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『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(伊勢﨑賢治氏著)を読む

 今晩(2014年11月15日)配信した「メルマガ金原No.1910」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(伊勢﨑賢治氏著)を読む

伊勢崎氏講演 昨日(11月14日)、和歌山市和歌山県JAビルにおいて、伊勢﨑賢治さん(東京外国
語大学総合国際学研究院教授)による講演会「紛争解決人 伊勢﨑賢治が語る~憲法条・国際貢献・集団的自衛権~」が開かれました。
 事前告知記事は以下のとおり。
 
 
 また、今年の6月22日に東京で開かれた若者憲法集会(大学生企画分科会)での講演をご紹介した記事はこちらから。
 
 
 現在、伊勢﨑さんが国民に訴えようとされている内容を知るためには、上記、若者憲法集会での講演動画を視聴されるのが最も直截であろうと思います。
 
20140622 UPLAN 伊勢崎賢治「紛争解決のプロと話す集団的自衛権(若者憲法会大学生分科会)」
 

 今日は、伊勢﨑さんの10月に出たばかりの最新の著書『日本人は人を殺しに行くのか
 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新書をご紹介しようと思います。

 
 朝日新聞出版WEBサイトから立ち読みできますが、「このページを立ち読みさせてどうするんだ」というようなところですね。
 
 それよりも、WEB RONZAに引用されていた「まえがき」を読む方がはるかにこの著書のイメージをつかむのに役立ちます。
 
『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』まえがき
 
 伊勢﨑さんは、なぜ自らを「紛争屋」と称するのかについて、「私は、『紛争を、戦争を終わらせるために』という大義を掲げながらも、結局のところ、戦争に関わることで食い扶持を稼いでいる。世界に戦争があるからこそ、この仕事が続けられている。見果てぬどこかの地で、誰かが殺されている戦争が存在しているからこそ私の今がある――。そんな自覚があります。だから、そのことを絶対に忘れないために、私は自戒を込めて『紛争屋』と自称しています」と規定します。
 その上で、「私が、『紛争屋』と称することで自分自身に課している十字架は、この本を読
んでいるあなたにもそのまま当てはまるものです。なぜなら、あなたは税金を払っているから。日本は、莫大な戦費をアメリカに貢ぐことで、また同時に、『非戦闘地域』という美名の下に自衛隊を海外に派遣することで、アメリカの戦争に加担しています。その貢がれた戦費と、派遣された自衛隊員の給料は、国民の血税によって賄われているのです」として、読者に対し、自
らの問題として世界の戦争に向き合うことを求めます。
 そして、現在の焦眉の急である「集団的自衛権」について、以下のように読者に語りかけま
す。
 「集団的自衛権』の行使が容認されれば、間違いなく、日本と、日本人を取り巻く国際
環境に劇的な変化が起こります。ついに徴兵制が日本に布しかれることになる……とまでは言いませんが、これまでのどの外交問題、どの国際関係上の諸問題よりも、国民の生活に直結する形で変化が生じることになります。その影響は、あなたも決して逃れられるものではありません。これは、我々の子ども世代、孫世代、そして、今はまだ見ぬ将来の子孫たちの世代すべてに関わる問題でもあります。ですから、集団的自衛権行使の是非を、今まさに論じあっている私たちの世代の人間は、集団的自衛権の問題について真剣に考え、議論しあう明確な義務があるのです。その道を避けてしまうと、あなたの意志が介在しないところで、日本の未来と日本人の将来が変わってしまうことになるのですから
 
 さらに、端的に伊勢﨑さんが執筆意図を語った tweet があります。
今話題の朝日新聞の出版社から「日本人は人を殺しに行くのかー戦場からの集団的自衛権入門」出ます(10/10発売)。緊急出版ですのでタイトルがおどろおどろしい…(汗)。サヨク・ウヨク両方に喧嘩売るつもりです。だって「集団的自衛権の行使せよ。ただし非武装で」って言っちゃってますから」(9月30日
 
 ただし、伊勢﨑さんの意図は必ずしも達成できなかったようです。
今夜ライブです。新著「日本人は人を殺しに行くのか:戦場からの集団的自衛権入門」それなりに売れているみたいですけど、伝統的な右・左から、驚くほど反響がありません。喜ぶべきことなのかな???」(10月25日
 
 ジャズトランペッターとしての伊勢﨑さんの Facebook ページに、このような記載もありました。
ジャズの名店、阿佐ヶ谷マンハッタンでのライブです。近著の「日本人は人を殺しに行くのか:戦場からの集団的自衛権入門」(朝日新書)も著者割引で販売いたします。怒りにまかせて書いた本ですが、そのエネルギーをバネに、ブローします!ぜひおいでください」(11月7日
 
 「怒りにまかせて書いた」というのは一種の衒いでしょうが、「確かにそう言われればそうだろうなあ」という箇所もあります。
 
軍法を持たない軍事組織を海外に送る政治的・外交的リスクを、いつまで自衛隊に押しつけるのでしょうか。こんな無責任な状態で自衛隊を出す一国の総理がいたとしたら、自衛隊の最高司令官を名乗る資格はありません。絶対にありません。これから海外派遣を増やす政策を掲げる今の首相なら尚更です」(167頁)
 
というわけで、15事例の中身を見てきましたが、いかがだったでしょうか。事例自体が現実感の薄いものであったりすることには目をつむるにしても、集団的自衛権の行使容認をすべき理由になるものが一つも含まれていない、というのは驚きだったかと思います。私は、こんなレベルの認識で、日本の将来を明らかに揺るがすことになる集団的自衛権の行使容認論議が続けられていることに、心の底から危惧を抱きます」(176頁)
 
稼働していようといまいと、原発施設の脆弱さは同じです。こんなものをよくこれだけ日本の沿岸に造ってしまったものだと思います。狡猾な敵は“外”からではなく、“内”から狙うのです。原発の派遣作業員にどこかの国がスパイを紛れ込ませることなんて簡単な話です。安倍首相は、国民の生命を護るのが使命と高らかに宣言しました。この言葉の重みを今一度、しかと考えるべきです。日本は、狙われたら日本どころか地球規模のダメージを発生させるものを、わざわざ国土の縁にずらりと並べた、国防上、最も脆弱な国家なのです。そもそもこの国を守るためには、単に武力を増強すればそれで済むという話ではありません」(185~186頁)
 
2003年、アメリカのイラク侵攻の時の日本社会を思い返してみて下さい。繰り返しますが、この侵攻によるイラク人死者は、死体確認できるものだけで10万人を優に超えます。実際の死者はこれを遙かに上回る数字でしょう。これは『大量虐殺』とも言える規模の犠牲です。当のアメリカ国民は、2006年中間選挙で、共和党の敗北という形で、ブッシュさんの戦争政策への批判を民意で示しました。方や、日本では?当時、『戦争の大義は間違っていた。しかし自衛隊派遣でブッシュ政権を支持したことは日本の国益に適っていた』。こんな声が日本の政府関係者、そしてアメリカや安全保障通と称する有識者から盛んに聞かされたのです。すべては、当時、挑発行為を繰り返していた、北朝鮮対策のためだったと。しかし、イラクの民の命は、日本の北朝鮮問題とは一切関係ありません。にもかかわらず日本人は、自分の目先の国防問題に利する(そうすればアメリカが北朝鮮の脅威から日本を守ってくれる)からといって、それを、日本から遠く離れた異郷の民(イラクの人々)の血と引き換えにすることで、購ってきたのです。はっきり言いましょう。これは『非道』な行いです。どんなに『国益のため』、『愛国のため』と謳おうとも、『非道』な行いであることは明らかです。そして、現在の安倍政権の『集団的自衛権認』のロジックも、これとまったく同じものなのです」(248~249頁)
  
 自衛隊を活かす会第1回シンポにおいて、柳澤協二さんが「伊勢﨑さん特有の語り方」
と評された傾向はこの著書の中にも見受けられますが、十分な予備知識など持っていない一般読者を想定した新書という性格から、「特有の語り方」はかなり抑えられており、私たちが読
んでも分かりやすい論述になっていると思います。
 「右」のことは知りませんが、「左」から反響がないのは、「伊勢﨑さん特有の語り方」が抑制
されていることも一因ではないかという気がします。
 もう1つ、「左」からの反響(反論)がないのは、今は、「自衛隊違憲論」「海外派遣違憲論」
を声高に主張するような(出来るような)情勢ではない、という認識がかなり広く行き渡っている
からではないかと思います。
 伊勢﨑さんの持論である「非武装自衛隊国連軍事監視団に」という提言を、刺激的に
日本が行うべきことは、『武力を使わない集団的自衛権の行使』である、と」(141頁)「特有の語り口」を使って挑発してみたのですが、その真意は、分かる人には分かってしまったということなのでしょう。
 従って、非武装自衛隊を海外に出すという伊勢﨑プランについての批判(罵詈雑言)は、これまで主として「右」から加えられていたはずであり、おそらくこれからも変わらないのではないですかね。
 この論点に特化した伊勢﨑さんの著書もご紹介しておきます。
 
『アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる』(かもがわ出版
アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる


 是非、1人でも多くの方に伊勢﨑さんの新著『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの
集団的自衛権入門』を読んでいただきたいと切望します。
 
(付記1)
 後記(付記3)のとおり、講演後の打ち上げでトランペットの実力を和歌山でも披露された伊
勢﨑さんを、宿泊先のホテルまで車でお送りする役目が私に回ってきました(私が下戸で酒が飲めないからでしょうが)。お送りする車中で伊勢﨑さんに確認したところ、私の推測通り、『日本人は人を殺しに行くのか』という刺激的なタイトルは、新書編集部の提案だったそうです。伊勢﨑さん自身、「自分が考えたらこんなタイトルにしません」と仰っていました。この本が最も訴えたいことをストレートに表現した書名になっているかについてはやや疑問もありますが(それほどはずしてはいないと思いますが)、多くの人の注目を集めるためには適切なタイトルだと思います。
 
(付記2/著者インタビュー)
SYNDOS 2014年10月27日
戦場からの集団的自衛権入門
『日本人は人を殺しに行くのか』著者・伊勢崎賢治氏インタビュー

 
(付記3)
 講演会終了後、準備に関わったスタッフの打ち上げに伊勢﨑さんをお招きし、ジャズトランペ
ッター伊勢﨑賢治の腕前を披露していただきたいと主催者から提案したところ、ご快諾いただ
き、ミニライブが実現しました。
 昨晩も演奏された『Footprints』がYouTubeにアップされています(2013年2月の演奏)。

 ピアノ、ベース、ドラムスの各奏者は主催者側で用意することになったのですが、ピアノ奏者が
なかなか見つからず、コード楽器はギターで代用しようということになりかけていたところ、たまたま会場となったお店のマスターのお嬢さんが帰省中で、しかも伊勢﨑さんと東京で共演したことが
あることが判明。何という偶然!何という幸運!
 やはりモダンジャズに限らず、西洋近代音楽というのは、しっかりしたコード(和音)の土台の上
にメロディーラインが流れるものだということをあらためて認識しました。伊勢﨑さんも、安心して気持ちよく演奏されていました。
テイク5にて












トランペッター伊勢崎賢治