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「会計検査制度と秘密保護法」(海渡雄一弁護士)を読む

 今晩(2016年2月25日)配信した「メルマガ金原No.2377」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「会計検査制度と秘密保護法」(海渡雄一弁護士)を読む

 昨年(2015年)12月8日付「毎日新聞」朝刊(青島顕記者)が、会計検査院特定秘密保護法案が閣議決定される直前の2013年9月、この法案が成立してしまうと特定秘密に指定された書類が会計検査に提出されない恐れがあり、これは憲法90条に反するのではないかという指摘をしていたこと、結局、検査院と内閣官房の協議の結果、条文の修正はしない代わりに「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を内閣官房が各省庁に通達することで合意したにもかかわらず、法律成立から2年たってもいまだに通達は出されていないことを報じ、大きな反響を呼んだことはご記憶の方も多いでしょう。
 けれども、その後、12月25日付で大急ぎで「通達」が発出されたこと、さらに2月10日の衆議院予算委員会において、民主党階猛(しな・たけし)議員がこの問題についての見解を安倍首相や岩城光英法相らに対して質したことは何となく目にしてはいても、それらの情報を相互にどのように位置付けて理解すれば良いのかはよく分からないという人にとって、「会計検査制度と秘密保護法」の関係を
分かりやすく解説した文章が海渡雄一弁護士から(いくつかのMLに)「転載歓迎」として届きましたので、私のメルマガ(ブログ)にも転載させていただくことにしました。
 なお、既に「会計検査制度と秘密保護法」を転載したサイト2つ(HTML版)とPDF版もご紹介しておきます。
 
 

                                     2016年2月23日
 
            会計検査制度と秘密保護法
 
                           海 渡 雄 一
                           (秘密保護法廃止実行委員会・
                            秘密保護法対策弁護団)
 
1 憲法90条と会計検査院
 みなさん憲法90条をご存じでしょうか。憲法90条は「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と定めています。会計検査院のホームページには次のように説明されています。

 

会計検査院は、国の収入支出の決算、政府関係機関独立行政法人等の会計、国が補助金等の財政援助を与えているものの会計などの検査を行う憲法上の独立した機関です。
 国の活動は、予算の執行を通じて行われます。
 予算は、内閣によって編成され、国会で審議して成立したのち、各府省等によって執行されます。
 そして、その執行の結果について、決算が作成され、国会で審査が行われます。
 予算が適切かつ有効に執行されたかどうかをチェックすることと、その結果が次の予算の編成や執行に反映されることが、国の行財政活動を健全に維持していく上できわめて重要です。
 そこで、憲法は、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」と定めています。」
 
 会計検査院は国の決算についての独立機関です。会計検査院憲法上の機関であり、検査官の身分や給与の保障、予算上の独立性が認められ、内閣に対して独立の地位を有するとされています(会計検査院法(昭和22年法律第73号)1条)。そして、会計検査院法第26条は、会計検査院から検査上の必要により帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出の求めを受け、又は質問され若しくは出頭の求めを受けたものは、これに応じなければならないと規定しています。
 会計検査院は、憲法上大きな独立性を保障されており、「厳格な三権分立主義をとっている現行憲法の認めたほとんど唯一の例外」「組織面からいえば、憲法は四権分立主義をとる」(杉村章三郎『財政法』〔有斐閣、1959年〕108頁、小林直樹憲法講義(改訂版)』〔東大出版会、1976年〕762頁注13)と説く見解もあります。
 
2 戦争の反省から生まれた会計検査院
 なぜ、憲法90条は「すべて」検査するとしているのでしょうか。「すべて」とは、その会計年度において、現実に収納された収入および現実に支出された歳出の全部の意味です(宮澤俊義著・芦部信喜補訂『全訂 日本国憲法』〔日本評論社、1978年〕752頁)。明治憲法下では、政府の機密費に関しては、会計検査院の検査に服さないとされました(旧会計検査院法23条)。機密費については「検査ヲ行フ限リニ在ラス」とされていたのです。
 軍だけでなく、外務省などの機密費について、会計検査院の検査を受けないですんだのです。加えて、軍の統帥事項の準備のための物品費用については、会計検査院の検査を免れる仕組みとなっていました。このようなしくみが軍の予算の拡大、政府のコントロール不能の状態を招いたのです。このことの反省から、憲法90条は、「すべて」検査し、例外は認めないこととしたのです。
 
3 会計検査院と秘密保護法制定
 会計検査院が、特定秘密保護法案の閣議決定直前の2013年9月に、この法案が成立してしまうと特定秘密に指定された書類が会計検査に提出されない恐れがあり、これは憲法90条に反するのではないかという指摘をしていました。
 このことは、毎日新聞が情報公開によって入手した文書によって明らかとなりました。『毎日新聞』は2015年12月8日付朝刊で次のように報じました。「特定秘密保護法:「憲法上問題」検査院が支障指摘」(社会部・青島顕記者)がそれです。この毎日新聞の記事は、秘密保護法を一貫して追い続けてきた青島記者の素晴らしいスクープでした。第20回新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞したのも当然です。
 
 「開示された文書によると13年9月、同法の政府原案の提示を受けた検査院は、「安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」がある場合、特定秘密を含む文書の提供を検査対象の省庁から受けられない事態がありうるとして、内閣官房に配慮を求めた。憲法90条は、国の収入支出の決算をすべて毎年、検査院が検査すると定めているためだ。
 ところが、内閣官房は「検査院と行政機関で調整すれば(文書の)提供を受けることは可能」などと修正に応じなかった。検査院側も譲らず、同年10月上旬まで少なくともさらに2回、憲法上問題だと法案の修正を文書で繰り返し求めた。
 結局、検査院と内閣官房の幹部同士の話し合いを経て同年10月10日、条文の修正をしない代わりに「秘密事項について検査上の必要があるとして提供を求められた場合、提供する取り扱いに変更を加えない」とする文書を内閣官房が各省庁に通達することで合意した。約2週間後の10月25日に法案は閣議決定され、国会に提出されて同年12月に成立した。
 それから2年たつが7日までに通達は出ていない。会計検査院法規課は取材に「今のところ、特定秘密を含む文書が検査対象になったという報告は受けていない」とした上で「我々は憲法に基づいてやっており、情報が確実に取れることが重要。内閣官房には通達を出してもらわないといけない。(条文の修正を求めるかどうかは)運用状況を見てのことになる」と話した。
 内閣官房内閣情報調査室は取材に「憲法上の問題があるとは認識していない。会計検査において特段の問題が生じているとは承知していない」と答えた。通達については「適切な時期に出すことを考えている」としている。」
 
4 政府による通達
 この毎日新聞記事をきっかけとして、政府は、2015年12月25日付で、内閣情報調査室次長名で秘密指定権限を持つ防衛省など20の行政機関の担当局長らに通達を出しました。この通達は「各行政機関は会計検査院から検査上の必要があるとして提供を求められた際には、提供を行う取り扱いをしている」と説明し、2014年12月の法施行に関して「この取り扱いに何らの変更を加えるものではない」と従来通りの対応を求めています。
 
5 衆院予算委員会での質疑
 2月10日の衆院予算委員会で、この問題を民主党階猛議員が取り上げました。
 「行政機関が安全保障上の理由から特定秘密の提供を拒否できるとした特定秘密保護法10条1項が会計検査にも適用されるかどうかについて、安倍首相は、「特定秘密について会計検査院が検査を求めた時に、この条項をもってこれを提供しないことはおよそ考えられない」として、実務上は適用されないとの見解を示したが、法務大臣は「適用がある」、「適用がない」と答弁がふらつき、委員会は騒然となった」と報じられています(『朝日新聞』2月11日付「新任閣僚ふらふら答弁」)。

 
6 政府統一見解公表される
 2月12日に内閣官房は、「会計検査院に対する特定秘密の提供について(政府統一見解)」を公表しました。短い文書なので、全文を以下に引用しておきます。
 
「1 特定秘密保護法第10条第1第1号の解釈
 特定秘密保護法第10条に基づく特定秘密の提供は、会計検査院を含むすべての相手方について、行政機関の長が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたときに限り、行われる。
 2 安倍総理の答弁(2月10日衆議院予算委員会
 ①「我が固の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき、これは、かからないということではありません」
 ②「しかし会計検査院がこれに当たるということはおよそ考えられない」「我が国の安全保障に著しい支障、著しい支障という、これは相当の縛りでございますから、これを会計検査院に適用するということはおよそ考えられない」等と答弁した。
 3 岩城国務大臣の答弁(同上)
 ①「第10条1項にあります我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたとき、これは会計検査院にも適用されます」
 ②「検査に必要な資料の提供、これについては適用がない」、「検査上の必要があるとして求められた資料、これにつきましては、法的に適用されない」等と答弁した。
 4 会計検査院からの資料要求について法第10条第1項第1号は「適用」されるか否か、また、安倍総理と岩城国務大臣の答弁の関係
 総理、大臣とも、まず、特定秘密の提供には、法第10条第1項第1号が一般的に適用されること(上記1の趣旨)を答弁している(①)。
 その上で、総理、大臣とも、会計検査院に検査に必要な資料の提供を法第10条第1項第1号に沿って検討する際に、我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めたときという同号の限定が具体的に適用され、その結果、特定秘密の提供が行われないことはおよそ考えられないという趣旨で答弁している(②)。①と②の聞に矛盾はなく、また、総理と大臣の答弁の聞にも矛盾はない。」
 
 政府は、このように述べていますが、やはり答弁には矛盾があるように思います。安倍首相が答弁した「特定秘密の提供が行われないことはおよそ考えられない」ということは本当に保障されているのでしょうか。私にはその制度的保障は何もないように思われます。
 
6 会計検査制度にも制約もたらす秘密保護法は廃止するしかない
 政府が会計検査院検査官の候補者として国会に提示した小林麻理(まり)・元早稲田大大学院教授は1月7日、国会で所信を述べた際、「特定秘密に係るとして情報が提供されないことがあってはならない」と発言しています。しかし、この通達にもかかわらず、会計検査院の検査は特定秘密の壁に阻まれる可能性が生じています。
 会計検査院の検査は、憲法90条第1項(及び同第2項)を直接の根拠としていますから憲法より下位の法令によって妨げてはならないものです。政府統一見解は、憲法より下位の法規範である秘密保護法によって、憲法上定められた会計検査院の検査権限を制限しようとするものであり、この点でも憲法違反であるといえます。
 秘密保護法は憲法21条の表現の自由・知る権利、憲法9条の平和主義、憲法31条の適正手続だけでなく、憲法90条の会計検査制度にも違反する悪法です。やはり、秘密保護法は一刻も早く廃止する必要があるとあらためて思いました。次の選挙で、戦争法と同時に秘密保護法を廃止できる政府を樹立できるよう努力しましょう。
 

 なお、この問題については、水島朝穂早稲田大学教授(憲法学)も、ご自身のサイト(直言)に詳しい論考を書いておられますので、こちらもお読みいただければと思います。
 
 
 ところで、海渡雄一弁護士の「会計検査制度と秘密保護法」が書かれたのは2月23日のことですが、その後の動きを伝える毎日新聞の報道を最後に引用しておきます。岩城法相の「ふらふら答弁」に的を絞るという民主党の作戦により、政府統一見解の第2弾が出てきたようです。本文を読めていないので確たることは言えませんが、回を重ねるごとに、いよいよ訳が分からなくなっていくようです。
 会計検査と秘密保護法の問題については、今後も目が離せません。
 
毎日新聞 2016年2月25日 東京朝刊
特定秘密 検査院への提供は内容次第 政府統一見解

(引用開始)
 政府は24日の衆院予算委員会理事会で、国の収入支出をチェックする会計検査院に対する行政機関からの特定秘密の提供に関する統一見解を示した。安全保障上著しい支障が生じる場合に提供を拒否できる、とする特定秘密保護法の条項を適用するか否かは「特定秘密の内容、入手の経緯のほか、保護措置の度合いなどによる」とした。同時に「一定の特定秘密の提供が、当然にわが国の安全保障に著しい支障を及ぼすというものではない」と指摘した。
 岩城光英法相が22日の衆院予算委で、日本の安全保障上、著しい支障を及ぼす恐れがある特定秘密でも「検査院が求めた資料は当然、提供する」と答弁。その後「法文上(検査院にも拒否条項は)適用されるが、実務的に適用されることはない」と修正。民主党が答弁に矛盾があるとして説明を求めていた。
 安倍晋三首相は10日の衆院予算委で会計検査院への秘密提供について「(拒否)条項を理由に提供しないことは考えられない」と述べている。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2013年12月12日
海渡雄一弁護士の檄文『バーナムの森は動いた』をさらに拡散しよう!