wakaben6888のブログ

憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における日本政府による再度の行政不服審査制度の濫用を憂う」(2018年10月26日)を読む

 2018年10月27日配信(予定)のメルマガ金原No.3313を転載します。
 
行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における日本政府による再度の行政不服審査制度の濫用を憂う」(2018年10月26日)を読む
 
 8月31日、沖縄県知事職務代理者富川盛武副知事から権限の委任を受けた謝花喜一郎副知事は、辺野古沖公有水面埋立についての承認を取り消す(講学上は撤回)旨の決定を行い、沖縄防衛局に通知しました。
※公有水面埋立承認取消通知書
※8月31日記者会見における謝花副知事コメント
 この埋立承認取消(撤回)の方針は、8月8日に急逝した翁長雄志前知事が、7月27日に公表した方針を引き継いだものでした。
※7月27日記者会見における翁長知事コメント
 
 これに対し、10月17日、沖縄防衛局は、行政不服審査法に基づき、審査請求及び執行停止を国土交通大臣に申し立てました。
 
 ここまでの経緯については、私のブログでも、以下のとおり継続して取り上げてきました。
 
2018年7月27日
翁長雄志沖縄県知事が公有水面埋立承認の撤回に向けた意向を表明しました(2018年7月27日)
2018年9月1日
玉城デニー氏による沖縄県知事選挙への出馬表明(2018年8月29日)を視聴する(冒頭発言部分文字起こし)
※8月31日に行われた富川、謝花両副知事による記者会見の動画などをご紹介しています。
2018年10月20日
辺野古沖公有水面埋立承認取消(撤回)処分に対する沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを考えるための資料のご紹介
2018年10月25日
沖縄県知事が「執行停止に関する意見書」(2018年10月24日)を国土交通大臣に提出
 
 今日は、昨日(10月26日)公表された行政法研究者有志110名による声明「辺野古埋立承認問題における日本政府による再度の行政不服審査制度の濫用を憂う」をご紹介します。
 表題に「再度の」と表記されているのは、辺野古埋立承認問題で政府(の機関である沖縄防衛局)が行政不服審査制度を利用(濫用)するのが2度目ということですが、「濫用を憂う」行政法研究者有志による声明を発表するのも2度目のことです。
 
 前回は、翁長雄志沖縄県知事が、2015年10月13日、仲井眞弘多前知事が行った辺野古沿岸部への公有水面埋立承認を取り消したのに対し(仲井眞知事による承認が瑕疵あるものであったことを理由とする取消でした)、沖縄防衛局が、翌10月14日、行政不服審査法に基づき国土交通大臣に対して審査請求するとともに、執行停止の申立てをしたのでした。
 そして、3年前も、行政法研究者による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」という声明が公表されています(同年10月23日リリース)。
 
 そして「再度の」「憂う」声明の公表です。全文引用します。是非多くの方への周知にご協力ください。
 
(引用開始)
                                     声明
                  辺野古埋立承認問題における日本政府による
                    再度の行政不服審査制度の濫用を憂う
 
                                                                2018年10月26日
                                                              行政法研究者有志一同
 
 沖縄県は、2018年8月31日、仲井眞弘多元知事が行った辺野古沿岸部への米軍新基地建設のための公有水面埋立承認を撤回した(以下「撤回処分」という)。これに対し、10 月17日、防衛省沖縄防衛局は、行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に対し、撤回処分についての審査請求と執行停止申立てを行った。これを受けて、近日中に、国土交通大臣は撤回処分の執行停止決定を行うものと予想されている。
 国(防衛省沖縄防衛局と国土交通大臣)は、2015年10月にも、同様の審査請求・執行停止申立てと決定を行い、その際、私たちは、これに強く抗議する声明を発表した。そして、福岡高等裁判所那覇支部での審理で裁判長より疑念の指摘もあった、この審査請求と執行停止申立ては、2016年3月の同裁判所での和解に基づいて取り下げられたところである。
 今回の審査請求と執行停止申立ては、米軍新基地建設を目的とした埋立承認が撤回されたことを不服として、防衛省沖縄防衛局が行ったものである点、きわめて特異な行政上の不服申立てである。なぜなら、行政不服審査法は、「国民の権利利益の救済」を目的としているところ(行審1条1項)、「国民」、すなわち一般私人とは異なる立場に立つことになる「固有の資格」において、行政主体あるいは行政機関が行政処分の相手方となる処分については明示的に適用除外としている(行審7条2項)にもかかわらず、防衛省沖縄防衛局が審査請求と執行停止申立てを行っているからである。
 そもそも公有水面埋立法における国に対する公有水面の埋立承認制度は、一般私人に対する埋立免許制度とは異なり、国の法令遵守を信頼あるいは期待して、国に特別な法的地位を認めるものであり、換言すれば、国の「固有の資格」を前提とする制度である。国が、公有水面埋立法によって与えられた特別な法的地位(「固有の資格」)にありながら、一般私人と同様の立場で審査請求や執行停止申立てを行うことは許されるはずもなく、違法行為に他ならないものである。
 また、撤回処分の適法・違法および当・不当の審査を国という行政主体内部において優先的にかつ早期に完結させようという意図から、日本政府が防衛省沖縄防衛局に同じく国の行政機関である国土交通大臣に対して審査請求と執行停止申立てを行わせたことは、法定受託事務にかかる審査請求について審査庁にとくに期待される第三者性・中立性・公平性を損わしめるものである。
 実際、故翁長雄志知事が行った埋立承認取消処分に対して、審査庁としての国土交通大臣は、執行停止決定は迅速に行い埋立工事を再開させたものの、審査請求における適法性審査には慎重な審議を要するとして、前述の和解で取り下げられるまで長期にわたって違法性判断を回避した。それにもかかわらず、地方自治法上の関与者としての国土交通大臣は、ただちに埋立承認取消処分を違法であると断じて、代執行訴訟を提起するといった行動をとったのである。このような矛盾する対応は、審査庁としての国土交通大臣には第三者性・中立性・公平性が期待し得ないことの証左である。
 日本政府がとる、このような手法は、国民のための権利救済制度である行政不服審査制度を濫用するものであり、法治国家に悖るものといわざるを得ない。
 法治国家の理念を実現するために日々教育・研究に勤しんでいる私たち行政法研究者にとって、このような事態が生じていることは憂慮の念に堪えないものである。国土交通大臣においては、今回の防衛省沖縄防衛局による執行停止の申立てを直ちに却下するとともに、併せて審査請求も却下することを求める。
 
呼びかけ人(50 音順)
岡田 正則(早稲田大学教授) 
紙野 健二(名古屋大学名誉教授)
木佐 茂男(九州大学名誉教授、北海道大学名誉教授)   
榊原 秀訓(南山大学教授)
白藤 博行(専修大学教授)               
徳田 博人(琉球大学教授)
人見  剛(早稲田大学教授)
本多 滝夫(龍谷大学教授)
山下 竜一(北海道大学教授)       
亘理  格(中央大学教授)
 
賛同者(50音順) 
赤間 聡(高知大学講師)、浅川千尋天理大学教授)、阿部泰隆(神戸大学名誉教授)、荒木 修(関西大学教授)、李 斗領(立正大学教授)、石黒匡人(小樽商科大学教授)、石崎誠也(新潟大学名誉教授)、石塚武志(龍谷大学准教授)、和泉田保一(山形大学准教授)、礒野弥生(東京経済大学名誉教授)、磯村篤範(島根大学教授)、市橋克哉(名古屋大学教授)、稲葉一将(名古屋大学教授)、井上禎男(琉球大学教授)、今川奈緒茨城大学准教授)、岩﨑恭彦(三重大学准教授)、碓井光明(東京大学名誉教授)、大久保規子(大阪大学教授)、大沢 光(青山学院大学教授)、大田直史(龍谷大学教授)、大貫裕之(中央大学教授)、岡崎勝彦(島根大学名誉教授)、長内祐樹(金沢大学准教授)、折登美紀(福岡大学教授)、梶 哲教(大阪学院大学准教授)、角松生史(神戸大学教授)、門脇美恵(名古屋経済大学教授)、北見宏介(名城大学准教授)、桑原勇進(上智大学教授)、神山智美(富山大学准教授)、川合敏樹(國學院大學教授)、小島延夫(早稲田大学教授)、後藤 智(富山国際大学教授)、小林博志(西南学院大学教授)、児玉 弘(佐賀大学准教授)、駒林良則(立命館大学教授)、蔡 秀卿(立命館大学教授)、斎藤 浩(立命館大学客員教授)、三野 靖(香川大学教授)、芝池義一(元京都大学教授)、島田 茂(甲南大学教授)、島村 健(神戸大学教授)、下村 誠(京都府立大学准教授)、下山憲治(名古屋大学教授)、庄村勇人(名城大学教授)、杉原丈史(愛知学院大学教授)、鈴木眞澄(龍谷大学名誉教授)、首藤重幸(早稲田大学教授)、竹内俊子(広島修道大学名誉教授)、武田真一郎(成蹊大学教授)、田村和之(広島大学名誉教授)、寺田友子(桃山学院大学名誉教授)、豊島明子(南山大学教授)、仲地 博(沖縄大学教授)、西田幸介(法政大学教授)、萩原聡央(名古屋経済大学教授)、畠山武道(北海道大学名誉教授)、浜川 清(法政大学名誉教授)、原島良成(熊本大学准教授)、晴山一穂(専修大学名誉教授)、平川英子(金沢大学准教授)、平田和一(専修大学教授)、深澤龍一郎(名古屋大学教授)、福家俊朗(名古屋大学名誉教授)、府川繭子(青山学院大学准教授)、藤枝律子(三重短期大学教授)、洞澤秀雄(南山大学教授)、前田定孝(三重大学准教授)、三浦大介(神奈川大学教授)、見上崇洋(立命館大学教授)、村上 博(広島修道大学教授)、安本典夫(大阪学院大学教授)、山田健吾(広島修道大学教授)、山本順一(桃山学院大学教授)、由喜門眞治(関西大学教授)、
横田光平(同志社大学教授)、横山信二(広島大学名誉教授)      
 
呼びかけ人10人 賛同者数100人(うち公表77人、非公表23人)
10月26日午後5時現在                  
                  
PDF版はこちら
(引用終わり)
 
 賛同者のリストの中に、かつて放送大学和歌山学習センターで行われた面接授業を受講したことのあるH先生(当時、放送大学准教授)のお名前を見つけて嬉しかったですね。

「自民党改憲案の臨時国会提出に断固反対する法律家団体の緊急声明」(2018年10月26日)を読む~安倍首相による違憲の施政方針演説を踏まえて

 2018年10月26日配信(予定)のメルマガ金原No.3312を転載します。
 
自民党改憲案の臨時国会提出に断固反対する法律家団体の緊急声明」(2018年10月26日)を読む~安倍首相による違憲の施政方針演説を踏まえて
 
 社会文化法律センター、自由法曹団青年法律家協会弁護士学者合同部会、日本国際法律家協会、日本反核法律家協会、日本民主法律家協会の6団体が、改憲問題対策法律家6団体連絡会を正式に結成したのがいつのことか、詳らかに承知はしていないのですが、私も所属する青年法律家協会弁護士学者合同部会のホームページの「青法協弁学合同部会の活動」⇒「決議/声明/意見書」で調べてみたところ、巻末リストのとおり、初めて改憲問題対策法律家6団体連絡会を名乗った声明は、2015年6月29日に開かれた「法律家は安保法制を許さない6.29院内集会 法律家6団体共同アピール」においてでした。
 その直前の同年6月2日に開かれた「法律家は安保法制を許さない6・2院内集会」で採択された「安保法制(戦争法案)の廃案を求める法律家6団体の共同アピール」では、まだ法律家6団体連絡会は名乗っていませんので、いずれこの頃に、そう名乗ることにしたのではないかと思います。
 
 巻末リストを作ってみて、あらためて「こんなに声明やアピールを出していたんだ」と感心しました。こんなに出しても「全然効果がなかったではないか」という見方があるかもしれませんが、一々効果がなければ出しても無意味というものでもないでしょう。法律家として憂慮すべき事態に対する認識を対外的に公表することは、各法律家団体としての責務のはずですから。
 
 その改憲問題対策法律家6団体連絡会の最新の声明が、今日(10月26日)発表されました。「自民党改憲案の臨時国会提出に断固反対する法律家団体の緊急声明」がそれです。
 
 一昨日(24日)、12月10日までの会期で第197回国会(臨時会)が召集され、安倍晋三首相は、施政方針演説で以下のように言明しました(衆議院インターネット審議中継から書き起こしました/滑舌の悪さ故の聞き間違いがあるかもしれません)。
 
「国の理想を語るものは憲法です。憲法審査会において、政党が具体的な改正案を示すことで、国民の皆様の理解を深めることを、深める努力を重ねていく。そうした中から、与党、野党といった政治的立場を超え、出来るだけ幅広い合意が得られると確信しています。そのあるべき姿を、最終的に決めるのは国民の皆様です。制定から70年以上を経た今、国民の皆様と共に議論を深め、私達国会議員の責任を共に果たしていこうではありませんか。」
 
 今や、安倍首相やその周辺は、内閣総理大臣自民党総裁の立場を使い分けるつもりもなくなったようで、9月3日の第52回自衛隊高級幹部会同での訓示、10月14日の平成30年度自衛隊記念日観閲式における訓示に引き続き、国会での施政方針演説の中においてまで憲法改正への意欲をあからさまに表明するまでになりました。
 
 このように、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」という憲法99条の規定など完全無視の総理大臣が、「国の理想を語る(誰が?内閣総理大臣か?)」「憲法」を改正しようと旗を振っているのです。
 改憲問題対策法律家6団体連絡会が発表した「緊急声明」の「緊急」たる所以(ゆえん)は、以上の事態を踏まえたものと考えるべきでしょう。
 それでは、「自民党改憲案の臨時国会提出に断固反対する法律家団体の緊急声明」を是非お読みください。
 
(引用開始)
                     自民党改憲案の臨時国会提出に断固反対する
                               法律家団体の緊急声明
 
はじめに
 安倍首相(自民党総裁)は、10月2日の組閣後の記者会見において「憲法改正については、自民党案としては昨年の総選挙におきまして、自衛隊明記を含む4項目について、国民の皆様にお示しをし、力強い支持を得ることができました。総裁選で勝利を得た以上、党としては、下村憲法改正推進本部長の下にさらに議論を深めて作業を加速させていただき」「国会の第1党である自由民主党がリーダーシップをとって、次の国会での改正案提出を目指していくべき」と語り、改憲への強い意欲を改めて示した。また、自民党憲法改正推進本部長に、細田博之氏に代えて下村博文氏を起用し、衆議院憲法審査会では与野党協調路線と言われた中谷元氏、船田元氏らに代えて新藤義孝氏を筆頭幹事にあてるなど、改憲強硬路線の人事を整えた。
 改憲憲問題対策法律家6団体連絡会(以下、「6団体連絡会」という。)は、以下の理由から、臨時国会での自民党改憲案の提出に断固として反対するものである。
 
 憲法96条1項は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会がこれを発議」するとし、法律の改正に比べて高いハードルを設定している(硬性憲法)。これは、憲法が、個人の自由と人権をあらゆる国家権力から不可侵のものとして保障する規範(立憲主義憲法)であり、国の最高法規とされている(憲法98条1項)ことから、高度の法的安定性が要求されているためである。
 国の最高法規である憲法が、時の首相の一存で、あるいは、多数派の国会議員の数の力によって、軽々しく変更できるとなれば、国家権力を縛って国民の人権を保障しようとした立憲主義は無意味となる。国会に与えられた憲法改正の発議権は、最強の権力であり、濫用行使することは絶対に許されない。全国民を代表する国会議員で組織される両議院は、当該憲法改正案の発議が、果たして、立憲主義の原理から見て、必要であるのか、許されるのかを、慎重に真剣に議論し、その議論の過程を全国民に分かりやすく明らかにする重い責務を負う。
 議員ないし憲法審査会が憲法改正案を国会に提出するにあたっても、同様に、立憲主義国民主権による制約に服する。この理は、最終的に国民投票による審判が予定されていても同様である。
 4項目の自民党改憲案なるものは、本年3月の自民党大会でも決定できず、自民党員内ですら様々な意見のあるところであり、昨年秋の「国難突破」解散に引き続いて行われた総選挙においても、自民党改憲案は争点とはなっておらず、憲法審査会においても一度も議題にすら上がっていない。国民的な議論が全くないまま、自民党改憲案の本質を国民に伏せて、憲法9条の2に自衛隊を書き加えても「自衛隊の権限・任務に変更がない」と国民を欺き、オリンピックの年までに新しい憲法を施行したい(2017年5月3日安倍首相読売新聞インタビュー)などとして、自民党改憲案を臨時国会憲法審査会)に提出し、数の力で強引に来年の通常国会での憲法改正発議を狙うような暴挙は、立憲主義の破壊行為であり、絶対に許されることではない。
 
2.憲法を蹂躙し続ける安倍自民党に、改憲をリードする資格はない。
 安倍政権は、憲政史上最悪の憲法蹂躙政権となっている。秘密保護法、集団的自衛権の一部行使容認の閣議決定、安保法制、盗聴法の対象犯罪の拡大、共謀罪など、国民の多くが反対し、法曹関係者より憲法違反と指摘される数々の立法を、十分な審議もせずに強引に数の力で成立させてきた。また、野党議員による臨時国会の召集要求権(憲法53条)を無視する一方で、首相は解散権を濫用して衆議院を解散する暴挙を繰り返してきた。さらに、複数回にわたる国政選挙や県知事選挙等を通じて示された沖縄県民の意思を傲然と無視して、辺野古新基地建設を強行するなど権力行使の正当性根拠は見出しがたい。加えて、検証も反省も被害回復も置き去りにしてやみくもに原発再稼働を推し進める政権の姿勢は、国民の命や安全に対して実は無関心であることの現れといえる。
 さらに、森友疑惑をめぐる公文書改ざんと公文書毀棄、証拠隠滅、加計疑惑での事実を隠す数々の答弁、自衛隊の「日報」隠し、裁量労働制をめぐる不適切データの使用、財務省事務次官のセクハラ問題等々、民主主義国家の基盤を揺るがす事態が枚挙のいとまなく相次いでいる。
 国民の声に耳を貸さず、憲法を蹂躙し続ける安倍自民党(政権)に、改憲をリードする資格はない。
 
3.国民は憲法改正を望んでいない
 各種世論調査によれば、国民は憲法の改正を望んでいない。共同通信調査(本年10月2日3日)では、秋の臨時国会改憲案を出すことについて、反対は48.77%、賛成は36.44%、日本経済新聞社調査(同10月2日3日)では、同じく反対が66%、賛成が22%、朝日新聞調査(同10月13日14日)では、同じく反対が42%、賛成が36%である。朝日の調査では政権に一番力を入れて欲しい政策(択一)は、社会保障が30%で一位を占め、景気・雇用が次で17%、改憲は5%に過ぎない。国民が、第1に望んでいるのは、医療・年金・介護などの社会保障政策の充実であることは各社調査ともに一致しているが、他方で、第4次安倍政権が打ち出した「全世代型の社会保障改革」は期待できないが57%に及んでいる。また加計理事長の記者会見で疑惑が晴れたかの質問には82%が晴れていないと回答している(いずれも朝日新聞10月13日14日)。
 国民は、今、憲法改正を望んでいない。政府・国会に求められているのは、政治・行政の腐敗を正し、国民の政治への信頼を回復し、社会保障など国民生活に直結する施策の充実を図ることであり、憲法改正に前のめりになることではない。
 
4.自民党改憲案の危険性
 本年3月の自民党改憲推進本部と党大会で提案された9条改憲の諸案は、憲法9条1項2項を維持しながら「9条の2」を創設し、「わが国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため」に自衛隊を保持するとの条項を設けようとする。これらは、いずれも「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は認めない。」と規定する憲法9条2項の空文化を狙うものである。そこでの「必要な自衛の措置」という文言は、フルスペックの集団的自衛権の行使を可能とすることになりかねず、2015年に成立した安保法制が合憲化されるにとどまらず、憲法の平和主義の原理を捨てて、アメリカの指揮下で何時でもどこでも「普通に」戦争ができる国への転換を図るものであり、国民の自由と人権、生活への影響は計り知れない。また、緊急事態への対処条項は、自然災害の場合に限定されておらず、9条改憲とワンセットであることが明らかである。
 
5.最後に
 6団体連絡会は、これまで、立憲主義を破壊する安倍政権の一連の施策に反対し、自民党改憲4項目の本質と危険性についても警鐘を鳴らし続けてきた。自民党改憲案の臨時国会提出が言われている今、立憲主義を守り、安倍政権の改憲に反対する野党と市民とともに、断固として自民党改憲案の国会提出に反対することを宣言する。
                                                                             以上
 
 2018年10月26日
 
        改憲問題対策法律家6団体連絡会                 
        社会文化法律センター  共同代表理事 宮 里 邦 雄
        自由法曹団  団長 船 尾   徹
        青年法律家協会弁護士学者合同部会  議長 北 村   栄
        日本国際法律家協会  会長 大 熊 政 一
        日本反核法律家協会  会長 佐々木 猛 也
        日本民主法律家協会  理事長 右 崎 正 博
(引用終わり)
 
(付記)
 本年5月、改憲問題対策法律家6団体連絡会と「安倍改憲NO!全国市民アクション」が共同して44ページのブックレット『解説・自民党改憲案の問題点と危険性」(頒価100円)を発行しました(編集・発行は「安倍改憲NO!全国市民アクション」名義)。
 私のブログでも内容をご紹介しています(ブックレット『[解説] 自民党改憲案の問題点と危険性』(安倍改憲NO!全国市民アクション、改憲問題対策法律家6団体連絡会)のご案内/2018年6月12日)。
 是非ご活用いただければと思います。
 
改憲問題対策法律家6団体連絡会によるこれまでの声明
2018年6月4日
日本国憲法の改正手続に関する法律」の一部を改正する法律案の国会提出に反対する法律家団体の緊急声明
2018年3月26日
緊急声明「自民党改憲案の問題点と危険性」
2017年11月29日
改憲NO!広汎な世論で安倍改憲を阻止しよう
2017年10月6日
自公・希望・維新など改憲推進派にNOの審判を!改憲を許さない法律家6団体アピール http://www.seihokyo.jp/seimei/2017/20171006-6kyoudou.html
2017年7月13日
自衛隊の存在を9条に明記する安倍改憲提案に反対します
2016年10月27日
南スーダン・PKO自衛隊派遣に反対する法律家6団体の声明
2016年6月9日
6・9「安倍政権と報道の自由」集会アピール
改憲問題対策法律家6団体連絡会が主催した「6.9安倍政権と報道の自由」集会参加者一同によって採択されたアピール。
2016年1月20日
1・20 院内集会 「テロとの戦争」と安保法制
法律家6団体共同アピール
2015年9月24日
戦争法案の可決・成立に強く抗議する法律家6団体共同声明
2015年7月16日
自民公明両党などによる戦争法案の衆議院強行採決に強く抗議し、同法案の廃案を求める法律家6団体共同声明
2015年6月29日
法律家は安保法制を許さない6.29院内集会 法律家6団体共同アピール
憲法違反の戦争法案はいますぐ廃案に
2015年6月2日
安保法制(戦争法案)の廃案を求める法律家6団体の共同アピール
※「法律家は安保法制を許さない6・2院内集会」で採択されたアピール。ただし、改憲問題対策法律家6団体連絡会との表示はない。
2015年3月27日
与党合意に抗議し、閣議決定の撤回と、安全保障法整備の即時中止を求める法律家6団体の共同声明
改憲問題対策法律家6団体連絡会との表示はない。
2014年12月1日
衆議院の解散・総選挙にあたって, 安倍政権の「戦争する国づくり」にノーの審判を下すことを呼びかける法律家6団体共同声明
改憲問題対策法律家6団体連絡会との表示はない。
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/立憲主義憲法尊重擁護義務)
2012年5月3日(2013年1月26日に再配信)
憲法記念日に考える(立憲主義ということ) 前編
2012年5月3日(2013年1月26日に再配信)
憲法記念日に考える(立憲主義ということ) 前編
2013年4月3日
日本国憲法「第10章 最高法規」を読む 前編
2013年4月3日
日本国憲法「第10章 最高法規」を読む 後編
2014年9月27日
地方議会の「国会に憲法改正の早期実現を求める意見書」は憲法尊重擁護義務に違反する
2017年2月18日
安倍内閣は「憲法99条は内閣総理大臣憲法改正を主張することを禁止する趣旨のものではない」と断定した
2018年9月5日
憲法尊重擁護義務を土足で踏みにじった安倍晋三内閣総理大臣の訓示(第52回自衛隊高級幹部会同にて)
2018年10月16日
自衛隊記念日観閲式での安倍内閣総理大臣による常軌を逸した訓示(2018年10月14日)~それを誰も止めないことが最大の国家的危機

沖縄県知事が「執行停止に関する意見書」(2018年10月24日)を国土交通大臣に提出

 2018年10月25日配信(予定)のメルマガ金原No.3311を転載します。
 
沖縄県知事が「執行停止に関する意見書」(2018年10月24日)を国土交通大臣に提出
 
 8月31日に沖縄県辺野古沖公有水面埋立承認の取消(撤回)を行ったのに対し、沖縄防衛局が10月17日、国土交通大臣に対し、行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立てを行った件については、去る10月20日のブログ(辺野古沖公有水面埋立承認取消(撤回)処分に対する沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを考えるための資料のご紹介)で、基本的な資料をご紹介しましたが、今日はその続編をお送りします。
 
 主には、昨日(10月24日)付で沖縄県知事国土交通大臣に送付し、本日同県ホームページ上で公開された「執行停止に関する意見書」のご紹介です。
 以下に、本文のみ引用しますが、主張の詳細は3本の別紙で論じられており、意見書本文は主張の骨子のみ記載されています。
 
 また、この沖縄県による意見(反論)を読む前提として、知っておいた方が有益と思われる琉球新報(電子版)の報道記事を3点、ご紹介しておきます。
 
琉球新報 2018年10月18日 12:09
国交省沖縄県に意見書提出を要求 米軍普天間飛行場辺野古移設に伴う新基地建設
(抜粋引用開始)
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設で、沖縄防衛局が県の埋め立て承認撤回の取り消しと執行停止を国土交通相に申し立てた件で、国交省の担当者らが18日午前、県庁を訪れ、執行停止に対する意見書を25日までに提出するよう県に求めた。防衛局から提出された申し立てに関する資料一式を提出した。
 国交省水政課の川田健太郎法務調査官は取材に「執行停止に関して県の意見を聴取するということで国交相から依頼した」と述べた。資料を受け取った永山正海岸防災課長は「今後、辺野古新基地建設問題対策課などと調整し、対応を検討する」と話した。
(引用終わり)
 
琉球新報 2018年10月23日 14:39
沖縄県の埋め立て承認撤回への国の対抗措置 内容判明 「公と私」使い分け 損害回避の緊急性強調
(抜粋引用開始)
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、沖縄県公有水面埋立法(公水法)に基づき埋め立て承認を撤回したことへの対抗措置として、沖縄防衛局が行政不服審査法(行審法)に基づいて国交相に提出した審査請求書と執行停止申立書の全容が判明した。防衛局は“私人”と同様の立場を強調し、行審法の適用除外にならないと主張。一方、文書の中で「事業が頓挫すれば日米同盟に悪影響を及ぼす」「我が国の安全保障と沖縄の負担軽減に向けた取り組みを著しく阻害する」などと訴え、国の立場を主張する“矛盾”も目立つ。文書を検証した。
 石井啓一国土交通相に提出された埋め立て承認撤回に対する執行停止申立書で、沖縄防衛局は、行政不服審査法25条4項の「重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるとき」に該当すると主張し、執行停止を求めている。
 該当する根拠として防衛局は、工事中断により警備費や維持管理費などで1日当たり2000万円の不要な支出を迫られる上、普天間飛行場の返還が遅れることで周辺住民への危険性除去など生活環境の改善という「金銭に換算し難い損失を伴う」ことなどを列挙した。また「米国からの信頼を危うくし、わが国の安全保障体制にも影響する」とも強調している。
 一方、3年前に翁長雄志前知事が承認を取り消した際、政府が執行停止を申し立てたのはその翌日で、今回の対応と大きな違いがある。玉城デニー知事は「県が8月31日に行った承認取り消しから既に1カ月半以上が経過しており、緊急の必要があるとは到底認められない」と反論する。
(略)
<行審法使用の根拠>私人の立場で請求
 県による埋め立て承認撤回について、沖縄防衛局は一般私人と同様に権利利益が奪われたとして、行政不服審査法に基づいて国土交通相に撤回取り消しを求めることができると審査請求の理由を説明している。国民の権利救済を目的とする行審法は「固有の資格」の立場として国の機関への処分に対する審査請求は適用しないと規定しているが、防衛局は「国民」と同じ立場で行審法の適用を受ける以上、その他の立場には該当しないという主張だ。
 請求理由で防衛局は行審法は申し立てに行政機関が請求人になることを排除せず定めているとして、審査請求する正当性を述べている。
 しかし「固有の資格」に関する条項は明らかに行政機関に対する適用除外の規定だ。今回が「排除せず」に該当するのであれば、「固有の資格」に当たらないという積極的な打ち消しが求められるが、法律や行政法の専門家らは「約2ページにわたって『固有の資格』に関する解釈を示しているが、なぜ今回の請求が『固有の資格』に該当しないことになるのか、説明になっていない」と問題点を挙げる。
 審査請求や執行停止申し立ての可否を判断する国交相が「固有の資格」の規定をどのように解釈するのか注目される。
(略)
<行審法改正>国適用除外、明文化
 国民の権利利益を守ることを目的とする行政不服審査法は2014年の改正で、国の機関に対する処分のうち「固有の資格」で処分の相手方となったものは適用除外にすることが明文化され、同条項は16年4月に施行された。
 「固有の資格」は国民が受ける可能性がない処分のことで、国民が審査請求することはない。そのため対象外となる。
 今回の沖縄防衛局による辺野古埋め立て事業は国による新基地建設計画に伴い進められている。知事が埋め立てを認めることも、承認を取り消すことも国民が受ける可能性のない処分だ。
 そのため防衛局が15年に行審法を利用して知事の埋め立て承認取り消しに執行停止を申し立て、国交相が認めたことには専門家から大きな批判を受けた。16年の改正法施行を受け、国交相がどのように判断するか焦点となる。
(引用終わり)
 
琉球新報 2018年10月24日 12:30
沖縄県国交相に意見書送付 辺野古埋め立て承認撤回の執行停止は「認められない」
(引用開始)
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設を巡り、県の埋め立て承認撤回に対して沖縄防衛局が行政不服審査制度で取り消し請求と撤回効力の停止を申し立てている件で、県は24日午前、執行停止は認められないとする意見書を国土交通相宛で送付した。
 手続きの一環として国交省から25日までの提出を求められていた。行政不服審査法に基づく審査請求は国民の権利救済が目的で国が利用できないことや撤回処分の正当性、執行停止を認める緊急性がないことなどを訴える。
(引用終わり)
 
 沖縄県知事による「執行停止に関する意見書」の別紙1~3を通読しようとすると、本文だけで全部で254頁にもなり、プリントアウトするのもためらわれます。
 おそらく、短期間のうちに弁護団が練り上げた反論であろうと思いますので、何とか心して読みたいと思い、とりあえず別紙1「申立適格を欠いた不適法な執行停止申立てであることについて」25頁だけは読み通しました。
 全文引用はしませんが、別紙1については目次を引用しておきますので、是非リンク先の沖縄県ホームページで全文をお読みいただければと思います。
 
(引用開始)
                             執行停止に関する意見書
 
                               平成30年10月24日
 
 平成30年10月17日付けをもって沖縄防衛局局長中嶋浩一郎のした行政不服審査法25 条3項及び4項の規定によるとしてなされた執行停止の申立てについて、意見を述べる。
 
 審査庁 国土交通大臣 石 井 啓 一 殿
 
                     処分庁 沖縄県知事   玉 城 康 裕
                     処分庁代理人 弁護士  加 藤   裕
                            同 弁護士   仲 西 孝 浩
                            同 弁護士   松 永 和 宏
                            同 弁護士   宮 國 英 男
 
※注:当事者目録の転記は省略します。
 
第1 意見の趣旨
    本件執行停止申立てを却下する。
   との決定を求める。
 
第2 意見の理由
1 執行停止申立ての適格を欠き不適法であること
 本意見書別紙1「申立適格を欠いた不適法な執行停止申立てであること」において述べるとおり、行政不服審査制度は、私人の個別的な権利利益の簡易迅速な救済を制度趣旨とするものであって、この制度趣旨より、本来国には審査請求・執行停止申立の適格が認められないものと言うべきであり、例外的に、一般私人と同様の立場で個別の権利義務が侵
害された場合、すなわち「固有の資格」に基づかない場合にのみ、行政不服審査法(以下「行審法」という。)による審査請求及び執行停止申立て(以下「審査請求等」という。)の適格が認められるものである(行審法7条2項)。
 審査請求等をした沖縄防衛局長(以下「申立人」という。)は国の機関であり、国の機関のみが制度の対象となる公有水面埋立承認出願をしたものであって、「一般私人と同様の立場」ではなく「固有の資格」において承認処分ないし承認取消処分の名宛人となっているものであるから、行政不服審査法(以下「行審法」という。)による審査請求等の適格は認められないものであり、審査請求等は不適法である。
 従って、行審法25条3項及び4項の要件を検討するまでもなく、本執行停止申立ては不適法却下されなければならない。
2 行審法25条3項及び4項の要件も認められないこと
 1で述べたとおり、本件執行停止申立ては申立適格を欠いた不適法なものであり、審査庁国土交通大臣は実体判断をなしえず、行審法25条3項及び4項所定の執行停止の要件充足について判断をする権限を有しないものであるが、念のため、行審法25条3項及び4項所定の執行停止の要件を充足していないことについて意見を述べる。
(1) 「重大な損害を避けるために緊急の必要性があると認めるとき」に該当しないことなど本意見書別紙2「「重大な損害を避けるために緊急の必要性があると認めるとき」等の執行停止の要件が認められないこと」において述べるとおり、本件執行停止申立ては、執行停止によって救済が認められない一般公益を理由としていること、処分の一時的な停止によって救済される性質の損害ではないこと、それらの損害の疎明もなされていないこと、さらには工事の一時的遅延そのものが「重大な損害」とはいえないことのいずれの点においても、行審法25条4項所定の「重大な損害を避けるために緊急の必要」性の要件を充足していない。
 また、執行停止によって公有水面埋立てが強行されるならば、公益上の不利益は、再生不可能な不可逆的側面を有するという点において甚大であるのに対し、これを取り消す不利益は、上記の範囲にとどまるものであって、両者を比較すれば、本件承認を取り消すことなく放置することは、公共の福祉の要請に照らして著しく不当であり、執行停止をすることは「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」(行審法 25 条4項ただし書)に該当する。
(2) 「本案について理由がないとみえるとき」に該当すること本意見書別紙3「本件承認取消処分が適法であること」において述べるとおり、平成30年8月31日付け沖縄県達土第126号及び沖縄県達農第646号をもってした公有水面埋立ての承認の取消し(以下「本
件承認取消処分」という。)は適法になされたものであるから、本件承認取消処分を取り消す裁決を求める本件審査請求には理由がないものであり、「本案について理由がないとみえるとき」(行審法25条4項ただし書)に該当する。
(3) 「必要があると認めるとき」に該当しないこと
 執行停止によって避けられるべき「重大な損害」は認められないのであるから、そうであれば、凡そ「必要があると認めるとき」にあたると言うこともできないのであり、行審法25条3項による執行停止の要件充足も認められないものである。
3 結論
 以上述べたとおり、国の機関である申立人が固有の資格において承認処分ないし承認取消処分の名宛人となっているものであるから、執行停止の申立適格は認められず、本執行停止申立ては不適法として却下を免れ得ない。
 なお、行審法25条3項及び4項所定の要件も認められない。
                                                                          以上
 
別紙1 申立適格を欠いた不適法な執行停止申立てであることについて(目次1頁、本文25頁)
第1 「固有の資格」で受けた処分について審査請求等をなしえないこと
行政不服審査法は私人の救済を目的とする手続であること
地方自治保障の点からも国の審査請求等の適格は問題があること
3 国の審査請求等には客観性・公正性からの問題があること
4 小括
第2 「固有の資格」の意義と判断基準についての一般的な理解について
1 行政手続法と同様の理解がされていること
2 「固有の資格」の判断基準
3 本件について
第3 公水法は「承認」処分の名宛人を国に限定していることについて
1 国以外の者は「承認」処分の対象とならないこと
2 「承認」と「免許」は制度が異なり単なる用語変換ではないこと
3 小括
第4 本件埋立事業は国の機関のみが担い手となる性格のものであること
1 条約に基づく国家間の基地提供のための事業であること
2 本件埋立事業についての閣議決定
3 日米合同委合意・閣議決定防衛大臣告示等は私人がなしえないこと
4 小括
第5 結論.
 
別紙2 「重大な損害を避けるために緊急の必要性があると認めるとき」等の執行停止の要件が認められないこと(目次1頁、本文36頁)
 
別紙3 本件承認取消処分が適法であること(目次4頁、本文193頁)
(引用終わり)

緊急座談会「自衛隊と憲法」(みやぎ弁護士9条の会@2018年6月23日)~「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ・番外編

 2018年10月24日配信(予定)のメルマガ金原No.3310を転載します。
 
緊急座談会「自衛隊憲法」(みやぎ弁護士9条の会@2018年6月23日)~「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ・番外編
 
 巻末リストをご覧いただければ分かると思いますが、自衛隊を活かす会(21世紀の憲法と防衛を考える会/代表:柳澤協二氏)が、2014年6月7日に最初のシンポジウム「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」(発足記者会見を兼ねて)を開催して以来、私もこのブログで頑張ってフォローし続けてきました。
 3人の呼びかけ人(柳澤協二さん、伊勢﨑賢治さん、加藤朗さん)や事務局長(松竹伸幸さん)の見解に何から何まで賛同ということではもちろんありませんし、理解が行き届かない点も少なくありませんが、それでも公開された動画や書き起こしの記録には、1人でも多くの人が目を通す価値があると信じています。自分では考えたこともない、けれども聴いてみれば大事な論点についての新鮮な視点が提供してもらえるというのがその大きな理由でしょうか。
 
 その自衛隊を活かす会の柳澤協二代表、松竹伸幸事務局長、柳澤理事長の下で国際地政学研究所の理事(事務局長)を務めておられる元航空自衛隊幹部候補生学校長・元空将補の林吉永(はやし・よしなが)さんの3人を招いた緊急座談会「自衛隊憲法」が、沖縄慰霊の日(2018年)6月23日、宮城県仙台市宮城野区文化センターで開かれました。
 主催は「みやぎ弁護士9条の会」であり、詳しいことは知りませんが、憲法9条の明文改憲に反対する宮城県内の弁護士有志が作った任意団体ではないかと思います(私が以前事務局長をしていた「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」と似たようなものでしょう)。
 ただ、和歌山だけではなく、全国の弁護士9条の会の活動と比べても瞠目すべきことに、この緊急座談会の前の今年3月に柳澤協二さんを招いた講演会、さらに5月には田岡俊次さん(軍事ジャーナリスト)の講演会を開いた上で、この6月23日のに緊急座談会「自衛隊憲法」を開催したということでした。この一連の企画によって「自衛隊憲法」をまるごと学び直す機会を、自分たちだけではなく、一般市民に提供しようという同会の企画力と実行力に、心から敬意を表したいと思います。
 
 この日の模様は、2本の動画と全編書き起こしによって自衛隊を活かす会ホームページ上で公開されています。
 何しろ、午後2時から5時までという長丁場の企画であり、書き起こしを通読するだけでも結構な時間がかかりますが、それだけの時間をかけてでも、是非読んでいただきたいと思います(動画も視聴できれば良いのですが、私もまだそこまでは手が回っていません)。
 
 以下には、動画(2本)と書き起こしにリンクした上で、第1部における林吉永さんによる非常に示唆に富むプレゼンの一部と第2部のまとめにおける柳澤協二さんの発言を引用しておきます。
 柳澤さんのような元防衛官僚が「稀」であるように、吉永さんのような元幹部自衛官も「稀」なのかもしれません。けれども、その発言の奥には、声こそ出さないけれども、柳澤さんや林さんに声援を送る現役・退役の防衛官僚や自衛官が少なからずいることを信じたいと思います。
 
 なお、自衛隊を活かす会ホームページに掲載された「座談会のテーマ」を、第1部と第2部に振り分けて掲載しておきましたが、これはどうやら当初予定されていたテーマであったようで、実際には、時間の都合等でほとんど触れられなかった論点もあることをお断りしておきます。
 
緊急座談会「自衛隊憲法」第1部(1時間33分)
1 はじめに
2 現在の憲法9条改憲論について
 ① 現在の憲法9条改憲論についてどう考えるか
 ② 改憲の必要性?
自衛隊という存在
 ① 自衛隊ってどんな組織?
 ② 自衛隊と世論・自衛隊員の思い
 
緊急座談会「自衛隊憲法」第2部(1時間19分)
 ① 憲法9条自衛隊を取り巻く状況
  ア)自衛隊の果たす役割
  イ)自衛隊の装備
5 東アジア情勢と自衛隊
 ① 中国
 ② 北朝鮮
 ③ テロ対策
憲法9条を活かす道
 
【書き起こし】
緊急座談会「自衛隊憲法
2018.6.23(土)14:00〜17:00 宮城野区文化センター(シアターホール)
主催/みやぎ弁護士9条の会
憲法9条に「自衛隊」を書き込むことが議論されているのに、その当事者の話を聞かず判断できるのでしょうか!?~
 
[第1部での林吉永さんのプレゼンから]
(引用開始)
 私は、自衛隊の存在について、これぞと言える公の言葉として、1950年1月23日、第7回国会本会議の施政方針演説で、吉田茂首相が発した言葉を重視しております。
 それは、「戦争放棄に徹することは、決して自衛権の放棄を意味するものではありません。わが国の安定的な安全保障は、国民が自ら平和と秩序を尊び、重んじ、価値観を共有する他の諸国とともに国際正義にくみする精神、態度を内外に明瞭にするところに根ざしております。そして、国民が世界平和のための貢献を惜しまない姿勢を内外に示すことによって必ずや報われる平和主義の基本理念であります。」「もし日本に軍備が無ければ、自衛権があっても自衛権を行使する有効な手段が無い事態を招く危惧が生じます。そこで、脅威が及ばないように、我が国が専守防衛に徹し自衛権行使に必要な自衛手段を保有することは国内外の認めるところであります」と、自衛隊に最低限度の防衛力を装備し、日本国の防衛義務を付与する根拠が示されたことです。
 自衛官にとって、吉田首相の言葉は極めて重要だと思います。総理大臣は自衛隊の最高指揮官ですから、上司(指揮官)の命令に服従しなければならない自衛官は、上司の意図、上司の命令を具体的にどのように自分の持ち場で実行するか問われます。従って、部下は上司の意図を汲み取ろうと努めます。その意味において、吉田首相は、極めて明快に、憲法に斯く斯く然々、自分たちの平和国家を作るという意志を示しました。最高指揮官から、「自衛官である諸君は、このように働きなさい」、と明確に示されたわけでございます。
 このように指揮官が意図を示しますと、自衛官は、指揮官の意図、任務を果たす精神——ミッションと言いますが——を共有して、指揮官に対する信頼を高揚させて、任務を遂行することができます。
(略)
 さて、今日のお話しの核心は、元自衛官の立場から、憲法9条をどう評価してきたかということです。まず、最初に申し上げなければならないことは、「憲法9条は、自衛隊を行動させる、特に、近年のように、海外において行動させるという点で、現憲法9条があるから、それが基になって慎重に、いいのか悪いのかという議論が行われた」ということです。政治家の頭の良し悪しは別にして、議論することが大事だし、その議論が国民の耳に、目に触れることは重要なことです。これから「自衛隊に何をさせようとしているのか」、政府——内閣——は、その内容についてどのように方向づけて、決心をするのかを可視化しているということでは、憲法9条の役割は極めて大きいと考えます。
(略)
 さらに、2014年7月には、閣議決定によって、「集団的自衛権行使の容認」という日本の防衛・安全保障政策の大転換が行われました。この集団的自衛権を行使するということは、他の国と一緒に戦うということです。 アメリカは、孤立主義を捨てて、NATOに加盟し、集団的自衛権行使を容認する時に、国民を交え意見を公聴すること2年間をかけて議論を尽くしました。バンデンバーグ上院議員が主宰した委員会の決議と言うことで、「バンデンバーグ決議」と言います。最終的には、国民の67パーセントが賛成して、他国のために戦争してアメリカ人の血を流すことを決心したという第二次大戦後のアメリカにおける実に重大な軍事上の「孤立主義」からの政策転換でした。2年間かけて、国民的覚悟を促しています。それが今日のアメリカの軍事力運用の基本的な理念になってきたわけです。
 しかも「バンデンバーグ決議」は、アメリカが「集団安全保障」上、同盟国に求める要件となりました。即ち、同盟国とのギブアンドテイクは、片務的ではないということで、1951年9月、日米安保条約締結時は、その片務的内容に対してアメリカ国民のブーイングが高まり,トルーマン大統領が国民への説明に苦慮しています。
 ところが日本では、集団的自衛権行使を容認する、即ち、「他国の安全保障に日本人が血を流して貢献する」重大事を閣議決定されてしまいました。私は異常事態だと思っています。このことも憲法9条自衛隊という文脈での議論は低調でした。それは、自衛隊の存在が憲法9条に違反していないからです。
 本件については、議論を尽くさず決定に至りました。当然、内閣は「自衛隊集団的自衛権を行使すること」について憲法9条違反だなどと、誰一人疑っていません。ところが、決定の主役であった安倍首相は、自民党の党大会において「自衛隊憲法9条違反を解消するために『加憲』が必要だ」と、天に向かって唾を吐きました。安倍首相は、「現憲法9条自衛隊の存在を憲法違反としているから憲法を改正するまで持っていきたい」と明言したわけです。支離滅裂も、ここまでに至ると精神分裂も伴ったかと疑いたくなります。党内で「おかしい」と発言する党員がゼロであったことについては論外でした。
 注目すべきところは、武器を使用する時の正当性が集団的自衛権行使の容認で法的に拡大していったことです。その次の年、2015年4月に決定されました関連法制では、「合理的判断に基づいて自衛隊の武器使用が許される」と、7カ所にわたって記述されている法律が制定されました。ところが、軍事という文脈、軍人の立場における「合理性」は、「殺戮と破壊を是とする」性格があって、一般に言われる「合理性」は、軍事上のそれと真逆で、「人の営みにおいて理に適った道理」を言います。
 従いまして、安倍首相の言うように、「憲法9条自衛隊の存在を違反としているから憲法を改正しなければならない」のであれば、集団的自衛権行使もそのための法改正も、明らかに憲法違反であって、安倍首相の下で行われてきた全ての防衛・安全保障行政を問い直さなければなりません。既に「憲法9条の理念」は、まず、日本の個別的自衛権を妥当とし、「国民が世界平和のための貢献を惜しまない姿勢を内外に示すこと」によって国連の平和維持活動に参加するのであって、吉田首相の国会における施政方針演説のとおり、今日まで続いていると認識できます
(略)
 さて、この加憲のメリット、自衛隊を明記するメリットはどこにあるかと考えてみました。メリットは、良し悪しは抜きにして、安倍首相の代に憲法を変えたという歴史が残りますが、それだけのことです。加憲は、さらに「自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣である」と書き込む案があるとされています。防衛大学校の卒業式では、安倍首相は訓示において「君たちの最高指揮官は私だ」ということを7回言われたそうです。これは、「自衛隊の最高指揮官」へのこだわりとも言えます。憲法9条への書き込みは、総理大臣が自衛隊を自由に動かせるようにダメ押しすることになります。国家において政府与党が絶対多数を占めている限り、与党案件は可決されていきます。この現象は、民主主義の落とし穴である「指導者原理」と同じです。「指導者原理」は、ヒトラーが民主的に選挙に勝って、首相に就任して打ち出した「多数決で決する」民主主義に則(のっと)った「独裁原理」です。指導者が独自に、こうと決定したことも、事後、国の議会で承認されれば、それは民主主義の手続きを経たことになります。国家の防衛・安全保障に関わる緊急事態に際して、「自衛隊の行動に関わる決定」が閣議によって首相が決定しても、「国会の事後承認を得ればいい」ということになるわけです。このように慮(おもんぱか)ると、「憲法9条への『自衛隊』、『総理大臣が最高指揮官』の加憲」は、悩ましい危惧を思い起こさせます。
 改めて憲法9条の価値を考えてみます。私は、「憲法9条」は、日本が防衛・安全保障という文脈において武器を使用する場合、即ち、今日のように海外において国際貢献を担う任務を付与された自衛官が武器の使用を迫られた場合に、その正当性を担保するもの、その正当性を計るリトマス試験紙であるという考えを持っております。先に申し上げましたように、過去、柳澤は、防衛庁(当時)勤務時、あるいは内閣官房副長官補時代、「自衛隊の海外派遣」に関わる政策決定に関与してきました。「憲法9条」を前提に合法性、正当性を確認しつつ自衛隊の海外派遣を可能にしてきました。「憲法9条」は、「正当性」のチェックを果たしてきたと言い換えることができます。従って、現在の憲法9条が無くなる、あるいは変更される内容如何では、チェックが効かなくなることになるわけでもあります。
 私たちは、「憲法9条」について、自衛隊が行う武力行使のチェック機能を果たしてきたという価値観を持たなければいけません。ですから、国会で、中身はともかくとして、時間をかけて議論をすることは極めて重要であり、議論できるのは、現在の「憲法9条があるからだ」と言うこともできます。
(略)
 憲法9条の位置付けについてさらに付言いたします。「刀の紙縒(こより)」を御存知でしょうか。これは、薩摩武士が「武士のたしなみとして」使っていたと言われています。喧嘩っ早いと言われた薩摩武士は、感情に任せて直ぐに刀が抜けないように、紙縒を作って、刀の柄に結びつけていました。徒(いたずら)に刀を抜いて、殺傷しない——喧嘩をしない——ということです。浅野内匠頭はこれでお家を潰す失敗をしております。ですから、当時の薩摩武士にとってこの「刀の紙縒の緒を切る」ということは、命がけの一大事、大変なことでした。私は、「憲法9条」を、その位置付けとして考えたいと、このように思っております。
 柳澤が今まで内閣官房副長官補としてやってきた危機管理の正面で、自衛隊を動かす仕事というのは知恵を働かして、憲法9条に遵じて、あるいは下位の法律を作ることによって、70年間、戦死者を出さない自衛隊の運用を、別けても海外派遣を行ってきたわけですから、この政策については、「柳澤も刀の紙縒であった」と考えが及ぶわけです。
(略)
 さらに、国民が自衛隊を容認している割合が90パーセント、リスペクトしている割合が80パーセントという数値は、むしろ危険な意味を持っている一面があります。「国民の多くが泣いている時に、自衛隊がヒーローになる」わけで、国民は救助の手を差し伸べられて感謝し、その献身的な姿勢にリスペクトが寄せられているわけです。自衛隊の活躍が評価されることは、国民が困難に遭って自衛隊に助けを求めている時であって、国、国民という文脈では望ましい状態ではありません。従って、通常時においては、「自衛隊の30パーセントが自衛隊シンパであり、30パーセントはニュートラルであって、30パーセントは、表に出てくることがなく、役立っているかどうか分からない自衛隊に金を使うのは無駄使いではないかと思い、残る10パーセントが自衛隊は無い方がいいとする」このようなバランスが国の中にあって、国際社会を見回しても日本が一番安定して平和であるというのが理想的であると常々考えております。
(略)
 結局、自衛隊は、本質的に国際スタンダードと乖離しながらも、並の普通のどこの国も持っている軍隊になりつつあります。私は、そうではなくて、「軍事力の役割を、戦争を抑止する最大最強の機能となるように軍の性格を変えていく」ことに関心を寄せたいのです。日本の防衛・安全保障政策が世界を変えていくという考えに基づけば、日本独自の発想で、自衛隊の維持、あるいは、憲法9条を維持していくこと―-戦後70年の日本の生き様への回帰——について理解が寄せられるのではないかと思っております。
 最後に、憲法の99条では、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と謳われています。本日お話させて頂いたことには、この義務に命がけで臨んでいる自衛官に、精神的支柱をどう与えるかということについて、シビリアン・コントロールが足を引っ張っているのではないかと、自衛隊OBとして心を痛めている気持ちを籠(こ)めていますこと、ご斟酌(しんしゃく)頂ければ幸いです。以上をもちまして、私のプレゼンテーションを終わります。
(引用終わり)
 
[第2部での柳澤協二さんのまとめの発言]
(引用開始)
 憲法を活かすというのはね、9条を活かすというのは、つまり、憲法9条を変えずにいた方が、日本は、より安全になるんだ——より平和が保たれるんだ——というその道筋を示さなければいけないということなんですね。
 そこで、今回の北朝鮮の例を見てもね、国と国が対立をするから、戦争になるかもしれない——ただ、力が必要になる——抑止力に頼らなければいけない——ということになる。そして、戦争が現に起きていなければ、ああ、平和が良かったなということになるのか。
 しかし、抑止力を持つためには、ずぅ~っとその軍拡をし続けなければいけない。何か相手が勘違いした場合に、戦争になるかもしれないというリスクの上にずぅっといるわけですね。それは、国民がそういう平和を望むのであればね、それは、軍拡やればいいんです。軍拡しかない、答がね。
 しかし、そうじゃなくて、国同士の戦争のもとになるような対立をなくしていくということができれば、軍隊なんかなくたって、極論すればね、対立がなければ、戦争にならないでしょうっていう意味で、本当に戦争の心配をしなくていい状態ができるでしょう。それが、憲法9条が目指した平和であり、それは、国民1人1人として、どういう平和を自分は欲しいんだということを考えていく。それがその憲法と国を守ることと、国の安全というものを両立させる1つの哲学です。それは、国民が、やはり責任を持って選択しなければいけない。
 では、軍事的に力を持って解決しなければ、どうするか。それは、どこかで妥協しなければいけないですね。だけど、それは無駄に命を落とすよりも、ここで、少しぐらいの損をしたっていいじゃないかというそういう割り切りが必要になってくるわけです。そのことが通じる雰囲気を——社会を——作っていかなければいけないということ。
 だから、これは結構大変なことなのですね。だから、私は、一つの提案としてね、自衛隊に対してはどうか。要は、力によって争い事を解決しない。しかし、何にもしないで、ぼうっとしていたらね、出来心が起きて一発殴られちゃうかもしれないということを考えると、専守防衛自衛隊は、やはり、私は維持して、そして、災害派遣やなんかでも頑張ってもらう。それは、それで国民にとってもいいことなんじゃないか。
 しかし、その自衛隊を使って、中国を牽制するとかね、北朝鮮の敵基地を攻撃できるようにするとか。そういうことをやっちゃうと、かえって、相手を刺激して、余計危険になるんだよという所を認識していく。そうすると、その専守防衛という抑制の効いた、さっきの林さんの言葉で言えば、その刀の紙縒、それにつながる抑制の原点として憲法9条なのです。だから、力が強くなって平和になる。力が強いから、平和になると考える人にとっては、憲法9条は最悪でしかないんですね。
 そうじゃなくて、根っこにある対立関係を話し合いで解決しましょう。そのためには、多少のことは我慢しましょうという人にとって、初めて憲法9条が国を守るための力として使われるということになるんだろうと思います。
 時間がきちゃったけど、もう一言だけ、言わせていただくと、余計なことかもしれないけど、私は、最近抵抗を感じるのは、あの官邸の前でね、「憲法守れ!安倍やめろ!」と言っているお年寄りの人たちが結構頑張っておられるんですが、あれは本当にメッセージになるんだろうかということを考えるんですね、我々の目的は憲法9条を守ることが目的なんでしょうか。そうじゃない。それは手段なんですね。何のための手段なのか。それは余計な戦争を絶対してはいけない。あの戦争によってあらゆる物事を解決しようとしてはいけないということを実現することのための手段として、憲法9条がある。
 だから、守るべきは、すごく理屈で言えばね、憲法9条そのものではなくて、憲法9条によってこうありたいと我々が考えていた国の姿を守ることが目的なんですよということ。そこまで上げてくれば、あるいは、引いて考えて議論をしていこうとすれば、その「憲法を守れ!安倍やめろ!」というメッセージよりもはるかにね、その違う意見の人との話し合いのベースができていくのではないかというふうに私は思っているんですね。
 そんな所を、是非あの護憲派の人たちにも、それはすごく危機感をお持ちなのはよく分ります。しかし、危機感があるが故にね、一歩引いて、もっと根本的な所から取り組みをし直すということが是非必要なんじゃないかというふうに私は感じております。今日はありがとうございました。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/「自衛隊を活かす会」シンポジウム関連)
2014年7月4日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」
2014年7月30日
補遺「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」~伊勢﨑賢治氏
2014年8月25日
補遺その2「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(1)「自衛隊の可能性・国際貢献の現場から」~会場からの発言と質疑応答
2014年9月22日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(2)「対テロ戦争における日本の役割と自衛隊
2014年11月4日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(3)「防衛のプロが語る15事例のリアリティ」 ※追加映
像あり
2015年1月13日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~今回はまず予告編
2015年1月14日
小原凡司氏が語る中国海軍・空軍の現在~「自衛隊を活かす会」シンポ④補遺その1
2015年1月15日
植木千可子氏が語る東アジアにおける日米中関係~「自衛隊を活かす会」シンポ④補遺その2
2015年3月8日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~いよいよ本編(その1)
2015年3月11日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(4)「新たな米中関係と日本の安全保障」~これが最終(動画付)
2015年4月3日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ(5)「現代によみがえる「専守防衛」はあるか」(動画付)
2015年6月21日
自衛隊を活かす会」三題~6/20関西企画、6/19柳澤協二氏講演(神戸)、5/18提言発表記念シンポ
2015年9月8日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「新安保法制にはまだまだ議論すべき点が残っている」
2016年1月1日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」①動画編(付・札幌企画(1/30)のご案内)
2016年2月14日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」②テキスト編(付・札幌シンポ(1/30)の動画紹介)
2016年3月3日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南スーダン─。駆けつけ警護で自衛隊はどう変わるのか」(1/30@札幌)
2016年5月23日
自衛隊を活かす会」協力シンポから学ぶ「憲法9条のもとで自衛隊の在り方を考える」(2/28仙台)
2016年5月24日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「「戦場における自衛官の法的地位」を考える」(2016/4/22)
2016年9月16日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「北朝鮮は脅威なのか、どう対応すべきか」(2016/5/20)
2016年12月30日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「自衛隊尖閣を守れるか」(2016/12/24)①動画編
2017年11月19日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「沖縄から模索する日本の新しい安全保障」(2017/9/30)
2018年4月8日
自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「北朝鮮の核・ミサイル問題にどう臨むか」(2017/12/25)
2018年4月24日
自衛隊を活かす会」連続講座・抑止力はこれでいいのか①「抑止力の理論と現実─ゲーム理論とデータ分析で読み解く」(栗崎周平早稲田大学准教授)から学ぶ

「生きるよすがを求めて~映画監督 村川透のふるさと納税~」のご紹介~関西テレビ@2018年10月26日(金)午前2時55分~

 2018年10月23日配信(予定)のメルマガ金原No.3309を転載します。
 
「生きるよすがを求めて~映画監督 村川透ふるさと納税~」のご紹介~関西テレビ@2018年10月26日(金)午前2時55分~
 
 私のブログでは、地上波テレビのドキュメンタリー番組の予告記事を、自分の備忘録を兼ねてアップすることがよくあります。
 ただ、取り上げる番組がかなり限られていることは否めません。
 それは、主に以下の5つの放送枠で放送されるドキュメンタリーです。
 
NHK・Eテレ「ETV特集
NHK総合「NHKスペシャル」
日本テレビ系列「NNNドキュメント」
毎日放送MBSドキュメンタリー映像」
 
 もちろん、地上波で放送される優れたドキュメンタリー枠が他にもあることを知らない訳ではないのですが、正直、目配りがそこまで追いつかないのが実情です。
 同じ毎日放送制作の番組枠でも、月に1回の「MBSドキュメンタリー映像」はフォローしていますが、毎週日曜日の23時からTBSをキー局として全国ネットされている「情熱大陸」(「映像」より余程有名ですが)はほとんど取り上げたことがありません。
 
 ほとんど取り上げたことがないといえば、フジテレビ系(FNS)各局が制作した番組もそうですね。
 実は、この系列局の中には、ドキュメンタリー番組の劇場映画化に非常に積極的な東海テレビや、「みんなの学校」で有名な関西テレビも含まれており、優れた作品の宝庫なのでは?と気にはなりつつ、私の視聴できる関西テレビでは、「FNSドキュメンタリー大賞」(候補作)の放映は不定期なので、なかなかチェックできないというのが実情なのです。
 
 ということで、今日取り上げようという番組も、
制作局のさくらんぼテレビ山形県)はもとより、フジテレビでの放送も終わっているようなのですが、関西テレビの週間番組表を眺めていて、偶然、今週の25日(木)深夜、というよりは26日(金)未明といっても良いような時間(午前2時55分~)にこの番組が放送されることに気がつきました。そのタイトル「生きるよすがを求めて~映画監督 村川透ふるさと納税~」を見て、松田優作主演の『最も危険な遊戯』、『白昼の死角』、『甦る金狼』、『野獣死すべし』などを監督した人、と直ちに思い出す人というのは、もうかなりの年輩になっているでしょうか?
 実は、これらの作品が公開された頃というのが、私が一番映画館で映画を観ていた時代で、懐かしさもひとしおなのです。
 関西テレビの電波が届くところの方にしか役に立たず、しかもあと実質二昼夜で放送時間を迎えるという間際のお知らせになってしまいますが、「これは見過ごせないな」という思いから取り上げました。
 映画館の暗闇の中で、村川透監督の作品世界に浸りきった経験をお持ちの方の1人でもよいので、この情報が役に立つことを願いつつ、さくらんぼテレビ及びフジテレビのホームページに掲載された番組案内を引用します。
 それにしても、(特にフジテレビのものは)気合いの入った番組案内だと感心します。担当者の強い思い入れが伝わってくるようです。
 
関西テレビ 放送予定
2018年10月26日(金)午前2時55分~(放送枠55分)
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
生きるよすがを求めて~映画監督 村川透ふるさと納税
ディレクター・撮影・編集 大友信之
 
さくらんぼテレビ・番組案内から引用開始)
人生100年時代」。
高齢化が進む日本ではここ数年、「終活」という言葉が盛んに使われている。
自分らしい最期とは何か。
多くの人が自身の人生と向き合い答えを探している。
山形県村山市出身の映画監督・村川透(81)もその一人。
およそ60年間、映画とテレビドラマの一線で活躍してきた。
脚本の枠を超える演出で日本のハードボイルドの礎を築き、
名優・松田優作を主演に抜擢し「蘇える金狼」「野獣死すべし」などの
アクション映画を作り上げた。
またテレビドラマの「探偵物語」「西部警察」「あぶない刑事」などのヒット作を
通じて、国民にあまたの“娯楽”を届けてきた。
そんな村川にとっての“終活”は故郷への恩返しだ。
他の地方都市同様、村山市もかつてのようなにぎわいは失われている。
そこで数年前、村川は老後の資金をつぎ込み空き家となった生家を改装して、
小さなホール「アクトザールM.」を市民に開放した。
誰もが利用できるそのホールでは、以降、音楽鑑賞会やうたごえ合唱会、
映画の上映会といった様々な催しが行われている。
しかし村川が「アクトザールM.」に込めた思いは“単なる場の提供”ではない。
真の狙いは村川の哲学に基づいた「ただ一つの運営ルール」に凝縮されている。
そして2017年秋、村川は長年の東京暮らしに区切りを付け
故郷へと戻ることにした。
「アクトザールM.」の活動を見届け、映画界で得た“人生の楽しみ方”を
後世に伝えるために。
この恩返しには終わりがない。番組では村川の終わりのない“終活”を追った
(引用終わり)
 
(フジテレビ・番組案内から引用開始)
 数々のアクション作品を手掛けた映画監督がふるさと・山形県村山市に小さなホールを作りました。地域の人たちが文化や芸術に触れられる場になればと、私設のホールは誰にでも格安で開放されていますが、本当の狙いは別にありました。「自分でやってみることの楽しさと難しさ」を知り、人生を豊かにする生きがいを作ってもらう。スクリーンを通してあまたの“娯楽”を提供してきた名監督の志を踏まえ、かつてのにぎわいを無くした街に、たくさんの“元気”が生まれようとしています。
 「人が集まると何かが生まれてくる」、「何かやっていかないと」2017年11月、映画監督の村川透さん(80)は山形へと居を移しました。ふるさとの村山市は全国の地方都市同様に元気をなくしていて、60年前から人口は4割減少しています。そんな現状を憂いながらも、田舎のために何もしてこなかったという後悔がありました。
 実は村川監督は4年前、音楽家の兄とともに、東日本大震災で損壊した生家を私設ホール「アクトザールM.」に改装し、市民に開放していました。そこでは村川さんの人脈で奏者を招いたジャズ演奏会や、全国からファンが駆けつける村川作品の上映会、そして住民が企画するうたごえ合唱会などが開かれています。どの催しも参加者を楽しませようと趣向を凝らしていますが、村川さんは自分で奏者を招いた時以外は積極的に関わろうとしません。そこには村川さんなりのホール運営に関する哲学があり、それこそが「ふるさとに本当に贈りたいもの」だからです。
 その哲学は、村川さんが60年にわたる映画人生で学んだことでした。村川さんは大学卒業後に日活に入りますが、すでに時代は映画が斜陽。会社がロマンポルノに舵を切るようになると、村川さんは「これでいいのか」と自問自答した末、30歳を過ぎたころ山形に帰郷します。受け入れたのは義父で、のちに人間国宝となる鋳物職人の高橋敬典さん。ともに仕事をする中で、「こだわったものは最後まで突き詰めて自分で良しとするまでやる」という職人の気構えを教わりました。その後、旧知のプロデューサーから、テレビドラマ『大都会』の監督に誘われた村川さんは、「自分で良しとするまでとことんやろう。絶対にへこたれない職人でありたい」と心に決め、再び上京しました。『大都会』で監督業に復帰する際、村川さんはもう一つ心に決めていたことがありました。それは俳優・松田優作さんと仕事することで、当時傷害事件を起こし謹慎していた優作さんを、周囲が様子見を決め込む中、起用しました。村川さんは監督ではありますが、作品のテーマさえ外さなければ、セリフを変えようが何をしようが構わないという信念があります。優作さんはその期待にいつも応えてくれ、二人は『最も危険な遊戯』、『蘇える金狼』、『野獣死すべし』といったヒット作を連発します。「役者が自由に発想し、見る人を楽しませる」という考えは、今のアクトザールM.にもつながっています。
 その優作さんは40歳で急死し、長年コンビを組んだカメラマン・仙元誠三さんも今、余命1年と宣告されたがんと闘っています。旧友を見舞った後、村川さんは自らの死生観について「森羅万象すべてに定めがある。だから自分は死を全然恐れていない」と話します。つまりそれは「死ぬまで生きる」、「とことんやる」ということが自分らしい最期であり、アクトザールM.を通じた恩返しこそが“生きるよすが”として全うしていくべきことという覚悟の表れでした。そのアクトザールM.は、近所の人や趣旨に賛同したボランティアなど約20人のスタッフが中心となって運営しています。彼らは村川さんの哲学に基づいてさまざまな趣向を凝らしたイベントを行っていますが、実際の運営はまだまだ発展途上。また地域の活性化には世代を超えた交流が欠かせませんが、参加者は高齢者が多い。さらに資金面の課題もあり、光熱費や税金など年間50万円を超える維持費は全て村川さんが負担しています。アクトザールM.の建物そのものと運営の哲学をいかに次の世代に引き継いでいくのか。村川さんはその恩返しに道筋を付け、それを見届けようとしています。大好きなふるさとが再び元気を取り戻すと信じて。
 今、日本は「人生100年時代」とも言われ、「自分らしい最期とは何か」と多くの人が自身の人生と向き合い答えを探しています。番組では、映画監督・村川透の一風変わったふるさとへの恩返しを通して、人生のよりどころを持つ大切さを考えます。
コメント
ディレクター・大友信之(さくらんぼテレビ報道制作部)
 「村川監督はこれまでテレビの取材をすべて断ってきました。山形でも人となりを詳しく知る人は決して多くありません。山形に戻ってくるタイミングで取材を依頼したところ、快く受けて頂きました。山形では監督の“エネルギッシュな活躍”を数多く取材できると考えていました。しかし、いざふたを開けてみると、実際はイベントに参加するだけ。あとは粘着コロコロで掃除をして音楽を聴き、車いじりをするだけ。
 “シーンが撮れない、どうしよう”と気持ちが焦るばかりでした。“何もしないことが人の為になる”ということに気が付くまで多くの時間がかかりました。監督は“人生は人と出会って別れる旅”といつも話していました。何かをやりたいとの思いを行動に移せば、会うべく人と出会い、運命が変わっていく。それを経験してほしいということが“ふるさとへの恩返し”と気づいた時、ずっと心の奥にしまっていた松田優作との出会いをカメラの前で語ってくれました」
番組情報
タイトル
第27回FNSドキュメンタリー大賞 ノミネート作品
『生きるよすがを求めて~映画監督 村川透ふるさと納税~』
スタッフ
プロデューサー 佐藤武
ディレクター・撮影・編集 大友信之
音効 角千明(ヴァルス)
MA 市原貴広(ヴァルス)
CG 佐藤哲
ナレーション 田中秀幸
(引用終わり) 
 
(余談)
 私が地上波のテレビ番組で視聴するのは、正直言って、このブログでご紹介するドキュメンタリー番組が「ほぼ全て」と言っても過言ではありません。「ほぼ」というのは、台風や地震などの災害情報は別枠で視聴する、という意味です。
 なぜ、他の番組を視なくなったかについては、話し出すと長くなってしますので「またの機会に」としますが、太田隆文監督のFacebookでシェアされていて気がついた茂木健一郎さんがブログに書かれた「地上波テレビ、衝撃の凋落。」を読んで、かなりの程度納得しました。
 そう、「ぼくが子どもの頃に見ていた地上波テレビに比べて、今のテレビは、タレントたちの馴れ合い、内輪話、汚いテロップ、内容の低さなど、本当に劣化してしまっている。」という感想については完全に同意なのです(茂木さんの文章の主題は、この後の部分で紹介された中学・高校生たちのすさまじい地上波TV離れにこそあるのですが)。それでも、視るに値する番組を作っている人たちもいるということに、最後の望みを託しているのです。

「10.20東海第二原発運転延長STOP!首都圏大集会」(2018年10月20日@日本教育会館)を視聴する

 2018年10月22日配信(予定)のメルマガ金原No.3308を転載します。
 
「10.20東海第二原発運転延長STOP!首都圏大集会」(2018年10月20日日本教育会館)を視聴する
 
 3日前(10月19日)に書いた「11月のNNNドキュメントから~「北海道ブラックアウト 街も人も牛も・・・」ほか」についての関連情報です。
 上記タイトルの「ほか」に含まれる2本の番組の内、11月11日(日)深夜に放送される「再稼働させるのか"東海第二"...首都圏の巨大老原発(仮)」について、視聴前の予習に最もふさわしい動画を発見しましたのでご紹介します。
 まずその前に、番組情報を再掲します。
 
日本テレビ系列 NNNドキュメント’18
2018年11月12日(月)午前1時00分~(11日深夜)
再稼働させるのか"東?第二"...首都圏の巨大老原発(仮)
(番組案内から引用開始)
東京から最も近い原発を知っていますか?
百キロ先にある茨城県の東海第2原発だ。運転開始40年の老朽原発。今年9月新基準に合格した。だが30キロ圏の人口は96万人と国内の原発としては最多。万が一の時、住民らは逃げられるか?番組では、茨城県内の44市町村に避難の実現可能性についてアンケートを実施した。風向きによっては、首都圏や福島にも放射性物質が飛んでくる恐れもある。老朽原発のこれからを問う。
【制作:日本テレビ
再放送   
11月18日(日)11:00~ BS日テレ
11月18日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24
(引用終わり)
※参考サイト
週刊女性2018年5月1日号「《脱原発を語る》東海村元村長「安全神話に安住している国に安全はない!」
原子力資料情報室声明「東海第二原発は、新規制基準適合性審査合格でなく廃炉にすべきだ」
〇とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会
 
 以上の参考サイトでもご紹介した「とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会」が主催して、一昨日(10月20日)、東京都千代田区日本教育会館3F一ツ橋ホールで開かれた「10.20東海第二原発運転延長STOP!首都圏大集会」の模様が、複数の動画サイトにアップされていましたので、以下には「なにぬねノンちゃんねる」YouTubeチャンネルの動画をご紹介します。
 
20181020 東海第二原発運転延長STOP!首都圏大集会(2時間07分)
冒頭~ 司会 末武あすなろさん
2分~ 講演1:鎌田 慧さん(ルポライター)「プルトニウム社会と六ヶ所村東海村の再処理工場」
20分~ 講演2:吉原 毅さん(原自連会長・城南信用金庫顧問)「原発ゼロ社会をめざして」 
42分~ 講演3:村上達也(東海村前村長)「前東海村長が訴える、あってはならない原発
1時間06分~ ビデオメッセージ:山本太郎さん(参議院議員自由党
1時間10分~  特別出演:おしどりマコ・ケンさん(漫才コンビ・ジャーナリスト)「東海第二原発七つの不思議」
1時間54分~ 集会決議案の採択
1時間58分~ 行動提起:柳田 真さん(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会世話人
 
 鎌田さん、吉原さん、村上さんのお話も有益だと思いますが(まだ全部は視聴できていない)、私が引き込まれたのはおしどりマコさんのお話ですね(ケンさんのアシスタントぶりも素晴らしい)。継続的な取材を積み重ねてきて「現場」を知る者でなければ語れない話題が次々と繰り出されます。原子力規制委員会の設立当初の一部の「中の人」の頑張りと、政権交代による変質など、目を開かされる思いでした。
 
 さて、NNNドキュメント(制作局:日本テレビ)では、「茨城県内の44市町村に避難の実現可能性についてアンケートを実施した」というのですから、つまり県内全市町村ということですね。その回答結果も気になりますし、是非番組を見てみたいと思います。

「これからの9条改憲NO!の闘い~国民投票をみすえた運動を~」(2018年10月21日@第10回 伊都・橋本9条まつり)

 2018年10月21日配信(予定)のメルマガ金原No.3307を転載します。
 
「これからの9条改憲NO!の闘い~国民投票をみすえた運動を~」(2018年10月21日@第10回 伊都・橋本9条まつり)
 
 好天に恵まれた日曜日の今日(10月21日)、和歌山県伊都郡かつらぎ町のかつらぎ体育センターを会場として、憲法9条を守る伊都・橋本連絡会が主催する第10回 伊都・橋本9条まつりが開催されました。
 私は「これからの9条改憲NO!の闘い」と題した約50分のお話(ミニ講演)をする機会を頂戴し、雑駁な内容で申し訳ないと思いつつ、現在の状況を踏まえ、私が重要と考えるポイントの何点かをお話させていただきました。
 参加者に配布していただいた8頁のレジュメ(レジュメ本体部分3頁・資料部分5頁)は、私がお話しした事柄の1つでも2つでも、思い出していただける縁(よすが)となるようにと思いながらまとめたものであり、特に資料部分は今後の学習会でも使えるようにと思って、重要な関連法令を抜粋しており、今日参加されなかった方にも読んでいただく価値はあると思いますので、この文章の末尾に全文転載しておきます(PDFファイルも併せてアップしておきます)。

f:id:wakaben6888:20181021134451j:plain

 
 ところで、私は、午前の部の最後のプログラム(つくしの会による日本舞踊)の終わり頃に会場入りし、主催者から柿の葉寿司6個セットを頂戴して満腹になり、館内のブースを一巡したところで、昼食休憩が終わって自分の出番となりましたので(12時50分~)、バザーなどでの買い物は講演が終わってからということにして、お話を始めました。
 そして、講演が終わった後、はしもと9条の会による9条コーラスに耳を傾けながら買い物に勤しみ、チェルリコーラス(妙寺)によるコーラスが始まるころ、某警察署での接見のために会場を後にしたのでした。
 
 2年前におじゃました「那賀9条まつり」(こちらは屋外のスポレクセンターでしたが)とも似たような、地元の人たちによる和気藹々とした雰囲気の、まさに「まつり」気分に浸れるイベントでした。
 毎年憲法記念日和歌山城西の丸広場で行っている“HAPPY BIRTHDAY 憲法 in Wakayama”とは、かなり雰囲気が違う、より地域に密着した親密さが感じられました。

f:id:wakaben6888:20181021125745j:plain

 
 記録にとどめるために、予告記事(「第10回 伊都・橋本9条まつり」(2018年10月21日@かつらぎ体育センター)のご案内/2018年10月12日)でもご紹介しましたが、当日のプログラムを転記しておきます。
 
プログラム
11時00分~ 開会挨拶 下村克彦さん
11時10分~ やっちょん踊り(真田ちゃいるど)
11時30分~ 和太鼓演奏(きのかわ支援学校)
11時50分~ レッツ・ダンス(橋本高校新体操バトン部)
12時10分~ 日本舞踊(つくしの会)
12時30分~ 昼食休憩
12時50分~ 「これからの9条改憲NO!の闘い」(金原徹雄弁護士)
13時40分~ 9条コーラス(はしもと9条の会)
14時00分~ コーラス(チェルリコーラス(妙寺))
14時20分~ 吹奏楽(グリーン・ウインド・アンサンブル)
14時40分~ 銭太鼓(新婦人の会)
15時00分~ お楽しみ抽選会(9条連絡会)
15時20分~ 閉会挨拶 富岡嬉子さん
 
 掲載した写真のうち、本やバッグが写っている1枚があると思いますが、これは私が事務所に戻ってから、今日、伊都・橋本9条まつりでゲットした品物と私の講演レジュメをまとめて撮影したものです。
 これも記録にとどめるために(?)明細を書いておきますね。

f:id:wakaben6888:20181021161157j:plain

 
〇いちじくじゃむ(紀北農芸高校製) 300円
※紀北農芸高校直販コーナーにて入手
筑摩書房・日本文学全集16「齋藤茂吉・島木赤彦・若山牧水釈迢空集」 50円
〇同全集36「中野重治集」 50円
〇同全集37「葉山嘉樹小林多喜二・徳永直集」 50円
※以上は「九条の会高野口」のブースで入手。
〇リュックサック(未使用) 300円
〇ソフトキャリーバッグ(中古) 300円
 
 以上占めて1,050円の買い物で大満足でした。
 
 最後に、レジュメ(3頁)の末尾にも書いてあるとおり、2019年1月19日(土)午後1時30分~、和歌山県民文化会館大ホールにおいて、「安倍改憲阻止!和歌山県民集会(仮称)」を開催すべく企画進行中です。メインゲストとして、小林節さん(慶應義塾大学名誉教授、弁護士)に来ていただけることになっています。近日中に、県下の9条の会をはじめとする諸団体に参加要請をすべく準備を進めていますので、今から日程をご予定いただけると幸いです。
 
 それでは、以下に、本日のレジュメ(資料付き)全文を転載します。
 
※注 以上の文章は、まずFacebookに写真10枚付きで投稿したものをほぼそのまま転載したものです。
 

ミニ講演レジュメ
PDFファイル
 
日時:2018年10月21日(日) 
会場:かつらぎ体育センター
主催:憲法9条を守る伊都・橋本連絡会
 
                      これからの9条改憲NO!の闘い
                       ~国民投票をみすえた運動を~
 
                             弁護士 金 原 徹 雄
 
1 安倍晋三首相による改憲メッセージ(改憲提言)
 2017年5月3日
 ◎読売新聞朝刊インタビュー
 ◎改憲派の集会(公開憲法フォーラム)へのビデオメッセージ
   ①9条1項、2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込む
  ②高等教育無償化
 
2 自民党改憲4項目」に集約
(1)2017年10月の衆議院総選挙における自民党の「公約」
 「自衛隊の明記」、「教育の無償化・充実強化」、「緊急事態対応」、「参議院の合区解消」という4項目を明示した上で、「初めての憲法改正を目指します」とした。
(2)2018年3月22日 自民党憲法改正推進本部「とりまとめ」
   3月25日 自民党第85回党大会
   3月26日 自民党憲法改正推進本部「憲法改正に関する議論の状況について」
  ⇒【資料1】参照
  同党憲法改正推進本部は「条文イメージ(たたき台素案)」と言うが。
 
3 本命は9条
(1)憲法自衛隊が明記されていないことの意味
 自衛隊が「合憲」であることを政府の側で立証(説明)しなければならない。     ①我が国に対する急迫不正の侵害が生じ
  ②これを排除するために他に適当な手段がなく
  ③我が国に対する武力攻撃を排除するために必要最小限度にとどまる実力の行使は「武力の行使」にあたらない。(旧3要件)
 自衛隊は、そのような必要最小限度の実力の範囲内にとどまるので、「陸海空軍その他の戦力」にあたらず合憲である。(2014年6月までの政府解釈) 
(2)ところが、2014年7月「閣議決定」、15年9月「安保法制」制定
 ①我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において
 ②これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに
 ③必要最小限度の実力を行使することは合憲である。(新3要件)
 ⇒安保法制型自衛隊
    集団的自衛権の否定と一体であった自衛隊合憲論の根拠が崩れてしまった。
(3)自衛隊明記の真の目的とは
 自民党による「条文イメージ(たたき台素案)」
 第九条の二 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
 ② 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
 ここで明記される「自衛隊」は、「専守防衛自衛隊」ではなく、「安保法制型自衛隊」。
 安倍首相は、改憲メッセージの中で、自衛隊違憲とする憲法学者や政党の存在を指摘した上で、「自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、『自衛隊違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきである」などと主張しているが、そこで憲法上に位置付けられる「自衛隊」は、「専守防衛自衛隊」ではあり得ず、2014年「閣議決定」、2015年「安保法制」によって合憲性の理論的根拠を失った自衛隊(安保法制型自衛隊)を、改めて合憲化するものに他ならない。
(4)「必要最小限度」に惑わされてはならない
 自民党憲法改正推進本部が9条についての「条文イメージ(たたき台素案)」をとりまとめるにあたり、最後まで有力であった別案がある。
「九条の二① 我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つための必要最小限度の実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
 ② 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」
 同党憲法改正推進本部は、「「条文イメージ(たたき台素案)」をたたき台とし、衆参憲法審査会や各党・有識者の意見や議論を踏まえ、「憲法改正原案」を策定し国会に提出する。」と明言している。ここで言う「各党」が、主に公明党日本維新の会を念頭に置いていることは疑いなく、上記別案が、「各党」とのネゴシエーションの末に(「落としどころ」として)、「憲法改正原案」として復活する可能性は十分にあり得る。
 ちなみに、「必要最小限度の」という文言が入ったとしても、「何のための」必要最小限度なのかが問題であって、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため」では何の限定にもならない。
   
4 緊急事態条項は不要であるばかりか有害で危険
(1)濫用への歯止めがなく、全ては「法律で定めるところにより」
(2)自然災害に限定されていない
(3)国会議員の任期延長は無用かつ有害
(4)自然災害への備えは法律で十分
(5)世界中の憲法に「緊急事態条項」があるというけれど、「緊急事態条項」は戦争をするためのもの
 
5 合区解消と教育について
 
6 草の根「改憲に向けた動き」
(1)「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の1000万人「署名」
 彼らの署名用紙には、住所だけでなく郵便番号や電話番号を書く欄がある。
(2)「憲法おしゃべりカフェ」
 和歌山でも開催されている(実行委員会の所在場所は県神社庁内)。
(3)全国の神社が改憲派の拠点に
 神社本庁神社庁の指示で神社が改憲署名集め。
 
7 発議させないための闘い
(1)「改憲派」とは何か?
 公明党は?日本維新の会は?国民民主党は?単純で一色の「改憲派」がある訳ではない。共闘できる可能性のある者を、「改憲派」だとレッテル貼りをして、わざわざ「あちら側」に押しやる(排除する)愚は避けねばならない。
(2)世論喚起のために
 ①3000万人署名の達成を
 ②今まで話しかけたことのない層への働きかけ
 ③SNS活用の抜本的強化
  2017年総選挙における立憲民主党の公式Twitterの成果を見習おう。
 
8 もしも改憲が発議されたら?
(1)国民投票運動は誰でもできる。
(2)公職選挙法は適用されず、「買収」以外はほとんど罰則もない。
(3)投票期日前14日間はテレビやラジオのCMは流せないが、それ以外の広告は金さえあれば何でも出来る。
 2016年7月10日の参議院通常選挙の当日、自民党が新聞に掲出した大きな広告を想起して欲しい。同党は全国紙5紙全てに「今日は、日本を前へ進める日。」という広告を出した。
(4)日本会議神社本庁青年会議所など、改憲を強力に主導している団体は言うに及ばず、各種業界団体や企業なども、政党などからの強い要請により、改憲運動のお先棒をかつぐと見なければならない。
(5)仮に「自衛隊明記」が発議されたら、改憲派は「もしも改正案が否決されたら自衛隊が無くなってしまう。それでもいいのか?」と国民を脅しにかかると見なければならない。従って、我々も、否決した後の自衛隊についてのイメージをしっかりと持つべきである。
[第1案]2014年7月1日「閣議決定」の前(従前の自民党政権民主党政権時代の「専守防衛自衛隊」に戻る⇒立憲民主党
[第2案]湾岸戦争(1991年)、PKO協力法(1992年)の前、自衛隊の海外派遣を一切認めていなかった時代の自衛隊に戻る⇒共産党
(6)改憲案は「内容において関連する事項ごとに区分」(国会法68条の3)されており、その改憲案に「賛成」か「反対」かが問われる。そして、1票でも「反対が「賛成」を上回れば改憲を阻止できる(無効票は棄権と同じ扱いとなる)。
 選挙では野党共闘がうまくいかない地域であっても、結論として「安倍改憲に反対」であれば、その理由は問うところではない。立憲的改憲論者の国民民主党支持者であろうが、自衛隊違憲論者の共産党支持者であろうが、専守防衛自衛隊に共鳴する立憲民主党支持者であろうが、投票所に足を運んで「反対」票を投じてくれれば良いのである。
 「改憲阻止」の共闘が不要ということではなく、その共闘の仕方が、選挙などとは大きく異なるということである。
(7)4項目まとめて改憲発議される事態となったら、「自衛隊明記」と「緊急事態条項」に絞って反対運動に注力するという選別が必要になるかもしれない。
(8)「発議させないための運動」は、基本的に「発議された後の運動」にとっても有効である。
(9)それぞれが得意な分野・方法で訴える。従来型の護憲運動にも自信を持つべき。その上で、新たな工夫を積み上げる。
 例えば、大坂都構想にNOの審判をくだした住民投票や、中央からの金・人・物の大量投入に抗し、様々な立場の住民の意思を結集して勝利を勝ちとった沖縄県知事選などから学ぶことも多いだろう。
 
(予告)
安倍改憲阻止!和歌山県民集会(仮称) 企画進行中
日時 2019年1月19日(土)午後1時30分~
会場 和歌山県民文化会館大ホール
ゲスト 小林 節氏(慶應義塾大学名誉教授、弁護士)
主催 実行委員会(憲法9条を守る和歌山弁護士の会他共同呼びかけ団体から近日中に県下の諸団体に参加要請予定)
 

【資料1】自民党改憲4項目」条文素案全文(2018年3月26日付・自由民主党憲法改正推進本部「憲法改正に関する議論の状況について」より)
自衛隊の明記について]
第九条の二 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
② 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
(※第9条全体を維持した上で、その次に追加)
 
[緊急事態対応について]
第七十三条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
② 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。
(※内閣の事務を定める第73条の次に追加)
第六十四条の二 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
(※国会の章の末尾に特例規定として追加)
 
[合区解消・地方公共団体について]
第四十七条 両議院の議員の選挙について、選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる。
② 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第九十二条 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。
 
[教育の充実]
第二十六条 ①・②(現行のまま)
③ 国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない。
第八十九条  公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
 
自民党憲法改正推進本部は、この「憲法改正に関する議論の状況について」の末尾(憲法改正の発議に向けて)において、以下のように述べている。
憲法改正は、国民の幅広い支持が必要であることに鑑み、4テーマを含め、各党各会派から具体的な意見・提案があれば真剣に検討するなど、建設的な議論を行っていく。
 現在議論中の「条文イメージ(たたき台素案)」は、完成された条文ではなく、この案をもとに衆参の憲法審査会で党の考え方を示し、憲法審査会で活発な議論が行われるよう努める。
 「条文イメージ(たたき台素案)」をたたき台とし、衆参憲法審査会や各党・有識者の意見や議論を踏まえ、「憲法改正原案」を策定し国会に提出する。そのため、衆参憲法審査会では、これまでの丁寧な運営方針を継承し幅広い合意形成を図るとともに、国民各層への幅広い理解に努める。」
 
 
【資料2 現行憲法
[9条]
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
 
[緊急事態条項]
現行規定なし
 
参院選「合区」解消等]
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
 
[教育の充実]
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
 
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
 
 
【資料3 国会法】
  第六章の二 日本国憲法の改正の発議
第六十八条の二 議員が日本国憲法の改正案(以下「憲法改正案」という。)の原案(以下「憲法改正原案」という。)を発議するには、第五十六条第一項の規定にかかわらず、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する。
第六十八条の三 前条の憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。
第六十八条の四 憲法改正原案につき議院の会議で修正の動議を議題とするには、第五十七条の規定にかかわらず、衆議院においては議員百人以上、参議院においては議員五十人以上の賛成を要する。
第六十八条の五 憲法改正原案について国会において最後の可決があつた場合には、その可決をもつて、国会が日本国憲法第九十六条第一項に定める日本国憲法の改正(以下「憲法改正」という。)の発議をし、国民に提案したものとする。この場合において、両議院の議長は、憲法改正の発議をした旨及び発議に係る憲法改正案を官報に公示する。
2 憲法改正原案について前項の最後の可決があつた場合には、第六十五条第一項の規定にかかわらず、その院の議長から、内閣に対し、その旨を通知するとともに、これを送付する。
第六十八条の六 憲法改正の発議に係る国民投票の期日は、当該発議後速やかに、国会の議決でこれを定める。 
 
  第十一章の二 憲法審査会
第百二条の六 日本国憲法及び日本国憲法に密接に関連する基本法制について広範かつ総合的に調査を行い、憲法改正原案、日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案等を審査するため、各議院に憲法審査会を設ける。
第百二条の七 憲法審査会は、憲法改正原案及び日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案を提出することができる。この場合における憲法改正原案の提出については、第六十八条の三の規定を準用する。
2 前項の憲法改正原案及び日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案については、憲法審査会の会長をもつて提出者とする。
第百二条の八 各議院の憲法審査会は、憲法改正原案に関し、他の議院の憲法審査会と協議して合同審査会を開くことができる。
2 前項の合同審査会は、憲法改正原案に関し、各議院の憲法審査会に勧告することができる。
3 前二項に定めるもののほか、第一項の合同審査会に関する事項は、両議院の議決によりこれを定める。
第百二条の九 第五十三条、第五十四条、第五十六条第二項本文、第六十条及び第八十条の規定は憲法審査会について、第四十七条(第三項を除く。)、第五十六条第三項から第五項まで、第五十七条の三及び第七章の規定は日本国憲法に係る改正の発議又は国民投票に関する法律案に係る憲法審査会について準用する。
2 憲法審査会に付託された案件についての第六十八条の規定の適用については、同条ただし書中「第四十七条第二項の規定により閉会中審査した議案」とあるのは、「憲法改正原案、第四十七条第二項の規定により閉会中審査した議案」とする。
第百二条の十 第百二条の六から前条までに定めるもののほか、憲法審査会に関する事項は、各議院の議決によりこれを定める。
※102条の9の準用規定が重要
 特に、56条2項本文「議案が発議又は提出されたときは、議長は、これを適当の委員会に付託し、その審査を経て会議に付する。」が準用されながら、同項ただし書「但し、特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。」を準用していないことは重要。これにより、憲法改正原案が提出された後、議長は必ず憲法審査会への付託を行わなければならず、憲法審査会での審査を省略することはできないことになっている。
 また、102条の9第2項により、会期不継続の原則は、憲法改正原案の審査については適用されない。
 
 
【資料4 日本国憲法の改正手続に関する法律】
  第二章 国民投票の実施
   第一節 総則 
 (国民投票の期日)
第二条 国民投票は、国会が憲法改正を発議した日(国会法(昭和二十二年法律第七十九号)第六十八条の五第一項の規定により国会が日本国憲法第九十六条第一項に定める日本国憲法の改正の発議をし、国民に提案したものとされる日をいう。第百条の二において同じ。)から起算して六十日以後百八十日以内において、国会の議決した期日に行う。
2 内閣は、国会法第六十五条第一項の規定により国民投票の期日に係る議案の送付を受けたときは、速やかに、総務大臣を経由して、当該国民投票の期日を中央選挙管理会に通知しなければならない。
3 中央選挙管理会は、前項の通知があったときは、速やかに、国民投票の期日を官報で告示しなければならない。
 (投票権
第三条 日本国民で年齢満十八年以上の者は、国民投票投票権を有する。
 
      第七節 国民投票運動
 (公務員の政治的行為の制限に関する特例)
第百条の二 公務員(日本銀行の役員(日本銀行法(平成九年法律第八十九号)第二十六条第一項に規定する役員をいう。)を含み、第百二条各号に掲げる者を除く。以下この条において同じ。)は、公務員の政治的目的をもって行われる政治的行為又は積極的な政治運動若しくは政治活動その他の行為(以下この条において単に「政治的行為」という。)を禁止する他の法令の規定(以下この条において「政治的行為禁止規定」という。)にかかわらず、国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間、国民投票運動(憲法改正案に対し賛成又は反対の投票をし又はしないよう勧誘する行為をいう。以下同じ。)及び憲法改正に関する意見の表明をすることができる。
 ただし、政治的行為禁止規定により禁止されている他の政治的行為を伴う場合は、この限りでない。
 (投票事務関係者の国民投票運動の禁止)
第百一条 投票管理者、開票管理者、国民投票分会長及び国民投票長は、在職中、その関係区域内において、国民投票運動をすることができない。
2 第六十一条の規定による投票に関し、不在者投票管理者は、その者の業務上の地位を利用して国民投票運動をすることができない。
 (特定公務員の国民投票運動の禁止)
第百二条 次に掲げる者は、在職中、国民投票運動をすることができない。
一 中央選挙管理会の委員及び中央選挙管理会の庶務に従事する総務省の職員並びに選挙管理委員会の委員及び職員
二 国民投票広報協議会事務局の職員
三 裁判官
四 検察官
五 国家公安委員会又は都道府県公安委員会若しくは方面公安委員会の委員
六 警察官
 (公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の禁止)
第百三条 国若しくは地方公共団体の公務員若しくは行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。第百十一条において同じ。)若しくは特定地方独立行政法人地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。第百十一条において同じ。)の役員若しくは職員又は公職選挙法第百三十六条の二第一項第二号に規定する公庫の役職員は、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。
2 教育者(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に規定する学校及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)に規定する幼保連携型認定こども園の長及び教員をいう。)は、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。
 (投票日前の国民投票運動のための広告放送の制限)
第百五条 何人も、国民投票の期日前十四日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、次条の規定による場合を除くほか、放送事業者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることができない。
 
  第三章 国民投票の効果
第百二十六条 国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が第九十八条第二項に規定する投票総数の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について日本国憲法第九十六条第一項の国民の承認があったものとする。
2 内閣総理大臣は、第九十八条第二項の規定により、憲法改正案に対する賛成の投票の数が同項に規定する投票総数の二分の一を超える旨の通知を受けたときは、直ちに当該憲法改正の公布のための手続を執らなければならない。
※投票総数=憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計した数
 
 
【資料5 衆参両院の会派状況】
衆議院(2018年10月18日現在)]
 定数 466人
 欠員 1人
  自由民主党         283人
  立憲民主党・市民クラブ   57人
  国民民主党・無所属クラブ  38人
  公明党     29人
  無所属の会   13人
  日本共産党          12人
  日本維新の会         11人
  社会民主党市民連合    2人
  希望の党    2人
  未来日本   2人
    自由党     2人
  無所属    13人
※現在の総議員465人の2/3は310人
 
参議院(2018年10月20日現在)]
 定数 242人
 欠員   0人
  自由民主党・こころ     125人
  公明党             25人
  国民民主党・新緑風会   24人
  立憲民主党・民友会     24人
  日本共産党          14人
  日本維新の会        11人
  希望の会(自由・社民)    6人
  希望の党    3人
  無所属クラブ    2人
  沖縄の風    2人
  国民の声    2人
  各派に属しない議員   4人
※現在の総議員242人の2/3は162人  

辺野古沖公有水面埋立承認取消(撤回)処分に対する沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを考えるための資料のご紹介

 2018年10月20日配信(予定)のメルマガ金原No.3306を転載します。
 
辺野古沖公有水面埋立承認取消(撤回)処分に対する沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを考えるための資料のご紹介
 
 8月31日に沖縄県辺野古沖公有水面埋立承認の取消(撤回)を行ったのに対し、防衛省(沖縄防衛局)は、10月17日、国土交通大臣に対し、行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立てを行いました。
 これについて、どのような視点から取り上げようかと考えているうちに、3日が経ってしまいました。まあ、同じ17日に、最高裁判所岡口基一裁判官を戒告するというとんでもない決定を出したりしたもので、そちらの方に精力をとられたということもあるのですが。
 しかし、これ以上延ばしてしまうとタイミングを逸してしまいそうなので、じっくり考えるための資料を集めておこうと考えました。今日ご紹介する資料は以下のとおりです。
 
資料1 沖縄県による公有水面埋立承認取消(撤回)通知書及び関連法令
資料2 防衛省(沖縄防衛局)による審査請求及び執行停止申立て及び関連法令(申請書類を防衛省は公開していない)
資料3 玉城デニー沖縄県知事による審査請求及び執行停止申し立てについてのコメント
資料4 丸山穂高衆議院議員による「行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問主意書
資料5 仲里利信衆議院議員による一連の質問主位書
資料6 行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」(2015年10月23日)
資料7 武田真一成蹊大学法科大学院教授「辺野古埋立をめぐる法律問題について」(成蹊法学83号・2015年12月21日)
 
 以上の資料1~7のうち、1~3は、今回の承認取消(撤回)に直接関わる資料です。ただ、防衛省は、審査請求(執行停止)の内容を公開していません。10月17日に行われた野党共同ヒアリングにおいて、「日本共産党井上哲士参院議員は、埋め立て承認取り消しの通知書の内容を公開している沖縄県にならい、国側も申し立て内容を明らかにすべきだと指摘。(略)防衛省側は「これから審査を受けるので内容は示せない」と拒みました。」(しんぶん赤旗/2018年10月18日)ということです。
 
 資料4~7は、3年前(2015年)に国が行った2度にわたる審査請求と執行停止申立て(3月の農林水産大臣宛及び10月に行われた国土交通大臣宛のもの)を振り返るための資料です。
 翁長雄志知事が、2015年3月、沖縄防衛局による作業が岩礁破砕許可を受けた範囲外の海域で岩礁を破砕しており、同許可に付された条件に違反しているとして、防衛局長に対して工事中止を指示したのに対し、防衛局長は行政不服審査法に基づいて農林水産大臣に審査請求及び執行停止の申立てを行い、農水大臣は同月中に工事中止指示の執行停止を決定しました。
 これに対し、丸山穂高衆議院議員(当時、維新の党)が「法(注:行政不服審査法)の趣旨は国民の権利利益の救済であって行政機関相互の紛争や国による審査請求を想定しておらず、国による審査請求と執行停止の申立てについては、法の趣旨を逸脱した違法行為として却下しなければならないのではないか。」という質問趣旨書を提出したところ、安倍内閣は、「国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分については、当該機関又は団体がその固有の資格において処分の相手方となる場合には、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)に基づく不服申立てをすることはできないが、一般私人と同様の立場において処分の相手方となる場合には、同法に基づく不服申立てをすることができるものと考える。」との答弁書を提出しました(資料4)。
 沖縄防衛局は、同年10月13日に行われた埋立承認取消に対しても、その翌日、直ちに国土交通大臣に対して審査請求と執行停止の申立てしたのですが、その理論的根拠は、3月の場合と全く同様であったと思われます。
 
 実は、国の答弁書に書かれた一般論は、当時、既に成立していた改正行政不服審査法(2016年4月1日施行)第7条2項(新設規定)「国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。」で明確にされていました(通説をそのまま明文化したものでしょう)。
 問題は、まさに、「国の機関(沖縄防衛局)に対する処分(埋立承認取消処分)で、これらの機関がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの」であるのか否かというところにあります。
 これについて、2015年10月23日に公表された行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」(資料6)は、明確に、沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立てを不適法であるとし、「一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意的に執行停止・裁決を行おうというものである。国民からみれば、国の一人芝居にほかならない。」と断じています。
 さらに、本件埋立承認に関わる沖縄防衛局の立場が、私人と同様のものなどではありえず、その固有の資格において当該処分の相手方となるものであることを詳細に論じた論文として、武田真一成蹊大学法科大学院教授による「辺野古埋立をめぐる法律問題について」をご紹介しました(資料7)。
 実はこの論文を知ったのは、色々情報を検索していた際、安倍首相の母校である成蹊大学ホームページに掲載された以下のような短信に気がついたのがきっかけでした。
 
成蹊大学   News & Topics   メディア掲載 2018年10月19日
法科大学院 武田真一郎教授の解説記事が東京新聞毎日新聞に掲載
(引用開始)
法科大学院 武田真一郎教授(専門分野:行政法)の解説記事が10月18日、東京新聞朝刊1面、毎日新聞朝刊3面にそれぞれ掲載されました。
武田教授は記事のなかで、「沖縄県辺野古の埋立承認を撤回したことに対し、国が国土交通大臣行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申立てをしたが、行政不服審査法は国民の権利を救済するための制度なので、国はこの制度を利用することはできない。原告と裁判官が同じ裁判のようなもので、きわめて不公正だ」と解説しています。
(引用終わり)
 
東京新聞 2018年10月18日 朝刊
政府、沖縄県に対抗措置 玉城氏「民意踏みにじる」
毎日新聞の記事は会員限定有料記事でした。
 
 日本国民は、国が愛用する行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止申立てという手法が、実は、対沖縄ケースだけで用いられているということを認識しておくべきでしょう。
 このことは、【資料5 仲里利信衆議院議員による一連の質問主位書】の内、2015年7月に行われた「国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問主意書」に対する答弁書の中で、その時点での先例(国が審査請求を行った)として、「漁港漁場整備法(昭和二十五年法律第百三十七号)第三十九条第一項本文に規定する行為に当たるとして沖縄防衛局が同条第四項の規定に基づき行った海域生物調査のための辺野古漁港区域内の占有及び調査に係る協議に対し、これを不許可とする旨の名護市長の回答について、平成二十三年一月に同局が同法第四十三条第一項の規定に基づき農林水産大臣に対して行った事例」しか挙げられなかったことから明らかです。
 つまり、今回(2018年10月)の事例を含め、国が審査請求を行った全4件(農林水産大臣宛2件、国土交通大臣宛2件)は、全て沖縄、それも辺野古がらみの案件ばかりであるということです。
 
 あらためて、行政不服審査法第1条1項「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」の趣旨をかみしめなければと思います。
 
【資料1 沖縄県による公有水面埋立承認取消(撤回)通知書及び関連法令】
沖縄県ホームページ 辺野古問題 最新情報 平成30年8月31日
(抜粋引用開始)
沖縄県達土第125号 
沖縄県達農第646号
                          公有水面埋立承認取消通知書
                                     沖縄県中頭郡嘉手納町字嘉手納 290 番地9
                   沖縄防衛局
                   (局長 中嶋 浩一郎)
 公有水面埋立法(大正10年法律第57号。以下「法」という。)第42条第3項により準用される法第4条第1項の規定に基づき、次のとおり法第42条第1項による承認を取り消します。
 平成30年8月31日
                    沖縄県副知事 謝花 喜一郎
1 処分の内容
 貴殿が受けた普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認(平成25年12月27日付け沖縄県指令土第1321号・同農第1721号)は、これを取り消す。
2 取消処分の理由
  別紙のとおり
(教示)
 この決定があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内に、沖縄県を被告として(訴訟において沖縄県を代表する者は、沖縄県知事となります。)、処分の取消しの訴えを提起することができます(この決定があったことを知った日の翌日から起算して6箇月以内であっても、この決定の日の翌日から起算して1年を経過すると処分の取消しの訴えを提起することができなくなります。)。
                                取消処分の理由
(略)
(引用終わり)
※参照条文
公有水面埋立法(大正十年法律第五十七号)
第四条 都道府県知事ハ埋立ノ免許ノ出願左ノ各号ニ適合スト認ムル場合ヲ除クノ外埋立ノ免許ヲ為スコトヲ得ズ
一 国土利用上適正且合理的ナルコト
二 其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト
三 埋立地ノ用途ガ土地利用又ハ環境保全ニ関スル国又ハ地方公共団体(港務局ヲ含ム)ノ法律ニ基ク計画ニ違背セザルコト
四 埋立地ノ用途ニ照シ公共施設ノ配置及規模ガ適正ナルコト
五 第二条第三項第四号ノ埋立ニ在リテハ出願人ガ公共団体其ノ他政令ヲ以テ定ムル者ナルコト並埋立地ノ処分方法及予定対価ノ額ガ適正ナルコト
六 出願人ガ其ノ埋立ヲ遂行スルニ足ル資力及信用ヲ有スルコト
2 (略)
3 (略)
第四十二条 国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ
2 (略)
3 第二条第二項及第三項、第三条乃至第十一条、第十三条ノ二(埋立地ノ用途又ハ設計ノ概要ノ変更ニ係ル部分ニ限ル)乃至第十五条、第三十一条、第三十七条並第四十四条ノ規定ハ第一項ノ埋立ニ関シ之ヲ準用ス但シ第十三条ノ二ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クベキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ノ承認ヲ受ケ第十四条ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クヘキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ニ通知スヘシ
行政事件訴訟法(昭和三十七年法律第百三十九号)
 (出訴期間)
第十四条 取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 (略)
 
【資料2 防衛省(沖縄防衛局)による審査請求及び執行停止申立て及び関連法令】
防衛省ホームページ お知らせ 平成30年10月17日
普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取消処分に対する審査請求及び執行停止申立てについて
(引用開始)
 本年8月31日の沖縄県による普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取消処分について、本日、沖縄防衛局長から国土交通大臣に対し、審査請求及び執行停止の申立てを行ったので、お知らせいたします。
(引用終わり)
※参照条文
行政不服審査法(平成二十六年法律第六十八号)
 (目的等)
第一条 この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。
2 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(以下単に「処分」という。)に関する不服申立てについては、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。
 (処分についての審査請求)
第二条 行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。
 (適用除外)
第七条 (略)
2 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。
 (執行停止)
第二十五条 審査請求は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分庁の上級行政庁又は処分庁である審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより又は職権で、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止その他の措置(以下「執行停止」という。)をとることができる。
3 処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない審査庁は、必要があると認める場合には、審査請求人の申立てにより、処分庁の意見を聴取した上、執行停止をすることができる。ただし、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止以外の措置をとることはできない。
4 前二項の規定による審査請求人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでない。
5 審査庁は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
6 第二項から第四項までの場合において、処分の効力の停止は、処分の効力の停止以外の措置によって目的を達することができるときは、することができない。
7 執行停止の申立てがあったとき、又は審理員から第四十条に規定する執行停止をすべき旨の意見書が提出されたときは、審査庁は、速やかに、執行停止をするかどうかを決定しなければならない。
 
【資料3 玉城デニー沖縄県知事による審査請求及び執行停止申し立てについてのコメント】
沖縄タイムス+プラス 2018年10月17日 17:39
「ぶれることなく、県民の思いに応えたい」 玉城デニー知事のコメント全文
知事コメント
 普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認の取り消しについて、本日、沖縄防衛局長が、国土交通大臣に対して、行政不服審査法に基づく審査請求及び執行停止申し立てを行ったとの報告を受けました。
 私は、法的措置ではなく、対話によって解決策を求めていくことが重要と考えており、去る10月12日の安倍総理や菅官房長官との面談においても、直接、対話による解決を求めたところであります。
 しかし、そのわずか5日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、県知事選挙で改めて示された民意を踏みにじるものであり、到底認められるものではありません。
 行政不服審査法は、国民(私人)の権利利益の簡易迅速な救済を図ることを目的とするものであります。
 一方、公有水面埋立法の規定上、国と私人は明確に区別され、今回は国が行う埋め立てであることから、私人に対する「免許」ではなく「承認」の手続きがなされたものであります。
 そのため、本件において、国が行政不服審査制度を用いることは、当該制度の趣旨をねじ曲げた、違法で、法治国家においてあるまじき行為と断じざるを得ません。
 平成27年10月13日の前回の承認取り消しの際も、沖縄防衛局は、国の一行政機関であるにもかかわらず、自らを国民と同じ「私人」であると主張して審査請求及び執行停止申し立てを行い、国土交通大臣は、約2週間で執行停止決定を行いました。
 しかしながら行政不服審査法第25条第4項では、「重大な損害を避けるために緊急の必要があると認めるとき」が執行停止の要件とされております。
 政府は、3年前の前回の承認取り消しに対しては、翌日には執行停止の申し立てを行っていますが、県が本年8月31日に行った承認取り消しから既に1カ月半以上が経過しており、「緊急の必要がある」とは到底認められません。
 仮に、本件において国土交通大臣により執行停止決定がなされれば、内閣の内部における、自作自演の極めて不当な決定といわざるを得ません。
 私は、安倍総理に対し、沖縄の声に真摯(しんし)に耳を傾け、安全保障の負担は全国で担うべき問題であり、民主主義の問題であるとの認識の下、早急に話し合いの場を設けていただきたいと訴えたところであり、引き続き、対話を求めてまいります。
 国民の皆さまにおかれましては、これまで日本の安全保障のために大きな役割を果たしてきた沖縄県において、辺野古新基地建設反対の圧倒的な民意が示されたにもかかわらず、その民意に対する現在の政権の向き合い方があまりにも強権的であるという、この現実のあるがままを見ていただきたいと思います。
 私は、辺野古に新基地はつくらせないという公約の実現に向けて、全身全霊で取り組んでまいります。
 私はぶれることなく、多くの県民の負託を受けた知事として、しっかりとその思いに応えたいと思いますので、県民の皆さまの御支援、ご協力をよろしくお願い申し上げます。
  2018年1017日
(引用終わり)
 
【資料4 丸山穂高衆議院議員による「行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問主意書」】 
平成二十七年四月一日提出 質問第一七九号
行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問主意書
提出者 丸山穂高
(引用開始)
 沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設問題で、沖縄県より海底ボーリング調査などの作業停止指示を受けた沖縄防衛局が行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止の申立てを行ったことに関連して、以下、質問する。
一 行政不服審査法に基づく審査請求について、同法を所管する総務大臣が過去の委員会答弁において「国や自治体が私人と同じ立場で法の適用を受ける場合は申し立ての主体になり得る」旨の発言を行っているが、政府見解もこれと同じか。
二 平成二十三年一月に沖縄防衛局が行った、名護市による辺野古漁港における生物調査不許可に対する審査請求について、防衛大臣が「一事業者としての立場で申し立てた」旨の発言を過去の委員会答弁において行っているが、政府見解もこれと同じか。
三 今回の沖縄防衛局による審査請求も、右記の両見解に基づき、国が一事業者の立場で行ったものか。
四 行政不服審査法以外の法律において、国が一事業者としての立場で行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立てについて直接行うことの出来るものがあるか。ある場合には、具体的な法律名とその申請内容について伺いたい。
五 行政不服審査法の第一条第一項において「この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」とされている。法の趣旨は国民の権利利益の救済であって行政機関相互の紛争や国による審査請求を想定しておらず、国による審査請求と執行停止の申立てについては、法の趣旨を逸脱した違法行為として却下しなければならないのではないか。政府の見解について伺いたい。
 右質問する。
(引用終わり)
 
平成二十七年四月十日受領 答弁第一七九号
内閣衆質一八九第一七九号
(引用開始)
衆議院議員丸山穂高君提出行政不服審査法に基づく審査請求の当事者に関する質問に対する答弁書
一から三まで及び五について
 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分については、当該機関又は団体がその固有の資格において処分の相手方となる場合には、行政不服審査法(昭和三十七年法律第百六十号)に基づく不服申立てをすることはできないが、一般私人と同様の立場において処分の相手方となる場合には、同法に基づく不服申立てをすることができるものと考える。
 御指摘の「発言」は、いずれもこの考え方に基づき行われたものであり、御指摘の「今回の沖縄防衛局による審査請求」についても同様である。
四について
 国の機関に対する処分であって、当該国の機関が一般私人と同様の立場において処分の相手方となるものについて、当該国の機関が当該処分に対し不服申立てをすることができない旨を特に定めた法律はないものと承知しており、一般に、このような処分については、法律上、国の機関が一般私人と同様の立場において不服申立てをすることは可能であると認識している。
(引用終わり)
 
【資料5 仲里利信衆議院議員による一連の質問主位書】
 在職中、非常に積極的に質問主位書を提出された仲里利信議員は、当然ながら、国が行政不服審査請求を行うことについての質問主意書も出されていました。質問主意書にしても、答弁書にしても非常に長いものが多く、一々引用できませんが、そのいくつかにリンクしておきます。
〇平成二十七年三月二十六日提出 質問第一六九号
沖縄防衛局長が沖縄県知事の停止指示を不服として農林水産大臣に提出した執行停止申立書と審査請求書に関する質問主意書
●内閣衆質一八九第一六九号 平成二十七年四月三日
衆議院議員仲里利信君提出沖縄防衛局長が沖縄県知事の停止指示を不服として農林水産大臣に提出した執行停止申立書と審査請求書に関する質問に対する答弁書
〇平成二十七年七月十三日提出 質問第三二二号
国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問主意書
●内閣衆質一八九第三二二号 平成二十七年七月二十一日
衆議院議員仲里利信君提出国が行政不服審査請求を行うことの適格性等に関する質問に対する答弁書
〇平成二十七年九月八日提出 質問第四一一号
国が公有水面埋立法行政不服審査法において公益を理由としながら私人と同様の立場を主張していることに関する質問主意書
●内閣衆質一八九第四一一号 平成二十七年九月十八日
衆議院議員仲里利信君提出国が公有水面埋立法行政不服審査法において公益を理由としながら私人と同様の立場を主張していることに関する質問に対する答弁書
 
【資料6 行政法研究者有志による声明「辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う」(2015年10月23日)】
声明 辺野古埋立承認問題における政府の行政不服審査制度の濫用を憂う
2015年10月23日 行政法研究者有志一同
(引用開始)
 周知のように、翁長雄志沖縄県知事は去る10月13日に、仲井眞弘多前知事が行った辺野古沿岸部への米軍新基地建設のための公有水面埋立承認を取り消した。これに対し、沖縄防衛局は、10月14日に、一般私人と同様の立場において行政不服審査法に基づき国土交通大臣に対し審査請求をするとともに、執行停止措置の申立てをした。この申立てについて、国土交通大臣が近日中に埋立承認取消処分の執行停止を命じることが確実視されている。
 しかし、この審査請求は、沖縄防衛局が基地の建設という目的のために申請した埋立承認を取り消したことについて行われたものである。行政処分につき固有の資格において相手方となった場合には、行政主体・行政機関が当該行政処分の審査請求をすることを現行の行政不服審査法は予定しておらず(参照、行審57条4項)、かつ、来年に施行される新行政不服審査法は当該処分を明示的に適用除外としている(新行審7条2項)。したがって、この審査請求は不適法であり、執行停止の申立てもまた不適法なものであって、国民の権利救済を目的としている行政不服審査制度を濫用するに甚だしいものがある。
 また、沖縄防衛局は、すでに説明したように「一般私人と同様の立場」で審査請求人・執行停止申立人になり、他方では、国土交通大臣が審査庁として立ち現われ、執行停止までも行おうとしている。これでは、一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意的に執行停止・裁決を行おうというものである。国民からみれば、国の一人芝居にほかならない。
 このような政府がとっている手法は、国民の権利救済制度である行政不服審査制度を濫用するものであって、じつに不公正極まりないものであり、法治国家に悖るものといわざるを得ない。
 法治国家の理念を実現するために日々教育・研究に従事している私たち行政法研究者にとって、このような事態は極めて憂慮の念に堪えないものである。国土交通大臣においては、今回の沖縄防衛局による執行停止の申立てをただちに却下するとともに、審査請求も却下することを求める。
※ 声明賛同署名 世話人
岡田正則(早稲田大学) 紙野健二(名古屋大学) 白藤博行(専修大学
本多滝夫(龍谷大学) 山下竜一(北海道大学) 亘理格(中央大学
(引用終わり)
 
【資料7 武田真一成蹊大学法科大学院教授「辺野古埋立をめぐる法律問題について」(成蹊法学83号・2015年12月21日)】
成蹊法学83号 論説
辺野古埋立をめぐる法律問題について」 武田 真一郎
(抜粋引用開始)
3 防衛局長による審査請求の問題点
 前述の1で見たように、知事は2015年3月に防衛局による作業が岩礁破砕許可を受けた範囲外の海域で岩礁を破砕しており、同許可に付された条件に違反しているとして、防衛局長に対して工事中止を指示した。これに対して防衛局長は行審法に基づいて農水大臣に審査請求および執行停止の申立を行い、同大臣は同月中に工事中止指示の執行停止を決定した。知事はさらに埋立承認を取り消す手続を開始したが、埋立承認の取消しが行われた場合にも防衛局長は埋立法を所管する国交大臣に対して行審法に基づいて審査請求と執行停止申立てを行い、同大臣はこれらを認容する可能性が高いものと思われる。
 なお、これらの審査請求等が行われるのは、岩礁破砕許可や埋立承認に関する事務は地方自治法2条9項1号の法定受託事務(第1号法定受託事務)とされており、同法255条の2第1号によって法律を所管する大臣に審査請求できることを根拠としている。
 以下、より影響が大きいと思われる埋立承認の取消しに対する審査請求や執行停止の可否についてまず検討する。既に行われた工事中止指示に対する審査請求の可否は同じ考え方に基づいて判断することができる。
 国や地方公共団体などの行政主体の行為には、私人の行為と同様に私人の資格で行われるものと、国や地方公共団体固有の資格で行われるものがある。契約の締結や営業許可、建築確認の申請などは、行政主体が行う場合であっても私人が行う場合と何ら異なるところはないから、私人の資格で行われるということができる。他方で行政処分や国の地方公共団体に対する関与などはごく一部の例外を除いてもとより私人が行うことができるものではなく、国や地方公共団体固有の資格で行われる。
 私人の資格で行われる行為であれば、国や地方公共団体は私人と同様に民事訴訟行政訴訟、行審法による不服申立てをすることができる。例えば、国と売買契約を締結した相手方に債務不履行があれば国は民事訴訟で履行を請求したり損害賠償請求をすることができるし、地方公共団体が食堂の営業許可を申請したが不許可処分を受けた場合には行審法に基づく不服申立てや不許可処分の取消訴訟を提起することができる。
 これに対して、国や地方公共団体固有の資格で行われる行為は私人の行為ではなく、行政権の行使に当たるから、国や地方公共団体は固有の資格で行った行為について民事訴訟取消訴訟、行審法による不服申立てをすることはできないのが原則である。例えば、市長がした生活保護の支給拒否処分に対して申請者が都道府県知事に審査請求をしたところ、知事が支給拒否処分を取り消す裁決をした場合において、市(市長)が行審法に基づく不服申立てをしたり行政事件訴訟法(以下「行訴法」という)に基づいて取消訴訟を提起して取消裁決の取消しを請求することはできない。また、市町村長が総務大臣に対して法定外普通税の新設の同意を求めたところ同大臣が同意を拒否した場合において、当該市町村(長)が行審法に基づく不服申立てをしたり行訴法に基づいて取消訴訟を提起して不同意の取消しを請求することはできない。
 それは市長のした支給拒否処分や市町村長のした同意の申請は私人の行為ではなく、地方公共団体固有の資格で行った行為であり、行政権の行使に当たる行為であるから、これに関する市と県および市と国の間の紛争は「国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争」(行訴法6条)であり、特別な法律の定めがある場合に限って争訟を提起できる(同法42条)と解されるからである。あるいは行政権は法令で認められた権限に基づいて行使されるものであり、私人としての権利や法的利益に基づいて行使されるものではないから、国や地方公共団体はそもそも私人の法律上の利益を保護するための制度である民事訴訟取消訴訟、行審法による不服申立てによって保護を求める法律上の利益を有しないということもできる。
 では、本件における国の埋立申請はどちらの資格で行われたのであろうか。埋立法は、私人による埋立申請と国による埋立申請を区別し、私人の申請には埋立免許を行い(2条)、国の申請には埋立承認を行うものとしている(42条)。そして、同法42条2項は、申請手続(2、3条)、免許基準(4条)、損害(損失)の補償(5~10条)などの規定を国による埋立に準用しているが、工事の竣工認可(22条)、埋立地の所有権の取得(24条)、
埋立免許の取消しや条件の変更、原状回復命令等の監督処分(32、33条)、免許の失効(34条)などの規定を準用していない。
 このように埋立法が私人による埋立と国による埋立を区別しているのは、両者の性質が異なるからであろう。私人の埋立は工場用地造成やリゾート施設建設など私的利益の実現を目的とするのに対し、国の埋立はインフラの整備による公益の実現を目的としている。国と都道府県知事はともに公益の代表者として相互に協力し合うことを前提としているのであり、埋立免許の取消しや監督処分の規定が準用されていないのは、相互の協力を前
提とすればこれらの規定を適用する必要がないためであると解される。
 よって、私人による埋立と国による埋立は異なっており、前者は私人の資格で行われるのに対し、後者は国固有の資格で行われると解すべきである。実際にも私人が軍事基地造成のために埋立を申請することなどあり得ないであろう。したがって、国による埋立申請は国固有の資格で行われたものであり、知事が埋立承認を取り消した場合において、国は行審法による審査請求や執行停止の申立てはできないと解される。
 仮に審査請求ができるとすると、国の機関による審査請求や執行停止申立てを同じ国の機関である国交大臣が審理することになり、一方的に国に有利となって不公正である。また、審査請求に対する裁決や執行停止決定を処分庁(本件では沖縄県知事)が争うことは困難であるから、この面から見ても不公正である。さらに、国による埋立については知事が事実上国の監督に服することになり、このような事態は国の地方公共団体に対する関与は必要最小限度とし、地方公共団体の自主性および自立性に配慮しなければならないとする地方自治法の原則(245条の3第1項)に違反するおそれがある。
(略)
(引用終わり)

11月のNNNドキュメントから~「北海道ブラックアウト 街も人も牛も・・・」ほか

 2018年10月19日配信(予定)のメルマガ金原No.3305を転載します。
 
11月のNNNドキュメントから~「北海道ブラックアウト 街も人も牛も・・・」ほか
 
 昨日書いた「岡口基一裁判官に対する分限裁判・最高裁大法廷「決定」を読む」の続編を書こうか(様々な人が納得できる最高裁「決定」批判を書かれているのでその紹介もしたいし)、けれども、弁護団声明が出るかもしれないので、それを待ってということにしようか、
あるいは、上記最高裁「決定」と同じ一昨日(10月17日)、沖縄県が行った公有水面埋立承認取消(撤回)の行政処分に対して防衛省沖縄防衛局が行政不服審査法に基づく審査請求と執行停止を申し立てた問題を取り上げようか、などとつらつら考え始めていた夕刻、国選弁護事件の指名打診の電話が事務所にあり、そこそこ時間がかかる警察署まで接見に行かねばならなくなりました。
 
 「ブログ毎日更新」などという願掛けをしていなければどうということもないのですが(弁護士接見は夜でも可能)、とにかく接見に出かける前に何か書かなければということで、苦しい時のTVドキュメンタリー番組案内をお送りすることにしました。
 
 日本テレビ系列のNNNドキュメントのホームページを閲覧してみると、11月に放送される3番組の予告が掲載されていることに気がつきました。
 どれも興味が惹かれる題材であり、3つまとめてご紹介しておきます。
 それから、各番組テーマと関連する参考サイトも併せてご紹介しておきます。
 
2018年11月5日(月)午前0時55分~(4日深夜)
北海道ブラックアウト 街も人も牛も・・・
(番組案内から引用開始)
最大震度7を観測した北海道胆振東部地震。激震の18分後、予想もしていなかった出来事が...。全停電「ブラックアウト」が発生したのです。北海道のすべての世帯295万戸への電力供給が停止するという異常事態。物流が止まり都市機能もマヒ。さらに、医療を必要とする人の人工呼吸器も停止し命の危機が。搾乳ができず炎症を起こし死んだ牛も。日本で初めての「ブラックアウト」から私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。【制作:札幌テレビ】
再放送   
11月11日(日)11:00~ BS日テレ
11月11日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24
(引用終わり)
※参考サイト
〇牧田寛「北海道胆振東部地震泊原発が動いていれば停電はなかった」論はなぜ「完全に間違い」なのか」
〇牧田寛「私設原発応援団たちによる、間違いだらけの「泊原発動いてれば」反論を斬る」
〇牧田寛「北海道電力は今回の震災を教訓として「常敗無勝国策」から脱却せよ」
 
2018年11月12日(月)午前1時00分~(11日深夜)
再稼働させるのか"東?第二"...首都圏の巨大老原発(仮)
(番組案内から引用開始)
東京から最も近い原発を知っていますか?
百キロ先にある茨城県の東海第2原発だ。運転開始40年の老朽原発。今年9月新基準に合格した。だが30キロ圏の人口は96万人と国内の原発としては最多。万が一の時、住民らは逃げられるか?番組では、茨城県内の44市町村に避難の実現可能性についてアンケートを実施した。風向きによっては、首都圏や福島にも放射性物質が飛んでくる恐れもある。老朽原発のこれからを問う。
【制作:日本テレビ
再放送   
11月18日(日)11:00~ BS日テレ
11月18日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24
(引用終わり)
※参考サイト
週刊女性2018年5月1日号「《脱原発を語る》東海村元村長「安全神話に安住している国に安全はない!」
原子力資料情報室声明「東海第二原発は、新規制基準適合性審査合格でなく廃炉にすべきだ」
〇とめよう!東海第二原発 首都圏連絡会
   
2018年11月19日(月)午前1時05分~(18日深夜)
楽しいは世界をつなぐ~KENDAMA~(仮)
(番組案内から引用開始)
けん玉のワールドカップが、7月広島県で開催され各国から400人が参加。華麗な演技が披露され2日間で約5万人という観客を魅了した。
その大会の仕掛け人は、長野県松本市在住の窪田保さん。彼はこれまで国内外でけん玉の普及活動を行ってきた。一方で、集中力のアップなどを目的に五輪金メダリストの柔道家古賀稔彦さんの道場でもけん玉を練習に取り入れていた。その効果を科学的に解明しようという動きも。海外でも人気の"KENDAMA"の魅力と未来への可能性を探る。
【制作:テレビ信州】
再放送   
11月25日(日)11:00~ BS日テレ
11月25日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24
(引用終わり)
※参考サイト
〇けん玉で世界をつなぐ 一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク(GLOKEN)
〇“kendama GLOKEN”YouTubeチャンネル

岡口基一裁判官に対する分限裁判・最高裁大法廷「決定」を読む

 2018年10月18日配信(予定)のメルマガ金原No.3304を転載します。
 
岡口基一裁判官に対する分限裁判・最高裁大法廷「決定」を読む
 
 昨日(10月17日)のブログで、速報としてお知らせした岡口基一裁判官(東京高等裁判所判事)の分限裁判について、最高裁判所大法廷が、岡口裁判官を「戒告する」との決定を行ったという件の、今日は続報です。
 
 まず、事案の概略をおさらいする意味で、メディアの報道を引用しておきます。
 
朝日新聞デジタル  2018年10月17日18時46分
岡口裁判官を最高裁が戒告処分 SNS発信での懲戒は初
(抜粋引用開始)
 ツイッターで裁判の当事者の感情を傷つけたとして懲戒を申し立てられた東京高裁の岡口基一裁判官(52)に対する「分限裁判」で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は17日、岡口氏を戒告処分とした。ツイッターに投稿した内容が、裁判所法が定める「品位を辱める行状」にあたると判断した。SNSでの発信を理由に裁判官が懲戒処分を受けるのは初めて。
(略)
 問題とされたのは5月のツイート。岡口氏は拾われた犬の所有権が元の飼い主と拾った人のどちらにあるかが争われた裁判をめぐり、「公園に放置された犬を保護したら、元の飼い主が名乗り出て『返して下さい』 え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しながら」などと投稿した。
 高裁は「揶揄(やゆ)するような表現で当事者を一方的に批判し、傷つけた」と判断し、7月に最高裁に懲戒を申し立てた。岡口氏は9月に開かれた分限裁判の審問手続きで「懲戒権を発動すれば表現の自由を侵害し、裁判官の独立をも脅かす」と反論していた。
(略)
(引用終わり)
 
毎日新聞 2018年10月17日 21時43分(最終更新 10月17日 22時36分)
不適切投稿 「最高裁決定にがくぜん」岡口裁判官が会見
(引用開始)
(略)
 岡口氏は17日夜に東京都内で記者会見し「最高裁は、あたかも私が『訴訟を起こしたこと自体がけしからん』と言っていると、高裁の申し立て理由にない事実認定をしている。がくぜんとした」と最高裁の決定を批判した。
 戒告処分は賞与に一部影響が出るが、裁判官の身分や基本的な待遇には影響しない。進退については「向こう(高裁)は最終的に(自ら)辞めさせるところまで持っていきたいのだろう。耐えられなくなったら辞める。若干辞めたいとも思っている」と話し、ネットでの発信は「15年以上やっており、同じようにやっていく」と述べた。
(略)
(引用終わり)
 
 昨日決定が出たばかりであり、とりあえず今日のところは、この分限裁判の意味を考えるための資料を集めてご紹介しておこうと思います。
 
 まずは、最高裁の決定そのものです。いずれ、裁判所のウエブサイトに全文が掲載されるだろうけれど、しばらく時間がかかるかもしれないので、「分限裁判の記録 岡口基一」にアップされた決定の写真を基に、ワープロで再入力することを覚悟したのですが、本文だけで7頁あり、いささかうんざりしていました。
 もっとも、今回の決定は、14名の裁判官(元東京高裁長官の戸倉三郎裁判官は長官在任中に岡口裁判官を厳重注意処分にしたので分限裁判は回避)全員一致だったからこの程度の分量の決定に収まったので、気合いを入れて反対意見を書く裁判官が1人でもいれば、もっと長い決定になったはずなのですが。
 それが、最高裁がすばやくこの決定を裁判所ウエブサイトの裁判例情報コーナーにアップしてくれたので、面倒な手間を省くことができたのは幸いでした。
 
 なお、この決定には、3人の裁判官(山本庸幸裁判官:元内閣法制局長官、林景一裁判官:元外交官、宮崎裕子裁判官:弁護士出身)による補足意見が付されています。もっともこの補足意見は、まるで、起訴されていない略式手続による罰金前科が悪質なので、起訴された事件自体はたいしたことのない事案だけれど、懲役の有罪判決にしておいた、という風に読めるのですけどね。こういう読み方はおかしいでしょうか、法曹の皆さんはどうお考えでしょう?
 
 今日は資料の収集にとどめるつもりでしたが、決定全文を読むとつい言いたくなってくるのですよね。上の補足意見についてもそうですが、問題のツイート(以下の決定の末尾ツイート目録記載2のツイートです)を素直に読んで、「私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えたものといえる。」とどうして言えるのかが根本的に解せません。上告審としての最高裁は法律審ですが、分限裁判では厳密な事実認定を行わなければならないはずで、その部分がそもそもおかしいと思います。
 
 何はともあれ、最高裁決定を全文引用します。
 
平成30年(分)第1号  裁判官に対する懲戒申立て事件
平成30年10月17日 最高裁判所大法廷  決定
判示事項  
1 裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」とは,職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をいう
2 裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で,判決が確定した担当外の民事訴訟事件に関し,インターネットを利用して短文の投稿をすることができる情報ネットワーク上で投稿をした行為が,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるとされた事例
決定全文
(引用開始)
平成30年(分)第1号 裁判官に対する懲戒申立て事件
平成30年10月17日 大法廷決定
                                主      文
            被申立人を戒告する。
                                理      由
1 本件に至る経緯
(1) 被申立人は,平成6年4月13日付けで判事補に,同16年4月13日付けで判事に任命され,同27年4月1日から東京高等裁判所判事の職にあり,民事事件を担当している者である。
(2) 被申立人は,水戸地方・家庭裁判所下妻支部判事であった平成26年4月23日頃,ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)上の被申立人の実名が付された自己のアカウント(以下「本件アカウント」という。)において,裁判官に任命された者に交付される辞令書である官記の写真と共に,自己の裸体の写真や白いブリーフのみを着用した状態の写真等を今後も投稿する旨の別紙ツイート目録記載1の投稿をし,その後も,同28年3月までの間に,本件アカウントにおいて,縄で縛られた上半身裸の男性の写真を付したコメントをするなど2件の投稿をした。東京高等裁判所長官は,同年6月21日,被申立人に対し,上記3件の投稿は裁判官の品位と裁判所に対する国民の信頼を傷つける行為であるとして,下級裁判所事務処理規則21条に基づき,口頭による厳重注意をした。
(3) 被申立人は,平成29年12月13日頃,裁判官であることを他者から認識することができる状態で,本件アカウントにおいて,特定の性犯罪事件についての判決を閲覧することができる裁判所ウェブサイトのURL(利用者の求めに応じてインターネット上のウェブサイトを検索し,識別するための符号)と共に,「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」,「そんな男に,無惨にも殺されてしまった17歳の女性」と記載した投稿をして,被害者遺族の感情を傷つけるなどした。東京高等裁判所長官は,平成30年3月15日,被申立人に対し,上記の行為は,裁判官として不適切であるとともに,裁判所に対する国民の信頼を損なうものであるとして,下級裁判所事務処理規則21条に基づき,書面による厳重注意をした。
 なお,被申立人は,上記投稿について東京高等裁判所長官から事情聴取を受けた際,遺族の方を傷つけて申し訳なかった,やってはいけないことをやってしまったという思いである,深く反省しているなどと述べていた。
2 懲戒の原因となる事実
 被申立人は,平成30年5月17日頃,本件アカウントにおいて,東京高等裁判所控訴審判決がされて確定した自己の担当外の事件である犬の返還請求等に関する民事訴訟についての報道記事を閲覧することができるウェブサイトにアクセスすることができるようにするとともに,別紙ツイート目録記載2の文言を記載した投稿(以下「本件ツイート」という。)をして,上記訴訟を提起して犬の返還請求が認められた当事者の感情を傷つけた。
 本件ツイートは,本件アカウントにおける投稿が裁判官である被申立人によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で行われたものであった。
3 証拠
 上記1及び2の各事実は,①被申立人の履歴書,②東京高等裁判所事務局長作成の平成30年6月12日付け及び同年7月4日付け各報告書により,これを認める。
 なお,本件ツイートが裁判官によるものであると知られている状況の下で行われたことは,別紙ツイート目録記載1の投稿が被申立人の判事任命に係る官記の写真と共にされたことや,被申立人が平成30年2月頃,対談者の一方の表示を「裁判官岡口基一」とする対談本を紹介する投稿を本件アカウントにおいて行ったこと,前記1記載の各投稿及びこれに対する各厳重注意が裁判官による非違行為として実名で広く報道されたこと等から,明らかに認められる。
4 判断
(1) 裁判の公正,中立は,裁判ないしは裁判所に対する国民の信頼の基礎を成すものであり,裁判官は,公正,中立な審判者として裁判を行うことを職責とする者である。したがって,裁判官は,職務を遂行するに際してはもとより,職務を離れた私人としての生活においても,その職責と相いれないような行為をしてはならず,また,裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように,慎重に行動すべき義務を負っているものというべきである(最高裁平成13年(分)第3号同年3月30日大法廷決定・裁判集民事201号737頁参照)。
 裁判所法49条も,裁判官が上記の義務を負っていることを踏まえて,「品位を辱める行状」を懲戒事由として定めたものと解されるから,同条にいう「品位を辱める行状」とは,職務上の行為であると,純然たる私的行為であるとを問わず,およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね,又は裁判の公正を疑わせるような言動をいうものと解するのが相当である。
(2) 前記2の事実によれば,被申立人は,本件アカウントにおける自己の投稿が裁判官によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で,本件アカウントにおいて,公園に置き去りにされた犬を保護して育てていた者に対してその飼い主が返還等を求める訴訟を提起したことについて,この行動と相いれないものとして上記飼い主の過去の行動を指摘しつつ,揶揄するものともとれる表現を用いて驚きと疑問を示すとともに,上記飼い主による犬の返還請求を認めた判決が確定した旨を報ずる報道記事にアクセスすることができるようにした本件ツイートを行ったものである。そして,前記3②の証拠によれば,上記報道記事は専ら上記訴訟の被告側の視点に立って書かれたものであると認められるところ,本件ツイートには,上記飼い主が訴訟を提起するに至った事情を含む上記訴訟の事実関係や上記飼い主側の事情について言及するところはなく,上記飼い主の主張について被申立人がどのように検討したかに関しても何ら示されていない。また,別紙ツイート目録記載2のとおり,本件ツイートにおける上記驚きと疑問が,専ら上記訴訟の被告の言い分を要約して述べたにすぎないもの,あるいは上記報道記事の要約にすぎないものと理解されることとなるような記載はない上,上記報道記事にも本件ツイートで用いられたような表現は見当たらず,本件ツイートは,一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば,そのような訴訟を上記飼い主が提起すること自体が不当であると被申立人が考えていることを示すものと受け止めざるを得ないものである。現に,上記飼い主は,東京高等裁判所を訪れて,「え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・」との記載に傷つき,被申立人に抗議したいこと,本件ツイートの削除を求めること,裁判所としてこの問題にどのような対応をするのか知りたいこと等を述べ,本件ツイート削除後も,裁判所として被申立人を注意するよう述べたことが認められる(前記3②の証拠)。
 そうすると,被申立人は,裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で,判決が確定した担当外の民事訴訟事件に関し,その内容を十分に検討した形跡を示さず,表面的な情報のみを掲げて,私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えたものといえる。被申立人のこのような行為は,裁判官が,その職務を行うについて,表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもって判断をするのではないかという疑念を国民に与えるとともに,上記原告が訴訟を提起したことを揶揄するものともとれるその表現振りとあいまって,裁判を受ける権利を保障された私人である上記原告の訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すことで,当該原告の感情を傷つけるものであり,裁判官に対する国民の信頼を損ね,また裁判の公正を疑わせるものでもあるといわざるを得ない。
 したがって,被申立人の上記行為は,裁判所法49条にいう「品位を辱める行状」に当たるというべきである。
 なお,憲法上の表現の自由の保障は裁判官にも及び,裁判官も一市民としてその自由を有することは当然であるが,被申立人の上記行為は,表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものといわざるを得ないものであって,これが懲戒の対象となることは明らかである。また,そうである以上,本件申立てが,被申立人にツイッターにおける投稿をやめさせる手段として,あるいは被申立人がツイッターにおける投稿をやめることを誓約しなかったことを理由にされた不当なものということはできない。
 そして,被申立人は,本件ツイートを行う以前に,本件アカウントにおける投稿によって裁判官の品位と裁判所に対する国民の信頼を傷つけたなどとして2度にわたる厳重注意を受けており,取り分け2度目の厳重注意は,訴訟に関係した私人の感情を傷つけるものである点で本件と類似する行為に対するものであった上,本件ツイートの僅か2か月前であったこと,当該厳重注意を受ける前の事情聴取の際,被申立人は,訴訟の関係者を傷つけたことについて深く反省しているなどと述べていたことにも照らすと,そのような経緯があるにもかかわらず,本件ツイートに及んだ被申立人の行為は,強く非難されるべきものというほかない。
 よって,裁判官分限法2条の規定により被申立人を戒告することとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。なお,裁判官山本庸幸,同林景一,同宮崎裕子の補足意見がある。
 裁判官山本庸幸,同林景一,同宮崎裕子の補足意見は,次のとおりである。
 私たちは,法廷意見に賛同するものであるが,それは,次のような考え方によるものである。
1 本件において懲戒の原因とされた事実は,ツイッターの本件アカウントにおける投稿が裁判官である被申立人によるものであることが不特定多数の者に知られている状況の下で,本件で取り上げられた訴訟につき,主として当該訴訟の被告側の主張を紹介する報道記事にアクセスすることができるようにするとともに,揶揄するような表現で間接的に当該訴訟の原告の提訴行為を非難し,原告の感情を傷つけたというものであって,このような行為は,公正中立を旨とすべき裁判官として,不適切かつ軽率な行為であると考える次第である。被申立人は,本件ツイートは,報道記事を要約しただけのものであって原告の感情を傷つけるものではないなどと主張しているが,本件ツイートのアクセス先の報道記事全体が主として被告側の主張を紹介するものであることは文面から容易に読み取れるため,それについて本件ツイートのような表現でツイートをすれば,現役裁判官が原告の提訴行為を揶揄している投稿であると受け止められてもやむを得ないというべきである。
2 しかも被申立人は,本件に先立つ2年余りの間に,本件アカウントにおいて行ったいくつかの投稿の内容につき,東京高等裁判所長官から,2度にわたって,裁判官の品位と裁判所に対する国民の信頼を傷つける行為であるなどとして,口頭又は書面による厳重注意を受けている。
 中でも,2度目の厳重注意を受けた投稿は,特定の性犯罪に係る刑事訴訟事件の判決について行ったもので,本件ツイート以上に明白かつ著しく訴訟関係者(被害者遺族)の感情を傷つけるものであった。その意味で,私たちは,これは本件ツイートよりも悪質であって,裁判官として全くもって不適切であり,裁判所に対する国民の信頼をいたく傷つける行為であるとして,それ自体で懲戒に値するものではなかったかとも考えるものである。しかしながら,これに関する東京高等裁判所長官による事情聴取に対して,被申立人は,「遺族の方を傷つけて申し訳なかった・・・深く反省している。」と申し述べていたことからして,おそらく当時の東京高等裁判所長官としては,この反省を踏まえて,あえて厳重注意にとどめたのではないかと推察する次第である。
3 このような経緯を踏まえれば,本件アカウントにおいて,この2度目の厳重注意から僅か2か月余りしか経過していない時に,やはり特定の訴訟について訴訟関係者の感情を傷つける投稿を再び行ったということには,もはや宥恕の余地はないものといわざるを得ない。本件ツイートと2度目の厳重注意事案との悪質性の比較は措くとしても,懲戒処分相当性の判断に当たり,本件ツイートは,いわば「the last straw」(ラクダの背に限度いっぱいの荷が載せられているときは,麦わら一本積み増しても,重みに耐えかねて背中が折れてしまうという話から,限界を超えさせるものの例え)ともいうべきものであろう。
4 なお,被申立人は,厳重注意措置の対象となった過去の投稿に係る一事不再理を主張する。しかしながら,本件の処分理由は,過去の行為そのものを蒸し返して再度問題にするものではない。そうではなくて,過去2回受けた厳重注意と,特に,2度目の厳重注意を受けた際の反省の弁にもかかわらず,僅か2か月余りが経過したばかりで同種同様の行為を再び行ったことを問題としているものである。
5 ちなみに,現役裁判官が,ツイッターにせよ何にせよ,SNSその他の表現手段によってその思うところを表現することは,憲法の保障する表現の自由によって保護されるべきであることは,いうまでもない。しかしながら,裁判官はその職責上,品位を保持し,裁判については公正中立の立場で臨むことなどによって,国民の信頼を得ることが何よりも求められている。本件のように,裁判官であることが広く知られている状況の下で表現行為を行う場合には,そのような国民の信頼を損なうものとならないよう,その内容,表現の選択において,取り分け自己を律するべきであると考える。
 そして,そのような意味での一定の節度あるいは限度というものはあるものの,裁判官も,一国民として自由な表現を行うということ自体は制限されていないのであるから,本件のような事例によって一国民としての裁判官の発信が無用に萎縮することのないように,念のため申し添える次第である。
(裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 岡部喜代子 裁判官 鬼丸かおる 裁判官 山本庸幸 裁判官 山﨑敏充 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 菅野博之 裁判官 山口 厚 裁判官 林 景一 裁判官 宮崎裕子 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦 守)
(別紙)
                                   ツイート目録
1 判事任命の官記の写真1枚と共に,「俺が再任されたことを,内閣の人が,習字で書いてくれたよ。これを励みにして,これからも,エロエロツイートとか頑張るね。自分の裸写真とか,白ブリーフ一丁写真とかも,どんどんアップしますね。」などと記載したツイート
2 公園に放置されていた犬を保護し育てていたら,3か月くらい経って,
  もとの飼い主が名乗り出てきて,「返して下さい」
  え?あなた?この犬を捨てたんでしょ? 3か月も放置しておきながら・・
  裁判の結果は・・
(引用終わり)
 
 以上の決定で引用されている最高裁平成13年(分)第3号同年3月30日大法廷決定というのは以下から全文を読むことができます。該当箇所を引用しておきます。
(引用開始)
裁判の公正,中立は,裁判ないしは裁判所に対する国民の信頼の基礎を成すものであり,裁判官は,公正,中立な審判者として裁判を行うことを職責とする者である。したがって,裁判官は,職務を遂行するに際してはもとより,職務を離れた私人としての生活においても,その職責と相いれないような行為をしてはならず,また,裁判所や裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように,慎重に行動すべき義務を負っているものというべきである。
(引用終わり)
 
 以下には、この問題を考える上で有益と思われるサイトをご紹介しておきます。私の目に付いたものですから、分限裁判に批判的な主張に偏っているのは当然なので、ご了解願います。
 
◎分限裁判の記録 岡口基一 
 東京高裁から最高裁への「懲戒申立書」からはじまって、最高裁に提出した主張書面や学者・弁護士による意見書などが全て公開されています。
 裁判官分限裁判の記録が、これだけ即時的に公衆の目に触れるのは前代未聞のことでしょう。そうなったいきさつについて、岡口裁判官は以下のように説明しています。
 
分限裁判の情報の公開について 2018-08-18
(引用開始)
私は,今年の6月13日に,自身の分限裁判の開始を知りましたが,
そのことについては,一切,ツイッター等では明らかにしない意向でした。
それは,当該事件の当事者の方に配慮してのことでした。
ところが,私は,夏期休暇中の7月23日の新聞及びテレビを見て,大変に驚きました。
裁判所当局が,私の了解もなく,本来非公開である私の分限事件について,マスコミにリークしてしまったのみならず,
その対象となる行為が,当該事件についてのツイートであることまで明らかにしてしまったのです(ツイートの内容までは公表しないこともできたと思われます)。
そのため,私も,当事者に配慮して自身の分限裁判を秘匿する必要がなくなったため,情報の公開に踏み切ったという経緯です。
すでに,全国の多くの方が,この情報を知ってしまっているからです。
(引用終わり)
 
◎岡口裁判官がリツイートした(多分)と思われるサイト
 問題の岡口裁判官のツイート自体、今は削除されているので確認のしようがないのですが、同裁判官がリツイートした報道記事というのは、アップされた日付(2018年5月16日)や記事の内容から考えて、多分これではないかと思われます。この記事を掲載した「sippo」というウエブサイトは、朝日新聞が運営するサイトであり、この署名記事を書いたのも朝日新聞の記者です。
〇「放置された犬を保護して飼育 3カ月後に返還要求、裁判に発展」 太田匡彦
 
弁護団メンバーによる解説記事
 この分限裁判については、岡口裁判官の同期(司法修習46期)の弁護士18名によって弁護団が結成されたようですが、メンバー伊藤和子弁護士や小倉秀夫弁護士が、とても分かりやすい解説記事を発表されています。
伊藤和子弁護士「ツイッターで懲戒が許されるのか? 岡口裁判官の分限裁判で報道されなかった論点とは。」
小倉秀夫弁護士「岡口判事の分限裁判について」
 
有識者(学者・弁護士)による意見書
  「分限裁判の記録 岡口基一」に逐一掲載された学者・弁護士による意見書です。
〇木村草太首都大学東京教授(憲法)の意見書(2018年9月10日付)
海渡雄一弁護士の意見書(2018年9月11日付)
海渡雄一弁護士の意見書(2)(2018年9月25日付)
〇毛利透京都大学大学院法学研究科教授の意見書(2018年9月21日付)
金尚均(キムサンギュン)龍谷大学教授の意見書(2018年9月23日付)
〇木下昌彦神戸大学大学院法学研究科准教授の意見書(2018年9月25日付)
〇志田陽子武蔵野美術大学教授の意見書(2018年9月25日付)
 
岡口基一裁判官及び弁護団による記者会見動画
〇【ノーカット】岡口基一裁判官、司法記者クラブ会見(2018.9.11)(57分)
※2018年9月11日に最高裁で開かれた審問のあと、司法記者クラブで開かれた記者会見の模様全編。
〇【ノーカット】岡口基一裁判官、司法記者クラブ会見(2018.10.17)(48分)
最高裁判所が2018年10月17日に戒告処分を決定した当日、司法記者クラブで行われた記者会見の模様全編。
 
◎猪野亨(いのとおる)弁護士(札幌弁護士会)の意見(10月18日)
岡口基一裁判官に対する最高裁による不当処分 裁判官に対する官僚統制 反対意見の1つも出ない最高裁まで統制されている
〇岡口判事裁判官への戒告処分は裁判官の権威を振りかざすための統制
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/岡口基一裁判官分限裁判関連)
2018年10月2日
「裁判官にも「つぶやく自由」はある 裁判官の表現の自由の尊重を求める弁護士共同アピール」への賛同のお願い~弁護士限定ですが
2018年10月17日
日本ペンクラブ言論表現委員会シンポジウム「『憲法表現の自由』の現在と未来」(2018年10月16日)動画のご紹介