。
 ということで、とりあえず共謀罪シリーズは打ち止め・・・など出来るはずがなく、当分続けていきますので、よろしくお願いします。
 今日は、 「共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介」のvol.4です。

(その1 ニュースの部)
ロイター=共同 2017年03月3日 20:31
共謀罪法案に「テロ」明記

(引用開始)
 政府は3日、共謀罪の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案に「テロリズム」の文言を明記することを決めた。適用対象となる「組織的犯罪集団」に「テロリズム集団」を例示する方向。政府は10日の閣
議決定を目指すが、与党内では困難との見方が強まっている。
 政府はこれまで、罪名を「テロ等準備罪」と呼んで2020年東京五輪に向けたテロ対策をアピール。
しかし与党に示した条文案に「テロ」の記載がなかったため、与野党から疑問の声が上がっていた。
(引用終わり)
 
 これほど欺瞞的なやり方があるでしょうか?
 政府が2月28日に自民・公明両党に示した法案では以下のようになっていました。
 
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着
手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定めら
れているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年
以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又は組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。
 
 これに、「何でもいいから、とにかく『テロ』という用語を盛り込め」と命じられたら、官僚はこういう風にするのでしょうね。上記報道をもとに、私が試みに起案すると以下のようになります。
 
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるテロリズム集団その他の団体をいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
(以下略)
 
 このとおりになるかどうか知りませんが、テロリズム集団であろうが何であろうが、別表第三及び第四に記載された277の犯罪のどれかをする可能性のある団体であれば、いくらでも「例示」できますからね。要するに、「テロリズム集団」に意味があるのではなく、「その他」にこそ意味があるのですから、世論を誤導させるための「印象操作」であることが見え見えです。もっとも、それにひっかかる人も少なくないと思わなければなりませんから、対策がやっかいですけどね。
 
(その2 動画の部)
共謀罪を考える超党派の議員と市民の勉強会 第3回「共謀罪の問題点」(2時間57分)

冒頭~ 挨拶 佐々木隆博衆議院議員民進党
4分~ 挨拶 福島みずほ参議院議員社民党
6分~ 講演「刑事法から見た共謀罪の問題点」
       浅田和成氏(立命館大学法学部教授・刑事法)
53分~ 挨拶 藤野保史衆議院議員日本共産党
55分~ 挨拶 真山勇一参議院議員民進党
59分~ 講演「治安維持法共謀罪
       海渡雄一氏(弁護士・日弁連共謀罪法案対策本部副本部長)
1時間44分~ 挨拶 逢坂誠二衆議院議員民進党
1時間50分~ 挨拶 畑野君枝衆議院議員日本共産党
1時間53分~ 挨拶 糸数慶子参議院議員沖縄の風
1時間58分~ 挨拶 阿部知子衆議院議員民進党
2時間01分~ 挨拶 初鹿明博衆議院議員民進党
2時間07分~ 動画 インターミッション
2時間12分~ DVD『横浜事件を生きて』ダイジェスト版上映
2時間33分~ 講演「横浜事件が問いかけるもの」
       永田浩三氏(ジャーナリスト・武蔵大学教授)
2時間54分~ 閉会挨拶 福島みずほ参議院議員社民党
 
 同一集会を収録した別動画(UPLAN)もご紹介しておきます(こちらは2分割)。
 
20170301 UPLAN【前半】浅田和茂・海渡雄一共謀罪の問題点」(2時間06分)

20170301 UPLAN【後半】短縮版「横浜事件」上映(42分)
 

(その3 声明の部)
共謀罪と同質のテロ等準備罪法案に反対する声明

(引用開始)
                    2017年2月23日
                     日本新聞労働組合連合
                     中央執行委員長 小林基秀
 
 政府が今国会への提出を目指す「テロ等準備罪」法案に、新聞労連は反対し、提案断念を求める。同法案は、かつて3度廃案になった「共謀罪」と骨格は同じであり、表現や思想の自由を侵害し、監視社会を招く恐れがあるなど、数々の重大な問題点を抱えていると考えるからだ。
 
 テロ等準備罪を新設する「組織犯罪処罰法改正案」は、犯罪の実行前でも、違法行為の計画を複数の人が合意・準備したと捜査機関がみなした場合に摘発する制度だ。政府は、適用対象は「組織的犯罪集団」に限定し、「一般市民が対象となることはあり得ない」と説明してきたが、2月16日の政府統一見解では、普通の団体が性質を一変させた場合は組織的犯罪集団になり得るとした。その認定をするのは政府の一部である捜査機関だ。政府に批判的な団体を恣意的に対象とする恐れや、少なくとも委縮させる懸念は拭えない。
 
 政府は、今回の法案はかつての共謀罪よりも適用を厳しくしたとして、計画(共謀)だけでなく「準備
行為」も必要だと主張する。しかし、何が準備行為となるかの判断も捜査当局に委ねられる。そもそも、犯罪が公然化する前の計画や準備の段階で摘発するには、人々の日常的な会話や電話の盗聴(傍受)、電子メールなどの通信記録の膨大な収集が必要になる。報道によると、金田勝年法相は国会で、通信傍受の対象とすることは「考えていない」としつつ、「犯罪や捜査の実情を踏まえ、導入の必要性の観点から検討すべき課題だ」と将来的な導入に含みを残した。「テロ対策」の名の下に私たちの生活や活動が監視されれば、自由にものが言いにくくなるだけでなく、人権侵害の懸念が強い盗聴が広く行われ、監視社会につながる危険性が潜んだままだ。それは、私たちが望む「成熟した民主主義・市民社会」とはほど遠い。
 
 政府は、特定秘密保護法により自らの情報は覆い隠す一方、テロ等準備罪により市民の情報は丸裸にしようというのか。共謀罪やテロ等準備罪は、その危険性から現代の治安維持法と指摘する法学者は少なくない。私たちは報道に携わる者の責務として、過去に無謀で非道な戦争へ突き進んだ教訓を決して忘れず、法案の問題点を社会に伝えていく。
                                       以上
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する

2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも

「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも

 今晩(2017年3月3日)配信した「メルマガ金原No.2740」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも

 このメルマガ(ブログ)でも何度かお知らせしたとおり、本日(3月3日)午後6時30分から、和歌山市勤労者総合センター6階文化ホールにおいて、「“共謀罪”とは何か?・その狙いとは」と題した学習会が開かれ(主催:和歌山県平和フォーラム、戦争をさせない和歌山委員会、部落解放同盟和歌山県連合会)、私が講師を務めてきました。
CIMG6925 何しろ、共謀罪について講演するのは初めてのことで、はなはだ不十分な内容で会場一杯に詰めかけてくださった皆さんには申し訳ない次第ですが、その代わり、『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』という48頁の冊子、それからようやく明らかになった法案中の「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第6条の2の規定(条文)そのもの(一昨日のメルマガ&ブログでご紹介済み)、そして対象犯罪一覧をセットにして受付で参加者に配布してもらいましたので、これらの土産を持ち帰り、この週末に読み返していただければ、きっと得るものが多いと思います。
 
 ところで、今日の午前中までは、上記冊子をレジュメ代わりにすることにして、自分ではレジュメを書かないつもりであったのですが、いよいよ直前となった今日の昼過ぎ、何かメモ的なものがなければ講演できないと思い当たり、急遽、書き上げて主催者にメールで送り、追加資料にしてもらったのが以下の「メモ」です。とても、レジュメというようなものではなく、今日のお話の進行表のようなものですが、文字通り、備忘録代わりに転記しておきます。なお、そこで「テキスト」というのは、『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』のことです。
 
(引用開始)
   共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の
          一部を改正する法律案)学習会のためのメモ(2017年3月3日)
 
1 いよいよ姿をあらわした共謀罪法案
 「テロ」などどこにも出てこない。
 「テロ等組織犯罪準備罪」「テロ等準備罪」などと、括弧付きでも言うべきではない。 緊急統一署名に(テロ等準備罪)と書かれているのには異論がある。
 ちなみに、法案では、「実行準備行為を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画罪」(第2条2項5号)と呼称しているので、「重大犯罪計画罪」とでも略称したら?(「重大」ということにも引っかかるが)
 土壇場で、国会上程前に「テロ」という用語を滑り込ませるのではないか?という話も出ているようだが・・・。
 
2 資料の説明
 『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』
  ※発行主体に注目
 法案(第6条の2)
 対象犯罪一覧
 その他 
 
3 共謀罪の「これまで」(テキスト15、26頁)
 2000年 国連越境組織犯罪防止条約 採択
 2003年 第1回 国会上程
 2004年 第2回 国会上程
 2005年 第3回 国会上程
 2006年 与野党修正案提出
 2009年 第3回法案→廃案
 2017年 第4回 国会上程? 
 
4 共謀罪が出来たなら~最も重大な3つの問題点
(1)日本の刑事法体系が破壊される(テキスト6頁)
①既遂、未遂、予備、陰謀(共謀)
 共謀(陰謀)罪は例外中の例外
 例:刑法77条 内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。
 他に、外患陰謀罪、私戦陰謀罪、爆発物取締罰則等 
 ところが、広汎な犯罪について共謀(計画)を罰することになると、未遂は処罰されないのにその前々段階の共謀(計画)は処罰されるというような犯罪が続出することになる。
 例:横領罪(刑法252条/5年以下の懲役)
 中止未遂との不均衡
②なぜ、このような体系がとられているのか?(テキスト6頁)
 罰すべきは「意思」ではなく「行為」
 具体的な「法益侵害」またはその「具体的危険」が発生したことが刑罰権行使の根拠。
(2)「捜査」のあり方が一変する(テキスト7頁~)
 共謀(計画)罪とは、2人以上の者の意思の合致によって成立する
 ⇒どうやって捜査するのか?
  盗聴(通信傍受)、おとり捜査が常態化する恐れがある。
(3)人権が蔑ろにされる息苦しい社会となる(テキスト5、21、28頁)
 構成要件が曖昧過ぎる。
 刑罰法令の人権保障機能が失われる。
 思想・良心の自由、表現の自由などの人権体系の根幹をなす優越的権利が危機に瀕する。
 現在よりも、一層の「監視社会化」が進んだ息苦しい社会が到来することは疑いない。
 法案(第6条の2第1項但し書き)による密告奨励の自首規定
 ⇒昨年の参院選大分県警(別府署)が野党統一候補陣営を隠しカメラで盗撮していたことを想起せよ。
 
5 国連越境組織犯罪防止条約の批准に共謀罪は不要(テキスト15頁)
 そもそも条約はマフィアや蛇頭などの国際的組織犯罪集団の効果的な取り締まりのために締結された条約であってテロ対策は無関係。
 日本は国連の全てのテロ対策条約を批准済み。
 国連越境組織犯罪防止条約を批准済みの187カ国のうち、批准のために 新たに共謀罪を作ったのはノルウェーブルガリアの2カ国のみ。
 現行法のままで条約批准は可能。 
 海渡雄一弁護士レジュメからの引用「越境組織犯罪条約については、日本政府は異常なほど律儀に条約の文言を墨守して、国内法化をしようとした。むしろ、一部の法務警察官僚は、批准を機に過去になかったような処罰範囲の拡大の好機ととらえた節がある。もしかすると、アメリカ政府との間で、アメリカ並みの共謀罪を作るという合意があったのかもしれない」
 
6 戦争する国づくりの集大成としての共謀罪(テキスト11頁)
 2013年 秘密保護法
 2015年 戦争法
 2016年 盗聴法(通信傍受法)拡大
 2017年 共謀罪
 国が常時市民を監視し、萎縮させ、戦争に協力させるための体制作りの集大成。 
 
7 共同の取組で共謀罪阻止
(1)「共謀罪NO!実行委員会」結成(3月8日に第1回実行委員会)
 呼びかけ団体
 ●「秘密保護法廃止」へ!実行委員会(新聞労連、平和フォーラム等)
 ●解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会(憲法会議、許すな!憲法改悪・市民連絡会等)
 ●日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
 ●共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会
 ●盗聴法廃止ネットワーク(日本国民救援会等)
(2)3月~5月 緊急統一署名に取り組もう!
 「共謀罪NO!実行委員会」「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」が共同呼びかけ
(3)3月9日(木)18時~19時 JR和歌山駅前緊急行動
(引用終わり)
 
 ところで、今日のメルマガ(ブログ)のタイトル「「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも」が、まさに上記「メモ」の最後(7項)でお話した内容そのものですので、この点について若干の説明をします。
 
 集団的自衛権行使容認反対、安保法制(戦争法)阻止の闘いの中で生まれた「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の枠組みは全国に広がり、その経験が、昨年の参院選における市民と野党の共闘の下地を作ったと思いますが、共謀罪阻止の闘いにおいても、これらの経験を生かした“総がかり”の枠組みが構築されることになり、まず、
  「秘密保護法廃止」へ!実行委員会
  解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会
  盗聴法廃止ネットワーク
が共同で『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』を編集・発行したのに続き、さらに、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)と共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会が加わった5団体の呼びかけにより、「共謀罪NO!実行委員会」が結成されることになりました。
 「『共謀罪』の創設に反対する緊急統一署名」は、この「共謀罪NO!実行委員会」と「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」との共同呼びかけによって取り組まれるものです。
 
 以上の全国的な動きに呼応して、私の地元・和歌山でも、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」そのものの枠組みで、連合系の和歌山県平和フォーラムと全労連系の和歌山県地方労働組合評議会が「共謀罪」阻止で共闘することとなり、統一リーフレットが現在製作中です。まだ刷り上がってもいないそのリーフレットのデータを、特別に入手しました(※PDFファイル)。
 以下には、和歌山で“総がかり行動実行委員会”を構成する和歌山県平和フォーラムと和歌山県地評の各代表の呼びかけ文を引用したいと思います。
 
(引用開始)
窮屈な思いはまっぴら
   和歌山県平和フォーラム 代表 裏野勝也
 「私たちは犯罪集団です」という人は誰もいません。ですから捜査段階において犯罪集団か否かを特定することは難しく、それでなくても対象範囲のあいまいさが指摘されている「共謀罪」。どんな集団・組織も捜査対象になってしまう可能性大です。盗聴、盗撮、内部からの密告、潜入捜査など、監視社会に身を置くことにもなりかねません。
 しまいにはお互いに猜疑心が生まれ、人と人との信頼が薄れて分断された社会になってしまうのではないでしょうか。
 常に監視されていることを意識するような窮屈な思いはまっぴらです。
 反対の声を大きくしましょう。 
 
監視弾圧社会は許さない
   和歌山県地方労働組合評議会 議長 琴浦龍彦
 政府は、「テロ対策のために必要だ」とさかんにいいます。「そう言われると、必要かな」と思ってしまっていでしょうか。
 しかし、「共謀罪」でねらわれているのは、テロリストや犯罪者ではなくあなたや私たちです。テロ対策のための法案ではないから、3度も国会で廃案になったのです。
 この法律の本当のねらいは、国民を監視し取り締まることです。国会審議でも、テロや組織犯罪に対しては、現行法で充分対処できることが明らかになっています。
 戦前の日本で、国民の自由な言論を奪い取り締まることの先に、戦争がありました。
 「共謀罪」きっぱり反対しましょう。
 
戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
和歌山県平和フォーラム
 和歌山市久右衛門丁24-1
 TEL:073-425-4180
和歌山県地評
 和歌山市湊通丁南1-1-3
 TEL:073-436-3520
(引用終わり)
 
 つい3年ほど前には、和歌山県平和フォーラム代表と和歌山県地評議長のあいさつが一緒に載ったリーフレットにお目にかかることなど、想像もできませんでしたけどね。
 さて、その“総がかり行動”の枠組みでの和歌山での最初の緊急取組が、以下のとおり行われます。是非、多くの方に参加を呼びかけたいと思います。
 和歌山県地評事務局長の杉勝則さんから届いたメールを引用します。
 
(引用開始)
 「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の枠組みで、下記の通り緊急宣伝行動を企画しました。
 安倍政権は、「共謀罪」の名前を「テロ等組織犯罪準備罪」と変え、東京オリンピック開催や国際条約を口実に、4度目の国会提出をしようとしています。
 「犯罪の準備」を合意したかどうかは個人の心の中を覗く必要があり、警察が日常的にフリーハンドで「盗聴」や「盗撮」を行うことを合法化するものです。
 団体・個人にかかわらずどなたでもご参加いただけます。
 どうぞよろしくお願いします。

日時 2017年3月9日(木)18:00~19:00
場所 JR和歌山駅前(宣伝本部は、近鉄百貨店前付近を予定しています)
内容 ハンドマイク宣伝、チラシ配布、スタンディングアピール ほか
   「共謀罪」反対をアピールするグッズを持ってお集まりください。
主催 戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会
(引用終わり)
  
 「共謀罪」に反対する和歌山での“総がかり行動”の枠組みでの統一行動は、上記3月9日が最初だと思いますが、和歌山県平和フォーラムなどの主催で行われた今日の学習会にも、自治労日教組、民間単組の組合員の方々だけではなく、市民連合わかやま共同代表の内のお2人や和歌山弁護士会次期会長などの他、日本共産党和歌山県委員会の委員長も来てくださっていました。この共同の勢いをさらに広げていきたいですね。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)

共謀罪統一リーフ表共謀罪統一チーフ裏 

渡辺 治さんの講演と安倍政治を語る市民のつどい@和歌山県田辺市(2017年3月11日)のご案内

 今晩(2017年3月2日)配信した「メルマガ金原No.2739」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
渡辺 治さんの講演と安倍政治を語る市民のつどい@和歌山県田辺市(2017年3月11日)のご案内

 今日は、和歌山県内(田辺市)で行われる企画のご案内です。別に誰に頼まれたわけでもありませんが
、是非多くの方に足を運んでいただきたいと思い、メルマガ(ブログ)でご紹介することにしました。
 私がこの企画の存在を知ったのは、Facebookにチラシの写真付きで案内が流れていたのが目にとまった
ことによります。
 憲法や政治学の研究者は数あれど、情勢分析の切れ味において、渡辺治さん(一橋大学名誉教授)の右
に出る人はそう多くはないでしょう。
 ということで、和歌山から田辺に車を飛ばして聴きに行きたいのはやまやまながら、その日は方角違い
橋本市で仕事の予定が入っているためうかがえません。まことに残念ですが、1人でも多くの方にご参加いただければと思います。
 
 以下に、チラシの記載情報を転記しますが、お断りしておきたいことが何点かあります。
 まず、この集会のタイトルの表記です。チラシには、大きく「渡辺さんの講演と安倍政治を語る市民の
つどい」と書かれている一方、主催団体名は「渡辺 治さんの講演と安倍政治を語る市民のつどい実行委員会」となっています。関西風に言えば「どっちやねん!」と突っ込みたくなるところです(田辺弁はもう少し上品だと思いますが)。ここは、私の趣味により、フルネーム・ヴァージョンで統一させていただき
ました。
 あと、これも些細なことですが(でもないか)、渡辺先生の講演の演題が、
  市民と野党の共闘で、くらし・平和・憲法を守り生かす政治の実現を
  市民と野党の共闘で、くらし・平和憲法を守り生かす政治の実現を
のどちらであるか断定しかね、とりあえず前者にしましたが、もしかしたら後者かもしれません。
 なお、プロフィールに「政治学者」とあるのは間違いではありませんが(Wikipediaにはそう書いてあり
ます)、「九条の会」呼びかけ人の1人であった奥平康弘先生に師事した憲法学者でもあることは、皆さんよくご存知のことと思います。
 
(チラシ記載情報から引用開始)
渡辺 治さんの講演と
安倍政治を語る市民のつどい
 
憲法違反の戦争法、市民運動も対象の共謀罪
辺野古の新基地建設、介護保険改悪、格差と貧困の広がりなど
民意無視の安倍政治を、市民目線で検証する!
 
と き 2017年3月11日(土)午後2時
ところ 紀南文化会館・小ホール

       和歌山県田辺市新屋敷町1番地
参加無料
 
プログラム
*記念講演 
渡辺 治
さん (一橋大学名誉教授)
演題 市民と野党の共闘で、くらし・平和・憲法を守り生かす政治の実現を
 
渡辺 治 さんのプロフィール
1947年3月生まれ
一橋大学名誉教授、政治学者。
著書は多数あるが、最新のものは「現代史の中の安倍政権」(かもがわ出版)、「日米安保と戦争法に代
わる選択肢」(大月書店)など。
九条の会発足当時より、東大教授の小森陽一事務局長とともに、事務局メンバーとして全国各地で講演な
ど、九条の会の運動を支えている。

*市民の発言(変更する場合がございます)
 ・格差と子どもの貧困
 ・介護保険改悪と高齢者福祉
 ・原発再稼働は許さない
 ・競争と管理の学校教育

幼児をお連れの方は、保育室のモニターで視聴できます。
終了後、「原発ゼロ」フクシマを忘れない 3・11パレード」がございます。
 
呼びかけ人
浅里耕一郎(郷土史家)、石井望(ピース9紀伊田辺)、宇江敏勝(作家)、小川静子・寒川賀代(輝け
9条龍神の会)、岡田政和(弁護士)、神谷慧(勝徳寺前住職)、柏崎幸雄(中辺路・喫茶店主)、笠松美奈(9条ママnetキュッと)、加藤元昭(すさみ9条の会)、木川田道子(田辺9条の会)、北山和民(田辺聖公会牧師)、栗原英樹(退教協会長)、久保浩二(田辺市議)、五嶌幹夫(司法書士)、高田由一(前県議)、野見山海(社民党)、土山徹(中辺路9条の会)、初山丈夫(元市議)、古田正信(医王寺住職)、古久保健(郷土史家)、松下泰子(田辺市議)、光吉敏郎(税理士)、田所顕平(市民連合田辺西牟婁)、野口与志子(新日本婦人の会)、山本智久(県地評西牟婁支部議長)、柳川ゆたか(緑の党
員)、良原栄三(弁護士)

渡辺治さんの講演と安倍政治を語る市民のつどい実行委員会
連絡先 市民連合田辺西牟婁 田辺市高雄1-10-8 電話0739-22-2152

(引用終わり)
 
(参考動画)
1・14 安倍改憲をはばむ力を地域から!ー憲法9条を守り改憲を許さない国民の声をいまこそ練馬で
ー(2時間36分)

※2017年1月14日、「第25回 何よりも人と自然を大切にする練馬区をめざす区民集会」として
実施された「安倍改憲をはばむ力を地域から!-憲法9条を守り改憲を許さない国民の声をいまこそ練馬で-」で講演された渡辺治さんの動画です。私もまだ視聴できていませんが、2時間半ノンストップで語り続けるバイタリティが凄いですね。とても古希とは思えない。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2015年5月21日
九条の会事務局、奮闘する~討論集会(3/15)、訴えと提案(5/1)、そして緊急学習会(5/16)
2015年7月20日
渡辺治さんの「SEALDs戦争法案に反対する国会前抗議行動」(7/17)での訴え

2015年12月13日
渡辺治さん(一橋大学名誉教授)が9.19後に語る「情勢論と今後の展望」
2016年10月10日
「総がかり行動」の中間総括~「戦争法廃止!憲法いかそう!総がかり行動シンポジウム」(10/6)を視聴して
2016年11月10日
渡辺治氏(一橋大学名誉教授)講演「憲法をめぐる参院選後の情勢と課題」(2016/10/10)を視聴する

「渡辺治さんの講演と安倍政治を語る市民のつどい」チラシ 

ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)

 今晩(2017年3月1日)配信した「メルマガ金原No.2738」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)

 昨日(2月28日)、政府が共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)を与党に示し、自民、公明両党が党内審査に入ったことから、各メディアが一斉に法案の概要を伝えました・・・が、肝心の条文が見つけられない!分量的にとても法案全文は無理としても、せめて罰条を定める「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第六条の二だけでも、細切れの解説だけではなく、条文の形でなぜ載せられないのか?(もしかしたら載せたところがあったかもしれませんが)といらいらしていました。
 しかし、どこか法案自体をネットにアップしてくれるところがあるに違いないと思って探したところ、ありました!TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」公式サイトが法案の全文と新旧対照条文のPDFファイル
をアップしてくれていました。
 
 
 
 法案そのものというのは、新規立法ならともかく、既存の法令の改正案の場合、「第一条中「かんがみ」を「鑑み、並びに国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を実施するため」に改める。」とか、「第二条第二項第一号中「別表に」を「次に」に改め、同号に次のように加える。」というような条文が延々と続くのですから、法律家であっても、読むのもうんざりしますので、大概は新旧対照条文に頼ることになります。私も早速上記サイトから、64頁もありましたが、新旧対照条文を全部プリントアウトしました。
 これが、同じPDFファイルでも、閣議決定を経て政府(多分、内閣官房)のホームページに掲載されたファイルであれば、通常、テキストデータが埋め込まれていますので、コピー&ペーストをすることも可能なのですが、入手した紙ベースの資料をスキャンしてPDFファイルにした上記サイトからはコピペは無理です。
 けれども、3月3日の学習会に来てくれる参加者のために、せめて第六条の二だけでも読んでいただく必要があるだろうと思い、A4版1枚に収まるように、PDFファイルから転記して主催の和歌山県平和フォーラムに送りました。
 今日のメルマガ(ブログ)は、共謀罪シリーズの第9回として、「ついに姿を現した共謀罪法案」として、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第六条の二の新設規定(案)を条文の形で読んでいただくため、私が和歌山県平和フォーラムに送った資料(3月3日の学習会で冊子『一からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行)と一緒に配布してもらう予定)を転記することにします。
 
(引用開始)
        組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律
               等の一部を改正する法律案 から
 
 2017年2月28日、政府は、いわゆる共謀罪法案(正確には「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」)を、自民、公明の与党各党に示してその了承を求めた。これにより、法案の概要が一斉に報道機関によって報じられたが、法案そのものや新旧対照条文が政府(内閣官房)のホームページに掲載されるのは閣議決定の後になる。
 以下に掲載した法案(の一部)は、3月1日にTBSラジオ荻上チキ・Session-22」公式サイトに掲載された「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案新旧対照条文」(PDF)から、最も重要な第六条の二を転記したものである。
 従って、それ以降の情勢の変化により、さらに法案の修正が行われる可能性は(低いとは思うが)絶無ではないことを申し添える。(金原徹雄)
 
第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定めら
れているもの 五年以下の懲役又は禁錮
二 別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 二年
以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又は組織的犯罪集団の不
正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。
 
別表第三(第六条の二関係) 略
別表第四(第六条の二関係) 
一 別表第三に掲げる罪(次に掲げる罪を除く。)
 イ~へ 略
二~六 略
(引用終わり)
 
 なお、上記条文を読み解く上で、なお参照する必要があるのが、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」第二条第一項(この項は改正されません)です。
 
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年八月十八日法律第百三十六号)
(定義)
第二条 この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。
2~7 略
 
 以上の「団体」の定義は、第六条の二第一項に定義規定が(括弧書きで)存在する「組織的犯罪集団」とは何かを理解するために参照しなければなりません。
 分かりやすくするために、この2つの定義規定を合体させてみましょう。
 
「組織的犯罪集団とは、別表第三に掲げる罪を実行することを共同の目的とする多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。」
 
 まあ、これが「組織的犯罪集団」の定義です。「団体」のうち、「別表第三に掲げる罪を実行することを共同の目的とする」という要件が加わったものを「組織的犯罪集団」とするというものですが、一読して理解できます?
 
 さて、肝心の、どういう犯罪の共謀(計画)が共謀罪の対象となるかについては、別表第三と別表第四を読まねばなりません。正直、私もまだ全部に目が通せておらず、対象犯罪が「277」であるというマスコミ報道をとりあえず信用しているだけです。
 時間があれば、インターネット(総務省法令データ提供システム)で刑罰法令を検索し、共謀罪法案の別表第三、第四に掲げられた罪に実際にあたってみることですね。
 
 今日この新旧対照条文の別表をぱらぱらと流し読みした私がふと吸い寄せられた規定について、思わずFacebookでぼやいてしまいましたので、ご紹介します。

「【共謀罪法案を読んで-1】
別表第四、一(別表第三、二、ラ)によると、刑法252条(横領罪、5年以下の懲役)も共謀罪の対象となるけど、横領罪に未遂処罰規定はない。未遂は処罰しないけど、共謀(計画)は処罰するの?多分、こんな規定が山のようにあるんだろうなあ。
しかし、「組織的犯罪集団の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われる」横領って何?」
 
 このぼやきには、すかさず友人の藤井幹雄和歌山弁護士会会長から「 山ほどあります!」というコメントが寄せられました。その後、弁護士会館で避難訓練に参加(私は災害対策委員会委員として参加)した際に会った藤井会長に聞いたところでは、日弁連「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」を採択した際の理事会資料として、未遂処罰規定がないのに共謀罪の対象となる犯罪が「山ほどある」ことを示すペーパーが配布されたということでした。日弁連には、是非しかるべき時期にその一覧表をホームページにアップして欲しいですね。
 
 それから、上記「横領罪」についてのぼやきに付け加えるとすれば、「横領の共謀(計画)を処罰することが、どうしてテロ対策になるの?」ということでしょうか。
 とにかく、法案のどこを探しても「テロ」などという用語は出てきませんので、たとえ括弧付きであっても、「テロ等準備罪」などとは金輪際言わないようにしましょう。
 ちなみに、法案では、第六条の二の罪のことを、「実行準備行為を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画罪」(第二条第二項第五号)と呼称しています。
 
共謀罪学習会のお知らせ)
日時 2017年3月3日(金)18:30~20:30
場所 和歌山市勤労者総合センター(ふくふくセンター)6階文化ホール
     和歌山市西汀丁34 TEL:073-433-1800
演題 “共謀罪”とは何か?・その狙いとは
講師 金原徹雄(弁護士・憲法9条を守る和歌山弁護士の会 前事務局長)
入場 無料
主催 和歌山県平和フォーラム、戦争をさせない和歌山委員会、部落解放同盟和歌山県連合会

※参加者には、『一(いち)からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行/頒価
200円)という、分かりやすくてためになる48頁の冊子が漏れなく進呈されます。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する

2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3

共謀罪(金原)チラシ一からわかる共謀罪(表)一からわかる共謀罪(裏) 

共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3

 今晩(2017年2月28日)配信した「メルマガ金原No.2737」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3

 私が講師を頼まれている3月3日の学習会までいよいよあと3日となりました。我ながら「大丈夫なの
か?」と心配ですが、何度も書いていますが、参加者には、『一(いち)からわかる共謀罪 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行/頒価200円)という、分かりやすくてためになる64頁の冊子が漏れなく進呈されますので、要領を得ない講師の話に首をひねりながら帰宅したとしても、この冊子を熟読すれば、共謀罪の問題点のあらましが分かること請け合いですので、是非ご来場ください。
 
日時 2017年3月3日(金)18:30~20:30
場所 和歌山市勤労者総合センター(ふくふくセンター)6階文化ホール
     和歌山市西汀丁34 TEL:073-433-1800
演題 “共謀罪”とは何か?・その狙いとは
講師 金原徹雄(弁護士・憲法9条を守る和歌山弁護士の会 前事務局長)
主催 和歌山県平和フォーラム、戦争をさせない和歌山委員会、部落解放同盟和歌山県連合会
 
 今日は、学習会の講師を引き受けたのを機に始めた共謀罪シリーズの第8回として、「共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介のvol.3をお届けします。ちなみに、vol.1は2月21日に、vol.2は2月24日に配信しています。
 
(その1 ニュースの部)
東京新聞 2017年2月28日 07時00分
テロ準備罪に「テロ」表記なし 「共謀罪」創設の改正案を全文入手

(抜粋引用開始)
 政府が創設を検討している「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案の全容が二十七日、関係者への取材で明らかになった。政府はテロ対策を強調し呼称を「テロ等準備罪」に変更したが、法案には「テロ」の文言が全くないことが判明。捜査機関の裁量によって解釈が拡大され、内心の処罰につながる恐れや一般市民も対象になる余地も残しており、共謀罪の本質的な懸念は変わっていない。(山田祐
一郎)
 本紙が入手した法案全文によると、処罰されるのは「実行準備行為を伴う組織的犯罪集団による重大犯罪遂行の計画」で、「計画罪」と呼ぶべきものとなっている。政府が与党に説明するために作成した資料では、対象とする二百七十七の犯罪を「テロの実行」「薬物」など五つに分類していたが、本紙が入手した法案全文には「テロ」の文言はなく、分類もされていなかった。特定秘密保護法で規定されているよう
テロリズムの定義もなかった。
 法案は、共同の目的が犯罪の実行にある「組織的犯罪集団」の活動として、その実行組織によって行われる犯罪を二人以上で計画した者を処罰対象としている。計画に参加した者の誰かが資金や物品の手配、関係場所の下見、「その他」の実行準備行為をしたときに処罰すると規定。また「(犯罪)実行に着手す
る前に自首した者は、その刑を減軽し、または免除する」との規定もある。
 政府はこれまでの国会答弁で「合意に加えて、準備行為がなければ逮捕令状は出ないように立法する」などと説明してきた。しかし、条文は「実行準備行為をしたときに」処罰するという規定になっており、
合意したメンバーの誰かが準備行為をしなければ逮捕できないとは読み取れない。
 準備行為がなければ起訴はできないが、計画や合意の疑いがある段階で逮捕や家宅捜索ができる可能性が残ることになる。合意の段階で捜査できるのは、本質的には内心の処罰につながる共謀罪と変わらない

 「組織的犯罪集団」は政府統一見解では、普通の団体が性質を変えた場合にも認定される可能性がある。団体の性質が変わったかどうかを判断するのは主に捜査機関。その裁量次第で市民団体や労働組合など
が処罰対象となる余地がある。
(引用終わり)
 
東京新聞 2017年2月28日 朝刊
「共謀罪」創設の改正案入手 罪の絞り込み根拠示さず

(抜粋引用開始)
 本紙が全文を入手した、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案は、過去に国会提出された「共謀罪」法案と比べ、処罰対象となる罪を六百十五から二百七十七に絞った。従来とは違う法案として理解を得る狙いだが、政府は過去、六百超の罪を対象としなければ国際組織犯罪防止条約を批准できないと説
明していた。過去との整合性や、絞り込みの基準は不明確なままだ。(大杉はるか)
 「共謀罪」法案は、政府が二〇〇三年、〇四年、〇五年と三回、国会提出。与党も〇六年に政府案を二
回修正した「再修正案」を提出している(いずれも廃案)。
 政府が今国会で提出・成立を目指す法案を〇三年の政府提出法案と比べると、処罰対象者や処罰対象となる行為は、一定程度絞り込まれた。しかし、〇六年の与党再修正案と比べた場合、処罰対象者は同じ「組織的犯罪集団」。対象行為を巡っても、政府は今回「準備行為があって初めて処罰対象とする」と説明しているが、〇六年の時点で与党再修正案は「犯罪の実行に必要な準備その他の行為」を対象としており
、大きく変わってない。
 対象とすべき罪について政府は当時「六百以上」と言って譲らなかったが、今回は一転して半分以下に。政府は「条約定義で、組織的犯罪集団とした場合、関与が想定されるもの」などと与党側に説明したが
、条文上に明確な規定はない。
 また、自民党は〇七年、法務部会小委員会で「共謀罪」法案をまとめており、そこでは対象犯罪を百四
十五程度まで絞り込んだ。今回の二百七十七よりさらに少ない。
 政府の「転換」については、野党だけでなく与党内からも疑問の声が上がっている。自民党法務部会のメンバーは「今まで絞り込めないといって、今回絞り込めることになった明確な根拠がまだ分かりにくい
」と指摘している
(引用終わり)
 
NHK NEWS WEB 2月28日 18時18分
テロ等準備罪新設の法案 政府が原案を提示

(抜粋引用開始)
 政府は、自民・公明両党に対し、重大な犯罪の実行で合意した場合の処罰を可能にする共謀罪の構成要
件を厳しくして、テロ等準備罪を新設する法案の原案を示しました。
 自民・公明両党の会合で示された、組織犯罪処罰法の改正案の原案は、一定の犯罪の実行を目的とする組織的犯罪集団が、重大な犯罪を計画し、メンバーのうちの誰かが、資金または物品の手配、関係場所の下見、その他の、犯罪を実行するための準備行為を行った場合などに、テロ等準備罪として処罰すると定
めています。
 このうち、組織的犯罪集団には、テロ組織や暴力団、薬物密売組織などが含まれるとしています。
 また、処罰対象となる重大な犯罪は、組織的な殺人やハイジャックなど、テロの実行に関連する110の犯罪に加え、覚醒剤大麻の輸出入といった、薬物に関する30程度の犯罪など、組織的犯罪集団が関
与することが現実的に想定される、合わせて277としています。
 さらに、罰則については、死刑や、10年を超える懲役や禁錮が科せられる犯罪を計画した場合、5年
以下の懲役か禁錮とするなどとしています。
 自民党の法務部会では、「過去に自民党政権が提出した共謀罪を設ける法案から、対象犯罪が大幅に減った理由を示すべきだ」、「組織的犯罪集団の定義がはっきりしない」などと、政府に対し、国民の理解
を得るため、さらに説明を尽くすよう求める意見が相次ぎました。
 また、公明党の政調全体会議では、「現行の法律のままでも国際組織犯罪防止条約は批准できるのではないか」という質問が出されたのに対し、政府側は「現行法では無理がある」として新たな法整備が必要
だと説明しました。
 政府・自民党は、3月10日に法案を閣議決定したい考えですが、公明党は、閣議決定の時期にこだわ
らず、党内で十分議論したいとしていて、今後、調整が行われる見通しです。
(引用終わり)
 
 各メディアとも、改正案の全文を入手したというのであれば、その条文自体を掲載してくてれれば良いのにと思いますけどね。
 「まだ閣議決定までに修正される可能性があるので、条文の形では報道しないように」という官邸の指示があり、各社がそれに従っているという可能性もありますが、もしもそうだとすると、それ自体おかし
いですけどね。
 もっとも、連立与党に説明したということなので、自民党公明党の個々の議員から条文を入手したメディア(特に大手でないところ)がネットで公開するかもしれません。3月3日までに是非それを読んでみたいものです。
 
(その2 動画の部)
100219山下幸夫さん講演「共謀罪が通るとどうなるの」(2時間10分)

※2月19日に「ユニコムプラザさがみはら」で講演する山下幸夫弁護士(日弁連共謀罪法案対策本部事務局長)は、平成元年(1989年)に弁護士登録した司法修習41期、つまり私の同期ですね。講演は3分~1時間14分ですが、その後は、映画批評家前田有一氏と山下弁護士によるトークタイムとなります。
 
(その3 声明の部)
法律家6団体による「憲法違反の共謀罪創設に強く反対する共同声明」

(引用開始)
憲法違反の共謀罪創設に強く反対する共同声明
 
2017年2月27日
 
共謀罪法案に反対する法律家団体連絡会
 社会文化法律センター  代表理事 宮 里 邦 雄
 自由法曹団  団長 荒 井 新 二
 青年法律家協会弁護士学者合同部会  議長 原   和 良
 日本国際法律家協会  会長 大 熊 政 一
 日本民主法律家協会  理事長 森   英 樹
 日本労働弁護団  会長 徳 住 賢 治
 
 安倍政権は,過去3度世論の強い批判により廃案となった共謀罪法案を,「テロ等準備罪」と呼ぶなどの粉飾を施し,4たび国会に提出しようとしているが,私たち法律家は,以下の理由により,同法案の国会提出に強く反対する。
 
 共謀罪は,「犯罪についての話し合い」があったとみなされただけで,独立の犯罪の成立を認め,処罰しようとするものであり,国家刑罰権の著しい強化を狙うものである。
 国家刑罰権は,国家権力が強制的に国民の生命・自由を奪うものであるから,努めて謙抑的に行使されねばならず,また,何が犯罪であり何が犯罪でないかが法律により明確に定められなければならない(罪刑法定主義)。このような近代刑法の大原則に基づき,我が国の刑事法体系では,犯罪は既遂処罰を原則とし,例外的に一部の犯罪について未遂や予備を処罰対象とし,意思や内心は処罰の対象としていない(行為原則・侵害原則)。ところが共謀罪は,予備にも達しない,極めてあいまいな「話し合い」があったと国家権力が認めた時点で犯罪が成立し,そのあと何もしなくても、仮に犯罪を断念したとしても処罰の対象とする点で,恣意的な権力行使を著しく容易にし,市民の内心の自由,正当な言論・表現を侵害し,適正手続原則に違反する危険が極めて高い。したがって、共謀罪法案は憲法19条,21条,31条に違
反する法案である。
 政府は,提出を検討中の法案は,話し合いだけでなく「準備行為」も要件とし,処罰対象を「組織的犯罪集団」に限るから一般市民は対象とならないなどと弁明してきた。しかし,過去の国会答弁では銀行でお金を下すという何ら危険でない行為も「準備行為」にあたるとし(2006年),先日法務省は,もともと正当な活動をしていたと認められる団体も,その目的が「犯罪を実行することにある団体」に一変したと認められる場合には「組織的犯罪集団」に当たるとの見解を公表した(2月16日)。すなわち,初めて「座り込みをしよう」と話し合った市民団体は,それだけで組織的威力業務妨害罪を目的とする組織的犯罪集団とみなされる可能性がある。さらに言えば,提出される法案では,2人以上が話し合いをした
だけで「集団」とされる可能性も高い。
 まさに一般市民の活動が狙い撃ちされる危険が極めて高い法案である。
 
 政府は,共謀罪法案は「テロ防止」目的の法案であり,「テロ防止」を目的とする国際組織犯罪防止条約を批准するために共謀罪を成立させることが不可欠であるなどと述べるが,これは二重三重に国民を騙すものである。
 まず国際組織犯罪防止条約は「テロ防止」目的の条約ではない。同条約は,「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」(5条)のマフィアなどの越境的犯罪集団の犯罪を防止するための条約である。そのことは,国連の立法ガイドで「目標が純粋に非物質的利益にあるテロリストグループや暴動グループは原則として組織的な犯罪集団に含まれない」と明記されていることからも明らかである(2
6項)。
 また,共謀罪を創設しなくても同条約は批准できる。同条約中には長期4年以上の犯罪についての共謀罪又は参加罪の立法を義務付けているかのような文言があるが,国連の立法ガイドは「共謀罪や参加罪などの法的概念を持たない国においては,これらの概念を強制することなく,組織的犯罪集団に対する実効
的な措置をとることも条約上認められる」(51項)と明記しているのである。
 そもそも我が国は,ハイジャック防止条約,シージャック防止条約等,テロ防止のための国連の主要13条約をすでに批准して国内法化も完了しており,これらに加え「テロ」を検挙・処罰するための法律も多数整備されており,「テロ防止」のためには現行法で十分である。また,「テロ」は単独で行われる場合もあるが,共謀罪は単独犯には適用できない。「テロ」と無縁の多くの犯罪について共謀罪を制定する
という的外れの対策で,「テロ防止」ができると考えることの方が危険である。
 市民の「テロ」に対する不安に便乗して共謀罪成立を強行することは許されるものではない。
 
 政府はこれまで,長期4年以上のあらゆる犯罪(676と言われている)についての共謀罪を創設しなければ条約を批准できないとしてきたが,国民の強い批判を受け,対象犯罪を277とする方針をとったと伝えられている。
 しかし対象犯罪を277に絞っても,これだけの数の犯罪について当局が2人以上の「話し合い」とわ
ずかな「準備行為」があると認めれば関係者を一網打尽にできる共謀罪の危険性は、戦前に猛威を振るった治安維持法をはるかに上回るものである。また,長期4年以上の全犯罪を対象としなくても条約の批准が可能だというならば,政府のこれまでの議論の前提は崩れており,共謀罪を成立させなくても国内法は整備済みであるとして、条約を批准できるはずである。
 政府の説明は完全に破綻している。それにもかかわらず政府が共謀罪の成立に固執する目的は,「テロ防止」や「条約の批准」以外の,市民の監視,市民運動などの弾圧にあるとしか考えられない。
 
 2016年5月,刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し,盗聴法(通信傍受法)の対象犯罪の大幅な拡大と手続の緩和,他人の犯罪を証言することにより自己の犯罪を免れることができる司法取引の導入など,捜査権限が格段に拡大強化された。
 共謀罪の犯罪構成要件は「話し合い」であるから,電話やメールなどによる「話し合い」を立証しなければ強制捜査も公判維持も不可能である。従って,仮に共謀罪が成立したならば,情報収集目的で市民を監視する警察活動がますます強化され,その中で別件盗聴も行われ,盗聴法の対象犯罪に共謀罪を含める法改正や,部屋に盗聴器を仕掛ける「会話傍受」の法制化も企てられるであろう。現に法務大臣は,共謀罪を通信傍受の対象とすることは将来の検討課題だと認めている。司法取引・密告により「共謀」を立証
することも行われるようになり,共謀罪の冤罪事件が大量に発生する危険性も現実味を帯びている。
 4度目の共謀罪法案について,政府は過去3度の法案より要件を厳格にするなどと言うが,新設され強化された捜査手段とあいまって,むしろ過去の法案よりも人権侵害の危険性は飛躍的に高まっている。
 
 戦争への道を突き進み,憲法9条の改悪を企む安倍政権は,これに対抗する巨大な市民・野党の共同の運動が生まれたことに脅威を感じ,運動の弾圧を狙い,批准予定の国連条約が目的としていない「テロ防止」など嘘に嘘を重ねて共謀罪を強行に成立させようとしている。共謀罪はまさに現代の治安維持法である。この認識の下に,私たち法律家は広範な市民と手を携え,共謀罪の成立を阻む闘いに全力を尽くす決意である。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
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2017年2月21日
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2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演

一からわかる共謀罪(表)一からわかる共謀罪(裏)共謀罪(金原)チラシ 

和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き

 今晩(2017年2月27日)配信した「メルマガ金原No.2736」を配信します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き

 本日(2017年2月27日)、和歌山弁護士会は、「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」を発表し、関係機関に執行しました。
 既に2月14日の常議員会で承認されたという話は聞いていましたが、執行の準備のために公表が遅くなったものです。2月15日に和歌山市が発表した外国人専用カジノ誘致の方針について会長声明が言及していないのはそのためです。
 この会長声明を読んでいただく前に、カジノ解禁推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)の問題点を指摘したり、和歌山県和歌山市のカジノ誘致方針についての説明を読んでいただこうかとも思ったのですが、私の癖で、つい前置きが長くなり過ぎる恐れが十分にあるため、まず先に和歌山弁護士会「会長声明」を読んでいただこうと思います。

(引用開始)
  いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明
 
 平成28年12月15日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)が成立した。同法は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の設置を推進することが観光及び地域経済の振興に寄与するとの理解をもとに、一定の条件の下でカジノを合法化するものである。
 しかしながら、法案審議の段階から当会が指摘しているとおり、同法には多くの問題点がある。これらをあらためて確認すると、次のとおりである。
 
1 ギャンブル依存症の拡大、多重債務問題及び青少年への悪影響
 我が国ではもともとギャンブル依存者の割合が高く(2013年の厚生労働省調査によれば、成人男性で約8.8%、同女性で約1.8%)、カジノの解禁はこれに拍車をかけるとともに、多重債務の新たな要因となる可能性がある。また、同法の施行によって、観光地にカジノが存在することとなると、ギャンブルに対する青少年の抵抗感が薄れ、健全な育成を阻害するおそれがある。
2 暴力団の関与及びマネー・ロンダリングの問題
 暴力団が新たな資金源としてカジノへの関与を企図することは、容易に想定されるところである。また、カジノがマネー・ロンダリングの道具として利用されるおそれも否定できない。
 
 このような懸念を払拭することなく、わずか2週間(衆議院委員会ではわずか6時間)という短い審議時間で成立した同法には、内容・審議のあり方の両面で問題があるといわざるを得ない。
 また、各紙報道によれば、和歌山県は、カジノを含むIRを積極的に誘致する姿勢を示している。しかし、建設候補地とされる和歌山市の市民に対し同市が実施したアンケート調査(平成29年1月実施、対象者571名、回答率約76%)によれば、「和歌山市にIRを誘致することになればどう思うか」との質問に対して、「反対」「どちらかといえば反対」は合わせて47.8%となっており、「賛成」「どちらかといえば賛成」の41.6%を上回った(なお、同市が昨年おこなったアンケート結果からは、反対意見は2.9ポイント増加し、賛成意見は2.7ポイント減少した)。
 建設候補地の自治体の住民がこのような意思を示したことは、カジノ設置に対する国民の不安のあらわれであるといえる。
 よって、当会は、「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める。
 
  2017年(平成29年)2月27日
                        和歌山弁護士会         
                          会長 藤 井 幹 雄

(引用終わり)
 
 なお、付言すると、和歌山弁護士会は、2014年10月10日にも、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明」を発出していました。
 
 そこで、カジノ解禁推進法です。
 2016年12月15日の衆議院本会議で可決・成立し(参議院で一部修正があったため)、同月26日に公布(及び一部を除いて即日施行)された「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」を、推進派は「IR推進法」と呼び、反対派は概ね「カジノ解禁法」あるいは「カジノ解禁推進法」と略称するようです。
 とりあえず、総務省の法令データベースに掲載された条文にリンクしておきます。ただし、普通に法令名だけでGoogle検索しても、なかなかこの法律自体がヒットせず、法令名の後ろに(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)をつけて検索したところ、ようやく以下のサイトにたどり着きました。
 
 
 そんなに長いものではありませんので、とにかく目を通されることをお勧めします。
 法律家の目から見ると、この法律の異様な点は数々ありますが、特に第4条の規定に注目してください。
 
(国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。
 
 「国」が、「整備を推進する責務を有する」とされる「特定複合観光施設区域」とは何かは第2条に書かれています。
 
(定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
2 この法律において「特定複合観光施設区域」とは、特定複合観光施設を設置することができる区域として、別に法律で定めるところにより地方公共団体の申請に基づき国の認定を受けた区域をいう。
 
 つまり、民間事業者が設置及び運営するカジノ施設を中核とする特定複合観光施設として、地方公共団体の申請に基づいて国が認定した区域の「整備を推進する責務」が国に有るとまで規定しているのです。そして、法整備等だけではなく、「整備を推進する」ために予算措置が必要となれば、当然国費を投入することが予定されているのですよね。ということは、民間事業者の設置・運営するカジノが収益を上げるために、認定区域の整備に国費を投入することも国の責務だと言っているのですよ。知ってました?
 
 パチンコ、パチスロは別として、これまで法律で例外的に許容されてきた賭博行為は、「公営ギャンブル」と称されるとおり、その施行主体は「都道府県」「一定の市町村」に限られていました(例外は日本中央競馬会)。
 以下、その根拠条文を示しておきます。
 
競馬法(昭和二十三年七月十三日法律第百五十八号) ※競馬
(競馬の施行)
第一条の二 日本中央競馬会又は都道府県は、この法律により、競馬を行うことができる。
2 次の各号のいずれかに該当する市町村(特別区を含む。以下同じ。)で、その財政上の特別の必要を考慮して総務大臣農林水産大臣と協議して指定するもの(以下「指定市町村」という。)は、その指定のあつた日から、その特別の必要がやむ時期としてその指定に付した期限が到来する日までの間に限り、この法律により、競馬を行うことができる。
一 著しく災害を受けた市町村
二 その区域内に地方競馬場が存在する市町村
3~6 略
 
自転車競技法(昭和二十三年八月一日法律第二百九号) ※競輪
(競輪の施行)
第一条 都道府県及び人口、財政等を勘案して総務大臣が指定する市町村(以下「指定市町村」という。)は、自転車その他の機械の改良及び輸出の振興、機械工業の合理化並びに体育事業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に寄与するとともに、地方財政の健全化を図るため、この法律により、自転車競走を行うことができる。
2~5 略
 
小型自動車競走法(昭和二十五年五月二十七日法律第二百八号) ※オートレース
小型自動車競走の施行)
第三条 都道府県並びに京都市大阪市横浜市、神戸市、名古屋市、都のすべての特別区の組織する組合及びその区域内に小型自動車競走場が存在する市町村(以下「小型自動車競走施行者」という。)は、その議会の議決を経て、この法律により、小型自動車競走を行うことができる。
2 略
 
モーターボート競走法(昭和二十六年六月十八日法律第二百四十二号) ※競艇
(競走の施行)
第二条 都道府県及び人口、財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」という。)は、その議会の議決を経て、この法律の規定により、モーターボート競走(以下「競走」という。)を行うことができる。
2~5 略
 
 ここで刑法の賭博罪を思い出しておきましょう。この罰則規定は、今でもれっきとした効力を有しており、実際に検挙もされているのですよ。
 
刑法(明治四十年四月二十四日法律第四十五号)
  
第二十三章 賭博及び富くじに関する罪
(賭博)
第百八十五条 賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第百八十六条 常習として賭博をした者は、三年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
富くじ発売等)
第百八十七条 略
 
 カジノを例にあげれば、カジノ解禁推進法がないと仮定すると、カジノへ行ってルーレットやバカラに金(チップ)を賭けた客は単純賭博罪(刑法185条)、カジノの経営者やその従業員は賭博場開張等図利罪(とばくじょうかいちょうとうとりざい)ということになるはずです(同法186条2項)。
 それを一定の要件の下に合法化し(ここで「利権」が発生します)、その整備を国の責務とする根拠は一体何でしょうか?
 法律には、「特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものである」(カジノ解禁推進法1条)とされていますが、それを本気で信じる人がいるのでしょうかね。
 なお、このうちの「財政の改善」が、一体どの組織の「財政の改善」に役立つというのか?立地自治体なのか、それとも国なのか、この条文を読んだだけでは不明です。いかに議員立法とはいえ、いい加減なものです。
 この法律の第2章第3節には、以下のような規定がありますので、「国及び地方公共団体」の「財政の改善」に役立つということなのでしょうが、一言「嘘でしょう」と申し上げておきます。
 仮にある程度の収入が国や地方公共団体にもたらされたとしても、それは、賭博場開帳者(カジノを設置運営する民間事業者)から、賭博(メイン収入はこれでしょう)利用者からの上がりの一部を納付させたり(後記12条)、利用者から定額の入場料を徴収したり(13条)することによって得られるものであって、実態は、国や地方公共団体が、民間事業者が運営する賭博からのおこぼれをにあずかるということに他なりません。
 私は、そんなことは金輪際いやですけどね。
 
特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(平成二十八年十二月二十六日法律第百十五号)
(納付金)
第十二条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の設置及び運営をする者から納付金を徴収することができるものとする。
(入場料)
十三条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。 
 
 いずれにせよ、カジノ解禁推進法は、先にご紹介した第4条(国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。)に続き、第5条で以下のように規定し、今後のカジノ推進のスケジュールを指示しています。
 
(法制上の措置等)
第五条 政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。
 
 つまり、同法第二章(特定複合観光施設区域の整備の推進に関し基本となる事項)に基づき、具体的なカジノ推進に必要な法整備を、2017年12月中(施行後1年以内)をめどとして行うこととされているのですが、逆に言えば、この法整備がなされない限り、カジノ解禁推進法だけでは、カジノは開業できないのです。
 日本にカジノは要らないと考える人は、まず当面、この特定複合観光施設区域整備法案(というような名称になるでしょう)の成立を何としても阻止しなければなりませんし、来たるべき衆議院議員総選挙における重要争点に位置付けることも必須でしょう。
 
 以上は、国の施策についての対応ですが、個々の地方では、カジノ誘致の方針を打ち出した自治体における反対運動に力を入れなければなりません(カジノ解禁推進法第2条2項参照)。
 ということで、私の地元の和歌山です。
 和歌山県が、かねてからカジノ推進の方針を掲げていることは、先頃のメルマガ(ブログ)でご紹介したとおりです(カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判/2016年12月8日)。
 以下に、平成28年5月に和歌山県「特定複合観光施設区域への地方の選定を政府要望」した「具体的な措置」を再掲します。

(引用開始)
1 特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法制度の早期整備を図ること
2 地方創生を実現するため、特定複合観光施設区域に「地方」を選定するよう明文化すること
3 和歌山県を特定複合観光施設区域に選定すること
(引用終わり)
 
 そして、態度未定であった和歌山市も、複数の市民団体からの強い反対の申し入れにもかかわらず、以下のように誘致の方針を明らかにしました。
 
2月15日 市長記者会見(平成 29 年 2 月 15 日(水)14 時 30 分~)
市長発表事項 【統合型リゾート(IR)の誘致について~カジノ施設を外国人専用としたハイクラスの「和歌山型 IR」の実現に向けた取組を進めます~】

(引用開始)
 
皆さんこんにちは。明日定例会見の予定だったのですが、今日急きょ会見させていただきます。和歌山市では統合型リゾートについてこれまで検討してきました。いろんな観点から検討を進めてきましたが、カジノについては外国人専用とするハイクラスな和歌山型のIRというのをこれから誘致を目指して取り組んでいきたいというふうに思っています。資料にも書かせていただいていますが、和歌山市は非常にきれいな海岸線、また国立公園等もあります。そうした海岸線だとかマリンスポーツ、海洋レジャー、海洋型のリゾート地でもありますし、また和歌山城を始めとする歴史・文化にもあふれています。そうした和歌山ならではの個性を活かしたようなIR、和歌山型IRの誘致を進めていきたいと思っています。
 次のページ見ていただいたらと思います。和歌山市は、もちろんですけども関西国際空港に非常に近接しています。この関空に近接するという利点を活かして、紀伊半島にはいろんな観光資源があります。そこにも書いていますけど、パンダまた高野山那智の滝また奈良。非常に紀伊半島には観光資源が豊かですので、そうした紀伊半島の観光資源を活かした国際競争力の高い拠点となるような和歌山型のIRを進めていきたいと思っています。
 それでそこに3点目ということで書いていますが、もちろんホテル、国際会議場、コンベンション、レジャー施設など、さまざまな施設を誘致していきたいと思っています。子どもから大人まで楽しめるような楽しいIR、統合型リゾートというのを進めます。ただし、カジノ施設については日本人の入場を制限して外国人専用とするような形で誘致を進めていきたいと思っています。今後については和歌山型のIRの実現を目指して、県とも連携協力してIRを活用したような全体の観光振興ビジョンというのを検討していって、誘致に向けた取り組みというのを進めていきたいというふうに考えています。発表は以上でございます。よろしくお願いします。
(引用終わり)
 
 上記の尾花正啓(おばな・まさひろ)和歌山市長の会見で言及されている「資料」というのは多分これでしょう。
 「資料」といっても、要するに和歌山県下の観光地の写真をコラージュしただけのもので(東大寺大仏の写真もありますが)、これでどうして「外国人専用カジノ」が必要なのか、わけがわかりません。
 担当部局も本当は「やりたくない」のかもしれない、などと想像してしまう「資料」です。
 
 先ほども書きましたが、来たるべき衆議院議員総選挙では、カジノ解禁推進法成立の旗を振った議員を必ず落選させることを目標に(和歌山でも全国でも)頑張らねばと思います。

森友学園スキャンダルへの向き合い方~自分自身で納得できる「時系列表」を作るのが理想

 今晩(2017年2月26日)配信した「メルマガ金原No.2735」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
森友学園スキャンダルへの向き合い方~自分自身で納得できる「時系列表」を作るのが理想

 学校法人森友学園への不明朗な国有地売却問題については、地元・豊中市議会の木村真議員による情報公開請求訴訟の提起をきっかけとしてまず朝日新聞が報じたのが2月9日。それからまだ2週間余りしか経っていないのに、いろいろな情報が出てきました。
 ただ、何日か情報収集を怠っていると、すぐに付いていけなくなってしまいそうな位に進展が早いですね。
 私が、メルマガ(ブログ)で初めてこの問題を取り上げたのは、2月15日の2つの出来事、衆議院財務金融委員会における宮本岳志議員(日本共産党)による追及と、自由法曹団京都支部、大阪支部による現地調査後の記者会見を報じたIWJの記事を紹介したものでした(森友学園への不明朗な国有地払下げを追及した宮本岳志衆議院議員(日本共産党)の質疑(テキスト)を読む(付・自由法曹団記者会見)/2017年2月17日)。
 この時点では、上記2つの記事がIWJによる「極右学校法人の闇」の第1弾・第2弾だったのですが、それから11日経過した本日(2月26日)現在、IWJの「極右学校法人の闇」シリーズは、何と第20弾に達しています。
 特集記事は以下のページから全記事にアクセスできます。
 
 
 参照の便宜のため、個別の記事にもリンクをはっておきます。
 
 
 
 
 
 
ヒ素や鉛の検出された国有地「9割引」払い下げ、軍国教育、ヘイト文書、そして安倍総理夫妻との蜜月・・・「森友学園問題」とは何なのか~「極右学校法人の闇」第6弾 2017.2.20
 
 
 
 
 
 
 
【国会ハイライト】「犬臭い」と園児のリュックを捨てた!? 森友学園が運営する塚本幼稚園での「児童虐待」の実態を民進・玉木雄一郎議員が追及!~「極右学校法人の闇」第13弾!
 
 
 
 
 
 
 
 この内、【国会ハイライト】と付いているのは、国会における野党議員の追及をテキスト(速記録)で紹介したもので、これがとてもお薦めです。
 2月15日の衆議院財務委員会での宮本岳志議員による質疑をテキストで読んだ私は、思わず「非常によく出来たミステリーを読む醍醐味に近い」と書いてしまいました。
 他の(速記録)も、日によって程度に差はあるものの、いずれもスリリングであり、まずこの【国会ハイライト】を時系列順に読まれることをお勧めしたいと思います。
 
 
 
2月17日・衆議院予算委員会福島伸享議員(民進党
 
 
 
 
 
2月22日・衆議院予算委員会玉木雄一郎議員(民進党
 
 

 さて、ここまで色々な情報が出てくると、個々の情報の信頼度について評価しながら、それを時系列の中のしかるべき箇所に組み込み、前後の事実とのつながりを推測し、という作業を行うのがオーソドックスな手順というものです。とはいえ、それを自分自身でやるだけの時間はとてもないし、「誰か、可能な限り資料の裏付けをとりながら、信頼できる時系列表を作っている人はいないだろうか?」というまことに他力本願な希望に添うサイトを探したところ、ありました!
 と言っても、別に探すのに苦労した訳でも何でもなく、「森友学園」「時系列表」という2つのキーワードでGoogle検索したところ、トップに表示されたのがこのサイトでした。
 
【2/26更新】森友学園大阪市淀川区)と大阪・豊中の国有地 情報集約
 
 サイト名「よどきかく」、トップには「大阪市内を中心とした、保育所・幼稚園・子育て・生活情報等を発信しています。」とあるとおり、最新の他の記事のタイトルを抜き出してみると、
 「(仮称)中心部児童急増対策プロジェクトチーム」を設置へ
 【H29新設保育所紹介】(9)ぴっころきっず谷町園(中央区)
 【ニュース・追記あり】みるく保育園の元園長・元副園長を詐欺容疑で逮捕
 【大阪市政】平成29年度から4歳児も教育費無償化へ
 【重要】大阪市保育所等1次調整の申込数・内定数・未内定数が公表されました

など、なるほど多彩です。
 
 なお、同サイトの「時系列表」ですが、これもまるまる信用するのではなく、勘違いはないか?新しい情報に基づいて訂正すべき箇所はないか?という視点から、確認していくという姿勢で読んでいく必要があります。そして、この「時系列表」の非常に優れている点として、記載した事項の裏付けとなる資料を明示しており、ネットで閲覧可能なものはリンクがはられていますので、そのような検証をしながら活用するための「時系列表」としてうってつけです。
 この時系列表を大きめのサイズの紙に印刷し、裏付資料(国会質疑などは本来二次資料ですが、国と森友学園との契約書や不動産鑑定士による鑑定書などの一次資料を簡単には読めない現状では、一次資料に準じる資料として重要です)と照らし合わせて得心すれば青ペンでチェックし、補充や訂正をすべきと判断したら赤ペンで書き込みをするということが出来たらいいなあ・・・と思いますが、なかなか現実には時間がない。

 いずれにしても、1人1人が他人の言説を鵜呑みにするのではなく、基礎資料に直接あたってみた上で、自分自身の「時系列表」を作り上げるのが理想です。
 そして、この方法論は、何も森友学園スキャンダルに限ったことではなく、あらゆる社会事象に向き合う際の基本的姿勢であるべきだということに気がつきます。
 そう何もかも理想通りにいくはずはなく、どこかで現実と折り合いをつけることになるのですが、それでも最低限、自分の立ち位置と「理想」との距離を正確に測れるように心掛けたいものです。

日本弁護士連合会「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 本日(2017年2月25日)配信した「メルマガ金原No.2734」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日本弁護士連合会「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 一昨日(2月23日)、このメルマガ(ブログ)において、去る2017年2月17日付で日本弁護士連合会が取りまとめ、同月23日付で法務大臣外務大臣に提出した「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」全文転載してご紹介しました。
 ところで、日本弁護士連合会は、上記意見書と同じ2月17日、もう1つの重要な意見書を取りまとめています(同日付となっているのは、同じ日に開かれた日弁連理事会で承認されたということでしょう)。それが、今日ご紹介する「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」です。
 共謀罪についての意見書は、PDFファイルで11ページでしたが、緊急事態条項についての意見書は、本文だけで22ページ、別紙も含めれば31ページにもなるという大作で、ブログへの全文転載をするかどうか、かなり考え込みました。
 けれども、やはり「別紙も含めて全文転載しよう」と決めたのは、その作業をすることによって、私自身がこの「意見書」を熟読できるから、という理由が大きいですね。おかげで、日弁連の「校正漏れ」を2箇所発見して訂正しましたもの(末尾に注記しておきました)。
 
 この「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」を別紙を含めて通読したところ、これまでの議論の成果を十分に取り入れて体系化するとともに、とりわけ、武力攻撃、内乱(テロ)、大規模災害などに対処するための法体系が既に充分に整備されており、多大の弊害の発生が予想される緊急事態条項を憲法に新設しなければならない立法事実など存在しないということを、非常に丁寧に論証しているという印象を受けました。
 私自身、日弁連の会員ですから、自分が所属する団体の「意見書」を賞賛しても説得力が充分ではないでしょうから、まずは皆さんご自身で、是非この「意見書」をお読みいただきたいと思います。長いことは長いですが、理解が困難な部分はないと思いますので、丁寧に読み進めていただければ、きっと得心していただけるものと思います。
 
 ところで、「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」の執行先(提出先)は法務大臣外務大臣でしたが、この「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」の執行先は「各政党代表者」でした。
 この「意見書」の構成は、以下の目次(私が「意見書」から見出しを抜き出して作りました)をご覧いただければわかるとおり、緊急事態条項(国家緊急権)一般を論じた部分もありますが、その主眼が自民党日本国憲法改正草案」「第9章 緊急事態」(第98条、第99条)に対する徹底批判であることは明らかです。
 私は、寡聞にして、日本弁護士連合会が、憲法改正問題に関して、一政党の改憲案に反対する意見書を取りまとめたという例を聞いたことがありません(初めてかもしれません)。もしかすると、これについては、日連会員の間にも色々な意見があるかもしれませんが、私自身は、日弁連執行部及び理事会の決断を支持します。
 「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲推進1000万人賛同署名や全国の地方議会で続々と採択されている改憲推進意見書(例えば和歌山県議会)では、いずれも大規模災害対応のための改憲が主要改憲項目として強調されており、自民党日本国憲法改正草案」における緊急事態条項は、その「見本」としての役割を担っています。昨年の参院選の結果、衆参両院でいわゆる改憲勢力が2/3以上の議席保有することになった情勢下、「行政府の長」であるはずの安倍晋三内閣総理大臣自らが施政方針演説で改憲議論を呼びかけるという緊迫した状況を踏まえれば、国会両院の憲法審査会で具体的に緊急事態条項についての議論が始まる前に、日弁連としての意見書を公表する意義と必要性は大きいと思うからです。
 
 もしかすると、私のメルマガ(ブログ)史上「最長」の記事となるかもしれませんが、非常に重要な内容を含んでいますので、最後まで読み通してくださることを心からお願いします。
 なお、本文中で指摘されている日弁連意見書等及び別紙2~4の各「法制の概要」中の参照条文については、各意見書、報告書、声明や法律、条約などへのリンクを埋め込んでおきましたのでご活用ください。 
 
(目次)
第1 意見の趣旨
第2 意見の理由
 1 はじめに
 2 日本国憲法と緊急事態条項(国家緊急権)
  (1) 立憲主義
  (2) 緊急事態条項(国家緊急権)の濫用の実例
   ① ドイツ
   ② フランス
   ③ 日本
  (3) 日本国憲法が緊急事態条項(国家緊急権)を設けていない理由
 3 緊急事態条項(国家緊急権)の憲法上の創設を検討する際の留意点
  (1) 緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められるか
  (2) 権限濫用防止のための有効な法制度が設けられているか
 4 自民党改正草案-対象となる緊急事態
  (1) はじめに
  (2) 対象となる緊急事態
   ① 「我が国に対する外部からの武力攻撃」
   ② 「内乱等による社会秩序の混乱」
   ③ 「地震等による大規模な自然災害」
  (3) まとめ
  (4) 解散権の制限及び議員の任期等の特例について
  (5) まとめ
 5 自民党改正草案-濫用防止の制度設計
  (1) はじめに
  (2) 緊急事態宣言の発動要件の包括的委任等
  (3) 国会の承認
  (4) 措置の期間
  (5) 法律と同一の効力を有する政令
  (6) 財政上必要な支出その他の処分
  (7) 公的機関の指示に従う義務
  (8) 国会議員の任期について
  (9) 小括
 6 結論
法律の略称
(別紙1)自由民主党憲法改正草案第9章「緊急事態」
(別紙2)安全保障法制の概要
(別紙3)治安法制の概要
(別紙4)災害法制の概要
 
 
                       2017年(平成29年)2月17日
                       日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 緊急事態条項(国家緊急権)は,深刻な人権侵害を伴い,ひとたび行使されれば立憲主義が損なわれ回復が困難となるおそれがあるところ,その一例である自由民主党日本国憲法改正草案第9章が定める緊急事態条項は,戦争,内乱等,大規模自然災害その他の法律で定める緊急事態に対処するため,内閣に法律と同一の効力を有する政令制定権,内閣総理大臣に財政上処分権及び地方自治体の長に対する指示権を与え,何人にも国その他公の機関の指示に従うべき義務を定め,衆議院の解散権を制限し,両議院の任期及び選挙期日に特例を設けること(以下「対処措置」という。)を認めている。
 しかし,戦争・内乱等・大規模自然災害に対処するために対処措置を講じる必要性は認められず,また,同草案の緊急事態条項には事前・事後の国会承認,緊急事態宣言の継続期間や解除に関する定め,基本的人権を最大限尊重すべきことなどが規定されているが,これらによっては内閣及び内閣総理大臣の権限濫用を防ぐことはできない。
 よって,当連合会は,同草案を含め,日本国憲法を改正し,戦争,内乱等,大規模自然災害に対処するため同草案が定めるような対処措置を内容とする緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する。
 
第2 意見の理由
1 はじめに
 国家緊急権とは,戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など,平時の統治機構をもっては対処できない非常事態(以下「緊急事態」という。)において,国家の存立を維持するために,立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置を採る権限をいう。
 自由民主党自民党)は,2012年(平成24年)4月に,「緊急事態」(第9章)を定めた日本国憲法改正草案(以下「自民党改正草案」という。)を公表した。
 自民党改正草案は,外部からの武力攻撃,内乱等による社会秩序の混乱,地震等による大規模災害その他の法律で定める緊急事態において,特に必要と認めるときは,内閣総理大臣が緊急事態の宣言を発することができ,同宣言が発せられたならば,①内閣が法律と同一の効力を有する政令を制定できること(内閣の緊急命令権限),②内閣総理大臣が財政上必要な支出その他処分を行うことができること(内閣総理大臣の財政処分権限),③内閣総理大臣地方自治体の長に対して必要な指示をすることができること(内閣総理大臣の指示権限),④何人も法律の定めるところにより,当該宣言に係る事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われることに関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならないこと(国民等の服従義務),⑤緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる(解散権の制限及び議員の任期等の特例)とされている(別紙1参照)。その内容は,戦争・内乱・恐慌・大規模な自然災害など平時の統治機構をもっては対応できない非常事態において,国家の存立を維持するために,立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限(国家緊急権)を認める場合の一例といえる。
 その後,2015年(平成27年)5月7日に開催された衆議院憲法審査会において,自民党は優先的に議論すべき事項として緊急事態条項(国家緊急権)を挙げ,民主党(当時),維新の党(当時),公明党などもこれに言及した。さらに,2016年(平成28年)11月17日及び同月24日の衆議院憲法審査会においても複数の議員から改憲項目の一つとして緊急事態条項(国家緊急権)が挙げられた。
 本意見書は,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法改正により創設する動きがあることに対し,緊急事態条項(国家緊急権)が,一時的とはいえ,立憲的な憲法秩序を停止し,人権が侵害される危険があることを踏まえ,立憲主義の理念を堅持し,国民主権基本的人権の尊重,恒久平和主義など日本国憲法の基本原理を尊重することを求める立場(第48回人権擁護大会「立憲主義の堅持と日本国憲法の基本原理の尊重を求める宣言」鳥取宣言〕)から意見を述べるものである。
 
2 日本国憲法と緊急事態条項(国家緊急権)
(1) 立憲主義
 日本国憲法は,最高法規である憲法により国家権力を制限し,人権保障を図るという立憲主義を基本理念としている。
 すなわち,国家権力の濫用から国民の自由や権利を守るために,国民が日本国憲法を確定し(前文),その憲法には,「個人の尊重」と基本的人権の保障(11条,13条,97条)並びに権力分立を定め(41条,65条,76条1項),また「法の支配」の下,憲法の最高法規性(98条1項)を担保するために裁判所に違憲立法審査権を認めた(81条)。さらに日本国憲法は,アジア・太平洋戦争を経て得た戦争は最大の人権侵害であるという教訓のもと,全世界の国民に平和的生存権を認め(前文),武力による威嚇又は武力の行使を禁止し(9条1項),戦力不保持,交戦権否認(9条2項)という徹底した恒久平和主義を採用している。
 このように,日本国憲法の根本にある立憲主義は,「個人の尊重」と「法の支配」を中核とする理念であり,国民主権基本的人権の尊重,恒久平和主義などの基本原理を支えるものである。そしてこの基本理念と基本原理は,人類の叡智が込められたものであり,将来の世代にわたり永続的に受け継がれるべきものである。
(2) 緊急事態条項(国家緊急権)の濫用の実例
 緊急事態条項(国家緊急権)は,立憲的な憲法秩序を停止して行政府に権限を集中し人権保障を停止させるものであるから濫用の危険があるし,現に過去において濫用されてきた。
① ドイツでは,ワイマール憲法48条の大統領非常権限に基づき,14年間に250回以上も緊急命令が発せられ,例外規定の常態化を招いた。
 1933年1月にヒンデンブルグ大統領により首相に任命されたヒトラーは,総選挙(3月5日)までの1か月間に,ナチス突撃隊等を駆使して政敵へのテロ行為を縦横無尽に行った。他方,同条に基づく大統領の緊急命令を根拠に,政敵の選挙集会の強制解散,機関誌の発禁処分,警察官の政敵への武器使用の容認などを行った。また,国会炎上事件を契機に出された大統領の緊急命令(国会炎上命令)を根拠に,多数のナチスの政敵を逮捕した。さらに,3月5日に実施された選挙の結果,ナチス議席過半数を確保できなかったにもかかわらず,国会炎上命令を根拠に共産党社会民主党国会議員を逮捕すること等により国会への登院を阻止し,「民族と国家の困難を除去するための法律」すなわち,「全権委任法(授権法)」を成立させた。
 このように,ドイツでは,政敵へのテロ行為に加えて,大統領非常権限に基づき発せられた緊急命令によりヒトラー独裁政権が樹立され,その後ユダヤ人の大量虐殺等の重大な人権侵害が行われたのである。
② またフランスでは,1961年4月21日深夜に起きた4人のフランスの退役将軍によるアルジェリアにおける反乱に対して,同月23日にド・ゴール大統領が第5共和国憲法16条に基づき緊急権を発動した。その後反乱自体は同月25日から26日にかけて鎮圧されたにもかかわらず,大統領は根本的解決を名目として更に9月30日までの5か月間,緊急権を適用した。その間,強制収容の対象となる危険人物の範囲を拡大し,出版の自由を制限するなどの措置が行なわれた。
 なお,フランスでは,2015年11月に発生したパリ同時多発テロに対し憲法上の緊急権に基づくものではないものの,緊急事態法に基づき「緊急事態宣言」が発令され,その後4回延長され現在に至っている。そこでは,疑わしい人物の自宅軟禁やテロを称賛した宗教施設の閉鎖などが可能と報じられており,その濫用が懸念されている。
③ 日本でも1923年(大正12年)9月1日に起きた関東大震災において,戦時や事変などに軍隊に権限を集中する制度である戒厳令(明治15年太政官布告第36号)中の一部(戒厳令9条及び14条)を緊急勅令大日本帝国憲法8条)に基づき施行するなど適用範囲が拡大される中で多数の中国人や朝鮮人が虐殺された。そこでは軍隊や自警団が朝鮮人等を虐殺し(詳細は2003年(平成15年)8月25日「関東大震災人権救済申立事件調査報告書」参照),「大杉事件」や「亀戸事件」など無政府主義者社会主義者が憲兵や警察により殺害される事件が起きた。
(3) 日本国憲法が緊急事態条項(国家緊急権)を設けていない理由
① このように,緊急事態条項(国家緊急権)は立憲主義を破壊し,人権を侵害する大きな危険性をはらんでおり,歴史上も,緊急事態の名目の下,混乱に乗じて権力者の地位を強化するために濫用されてきた。
 そのため,日本国憲法の制定議会においても,大日本帝国憲法における緊急勅令(8条),緊急財政処分(70条),戒厳(14条),非常大権(31条)などの緊急事態条項(国家緊急権)を日本国憲法にも設けるべきかが問題とされ,審議された。
② 1946年(昭和21年)7月2日及び同月15日の衆議院帝国憲法改正案委員会において,金森徳次郎国務大臣は,大日本帝国憲法改正案(日本国憲法案)に「緊急勅令」「緊急財政処分」「非常大権」などの規定を設けていない理由について問われたのに対し,(ⅰ)民主政治を徹底させて国民の権利を充分擁護するためには,非常事態に政府の一存で行う措置は極力防止しなければならないこと,(ⅱ)非常という言葉を口実に政府の自由判断を大幅に残しておくとどの様な精緻な憲法でも破壊される可能性があること,(ⅲ)特殊の必要があれば臨時国会を召集し,衆議院が解散中であれば参議院の緊急集会を召集して対処できること,(ⅳ)特殊な事態には平常時から法令等の制定によって濫用されない形式で完備しておくことが出来ること,と答弁している。
 緊急事態において一時的とはいえ憲法上権力者に国家緊急権を授権することは,たとえその要件をいかに厳格なものにしたとしても濫用されることは避けられないという認識の下,日本国憲法は,緊急事態においても,行政府への権力の集中と人権保障の停止を本質とする国家緊急権によるのではなく,あくまでも民主政治を徹底することにより対応すべきであるし,それが可能であるとして,緊急事態条項を設けなかったのである。
③ また,日本国憲法は,過去の軍国主義の歴史と先の大戦の惨禍への深い反省に基づいて,前文に平和的生存権を謳い,9条に戦争の放棄と戦力を保持しないという徹底した恒久平和主義を定め,国家権力に縛りをかけた。
 その結果,日本は平時から周辺諸国と平和で友好な関係を構築するための外交を実践することにより有事を理由とする緊急事態の発生を防ぐべきであり,戦時に軍隊に権限を集中することを認める「戒厳」や「非常大権」という緊急事態条項(国家緊急権)を認めないこととしたのである。
日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)がないことについて「法の欠缺」であるとの見解があるが,上記帝国議会での審議の経過等に照らせば,憲法制定当時においては,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上設けることをむしろ積極的に拒否していたのである。
 
3 緊急事態条項(国家緊急権)の憲法上の創設を検討する際の留意点
(1) 緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められるか
 戦争,内乱,恐慌,大規模自然災害などの緊急事態に対して,国民の生命,身体の安全を守るために予め法制度を整備すべきことは当然である。その場合,憲法制定当時,日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を設けることをあえて認めなかったことに鑑みるならば,まず法律の制定・改正や運用の改善などによる対処が検討されるべきである。そして,法律の制定・改正等では対応できず憲法改正によらなければ支障が生じるという場合に初めて,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべき必要性が認められることになる。
 なお,災害やテロについてみると,フランス,ドイツ,イギリス,アメリカ)の4か国のうち憲法上の国家緊急権を定めているのはドイツだけで,他の3か国は法律で対処している。
(2) 権限濫用防止のための有効な法制度が設けられているか
① 緊急事態条項(国家緊急権)により特定の国家機関に権限が集中した場合,当該機関は自らの地位を強化するために,権限を濫用し,立憲主義を破壊し人権を侵害する危険性を常にはらんでいる。そのため,その濫用を防止するために憲法上法制度を設けたとしても,そこには限界がある。
 そのため,緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべきかを検討するに当たっては,法制度上の限界を踏まえながら,国会による民主的抑制や裁判所による司法的抑制という法制度がその運用において有効に機能し得るのかを厳密かつ慎重に検討すべきである。
 衆議院及び参議院過半数を占める与党が内閣を構成している場合における内閣に対する国会の民主的抑制機能の有効性や,司法作用は基本的に事後的な作用であり迅速な対応が期待できないこと,付随的違憲審査制の下で具体的な事件争訟がなければ司法審査ができないこと,統治行為論等を理由に司法判断を回避する可能性があることなど,現在の司法の運用を前提とした場合に裁判所の司法的抑制機能の有効性が認められるかなども考慮すべきである。
 さらに立憲主義を堅持するためには,国民の民主的抑制が有効に機能し得るのかも考慮すべきである。国民の民主的抑制の究極的なものとして国民の抵抗権がある。ドイツにおいては緊急事態条項(国家緊急権)が憲法上新設される際に,国民の抵抗権規定が付加されたが(基本法20条4項),抵抗権規定が憲法上付加されるか否かにかかわらず,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用に対して国民が抵抗できる環境が整っていることが必要で
ある。
 このように,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用防止のための法制度については,憲法の規定内容とともに,国会による民主的抑制や裁判所による司法的抑制,国民の民主的な抑制力などを考慮して,厳密かつ慎重に検討されるべきである。
② さらに,国会及び国民の民主的抑制に関連して秘密保護法との関係が問題となる。
 国会や国民において緊急事態条項(国家緊急権)が発動される当否を判断する際,安全保障関連情報が国会や国民に開示されることが必要である。
 ところが,秘密保護法は,当該情報を「特定秘密」として指定することから,国会や国民が緊急事態条項(国家緊急権)の発動の当否を適切に判断することができない。しかも,秘密保護法は,特定秘密の指定解除の要件も不十分であることから,緊急事態条項(国家緊急権)の発動の当否の検証が将来長きにわたり困難となる可能性が高い。このように,秘密保護法は国民の知る権利を侵害し国民主権を形骸化することから,当連合会は秘密保護法に反対を表明してきた。緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべきかを検討するに当たっては,秘密保護法により国会及び国民の民主的抑制が有効に機能し得ない状況の下では,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用防止が期待できないことも考慮されるべきである。
 
4 自民党改正草案-対象となる緊急事態
(1) はじめに
 このような緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設することについて検討する際の留意点を踏まえた上で,今日,具体的な条項案として公表されている自民党改正草案について検討する。
 自民党改正草案第9章「緊急事態」には,「緊急事態の宣言」(98条)と「緊急事態の宣言の効果」(99条)の規定が設けられている(別紙1)。そこでは,対象となる緊急事態の類型として,「我が国に対する外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」の3つが挙げられている。そこで,まず,この3類型について緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められるのかを検討する。次に,自民党改正草案の制度について,権限濫用防止のため有効な法制度かを検討する。
(2) 対象となる緊急事態
① 「我が国に対する外部からの武力攻撃」
日本国憲法は,立憲主義と徹底した恒久平和主義に基づき,外部からの武力攻撃を防ぐために平時の平和外交により周辺諸国との友好関係を構築し,紛争が生じても平和的手段により解決すべきとしている。
 また,外部からの武力攻撃又はそのおそれが生じた場合への対処については,安全保障会議設置法,自衛隊法,事態対処法,米軍等行動関連措置法,特定公共施設利用法,外国軍用品等海上輸送規制法,捕虜取扱法,国民保護法,国際人道法違反処罰法などから成る法制度が整備されている(概要は別紙2)。
 国家安全保障会議では,安全保障に関する外交・防衛政策や国防の基本方針等が審議されている。武力攻撃事態等に至った場合には,臨時に設置される事態対策本部を中心に,地方公共団体等とも連携をしながら,防衛対処基本方針に基づき対処措置を実施していく。その実施に当たり,内閣総理大臣(事態対策本部長)は,地方公共団体等を総合調整し,地方公共団体を指示し,更には自ら対処措置を実施することができるなど強力な権限が認められている。また,米軍等との連携や国民保護に関する法制度も整備されている。国民保護法では,国民は,国民の保護のための措置の実施に関する協力要請に対しては,必要な協力をするよう努めるものとされている(国民保護法4条 1 項)。また,内閣は,著しく大規模な武力攻撃災害が発生し,国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保する必要がある場合において,一定の条件の下,金銭債務の支払猶予等に関して政令を制定することができるとされている(同法130条1項)。
イ ただし,現行の安全保障法制には,武力攻撃予測事態の定義や範囲が曖昧であること,武力攻撃事態等の認定の客観性が十分に担保されていない等の問題点がある(2002年(平成14年)6月21日「「有事法制」3法案についての意見書」,2003年(平成15年)5月14日「有事法制法案の採択に対する会長声明」,2004年(平成16年)3月18日「国民保護法案」についての意見書」等)。
 また,2015年(平成25年)9月19日に採択された平和安全法制整備法により,事態対処法に新たに存立危機事態(事態対処法2条4号)が加わったが,それは集団的自衛権の行使を容認するものであり,恒久平和主義及び立憲主義に違反するものである。
 このように,現行の安全保障法制は憲法原理に抵触するおそれや憲法違反の内容が含まれていることから,それらを憲法に適合するように修正すべきである。その上で,仮に安全保障法制として不十分な点があるのであれば,法律の改正等で対応すべきである。
ウ なお,終戦直後の1946年(昭和21年)7月2日に開催された前記衆議院帝国憲法改正委員会において,日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)に関する規定を設けるべきかが問われた際に,金森国務大臣が「我我過去何十年ノ日本ノ此ノ立憲政治ノ経験ニ徴シマシテ,間髪ヲ待テナイト云フ程ノ急務ハナイ」と答弁している。「過去何十年ノ日本」には当然に先の大戦が含まれているが,その先の大戦下においてすら間髪を待てないというほどの急務はなかったのである。
② 「内乱等による社会秩序の混乱」
ア 「内乱等による社会秩序の混乱」には大規模テロも含まれるが,内乱等に関しては,警察法第6章(「緊急事態の特別措置」),海上保安庁法,自衛隊法,事態対処法第三章(「緊急対処事態その他の緊急事態への対処のための措置」),国民保護法第8章(「緊急対処事態に対処するための措置」),刑法,刑事訴訟法警察官職務執行法出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)等の法制度がある。また,今日テロ防止対策に国際社会が取り組む必要性から「航空機内の犯罪に関する条約」(1969年)ほか多くのテロ防止対策に関連する条約が締結されている(概要は別紙3)。
 内乱等による社会秩序の混乱に関しては,警察法に基づき,内閣総理大臣が一時的に警察を統制することで,事態に対処する体制が整備されている。また,警察力だけでは不十分な場合には,自衛隊法に基づく治安出動が認められている。その場合,内閣総理大臣海上保安庁も統制下に置くことができるのであり,警察,海上保安庁自衛隊が一体として事態に対処するための体制が整備されている。日本の社会秩序を混乱させた者に対しては,内乱罪(刑法77条)など刑法その他の刑事法により各種刑罰規定が置かれている。また,日本の社会秩序を混乱させようとする者が外国人である場合には,入管法によりあらかじめ上陸を拒否することが可能である(入管法5条1項11号乃至14号)。
 また,原子力発電所の破壊等,化学剤の大量散布,航空機などによる自爆テロなど,武力攻撃に準ずるテロ等の事態(緊急対処事態。事態対処法22条1項)には,国や地方公共団体等は緊急対処保護措置を的確かつ迅速に実施することに万全を期す責務等を有するとされている(国民保護法172条)。そして,国民は,緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとされている(同法173条1項)。
イ このように,既に警察法自衛隊法,入管法,刑法等により,内乱等の社会秩序の混乱に対処することができる法制度及び体制が整備されている。実際に13人の死亡被害者と数千人の傷害被害者を出した地下鉄サリン事件(1995年(平成7年))においても,破壊活動防止法の適用すら行われず,平時における警察活動で対処することができたのである。また,テロ対策としては,テロの未然防止と万一テロが発生した場合には被害を最小限にくい止め,犯人を制圧・検挙するという事態対処の両面から,上記の法制度の下,1998年(平成10年)に内閣に内閣危機管理監が新設され,2001年(平成13年)には内閣官房長官を本部長とする「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」が設置されるなど,内閣官房を中心に政府の緊急事態対処体制が整備されてきており,突発的な事態の態様に応じた対処の基本方針についての閣議決定やマニュアルの策定等の整備が行われてきている。また,警察庁は,2015年(平成27年)2月には「警察庁国際テロ対策推進本部」を設置し,同年6月には「警察庁国際テロ対策強化要綱」を取りまとめ,同要綱に基づき情報収集・分析,水際対策,警戒警備,事態対処,官民連携を推進している(平成28年度警察白書・特集「国際テロ対策」参照)。
ウ ただし,現行の法制度の中には,警察組織の中に外事情報部による諜報活動が国民の思想信条の自由や集会結社の自由,メディアの報道の自由への萎縮効果をもたらすことなど,警察権限の拡大に伴う問題点なども認められる(2004年(平成16年)3月18日「警察法改正案に対する意見書」)。
 それらの問題点については改善を図り,また仮に不十分な点があるのであれば,それは法律の改正等で対応すべきである。
③ 「地震等による大規模な自然災害」
ア 大地震等による大規模な自然災害については,現行の日本国憲法の下で,既に高度に整備された法制度と体制が存在している。具体的な法制度としては,災害対策基本法大規模地震対策特別措置法原子力災害対策特別措置法新型インフルエンザ特別措置法,災害救助法,警察法自衛隊法等がある(概要は別紙4参照)。
 上記の災害対策の法制度においては,宣言や布告等を行い,国会の統制下において,一定範囲で内閣に政令制定権を認め,また,内閣総理大臣に必要な権限を付与するとともに,国民の財産権の制限や労働の義務等を課して一定の範囲で人権を制約している。仮に東日本大震災原発事故が併発したような複合災害時には現在の法制度でも未整備の部分があるとしても,それは法律の改正等で対応が可能である。その場合には,後記アンケート結果に示されているとおり,地方自治体への権限移譲,適切な役割分担という地方分権の視点から各地の実情に応じた整備を行うべきである。
東日本大震災において政府が初動時に迅速に対応出来なかったことを理由に緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設すべきとの見解がある。
 しかし,政府が初動時に迅速に対応できなかった原因は,高度に整備された法制度があるにもかかわらず,平時から災害に備えた事前の準備がほとんどなされていなかったことによる。
 すなわち,災害対策基本法は,国の防災基本計画に基づき,指定行政機関等の防災業務計画,都道府県等の地域防災計画を作成すべきことを定めている(同法第三章)。また,指定行政機関の長等は,防災教育の実施に務め,防災訓練の実施義務がある(同法47条の2,48条)。更には原子力事業者にも,原子力事業者防災業務計画の作成義務が課せられている(原子力災害特別措置法7条)。ところが,現実には,「原発事故は起こらない」との前提で,避難のための防災計画の作成を怠り,防災訓練等事前の準備がほとんどなされていなかった。災害対策においてなすべきことは,発生した混乱や被害の原因を検証し,その対策を策定して事前の準備を進めることである。
ウ 緊急事態条項(国家緊急権)は,中央政府に権限を集中させることが災害対策に有効であるとの考えに基づくが,自然災害に直接対応するのは都道府県,市町村などの地方自治体や各種団体である。被災地域の実情に通じているこれら地方公共団体等こそが災害へのきめ細やかな対応を行うことができるのであり,それが被災者等の人権保障につながるのである。
 このことは,当連合会が2015年(平成27年)9月に東日本大震災の被災三県の37市町村に対して実施したアンケート結果にも表れている(24市町村から回答)。
 アンケート項目のうち「災害対策・災害対応について市町村の権限は強化すべきか軽減すべきか」との質問に対しては,「権限を強化すべし」との回答は6自治体(25%)に対し,「現状維持(災害対策基本法により第一義的な災害対策の権限は市町村に委ねられている現在の制度の維持)」は17自治体(71%),「権限軽減」は1自治体(4%)であった。
 「災害対策・災害対応について市町村と国の役割分担はどうすべきか」との質問に対しては,「市町村主導」は19自治体(79%),「場合による」は3自治体(13%),「国主導」は1自治体(4%),「未回答」は1自治体(4%)であった。
 「災害対策・災害対応について憲法は障害になったか」との質問に対しては,「障害にならない」は23自治体(96%),「なった」は1自治体(4%)であった。
 この結果は,中央政府に権限を集中させるのではなく,被災者に一番近い自治体である市町村に主導的な役割を与えることの必要性を示している。また,緊急事態条項(国家緊急権)を持たない現在の日本国憲法が災害対応について障害にならなかったことも表している。
 被災経験のある各地の弁護士会からも「東日本大震災の災害対応について国家緊急権規定が存在すれば適切な対応ができたという事実は全く認められず」(仙台弁護士会),「被災者の救済と被災地の復興のために何より必要なのは,政府に権力を集中されるための法制度を新設することよりも,むしろ,事前の災害・事故対策を十分に行うとともに,既存の法制度を最大限に活用することである」(福島県弁護士会)などの意見が表明されている。
エ このように,大規模な自然災害への対応は,現行の法制度の運用・改善によるべきであり,それが可能である。自然災害を理由に日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設する必要性が認められないばかりか,内閣に権限を集中されることはむしろ有害である。
(3) まとめ
① 上記のとおり,自民党改正草案が非常事態として挙げている「我が国に対する外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」に関しては,法律に基づく制度が整備されている。
自民党憲法草案は,緊急事態宣言が発せられた場合,内閣の緊急命令権限を認めるべきとするが,災害対策基本法や国民保護法は,各法律の授権に基づいて内閣の政令制定権を認めている(災害対策基本法109条,国民保護法130条)。
 また,同草案は,内閣総理大臣の指示権限を認めるべきとするが,内閣総理大臣の指示権限も含めてすでに法律により内閣総理大臣に一定の権限が集中する仕組みが認められている(事態対処法14条1項,15条1項・2項,警察法72条,73条1項・2項。災害対策基本法28条の6・2項,大規模地震対策特別措置法13条1項,原子力災害対策特別措置法15条3項など)。
 さらに,同草案は,国民等への服従義務を認めるべきであるとするが,国民保護法は,国民の保護のための措置や緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めることや(国民保護法4条1項,173条1項),災害救助法は,大規模自然災害の場合には,被災者の救助等のため,一定の者に対して業務に協力させることができること等を認めている(災害救助法7条ないし10条,災害対策基本法59条1項等。別紙3の6参照)。
 そして,それらの規定では対応できない具体的な事情は認められないし,仮にそのような事情が認められるとしても,まず法律の制定・改正や運用の改善などによる対処が検討されるべきである。その検討を経ることなく,上記3つの緊急事態において,内閣の緊急命令権限,内閣総理大臣の指示権限,国民等の服従義務を憲法上創設することを認める必要性はない。
③ また,自民党改正草案では,内閣総理大臣の財政処分権限を認めるべきであるとするが,一般には緊急事態への対応は予備費が使われ,仮に予備費では不足する場合には補正予算を組むことにより対応することが予定されている。それでは対応できないという具体的な事情は認められないし,仮にそのような事情が認められるならば,まずは予算編成の改善等を検討すべきである。その検討を経ることなく,内閣総理大臣の財政処分権限を憲法上創設することを認める必要性はない。
④ 解散権の制限及び議員の任期等の特例を設けることの必要性については,項を改めて検討する。
(4) 解散権の制限及び議員の任期等の特例について
自民党改正草案99条4項は,「緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより,その宣言が効力を有する期間,衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」として,内閣の衆議院の解散権行使を制限し,参議院及び衆議院の議員の任期延長等を認めている。
② 同条項が「両議院の議員」の任期等の特例を認めていることから,まず,参議院議員の任期について検討する。
 現行憲法において,「参議院議員の任期は,6年とし,3年ごとに議員の半数を改選する。」(日本国憲法46条)とされ,また,「参議院議員通常選挙は,議員の任期が終る日の前30日以内に行う。」とされているから(公職選挙法32条1項),参議院議員が同院の定足数(総議員の3分の1。日本国憲法56条1項)を欠くことはあり得ない。自民党改正草案Q&Aも,この点に関し,「参議院議員通常選挙は,任期満了前に行われるのが原則であり,参議院議員が大量に欠員になることは通常ありえません。」と明記している(Q42の答参照)。
 したがって,自民党改正草案99条4項には「両議院の議員」と明記されているものの,憲法上,参議院議員の期間延長の特例を設ける必要性は認められない。
③ 他方,衆議院議員の任期については,解散又は任期満了により,同院の議員全員がその資格を喪失するため,その前後に緊急事態が発生し,衆議院が組織できない場合が想定できる。
 そこで,以下,解散の場合と任期満了の場合とに分けて検討する。
④ 解散の場合
ア 内閣が解散権を行使しようとしているときに緊急事態が生じた場合,通常,任期満了が迫っている等の事情がないときには,内閣としては通常解散権の行使を差し控えると思われるし,仮に解散権を行使したとしても,その場合は衆議院解散後に緊急事態が発生した場合と同じであり,日本国憲法はそのような場面を想定して,参議院の緊急集会を設けているのであるから(日本国憲法54条2項但書),緊急事態への対応は可能である。したがって,憲法上,内閣の解散権を制限する必要性は認められない。
衆議院の解散後に緊急事態が発生した場合,参議院議員は存在しているし,仮に参議院議員の任期が満了となっても半数の参議院議員は存在していることから(日本国憲法46条),参議院の緊急集会を開催することにより(同法54条2項但書),緊急事態への対応が可能である。したがって,衆議院の解散後に緊急事態が発生した場合を想定して,憲法衆議院議員の任期に特例を設ける必要性は認められない。
 なお,日本国憲法54条1項は,「衆議院が解散されたときは,解散の日から40日以内に,衆議院議員の総選挙を行い,その選挙の日から30日以内に,国会を召集しなければならない。」と定めている。そこで,衆議院解散後総選挙前に緊急事態が発生したために総選挙や国会召集が上記期間内に実施できない場合が生じ得るとして,選挙期日の特例を設けるべきかが問題となる。
 大日本帝国憲法45条は,解散の日から5ヶ月以内に国会を召集することとしていたのに対して,日本国憲法54条1項によれば,解散の日から最長でも70日以内に国会を召集すべしとした。それは,国会が長い間存在しないことが,国民主権の原理からみて望ましくないことから,大日本帝国憲法に比べて国会召集の期間を短縮したのである。したがって,上記期間制限は厳格に解するべきであり,期間制限の特例を設けることは国民主権の原理の観点から弊害がある。しかも,自民党改正草案Q&Aは,「緊急事態下でも総選挙の施行が必要であれば,通常の方法ではできなくとも,期間を短縮するなど何らかの方法で実施すること」により上記期間内の選挙は可能であると回答している(Q42回答)。
これらのことからすれば,緊急事態であることを理由に,同条項の期間制限に特例を設けるべきではなく,あくまでも同条項の期間制限に適合するように公職選挙法の繰延選挙の規定に期間短縮等の簡易に選挙が実施できる方法を定めて,選挙や国会召集が行われるべきである。
⑤ 任期満了の場合
衆議院議員の任期満了前に緊急事態が発生した場合には,緊急事態発生後から任期満了前までは衆議院議員も存在することから,国会(臨時会)を招集し(日本国憲法53条),緊急事態に対処することが可能である。そして,総選挙が予定どおり実施されるならば,選挙実施後は新たに選出された衆議院議員が存在していることから,国会を召集し緊急事態に対処することは可能である。したがって,この場合には,議員の任期の特例を設ける必要はない。
衆議院議員の任期満了前に緊急事態が発生したため,予定どおり選挙を実施することができず任期満了が到来することにより,衆議院議員が存在しない事態が生じる場合があり得る。
 この場合,「衆議院が解散されたとき」に認められる参議院の緊急集会の規定は適用されない。そのため,憲法上任期延長を認めることにより,衆議院議員の不在状態を解消し,国会(臨時会)の召集を可能とすることも考えられるが,他方で,任期延長は,延長された間は選挙が実施されないことになり,その間,国民から選挙の機会を奪うことにもなる。
 任期延長を認める場合にその期間が問題となるが,緊急事態の程度や規模は千差万別であることから,その期間は事態ごとに個別的に判断せざるを得ない。しかも,その判断は内閣が行うことが想定されるが,国会がその判断の適正さを確認することができないため,必要以上に任期延長を認めてしまうおそれも否定できない。現に,1941年に衆議院議員の任期が,任期満了前に,立法措置により 1 年間延期されたことがある。その理由は,「今日のような緊迫した内外情勢下に,短期間でも国民を選挙に没頭させることは,国政について不必要にとかく議論を誘発し,不必要な摩擦競争を生じせしめて,内外外交上はなはだ面白くない結果を招くおそれがあるのみならず,挙国一致防衛国家体制の整備を邁
進しようとする決意について,疑いを起こさしめぬとも限らぬので,議会の任期を延長して,今後ほぼ1年間は選挙を行わぬこととした」というものであった(法学協会「第七六帝國議會・新法律の解説」1941年有斐閣)。そして1年後には戦時下において任期満了に伴う総選挙(翼賛選挙)が施行された。それは,「議会の刷新を期し,政治力の結集を図ることがむしろ戦争遂行のため緊要であると考え,戦争の真っ最中であえて総選挙を断行した」のである(「議会制度百年史・帝国議会史・下巻」636頁)。このように,衆議院議員の任期延長が戦争遂行の国内体制整備のために行われた日本の過去の実例に照らすと,憲法上任期の特例(任期延長)が認められることにより,内閣が必要以上に任期を延長し,それにより国民の選挙の機会を失わせることにより政権与党が議会の多数を占める体制が維持され,民意が十分に反映されないまま内閣主導の下で緊急事態への国内体制が整備されていく可能性は否定できない。そのような事態は,国民主権の原理に照らして弊害が大きいと言わざるを得ない。
 以上から,緊急事態の発生により総選挙が実施されないまま衆議院議員の任期満了が到来した場合に対応するために任期延長を認めることは,内閣の権限濫用のおそれがあり,国民主権の原理に照らして弊害もあることから,憲法上任期の特例の規定を設けるべきではない。
 むしろ,日本国憲法制定当時の前記金森国務大臣の答弁にみられるように,緊急事態に対しては,あくまでも民主政治を徹底することにより対応すべきとの日本国憲法制定当時の考え方によれば,繰延投票(公職選挙法57条)により選挙を実施することにより衆議院議員不在の状況を可及的速やかに回復し,国会(特別会)を召集することで対応すべき
である。そして,先の自民党改正草案Q&AのQ42の回答によれば,それが可能である。
 なお,過去に任期満了による総選挙が実施されたのは1976年(昭和51年)12月の1度だけであり,憲法施行後70年に1度しかない。
 このように過去においても極めて頻度が少ないことに加え,そのような場面で緊急事態が発生し,しかも全国のほとんどの選挙区で選挙が実施できずに衆議院議員の任期満了が到来するという事態が発生することが,どれほど現実的なのか疑問である。
 以上から,衆議院議員の任期満了前に緊急事態が発生したため衆議院の定数を欠くほど多くの選挙区において予定どおり選挙を実施できずに任期満了が到来した場合を想定して,憲法上任期の特例を設ける必要性は認められない。
⑥ 以上のとおり,緊急事態が発生した場合に,内閣の解散権の制限や,議員の任期及び選挙期日の特例を憲法上創設する必要はない。
(5) まとめ
 このように,自民党改正草案に定められているように,緊急事態が発生したときに,内閣の緊急命令権限,内閣総理大臣の財政処分権限,内閣総理大臣の指示権限,国民等の服従義務,解散権の制限及び議員の任務等の特例を設けるという緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する必要性が認められない。
 
5 自民党改正草案-濫用防止の制度設計
(1) はじめに
 自民党改正草案が想定している緊急事態において,憲法上緊急事態条項(国家緊急権)を創設すべき必要性が認められないことに加え,自民党改正草案の条項の制度設計では,以下のとおり,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用を防ぐことはできない。
(2) 緊急事態宣言の発動要件の包括的委任等
 自民党改正草案は,緊急事態宣言を発することができる場合として,「我が国に対する外部からの武力攻撃」「内乱等による社会秩序の混乱」「地震等による大規模な自然災害」に加えて「その他の法律で定める緊急事態」を挙げているが,この規定内容では対処措置の対象となる緊急事態について憲法上の限定がなく包括的に法律に委ねられることになる。
 また,内閣総理大臣が緊急事態宣言は,「特に必要があると認めるとき」は「法律の定めるところにより」閣議にかけて発することができると定めているが,仮に法律で緊急事態宣言を発することができる要件を定めるということであれば,その要件は憲法上の限定はなく包括的に法律に委ねることになる。また,仮に法律には単に手続的要件を定めるのみであり緊急事態宣言を発することができる要件を定めない場合には,緊急事態宣言の要件としては憲法上必要性の要件のみとなり,内閣総理大臣に専断的な決定権を与えることになる。
 これらの規定内容では,緊急事態の範囲が広がり,しかも内閣総理大臣は緊急事態宣言の発動要件の判断について憲法上の歯止めがなく,内閣総理大臣に専断的な決定権を与えるものであり,立憲主義を損ないかねないものである。
 また,例示されている「我が国に対する外部からの武力攻撃」「社会秩序の混乱」「大規模な自然災害」という文言も包括的かつ広範であり,宣言を発令する要件としては不明確である。
(3) 国会の承認
 緊急事態宣言については事前又は事後の国会承認(98条2項),「政令」「その他の処分」については事後の国会承認(99条2項)が必要とされている。しかし,前記のとおり,国会が緊急事態宣言の当否を判断するに当たり安全保障関連情報の開示を求めても,当該情報は「特定秘密」に指定され国会への開示も制限されることになる。そのため,内閣に対する国会の民主的抑制機能を十分に果たすことができない。
(4) 措置の期間
 自民党改正草案では緊急事態の期間に制限を設けていない(98条3項)。国会の事前承認があればいくらでも更新することができることになる。
 また,同案は100日を超えるごとに国会の事前承認を必要としているが(98条3項),緊急事態条項(国家緊急権)は例外的措置であることからすると,100日は長すぎる。
(5) 法律と同一の効力を有する政令
自民党改正草案99条1項は,「緊急事態の宣言が発せられたときは,法律の定めるところにより,内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」と規定している。この規定によれば,制定できる政令の範囲に限定はなく,また憲法の人権規定その他の憲法規範を遵守しなければならないのかも明らかではない。憲法上,内閣に対して,政令だけで従前の法律を全て改正できる権限を与えるものと解することが可能であり,例えば,緊急事態宣言の期間中,刑事訴訟法と同一の効力を有する政令を制定することにより,令状なき身体拘束・家宅捜索・通信傍受など,平時では法律で行っても憲法違反となるようなことが認められる可能性がある。また,本来の手続を省略した土地収用,家屋・工作物の除却等の即時断行的な行政処分が行われ,これに対する行政訴訟も差止め請求も停止させられることも考えられる。このように,本条による措置はあまりに広範であり,かつ人権が制約される危険性も大きい。
② また,自民党改正草案における上記の政令の制定に関しては,「国会が閉会中又は衆議院が解散中であり,かつ,臨時会の招集を決定し,又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないとき」(災害対策基本法109条)というような限定がない(国民保護法130条にも同様の規定がある。なお,大日本帝国憲法の緊急勅令においても議会閉会中に限定していた(8条1項)。)。
政令には事後に国会の承認を必要とするが,承認が得られない場合に効力を失う旨の規定がない(99条1項2項)(なお,大日本帝国憲法においても緊急勅令が事後に議会の承認を得られない場合は将来に向かって効力を失う旨の規定があった(8条2項))。
(6) 財政上必要な支出その他の処分
 自民党改正草案では,内閣総理大臣は「財政上必要な支出その他の処分」を行うことができると定められている(99条1項)。ここでは,財政処分を内閣総理大臣に包括的に委ねている。しかも,事後の国会承認が得られない場合に効力を失う旨の規定もない(99条2項)。
 国の財政を処理する権限は,国会の議決に基づいてこれを行使しなければならないとされている(日本国憲法83条)。これは,日本が戦前,軍事費のために無制限な財政支出を行って国家財政を破綻させたことに対する真摯な反省の下,財政民主主義を定めたものである。赤字国債を原則として禁止する財政法も同じ理念による。自民党改正草案99条1項は,この財政民主主義に抵触するものであるが,内閣総理大臣国債発行も含めて無制限に財政を処理する権限を認めるものであり濫用を防止し得ない。
(7) 公的機関の指示に従う義務
自民党改正草案99条3項は,「緊急事態の宣言が発せられた場合には,何人も,法律の定めるところにより,当該宣言にかかる事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他の公の機関の指示に従わなければならない」として国民の公的機関の指示に従う義務を規定している。
 これまでも,例えば,国民保護法において,「国民は,この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとする。」との規定が置かれていた(4条1項)。しかし,文言上明らかなとおり,「協力をするよう努める」という努力義務にとどまるものであり,また,努力義務であるにもかかわらず,万が一にも強制にわたることがあってはならないという趣旨から,「前項の協力は国民の自発的な意思にゆだねられるものであって,その要請に当たって強制にわたることがあってはならない。」との規定も注意的に置かれていた(4条2項)。
 しかし,自民党改正草案99条3項は,「協力をするよう努める」ことを超えて,「指示に従わなければならない」という義務を定めるものであり,強制されることを含むものである。仮に緊急事態下であるとしても,法律の授権に基づくものではなく,現憲法下では認められていない憲法により直接定められている国その他の公の機関の指示に対する国民の順守義務について,指示の主体及び義務の内容が憲法上限定されないまま,「法律の定めるところにより」幅広く認められることになれば,基本的人権が無制限に制約されかねない。
 この点,同項は,「この場合においても,第14条,第18条,第19条,第21条その他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されなければならない。」と定めている。しかし,そのような規定があったとしても,憲法に国等の指示に対する国民の順守義務の根拠が明記された上でこのような規定が置かれていることからして,人権相互の矛盾・衝突を調整する内在的制約(日本国憲法13条「公共の福祉」)とは異なり,憲法の人権保障の例外としての外在的制約が認められることとなる(自民党改正草案Q&Aにおいても,「国民の生命,身体及び財産という大きな人権を守るために,そのため必要な範囲でより小さな人権がやむなく制限されることもあり得る。」と説明されている。なお,法律レベルではあるが,事態対処法ですら,「武力攻撃事態への対処においては,日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず,これに制限が加えられる場合にあっても,その制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ」とされている(事態対処法3条4項)。)。
 また,諸外国の例を見ても,フランス憲法16条にこのような条項はないし,ドイツ憲法の緊急事態条項には,例えば,防衛事態(連邦領域が武力で攻撃された,又はこのような攻撃が直接に切迫していること。ドイツ基本法115a 条1項)に関して,兵役又は代替役務の義務を負わない者に,非軍事役務の従事義務(同法12a 条3項)を,また非軍事的衛生施設,治療施設等の労働力不足のときにそれを補うために女子を徴用することができる(同条4項)など,限定された役務従事義務を規定するだけである。
② さらに,日本が1979年に批准した自由権規約(「市民的及び政治的権利に関する国際規約」)4条1項及び2項は,緊急事態の存在が公式に宣言されたときでも,人種などによる差別は許されず,思想良心の自由,奴隷・奴隷状態の禁止等の人権については侵害してはならないと定めている。
 しかし,上記のとおり,自民党改正草案99条3項は,「この場合においても,第14条,第18条,第19条,第21条その他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されなければならない。」と規定するにとどまり,侵害を禁止することが端的に明記されておらず,平時では許容されない人権侵害の余地を認めるとも解されるものであるから,自由権規約4条 1 項及び2項と抵触する。
③ 以上のとおり,自民党改正草案99条3項によって,基本的人権が不当に制約されかねないという懸念は払拭されるものではなく,むしろ,この規定が憲法上明記されることによって司法による人権の事後的救済が困難になるおそれがあり,立憲主義を損なうものといわざるを得ない。
(8) 国会議員の任期について
 自民党改正草案99条4項は,「緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより,その宣言が効力を有する期間,衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。」と定めている。
 前記4(4)で述べたとおり,緊急事態において特例として議員の任期が延長されることにより,本来予定されていた任期満了による総選挙が実施されなくなる。これは,国民の選挙の機会を失わせるものである。
 また,議員の任期の特例は「法律の定めるところにより」設けることができるとされており,憲法上の歯止めがない。仮に議員の任期延長について,法律により内閣総理大臣の裁量に委ねられることになれば,政権与党が多数を占める状態が継続し,緊急事態宣言時の内閣が政権を維持し続けることもあり得る。
 さらに,衆議院が解散された場合には,解散の日から40日以内に選挙を行うことが定められているが(日本国憲法54条1項),仮に選挙期日の特例について,法律により内閣総理大臣の裁量に委ねられることになれば,解散後,衆議院議員が不在のまま長期にわたり総選挙が実施されず,国会も召集されないまま,緊急事態宣言時の内閣が政権を維持し続けることもあり得る。
 これでは,国会及び国民による内閣に対する民主的抑制が十分に働かず,濫用を防止することは困難である。
(9) 小括
 そもそも,自民党改正草案が緊急事態条項(国家緊急権)を憲法上創設する理由の一つに,緊急事態条項(国家緊急権)に基づく権限の行使を憲法で縛り,その濫用を防止しようとする立憲主義が挙げられている。ところが,自民党改正草案は,緊急事態条項(国家緊急権)の全てにおいて,「法律の定めるところにより」との文言を含んでおり,重要な部分の多くを法律に委ねている。特に,98条1項は,緊急事態宣言の要件を定めるものであるが,それを「その他法律で定める緊急事態」として法律に委ねてしまえば,法律でいかようにも要件を定めることになり,憲法による縛りはなくなる。また,99条3項は,基本的人権に制限を加えることを許容するとも解される規定であるが,その内容についても法律に委ねてしまえば,平時では許容されないような人権制限が法律で可能となる。これは立憲主義を破壊するものであり,立憲主義の立場から憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を規定すべきであるとの自らの論拠にも反する。
 以上のことから,自民党改正草案の制度設計は,立憲主義に反し,緊急事態条項(国家緊急権)の濫用を防止することはできず,基本的人権を損なう危険性が避けられない。
 
6 結論
 よって,意見の趣旨記載のとおり,当連合会は,自民党改正草案を含め,日本国憲法を改正し,戦争,内乱,大規模自然災害に対処するため同草案が定めるような対処措置を内容とする緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する。
                                     以 上

法律の略称
【事態対処法】
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律
【米軍等行動関連措置法】
武力攻撃事態等及び存立危機事態におけるアメリカ合衆国等の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律
特定公共施設利用法
武力攻撃事態等における特定公共施設等の利用に関する法律
【外国軍用品等海上輸送規制法
武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律
【捕虜取扱法】
武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律
【国民保護法】
武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
国際人道法違反処罰法
国際人道法の重大な違反行為の処罰に関する法律

(別紙1)自由民主党憲法改正草案第9章「緊急事態」
【第98条】
1 内閣総理大臣は,我が国に対する外部からの武力攻撃,内乱等による社会秩序の混乱,地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において,特に必要があると認めるときは,法律の定めるところにより,閣議にかけて,緊急事態の宣言を発することができる。
2 緊急事態の宣言は,法律の定めるところにより,事前又は事後に国会の承認を得なければならない。
3 内閣総理大臣は,前項の場合において不承認の議決があったとき,国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき,又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは,法律の定めるところにより,閣議にかけて,当該宣言を速やかに解除しなければならない。
 また,百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは,百日を超えるごとに,事前に国会の承認を得なければならない。
4 第2項及び前項後段の国会の承認については,第60条第2項の規定を準用する。この場合において,同項中「三十日以内」とあるのは,「五日以内」と読み替えるものとする。
【第99条】
1 緊急事態の宣言が発せられたときは,法律の定めるところにより,内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか,内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い,地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2 前項の政令の制定及び処分については,法律の定めるところにより,事後に国会の承認を得なければならない。
3 緊急事態の宣言が発せられた場合には,何人も,法律の定めるところにより,当該宣言に係る事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。
 この場合においても,第14条,第18条,第19条,第21条その他の基本的人権に関する規定は,最大限に尊重されなければならない。
4 緊急事態の宣言が発せられた場合においては,法律の定めるところにより,その宣言が効力を有する期間,衆議院は解散されないものとし,両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

(別紙2)安全保障法制の概要
1 我が国の安全保障に関する重要事項を審議する機関として,内閣に国家安全保障会議が設置されている(国家安全保障会議設置法1条)。同会議は,武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(以下「武力攻撃事態」という。事態対処法2条2号)及び武力攻撃事態には至っていないが,事態が緊迫し,武力攻撃が予測されるに至った事態(以下「武力攻撃予測事態」という。同法2条3号。以下,武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態を併せて「武力攻撃事態等」という。)への対処に関する基本的な方針等について審議をする(国家安全保障会議設置法2条1項)。
2 武力攻撃事態等に至ったときは,政府は武力攻撃事態等への対処に関する基本的な方針(以下「対処基本方針」という。)を定める(事態対処法9条1項)。対処基本方針が定められたときは,内閣総理大臣は,臨時に内閣に武力攻撃事態等対策本部(以下「事態対策本部」という。)を設置し(同法10条),内閣総理大臣が対策本部長に就任する(同法11条)。
 武力攻撃事態等に至った場合,対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間,指定行政機関等は,武力攻撃事態等の終結等のために必要な措置(以下「対処措置」という。事態対処法2条8号参照)を実施する。対策本部長は,対処措置を的確かつ迅速に実施するために,対処基本方針に基づき,指定行政機関の長等に対し,対処措置に関する総合調整を行う(同法14条1項)。また,内閣総理大臣は,上記の総合調整に基づく所要の対処措置が実施されないときは,地方公共団体の長等に当該対処処置を実施すべきことを指示し(同法15条1項),それも実施されないときは,自ら当該対処処置を実施することができる(同法15条2項)。
3 自衛隊の行動等に関しては,武力攻撃事態に至った場合,内閣総理大臣は防衛出動を命ずることができる(自衛隊法76条)。防衛出動時には,自衛隊には,武力行使権限(同法88条),公共の秩序維持のための権限(同法92条),緊急通行権限(同法92条の2)が認められている。
 また,武力攻撃予測事態に至った場合には,防衛大臣は,防衛出動の待機を命ずることができ(自衛隊法77条),その下で,防衛施設を構築することができる(同法77条の2)。それに従事する自衛官には,一定の範囲で武器使用が認められている。
4 米軍等との関係では,米軍等行動関連措置法の定めるところにより,日本が米軍等に対し,補給,輸送,修理・整備,医療,通信,空港・港湾業務等の物品や役務の提供を行うことができる(同法77条の3)。
5 国民保護に関しては,防衛大臣は,都道府県知事から自衛隊の部隊等の派遣要請を受けた場合,又は,事態対策本部長である内閣総理大臣から自衛隊の部隊等の派遣を求められた場合には,部隊等を派遣することができる(国民保護法15条1項,2項,自衛隊法77条の4)。また,「国民は,この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとする。」との規定が置かれている(4条1項)。内閣は,著しく大規模な武力攻撃災害が発生し,国の経済の秩序を維持し及び公共の福祉を確保する必要がある場合において,一定の条件の下,金銭債務の支払猶予等に関して政令制定権限が認められている(同法130条1項)。
6 港湾施設,飛行場施設,道路,海域,空域及び電波(以下「特定公共施設等」という。特定公共施設利用法2条3項)の利用のうち港湾施設については,内閣総理大臣(対策本部長)は,港湾管理者に対して,優先的利用の要請をすることができ(同法7条1項),それが確保できない場合には港湾管理者に確保するよう指示し(同法9条1項),それでもなお確保できない場合には国土交通大臣を指揮して確保のための措置を行うことができる(同法9条3項)。これは,飛行場施設の利用に関しても同じである(同法11条)。
7 我が国の領海及び我が国周辺の公海における外国軍用品等(兵器・武器・弾薬等や外国軍隊の構成員)の海上輸送の規制に関しては,防衛大臣は,内閣総理大臣の承認を得て,防衛出動を命じられた海上自衛隊の部隊に対して,停船命令や船上検査などの停泊検査及び回航措置の手続を実施するよう命ずることができる(外国軍用品等海上輸送規制法4条1項)。その際,自衛官は職務の遂行に関して武器を使用することができる(同法37条,自衛隊法94条の7)。
8 このほかにも,捕虜取扱法では武力攻撃事態における捕虜等の拘束など捕虜の取扱について定めている(捕虜取扱法4条,自衛隊法94条の8)。

(別紙3)治安法制の概要
1 内閣総理大臣は,大規模な災害又は騒乱その他の緊急事態に際して,緊急事態の布告(以下別紙3において「布告」という。)を発することができる(警察法71条1項)。布告が発せられたとき,内閣総理大臣は一時的に警察を統制し,警察庁長官(以下「長官」という。)を直接に指揮監督する(同法72条)。長官は,布告に記載された区域(以下「布告区域」という。)を管轄する都道府県警察の警視総監等に対し,必要な命令・指揮をし(同法73条1項),布告区域外の都道府県警察に対して布告区域等への警察官の派遣を命じることができる(同法73条2項)。
2 また,内閣総理大臣は,間接侵略その他の緊急事態に際して,一般の警察力をもっては治安を維持することができないと認められる場合には,自衛隊の出動を命ずることができる(以下「治安出動命令」という。自衛隊法78条1項)。この場合,内閣総理大臣は,海上保安庁防衛大臣の統制下に入れることができ(同法80条1項),防衛大臣がこれを指揮することになる(同法80条2項)。なお,防衛大臣は,治安出動命令が発せられることが予測される場合には,出動待機命令を発することができる(同法79条1項)。また,治安出動命令が発せられ,武器を所持した者が不法行為を行うことが見込まれる場合,当該武器所持者の所在場所等における情報収集を命ずることができる(同法79条の2)。
3 都道府県知事は,治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には,内閣総理大臣に対して自衛隊の出動を要請し(同法81条1項),内閣総理大臣は,事態やむを得ないと認める場合には,自衛隊の出動を命ずることができる(同法81条2項)。
4 これら治安出動の他にも,内閣総理大臣自衛隊の施設等への警護出動命令(同法81条の2),防衛大臣の海上における警備活動命令(同法82条)などの定めが置かれている。
5 日本の社会秩序を混乱させた者に対しては,当該者が行った犯罪に応じて,刑法その他の刑事法により各種刑罰規定が定められている。
6 なお,2005年(平成17年)の自衛隊法改正により弾道ミサイル等に対する破壊措置命令に関する規定(同法82条の2)が設けられたが,政府はこれを,防衛出動命令下命前の措置であるので武力の行使ではなく武器の使用であるとして,防衛作用ではなく警察作用としている(2005年(平成17年)7月5日参議院外交防衛委員会での大野功統防衛庁長官の答弁)。政府の見解を前提とするならば,これも治安維持の制度に位置付けることができる。
7 テロ対策防止に関する条約としては,①航空機内の犯罪に関する条約(1969年),航空機不法奪取防止条約(1971年),③民間航空への不法行為防止条約(1973年),④空港での暴力行為防止議定書(1989年),⑤国家代表等への犯罪防止・処罰条約(1977年),⑥人質行為防止条約(1983年),⑦核物質防護条約(1987年),⑧海上航行不法行為防止条約(1992年),大陸棚プラットフォーム不法行為防止条約(1992年),⑨プラスチック爆弾探知条約(1998年),⑩テロ爆弾使用防止条約(2001年),⑪テロ資金供与防止条約(2002年)などがある(2003年(平成15年)2月衆議院憲法調査会事務局「「非常事態と憲法」に関する基礎的資料-安全保障及び国際協力等に関する調査小委員会(平成15年2月6日及び3月6日の参考資料)」・衆憲資第14号)。
8 政府は,武力攻撃の手段に準ずる手段を用いて多数の殺傷する行為が発生した事態又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態で,国家として緊急に対処することが必要なもの(緊急対処事態)に至ったときは,緊急対処事態に関する対処方針(緊急対処事態対処方針)を定めるものとされている(事態対処法22条 1 項)。ここに緊急対処事態とは,武力攻撃に準ずるテロ等の事態をいい,例えば,原子力事業所などの破壊,大規模集客施設やターミナル駅などの爆破,生物剤や化学剤の大量散布,航空機などの自爆テロなどである(内閣官房国民保護ポータルサイト)。国民保護法は,国や地方公共団体等に対して,緊急対処保護措置を的確かつ迅速に実施することに万全を期す責務を有するとされている(同法172条)。そして,国民は,緊急対処保護措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとされている(同法173条1項)。

(別紙4)災害法制の概要
1 災害対策基本法によれば,非常災害が発生し,かつ,当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合に,内閣総理大臣は,災害緊急事態の布告(以下別紙4において「布告」という。)を発することができる(同法105条1項)。この布告があったとき,次の措置が採られる。
(1) 内閣総理大臣は,臨時に内閣府に緊急災害対策本部を設置する(同法107条,28条の2)。緊急災害対策本部長には内閣総理大臣が就任する(同法28条の3,1項)。緊急災害対策本部には,緊急災害現地対策本部を置くことができる(同法28条の3,8項)。緊急災害対策本部長は,関係指定行政機関の長等に必要な指示をしたり(同法28条の6,2項),資料又は情報の提供,意見の表明その他必要な協力を求めたりすることができる(同条3項)。
(2) 政府は,災害緊急事態への対処に関する基本的な方針を定める(同法108条)。
(3) 内閣は,国の経済の秩序を維持する等の緊急の必要がある場合において,国会が閉会中又は衆議院が解散中であり,かつ,臨時会の招集を決定し,又は参議院の緊急集会を求めてその措置を待ついとまがないときは,緊急措置として政令を制定することができる。政令の対象は,生活必需物資の配給等の制限他合計4点である(同法109条1項,同法109条の2)。政令には刑罰を付すことができる(同法109条2項)。政令を制定したときは,内閣は直ちに国会又は参議院の緊急集会で承認を求めなければならない(同法109条4項)。政令に代わる法律が制定されないこととなったときは,制定されないこととなったときに政令の効力は失われる(同法109条5項)。
(4) 内閣総理大臣は,国民に対し,国民生活との関連性が高い物資等をみだりに購入しないこと等の協力を要求することができる(同法108条の3)。
2 大規模地震対策特別措置法によれば,内閣総理大臣は,気象庁長官から地震予知情報の報告を受けた場合において,地震防災応急対策を実施する緊急の必要があると認めるときは,地震災害に関する警戒宣言を発するとともに,住民等へ警戒態勢を執るべき旨を公示する等一定の措置を執らなければならない(同法9条1項)。
 警戒宣言を発したとき,次の措置が執られる。
(1) 内閣総理大臣は,臨時に内閣府地震災害警戒本部(以下「警戒本部」という。)を設置する(同法10条1項)。警戒本部長には内閣総理大臣が就任する(同法11条2項)。警戒本部は,所管区域において指定行政機関の長等が実施する地震防災応急対策又は災害応急対策(以下「地震防災応急対策等」という。)の総合調整等を行う(同法12条)。
(2) 警戒本部長は,関係指定行政機関の長等に対し,必要な指示を行うことができる(同法13条1項)。
(3) 警戒本部長は,防衛大臣に対し,自衛隊の部隊の派遣を要請することができる(同法13条2項)。
3 警察法によれば,前記のとおり,大規模な災害で治安の維持のために特に必要があると認めるときは,緊急事態の布告を発することができ(警察法71条1項),内閣総理大臣警察庁長官を直接指揮監督し,一時的に警察を統制することができる(同法72条)。
4 原子力災害対策特別措置法によれば,原子力事業者の原子炉の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で当該原子力事業者の原子力事業所外へ放出された事態が発生したと認められる場合,原子力規制委員会は,内閣総理大臣に対し,その状況に関する必要な情報の報告等を行う(同法15条1項)。
 上記報告等を受けた内閣総理大臣は,直ちに原子力緊急事態宣言を公示し(同法15条2項),原子力災害対策本部を設置し(同法16条1項),内閣総理大臣がその対策本部長に就任する(同法17条1項)。
 また,内閣総理大臣は,市町村長及び都道府県知事に対し,居住者等の避難のための立退き,屋内への退避の勧告等を行うべきこと等を指示することとされている(同法15条3項)。
5 自衛隊法によれば,都道府県知事等は,天災地変その他の災害に際して,防衛大臣等に自衛隊の派遣を要請することができ(同法83条1項),要請を受けた防衛大臣等は救援のために自衛隊を派遣することができる(同法83条2項本文)。ただし,特に緊急を要し,要請を待ついとまがないと認められるときは,要請を待たないで自衛隊を派遣することができる(同法83条2項但書き)。
6 地震等の大規模な自然災害の場合,被災者の救助等のために人権制約を認めた規定がある。
 すなわち,都道府県知事は,(ⅰ)医療,土木建築工事又は輸送関係者を救助に関する業務に従事させることができる(災害救助法7条1項)。これには罰則がある(同法31条)。(ⅱ)救助を要する者及びその近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる(同法8条)。(ⅲ)病院,診療所,旅館等を管理し,土地家屋物資を使用し,物資の生産,集荷,販売,配給,保管若しくは輸送を業とする者に物資の保管を命じ,収用できる(同法9条1項)。これには罰則がある(同法31条)。(ⅳ)職員に施設,土地,家屋,物資の所在場所,保管場所に立ち入り検査させることができる(同法10条1項)。これには罰則がある(同法33条1項)。
 市町村長は,(ⅰ)設備物件の占有者,所有者又は管理者に対して当該設備又は物件の除去,保安その他必要な措置を採ることを指示できる(災害対策基本法59条1項),(ⅱ)居住者等に対し避難のための立ち退きを勧告し,立ち退きを指示することができる(同法60条1項)。(ⅲ)居住者等に対し,屋内待避その他屋内における避難のための安全確保措置を指示できる(同法60条3項)。(ⅳ)警戒区域を設定し,立ち入りを制限,禁止,退去を命ずることができる(同法63条1項),(ⅴ)他人の土地・建物その他の工作物を一時使用し,土石竹木その他の物件を一時使用し,若しくは収用できる(同法64条1項)。(ⅵ)現場の災害を受けた工作物又は物件の除去その他必要な措置を採ることができる(同法64条2項)。(ⅶ)住民又は現場にある者を応急措置の業務に従事させることができる(同法65条1項)。
 
(校注/金原から)
10頁 28行目 「~という地方分権に視点から」を「~という地方分権の視点から」に訂正した。
31頁 5行目 文末に句点(。)を付加した。
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年1月26日
水島朝穂教授による自民党改憲案「緊急事態条項」批判論文(2013年)がネットで公開されました
2016年2月3日
自民党改憲案・緊急事態条項はナチス授権法の再来か?~海渡雄一弁護士の論考を読む

2016年2月6日
立憲デモクラシーの会・公開シンポジウム「緊急事態条項は必要か」を視聴する

2016年4月11日
立憲デモクラシー講座第8回(4/8)「大震災と憲法―議員任期延長は必要か?(高見勝利氏)」のご紹介(付・『新憲法の解説』と緊急事態条項)
2016年5月29日
金森徳次郎国務大臣答弁と『新憲法の解説』を読む~災害を理由とした緊急事態条項は不要!
2016年10月24日
動画とレジュメで振り返る講演「参院選後の改憲の動きと私たちの課題」(2016年10月22日/講師:金原徹雄/主催:憲法を生かす会 和歌山)
 

(付録)
『これがボクらの道なのか』
『時代は変わる』
『遠い世界に』
『花をください』
『Hard Times Come Again No More』
『血まみれの鳩』
演奏:長野たかし&森川あやこ
 
※2013年10月5日@京都市御池地下街 ゼスト御池

「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演

 今晩(2017年2月24日)配信した「メルマガ金原No.2733」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演

【第1部 「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内】
 あと1週間に迫った、私が講師を頼まれている3月3日(金)の学習会のチラシが主催者(和歌山県平和フォーラム)から届きましたので、ご紹介します。
 このチラシは、和歌山県平和フォーラムなど3団体が3月中に行う2つの企画の共同チラシとなっており、3月3日は共謀罪についての学習会、そして3月25日(土)が、講演と映画で「沖縄の今」を考える集会です。
 以下に、チラシから2つの企画の概要を転記します。

 前半(3月3日)の企画は、私の講演はともかくとして、参加者には、『一(いち)からわかる共謀罪
 話し合うことが罪になる』(2017年1月発行/頒価200円)という、分かりやすくてためになる冊子が無償配布されるはずですから、それだけでも参加していただく価値があると思います。何しろ、■「秘密保護法」廃止へ!実行委員会(平和フォーラム 新聞労連ほか)、■解釈で憲法9条を壊す!実行委員会(許すな!憲法改悪・市民連絡会 憲法会議)、■盗聴法廃止ネットワーク(盗聴法に反対する市民連絡会 日本国民救援会)の3団体が共同で編集・発行したものですから。
 同書には、海渡雄一弁護士(日弁連共謀罪法案対策本部副本部長)による2本の論考、「共謀罪って何?自由を奪う監視社会の到来」と「戦争準備法制としての治安維持法共謀罪」も収録されており、とてもよくまとまっていて参考になります(ということで、私は自分のレジュメは作らずに、海渡弁護士の論考をレジュメ代わりにすることにしました)。
 
 また、後半(3月25日)は、自治労沖縄県本部書記長の大嶺克志さんによる講演「沖縄で今、何が起きているのか」と、藤本幸久・影山あさ子共同監督作品『高江―森が泣いている 2』の上映が行われます。
 明後日(2月26日)、和歌山県平和委員会が中心になった実行委員会の主催によるドキュメンタリー映画『いのちの森 高江』(謝名元慶福監督)の上映会が予定されていますし、是非両作とも観たいのですが、どちらも拠ん所ない所用が・・・(困った)。 
 
チラシから概要を引用開始)
安倍政権の横暴を許すな!
 
安倍政権は憲法・沖縄・原発共謀罪など様々な分野で暴走を続けています。
 沖縄では辺野古新基地建設の強行。欠陥機オスプレイの飛行と県民の意見や法さえも無視する暴挙が繰
り返されています。
 共謀罪法案はその危険性ゆえに、世論の強い反対で三度の廃案に追い込まれましたが、安倍政権は四たび国会に提出し、成立を狙っています。テロへの不安に便乗した権力の横暴を許してはなりません。
 こうした状況をふまえ、運動を深化させるため、2つの学習、映画・講演会を企画致しました。参加をお待ちしています。
2017年3月3日(金)
時間/18:30~20:30
場所/和歌山市勤労者総合センター(ふくふくセンター)6階文化ホール
      和歌山市西汀丁34 TEL:073-433-1800
共謀罪”とは何か?・その狙いとは
講師 金原徹雄 氏(弁護士・憲法9条を守る和歌山弁護士の会 前事務局長)
2017年3月25日(土)
時間/14:00~16:30
場所/男女共生推進センターホール(和歌山市あいあいセンター内)
      和歌山市小人町29 TEL:073-432-4702
第1部 講演「沖縄で今、何が起きているのか」
     講師 大嶺克志 氏(自治労沖縄県本部書記長)
第2部 映画『高江―森が泣いている 2』(上映63分)
     藤本幸久・影山あさ子共同監督作品
(引用終わり)
 
(参考動画)
2016/12/17 映画『高江:森が泣いている2』初日トークイベント

※昨年12月17日のポレポレ東中野における公開初日トークイベント(藤本幸久監督、鎌田慧氏)の模様です。
 
【第2部 共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.2】
 今日の後半(第2部)は、共謀罪シリーズの第7回として、2月21日に続き、「共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介」のvol.2をお届けします。

(その1 ニュースの部)
東京新聞 2017年2月22日 朝刊
「共謀罪」拡大解釈の懸念 準備行為、条文に「その他」

(抜粋引用開始)
 共謀罪法案は、犯罪に合意しただけで罰するのは内心の処罰につながるといった批判を受け、過去三度も廃案になってきた。安倍晋三首相や金田勝年法相らは今回、新たな共謀罪法案について「準備行為があって初めて処罰の対象とする」と過去の法案よりも適用範囲を限定する方針を説明。一方でハイジャックテロや化学薬品テロでは、現行法の準備罪や予備罪よりも前段階での処罰が可能になるとして、テロ対策
での必要性を強調してきた。
 新たに明らかになった条文では「犯罪を行うことを計画をした者のいずれか」によって「計画に基づき
資金または物品の手配、関係場所の下見その他」の準備行為が行われた場合、処罰対象となる。ただ、準備行為はそれ自体が犯罪である必要がない。
 例えば、基地建設に反対する市民団体が工事車両を止めようと座り込みを決めた場合、捜査機関が裁量で組織的威力業務妨害が目的の組織的犯罪集団だと判断し、仲間への連絡が準備行為と認定される可能性
がある。
 また、政府への抗議活動をしている労組が「社長の譲歩が得られるまで徹夜も辞さない」と決めれば、組織的強要を目的とする組織的犯罪集団と認定され、誰か一人が弁当の買い出しに行けば、それが準備行
為とされる可能性がある。
 米国の共謀罪に詳しい小早川義則・名城大名誉教授(刑事訴訟法)は「米国では、顕示行為(準備行為)は非常に曖昧で、ほんのわずかな行為や状況証拠からの推認で共謀が立証される」と説明。「日本の法
体系と全くの異質のものを取り入れる必要性があるのか」と疑問を呈した。
 また、「その他」は無制限に解釈が広がる恐れがある。新屋(しんや)達之・福岡大教授(刑事法)は「何でも当てはめることができ、限定にはならない。結局、犯罪計画と関係ある準備行為かどうかは、捜
査側の判断になる」と述べた。
(引用終わり)
 
(その2 動画の部)
20170221 UPLAN 共謀罪を廃案にしよう!!安倍政治を終らせよう(1時間07分)

 2月21日(火)に行われた立憲フォーラムと戦争をさせない1000人委員会が主催する「安倍政治を終わらそう!2月21日集会」の模様です。
 この日のメイン講師は平岡秀夫さん(弁護士、元法務大臣、日本弁護士連合会共謀罪法案対策本部委員)、演題は「共謀罪と監視社会について考える」でした(動画の16分~1時間05分)。
 なお、平岡さんの講演後、1時間06分から山尾志桜里衆議院議員民進党)が、衆議院予算委委員会での審議状況について報告しています。ところで、山尾さんて、立憲フォーラムのメンバーだったんだろうか?(聞いたことなかったけど)。
 
(その3 声明の部)
MIC声明:「共謀罪」の国会提出に反対する
(引用開始)
                   
2017年2月24日
                   日本マスコミ文化情報労組会議
                   議長 小林 基秀
 国会で過去3度廃案になった「共謀罪」を「テロ等準備罪」と名称を変えた関連法案が、来月上旬に閣議
決定され、国会に提出されると報道されている。
 犯罪の実行行為がなくても相談をしただけで罪に問える「共謀罪」は、人々の思想・信条を処罰の対象
にするものであり、戦前の治安維持法にも通底する危険な法律だ。
 「共謀」(計画)を立証するために、電話や会議の盗聴や私信メールのチェックなどの捜査が将来的に導入されれば、プライバシーを著しく侵害する。民主主義社会の根幹である内心の自由表現の自由、集
会・結社の自由などの基本的人権を軽視する「共謀罪」は、日本国憲法の理念と相容れないと考える。
 政府は、対象となる犯罪の数を300未満に絞り込むとともに、テロを引き起こす可能性のある「組織的犯罪集団」のみを適用対象とすると説明し、さらに、計画だけでなく「準備行為」も要件にするとしている。しかし、組織的犯罪集団や準備行為の定義はあいまいなままだ。捜査当局の恣意的な判断により、政府に批判的な市民団体や労働組合などにも「テロ集団」のレッテルを貼り、摘発の対象にすることを私たち
は懸念する。
 古今東西、政府が、自らに批判的な勢力やメディアを恣意的な法の運用で弾圧した事例に枚挙にいとまがない。日常的な取材・報道活動や、労働組合の正当な活動まで犯罪とされかねないこの法案を、私たち
マスコミの現場で働く者は認めることはできない。
 これまでの国会審議をみても、法相が何度も答弁に窮して立ち往生し、実質的な議論がなされていない。これは政府が準備している法案が、体系立てて論理的に説明できないほど不備が多いことの表れではな
いか。その上、国会での質問封じの文書を配布するなど、拙劣な対応が非難の的となっている。
 民主主義社会にとって弊害が大きすぎる「共謀罪」関連法案の国会提出に、私たちは強く反対する。
                                     以 上
日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
新聞労連民放労連出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労)
この件に関する問い合わせは事務局・山下(070-5010-7156)までお願いします。

(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年1月25日
映画『いのちの森 高江』上映会@2/26和歌山市勤労者総合センターへのお誘い
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する

2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介

2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
 

(付録)
辺野古節』『満月の夕(ゆうべ)』『踊れ、踊らされる前に』 演奏:中川敬withリクオ
 
※2015年11月14日@新宿アルタ

共謀罪(金原)チラシ一からわかる共謀罪(表)一からわかる共謀罪(裏) 

日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 今晩(2017年2月23日)配信した「メルマガ金原No.2732」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む

 共謀罪シリーズの第6回として、去る2月17日に日本弁護士会連合会が公表した「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」をご紹介します。
 日弁連による同趣旨の意見書としては、2012年4月13日付「共謀罪の創設に反対する意見書」がありましたが、今通常国会に間もなく上程されるのではという緊迫した情勢の下、最新情勢を取り込むアップツーデートを行った新たな意見書を公表する必要があるという判断に基づくものでしょう。
 
 一読したところ、本意見書は、「テロ等組織犯罪準備罪」という新たな名称をまとった共謀罪法案が、①犯罪主体を「組織的犯罪集団」に限定、②「計画」の存在、③「準備行為」を処罰条件とするという3要件を規定しており、人権の侵害や恣意的な取締りにはつながらないという触れ込みに対して理論的な反駁を行うことに重点が置かれており、大いに参考にしていただけるのではないかと思います。
 
 なお、同じ2月17日、日本弁護士連合会は、「日本国憲法に緊急事態条項(国家緊急権)を創設することに反対する意見書」も公表しており、こちらの方も近くご紹介したいと思います。
 
(引用開始)
                          2017年(平成29年)2月17日
                          日本弁護士連合会
 
第1 意見の趣旨
 当連合会は,いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する。
 
第2 意見の理由
1 共謀罪法案の国会への再提出

 政府は,2000年に署名され,2003年に発効した国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(以下「国連越境組織犯罪防止条約」という。)締結のために必要であるとして,2003年,2004年,2005年の3回にわたって共謀罪法案を国会に提出したが,いずれも廃案となった。
 ところが,2015年11月フランスでのテロ事件の発生を機に,政府関係者から,テロ対策のために共謀罪の創設が必要であるとの発言がなされるようになった。そして,2016年8月以降,政府が「共謀罪」を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を改めて取りまとめ,臨時国会に提出することを検討している旨報じられた。その後臨時国会への法案提出は見送られたものの,報道によれば,2017年1月に召集された通常国会共謀罪に関する新たな法案の提出が確実視されており,現時点において,法定刑が懲役4年以上である600を超える犯罪について共謀罪が新設されようとしている。
 当連合会は,共謀罪に関して,これまで,直近では,2012年4月13日付け「共謀罪の創設に反対する意見書」を提出しているが,以上の状況を踏まえ,当連合会の見解を改めて表明するために本意見書を取りまとめた。
 
2 共謀罪法案の概要
 これまでの報道及び本国会における審議を踏まえ,本国会に提出されることが想定される法案(以下「共謀罪法案」という。)は,現行の「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律」(以下「組織的犯罪処罰法」という。)の第6条の2に「テロ等準備罪」を創設し,組織的犯罪集団の活動として,組織により行われる重大な犯罪の遂行を2名以上で計画した場合で,計画に係る犯罪の実行のための資金又は物品の取得等の準備行為が行われたときに処罰するとされている。
 そして,共謀罪法案は,3つの厳しい要件(①犯罪主体を「組織的犯罪集団」に限定,②「計画」の存在,③「準備行為」を処罰条件とする)を規定しており,人権の侵害や恣意的な取締りにはつながらず,これまでの批判は回避されているとしている。
 
3 共謀罪法案の基本的な問題点
(1)共謀罪法案は,現行刑法の体系を根底から変容させるものとなること

 現行刑法は,犯罪行為の結果発生に至った「既遂」の処罰を原則としつつ,例外的に,犯罪の実行行為には着手されたが結果発生に至らなかった「未遂」について処罰する(刑法第44条)という体系から構成されている。「未遂」の前段階である「予備」(犯罪の実行行為には至らない準備行為のこと),さらにその前段階である「陰謀」(2人以上の者が犯罪の実行を合意すること)が処罰の対象とされる場合もあるが,これら「予備」や「陰謀」は各罪の中でごく例外的に処罰対象とされているにとどまる。この点は,現行刑法典だけでも,「既遂」が200余り規定されているのに対して,「未遂」は60余り,「予備」は10余り,「陰謀」はわずか数罪にとどまることからも明らかである(なお,共謀罪法案の対象となる犯罪は刑法典に規定された犯罪に限定されるものではないが,刑法典が刑罰の基本法規であることから,ここでは,刑法典に規定されている犯罪類型を例に挙げて検討している。)。
 しかし,共謀罪法案の構成要件である「計画」は,現行刑法でみると「陰謀」とほぼ同義であると解されるので,共謀罪法案が成立すると,長期4年以上の刑が定められた犯罪については,「未遂」はおろか,「予備」にすら到っていない「陰謀」の段階で,犯罪が一律に成立することになる。現行刑法典でみると,長期4年以上の刑が定められた犯罪が100近くあることから,「陰謀」の段階において処罰の対象とされる犯罪が100近く出てくることになるが,これは「未遂」の60余りを優に超えている。しかも,これら100近くの犯罪の中には,その「未遂」が処罰されないものが約半数含まれており,「未遂」が処罰されないにもかかわらず,「陰謀」の段階で処罰されることとなる犯罪が約半数出てくることになる。
 このように,「計画」を要件とする共謀罪法案が成立した場合には,「既遂」の前々々段階において国家による刑罰権の発動がなされることとなる。しかし,「陰謀」の段階における法益侵害の危険性は,犯罪の実行に着手したが結果が発生しなかった「未遂」の場合に比すれば類型的にはるかに低く,それゆえに現行刑法上は「内乱」,「外患誘致・援助」,「私戦」等ごく限られた結果が極めて重大な犯罪についてのみ「陰謀」を処罰することとしているのであって,「陰謀」と同様の意味を有する「計画」について「未遂」の場合と同程度の(処罰の対象となる個数から言えば,それ以上の)刑罰権の発動が正当化されるとは考えられない。
(2)共謀罪法案においても,犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格は変わらないと見るべきこと
 上述のとおり,共謀罪法案は,前述のとおり3つの厳しい要件を規定しており,恣意的な取締りにはつながらないと説明されている。
 しかし,これらの構成要件ないし処罰条件は,犯罪の対象を限定する機能を適切に果たすことができないおそれがあり,共謀罪法案は,依然として,犯罪を共同して実行する意思を処罰の対象とするものと評価されてもやむを得ないものである。以下,理由を述べる。
①「組織的犯罪集団」と規定しても犯罪主体が適切に限定されないこと
 共謀罪法案は,犯罪主体を「組織的犯罪集団」(団体のうち,その結合関係の基礎としての共同の目的が「重大な犯罪」(長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪)又は国連越境組織犯罪防止条約が定める犯罪を実行することにあるもの)と規定し,それらの行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者を処罰するとするものである。したがって,犯罪主体となり得るのは,テロ組織,暴力団,薬物密売組織,振り込め詐欺集団等に限定され,通常の市民団体や労働組合等の活動が処罰の対象となることはない,と説明されている。
 しかしながら,例えば,組織的犯罪処罰法は,「団体」について「共同の目的を有する多人数の継続的結合体であって,その目的又はその意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復継続して行われるもの」(同法第2条第1項)と規定する。また,暴力団員の行う暴力的要求行為等の規制を目的として制定された「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」は,「暴力団」について,「その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員も含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体」(同法第2条第2号)と規定する。
 さらに,「破壊活動防止法」は,「団体」について,「特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体」とそれぞれ定義している(同法第4条第3項)。
 このように,主体を暴力団員等に限定したいのであれば,「組織的犯罪集団」の定義において,これらの法律に準じて,「常習性」,「反復継続性」等の要件が付加,明記されてしかるべきである。しかしながら,共謀罪法案の主体についてこのような要件の縛りはなく,主体がテロ組織,暴力団,薬物密売組織,振り込め詐欺集団等の構成員に限定されている趣旨を読み取ることはできない。
 また,「組織的犯罪集団」かどうかが問題となるのは,あくまで犯罪の共謀を行った時である。したがって,もともと適法な活動を目的とする市民団体や労働組合等がある時点で違法行為を計画した場合も,その時点で法の定義する「組織的犯罪集団」となったと解釈できる余地を残している。
 そして,共謀罪の適用が問題となるのは,団体が組織として犯罪行為実行することを共謀(共謀罪法案では「計画」)した時点であるから,もともと適法な活動を目的とする団体であったとしても,共謀の時点では「組織的犯罪集団」と認定され,共謀罪の対象とされる危険性が十分ある。現に,最高裁平成27年9月15日決定は,組織的犯罪処罰法に定める「団体」について,当初は適法な活動を行っていた会社であっても,その後の活動によっては要件を充足することを認め,さらに,当該会社の従業員の中に犯罪行為に加担していないものがいたからといって別異に解する理由はないとしている。
 このように,「組織的犯罪集団」を「共同の目的が犯罪を実行することにある団体」と定義しても,テロ組織,暴力団,薬物密売組織,振り込め詐欺集団等に限定される保証はなく,通常の市民団体や労働組合が処罰の対象とされる可能性があり,主体の限定は政府が言うように有効に機能するとは期待できない。
②「計画」の要件が存在しても犯罪の成立が適切に限定されないこと
 共謀罪法案は,「計画」という要件により,処罰の対象となるのは,犯罪の実行を目的とする合意が具体的・現実的になった段階に限定され,そのような段階に達成していない合意は処罰の対象とされないものとされている。
 しかし,「計画」とは,目的を達成するためにあらかじめ考えた方法・手段・手順等をさす用語とされているが,実質的には合意を言い換えたものであり,この文言だけからは,合意の具体性・現実性までが要求される趣旨は読み取れず,犯罪の成否を分かつ分水嶺として機能するとは思われない。
③「準備行為」の要件は適切に機能しないこと
 共謀罪法案は,計画(合意)のみならず,当該犯罪の実行の「準備行為」がなされることを処罰条件として付加されており,内心や思想を処罰するものではない,とされている。
 しかしながら,今回,「準備行為」の例として,資金又は物品の取得が例示されていることから分かるように,準備行為自体は,予備罪や準備罪における予備行為又は準備行為のように,その行為自体が結果発生の危険性を帯びる行為とはされておらず,計画に基づく行為(その行為は,我々が日常生活において通常行っている行為でも構わない。)が外部に現れれば,処罰条件は具備されたことになると理解される。
 また,「準備行為」は処罰条件に過ぎないため,「計画」の時点から犯罪の嫌疑がありとして犯罪捜査の対象となり得る。
 そうすると,「準備行為」がなされたことを処罰条件とするとしても,共謀罪法案は,依然として,犯罪を共同して実行する意思を処罰の対象としていることと実質的には変わらないと言わざるを得ない。
④構成要件の人権保障機能が阻害されるおそれがあること
 現行刑法は,法律において構成要件を明記し,構成要件に該当しない行為については処罰の対象とせず国家の刑罰権の発動を抑制することによって,構成要件に人権保障機能を持たせている。現行刑法体系における構成要件は,外部に現れた人の「行為」のうち,法益侵害又はその危険性のあるものを個別・具体的に抽出して規定し,処罰の対象となる行為とそうでない行為が明確に区分されることから,構成要件は人権保障機能を果たしているとされる。ところが,共謀罪法案が成立すれば,「犯罪を実行する意思」の合致にほかならない「計画」が構成要件となり,しかも,これは外部から伺い知ることは困難であるから,犯罪の成否を区別するための構成要件の人権保障機能が十分に機能しないこととなりかねない。
⑤まとめ
 以上のとおりであって,共謀罪法案において3つの要件が付加されたとしても,従前の共謀罪法案と同じく,犯罪を実行しようとする意思を処罰の対象とする姿勢に変化はないものと見るべきである。
(3)罪名を「テロ等準備罪」と改めても,監視社会を招くおそれがあること
 共謀罪法案は,その呼称が「テロ等準備罪」とされていることから(さらに,上記(2)に記載の要件を付加することによって),この罪がテロその他の組織犯罪にしか適用されず,市民運動労働組合活動等には適用されない,と説明されている。
 しかし,共謀罪法案の構成要件は上述のとおりであるところ,この構成要件から,共謀罪法案がテロ等に対してのみ適用される犯罪類型であることは読み取れない。
 加えて,共謀罪法案が成立すれば,犯罪を共同して実行する意思の合致である「計画」が重要な構成要件となるところ,人と人とが犯罪を遂行する合意をしたかどうかや,その合意の内容が実際に犯罪に向けられたものか否かの判断は,犯罪の実行が着手されていない段階では,事柄の性質からして極めて困難である。したがって,犯罪の成否を明確にし,人権保障を担っている構成要件が機能せず,検挙しようとする捜査機関の恣意的な判断を容れる余地が出てくる。
 また,「計画」(合意)は人と人との意思の合致によって成立する。したがって,その捜査手法は,会話,電話,メール等の人の意思を表明する手段及び人の位置情報等を収集することとなる。既に通信傍受やGPS(グローバル・ポジショニング・システム)による捜査が行われているところ,共謀罪の捜査のためとして,新たな立法により,更なる通信傍受の範囲の拡大,会話傍受,更には行政盗聴まで認めるべきであるとの議論につながるおそれがある。このような捜査手法が認められたなら,市民団体や労働組合等の活動を警察が日常的に監視し,行き過ぎた行動に対して,共謀罪であるとして立件するおそれもあり,市民の人権に少なからぬ影響を及ぼしかねない。
 
4 国連越境組織犯罪防止条約との関係
(1)
政府は,共謀罪法案を制定する理由として,国連越境組織犯罪防止条約を締結するために国内法の整備が必要であることを挙げている。国連越境組織犯罪防止条約では,締結国に対して,重大な犯罪を行うことの合意の犯罪化等を求めているところ(第5条第1項),重大な犯罪とは,長期4年以上の刑が科される犯罪とされていることから(第2条(b)),長期4年以上の刑が定められた犯罪を実行する計画を立案したことを処罰の対象とする共謀罪法案の創設が不可欠としている。
 もとより当連合会においても,国連越境組織犯罪防止条約の締結について反対するものではないが,我が国においては国連越境組織犯罪防止条約との関係でも当然に共謀罪の創設を必要とするものではない。以下,その理由を述べる。
(2)「予備」,「陰謀」,「準備」の段階の処罰立法が既になされていること
 我が国においては,主要な暴力犯罪について,「未遂」以前の「予備」,「陰謀」,「準備」段階の行為を処罰の対象とする規定が相当程度存在している。
 まず,生命・身体・財産等を保護法益とするものとしては,殺人(刑法第201条,組織的犯罪処罰法第6条第1項),強盗(刑法第237条),身の代金目的略取(刑法第228条の3),営利目的等略取及び誘拐(組織的犯罪処罰法第6条第2項),いわゆるハイジャック(航空機の強取等の処罰に関する法律第3条)等について,「予備」の段階を処罰の対象とし,治安を妨げ,身体財産を害することを目的としての爆発物の使用(爆発物取締罰則第4条),他人の身体に対して害を加えることの「共謀」への参加(ただし,その一部の者が予備行為をした場合に限る。)(軽犯罪法第1条第29号)等について,処罰の対象とされている。
 次に,公共の安全を保護法益とするものとしては,現住建造物等放火(刑法第113条),激発物破裂(同法第117条),化学兵器を使用して毒性物質を発散させる化学兵器等使用(化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律第40条),病原体等を発散させて公共の危険を生じさせる行為(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第67条第3項),サリン等を発散させて公共の危険を生じさせる行為(サリン等による人身被害の防止に関する法律第5条第3項),放射線を発散させる行為(放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第3条第3項),けん銃等の輸入罪(銃砲刀剣類所持等取締法第31条の12),核物質の輸入罪(放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律第6条第3項),麻薬等,覚せい剤大麻の輸入・輸出等(麻薬及び向精神薬取締法第67条,第69条の2,覚せい剤取締法第41条の6,大麻取締法第24条の4),犯罪収益等に関する事実の仮装,隠匿(組織的犯罪処罰法第10条第3項)等について,「予備」の段階を処罰の対象としている。さらに,2人以上の者が他人の生命等に対して共同して害を加える目的で凶器を準備して集合する行為等(刑法第208条の2)について,「準備」の段階を処罰の対象としている。また,公衆等脅迫目的の犯罪を実行しようとする者が武器を購入するために資金を集める行為,これらの者を援助する目的で資金,土地,建物,物品,役務を提供する行為が処罰の対象とされているが(公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律第2条から第5条),これは公衆等脅迫行為の「準備」と言えるものである。
 さらに,国家を保護法益とするものとしては,内乱(同法第78条),外患誘致,外患援助(同法第88条),私戦予備及び陰謀(同法第93条)等について,「予備」,「陰謀」の段階で,処罰の対象とされている。自衛隊員(治安出動命令を受け,防衛出動命令を受けた者を含む。)が上官の職務命令に対して多数共同して反抗等する行為(自衛隊法第119条,同法第120条,第122条),特定秘密の取扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密を漏らす行為,法令の規定により特定秘密の提供を受けた者がこれを漏らす行為(特定秘密の保護に関する法律第25条)等について,「陰謀」の段階を処罰の対象としている。
 以上のとおり,我が国には,「予備」,「陰謀」,「準備」の段階を処罰の対象とする立法が既になされており,「陰謀」段階を処罰する新たな立法をする必要性は乏しい。
(3)テロ対策のための立法がなされてきたこと
 国連は,国連越境組織犯罪防止条約とテロ関係の条約を明確に区別した上で,テロ対策のための条約を多数制定している。例えば,ハイジャック防止のためのハーグ条約(1970年),核物質防護条約(1980年),シージャック防止条約(1988年),プラスチック爆薬探知条約(1991年)等のテロ防止関連13条約がそれである。
 また,2002年には,国連テロ資金供与防止条約が締結され,我が国では,(2)記載のとおり,国内法としてテロ資金提供処罰法(公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金等の提供等の処罰に関する法律)が制定された。この法律は,公衆等脅迫目的の犯罪を実行しようとする者を援助する目的で資金等を提供する行為である「準備」行為についても,処罰の対象とし,処罰対象者の範囲も,実行者に直接利益を提供する協力者だけでなく,間接的に支援する協力者にまで拡大している。
 2007年には,(2)記載のとおり,放射線を発散させて人の生命等に危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律が成立し,この法律においても,放射線を発散させる行為について「予備」を処罰することとされている。
(4)条約の一部留保を行う余地があること
 政府は,国連越境組織犯罪防止条約第5条が,「重大な犯罪」を共謀罪の対象犯罪とすることを義務付けていることから,共謀罪の対象犯罪を限定することはできず,限定すれば同条約に反するとともにその趣旨及び目的に反すると説明している。
 しかし,条約法に関するウィーン条約では,条約の趣旨及び目的と両立すれば,留保を付して条約を批准することができることとされており(第19条(C)),国連越境組織犯罪防止条約第5条については一部留保してもこの条約の趣旨及び目的と両立させることができ,したがって,一部留保してこの条約を締結することが可能と考えられる。以下理由を述べる。
 外務省の説明によれば,国際社会における法の抜け穴をなくし,国際的な組織犯罪の防止のための国際協力を促進することを通じて,深刻化する国際的な組織犯罪に対する国際的な取組の強化に寄与することができることから,早期に国連越境組織犯罪防止条約を締結することが我が国の責務である,としている。
 まず,上述において述べたとおり,テロ等対策のための主要な犯罪については,「未遂」の前段階を処罰する立法が既に存在しており,また,「予備」罪についても共謀共同正犯が認められ,予備行為の謀議に加わった者も処罰の対象とできることとされていることを踏まえれば,新たな立法をすることなく,国連越境組織犯罪防止条約を締結しても同条約の趣旨及び目的に反しないものと考えられる。
 また,従前の共謀罪審議において,当時の民主党が長期5年の刑期を超える犯罪を対象とした修正案を当時の自民党が受け入れる方針を明らかにしたことがあったことに加え,今般も,与党から「重大な犯罪」に該当する罪であっても,性質上対象になり得ない罪(過失犯等)や組織犯罪と関連性が低い罪(公職選挙法等)が除外されることが議論されていることからして,政府の条約解釈においても,条約上の「重大な犯罪」を全て共謀罪として立法する必要がないことが裏付けられている。そして,後述するように,個別にテロ等対策のための犯罪化が必要かどうかを検討した上で,どうしても必要なものに限り立法化を図るということによっても,国連越境組織犯罪防止条約の要求を満たすとして同条約を締結する,あるいは少なくとも同条約の趣旨及び目的と両立する範囲内で同条約を一部留保して締結することが可能なはずである。
 さらに,国連越境組織犯罪防止条約を締結するために,新たに共謀罪を設けたのは,外務省によれば,ノルウェーブルガリアの2か国にとどまっている。そのノルウェーブルガリアを含め,これまで共謀罪を設けて国連越境組織犯罪防止条約を締結した国・地域の全てが,「重大な犯罪」に該当する罪の全てについて共謀罪を制定していたのかについては不明のままである。
 また,上述のとおり,我が国においては,「予備」,「陰謀」,「準備」の段階を処罰の対象とする立法が既になされており,もしその水準では国連越境組織犯罪防止条約を締結できないというのであれば,これまで同条約を締結するために共謀罪を制定した国・地域の全てにおいて,我が国の水準以上に共謀罪が存在していることが明らかにされなければならないが,現時点でその説明がなされていないままである。
 したがって,国連越境組織犯罪防止条約の締結のためには,「重大な犯罪」全てについて共謀罪の新設が必要とする政府の主張は厳密に裏付けられておらず,むしろ,同条約を締結した国・地域が,この条約が要求する全ての犯罪について処罰できるように国内法を整備したか否かは明確ではなく,実質的に見て一部留保して締結した国・地域も少なくないと思われる。
 なお,人種差別撤廃条約を批准する際に,人種差別に関わる扇動や団体への参加を処罰すべきとする同条約第4条について,「日本国憲法の下における集会,結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において,これらの規定に基づく義務を履行する」と留保を付した例も存する。
 以上のとおり,国連越境組織犯罪防止条約についても,同条約の趣旨及び目的との両立を維持しながら,同条約第5条を部分的に留保することにより,同条約を締結することは可能である。
(5)テロ等対策の必要性があれば,個別・具体的な立法で対応すべきであること
 仮に我が国におけるテロ等対策について,上記(2)及び(3)で挙げた現行の立法では不十分である場合であっても,「未遂」の前段階の「予備」の段階で処罰する必要性のある犯罪行為,さらにその前の「陰謀」の段階,あるいは「準備」の段階での処罰が必要とされる犯罪行為をそれぞれ抽出した上で,処罰の対象行為を特定し,個別・具体的に立法を検討することが可能である(その立法の過程において,立法の必要性,構成要件の明確性等について,審議される。)。もとより,この場合であっても,現行刑法の体系を大きく損なうことがないよう,「未遂」の処罰規定がない犯罪について,共謀罪を創設すべきではないし,共謀罪が処罰される犯罪の個数は,「未遂」が処罰される犯罪の個数を大幅に下回る必要があるであろう。共謀罪法案のように,長期4年以上の刑が定められた犯罪について,一律に,犯罪とする必要性はない。
 
5 結論
 以上述べたとおり,テロ対策自体についても既に十分国内法上の手当はなされており,テロ対策のために政府・与党が検討・提案していたような広範な共謀罪の新設が必要なわけではない。また,国内法の整備状況を踏まえると,共謀罪法案を立法することなく,国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能である。
 もし,テロ対策や組織犯罪対策のために新たな立法が必要であるとしても,政府は個別の立法事実を明らかにした上で,個別に,未遂以前の行為の処罰をすることが必要なのか,それが国民の権利自由を侵害するおそれがないかという点を踏まえて,それに対応する個別立法の可否を検討すべきであり,個別の立法事実を一切問わずに,法定刑で一律に多数の共謀罪を新設する共謀罪法案を立法すべきではない。
 よって,当連合会は,いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する。
(引用終わり)
 
 

(付録)
辺野古節』『満月の夕(ゆうべ)』『踊れ、踊らされる前に』 演奏:中川敬withリクオ
 
※2015年11月14日@新宿アルタ