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東京高等検察庁検事長定年延長問題について(4)~「国家的悲劇」を象徴する痛ましい姿(小田嶋隆さんのコラムを読む)

 2020222日配信(予定)のメルマガ金原No.3446を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(4)~「国家的悲劇」を象徴する痛ましい姿(小田嶋隆さんのコラムを読む)

 最初から意図した訳ではありませんが、東京高等検察庁検事長定年延長問題をこのブログで取り上げるのも今日で4回目となりました。
 過去3回は以下のとおりです。

2020年2月8日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

2020年2月11日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

2020年2月16日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

 前回は、2月12日の衆議院予算委員会において、後藤祐一議員(国民民主党)の質問に対し、人事院の松尾恵美子給与局長が、人事院としては、国家公務員法に定年制を導入した際には、昭和56年4月28日衆議院内閣委員会での人事院任用局長の答弁の通り、「検察官については、国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識をしており」「現在までも特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き続いている(「引き継いでいる」?)ところでございます」と答弁したのに対し、翌2月13日の衆議院本会議において、安倍晋三首相が、検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていたことを認めながら、「他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家の公務員法が、国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。」と、「今般」解釈を変更したと答弁したというところまでをフォローした上で、「論点はでそろった」と判断し、現状を踏まえて書かれた、渡辺輝人弁護士、園田寿甲南大学法科大学院教授、海渡雄一弁護士の論考をご紹介しました。

 そして今週の動きですが、インターネット審議中継で詳細に追いかけるだけの時間的余裕がないため、インターンネットで無料公開されている報道記事を3本引用するにとどめたいと思います。

時事ドットコムニュース 202002192005
人事院局長、異例の答弁修正 検事長定年延長で審議紛糾―衆院予算委
(引用開始)
 黒川弘務東京高検検事長の定年延長をめぐり、人事院の松尾恵美子給与局長は19日の衆院予算委員会で、異例の答弁修正を行った。検察官には国家公務員法の定年延長規定が適用されないとした政府見解を「現在まで引き継いでいる」としてきたが、一転して引き継いだのは法務省から相談を受けるまでと変更。野党は反発し、審議はたびたび紛糾した。
 立憲民主党山尾志桜里氏は、安倍内閣が従来の政府見解を変更し、定年延長に関する規定は検察官にも適用されると決めたのはいつかとただした。
 森雅子法相は、1月17~21日に内閣法制局と、同22~24日に人事院とそれぞれ協議し、双方から「異論はない」との回答を得たため、同29日に黒川氏の定年延長を閣議に諮ったと説明した。(金原注:黒川検事長の定年延長を決定したのは1月31日開催の定例閣議
 ところが、2月12日の衆院予算委では、定年延長規定が検察官には適用されないとした1981年の政府見解について、松尾氏は「現在まで特に議論はなく、解釈は引き継いでいる」と明言しており、矛盾が生じた。
 山尾氏がこの点をただすと、松尾氏は「『現在』という言葉の使い方が不正確だった」と述べ、12日の答弁を撤回。反発した野党が退席し、審議は一時中断した。
 再開後、松尾氏は「現在まで」の部分を「1月22日に法務省から相談があるまでは」に修正。
(略)
(引用終わり)

(参考動画)
衆議院インターネット審議中継 2020年2月19日 (水) 予算委員会

中日新聞 2020222日 朝刊
解釈変更文書、正式決裁なし 検事長定年延長、法相答弁矛盾
(引用開始)
 法務省人事院は二十一日の衆院予算委員会理事会で、黒川弘務東京高検検事長の定年延長を巡る法解釈変更の経緯を示した文書に関し、正式な決裁を取っていないと説明した。森雅子法相は二十日の予算委で「部内で必要な決裁を取っている」と答弁しており、説明の矛盾が露呈。野党は森氏が虚偽答弁をした疑いがあるとの見方を強め、「進退に関わる」(立憲民主党安住淳国対委員長)として追及する方針だ。
 法務省は二十日に示した文書に日付がなかったとの指摘を受け、二十一日の理事会で「一月二十二日人事院へ交付」と追記した文書を提出。野党は「後付け」で日付を入れたとして反発した。
 立民の大串博志幹事長代理が記者団に理事会の内容を説明した。法務省人事院は「日時を証拠付けられるペーパーはない」とも報告した。大串氏は一連の対応を「国会答弁に合わせて注釈を付けただけで、証明するものがないと明らかになった。疑念がさらに強まった」と批判した。
 政府は一月二十四日に解釈を変更したと主張するが野党は国会答弁と矛盾点があるとして追及。理事会では、人事院が提出していた法務省への返答文書についても、法務省の注釈として「一月二十四日受領」と追記された文書が示された。
 法務省の文書では、黒川氏の定年延長を可能とした国家公務員法の勤務延長規定と、検事総長以外の検察官の定年を六十三歳と規定した検察庁法の関係について「検察官にも国家公務員法の規定が適用されると解するのが自然だ」と妥当性を主張。人事院文書は法務省の解釈変更を追認した。
(引用終わり)

東京新聞 2020222日 朝刊
法解釈変更記載なし 検事長定年延長 閣議決定前の政府文書
(引用開始)
 政府が黒川弘務東京高検検事長の定年を延長する閣議決定に先立ち、国家公務員法の解釈を変更した経緯を示す証拠として国会に提出した文書に、法解釈を見直す記載のないことが分かった。検察官は定年延長制の対象外とした一九八一年の政府見解にも触れていない。解釈変更は定年延長の閣議決定後だった疑いが強まった。
 政府は二十日と二十一日にかけて、定年延長を決める以前の検討状況を記録した文書計三通を衆院予算委員会の理事会に提出。法務省が一月に内閣法制局人事院にそれぞれ交付した文書は「定年延長制度の検察官への適用について」と題し、八五年の改正国家公務員法の施行後は、定年延長制が「検察官にも適用されると解するのが自然である」と結論づけた。
 内閣法制局の「応接録」と題した文書には、一月十七~二十一日にかけて法務省から照会を受け「意見がない旨回答した」と了承したことを明記した。人事院は翌二十二日に法務省の文書を受け取り、二日後に「特に異論を申し上げない」と文書で回答した。
 三通の文書には、法解釈の「変更」「見直し」といった表現はなく、解釈を改めたと理解できる記載もない。政府は定年延長は八五年当時から可能だったと解釈し、黒川氏の定年延長を決めたことになる。
 安倍晋三首相は閣議決定の二週間後の二月十三日に政府として初めて法解釈変更に言及。政府はその三日前に野党から八一年見解との整合性をただされ、答弁が行き詰まっていた。(清水俊介)
(引用終わり)

 今朝の東京新聞の記事で紹介されている、政府が衆議院予算委員会理事会に提出したという「定年延長を決める以前の検討状況を記録した文書計三通」を是非読んでみたいものだと思ったのですが、探し当てることができませんでした。
 その代わり(?)、日本共産党の山添拓参議院議員が2月14日のTwitterで公開した「衆院予算委に提出された文責者の記載もない政府文書」というのを書き写しておきましょう。

(引用開始)
                 検察官の勤務延長について
 昭和56年当時、検察官については、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識している。
 他方、検察官も一般職の国家公務員であるから、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にある。したがって、国家公務員法検察庁法の適用関係は、検察庁法に定められている特例の解釈に関わることであり、法務省において整理されるべきものである。
 そこで、検察庁法を所管する法務省において国家公務員法検察庁法との関係を検討したところ、
検察庁法が定める検察官の定年による退職の特例は、定年年齢と退職時期の2点であること
○特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に、定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を越えて勤務の延長を認めるとの勤務延長制度の趣旨は、検察官にも等しく及ぶというべきであること
から、一般職の国家公務員である検察官の勤務延長については、一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈することとし、このような解釈を政府として是としたもの。
(引用終わり)

 20日から21日にかけて、衆議院予算委員会理事会に提出されたという「文書」3通にしても、上記文書の「そこで」以下の文章と同工異曲なのでしょう(多分)。
 森雅子法務大臣の2月3日以降の国会(衆議院予算委員会)での答弁は、ひたすらこの「そこで」以下を繰り返すことに終始している訳で、これを一言で評するとすれば、「痛ましい」と言うしかありません。

 そして、森法相以上に「痛ましい」のが松尾恵美子人事院給与局長です。衆議院インターネット審議中継での松尾局長の姿は正視に耐えません。茂木敏充外相に犬のごとく追い払われる衝撃的な映像とともに、松尾局長は、今回の検事長定年延長問題による「国家的悲劇」を象徴する人物に、心ならずもなってしまったと言わねばなりません。

 そのことを鋭敏にも感じ取ったコラムニストの小田嶋隆さんが、以下のようなコラムを書かれており、心から敬服しました。全文無料で公開されていますので、是非ご一読ください。そして、周りの人にもお薦めください。

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」~世間に転がる意味不明 2020221
10人の部下を持つ人間がウソをつくと、10人のウソつきが誕生する
(引用開始)
(略)
 個人的に、このニュースは、現政権が「人間」を道具のように扱うやりざまのひとつの典型例だと思っているのだが、より専門的な見地から、今回の人事を、三権分立の原則を脅かすとてつもない暴挙だと評している人たちもいる。
 当稿では、そこのところには触れない。
 理由は、私が法の支配や三権分立に関して専門的な知識を持っていないからでもあるのだが、それ以上に、個人的な関心に訴えたのが、「ボスと下っ端の間のやりとり」という、より卑近なテーマだったという事情に依拠している。
(略)
 松尾局長は、山尾氏の
 「なぜ212日の時点で解釈変更に言及せず、解釈を引き継いでいると説明したのか」という追い打ちの質問に対して
 「つい言い間違えた」
と答えている。
 これには驚いた。あんまりびっくりしたので、この時のやりとりは、わざわざネット動画を探しに行って確認した。
 と、松尾局長は、本当に
 「つい言い間違えた」
と言っている。なんと。本当に、生身の人間が、国会で「つい言い間違えた」と言わされていたのである。
 私自身、こんな国会答弁を聞いたのは初めてだ。
 見ていて気の毒になった。いや、動画を見てもらえればわかる。彼女の表情はまったく生気を失っている。これほどまでにいたましい人間の振る舞い方を見て、心を痛めない人間はそんなにいないはずだ。
(略)
 本当のことを言ってはいけない立場に立たされた時、正直な人間は、正体を失う。自分自身をさえ失う。
 彼女は、自分が従事している仕事の職業倫理に反する回答を求められ、それを衆人環視の中で自分の口から吐き出さなければならなかった。
 とすれば、ロボットみたいな無表情で機械的な発話を繰り返すか、でなければ、3歳児の如き無垢を発揮するほかに対処のしようがないではないか。
(略)
 おそらく、公衆の面前であからさまなウソをついてしまった人間のうちの何割かは、二度とそれ以前の自分に戻れなくなっているはずだ。
 意に沿わぬウソをつかされた人間は、精神的に死んでしまう。
 中には本当に死んでしまう人もいる。
 松尾さんには、ぜひ立ち直ってもらいたいと思っている。
(略)
 ただ、上の立場の人間がウソを押し通す時、その下で働く人間は、ボスのウソをカバーする立場に追い込まれる。これは、当事者にとっては、非常に苦しいミッションだ。
 安倍さんは、その、とてつもなく不毛で罪深い仕事を、自分の足元にいる非常に広範囲の人間たちに強要している。私の個人的な考えでは、安倍政権の罪は、ウソをついたことそのものよりも、部下にウソをつかせ続けてきたことの中にあると思っている。
 ウソをつかされた人間は、死んでしまう。
 自分のウソを糊塗するためにウソをつくのもそれはそれでキツい仕事だが、他人が勝手に言い放ったウソの尻拭いのために自分が人前でウソをつかねばならない立場に追い込まれることは、誇り高い人間にとっては、死を意味している。
(略)
 うちの国の政権中枢に連なる人々は、これまで、財務省の官僚に不自然な答弁を強要し、公文書を改ざんさせ、ホテルの担当者に沈黙を求め、人事院の官僚に答弁を撤回させてきた。
 一つのウソを守るために、10のウソが必要になるというのは、よく言われる話で、実際、時系列に沿って考えればその通りなのだと思う。
 もう一つウソという同じ言葉について、権力勾配に沿って考える見方を推奨しておきたい。
 10人の部下を持つ人間がウソをつくと、10人のウソつきが誕生する。
 安倍首相ご自身は、あるいは、ウソをついている自覚を持っていないのかもしれない。
 しかし、ご自身が何百人何千人のウソつきを生産していることは、ぜひ自覚してもらいたい。ついでに、その何百人何千人のウソつきたちの心が、かなりの度合いで死んでいることも、できれば思い出してあげてほしい。ぜひ。
(引用終わり)

 実は、今日このブログを書き始めた時には、昨日(2月21日)立憲デモクラシーの会が公表した「検察官の定年延長問題に関する声明」をご紹介するつもりだったのですが、この1週間の注目すべき動きを簡単に紹介しようと思っているうちに、自然と松尾恵美子人事院給与局長に焦点が合ってしまい、そうすると、小田嶋隆さんのコラムをご紹介しない訳にはいかないということで、ここまでで相当長くなってしまいました。
 そこで、立憲デモクラシーの会による声明のご紹介は明日(多分書けると思います)に回すことにしました。


(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。