今晩(2016年9月16日)配信した「メルマガ金原No.2571」を転載します。
なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
久々に、「「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ」シリーズをお届けします。とはいえ、シンポが行われたのは4ヶ月も前の5月20日のことであり、シンポの内容がテキスト化されてホームページにアップされた7月19日からでも2ヶ月が経っています。
思えば、5月20日からの2ヶ月間といえば、参院選和歌山選挙区に弁護士のゆら登信さんを野党統一候補に擁立して突っ走っていた時期で、いつもなら定期的に閲覧してチェックしていたはずの「自衛隊を活かす会(自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会)」ホームページを巡回する余裕もなくなっていた時期でした。
それからさらに2ヶ月が経過して、ようやく元のペースを取り戻しつつあるというところでしょうか。
今日(9月16日)は、福岡高裁那覇支部が、国(国土交通大臣)が沖縄県知事を相手に提起した不作為の違法確認請求事件について、国勝訴の判決を言い渡した件を取り上げようかと思ったものの、肝心の判決文が読めていない今の段階では意見の述べようがありませんので、これはいずれまたということにして、5月20日の「自衛隊を活かす会」シンポジウム「北朝鮮は脅威なのか、どう対応すべきか」をご紹介することにしました。
いつものように、シンポジウムの概要をご紹介した後に、動画とテキストにリンクした上で、テキストの(ごく)一部を抜粋してご紹介します。
なお、シンポの開催日から当然ですが、去る9月9日の北朝鮮による「5回目の核実験」は、議論の前提となっていません。
5.20 シンポジウム
北朝鮮は脅威なのか、どう対応すべきか
日時:2016年5月20日(金)17:00~19:45
会場:参議院議員会館 101会議室
主催:自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)
登壇者
安倍政権に拉致問題の解決を期待できるのか
蓮池 透 元拉致被害者家族会事務局長
弾道ミサイル防衛について、邦人救出について
渡邊 隆 元陸将・東北方面総監
北朝鮮問題に日本はどう対応すべきなのか
柳澤 協二 自衛隊を活かす会代表・元内閣官房副長官補
討論参加
伊勢﨑 賢治 東京外大教授・自衛会を活かす会呼びかけ人
加藤 朗 桜美林大学教授・自衛隊を活かす会呼びかけ人
北朝鮮は脅威なのか、どう対応すべきか
日時:2016年5月20日(金)17:00~19:45
会場:参議院議員会館 101会議室
主催:自衛隊を活かす:21世紀の憲法と防衛を考える会(略称:自衛隊を活かす会)
登壇者
安倍政権に拉致問題の解決を期待できるのか
蓮池 透 元拉致被害者家族会事務局長
弾道ミサイル防衛について、邦人救出について
渡邊 隆 元陸将・東北方面総監
北朝鮮問題に日本はどう対応すべきなのか
柳澤 協二 自衛隊を活かす会代表・元内閣官房副長官補
討論参加
伊勢﨑 賢治 東京外大教授・自衛会を活かす会呼びかけ人
加藤 朗 桜美林大学教授・自衛隊を活かす会呼びかけ人
安倍政権に拉致問題の解決を期待できるのか
蓮池 透(拉致被害者家族会元事務局長)
(抜粋引用開始)
私は仮にこれから日朝間が交渉を再開した場合には、過去の問題とセットでやるしかないと考えています。つまり過去の清算ということですが、それによって北朝鮮側に見返りがあるということで乗ってくるという、そういう考え方です。
見返りに対してはアメリカから小泉政権時代以上の干渉があると私は思っていますので、アメリカからの干渉を蹴飛ばしてまで日朝間の交渉を進めることが出来るのかを考えると今のような安倍政権が対米従属の姿勢を見せている以上、それは叶わないなと感じて残念です。やはり「北の脅威」と言いますが、私は北の脅威を煽って――拉致問題も脅威の一つです――、そういうツールにされているような気がします。
最近、安倍さんは核・ミサイルと拉致問題を包括的に解決するとおっしゃっていますが、今までの六者協議の結果を見ればわかるとおり、セットではなかなかうまくいかないと思います。日朝間固有の問題として拉致問題を早く――早くしないと皆さん死に絶えてしまいますので――、やってもらいたいと思います。
北の核はアメリカを向いていると思うので、私は日本に対してはノドンで十分だと思います。日本海側に並んでいる原発を狙えば立派な核兵器になるわけですから。
その問題は国会でも話題になりましたが、「そういう仮定の話にはお答えできない」という答弁でした。私は東京電力に勤めておりましたので、当時「原発にミサイルが飛ん出来たらどうするんだ」という質問がありまして、当時の通産省から答えを考えるように言われて――すぐ通産省は電力会社に投げてきますので――、いろいろと答えを考えたんですが、実際にミサイルが飛んできて命中したらアウトです。なんとかうまく乗り切る方法はないのかということで、結局出た結論は「日本は法治国家だからありえない」という答えでした。それがいろいろな質問に対する標準模範解答としてずっとまかり通ってきた現実があります。
いろいろ申し上げてきましたが、北朝鮮の非核化は難しいと思います。来週、オバマ大統領が広島に行きますが、北朝鮮側は欺瞞だとか偽善だとか言っていましたけれども、私はその辺はちょっと一理あるのかなと思います。自ら核兵器を廃絶しようとする姿勢を見せないアメリカが核の被害地であるヒロシマを訪れて、誤りだったとか謝罪だとか無しに、プラハ演説の延長として最後の花道を飾るということでは、私はあまり意味がないように思います。そこに同行してパフォーマンスをする安倍首相の姿を見たくはありません。
時間がなくなりましたが、私はこのままだと難しいと思います。なんとか北朝鮮とパイプをつなぐような民間外交とか議員外交とか、そういうものに頼るしかないという段階に来ています。もう家族としてやれることはありません。
後は政府がどうするかです。民間外交や議員外交を否定しているのであれば、どうするのか、本気になって欲しいと思います。金正日の料理人と言われている藤本健二さんが金正恩氏と面会して3時間も話をしたということがありましたが、そういうことが出来るのは藤本さんだけだと思います。藤本さんは総理大臣の親書を持って行って渡したいとおっしゃっていましたが、そういう道を使うのも一つの方法なのではないかと思っています。
金正恩委員長は粛清を繰り返していますから、ボトムアップするシステムは今の北朝鮮では全く機能していないのではないかと私は考えています。自分が気に食わなければすぐに粛清してしまうようなタイプですので、小泉政権時代に対応したミスターXというような全権を担った外交官の出現はなかなか難しいと思います。そういう厳しい状況の中でどうやってこの拉致問題を解決していくのか、私は難しいと考えています。
最後に、「私は立法府の長である」とか、「日本の最高責任者である」とか、自衛隊を「我が軍である」というようなことを安倍首相は口にされておりますが――単なる勘違いとおっしゃる方もおりますけれども――、私は確信犯的な、或いは本当にそう思っておられるのか、これは本当に独裁政権に近づいてきた、だんだん日本の世相も北朝鮮と同じように窮屈で息苦しくなってきている。そういう状態では拉致問題の解決はできないと考えています。
(引用終わり)
蓮池 透(拉致被害者家族会元事務局長)
(抜粋引用開始)
私は仮にこれから日朝間が交渉を再開した場合には、過去の問題とセットでやるしかないと考えています。つまり過去の清算ということですが、それによって北朝鮮側に見返りがあるということで乗ってくるという、そういう考え方です。
見返りに対してはアメリカから小泉政権時代以上の干渉があると私は思っていますので、アメリカからの干渉を蹴飛ばしてまで日朝間の交渉を進めることが出来るのかを考えると今のような安倍政権が対米従属の姿勢を見せている以上、それは叶わないなと感じて残念です。やはり「北の脅威」と言いますが、私は北の脅威を煽って――拉致問題も脅威の一つです――、そういうツールにされているような気がします。
最近、安倍さんは核・ミサイルと拉致問題を包括的に解決するとおっしゃっていますが、今までの六者協議の結果を見ればわかるとおり、セットではなかなかうまくいかないと思います。日朝間固有の問題として拉致問題を早く――早くしないと皆さん死に絶えてしまいますので――、やってもらいたいと思います。
北の核はアメリカを向いていると思うので、私は日本に対してはノドンで十分だと思います。日本海側に並んでいる原発を狙えば立派な核兵器になるわけですから。
その問題は国会でも話題になりましたが、「そういう仮定の話にはお答えできない」という答弁でした。私は東京電力に勤めておりましたので、当時「原発にミサイルが飛ん出来たらどうするんだ」という質問がありまして、当時の通産省から答えを考えるように言われて――すぐ通産省は電力会社に投げてきますので――、いろいろと答えを考えたんですが、実際にミサイルが飛んできて命中したらアウトです。なんとかうまく乗り切る方法はないのかということで、結局出た結論は「日本は法治国家だからありえない」という答えでした。それがいろいろな質問に対する標準模範解答としてずっとまかり通ってきた現実があります。
いろいろ申し上げてきましたが、北朝鮮の非核化は難しいと思います。来週、オバマ大統領が広島に行きますが、北朝鮮側は欺瞞だとか偽善だとか言っていましたけれども、私はその辺はちょっと一理あるのかなと思います。自ら核兵器を廃絶しようとする姿勢を見せないアメリカが核の被害地であるヒロシマを訪れて、誤りだったとか謝罪だとか無しに、プラハ演説の延長として最後の花道を飾るということでは、私はあまり意味がないように思います。そこに同行してパフォーマンスをする安倍首相の姿を見たくはありません。
時間がなくなりましたが、私はこのままだと難しいと思います。なんとか北朝鮮とパイプをつなぐような民間外交とか議員外交とか、そういうものに頼るしかないという段階に来ています。もう家族としてやれることはありません。
後は政府がどうするかです。民間外交や議員外交を否定しているのであれば、どうするのか、本気になって欲しいと思います。金正日の料理人と言われている藤本健二さんが金正恩氏と面会して3時間も話をしたということがありましたが、そういうことが出来るのは藤本さんだけだと思います。藤本さんは総理大臣の親書を持って行って渡したいとおっしゃっていましたが、そういう道を使うのも一つの方法なのではないかと思っています。
金正恩委員長は粛清を繰り返していますから、ボトムアップするシステムは今の北朝鮮では全く機能していないのではないかと私は考えています。自分が気に食わなければすぐに粛清してしまうようなタイプですので、小泉政権時代に対応したミスターXというような全権を担った外交官の出現はなかなか難しいと思います。そういう厳しい状況の中でどうやってこの拉致問題を解決していくのか、私は難しいと考えています。
最後に、「私は立法府の長である」とか、「日本の最高責任者である」とか、自衛隊を「我が軍である」というようなことを安倍首相は口にされておりますが――単なる勘違いとおっしゃる方もおりますけれども――、私は確信犯的な、或いは本当にそう思っておられるのか、これは本当に独裁政権に近づいてきた、だんだん日本の世相も北朝鮮と同じように窮屈で息苦しくなってきている。そういう状態では拉致問題の解決はできないと考えています。
(引用終わり)
弾道ミサイル防衛について、邦人救出について
渡邊 隆(元陸将・東北方面総監)
※「弾道ミサイル防衛」と「邦人救出」について、豊富なパワーポイント資料などをもとにした説明がなされており、ざっと一読しましたが、そのどれかを切り取ってご紹介する気になれませんでしたので、是非リンク先で全文をお読みください。
渡邊 隆(元陸将・東北方面総監)
※「弾道ミサイル防衛」と「邦人救出」について、豊富なパワーポイント資料などをもとにした説明がなされており、ざっと一読しましたが、そのどれかを切り取ってご紹介する気になれませんでしたので、是非リンク先で全文をお読みください。
北朝鮮問題に日本はどう対応すべきなのか
柳澤 協二(元内閣官房副長官補、自衛会を活かす会代表呼びかけ人)
(抜粋引用開始)
北朝鮮の核は日本にとって脅威なのかどうかですが、私は一貫してアメリカ向けのカードだとおっしゃる蓮池さんと同じ意見です。
例えば、2006年7月5日――私が官邸にいる時――、に北朝鮮はミサイルを何発か撃ちました。その日はアメリカ時間で言えば7月4日の独立記念日でした。その時はスカッドとノドン、失敗しましたがテポドン2の3つのミサイルを撃っていますので、撃った意味は何かと言えば、スカッドで在韓米軍基地を叩く、ノドンで在日米軍基地を叩く、テポドン2でグアムかハワイの米軍を叩くというデモンストレーションをやったということだと思います。
そして2006年10月9日、小泉さんから第1次安倍政権に変わっていましたが、最初の核実験と称するものをやるわけです。ミサイルと核とセットになっている。私はこれは面白い、わかりやすいなと思ったのは、ミサイルは7月4日、アメリカ独立記念日に撃って、核は10月9日、コロンブスがアメリカ大陸を発見したアメリカ国民の祝日を狙ってやっているわけですね。非常にアメリカ向けのメッセージということがわかりやすい、父親の金正日の時はそういうやり方をしていたということです。息子の金正恩も、サンフランシスコもハワイ、グアムも、横須賀も我々のミサイルの射程内にあるということを言っています。アメリカ向けにはそういうカードがあった。
2010年秋には韓国の延坪島(ヨンピョンド)に大砲を撃ち込んでいます。韓国向けには大砲でいいんですね。大砲を向けて「ソウルが火の海になるぞ」と言う、ソウルに届く大砲を持っているわけですから、それをカードに使っているわけですね。
日本はどうか。日本向けにはノドンではないのです。日本向けのカードは拉致の問題だと思うんですね。
拉致の問題をカードとして扱うようになったのが2002年9月の小泉訪朝だったわけですが、実はその後、アメリカは日本に対して、北朝鮮はウランの濃縮をやっているようという情報を国務次官補のケリー(ジェイムズ・アンドリュー・ケリー)がリークするとか、そういう形でちょっかいを出してくるわけです。
日本側も小泉訪朝団で金正日が事実を認めて謝罪したのがすごく大きな転機になっていると思うんです。ところがアメリカは日本だけ先走られても困る。日本側にしてみれば、北朝鮮から非常に多くの方が亡くなったという回答を受けて、それはやはり国内向けにも納得できないという要素があって、そこでもっとたくさんの拉致被害者が一気に帰って来れば、状況はかなり変わっていたと思うのですが、そういう形で拉致については日本が独自に北朝鮮に働きかける状況になったわけです。
日本の立場から見ても持っているカードは核実験に対する経済制裁ではありません。やはり、拉致の問題を通じて、ありていに言えば北朝鮮にどういう「ご褒美」を渡すことが出来るのか、相手を軍事的にやっつけて強制するのでなければ、ご褒美を与えて相手の意志を変えるしかないわけですね。
核の方は、アメリカはどうやったって北朝鮮が核を作っていることを認める、認めたからご褒美を出すというわけにはいきません。今、日本はアメリカと同じ立場に立ってしまっているわけです。それは一般論として誤りではありませんが、しかし核とは別に拉致というイシューがあるわけで、拉致の問題をイシューとしてどう解決していくのかということを考えるという意味で、日本はカードを持っているわけですね。
(略)
私が北朝鮮の立場で考えて、なぜ日本にミサイルを撃ち込むかといえば、それは恐怖があるからですね。日本を無力化しなければ、日本から自分達に対する攻撃が加えられるという恐怖です。誰が攻撃するのかと言えば在日米軍です。在日米軍がひとっ飛びで北朝鮮を爆撃しに来る。だから本当に北朝鮮がアメリカと戦争をする気になれば、まず一番近い敵をやっつけますよ。中国だって同じ理屈です。だから、アメリカと一体化すれば安全になるという安保法制の基本的な思想が、ミサイル防衛に関する限り、北朝鮮に関する限り、それは多分違うということです。
北朝鮮が日本全土を占領しに来る、或いはどこかの島を取りに来るという動機はないのです。なぜ北朝鮮が日本を攻撃するか。それは、攻撃しないと自分がやられるという恐怖が募った時に、それがありうるわけです。
だから、トランプさんも折角、「守って欲しければ金を出せ」と言っている時に、ちょっと待てと。本当にアメリカ軍がいるからミサイルが飛んでこなくて済んでいるのか、アメリカの基地があるからミサイルが飛んでくるかもしれないのか、ということを我々も冷静に考えなければいけないと思っています。
最終的に言えば、この北朝鮮問題で他国の生存や承認を巡る戦争に組み込まれて、乗っかっていってしまったら、こういう類の戦争は無制限な際限のない暴力の応酬ですから、どちらかが滅びるまでやるんですね。だから同じ戦争の論理で入っていってしまうのは、私は100%間違った戦略であると言わざるをえないと思っています。
そういうことを考えれば、どこかで日本自身が進んでなんとかして、核・ミサイルと拉致をデカップリング、分離してやらないと交渉の余地はないのです。そうでないと自らで自らの手を縛るようなことになってきます。その意味で、今の方向性に凝り固まっている現政権で拉致問題の解決があるかと言えば、全くありえないと私は思っております。
柳澤 協二(元内閣官房副長官補、自衛会を活かす会代表呼びかけ人)
(抜粋引用開始)
北朝鮮の核は日本にとって脅威なのかどうかですが、私は一貫してアメリカ向けのカードだとおっしゃる蓮池さんと同じ意見です。
例えば、2006年7月5日――私が官邸にいる時――、に北朝鮮はミサイルを何発か撃ちました。その日はアメリカ時間で言えば7月4日の独立記念日でした。その時はスカッドとノドン、失敗しましたがテポドン2の3つのミサイルを撃っていますので、撃った意味は何かと言えば、スカッドで在韓米軍基地を叩く、ノドンで在日米軍基地を叩く、テポドン2でグアムかハワイの米軍を叩くというデモンストレーションをやったということだと思います。
そして2006年10月9日、小泉さんから第1次安倍政権に変わっていましたが、最初の核実験と称するものをやるわけです。ミサイルと核とセットになっている。私はこれは面白い、わかりやすいなと思ったのは、ミサイルは7月4日、アメリカ独立記念日に撃って、核は10月9日、コロンブスがアメリカ大陸を発見したアメリカ国民の祝日を狙ってやっているわけですね。非常にアメリカ向けのメッセージということがわかりやすい、父親の金正日の時はそういうやり方をしていたということです。息子の金正恩も、サンフランシスコもハワイ、グアムも、横須賀も我々のミサイルの射程内にあるということを言っています。アメリカ向けにはそういうカードがあった。
2010年秋には韓国の延坪島(ヨンピョンド)に大砲を撃ち込んでいます。韓国向けには大砲でいいんですね。大砲を向けて「ソウルが火の海になるぞ」と言う、ソウルに届く大砲を持っているわけですから、それをカードに使っているわけですね。
日本はどうか。日本向けにはノドンではないのです。日本向けのカードは拉致の問題だと思うんですね。
拉致の問題をカードとして扱うようになったのが2002年9月の小泉訪朝だったわけですが、実はその後、アメリカは日本に対して、北朝鮮はウランの濃縮をやっているようという情報を国務次官補のケリー(ジェイムズ・アンドリュー・ケリー)がリークするとか、そういう形でちょっかいを出してくるわけです。
日本側も小泉訪朝団で金正日が事実を認めて謝罪したのがすごく大きな転機になっていると思うんです。ところがアメリカは日本だけ先走られても困る。日本側にしてみれば、北朝鮮から非常に多くの方が亡くなったという回答を受けて、それはやはり国内向けにも納得できないという要素があって、そこでもっとたくさんの拉致被害者が一気に帰って来れば、状況はかなり変わっていたと思うのですが、そういう形で拉致については日本が独自に北朝鮮に働きかける状況になったわけです。
日本の立場から見ても持っているカードは核実験に対する経済制裁ではありません。やはり、拉致の問題を通じて、ありていに言えば北朝鮮にどういう「ご褒美」を渡すことが出来るのか、相手を軍事的にやっつけて強制するのでなければ、ご褒美を与えて相手の意志を変えるしかないわけですね。
核の方は、アメリカはどうやったって北朝鮮が核を作っていることを認める、認めたからご褒美を出すというわけにはいきません。今、日本はアメリカと同じ立場に立ってしまっているわけです。それは一般論として誤りではありませんが、しかし核とは別に拉致というイシューがあるわけで、拉致の問題をイシューとしてどう解決していくのかということを考えるという意味で、日本はカードを持っているわけですね。
(略)
私が北朝鮮の立場で考えて、なぜ日本にミサイルを撃ち込むかといえば、それは恐怖があるからですね。日本を無力化しなければ、日本から自分達に対する攻撃が加えられるという恐怖です。誰が攻撃するのかと言えば在日米軍です。在日米軍がひとっ飛びで北朝鮮を爆撃しに来る。だから本当に北朝鮮がアメリカと戦争をする気になれば、まず一番近い敵をやっつけますよ。中国だって同じ理屈です。だから、アメリカと一体化すれば安全になるという安保法制の基本的な思想が、ミサイル防衛に関する限り、北朝鮮に関する限り、それは多分違うということです。
北朝鮮が日本全土を占領しに来る、或いはどこかの島を取りに来るという動機はないのです。なぜ北朝鮮が日本を攻撃するか。それは、攻撃しないと自分がやられるという恐怖が募った時に、それがありうるわけです。
だから、トランプさんも折角、「守って欲しければ金を出せ」と言っている時に、ちょっと待てと。本当にアメリカ軍がいるからミサイルが飛んでこなくて済んでいるのか、アメリカの基地があるからミサイルが飛んでくるかもしれないのか、ということを我々も冷静に考えなければいけないと思っています。
最終的に言えば、この北朝鮮問題で他国の生存や承認を巡る戦争に組み込まれて、乗っかっていってしまったら、こういう類の戦争は無制限な際限のない暴力の応酬ですから、どちらかが滅びるまでやるんですね。だから同じ戦争の論理で入っていってしまうのは、私は100%間違った戦略であると言わざるをえないと思っています。
そういうことを考えれば、どこかで日本自身が進んでなんとかして、核・ミサイルと拉致をデカップリング、分離してやらないと交渉の余地はないのです。そうでないと自らで自らの手を縛るようなことになってきます。その意味で、今の方向性に凝り固まっている現政権で拉致問題の解決があるかと言えば、全くありえないと私は思っております。
(引用終わり)
コメント 伊勢﨑 賢治(東京外大教授・自衛隊を活かす会呼びかけ人)
(抜粋引用開始)
最後に追加もう1点だけ。メディアの話ですが、覚えていらっしゃいますでしょうか、2010年に韓国の哨戒艇「天安」の沈没事件がありました。韓国の哨戒艇が韓国の近海で沈んで46名の水兵が亡くなりました。あの時――後で意見が分かれるのですが――、海底から北朝鮮のものと思われる魚雷の破片が海底から見つかりました。ここで、スワっ報復だと世論が沸騰するわけです。ところが、韓国社会が粘りを見せたんです。一部の専門家達から哨戒艇の爆発の跡を見たら、どう見ても爆発物によるものではない、何かがぶつかった跡であるという意見が出されました。この原因は未だ決着に至っておりません。ある意味、意識的にうやむやにしたのです。日本の自衛隊の関係者に聞くと、キッパリと北朝鮮がやっていることになっているのですが。水兵が46名も死んでいるのにです――アメリカの原潜と衝突したという説もあるのですが。
もし北朝鮮糾弾の世論が野放図になれば、停戦が破られて戦争状態になるということで、客観的な意見を求める世論が、好戦世論を抑えた。そして、北朝鮮の脅威を煽りに煽った当時のハンナラ党が、統一選挙で負けてしまうのです。戦争回避の世論の胆力が見事に備わっている、本当に天晴れだと思います。
こういう「胆力」が日本に備わっているかというと…。
僕の東京外国語大学のゼミで、この事件を各国のメディアはどう報道したかという比較研究調査をしました。面白いですよ。アメリカ、韓国、中国、日本の、それぞれの右・左、リベラルと保守のそれぞれの主要新聞のヘッドラインを定点観測したんです。この事件をどう報道したか。もちろん中国に右・左があるかどうかは疑問ですが、しかし少なくともアメリカと韓国、日本にはリベラルと保守の両方のメディアがあります。報道の仕方、ヘッドラインを比較したんですね。
実は、4カ国の中で、最も好戦的、つまり「ゼッタイ北朝鮮に決まっている」と決めつけて「報復やむなし」という報道をしたのは、日本のメディアなのです。韓国のメディアが一番、保守も含めて冷静でした。日本の問題ではないのに日本のメディアだけが突出して舞い上がっていたんです。その日本メディアの中でもどこが一番、舞い上がっていたか。北朝鮮が犯人と決めつけて、報復やむなしと報道したかというと、朝日新聞です。産経ではありません。
これを我々はどう考えるか。「胆力」の無さは、日本人の弱点だと思います。
(引用終わり)
(抜粋引用開始)
最後に追加もう1点だけ。メディアの話ですが、覚えていらっしゃいますでしょうか、2010年に韓国の哨戒艇「天安」の沈没事件がありました。韓国の哨戒艇が韓国の近海で沈んで46名の水兵が亡くなりました。あの時――後で意見が分かれるのですが――、海底から北朝鮮のものと思われる魚雷の破片が海底から見つかりました。ここで、スワっ報復だと世論が沸騰するわけです。ところが、韓国社会が粘りを見せたんです。一部の専門家達から哨戒艇の爆発の跡を見たら、どう見ても爆発物によるものではない、何かがぶつかった跡であるという意見が出されました。この原因は未だ決着に至っておりません。ある意味、意識的にうやむやにしたのです。日本の自衛隊の関係者に聞くと、キッパリと北朝鮮がやっていることになっているのですが。水兵が46名も死んでいるのにです――アメリカの原潜と衝突したという説もあるのですが。
もし北朝鮮糾弾の世論が野放図になれば、停戦が破られて戦争状態になるということで、客観的な意見を求める世論が、好戦世論を抑えた。そして、北朝鮮の脅威を煽りに煽った当時のハンナラ党が、統一選挙で負けてしまうのです。戦争回避の世論の胆力が見事に備わっている、本当に天晴れだと思います。
こういう「胆力」が日本に備わっているかというと…。
僕の東京外国語大学のゼミで、この事件を各国のメディアはどう報道したかという比較研究調査をしました。面白いですよ。アメリカ、韓国、中国、日本の、それぞれの右・左、リベラルと保守のそれぞれの主要新聞のヘッドラインを定点観測したんです。この事件をどう報道したか。もちろん中国に右・左があるかどうかは疑問ですが、しかし少なくともアメリカと韓国、日本にはリベラルと保守の両方のメディアがあります。報道の仕方、ヘッドラインを比較したんですね。
実は、4カ国の中で、最も好戦的、つまり「ゼッタイ北朝鮮に決まっている」と決めつけて「報復やむなし」という報道をしたのは、日本のメディアなのです。韓国のメディアが一番、保守も含めて冷静でした。日本の問題ではないのに日本のメディアだけが突出して舞い上がっていたんです。その日本メディアの中でもどこが一番、舞い上がっていたか。北朝鮮が犯人と決めつけて、報復やむなしと報道したかというと、朝日新聞です。産経ではありません。
これを我々はどう考えるか。「胆力」の無さは、日本人の弱点だと思います。
(引用終わり)
コメント 加藤 朗(桜美林大学教授・自衛隊を活かす会呼びかけ人)
(引用開始)
胆力というお話がありましたので、まず、邦人救出ということであれば、今日ここにいらっしゃる皆さんは、ほぼ安保法制に反対していらっしゃると思うので、そもそも邦人救出などということは皆さんの頭の中にはないだろうと思います。だから自力で帰ってきて下さいと。その胆力が必要だということです。間違っても自衛隊に救出を求めるなんていうことはやめて下さい。それだけのことです。
それから2点目、弾道ミサイルです。おそらく北朝鮮が日本に核ミサイルを撃ってくることはないと思います。柳澤さんがおっしゃる通り、これはアメリカに対するカードですから。でも万が一、日本に対して弾道ミサイルが撃ち込まれたらどうするか。犠牲を引き受けて下さい。そんなに死にませんから。せいぜい40~50人が犠牲になる程度です。なぜこんなことを言うかというと、湾岸戦争の時にイラクからサウジアラビアに対して大変な数のスカッドミサイルが撃ち込まれましたが、そんなに死んでいません。もっと言えば、1985年のイラン・イラク戦争の時にイラクがイランの首都のテヘランに1カ月近くにわたってスカッドミサイルを何十発も撃ち込んだことがあります。これでも全部あわせても200~300人ぐらいしか死んでいません。
だから皆さんは、何かあったら平和憲法のために殉ずるんだという覚悟を持てば、その胆力さえ持てば、なんということはありません。試されているのは皆さんの胆力です。本当に。憲法に殉ずることが出来るかどうかという胆力だけです。
北朝鮮の問題に関して言うと、我々が持っているカードはありません。金正恩が日本に対してほとんど何も言っていないのは、北朝鮮にとって日本はもうパッシング(passing)なんですよ。日本は北朝鮮に影響力はありません。経済制裁は効いていないんです。
では、これから効くものは何かと言うと、和解のために払う経済褒賞です。経済協力や韓国と同じぐらいの金額を出すぞというぐらいです。
さて皆さんは、我々がかつて韓国に対して行ったことと同じぐらいの経済援助に耐えられるかどうかということです。これも皆さんの胆力です。おそらく数十兆円規模になると思います。それぐらい大変な額だったはずです。それに耐えられるか。
要するに一言で言うと、憲法9条を守るということは、ひとえに我々の胆力が試されるということだろうと思います。
(引用終わり)
(引用開始)
胆力というお話がありましたので、まず、邦人救出ということであれば、今日ここにいらっしゃる皆さんは、ほぼ安保法制に反対していらっしゃると思うので、そもそも邦人救出などということは皆さんの頭の中にはないだろうと思います。だから自力で帰ってきて下さいと。その胆力が必要だということです。間違っても自衛隊に救出を求めるなんていうことはやめて下さい。それだけのことです。
それから2点目、弾道ミサイルです。おそらく北朝鮮が日本に核ミサイルを撃ってくることはないと思います。柳澤さんがおっしゃる通り、これはアメリカに対するカードですから。でも万が一、日本に対して弾道ミサイルが撃ち込まれたらどうするか。犠牲を引き受けて下さい。そんなに死にませんから。せいぜい40~50人が犠牲になる程度です。なぜこんなことを言うかというと、湾岸戦争の時にイラクからサウジアラビアに対して大変な数のスカッドミサイルが撃ち込まれましたが、そんなに死んでいません。もっと言えば、1985年のイラン・イラク戦争の時にイラクがイランの首都のテヘランに1カ月近くにわたってスカッドミサイルを何十発も撃ち込んだことがあります。これでも全部あわせても200~300人ぐらいしか死んでいません。
だから皆さんは、何かあったら平和憲法のために殉ずるんだという覚悟を持てば、その胆力さえ持てば、なんということはありません。試されているのは皆さんの胆力です。本当に。憲法に殉ずることが出来るかどうかという胆力だけです。
北朝鮮の問題に関して言うと、我々が持っているカードはありません。金正恩が日本に対してほとんど何も言っていないのは、北朝鮮にとって日本はもうパッシング(passing)なんですよ。日本は北朝鮮に影響力はありません。経済制裁は効いていないんです。
では、これから効くものは何かと言うと、和解のために払う経済褒賞です。経済協力や韓国と同じぐらいの金額を出すぞというぐらいです。
さて皆さんは、我々がかつて韓国に対して行ったことと同じぐらいの経済援助に耐えられるかどうかということです。これも皆さんの胆力です。おそらく数十兆円規模になると思います。それぐらい大変な額だったはずです。それに耐えられるか。
要するに一言で言うと、憲法9条を守るということは、ひとえに我々の胆力が試されるということだろうと思います。
(引用終わり)