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問題なのは靖国神社参拝だけではない~3年連続で年頭記者会見を伊勢神宮で開いた安倍首相

 今晩(2015年1月19日)配信した「メルマガ金原No.1975」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
問題なのは靖国神社参拝だけではない~3年連続で年頭記者会見を伊勢神宮で開いた安倍首相

 セキュリティー上問題があるという意見もありながら、多くの新聞では従来から毎日詳細な「首相動静
」(別の名称を使うメディアもありますが)が報じられています。
 このような習慣があればこそ、総選挙のわずか2日後(2014年12月16日)、安倍首相がマスメディア幹部らとすし店で会食したことがすぐに明らかになった訳で、とても情報公開に熱意があったとは思えない我が国の政界官界の中で、これだけ詳細に「首相動静」が連日明らかにされるというのは、ある意味「できすぎた
習慣」と言わなければなりません。

 ただし、「首相動静」をどの程度詳細に伝えるかは、各メディアによって異なるのは当然で、一例として、12月16日のマスメディア幹部との会食について、誰が首相と一緒に飲み食いしたのかを時事通信朝日新聞がどう報じたか、該当部分を引用してみましょう。
 
時事ドットコム 首相動静(12月16日)
(抜粋引用開始)
午後5時47分から同6時7分まで、衛藤晟一首相補佐官。同49分、官邸発。
午後6時59分、東京・西新橋のすし店「しまだ鮨」着。田崎史郎時事通信解説委員、島田敏男NHK解
説委員ら報道関係者と会食。
午後9時21分、同所発。
午後9時37分、私邸着。
(引用終わり)
 
朝日新聞デジタル 首相動静(12月16日)
(抜粋引用開始)
6時59分、東京・西新橋のすし店「しまだ鮨」。時事通信田崎史郎解説委員、朝日新聞の曽我豪編集委員、毎日新聞山田孝男特別編集委員、読売新聞の小田尚論説主幹、日本経済新聞の石川一郎常務、N
HKの島田敏男解説委員、日本テレビの粕谷賢之解説委員長と食事。9時37分、東京・富ケ谷の自宅。
(引用終わり) 
 
 記載の繁簡は記者やデスクの判断でしょうが(主にデスクか?)、少なくともこの日の会食については朝日の方が詳細でしたが、両社とも、自社の幹部をあえて記載しないという「卑怯な」振る舞いをしていなかったのは幸いでした。もっとも、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞がどう報じていたかは未確認ですが。
 
 なお、首相官邸ホームページにも「総理の一日」というコーナーはありますが、とてもメディアの「首相動静」のような詳細さはありません。例えば、2014年12月16日の「総理の一日」はこのように記載されています。
 
 首相とマスメディア幹部との癒着自体大きな問題ですが、実は、私が何故「首相動静」などを調べてみる気になったかというと、今月(1月)5日、伊勢神宮に参拝した安倍首相が年頭の記者会見を行ったことはメディアでも報じられ、首相官邸ホームページにも会見の動画や文字起こしが掲載されているのですが、会見場がどこであったかについて報じたところが見当たらなかったのです。もちろん、私が見落としただけという可能性は十分にあります。
 
 
 そこで、官邸ホームページの「総理の一日 1月5日」を閲覧したところ、「安倍総理は、伊勢神宮年頭記者会見を行いました。」とあるのを発見しました。
 
 そこで、もう少し詳しく分からないだろうかと思って「首相動静」を調べてみようと思いついた訳です
 ネットで容易に調べられるのは時事ドットコム朝日新聞デジタルのようですが、伊勢神宮参拝から帰京するまでは同じような内容なので、時事ドットコムのみ引用します。
 
時事ドットコム 首相動静(1月5日)
(抜粋引用開始)
午前8時55分、JR東京駅着。同9時、のぞみ213号で同駅発。世耕弘成官房副長官同行。
午前10時40分、JR名古屋駅着。葛西敬之JR東海名誉会長が出迎え。同43分、同駅発。同44分
近鉄名古屋駅着。同50分、近鉄特急で同駅発。加藤勝信、世耕両官房副長官同行。
午後0時15分、近鉄宇治山田駅着。鈴木英敬三重県知事らが出迎え。同19分、同駅発。
午後0時22分、三重県伊勢市伊勢神宮外宮着。高市早苗総務相岸田文雄外相中谷元防衛相、甘利
明経済再生担当相らと参拝。同49分、同所発。
午後0時55分、伊勢神宮内宮着。高市氏らと参拝。
午後1時31分から同54分まで、内宮内の神楽殿で神楽奉納。同2時3分から同5分まで、内宮内の神
宮司庁前でボーイスカウト日本連盟伊勢第7団、ガールスカウト日本連盟三重県第1団から花束贈呈、記
念撮影。
午後2時20分から同39分まで、神宮司庁内で記者会見。
午後2時50分、同所発。同57分、近鉄宇治山田駅着。同3時4分から同12分まで、同駅の貴賓室で
高市総務相、岸田外相、宮沢洋一経済産業相、中谷防衛相、甘利経済再生担当相、山谷えり子国家公安委員長、有村治子女性活躍担当相。同14分、近鉄特急で同駅発。
午後4時38分、近鉄名古屋駅着。大村秀章愛知県知事が出迎え。同39分、同駅発。同40分、JR名
古屋駅着。同43分から同52分まで、同駅の貴賓室で大村愛知県知事、葛西JR東海名誉会長。同54
分、のぞみ34号で同駅発。
午後6時33分、JR東京駅着。
(引用終わり)
 
 この「首相動静」によって、記者会見が行われた会場が「神宮司庁」であることが分かりました。ちなみに、神宮司庁とは、昭和48年に建てられた鉄筋コンクリート2階建の内宮内にある施設であり、「宮の祭儀に関する事や、事務が取り扱われています。」ということです。
 
 そもそも、私がこの1月5日の首相年頭記者会見を取り上げようと思ったのは、会見で言及された戦後70年を機に新たな首相談話(安倍談話)を出すことに意欲を示した安倍首相の抱懐する歴史認識と、20年前の村山談話、それを継承した10年前の小泉談話の基本的認識との重大な乖離(かいり)について考えてみたいと思ったことによります。

 ところが、その中身に入る前の段階、すなわちこの年頭会見が伊勢神宮(内宮)内の施設で行われたことを突き止めたところまでに思わぬ時間をとってしまいましたので、新たな「安倍談話」についてはまた後日に取り上げることにしたいと思いますが、とりあえず年頭記者会見における該当部分のみ以下に引用しておきます。
 
平成27年1月5日 安倍内閣総理大臣年頭記者会見(於:伊勢神宮「神宮司庁」)
(抜粋引用開始)
(記者)
 毎日新聞の小田中です。よろしくお願いします。
 アジア外交についてお伺いします。
 戦後70年の今年、総理は未来志向の談話を出す意向を示してこられましたが、植民地支配と侵略に関す
村山談話をどう継承するか、中国、韓国、両国からも注目されています。新たな談話で村山談話の表現を踏襲するなど、継続性を示すのか。また、有識者の意見を聞くなど、今後のスケジュール感について、
どのようにお考えでしょうか。よろしくお願いします。
安倍総理
 従来から申し上げておりますように、安倍内閣としては、村山談話を含め、歴史認識に関する歴代内閣
の立場を全体として引き継いでいます。そしてまた、引き継いでまいります。
 戦後70年の間に、日本は自由で、そして民主的で、人権を守り、法の支配を尊重する国を創り、平和国家としての歩みを進め、そしてアジア太平洋地域や世界の平和・発展・民主化などに大きな貢献をしてま
いりました。
 戦後70年の節目を迎えるに当たりまして、安倍政権として、先の大戦への反省、そして戦後の平和国家としての歩み、そして今後、日本としてアジア太平洋地域や世界のために、さらにどのような貢献を果たしていくのか。世界に発信できるようなものを、英知を結集して考え、新たな談話に書き込んでいく考え
であります。
(引用終わり)
 
 さて、今日のメルマガ(ブログ)の当初の執筆意図は上記のとおりだったのですが、恒例となっている首相の伊勢神宮参拝と憲法が求める政教分離原則との関係という重要論点が存在することも視野には入っていたものの、十分な検討ができていないこともあって、そこは後日の宿題(宿題ばかりだけれど)にと考えていました。
 ところが、年頭記者会見の会場が伊勢神宮内宮内の「神宮司庁」であるという事実にたどり着き、はたしてこれも「恒例」なのか?という疑問がわいてきました。
 そこで、少し調べてみたところ、以下のようなサイトが見つかりました。
 
愛国者の邪論 2014年1月6日
首相の伊勢参拝は恒例だから問題ないのか! 憲法形骸化に加担する日本のマスコミの犯罪を告発する!

(抜粋引用開始)
 安倍首相の伊勢神宮参拝を、「恒例行事」として「問題なし」と報道する日本のマスコミの知的退廃と犯罪的役割について、記事にしておかなければならないと思いました。また、昨年同様伊勢参拝に乗じて記者会見をするという設定も仕組まれたものと言わなければなりません。この10年の首相の年頭記者会見を一覧しておきました。第二次安倍政権が如何に問題か、判ると思います。ま、愛国者の邪論に言わせれば、「俺は、どの内閣総理大臣もやっていない伊勢神宮で年頭記者会見をやっている、できる総理大臣だぞ!」と粋がっているのだと思います。全く子どもじみた、思いやりのない身勝手な総理大臣だというこ
とを歴史に残しておきたいと思います。
(引用終わり)
  
 「愛国者の邪論」氏は、以上の主張の証拠として、歴代首相の年頭記者会の記録にリンクをはっていました。会場がどこかを過去に遡ってしらみつぶしに調べるのは大変ですが、少なくとも画像が見られれば、それが首相官邸か神宮司庁かの区別はすぐにつきます(官邸記者会見で金屏風は使いませんから
ね)。
 ちなみに、現在の首相官邸の建物は2002年(平成14年)4月から使用されています。
 ということで、私も新官邸に移って以降の首相年頭記者会見の記録を閲覧してみました。
 
安倍内閣総理大臣年頭記者会見 平成26年1月6日 →神宮司
安倍内閣総理大臣年頭記者会見 平成25年1月4日 →神宮司
野田内閣総理大臣年頭記者会見 平成24年1月4日 →首相官邸
菅内閣総理大臣年頭記者会見 平成23年1月4日 →首相官邸
鳩山内閣総理大臣年頭記者会見 平成22年1月4日 →首相官邸
麻生内閣総理大臣年頭記者会見 平成21年1月4日 →首相官邸
福田内閣総理大臣年頭記者会見 平成20年1月4日 →首相官邸
安倍内閣総理大臣年頭記者会見 平成19年1月4日 →首相官邸
小泉内閣総理大臣年頭記者会見 平成18年1月4日 →首相官邸
小泉内閣総理大臣年頭記者会見 平成17年1月4日 →首相官邸
小泉内閣総理大臣年頭記者会見 平成16年1月5日 →首相官邸

 以上のとおり、2005年(平成17年)以降は動画・画像で確認できますし、その前2年間は、「小泉総理の動き(総理の一日)」に静止画が掲載されており、首相官邸で記者会見が行われていたことが確認でき
ます。

 それでは、旧官邸時代はどうであったかと思い、旧官邸最後の、そして小泉純一郎首相最初の年頭記者会見が行われた2002年(平成14年)1月4日の「小泉総理の動き」を調べてみました。なかなかに興味深い記載がありましたので、全文引用します。
 
首相官邸ホームページ 小泉総理の動き 平成14年1月4日
新春記者会見

(引用開始)
 平成14年1月4日、小泉総理は、伊勢神宮を参拝した後、総理大臣官邸において新春記者会見を行い
ました。
 会見の中では、昨年の4月の政権発足以来の主な成果に言及しつつ、日本再生のために、本年も構造改
革を進めていく決意を強調しました。
(引用終わり)
 
 小泉首相自身、2年目以降は普通の背広姿となりましたが、この年に限っては紋付き羽織袴で記者会見に登場しています。
 それよりも注目すべきは、「伊勢神宮を参拝した後、総理大臣官邸において新春記者会見を行いました。」とある部分であり、参拝したついでに伊勢神宮で記者会見も行うというような発想が小泉氏の念頭に浮かんだか否かはさておき、少なくともそのような「子どもじみた」振る舞いは総理大臣としてふさわしくないという節度の持ち合わせが、小泉氏やその政権中枢のスタッフにあったということは間違いないでしょう。
 
 ちなみに、第二次安倍政権の発足直後の2013年(平成25年)1月4日に「神宮司庁」で初めて行った記者会見の冒頭における安倍首相の発言は以下のようなものでした。
 
安倍内閣総理大臣年頭記者会見 平成25年1月4日 →神宮司
(抜粋引用開始)
 悠久の日本の歴史と、そして、誇りある伝統と文化を感じとれるこの場所で、大変清々しい思いで記者会見に臨んでおります。記者の皆さん、またカメラマンの皆さん、今年1年間よろしくお願いいたします

(引用終わり)
 
 慣例を破って年頭記者会見を首相官邸ではなく伊勢神宮で行うことも、先に紹介した「愛国者の邪論」氏がいみじくも述べていたとおり、「全く子どもじみた」振る舞いであり、この総理大臣の高揚しやすい性格が発現した一態様に違いありません。
 このような安倍首相の「危険な」性格は、8月15日の全国戦没者追悼式において、それまでの「慣例を破って」アジア諸国への加害責任に言及しない式辞を2年続けて読み上げたことにも如実に表れていま
す。
 伊勢神宮における年頭記者会見の実施も含め、これらが安倍首相の「歴史認識」が発露した「問題行動
」の一環であることは言うまでもないでしょう。
 問題なのは靖国神社参拝だけなのではないのです。
 
 1月5日の首相の伊勢神宮参拝に際しての同行者や出迎え者の顔ぶれを「首相動静」で読めば、大名旅行そのものと慨嘆せざるを得ません。こういう環境では、よほど優れた平衡感覚を備えた人物でない限り、人格の崩壊を引き起こしても不思議はありませんね。
 
(付記その2)
 どうでも良いことですが、1月5日の「首相動静」によれば、伊勢神宮から帰京した首相は、この日も会食に直行したのですが(渋谷区のイタリア料理店「リストランテASO」)、この日同席したのは「俳優の津川雅彦中井貴一奥田瑛二各氏と宇崎竜童・阿木燿子夫妻ら」だったそうです。