改憲問題対策法律家6団体連絡会「『日本国憲法の改正手続に関する法律』の一部を改正する法律案の国会提出に反対する法律家団体の緊急声明」を読む
2018年6月8日配信(予定)のメルマガ金原No.3172を転載します。
当初は、立憲民主党も含めた与野党共同提案という話も聞こえていましたが、改正済みの公職選挙法と歩調を合わせるための技術的な項目だけの改正を目指す与党案に対し、「もっと本質的な問題があるだろう」という批判のほか、終盤の国会運営で与党を利する結果は避けたいとの思惑も(多分)あり、野党第一党を含めた与野党共同提案の目はまずなくなったという状況のようで、とりあえず今週は国会への提案は見送られました。
毎日新聞 2018年6月7日21時56分(最終更新6月7日23時17分)
国民投票法 改正案が足踏み 提出の日程またも決まらず
(抜粋引用開始)
自民、公明両党と立憲民主党など野党は7日、衆院憲法審査会の幹事懇談会で憲法改正の手続きを定める国民投票法改正案を巡って協議したが、国会提出の日程はまたも決まらなかった。今後の改憲論議を意識する与党が共同提案にこだわる一方、一度は応じる姿勢も見せた主要野党は、安倍政権への追及を続ける中で「歩み寄り」と見られる事態を避ける方針に転換。20日の国会会期末を控えて足踏みが続いている。【田中裕之、立野将弘】
同法改正案に関し、自民党の中谷元・与党筆頭幹事は7日の幹事懇で「今国会中に法案を提出し、可及的速やかな成立を目指す」との申し合わせ文書を示した。今国会では提出までなのか成立させるのかをあいまいな表現とし、野党に配慮してみせたが、立憲や国民民主党は持ち帰るにとどめた。立憲の山花郁夫・野党筆頭幹事は記者団に「党内の根回しが必要で、時間がなかった」と説明した。(以下略)
(引用終わり)
このような情勢の中、今週はじめの6月4日、改憲問題対策法律家6団体連絡会が、「『日本国憲法の改正手続に関する法律』の一部を改正する法律案の国会提出に反対する法律家団体の緊急声明」を発表していたことに遅ればせながら気がつきましたので、ご紹介しておきます。
声明は、一読してお分かりのように、以下の3項目を挙げて法案提出に反対しています。
1 「公選法改正並び」の7項目についてのみ今国会で改正を急ぐべき理由がないこと
2 改憲手続法の本質的問題点が全く議論されていない中での改正案であること
3 緊急に求められているのは、民主主義国家の土台の建て直しであること
このうち、2番目(と3番目)は私も「そうだろう」と思っていた視点ですが、1番目の「立法事実がない」という指摘は新鮮でした。上記の毎日新聞の記事でも、「野党第1党の立憲も改正案の内容には異論は少ない」(ここは引用していませんが)としているように、与党が準備する改正案の内容自体は問題ないと思っている人が(私を含めて)大多数でしょうから、この視点は重要かなと思います。
会期末まであと10日(明日からの土日を除けば)、改憲手続法改正問題にも注目を続けていただければと思います。
(引用開始)
『日本国憲法の改正手続に関する法律』の一部を改正する
法律案の国会提出に反対する法律家団体の緊急声明
自由民主党と公明党は、「日本国憲法の改正手続きに関する法律」(以下「改憲手続法」という。)について、2016年の「公選法改正並びもの」として7項目についての改憲手続法改正案を衆議院憲法審査会幹事会で示して国会への提出を目指している。
改憲問題対策法律家6団体連絡会(以下、「6団体連絡会」という。)は、以下の理由から、上記改正案の国会提出に強く反対するものである。
第1に、「公選法改正並び」の7項目についてのみ今国会で改正を急ぐべき理由がないこと
改憲手続法改正案は、名簿の閲覧、在外名簿の登録、共通投票所、期日前投票、洋上投票、繰り延べ投票の7項目で、2016年に成立した公職選挙法改正の内容にそろえて国民「投票環境を向上させる」ためなどと説明されている。しかし、公職選挙法改正に「そろえる」というだけで憲法改正国民投票のあり方についての検討はされておらず、投票環境の後退を招くもの(期日前投票時間の短縮、繰り延べ投票期日の告示期限の短縮)も含まれている。また、今後の公職選挙法改正で導入が検討されている郵便投票の対象の拡大については見送りとされており、再度の改正が必要になる公算も大きい。
改憲手続法の本質的な問題の議論を一切しないまま、上記7項目のみ今国会で改正を急ぐべき理由(立法事実)は存在しない。
第2に、改憲手続法の本質的問題点が全く議論されていない中での改正案であること
改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されている。
日本弁護士連合会も、2009年11月18日付け「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」において、①投票方式及び発議方式、②公務員・教育者に対する運動規制、③組織的多数人買収・利害誘導罪の設置、④国民に対する情報提供(広報協議会・公費によるテレビ、ラジオ、新聞の利用・有料意見広告放送のあり方)、⑤発議後国民投票までの期間、⑥最低投票率と「過半数」、⑦国民投票無効訴訟、⑧国会法の改正部分という8項目の見直しを求めている。また、日本弁護士連合会が本年5月25日の総会で採択した「憲法9条の改正議論に対し、立憲主義を堅持し、恒久平和主義の尊重を求める立場から課題ないしは問題を提起するとともに、憲法改正手続法の見直しを求める決議」の中で、改憲手続法に関し、特に、国民投票の14日前までのテレビ・ラジオ等における国民投票運動としての有料意見広告放送に何らの規制が加えられていないこと、最低投票率の定めがなされていないことについて、早急な見直しを求めている。
6団体連絡会も、テレビ・ラジオの有料広告問題、公務員・教育者に対する規制の問題、最低投票率の問題は、立憲主義・民主主義の根本に関わる問題であり、国会での慎重かつ抜本的な議論と見直しが不可欠であると考える。
このように、多くの法律家が共通して問題点を指摘し、国会自らも附帯決議により検討を約束している最重要事項の議論を全くしないまま、改憲手続法の改正案を提出することは許されない。
第3に、緊急に求められているのは、民主主義国家の土台の建て直しであること
森友疑惑をめぐる公文書改ざんと公文書毀棄、証拠隠滅、加計疑惑での事実を隠す数々の答弁、自衛隊の「日報」隠し、裁量労働制をめぐる不適切データの使用、財務省事務次官のセクハラ問題など、民主主義国家の基盤を揺るがす事態が相次いでいる。国会に求められているのは、このような政治・行政の腐敗を正し、国民の政治への信頼を回復して、民主主義と立憲主義を建て直すことであり、憲法改正に前のめりになることではない。
6団体連連絡会は、憲法を蹂躙し立憲主義を破壊する安倍政権の秘密保護法、安保法制、共謀罪など違憲立法の制定に反対し、自民党の改憲4項目の本質と危険性について警鐘を鳴らし続けてきた。立憲主義の堅持を求め,安倍政権の下での改憲に反対する野党や市民とともに、この間共同の取り組みを続けているものである。
以上
2018年6月4日
改憲問題対策法律家6団体連絡会
社会文化法律センター 共同代表理事 宮 里 邦 雄
自由法曹団 団長 船 尾 徹
青年法律家協会弁護士学者合同部会 議長 北 村 栄
日本国際法律家協会 会長 大 熊 政 一
日本反核法律家協会 会長 佐々木 猛 也
日本民主法律家協会 理事長 右 崎 正 博
(引用終わり)
※日本弁護士連合会「憲法改正手続法の見直しを求める意見書」(2009年11月18日)