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自衛隊海外派兵を食い止めようとした元自民党国会議員がいた~毎日新聞・特集ワイド(5/20)「元自民党タカ派の遺言 安倍首相、覚えてますか?」のご紹介

 今晩(2016年5月21日)配信した「メルマガ金原No.2463」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
自衛隊海外派兵を食い止めようとした元自民党国会議員がいた~毎日新聞・特集ワイド(5/20)「元自民党タカ派の遺言 安倍首相、覚えてますか?」のご紹介

 ある訴訟の「請求の趣旨」をご紹介します。2004年(平成16年)1月28日に札幌地方裁判所
提訴された訴訟です。

(引用開始)
 被告は、「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法」及び「イラク人道復興支援特措法に基づく対応措置に関する基本計画」に基づいて自衛隊員及び装備品をイラク国内並びにその周辺地域及び海域に派遣又は輸送して、同法及び同計画に基づく活動を行なってはならな
い。
 被告は、原告に対して、金1万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第2項につき仮執行宣言を求める。

(引用終わり)
 
 被告は「国」、原告は「箕輪登(みのわのぼる)」という方でした。
 先月(4月)26日に東京地裁に提起された2件の安保法制違憲訴訟がそうであるように、この種の訴訟で原告が1人ということは(本人訴訟でもない限り)めったにないことで、実際、札幌地裁での自衛隊
イラク派遣差止訴訟も、第2次提訴では32人の方が原告となっています。
 
 小泉純一郎内閣によって実施された自衛隊イラク派遣に対しては、最終的に全国11箇所の地方裁判所に訴訟が提起され、その内、名古屋訴訟の抗告審(名古屋高裁)が、原告らの請求自体は棄却したものの、航空自衛隊の空輸活動を明確に憲法9条1項に違反するものと断じたことは有名ですが、これらの訴訟の先陣を切ったのが、原告1人だけで提訴に踏み切った札幌第1次訴訟でした。
 
 実は、私が札幌第1次訴訟の「訴状」「請求の趣旨」を読んでみようと思い立ったのは、昨日(5月20日)の毎日新聞・特集ワイドをインターネットで読んだからなのです。
 
毎日新聞2016年5月20日 東京夕刊
特集ワイド 元自民党タカ派の遺言 安倍首相、覚えてますか?

(抜粋引用開始)
 参院選が近い。大勝して、悲願の改憲に乗り出したい安倍晋三首相は「今の憲法には自衛隊という言葉がない」(3日、改憲派集会へのメッセージ)と9条改正に意欲的だ。1960年代にも同じような主張をした自民党きってのタカ派議員がいた。安倍首相は覚えておられるだろうか。その彼が晩年には「自衛
隊を愛するからこそ9条を守らねば」と訴えたことを--。【吉井理記】
 その人の名は、箕輪登さん。北海道小樽市出身の元衆院議員だ。医師から転じ、67年衆院選で旧北海道1区で初当選。81年の鈴木善幸内閣で郵政相を務めた。防衛政務次官衆院安保特別委員長も務めた
経験から、一般的には防衛族議員として知られる。
(略)
 横路さん(注:横路孝弘衆院議員は“政敵”の箕輪さんと議員時代に私的な交流はなく、引退を聞いた後も久しく名前を思い出すこともなかった。だから箕輪さんが2004年1月、小泉純一郎政権が行ったイラクへの自衛隊派遣(03~09年)の差し止めを求め、国を相手に札幌地裁に訴訟を起こした時は驚
いた。
(略)
 箕輪さんが訴訟で訴えたのは、自衛隊イラク派遣は武力行使を禁じた憲法9条に違反するという内容
だった。
 「札幌の弁護士会が開いている市民向けの相談電話があるんだけど、そこに03年12月、箕輪さん本人が『元国会議員の箕輪ですが』と相談を求める電話をかけてきて。最初は冗談かと思いました。僕も学生時代は箕輪さんを『タカ派自衛隊寄りの悪いヤツ』だと思っていたんで」。訴訟弁護団の事務局長を
務めた札幌市の弁護士、佐藤博文さん(61)はこう振り返る。
(略)
 「箕輪さんの『自衛隊専守防衛のための最低限、必要な自衛力で、だからこそ合憲である。日本が侵略されたわけでもないのに、自衛隊を海外派遣するのは専守防衛の枠を逸脱する』という立場は、保守の主張としては新鮮でした。湾岸戦争以来、どんどん海外活動を広げるやり方が我慢できなかったようです
タカ派と言われていたが、ピシッと筋が通っていました」
 箕輪さんは提訴に先立ち、イラク特別措置法(03年成立)に反対する手紙を自民党国会議員全員に送っていた。提訴は、反応がない小泉政権への抗議でもある。安倍首相は当時、党幹事長だった。引退した箕輪さんがそこまで海外派遣反対にこだわったのはなぜか。晩年、秘書役を務めた札幌学院大名誉教授
(平和学専攻)の坪井主税(ちから)さん(74)はこう回想する。
 「箕輪さんから、何度も防衛政務次官時代の話を聞きました。立場上、隊員に訓示する機会が多い。彼は『日本に急迫不正な侵害が起きた時は、専守防衛として、みなさんの力で国民の安全と生命を守ってもらいたい。その任務を全うしていただくみなさんに感謝します』と言っていたそうです。海外派遣を認めたら、専守防衛ではないのに必ず犠牲者が出る。それは自分が頭を下げて任務の全うを頼んだ自衛隊員へ
の裏切りだ。そう考えていたんです」
(略)
 亡くなる3カ月前の06年2月、札幌地裁の口頭弁論で箕輪さんは、専守防衛を前提にした自衛隊合憲
論を持論とするようになった経緯について、次のように証言した。
 「自衛隊違憲なら、自衛隊法を作った自民党、いや、むしろ議員をやめようと。それで当時の佐藤栄作首相に相談したら『違う。自衛隊専守防衛、攻められた時に独立を助けるためのものだから違憲じゃないんだ。もっと自衛隊法を勉強しろ。参議院では自衛隊の海外派遣を禁じる決議もした』と諭され、自
衛隊や法律を学び始めたんです」
 箕輪さんが議員になる前に秘書として仕えた佐藤栄作は、安倍首相の大叔父。箕輪さんが「勉強しろ」と叱られたのは、54年の参院決議だ。この決議は今も有効だが、法的拘束力はない。決議の年に生まれ
た安倍首相が安保法を成立させたことで、ますます有名無実のお題目になった。
(略)
 小池さん(注:現新潟県加茂市長、元防衛研究所長、教育訓練局長)も箕輪さんも戦争を知る世代。小池さんの叔父はフィリピンで戦死し、妻の父親は沖縄で戦死した。箕輪さんも軍医として陸軍に従軍した。箕輪さんが引退直後の90年に出した自伝「腰を据え脊筋伸ばして」(非売品)には、戦争体験のほか、全盲でマッサージ師だった父と暮らした少年時代、近所で垣間見た朝鮮人差別への怒りなどがつづられ
ている。
 小池さんが嘆息する。「箕輪さんの根底にはそういうヒューマニズムがあるんです。だから自衛隊員は国の宝で、何があっても彼らを死なせてはいかん、と。本来の任務ではない集団的自衛権行使や海外派遣でなら、なおさらです。『一将功成って万骨枯る』と言いますね。箕輪さんは枯れる『万骨』に思いを寄せた。最近の政治家は『一将』ばかりです。憲法解釈を変え、自衛隊を海外に出して功を成したい、と…
…」
 専守防衛を前提にした自衛隊合憲論を唱えた箕輪さんが、改憲を諦めたのはなぜか。坪井さんは、箕輪さんの胸の内を解説する。「9条改正で自衛隊を明記すれば、もう普通の軍隊です。イラク派遣のやり方を見ていて、今後、米国から集団的自衛権行使を求められれば日本は断れないだろう。それは自衛隊員と
の『約束』に背くことになる。そこに気づいたんでしょう」
(略)
 06年5月、箕輪さんの葬儀で、参列者に配られた礼状を佐藤さんに見せてもらった。亡くなる3カ月
前のイラク訴訟に出廷した最後の法廷で述べた言葉が刷られていた。
 <何とかこの日本がいつまでも平和であって欲しい 平和的生存権を負った日本の年寄り一人がやがて死んでいくでしょう やがては死んでいくが死んでもやっぱり日本の国がどうか平和で働き者の国民で幸
せに暮らして欲しいなと それだけが本当に私の願いでした みのわ登>
(引用終わり)
 
 本当は全文引用したいのですが、インターネットでの視聴回数が1ヶ月5ページ以内に制限された記事なので、さすがに遠慮しました。
 是非、皆さん、リンク先で全文読んでいただければと思います。
 毎日新聞の特集ワイドには良い記事が多いのですが、その中でも今回の箕輪登さんを取り上げた吉井理
記記者による記事は素晴らしいと思いました。
 物故者をテーマとするのだから当然ご本人から話を聞く訳にはいかないのですが、箕輪さんの周辺取材もしっかり行い(ご家族が登場しないのは少し残念ですが)、箕輪さんの憲法9条をめぐる発言の変遷も押さえながら、晩年に1人で国を相手とする訴訟に踏み切った1人の元国会議員の内面に鋭く迫っていま
す。しかも、箕輪さんに対する深い敬意を抱きながら。
 
 なお、上記の記事の中で言及されている「54年の参院決議」というのは、以下のようなごく短いものです。
 
第19回国会 昭和29年6月2日 
参議院本会議 
自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議

(引用開始)
 本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動
はこれを行わないことを、茲に更めて確認する。
 右決議する。
(引用終わり)
 
 参議院は、いまだにこの昭和29年決議を撤回するという趣旨の決議をしたことはありません。吉井記者が「この決議は今も有効だが」と書いているのはそういうことでしょうが、どう考えてもその決議の趣旨と矛盾する法律案を可決することにより、参議院自身が決議を「有名無実化」しているということになります。

 なお、この「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」といわゆる安全保障関連法との関係については、民進党小西洋之参議院議員が詳しく論じていますので、参照をお勧めします。
 
 
 最後に、裁判所の判例検索システムから、イラク派兵差止訴訟についての判決を2つご紹介しておきます。
 1つは、箕輪登さんらの訴えを全面的に斥けた札幌地裁判決、もう1つは、航空自衛隊の空輸活動を憲法9条1項に違反するとした名古屋高裁判決です。
 
 
 
 4月26日に東京高裁に提訴された2つの安保法制違憲訴訟の原告となった合計509名の方々、そして今後も全国の裁判所に次々と提訴されるであろう違憲訴訟の原告となるはずの多くの方々の先頭を切って自衛隊の海外派兵を食い止めようとしたのが、長年、自民党国会議員を務めた箕輪登さんという方であったということを、あらためて国民に広く知ってもらいたいというのが、今日ご紹介した毎日新聞・特集ワイドの記事に込められた願いだと私は読み取りました。
 タイトルは、「安倍首相、覚えてますか?」となっていますが、首相が箕輪登氏の思いを真摯に受け止める可能性などゼロであることは、執筆者も編集デスクも百も承知のはずですから、この記事のタイトルに込められた真の思いは、「元自民党タカ派の遺言 国民の皆さん、是非知ってください!」のはずです

 是非、多くの人に読むことを奨めて欲しいと思い、ご紹介しました。
 
(参考書籍)
憲法条と専守防衛(教科書に書かれなかった戦争シリーズ) 』(梨の木舎)

『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る―防衛省元幹部3人の志』(かもがわ出版
 
 
 
 

(付録)
『理想と現実』 作詞:中川五郎 作曲:PANTA