辺野古新基地建設に抗議する民主主義科学者協会法律部会理事会「声明」のご紹介
今晩(2015年12月15日)配信した「メルマガ金原No.2305」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
去る12月11日、民主主義科学者協会法律部会が、理事会声明「沖縄県民の民意に反し、違法に進められている辺野古新基地建設に強く抗議する」を発表しました。
ちなみに、法律部会があるのだから、他にも色々な部会があるのかと思って調べてみたところ、実質活動しているのは法律部会だけのようなのですね。
事情は全く違うでしょうが、私は、(自分も会員ですが)青年法律家協会弁護士学者合同部会を思い出してしまいました。
それはさておき、まずはこの声明自体を読んでみましょう。そんなに長いものではありません。
翁長沖縄県知事は、本年10月13日に、仲井眞前沖縄県知事が沖縄防衛局に対し付与した辺野古沿岸域の公有水面埋立承認には瑕疵があったとしてこれを取り消す処分(以下、埋立承認取消処分)を行った。これに対し、政府は、埋立承認取消処分の効力を停止するために行政不服審査法に基づく執行停止の決定を行うとともに、政府が同処分そのものを直接に取り消すために地方自治法による代執行の手続をとった。その手続の一環として、現在、福岡高等裁判所那覇支部において翁長知事を被告とした代執行訴訟が提訴され、この12月2日に第1回口頭弁論が開催された。
辺野古沿岸域の埋立ては、深刻な危険性が指摘されている普天間基地の代替としてのアメリカ海兵隊の基地を建設するためだとされている。しかし、辺野古新基地は普天間基地の軍事機能を強化・拡大するものであって、決して同基地の代替ではない。しかも、日本政府とアメリカ政府との合意では全ての基地返還が県内移設を条件としているために、辺野古新基地が建設され、普天間基地が閉鎖されたとしても、日本におけるアメリカ軍基地の沖縄への集中率は、73.8%から73.1%に微減するにすぎない。辺野古新基地は、沖縄県民が日米安保条約および地位協定によって軍事的な危険に晒されている状態をけっして改善しない。その建設の強行は、口頭弁論における翁長知事の陳述書にあるとおり、昨年の首長選挙、国政選挙で繰り返し表明されてきた、新基地建設に反対する沖縄県民の民意を踏みにじるものである。
また、辺野古沿岸域は、ジュゴンなどレッドリスト掲載種を多数育むなど生物多様性の見地から保全上の配慮をすべき地域である。辺野古新基地建設のための埋立ては、広大な海草藻場を消失させ、当該地域に現存する生物の生存の危機に直結する。さらに、辺野古新基地の運用は、キャンプ・シュワブにおける米軍の訓練等によってすでに甚大な騒音被害を被っている周辺地域の環境を一層悪化させる。
加えて、埋立承認取消処分に対する執行停止の決定は、国の行政機関である沖縄防衛局が私人になりすまして行った申立てに応じて行われた。それは、国民の権利利益の救済制度である不服審査制度の濫用であるとともに、実質的には代執行の先取りであって、地方自治法に定める代執行の手続を経ないで行われた違法な決定である。
総じて、埋立承認取消処分をめぐる政府の一連の対応は、法を弄ぶことで、沖縄県民の民意に基づいて行われた翁長沖縄県知事の判断を貶め、沖縄県における自治・民主主義を蹂躙し、沖縄県民の平和的生存権をおびやかし続けるものである。
私たち民主主義科学者協会法律部会は、1946年に日本国憲法の成立と相前後して結成された民主主義科学者協会の部会の一つとして生まれ、1957年に制定した規約において「民主主義法学の発展を図ること」を学会の目的としている。私たちは、2012年3月に学会の企画として那覇において沖縄の米軍基地問題に関するシンポジウムを開催するとともに、辺野古沿岸域の視察を行い、米軍基地および基地被害の固定化を進めつつある日米安保体制の現状に対する理解を深めた。また、本年11月の学術総会の企画として開催したコロキウムでは、政府の一連の対応は日本国憲法の下にある法制度を日米安保の下に従属させるものであることを明らかにした。
法を弄び、民主主義的な熟慮に対し敬意を表しない政府の対応は、本年9月に成立した新安保関連法の審議・採決において政府・与党が示した非民主主義的で反立憲主義的な姿勢と通底している。私たちは、新安保関連法についても本年6月に理事会声明を、本年9 月に理事長声明を公表し、その問題点を指摘し、民主主義および立憲主義の擁護を呼びかけてきた。
私たちの辺野古新基地問題に関する学術的成果と新安保関連法に対する本学会の立場からは、辺野古新基地建設を強引に進めつつある政府の姿勢は、日本国憲法の理念に由来する平和主義、基本的人権の尊重、民主主義という本学会の核心的価値に照らして看過できない。
私たちは、沖縄県民の民意に反し、政府が違法に進めている辺野古新基地建設工事に強く抗議するとともに、沖縄県における米軍基地の問題の解決は国民的課題である旨の認識が広く共有されるように、今後、学習会やシンポジウム等に積極的に取り組む決意である。
以上
(引用終わり)
辺野古沿岸域の埋立ては、深刻な危険性が指摘されている普天間基地の代替としてのアメリカ海兵隊の基地を建設するためだとされている。しかし、辺野古新基地は普天間基地の軍事機能を強化・拡大するものであって、決して同基地の代替ではない。しかも、日本政府とアメリカ政府との合意では全ての基地返還が県内移設を条件としているために、辺野古新基地が建設され、普天間基地が閉鎖されたとしても、日本におけるアメリカ軍基地の沖縄への集中率は、73.8%から73.1%に微減するにすぎない。辺野古新基地は、沖縄県民が日米安保条約および地位協定によって軍事的な危険に晒されている状態をけっして改善しない。その建設の強行は、口頭弁論における翁長知事の陳述書にあるとおり、昨年の首長選挙、国政選挙で繰り返し表明されてきた、新基地建設に反対する沖縄県民の民意を踏みにじるものである。
また、辺野古沿岸域は、ジュゴンなどレッドリスト掲載種を多数育むなど生物多様性の見地から保全上の配慮をすべき地域である。辺野古新基地建設のための埋立ては、広大な海草藻場を消失させ、当該地域に現存する生物の生存の危機に直結する。さらに、辺野古新基地の運用は、キャンプ・シュワブにおける米軍の訓練等によってすでに甚大な騒音被害を被っている周辺地域の環境を一層悪化させる。
加えて、埋立承認取消処分に対する執行停止の決定は、国の行政機関である沖縄防衛局が私人になりすまして行った申立てに応じて行われた。それは、国民の権利利益の救済制度である不服審査制度の濫用であるとともに、実質的には代執行の先取りであって、地方自治法に定める代執行の手続を経ないで行われた違法な決定である。
総じて、埋立承認取消処分をめぐる政府の一連の対応は、法を弄ぶことで、沖縄県民の民意に基づいて行われた翁長沖縄県知事の判断を貶め、沖縄県における自治・民主主義を蹂躙し、沖縄県民の平和的生存権をおびやかし続けるものである。
私たち民主主義科学者協会法律部会は、1946年に日本国憲法の成立と相前後して結成された民主主義科学者協会の部会の一つとして生まれ、1957年に制定した規約において「民主主義法学の発展を図ること」を学会の目的としている。私たちは、2012年3月に学会の企画として那覇において沖縄の米軍基地問題に関するシンポジウムを開催するとともに、辺野古沿岸域の視察を行い、米軍基地および基地被害の固定化を進めつつある日米安保体制の現状に対する理解を深めた。また、本年11月の学術総会の企画として開催したコロキウムでは、政府の一連の対応は日本国憲法の下にある法制度を日米安保の下に従属させるものであることを明らかにした。
法を弄び、民主主義的な熟慮に対し敬意を表しない政府の対応は、本年9月に成立した新安保関連法の審議・採決において政府・与党が示した非民主主義的で反立憲主義的な姿勢と通底している。私たちは、新安保関連法についても本年6月に理事会声明を、本年9 月に理事長声明を公表し、その問題点を指摘し、民主主義および立憲主義の擁護を呼びかけてきた。
私たちの辺野古新基地問題に関する学術的成果と新安保関連法に対する本学会の立場からは、辺野古新基地建設を強引に進めつつある政府の姿勢は、日本国憲法の理念に由来する平和主義、基本的人権の尊重、民主主義という本学会の核心的価値に照らして看過できない。
私たちは、沖縄県民の民意に反し、政府が違法に進めている辺野古新基地建設工事に強く抗議するとともに、沖縄県における米軍基地の問題の解決は国民的課題である旨の認識が広く共有されるように、今後、学習会やシンポジウム等に積極的に取り組む決意である。
以上
(引用終わり)
以上の声明を発表するための記者会見が行われました。約1時間です。一般市民の皆さんが視聴されて分かりやすいかどうかはともかく、私のような、あまり行政法に詳しくない弁護士にはとても勉強になる記者会見でした。
とりわけ上記声明の中の「埋立承認取消処分に対する執行停止の決定は、国の行政機関である沖縄防衛局が私人になりすまして行った申立てに応じて行われた。それは、国民の権利利益の救済制度である不服審査制度の濫用であるとともに、実質的には代執行の先取りであって、地方自治法に定める代執行の手続を経ないで行われた違法な決定である。」という主張について、3人の行政法学者から詳しく説明されていますので、是非その点に注目して視聴されることをお勧めします。
とりわけ上記声明の中の「埋立承認取消処分に対する執行停止の決定は、国の行政機関である沖縄防衛局が私人になりすまして行った申立てに応じて行われた。それは、国民の権利利益の救済制度である不服審査制度の濫用であるとともに、実質的には代執行の先取りであって、地方自治法に定める代執行の手続を経ないで行われた違法な決定である。」という主張について、3人の行政法学者から詳しく説明されていますので、是非その点に注目して視聴されることをお勧めします。
20151214 UPLAN【記者会見】辺野古新基地建設に抗議する民科法律部会理事会声明(1時間02分)
冒頭(司会)~ 小澤隆一氏(東京慈恵会医科大学教授・憲法学)
9分~ 白藤博行氏(専修大学教授・行政法学)
23分~ 岡田正則氏(早稲田大学教授・行政法学)
33分~ 人見 剛氏(早稲田大学教授・行政法学)
40分~ 清水雅彦氏(日本体育大学教授・憲法学)
45分~ 質疑応答
ところで、「埋立承認取消処分に対する執行停止の決定は、国の行政機関である沖縄防衛局が私人になりすまして行った申立てに応じて行われた。」については、記者会見でも言及されている10月23日に行政法研究者有志が発表した「声明」も読んでおくべきですね。
(引用開始)
周知のように、翁長雄志沖縄県知事は去る10月13日に、仲井真弘多前知事が行った辺野古沿岸部への米軍新基地建設のための公有水面埋め立て承認を取り消した。これに対し、沖縄防衛局は、10月14日に、一般私人と同様の立場において行政不服審査法に基づき国土交通大臣に対し審査請求をするとともに、執行停止措置の申し立てをした。この申し立てについて、国土交通大臣が近日中に埋め立て承認取り消し処分の執行停止を命じることが確実視されている。
しかし、この審査請求は、沖縄防衛局が基地の建設という目的のために申請した埋め立て承認を取り消したことについて行われたものである。行政処分につき固有の資格において相手方となった場合には、行政主体・行政機関が当該行政処分の審査請求をすることを現行の行政不服審査法は予定しておらず、かつ、来年に施行される新法は当該処分を明示的に適用除外としている。したがって、この審査請求は不適法であり、執行停止の申し立てもまた不適法なものである。
また、沖縄防衛局は、すでに説明したように「一般私人と同様の立場」で審査請求人・執行停止申立人になり、他方では、国土交通大臣が審査庁として執行停止も行おうとしている。これは、一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意(しい)的に執行停止・裁決を行おうというものである。
このような政府がとっている手法は、国民の権利救済制度である行政不服審査制度を乱用するものであって、じつに不公正であり、法治国家にもとるものといわざるを得ない。
法治国家の理念を実現するために日々教育・研究に従事している私たち行政法研究者にとって、このような事態は極めて憂慮の念にたえないものである。国土交通大臣においては、今回の沖縄防衛局による執行停止の申し立てをただちに却下するとともに、審査請求も却下することを求める。
呼びかけ人
岡田正則(早稲田大教授)
紙野健二(名古屋大学教授)
木佐茂男(九州大教授)
白藤博行(専修大教授)
本多滝夫(龍谷大教授)
山下竜一(北海道大教授)
亘理 格(中央大教授)
賛同者
略
(引用終わり)
周知のように、翁長雄志沖縄県知事は去る10月13日に、仲井真弘多前知事が行った辺野古沿岸部への米軍新基地建設のための公有水面埋め立て承認を取り消した。これに対し、沖縄防衛局は、10月14日に、一般私人と同様の立場において行政不服審査法に基づき国土交通大臣に対し審査請求をするとともに、執行停止措置の申し立てをした。この申し立てについて、国土交通大臣が近日中に埋め立て承認取り消し処分の執行停止を命じることが確実視されている。
しかし、この審査請求は、沖縄防衛局が基地の建設という目的のために申請した埋め立て承認を取り消したことについて行われたものである。行政処分につき固有の資格において相手方となった場合には、行政主体・行政機関が当該行政処分の審査請求をすることを現行の行政不服審査法は予定しておらず、かつ、来年に施行される新法は当該処分を明示的に適用除外としている。したがって、この審査請求は不適法であり、執行停止の申し立てもまた不適法なものである。
また、沖縄防衛局は、すでに説明したように「一般私人と同様の立場」で審査請求人・執行停止申立人になり、他方では、国土交通大臣が審査庁として執行停止も行おうとしている。これは、一方で国の行政機関である沖縄防衛局が「私人」になりすまし、他方で同じく国の行政機関である国土交通大臣が、この「私人」としての沖縄防衛局の審査請求を受け、恣意(しい)的に執行停止・裁決を行おうというものである。
このような政府がとっている手法は、国民の権利救済制度である行政不服審査制度を乱用するものであって、じつに不公正であり、法治国家にもとるものといわざるを得ない。
法治国家の理念を実現するために日々教育・研究に従事している私たち行政法研究者にとって、このような事態は極めて憂慮の念にたえないものである。国土交通大臣においては、今回の沖縄防衛局による執行停止の申し立てをただちに却下するとともに、審査請求も却下することを求める。
呼びかけ人
岡田正則(早稲田大教授)
紙野健二(名古屋大学教授)
木佐茂男(九州大教授)
白藤博行(専修大教授)
本多滝夫(龍谷大教授)
山下竜一(北海道大教授)
亘理 格(中央大教授)
賛同者
略
(引用終わり)