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石渡正佳氏『消えた震災がれきの謎』(日経ビジネスオンライン)

 今晩(2013年3月12日)配信した「メルマガ金原No.1291」を転載します。
 
石渡正佳氏『消えた震災がれきの謎』(日経ビジネスオンライン)
 
 3.11からちょうど2年目にあたる昨日(2013年3月11日)、日経ビジネスオンランに注目すべき論考がアップされました。
 石渡正佳(いしわた・まさよし/千葉県河川海岸管理室長)氏が書かれた『消えた震災がれきの謎』です。
 
 今年に入ってから環境省がさりげなく発表した
 1月25日「東日本大震災に係る害廃棄物の処理工程表(進捗状況・加速化の取組)改訂版」(2月22日訂正)
 2月22日「災害廃棄物処理の進捗状況(3県沿岸市町村)」
には、国が鳴り物入りで推進してきた「災害がれき広域処理」の大前となる広域処理を必要とする「災害がれき」そのものがもはや存在しなくなっているという驚くべきデータが明らかになっているのですが、このことを大手マスメディアはなかなか大きく伝えようとしません。
 わずかに、東京新聞がいつものように独走しているという状況でしょうか。
 ※「がれき激減で、広域処理の大半が3月末で打ち切り」(東京新聞・こちら部」2013年2月11日)
 
 そのような中、日本経済新聞の子会社が運営するサイト(日経ビジネスオンライン)にこのような記事が掲載される意味は小さくないと思い、ご紹介することとしました。
 ただし、日経BOの記事は、会員登録(無料です)しないと全文は読めないことになっていますので、登録されることをお勧めします。
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 詳細は、石渡氏の論考をお読みいただきたいのですが、注目すべき部分を抜粋して引用しておきます。
 
(抜粋引用開始)
 まだ現場の混乱が続いていると思いきや、今年2月22日に環境省が発表した震災がれきの処理進捗率は、岩手県38.8%、宮城県51.1%、福島県30.9%、東北3県合計46.3%で、数字の上では急進展している。宮城県はわずか2カ月程度で20ポイントも進んだことになる。
 何か数字のマジックがあるのではないかと思い、2月末に再び東北を訪問した。
 被災地を回ってみてまず驚いたのは、震災がれきの処理が目に見えて進展していたことだ。岩手県と宮城県の現地を見るかぎり、どの被災地でも震災がれきの撤去はほぼ完了していた。一次仮置き場に十数メートルの高さに積み上げられていた震災がれきもすっかり消えていた。
 環境省発表の数字の上では、未処理の震災がれきがまだ半分残っているはずなのだが、一次仮置き場の震災がれきはどこに行っても見当たらず、二次仮置き場(仮設処理施設)で見られる震災がれきの山も小さかった。震災がれきを満載して走るダンプトラックの数も減ったように感じた。現地では環境省発表の数字以上に処理が進展しているという印象を受けた。
(中略)
 それなのになぜ、震災がれきの処理は年明けから急進展したのか。
 実は処理が進展したのではなく、震災がれき発生推計量が下方修正されたのである。
(中略)
 なぜ、このような大幅な下方修正となったのか。第一の理由は、当初の発生推計量は航空写真による被災面積に、これまでの災害の経験を踏まえた係数をかけて割り出したものだったが、その後、撤去実績数値に徐々に置き換えられたのである。昨年中から何度か下方修正されてきたが、年明けの修正は特に大きかった。
 第二の理由は、当初の発生推計量は被災建物の基礎まで除却することを想定していたが、全滅市街地では基礎を除却してしまうと宅地の境界が不明になることや、撤去工期を短縮する観点から、基礎を除却しない現場が増えたからである。戸建て住宅の場合、基礎は住宅全体の3割程度の重さにもなるので、基礎を撤去するかしないかでは震災がれき量は大きく違ってくるのである。
(中略)
 岩手・宮城両県とも、広域処理協力量を含めて処理終了目標を達成する計画なので、広域処理協力はまだ必要だとしている。しかし、これはお願いしておいていまさら要らないとも言えないから、表向き必要と言っているにすぎない。岩手、宮城両県で487万tも発生推計量が下方修正されたのに、数十万t程度の広域処理協力がまだ必要だというのは意味がない。高い運搬費がかかる広域処理は、本音を言えば全面的に休止し、県内処理に切り替えたいのである。すでに両県とも新規の協力要請は見合わせており、宮城県は4月から可燃物の広域処理を
中止すると発表している。
 震災がれき発生量が当初推計されたほど多くなく、処理が予定より早く終わる見込みとなったのは良いことだと思うかもしれない。だが、過大な推計に基づいて過大な施設を建設し、過剰な人員を雇用したことは税金のムダ遣いである。
(中略)
 現場では過大施設の別の問題が生じている。焼却炉は一定以上の廃棄物がないと定常運転ができず、休止する可能性があるのだ。実際、宮城県では焼却する廃棄物が不足する処理区が出ており、他地区から廃棄物を融通したり、震災がれき以外も処理しようという案も出ている。また早く処理が終わってしまうと、雇用の問題が出るので、予定通りの処理期間にするため処理をペースダウンせよという指示が出たとも聞く。声高には言えないことであるが、これが消えた震災がれきの真相である。
 その一方、道路や宅地の嵩上げ工事のため、震災がれきや津波堆積物から再生したグリ(砕石)や土砂は引く手あまたの人気商品となっている。再生資材の品薄は、今後の復興のスケジュールにも影響を与える問題であり、国土交通省は全国の公共事業から発生する再生資材や残土を東北地方へと海上運搬する検討に入っている。莫大な震災がれきを前にして茫然自失していた状況から一転して、廃棄物が足らない事態となっているのである。
(中略)
 災害廃棄物処理事業と同じような過大見積もりによる復興予算の暴走は、今後の復興工事でも起こるに違いない。それを事前にチェックする機能は行政にはないのである。
(引用終わり)