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「内閣総理大臣である私は立法府の長?」~会議録と動画で振り返る安倍晋三首相の【4事例】

 今晩(2016年5月19日)配信した「メルマガ金原No.2461」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
内閣総理大臣である私は立法府の長?」~会議録と動画で振り返る安倍晋三首相の【4事例】

 インターネットの世界では喧(かまびす)しいことになっているものの、ネットと無縁の生活を送っている人にとっては、その事実自体知られていないと思われる今週(5月16日)の安倍晋三内閣総理大臣による「私は立法府の長」発言ですが、私があらためてこの発言を取り上げた方が良いと考えたのは、昨日、朝日新聞デジタルの以下の記事を読んだからです。
 
朝日新聞デジタル 2016年5月18日20時23分
安倍首相「私は立法府の長」 衆院予算委、混同し発言か

(引用開始)
 安倍晋三首相が16日の衆院予算委員会で、民進党山尾志桜里政調会長を「勉強不足」と指摘しながら、行政府の長である自身を「立法府の長」と混同して発言した。翌17日の参院予算委でも「立法府
私」と発言、混同が続いている。
 16日の発言は、民進党が提出した保育士給与を引き上げる法案が審議入りしないことについて、山尾
氏が「委員会が決めることと言って逃げている」と首相を批判したことに対する答弁。
 首相は「議会の運営について少し勉強して頂いた方がいい。議会については、私は『立法府の長』。立
法府と行政府は別の権威。(国会での)議論の順番について私がどうこう言うことはない」と反論した。
 参院予算委では、民進の福山哲郎氏が安全保障法制採決の議事録について質問した際、首相は「立法府
の私がお答えのしようがない」と答弁した。
(引用終わり)
 
 私が注目したのは、既にお分かりかと思いますが、衆議院予算委員会山尾志桜里議員の質問に対する答弁で「私は立法府の長」発言をした、そのよりにもよって翌日、参議院予算委員会において、同じ民進党の福山哲郎議員に対し、再び「立法府の私」という発言をしたという部分です。
 いずれも「言い間違い」には違いないでしょうが、これは誰しもありがちな「言い間違い」とは明らか
に性質を異にする問題点を含んでいるという印象を受けました。
 そういう関心に導かれてネット検索を試みたところ、簡単に同種事例があと2つ見つかりました。2007年5月11日開催の参議院日本国憲法に関する調査特別委員会と、2016年4月18日開催の衆議院・環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会での行政府の長・安倍晋三氏による答弁です

 やはり、これはただごとではありませんでした。
 まずは、裏付けとなる「会議録」及びインターネット審議中継の動画(及び該当箇所の文字起こし)をご紹介します。
 
 なお、5月17日に福山哲郎参議院議員が追及した昨年9月17日の参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」会議録「改ざん疑惑」問題ほどではないかもしれませんが、会議録の記載が実際の発言と同じとはうかつに即断できないという実例を1つご紹介することになります。
 
内閣総理大臣立法府の長?/事例1】
第166回国会 参議院 日本国憲法に関する調査特別委員会 第12号
平成十九年五月十一日(金曜日)午後零時五十五分開会

(抜粋引用開始)
簗瀬進君(民主党 国民とともに議論をすると、そういう総理にお言葉がございました。私は、まあ
私がどう評価しようと、それは国民がよく分かっていると思うんですよ。
 何しろ今日、先ほどの理事会で、残念ながら私たちは本日審議を終局するということで合意をせざるを得ませんでした。この週後半はずっと私たちが何を求めたかといえば、正に国民とともに議論をする、それが制度的にしっかりと表れたものとして何があるかといえば、これは公聴会じゃないですか。地方公聴会は六回やりました。しかし、前日連絡をして翌日公述人を選ぶような、そういう地方公聴会と、官報に掲載をして五日間国民の皆さんに対してしっかりと議論をする、意見を述べる、そういう機会を保障する中央公聴会とは、委員派遣の実質の地方公聴会は全く違うんです。その中央公聴会を私たち何度も求めま
したけれども、結局自民党公明党はそれを受けてくれませんでした。
 正にそれは総理が、総裁として、自民党の総裁として国民とともに議論をするとおっしゃったその言葉
と全く矛盾する対応を現場がしている。これどう思うんですか。
内閣総理大臣安倍晋三君) それは、正に参議院のこの委員会の運営は委員会にお任せをいたしておりますから、私が立法府の長として何か物を申し上げるのは、むしろそれは介入になるのではないかと、
このように思います。
簗瀬進 先ほど憲法尊重擁護義務の話がございましたけれども、総理大臣として現在の憲法を尊重し擁護をすると、これは憲法にちゃんと明記されている。しかも、三権分立というものがあります。国権の最高機関として定められているのは国会である。そして、その国権の最高機関と分立する形で立法府のほかに内閣があり司法があって三権が成り立っているんです。あなたはそういう意味では行政府の長であり
ます。
 正にそういう意味では、行政府の長として、内閣の例えば審議の在り方に対する外部的な様々な注文というのは絶対にこれ抑制すべきじゃないですか。正に、審議促進を様々にさせるような、そういう圧力を国会やら自民党に対して掛けてくるということは、これは絶対に避けるべきじゃないですか。それを延々とおやりになって今日まで来ているんじゃないんですか。正にそういう意味では、総理のこの国会に対する様々な総理としての圧力というようなものは行政府の立法府に対する容喙であり、立憲主義に違反する憲法違反の態度だと私は思いますが、いかがですか。
 
内閣総理大臣立法府の長?/事例2】
第190回国会 衆議院 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会 第6号
平成二十八年四月十八日(月曜日)午前八時五十六分開議

(抜粋引用開始)
下地幹郎委員(おおさか維新の会)(略)
それで、総理に三つお聞きしたいんです。
 今、安定をつくるという意味では、一点、消費税は来年上げるのをやめる。これも、今こういうふうな状況の中では、私は、経済界においてもどこにおいても、このことがしっかりと災害に対する対策をして
いけるというようなメッセージになるんじゃないかというのが一点ある。
 二つ目は、今、ダブル選挙をやるとかやらないとかという話がありますけれども、そういうことについても、安易に政治の混乱とか戦いみたいなものがあるようなことをしないということが二点目に私は必要
ではないかなというふうに思っているんです。
 三点目には、やはり国会の姿勢を見せる。三・一一のときには私たちは歳費の削減をしました。これは五十万近くの歳費の削減をしましたけれども、こういうふうな、国会も削減してこの熊本と大分の災害に
予算を回すんだというようなことをやる。
 この三つをやられることが大事じゃないかなというのが私の考えなので、これにお答えいただきたいと
いうのがあります。
 それともう一つ、朝の論議の中でも松本副大臣を行かせたとかと言っていますけれども、僕は、議院内閣制だから、与党の、阪神大震災も経験した、三・一一も経験した、そういう人たちがやはり行って、総理に答えを提案していくというのが一番いいんじゃないかと思うんですよね。やはりもっと党を活用するというようなことが、私は、内閣でだけでやるんじゃなくて、党を活用してやるというのも大事じゃない
かなというふうに思うんです。
 やはり経験が必要なんです。阪神も経験してきた、三・一一も経験してきた、そういう両方を見てきた
人が行って、総理にタイムリーに答えを出していくというようなことも大事だと思いますけれども、この
四つについて総理のお考えを聞かせていただきたいと思います。
安倍晋三内閣総理大臣 まず、消費税につきましては、今までも申し上げているように、リーマン・ショック級あるいは大震災級の事態にならない限り消費税は予定どおり引き上げていく、この基本的な考え
方に変わりはないわけであります。
 そしてまた、歳費についてお話が、これは議員歳費ということですね。(下地委員「そうです、議員歳
費です」と呼ぶ)議員歳費につきましては、これはまさに国会議員のいわば権利にかかわる話でございま
すから、行政府の長である私はそれについてコメントすることは差し控えさせていただきたい。
 行政府の歳費の削減でございますが、内閣においては、既に大臣は二割、私は三割削減をしておりまして、例えば私の場合、これ以上切っていきますと議員歳費にかかわってまいります。他方、これは公職選挙法とのかかわりもございますので、そこまで今来ているということは御理解をいただきたい、このよう
に思います。
 また、救国内閣についてでございますが、まさにこれは、この災害を乗り切っていく上において、さまざまな場面においてぜひ御協力をいただきたいと考えておりますが、新たにそのために内閣を改造したり
、あるいは連立を組み直しているいとまはない、このように考えております。
 また、党については、いわば、さまざまな経験を積んだ方々が現地に行って、そしてそうした観点から情報を上げていただくことは有益だろうと思いますが、今直ちには、余震も続いておりますし、まだ救命
活動も続いておりますので、現場側の受け入れ体制ということも勘案しながら御勘案をいただきたい、このようには思いますが、いずれにいたしましても、そうした知見をぜひ我々といたしましても生かさせて
いただきたいとは考えておるところでございます。
(引用終わり)
※(金原注)
 上記安倍首相の答弁のうち、会議録に「議員歳費につきましては、これはまさに国会議員のいわば権利にかかわる話でございますから、行政府の長である私はそれについてコメントすることは差し控えさせていただきたい。行政府の歳費の削減でございますが・・・」と記載されている部分の実際の発言を、衆議
院インターネット審議中継から文字起こししてみます。
衆議院インターネット審議中継

9分14秒~
安倍晋三内閣総理大臣 
・・・議員歳費につきましては、これはまさに、これはまあ、国会、国会議員の、これはいわば権利につく話、関わる話でございますから、まあ、立法府の長である私がですね、それについてコメントすることは差し控えさせていただきたい。是非・・・(議場がざわめき、「行政府、行政府」と注意する者あり)あっ、行政府だ、失礼、ちょっと。あの、行政府の歳費の削減でございますが・・・
 
内閣総理大臣立法府の長?/事例3】
第190回国会 衆議院 予算委員会
平成二十八年五月十六日(月曜日)午前八時五十九分開議 会議録未搭載
衆議院インターネット審議中継

8分52秒~
山尾志桜里委員(民進党無所属クラブ
「・・・この社会が求めている待機児童問題、保育士さんの給料をどうするのかという問題、議論をこの
国会で、しっかり与野党前向きにできるんですよ。この場で是非、「一歩でも前に進めよう」「対案を議
論すべきだ」とおっしゃることできないんですか。」
安倍晋三内閣総理大臣
「ええ、山尾委員はですね、議会の運営ということについて、少し勉強していただいた方がいいと思いま
す。議会についてはですね、私は立法府立法府の長であります。国会は、国権の最高機関として、その誇りをもってですね、いわば立法府とは、行政府とはですね、別の権威として、どのように審議をしていくかということについては、各党、各会派において、議論をしているわけでございます。」
 
内閣総理大臣立法府の長?/事例4】
第190回国会 参議院 予算委員会
平成二十八年五月十七日(火曜日) 会議録未搭載
参議院インターネット審議中継(5月17日→予算委員会福山哲郎
35分43秒
福山哲郎委員(民進党新緑風会
「事務総長にお伺いします。この議事録が10月に掲載された時に、特別委員会の委員長ならびに委員は
、理事は存在しましたか。」
中村剛参議院事務総長
「昨年の通常国会は9月27日に閉会してございますので、当日、9月17日の会議録が出た時点では、
特別委員会は存在しておりません。」
福山哲郎委員
「総理は国会の判断だと言われましたが、国会の委員長も理事も存在してないんですよ。じゃあ、誰が判
断してるんですかね、これ。誰が判断してるんですかね。総理、どうお考えですか。」
安倍晋三内閣総理大臣
「議院の事務局がお答えしていることについて、私は、立法府の私としてはお答えのしようがないわけであります。」
 
 ネットリテラシーの基本は、何よりも「裏をとる」ことにありますから、ここにたどり着くまでに相当手間暇がかかったのは仕方がありません。辛抱強くお付き合いくださった方にお礼申し上げます。
 そして、ここまで裏をとれば、あとは個々人がこの事象をどのように解釈するのも自由でしょう。ことは、日本の「行政府の長」の資質にかかわる問題なので、全ての国民が関心を持つのが当然であり、自由な議論が最大限に保障されねばなりません。
 
 以上に紹介した4事例は、野党議員からの批判的な質問に対する答弁が3事例、友好的な「ゆ党」議員からの質問に対する答弁が1事例ですが、いずれも、首相の立場に立てば、「(質問された事項は)国会が自ら判断すべきことがらであって、内閣総理大臣が答えるべき筋合いの問題ではない」と答弁すればよいことで、何も「立法府」「行政府」の区別を一々説明するまでもないはずであるのに、まるで強迫観念にとらわれたものの如く、その説明を付け加えようとして、「行政府」と言うべきところを「立法府」と言い間違えているのです。
 
 それから、この4事例に共通して見られるもう1つの特徴にお気づきでしょうか?
2007年5月11日 「私が立法府の長」
2016年4月18日 「立法府の長である私」
2016年5月16日 「私は、立法府立法府の長」
2016年5月17日 「立法府の私」
 そう、いずれの事例においても、「私」との関わりで「立法府」という言葉が使われており、「私」とは離れた位置から「立法府」を客観視する視点がどうやら安倍氏には存在しないようなのです。
 
 そして、今年の3事例について言えば、4月18日から5月17日まで、わずか1か月の間に3回も同じ「言い間違い」を犯しています。
 「言い間違い」は誰にでもあることと言って済ますには、あまりにも一定の方向に傾斜した指向性がある
ように思われます。
 しかも、この事象は昨日今日に始まったことではなく、2007年の第1次政権の際に既に出現してい
たのですから、何らかの痼疾を疑うことが可能かもしれませんが、専門的素養を欠く私が適当な当て推量
を述べることは控えたいと思います。
 専門家によるしっかりした根拠に基づく的確な判定を期待したいところです。
 
 結局、私の能力では、現段階で結論めいたことを書くことは無理だということを確認しただけに終わってしまいましたが、それでも、やはりこういう人物が内閣総理大臣の地位にあって良いはずはないと思います。
 大手メディアがほとんど「私は立法府の長」発言を取り上げようとしない中、極力、客観的な裏付けをとった上でこの事実を広めることが重要だと考え、今日はこの記事を書いてみました。
 
 ところで、5月16日と17日の会議録はまだ確定していないようですが、一体どのような記述になるのか、注目したいと思います。
 4月18日は、その場で注意されて「言い間違い」に気がついた安倍首相が(ごにょごにょとではあり
ますが)一応言い直しましたので、会議録は、言い間違い訂正後のすっきりと整理された表現になっていますが、5月16日・17日の両日とも、誰もその場で間違いを指摘する親切心の持ち合わせがなかったため、首相は言い直しの機会を持てませんでしたから、2007年5月11日の時のように、言い間違えた内容がそのまま会議録に掲載されるのでしょう、当然。
 もしもこれが勝手に「立法府」→「行政府」に書き換えられていたら、民進党は絶対に黙っていてはいけないですよね、福山さん。
 
(参考)
第189国会 参議院 我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会
平成二十七年九月十七日

同会議録第21号(PDFファイル)
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(引用開始)
○委員長(鴻池祥肇君)……(発言する者多く、議場騒然、聴取不能)
 〔委員長退席〕
  午後四時三十六分
     ────・────
本日の本委員会における委員長(鴻池祥肇君)復席の後の議事経過は、次のとおりである。
速記を開始し、
○我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(閣法第
七二号)
○国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
案(閣法第七三号)
○武力攻撃危機事態に対処するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(参第一六号)
○在外邦人の警護等を実施するための自衛隊法の一部を改正する法律案(参第一七号)
○合衆国軍隊に対する物品又は役務の提供の拡充等のための自衛隊法の一部を改正する法律案(参第一八
号)
○国外犯の処罰規定を整備するための自衛隊法の一部を改正する法律案(参第一九号)
○国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する人道復興支援活動等に関する法律案(参第二〇号)
国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律の一部を改正する法律案(参第二三号)
○周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律及び周辺事態に際して実施
する船舶検査活動に関する法律の一部を改正する法律案(参第二四号)
右九案を議題とし、
○我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(閣法第
七二号)
○国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律
案(閣法第七三号)
右両案の質疑を終局した後、いずれも可決すべきものと決定した。
なお、両案について附帯決議を行った。
     ─────・─────
(引用終わり) 
 

(付録)
『ライセンス・トゥ・キル(の替歌)』 原曲:
ボブ・ディラン 日本語詞・演奏:中川五郎