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7/16(土)岩波新書『学問と政治』出版記念シンポジウム~学術会議任命拒否問題とは何か~(オンライン視聴あり/申込不要)

 2022年6月21日配信(予定)の「メルマガ金原No.3521」を転載します。
 Facebookにも同内容で掲載しています。

7/16(土)岩波新書『学問と政治』出版記念シンポジウム~学術会議任命拒否問題とは何か~(オンライン視聴あり/申込不要)

 菅義偉政権によって違法・不当にも6人の日本学術会議会員候補が任命を拒否された「事件」からはや2年近くが経過しましたが、岸田文雄政権もその過ちを認めず、違法状態を放置するという由々しい事態が続いています。
 その任命を拒否された当事者である6人の共著として、2022年4月、岩波新書から『学問と政治 学術会議任命拒否問題とは何か』が刊行されました。
 それを記念して、版元の株式会社岩波書店と「学問と政治」出版記念シンポジウム実行委員会の共催により、以下の内容で記念シンポが開催されます。
 会場は東京ですが、オンライン視聴(申込不要)も可能ということなので、ご紹介することとしました。
 岩波新書の該当ページを閲覧してもまだオンライン視聴についての案内は掲載されていませんでしたが、申込不要なので、開催時期が近付いてから閲覧していただければ良いと思います。
 私もチラシ記載の情報しか持ち合わせがありませんが、時間をとって視聴するだけの価値は十分にあると思います。

(シンポジウムの概要)
日時:2022年7月16日(土)13:30~16:00(開場13:00)
会場:全国町村会館(会場参加は先着100名まで)
オンライン視聴(申込不要)あり
 詳細は以下の岩波書店HPに掲載予定
  https://www.iwanami.co.jp/book/b603071.html 
  http://iwnm.jp/431925
基調講演「焼け野になる前に―現在の状況を歴史家はどう見ているのか」
 講師:加藤陽子東京大学
◆発言・メッセージ
芦名定道(関西学院大学)/岡田正典早稲田大学)/小沢隆一(東京慈恵医科大学)/松宮孝明立命館大学)/池内了名古屋大学名誉教授)/佐藤学東京大学名誉教授)/前川喜平(元文部科学事務次官)ほか
◆シンポジウム呼びかけ人
高山佳奈子永田和宏/長谷部恭男/廣渡清吾/福田護/藤谷道夫/三宅弘

 

自民党・安全保障調査会の「提言」に注目してください

 2022年5月2日配信(予定)の「メルマガ金原No.3516」を転載します。
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自民党・安全保障調査会の「提言」に注目してください


 去る4月28日にプラザホープで開催した半田滋さん講演会(主催:青年法律家協会和歌山支部)に足をお運びいただいた皆さまにお礼申し上げます。

 講演会終了後、講師を囲む懇親会に参加したのですが(時節柄参加者1ケタ台でした)、会場がイタ飯屋風居酒屋(?)で、その日の客層は相当若く(我々はやや場違いな雰囲気)、しかも普通に会話していたのではお互いに聞き取りに苦労するほど周りがやかましく、さんざんコロナ対策に気を遣った講演会が終わった後、「飛沫感染などどこの世界のことか」という3年前に舞い戻ったかのような店内に身を置き、いささか呆然とした気分でした。

 まあ、それはさておき、講演の中で半田さんも言及されていましたが、自民党政務調査会安全保障調査会が、「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言~より深刻化する国際情勢下におけるわが国及び国際社会の平和と安全を確保するための防衛力の抜本的強化の実現に向けて~」という長ったらしいタイトルの提言をとりまとめ、4月27日に岸田総理に提出しました。

 これは、12月までの改定を目指すと岸田総理が公言している安全保障関連の基本3文書「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」「国家安全保障戦略」について、改定の方針についての「提言」(表題を変えろとまで書いています)をまとめたものです。
「提言」PDFファイル

 全部で16ページもあるので、いささか億劫かもしれませんが、政府がこれを丸呑みする可能性も否定できず、是非目を通しておくべきかと思いますので情報共有しました。

 なお、この提言についての半田滋さんによる解説がネットで読めます。
 また、デモクラTVでの解説も視聴できます。


 提言は多岐にわたりますが、特に注目されている箇所を指摘すると、
●「防衛費関係」(4ページ以下)
●「弾道ミサイル攻撃を含むわが国への武力攻撃に対する反撃能力の保有」(9ページ以下)
などどでしょうか。

 ちなみに、「専守防衛」という項目もありますが(10ページ)、わずかに本文6行だけであり、しかも説明するだけで「守る」とも「重要」とも何とも言っていません。
 また、その(後段の)説明自体、従来の政府解釈の域を超え、勝手に拡大しているそうです(和歌山駅から会場までお送りする車の中で伺った半田滋さんのご意見)。
 以下、16ページに及ぶ自民党「提言」中の「専守防衛」の項を全文引用してみましょう。

(引用開始)
専守防衛
 専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、その態様も自衛のための必要最小限度にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神に則った受動的な防衛戦略の姿勢をいう。
 ここで言う必要最小限度の自衛力の具体的な限度は、その時々の国際情勢や科学技術等の諸条件を考慮し、決せられるものである。
(引用終わり)

 最後に、私もこの「提言」をまだ十分には読み込めておらず、流し読みしただけですが、最も気になったというか、注意をひかれた点を指摘しておきます。
●「わが国を取り巻く安全保障環境は加速度的に厳しさを増している」(1ページ)という表現があちこちにばらまかれています。2014年の安保法制懇の報告書以来、このフレーズは聞き飽きました。日本語の通常の用法に従って理解すれば、日本はとっくに「滅亡」していなければおかしいくらいです。
●「日本は、国家の独立、国民の生命と財産、領土・領海・領空の主権、自由・民主主義・人権といった基本的な価値観を守り抜いていくために」(1ページ)、「わが国の独立と平和を守り抜く上で真に必要な防衛関係費を積み上げて」(5ページ)など、「守って」とか「守る」とすれば意味が通じるにもかかわらず、「守り抜いて」とか「守り抜く」というより扇情的な用語を使っている文章に出会ったら(安倍晋三元首相のスピーチに「守り抜く」は頻出していました)、よほど警戒する必要のある内容なのだと理解すべきです。




石埼学龍谷大学教授「議院内閣制から診た安倍内閣」正・続を読む

 2020年4月12日配信(予定)のメルマガ金原.No.3456を転載します。

石埼学龍谷大学教授「議院内閣制から診た安倍内閣」正・続を読む

 龍谷大学法学部教授の石埼学(いしざき・まなぶ)先生には、2016年4月2日に、私も運営委員を務める「守ろう9条 紀の川 市民の会」総会での記念講演をお願いしたことをきっかけに、主としてFacebookを通じて交流させていただいています。
 おかげで、歴代プリキュアについてのマニアックな知識・見識に接することが出来た他、石埼先生に一命を救われた子猫のミー君の成長記録に目を細めたりしてきました。
 もちろん、そのような身辺雑記的なテーマだけではなく、石埼先生が小林武先生と共に編集された憲法の教科書『いま 日本国憲法は 原点からの検証(第6版)』(法律文化社)を入手して勉強させていただく貴重な機会を得たりということもありました。実際、入院という不測の事態があったからでもありますが、司法試験に合格した1986年以来初めて(!)憲法の教科書を通読(精読)し、ブログに感想を書き留めることが出来たのは、私にとっても得難い経験となりました。

 今日取り上げようと思うのは、その石埼先生が、日本共産党中央委員会理論政治誌と銘打たれた「前衛」5月号に発表された論考「続・議院内閣制から診た安倍内閣」及びその正編(「前衛」2019年5月号所収)です。

 そもそも、「前衛」の昨年5月号に掲載された石埼先生の論考「議院内閣制から診た安倍内閣」は、「安倍政権が、日本国憲法が採用した議院内閣制の趣旨を軽視ないし愚弄し、もって日本における国民主権原理に基づく統治の根幹部分を破壊しつつある」ことを、具体例を検討することを通じて明らかにしようとしたものでした。

 そして、そのための方法論として、安倍内閣の特徴を、
(1)国会に対して説明責任を果たしていない。
(2)国会における審議および議決の意義を軽視し、それらにおける野党の存在意義を理解していない。
(3)国会に属する立法権を形骸化し、それを実質上内閣に移譲させようとしている。
という3項目に分類した上で、それぞれについて主要な具体例を取り上げるという構成で論述が組み立てられていました。
 とはいえ、第二次安倍政権が発足した2012年12月から、同稿の執筆を終えた2019年3月までの6年余における安倍政権の「悪行」は数知れず、上記の基準に従って主要なものを選別し、内容を信頼できる出典にあたって確認するだけでも大変な手間であったと思います(私などとても根気が続かない)。

 2019年5月号の正編「議院内閣制から診た安倍内閣」に取り上げられた具体例を列挙すると以下のとおりとなります。

一 国会への内閣の説明責任
1 議院におけるヤジ
〇2015年2月19日・衆院予算委員会 玉木雄一郎議員(民主)に「日教組どうするの、日教組!」
〇2015年5月28日・衆院安保特別委員会 辻元清美議員(民主)に「早く質問しろよ」
〇2015年8月21日・参院安保特別委員会 蓮舫議員(民主)に「そんなこといいじゃないか」
 以上は安倍首相によるヤジであるが、この他にも閣僚等による不規則発言や不適切答弁が4例紹介されています。
2 不誠実な答弁

〇根拠もなく断言する。
〇質問をしている野党議員も熟知している制度や法案の条文を繰り返す。
〇質問されたことに正面から答えない。
〇言葉の意味を限定してはぐらかす。
 安保関連法案、森友学園問題、加計学園問題などに関わる不誠実答弁の実例が指摘されています。
3 公文書の偽造
南スーダン派遣陸上自衛隊部隊作成の「日報」隠蔽
労働基準法改正(裁量労働制対象拡大)のための政府(厚労省)説明資料におけるデータの異常さ
森友学園問題に関わる財務省決裁文書の改ざん
入管法改正(特定技能)のための入管資料(失踪特定技能実習生からの聞き取り調査結果)データの虚偽公表
〇「毎月勤労統計」偽装疑惑

二 議院内少数派(野党)
1 強行採決
〇2015年9月17日 参議院安保特別委員会 安保法制法案
〇2017年6月14日~15日 参議院本会議 共謀罪法案(委員会採決省略)
〇2018年12月8日 参議院本会議 入管法改正案(特定技能)等
2 質疑時間
  野党議員による質問時間の割合の減少

3 五三条要求の無視
〇2015年10月21日 野党が憲法53条に基づき臨時会の召集決定を要求⇒翌年の常会まで国会を開かなかった。
〇2017年6月22日 野党が憲法53条に基づき臨時会の召集決定を要求⇒98日経過後の9月28日に召集したが所信表明演説すらせずに衆院を解散した。

三 立法権の簒奪
1 文言の不明確な立法
特定秘密保護法
共謀罪 特に「準備行為」
2 委任立法
〇2016年 統合型リゾート実施法(カジノ規制基準を省令等に委任する授権規定あり)
〇2018年 働き方改革法(高度プロフェッショナル制度の対象となる業種や収入を省令に委任)
〇2018年 改正入管法(「特定技能」の在留期間、在留資格の有無の認定方法、受け入れ業種や分野等の根幹部分を省令等に委任)

 「どのように、どの程度、議員内閣制から逸脱しているか?」という視点から、安倍内閣を「診断」するというユニークな論考の概略をご理解いただけたでしょうか?

 そして、発売されたばかりの「前衛」2020年5月号に掲載された続編は、「安倍内閣の「政治手法」の議院内閣制からの逸脱をこの1年間(2019年3月中旬から2020年3月中旬)の出来事を振り返って明らかにするもの」というものであり、つまりは正編に増補する内容となっています。
 もっとも、増補といっても、ページ数は正編と同じ14ページが費やされており、それだけ「悪の種は尽きない」だけではなく、1つ1つの論点に費やす分量が多めになっており(正編は紙幅の制限から、箇条書き的にならざるを得なかった面があると思います)、それだけ読み応えがあります。

 「続・議院内閣制から診た安倍内閣」も、正編の構成を基本的に踏襲しています。
 以下には、各項目で取り上げられた問題事例の「見出し」だけご紹介しておきます。

一 国会への内閣の説明責任
1 議院におけるヤジ
〇2019年11月6日・衆院予算委員会 今井雅人議員(無所属)に対し「あなたじゃないの」
〇2020年2月12日・衆院予算委員会 辻元清美議員(立憲)に対し「意味のない質問だよ」
2 理解不能な、または虚偽の答弁
〇2019年11月~ 「桜を見る会」及び「前夜祭」関連の安倍首相答弁
〇2020年2月~ 黒川弘務東京高検検事長定年延長問題についての森雅子法相らによる一連の答弁
3 公文書の廃棄
〇「桜を見る会」招待者名簿の廃棄。過去の招待者名簿の違法な管理。一部改ざんした資料の国会への提出。

二 議会内少数派(野党)の存在意義の軽視
1 与党による予算委員会の開催拒否
野党からの開催要求があったにもかかわらず、
〇第198国会(常会) 2019年3月1日以降、衆院予算委員会を事実上開かず。
〇同 2019年3月27日以降、参院予算委員会を事実上開かず。
〇第200国会(臨時会) 2019年11月6日意向、衆院予算委員会を事実上開かず。
2 麻生大臣の答弁
〇2020年1月28日 衆院予算委員会 「マーケットに与える影響はきわめて大きいので、我々はマーケットと仕事をしていますので、野党と仕事をしているんじゃない。マーケットとやらなきゃいかぬと思う」と答弁。

三 立法権の簒奪
1 東京高検検事長定年延長問題
2 閣議決定による自衛隊の中東派遣

 以上、石埼学先生による「議院内閣制から診た安倍内閣」正編・続編で取り上げられた安倍政権による問題事例をご紹介してきました。
 一読、全ての項目について「ああそういうことがあったな」と思い出していただけた方はどれほどおられたでしょうか。
 ここ1年間の出来事を取り上げた続編ですら、与党による予算委員会の開会拒否って憶えていました?

 私は、石埼先生が取り上げた問題事例は(程度の濃淡はあれ)一応全て記憶していましたが、これは、私が2013年1月(第二次安倍政権発足の翌月です)から昨年1月までの丸6年間、「ブログ毎日更新」を続けていたという特殊事情によります。
 普通の人は、7年半近くも経てば、「安倍批判疲れ」に陥るのも無理はないし、細かなことまで一々憶えていられませんよね。

 けれども、安倍政権のひどさは度を超えているというか、あり得ないレベルのものです。最近におけるその代表例は検事長定年延長問題(及びそれに付随する検察庁法「改正」問題)ですが、そのタイミングで発生した新型コロナウイルス禍すら、政権延命に役立てようとしているかのようです。

 そのような状況の下、「安倍内閣に、国民のための政治など望むべくもない」ことを理論的に指し示すため、日本の統治機構の根幹である議院内閣制からの常軌を逸した「逸脱」という確かな視座を提供することが、「議院内閣制から診た安倍内閣」正・続の重要な役割であろうと思います。

 その上で、この論考をどう活用していくかが、今後の私たち一人一人が担うべき課題でしょう。

(余談)
 石埼先生の論考(正・続とも)では、私のブログを後注の中で参照先として紹介してくださっており、大変光栄です。

[正編]安倍首相による「私は立法府の長」発言について    
 http://kimbara.hatenablog.com/entry/2018/11/03/175437 (wakaben6888のブログ)
  ※弁護士・金原徹雄のブログ http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/52635022.html 
[続編]注ⅴ 東京高検検事長定年延長問題について  
 http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/54300679.html 
 ※最新の(9) http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/54468459.html 

(弁護士・金原徹雄のブログから/石埼学氏関連)
2015年5月29日
龍谷大学・石埼学教授による日本国憲法講義「平和主義と安保法制」を受講しよう 
2016年2月10日 
石埼学(いしざきまなぶ)龍谷大学法科大学院教授(憲法学)講演会へのお誘い~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」@和歌山市 
2016年4月2日 
石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演をレジュメから振り返る~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」第12回総会から 
2016年4月5日 
石埼学龍谷大学法科大学院教授の【設問】に答える~「安保法制」講師養成講座2 
2016年9月11日 
治安維持法と自民党改憲草案~石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演レジュメで学ぶ(9/8国賠同盟近畿ブロック会議より) 
2018年8月4日 
『国会を、取り戻そう!議会制民主主義の明日のために』(石川裕一郎、石埼学、清末愛砂、志田陽子、永山茂樹共編著)を読む 
2019年3月23日 
『いま 日本国憲法は 原点からの検証(第6版)』(小林武・石埼学編)を読む~入院読書日記(1) 
2019年4月10日 
「前衛」5月号の特集「安倍内閣との対決点」に注目した

拡散大希望!週刊文春があの森友特集記事を全文無料公開

 メルマガ金原・号外(2020年3月25日)を配信します。

Facebookから転載します。

【拡散大希望!週刊文春があの森友特集記事を全文無料公開】

 週刊文春が、完売して入手不能となっていた「3月26日号」の中の森友記事を今日(3/25)から全文無料公開したと執筆者の相澤冬樹記者(大阪日日新聞)自身がYahoo!ニュースで紹介しています(4分割されてアップされています)。

 森友記事を含む「3月26日号」そのものは、Kindle版(電子書籍)として税込400円で発売中にもかかわらず、全文無料公開に踏み切った文春の心意気に感謝し、是非周りに広めてくだるようお願いします。

週刊文春 2020年3月26日号[雑誌]

桜玉吉

文藝春秋

2020-03-18


週刊文春編集部から

「「週刊文春2020326日号に掲載された大阪日日新聞記者・相澤冬樹氏による記事「森友自殺〈財務省〉職員遺書全文公開 『すべて佐川局長の指示です』」が大きな反響を呼んでいる。「週刊文春」編集部は完売により記事が読めない状況を鑑み、文春オンラインで全文公開する。真面目な公務員だった赤木俊夫さんに何が起きていたのか。森友問題の「真実」がここにある。」

すべて佐川局長の指示です」――森友問題で自殺した財務省職員が遺した改ざんの経緯【森友スクープ全文公開#1】

「まさに生き地獄」――55歳の春を迎えることなく命を絶った財務省職員の苦悩【森友スクープ全文公開#2】

「トシくんは亡くなって、財務局は救われた。それっておかしくありませんか?」財務省職員の妻が提訴した理由【森友スクープ全文公開#3】

自殺した財務省職員・赤木俊夫氏が遺した「手記」全文【森友スクープ全文公開#4】

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(8)~「違法」だからこそ辻褄が合わなくなる

 2020年3月15日配信(予定)のメルマガ金原No.3451を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(8)~「違法」だからこそ辻褄が合わなくなる

 予算案が衆議院を通過し、国会論戦の主戦場が参議院予算委員会に移って以降、政局の中心がコロナウイルス対策に集中し、東京高検検事長定年延長問題に対する関心が薄らぎつつあるのではと懸念される中、一昨日(3月13日)、内閣が衆議院に提出した束ね法案「国家公務員法等の一部を改正する法律案」の中の検察庁法「改正」案がとんでもない内容であることが分かりましたので、黒川東京高検検事長の定年を延長した閣議決定の撤回を求めることと共に、検察庁法「改正」阻止が、国民(とりわけ法曹)にとって喫緊の課題となってきました。

 何しろ、「要項」には、検察庁法「改正」については、「検察官の定年を段階的に年齢六十五年に引き上げることとする等、所要の規定の整備を行うものとすること。」としか書いていないにもかかわらず、「新旧対照条文」を読んでみるととんでもない内容なのです。

 いずれ、この問題についてはじっくりブログで考えてみたいと思いますが、まずは、昨日(3月14日付)の朝日新聞社説が要領良くこの法案の危険性をまとめてくれていましたので、是非お読みになることをお勧めします。


2020年3月14日 朝日新聞 社説

検察庁法改正 許されぬ無法の上塗り

(抜粋引用開始)

 法をまげたうえで、さらに法の本来の趣旨を踏みにじる行いを重ねるという話ではないか。納得できない。

 国家公務員の定年延長にあわせ、検察官の定年を63歳(検事総長のみ65歳)から65歳に段階的に引き上げる検察庁法改正案が、国会に提出された。

 見過ごせないのは、63歳以上は高検検事長や地検検事正といった要職に就けないとしつつ、政府が判断すれば特別にそのポストにとどまれる、とする規定を新たに盛り込んだことだ。

 安倍内閣は1月末に東京高検検事長の定年を延長する閣議決定をした。検事総長に昇格させるための政治介入ではないかと不信の目が向けられている。  政府は従来、検察官の定年延長は認められないとの立場だったが、今般、解釈を変えることにしたと言い出し、決定を正当化した。立法時の説明や定着した解釈を内閣だけの判断で覆す行為は、法の支配の否定に他ならない。法案は、その暴挙を覆い隠し、さらに介入の余地を広げる内容ではないか。

 政治家が特定の人物を選び、特別な処遇を施すことができるようになれば、人事を通じて組織を容易に制御できる。その対象が、政界をふくむ権力犯罪に切り込む強い権限を持ち、司法にも大きな影響を与える検察となれば、他の行政官と同列に扱うことはできない。

(略)

 混迷の出発点である高検検事長人事の背景に、首相官邸の意向があるのは明らかだ。検察への信頼をこれ以上傷つけないために、定年延長の閣議決定をすみやかに取り消すとともに、検察庁法の改正作業も仕切り直すことを求める。

(引用終わり)

 そこで、書こうと思いながら積み残してきた論点を2つに絞り、簡単にご紹介しておきます。いずれも、既にメディアや論者によって取り上げられているものですが、私自身の備忘録代わりに書き留めておこうとするものです。
 第一は、国家公務員法第81条の3第2項に定める「人事院の承認」の問題です。1月31日の閣議決定で黒川弘務東京高検検事長の定年を6ヶ月間延長した根拠は同法第81条の3第1項ですが、この第81条の3には第1項の他に第2項があります。巻末の(関連法令)をお読みいただきたいのですが、この第2項は、第1項により一度勤務が延長された職員につき、必要があれば再度の延長が可能(場合によっては三度目以降の延長も可能)であること、ただし、延長期間は、当初の「定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。」ことを定めた規定です。

 そして、第81条の3第1項に基づく(最初の)勤務延長と、第2項に基づく(再度以降の)勤務延長は要件が異なります。第2項の場合には、第1項で求められる要件に加えて、「人事院の承認を得て」という要件が加重されているのです。  検察官については、準司法的機能を担う「職務と責任の特殊性に基いて」(国家公務員法附則第13条)、検察庁法、検察官の俸給等に関する法律などによって、国家公務員法とは異なる特例が広汎に規定されています。

 しかるに、その最も重要な、勤務させることを認めるか否かという問題について、人事院という内閣の所轄の下に設置された一行政機関がイニシアティブをとるという、昭和22年の検察庁法制定当時には(そして国家公務員法に定年制度が導入された昭和56年当時にも)誰も夢想だにしなかった事態を認めざるを得なくなってしまうのです(今の安倍内閣が続く限り)。

(参考)この第81条の3第2項の問題については、2月27日に毎日新聞が大きく報じています。インターネットでは有料記事ですので、無料公開されている冒頭部分のみ引用します。
毎日新聞 2020年2月27日 13時00分

霞が関OBもカンカン…検事長の定年延長 語られぬ「条文第2項」の衝撃

(抜粋引用開始)

 霞が関OBはカンカンである。安倍晋三政権が黒川弘務・東京高検検事長を「定年延長」した問題について、である。実は根拠となる法の条文そのものに、重大な問題が潜んでいた。安倍政権の解釈を認めると、検察官の独立などどこへやら、検察官人事を検察庁でも法務省でもなく、人事院が左右する異常事態が生じる可能性があるというのだ。語られざる論点を追った。【吉井理記/統合デジタル取材センター】

(引用終わり)

 第二の論点は、仮に検察官に国家公務員法第81条の3を適用して勤務延長をさせることができると仮定しても、黒川検事長検事総長に任命することは不可能なのではないか、という点です。

 立憲民主党枝野幸男代表が2月26日の衆院予算委員会の質問に立った際に指摘したことでも知られるようになったことですが、かねて人事院は、国家公務員法第81条の3によって勤務延長させた職員を、別の官職に異動させることは原則として出来ないと解釈してきました。人事院規則11―8(昭和五十九年人事院規則一一―八)第5条第2項が認めた例外は、「法第八十一条の三第一項の規定により引き続いて勤務している職員(以下「勤務延長職員」という。)の法令の改廃による組織の変更等に伴う異動であつて勤務延長(略)に係る官職の業務と同一の業務を行うことをその職務の主たる内容とする他の官職への異動及び再任用をされている職員としての異動」です。

 本来、「職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」(国家公務員法第81条の3第1項)でなければ勤務延長が認められないとしているのですから、勤務延長させた職員を別の官職に異動させることは明らかに法の趣旨に反します。
 試みに私が探したところでは、人事院に置かれた「公務員の高齢期の雇用問題に関する研究会」の第1回会議(平成19年9月7日開催)での配付資料の中に「国家公務員の定年制度等の概要」という資料があり、その「2 勤務延長(国公法第81条の3、人事院規則11-8第6条~第10条)」の「(注) 留意点」として、「②「当該職務に従事させるため引き続いて勤務させる」制度であり、勤務延長後、当該職員を原則として他の官職に異動させることができない。」と明言しています。

 それまで定年の定めがなかった国家公務員法に初めて定年制度が導入されたのは昭和56年のことですが(施行は昭和60年)、同改正案が審議されていた国会において、政府委員である人事院の斧誠之助任用局長が「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。」と明確に答弁していたことは既にご紹介済みです。
 また、その答弁の前年(昭和55年)には、法改正に向けた「想定問答集」総理府人事局において作成されていたことを、小西ひろゆき参院議員が国立公文書館で発見して広めました。
(引用開始)

問四十六 「法律に別段の定めのある場合を除き」としている理由及び具体例いかん。 答 今回の定年制度法案は、現在法律により定年が定められている職員については、それそれの法律によることとして、適用対象から外すという考え方を採っているので、「法律に別段の定めのある場合を除き」と規定している。具体例としては、検察官(検察庁法第二十二条により定年が定められている。)及び大学教員(教育公務員特例法第八条により大学管理機構が定年を定めることとされている。)がある。
問四十七 検察官、大学の教員については、年齢についてのみ特例を認めたのか。それとも全く今回の定年制度からはずしたのか。

答 定年、特例定年、勤務の延長及び再任用の制度の適用は除外されることとなるが、第八十一条の五の定年に関する事務の調整等の規定は、検察官、大学の教員についても適用されることとなる(金原注:「第八十一条の五」は、最終的には「第八十一条の六」となった)。

(引用終わり)

 以上のとおり、立法者は明確に検察官については国家公務員法上の定年制度は適用除外と考えていたのですから、新設する法第81条の2以降の諸規定の条文を吟味するに際しても、検察官・大学教員には適用されないことを前提として起案するのが当然です。

 先に指摘した法第81条の3第2項による再度(以降)の勤務延長を行う際には、人事院の承認を要件としたのも、検察官と大学教員には適用されないからこそそのような規定を置いたのであって、そのような前提をひっくり返し、第81条の3第1項を検察官に適用しようとしても(それ自体、文理解釈上「あり得ない」解釈ですが)、辻褄が合わない点が各所に出てきます。そして、同条第2項の「人事院の承認」がその典型例なのです。

 せっかく検事長の勤務延長をしても(仮にそんなことができるとしても)、検事総長という明らかに別の官職に異動させることは不可能(内閣は、質問主意書への答弁で「可能」と答えていますが)ということも、そもそも検察官に勤務延長などあり得ないという前提で作られている法体系を、恣意的に「いいとこどりしよう」という無茶苦茶な横紙破りで破壊するからこそ現れる破綻なのです。
 1つ1つの法律は、単独で完結するものではなく、他の諸法令との間に整合性を保ちつつ、緊密な法体系の一部を構成するものです。  今、私たちの目の前で進行している事態は、この法体系そのものを我が儘勝手に粉砕しようとする権力の横暴であり、私たちには、それを座視するのか、それともそれを許さないという声を上げるのか、そのどちらを選ぶのかという問いが突きつけられているのだと思います。

弁護士会による声明)

2020年3月2日

静岡県弁護士会「黒川弘務東京高検検事長の定年延長に強い懸念を表明する会長声明」 2020年3月5日

京都弁護士会「検察庁法に違反する定年延長をした閣議決定に抗議し、撤回を求める会長声明」

2020年3月10日

滋賀弁護士会「検察官に関する不当な人事権の行使に抗議する会長声明」

2020年3月12日

仙台弁護士会「東京高検黒川弘務検事長の定年延長を行った閣議決定を直ちに撤回することを求める会長声明」

2020年3月13日

大阪弁護士会「検事長の定年延長に関する閣議決定の撤回を求める会長声明」

2020年3月13日

千葉県弁護士会「東京高等検察庁検事長の勤務延長に対する会長声明」

(関連法令)

国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)  (定年による退職) 第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。 〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。 一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年 二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年 三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢 ○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。
 (定年による退職の特例) 第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。 ○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。
 (定年退職者等の再任用) 第八十一条の四 任命権者は、第八十一条の二第一項の規定により退職した者若しくは前条の規定により勤務した後退職した者若しくは定年退職日以前に退職した者のうち勤続期間等を考慮してこれらに準ずるものとして人事院規則で定める者(以下「定年退職者等」という。)又は自衛隊法の規定により退職した者であつて定年退職者等に準ずるものとして人事院規則で定める者(次条において「自衛隊法による定年退職者等」という。)を、従前の勤務実績等に基づく選考により、一年を超えない範囲内で任期を定め、常時勤務を要する官職に採用することができる。ただし、その者がその者を採用しようとする官職に係る定年に達していないときは、この限りでない。 ○2 前項の任期又はこの項の規定により更新された任期は、人事院規則の定めるところにより、一年を超えない範囲内で更新することができる。 ○3 前二項の規定による任期については、その末日は、その者が年齢六十五年に達する日以後における最初の三月三十一日以前でなければならない。
第八十一条の五 任命権者は、定年退職者等又は自衛隊法による定年退職者等を、従前の勤務実績等に基づく選考により、一年を超えない範囲内で任期を定め、短時間勤務の官職(当該官職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間が、常時勤務を要する官職でその職務が当該短時間勤務の官職と同種のものを占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間に比し短い時間であるものをいう。第三項において同じ。)に採用することができる。 ○2 前項の規定により採用された職員の任期については、前条第二項及び第三項の規定を準用する。 ○3 短時間勤務の官職については、定年退職者等及び自衛隊法による定年退職者等のうち第八十一条の二第一項及び第二項の規定の適用があるものとした場合の当該官職に係る定年に達した者に限り任用することができるものとする。
  附  則 第十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。
検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号) 第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。
第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。
人事院規則一一―八(11―8)(職員の定年)(昭和五十九年人事院規則一一―八)  (定年に達している者の任用) 第五条 職員(法第八十一条の二第三項に規定する職員を除く。)の採用は、再任用(法第八十一条の四第一項又は第八十一条の五第一項の規定により採用することをいう。次項において同じ。)の場合を除き、採用しようとする者が当該採用に係る官職に係る定年に達しているときには、行うことができない。ただし、かつて職員として任用されていた者のうち、引き続き特別職に属する職、地方公務員の職、沖縄振興開発金融公庫に属する職その他これらに準ずる職で人事院が定めるものに就き、引き続きこれらの職に就いている者の、その者が当該採用に係る官職を占めているものとした場合に定年退職(法第八十一条の二第一項の規定により退職することをいう。以下同じ。)をすることとなる日以前における採用については、この限りでない。 2 職員の他の官職への異動(法第八十一条の二第三項に規定する職員となる異動を除く。)は、その者が当該異動後の官職を占めているものとした場合に定年退職をすることとなる日後には、行うことができない。ただし、法第八十一条の三第一項の規定により引き続いて勤務している職員(以下「勤務延長職員」という。)の法令の改廃による組織の変更等に伴う異動であつて勤務延長(法第八十一条の三第一項の規定により職員を引き続いて勤務させることをいう。以下同じ。)に係る官職の業務と同一の業務を行うことをその職務の主たる内容とする他の官職への異動及び再任用をされている職員としての異動については、この限りでない。
 (勤務延長) 第六条 法第八十一条の三に規定する任命権者には、併任に係る官職の任命権者は含まれないものとする。
第七条 勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の一に該当するときに行うことができる。 一 職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。 二 勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。 三 業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。

第八条 任命権者は、勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合には、あらかじめ職員の同意を得なければならない。
第九条 任命権者は、勤務延長の期限の到来前に当該勤務延長の事由が消滅した場合は、職員の同意を得て、その期限を繰り上げることができる。
第十条 任命権者は、勤務延長を行う場合、勤務延長の期限を延長する場合及び勤務延長の期限を繰り上げる場合において、職員が任命権者を異にする官職に併任されているときは、当該併任に係る官職の任命権者にその旨を通知しなければならない。  

(弁護士・金原徹雄のブログから~東京高等検察庁検事長定年延長問題)

2020年2月8日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない 2020年2月11日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

2020年2月16日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

2020年2月22日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(4)~「国家的悲劇」を象徴する痛ましい姿(小田嶋隆さんのコラムを読む)

2020年2月23日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(5)~立憲デモクラシーの会の声明と文理解釈再び

2020年3月4日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(6)~静岡県弁護士会「黒川弘務東京高検検事長の定年延長に強い懸念を表明する会長声明」を読む

2020年3月6日

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(7)~法律家9団体共同声明を読む

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(5)~立憲デモクラシーの会の声明と文理解釈再び

 2020年2月23日配信(予定)のメルマガ金原No.3447を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(5)~立憲デモクラシーの会の声明と文理解釈再び

 昨日予告したとおり、東京高等検察庁検事長定年延長問題についての(5)として、立憲デモクラシーの会が一昨日(2月21日)公表した「検察官の定年延長問題に関する声明」をご紹介し、併せて、あらためて「検察官の定年を延長することが現行法上可能か?」についての文理解釈を試みることにします。

 その前にまず、過去4回の記事にリンクしておきます。

2020年2月8日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

2020年2月11日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

2020年2月16日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

2020年2月22日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(4)~「国家的悲劇」を象徴する痛ましい姿(小田嶋隆さんのコラムを読む)

 以下に、立憲デモクラシーの会の声明を全文ご紹介しますが、一昨日、国会で発表のための記者会見が開かれ、報道によると(NHKニュースとしんぶん赤旗にリンクしておきます)、山口二郎法政大学教授、石川健治東京大学教授、長谷部恭男早稲田大学教授、高見勝利上智大学名誉教授、西谷修東京外国語大学名誉教授が出席されたそうです。会見の模様を収めた動画はないかと探しているのですが、残念ながら見つけられませんでした。
 立憲デモクラシー講座の動画をよくアップしてくださっているUPLANの三輪祐児さんも、「各種集会などが中止になっていることもあり、しばらく撮影を自粛します。」ということなので、どこも撮影していないのかもしれません。

NHKニュース 2020年2月21日 20時49分
「法の支配 根底から揺るがす」憲法学者ら検事長定年延長批判
(引用開始)
 グループの共同代表で法政大学の山口二郎教授は、21日の会見で「法の安定的な解釈運用や公平な行政の実施に誇りを持っている行政官を、いわば力ずくで屈服させたようなもので、ある種の暴力を感じる」と批判しました。
 また、東京外国語大学西谷修名誉教授は「あらゆる職務義務や倫理に反しても、政府がやっていることを正しいことにしなくてはいけないというのが、今の日本の政治状況だ」と話していました。
(引用終わり)

しんぶん赤旗 2020年2月22日(土)
検察定年延長 法の支配が揺らぐ 立憲デモクラシーの会声明
(抜粋引用開始)
 立憲主義の回復を目指す幅広い研究者でつくる立憲デモクラシーの会が21日、国会内で記者会見し、安倍内閣が法解釈を変えて東京高検検事長の定年を延長した問題について声明を発表しました。
(略)
 会見で、石川健治東京大学教授は「(安倍政権によって)法秩序の連続性の崩壊が行われた。この政権の一貫した姿勢が表れている」と立憲主義破壊を批判しました。山口二郎法政大学教授は「法のねじ曲げはまかり通る。日本は法の支配の国ではない。前近代的専制国家に堕落したと言わざるを得ない」と主張しました。
(引用終わり)

 それでは、立憲デモクラシーの会による「検察官の定年延長問題に関する声明」をご紹介します。

(引用開始)
        検察官の定年延長問題に関する声明(2020年2月21日)

 東京高検の黒川弘務検事長の定年延長問題が論議の的となっている。
 検察庁法は22条で「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する」と定める。黒川氏は「その他の検察官」にあたり、今年2月7日に退官する予定であった。ところが安倍内閣は1月末の閣議で、国家公務員法の規定を根拠に黒川氏の定年延長を決定した。
 ここには大きく分けて二つの問題がある。国家公務員法の規定とは同法81条の3第1項で、任命権者は、職員が定年に達する場合であっても、その職員の「職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは」、定年退職予定日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で、その職員の定年を延長することができるとしている。
 国家公務員法は、国家公務員の身分や職務に関する一般法である。検察官も国家公務員ではあるが、検察庁法が特別に検察官の定年を定めている。いわゆる一般法と特別法の関係にあり、両者の間に齟齬・抵触があるときは、特別法が優越するという考え方が法律学の世界では受け入れられている。国家公務員法81条の3が制定された当時の政府見解でも、検察官にはこの規定は適用されないという考え方が示されていた。
 それにもかかわらず、閣議決定で制定当時の政府見解を変更し、国家公務員法の規定を適用して黒川氏の定年を延長してよいのかというのが第一の問題である。権力の中枢にある者の犯罪をも捜査の対象とする検察官の人事のルールは、国政上の最重要事項の一つであり、全国民を代表する国会の審議・決定を経ずして、単なる閣議決定で決められるべき事柄ではない。
 ときの政権の都合で、こうした重大事項についても、従来の法解釈を自由に変更してかまわないということでは、政権の行動に枠をはめるべき法の支配が根底から揺るがされる。政府の権限は、主権者たる国民からの預かりものである。預かり物として大事に扱い、メンテナンスを施し、次の政権へ、将来の国民へと手渡していかなければならない。その時々の都合で長年の法解釈を変更して恬として恥じるところがないというのでは、国民の法の支配への信頼は崩壊してしまう。
 第二の問題は、百歩譲って検察官にも国家公務員法を適用して定年を延長できるとしても、それが可能な場合は現行法上、きわめて限定されているということである。前述したように、国家公務員法上、定年延長には「十分な理由」が必要である。そうした理由が認められる場合を人事院は、その規則で限定列挙している(人事院規則11-8第7条)。
 第一が、職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするため、後任を容易に得ることができないときで、つまり本人が名人芸的な技能の持ち主であるときである。第二が、勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充できず、業務の遂行に重大な支障が生ずる場合で、持ち場が離島にある場合などがこれにあたる。第三が、業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるときで、特定の研究プロジェクトがじき完了する場合や、切迫する重大案件を処理するため、幹部クラスの職員に一定の区切りがつくまで、当該案件を担当させる場合である[1]。これら三つの場合のいずれかにあたらない限り、国家公務員法に基づく定年の延長は認められない。
 かりに検察官に国家公務員法81条の3が適用されるのだとしても、今回の例がこのいずれにもあたらないことは明らかであろう。問題の検事長は名人芸の持ち主だとも知られておらず、離島に務めてもおらず、特別なプロジェクトを遂行しているとの情報もない。任命権者の裁量的判断で人事院規則に反する定年延長が許されるとなれば、内閣から独立した立場から国家公務員の政治的中立性と計画的人事を支える人事院の機能は骨抜きとなりかねない。つまり、問題となる国家公務員法の規定が適用されるとしても、今回の閣議決定は、人事院規則および国家公務員法に違反している疑いが濃い。
 閣議決定がどのような思惑でなされたのかは、この際、問わないこととしよう。万一不当な動機が背後に隠されていたとしても、権力を握る者はそれにもっともらしい理由をつけて、国民を納得させようとするものである。しかし、今回の閣議決定に関しては、そのもっともらしい理由さえ存在しない。法の支配をないがしろにする現政権の態度があらわになったと言わざるを得ない。

[1]森園幸男・吉田耕三・尾西雅博編『逐条国家公務員法〔全訂版〕』(学陽書房、2015)698-700頁参照。
(引用終わり)

 以上のとおり、この声明は、

閣議決定で制定当時の政府見解を変更し、検察官に国家公務員法の規定を適用して定年を延長できると解釈することが可能か
②仮に検察官にも国家公務員法を適用して定年延長ができるとしても、黒川検事長が、人事院規則11-8第7条が求める勤務延長のための要件を充足していると言えるか

という2つの論点に絞り、そのいずれについても、本件閣議決定は「非」であり、「法の支配をないがしろにする現政権の態度があらわになった」と批判しています。

 もとより、以上2つの論点についての主張に全く異論はなく、日本弁護士連合会を始め、全国のいずれの弁護士会からも、検事長定年延長決定を批判する会長声明が出ていない(準備中の単位会があるという噂は聞きますが)現状の中、立憲デモクラシーの会が率先して声明を出されたことに満腔の敬意を表したいと思います。

 もっとも、最初に通読した際には、後半の論点②で百歩譲る必要があるのか?というのが正直疑問でしたけどね。ただ、人事院規則11-8第7条(末尾に引用しておきます)の要件を吟味するためには「仮に検察官に国家公務員法の定年延長規定が適用されるとしても」と仮定せざるを得ないので、まあ仕方がないかと思います。

 あと、強いて望蜀の言を述べるとすれば、以下のようなことになるでしょうか。
 論点①について、「こうした重大事項についても、従来の法解釈を自由に変更してかまわないということでは、政権の行動に枠をはめるべき法の支配が根底から揺るがされる。」とある部分は、今回の検事長定年延長は、形式的には「法解釈の変更」の範囲内ではあるが、「重大事項」であるので許されない、と主張しているように読めないこともありません。

 もちろん、そのような実質判断も重要でしょうが、重大であろうが、それほど重大でなかろうが、法令の解釈には自ずから限界がある、というのが法解釈学の常識でしょう。
 黒川弘務東京高検検事長の定年を延長した1月31日の閣議決定に多くの法曹が批判の声を上げたのは、「いくら何でも解釈の範囲を超えている。」と思ったからではないでしょうか。少なくとも私はそうでしたし、立場上声を上げにくい検察官や裁判官も、大半の人は同じ意見だと信じたいと思います。

 国家公務員法検察庁法の解釈についての私の意見は、この連載(?)の(1)と(2)に書いたとおりですが、ここで、私自身の頭の整理のために、おさらいをしておこうと思います(タイトルの「文理解釈再び」がこれです)。

 まず前提(その1)として、この問題に関する政府の見解を確認しておきましょう。出典は、2月14日に政府が衆議院予算委員会理事会に提出した「検察官の勤務延長について」と題された文書(日本共産党山添拓参議院議員がTwitterで紹介した画像から引用)です。

(引用開始)
 昭和56年当時、検察官については、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識している。
 他方、検察官も一般職の国家公務員であるから、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にある。したがって、国家公務員法検察庁法の適用関係は、検察庁法に定められている特例の解釈に関わることであり、法務省において整理されるべきものである。
 そこで、検察庁法を所管する法務省において国家公務員法検察庁法との関係を検討したところ、
検察庁法が定める検察官の定年による退職の特例は、定年年齢と退職時期の2点であること
○特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に、定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を越えて勤務の延長を認めるとの勤務延長制度の趣旨は、検察官にも等しく及ぶというべきであること
から、一般職の国家公務員である検察官の勤務延長については、一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈することとし、このような解釈を政府として是としたもの。
(引用終わり)

 前提(その2)は、関係法条の施行日の先後関係です。

検察庁法第22条 昭和22年5月3日
国家公務員法附則第13条 昭和23年7月1日
検察庁法第32条の2 昭和24年6月1日
国家公務員法第81条の2 昭和60年3月31日
国家公務員法第81条の3 昭和60年3月31日
※注 条文は巻末に引用してあります。なお、「再任用」について規定した国家公務員法第81条の4及び第81条の5も、昭和60年3月31日施行です。

 以上を踏まえ、もう一度、検察官の定年を合法的に延長できるのか、考えてみます。

 内閣が、令和2年1月31日の閣議において、63歳の定年を迎える黒川弘務東京高等検察庁検事長の勤務を6か月間延長することとした根拠規定は、昭和56年に追加され、同60年に施行された国家公務員法第81条の3です。
 そもそも、上記改正まで、国家公務員には定年制そのものが存在せず、当然ながら定年延長などあるはずがありませんでした。
 しかし、日本国憲法と同じ昭和22年5月3日に施行された検察庁法第22条は、当初から「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」という定年制を定めていました(定年延長の規定は存在せず)。

 特別法と一般法とに矛盾がある場合、特別法の規定が優先されるとの原理は、法曹界以外にも(今回の件を契機に?)広く知られるところとなったと思いますが、法解釈の場面では、後法優先原理というものもあります。
 制定・施行に前後関係のある法令間で内容的に矛盾がある場合には、後法を優先するということなのですが、前法が後法の特別法たる地位にあれば、特別法優先原理の方が適用されることになります。
 このあたりの説明は、園田寿甲南大学法科大学院教授の論考「検事長定年延長問題は、なぜこんなにも紛糾しているのか」をご参照ください。
 その中で園田教授も指摘されている「法令の制定や改正においては、既存の法令の内容を精査して、矛盾抵触する箇所があれば廃止や改正が行われますので、この後法優先原理が問題になる場面は実際上はほとんどありません。」という点が大変重要です。
 私も大学の教養課程の「法学」で後法優先原理という概念を学んで以降、弁護士としての実務についてからも、この原理を適用しなければ適切な法解釈ができないというような場面に遭遇したことは一度もありませんでした(記憶力が減退しつつあるのでもしかしたらあったのかもしれませんが、まあほとんどない)。

 山尾志桜里衆議院議員立憲民主党)が、2月10日の予算委委員会での質問に先立ち、国家公務員法に定年制を導入した昭和56年当時の国会審議状況を知るため、会議録をしらみつぶしに読んだそうですが、それは、上記の「法令の制定や改正においては、既存の法令の内容を精査して、矛盾抵触する箇所があれば廃止や改正が行われ」るという実務を前提として、どのような意図の下にどういう「改正」が行われたのか、すなわち「立法者意思」を知ることが、すなわち法令相互間の関係(今回の場合でいえば検察庁法と国家公務員法)を正しく解釈するための不可欠の前提であるからです。

 山尾議員が2月10日の衆院予算委員会で指摘した昭和56年当時の政府委員(人事院任用局長)の答弁をもう一度確認しておきましょう。

第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日
(引用開始)
○斧誠之助政府委員(人事院事務総局任用局長) 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(引用終わり)

 さて、いよいよ文理解釈に入りましょうか。ここまで書いたことが条文を文理に即して解釈する前提となる事実です。
 国家公務員法第89条の3第1項は、以下のように規定しています。

「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」

 上記条項が検察官に適用可能か否かを判断する上で、最も重要な箇所は下線を引いた部分、すなわち、「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」と「同項の規定にかかわらず」の2箇所です。

  まず、「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」という文言をどう解釈すべきでしょうか?
 前条(第81条の2)第1項は以下のような規定です。

「職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。」

 そして、同条2項は、(一部の例外を除き)「前項の定年は、年齢六十年とする。」としているのですから、同条第1項は、要するに、職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、満60歳に達した時は、一定の基準日(定年退職日)に退職することを定めた規定ということになります。

 そこで、もう一度、第81条の3第1項に戻ってみましょう。これは2月10日の衆院予算委員会山尾志桜里議員も同趣旨のことを述べていましたが、上記引用条文の下線部を削除しても、この条文は意味が通じるのです。

「任命権者は、定年に達した職員が、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」

 いかがですか。これでちゃんと意味が通じるでしょう。
 それでは、立法者は、なぜ「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」「同項の規定にかかわらず」という語句を挿入したのでしょうか。
 その理由を知るためにこそ、会議録というものが作られるのです。
 先に前提として引用した斧誠之助人事院事務総局任用局長の答弁を思い出してみましょう。

「検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。」

 園田寿甲南大学法科大学院教授が「法令の制定や改正においては、既存の法令の内容を精査して、矛盾抵触する箇所があれば廃止や改正が行われますので」という部分も思い出してください。
 国家公務員法に定年制度に関する規定(第81条の2~第81条の6)を新設するにあたり、立法者(主務官庁は人事院でしょう)が、34年も先行して独自の定年制度を設けてきた検察庁法(第22条)との間に矛盾抵触が生じぬように配慮するのは当然のことです。
 第81条の3第1項に「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」や「同項の規定にかかわらず」という文言がなかったとしても、検察官の定年には検察庁法が適用され、国家公務員法の定年制に関する規定は適用されないという解釈は十分可能であるとはいえ、後日、紛議の起こらぬよう、他の法律で別途独自の定年制を定めている検察官や(当時の)国立大学教官には適用しないという趣旨を明確にするために、第81条の2第1項に「法律に別段の定めのある場合を除き」と明示した上で、第81条の3第1項に重ねて「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」「同項の規定にかかわらず」との文言を挿入することにより、検察官や大学教官の定年延長は認めないという趣旨を念押ししたものと解すべきであり、斧任用局長の上記答弁は、まさにその趣旨を明言したものなのです。

 以上のとおり、国家公務員法第81条の3第1項で定年延長が可能なのは、同法第81条の2第1項の規定に基づき退職すべきこととなる場合に限定されており、検察官は、同法ではなく、検察庁法第22条の規定に基づいて退職するのですから(このことは、2月10日の山尾議員の質問に対する答弁で森雅子法相も認めていました)、定年延長の規定は適用できません。

 以上が、ごくまっとうな文理解釈というものです。
 それでは、政府の統一見解では、国家公務員法第81条の2第1項や第81条の3第1項の規定をどう解釈しているのでしょうか。一部推測も混じりますが(ここまでの答弁は森法相もしていないと思う)、まず以下のようなことではないでしょうか。

1 国家公務員法第81条の2第1項は、特例がない限り、検察官にも適用される。
2 同項にいう「法律に別段の定めのある場合を除き」とは、同項が定める、①定年に達すれば退職するということ、及び②定年退職日(退職時期)について、同項とは異なる定めをする法律があればそれによるという趣旨である。
3 検察庁法第22条は、定年年齢と退職時期の2点についての特例を定めた規定である。
4 検察官は、定年年齢と退職時期は検察官法第22条に従うが、定年により退職すること自体の根拠は国家公務員法第81条の2第1項であり、検察庁法には検察官の定年延長(勤務延長)に関する規定はないので、一般法たる国家公務員法第81条の3が適用される。

 これをしも「解釈変更」と言うべきか?
 前提となる1自体が成り立たないことは、昭和56年当時の政府委員(人事院任用局長)答弁からも明らかですし、2、3も、まことに都合の良い「独自の見解」ということで、判決書などでは一顧だにされない屁理屈です。
 これは、もはや「解釈」の域を超えていると言わざるを得ないというのが、私の結論です。
 週明けからの国会に政府からどんな文書が出てこようとも、本連載(3)のタイトルのとおり、論点は既に出そろっており、結論は変わりようがありませんん。

(付言)
 なお、政府の説明によれば、1月22日に法務省人事院に検察官の定年延長について協議を申し入れ、同月24日に人事院が異論は述べないとの(日付のない)文書回答をしたことになっていますが、2月19日の衆議院予算委員会における山尾志桜里議員の質問に対し、松尾恵美子人事院給与局長が以下のように答弁していることはもう少し注目されても良いのかなと思います。

衆議院インターネット審議中継 2020年2月19日 (水) 予算委員会
6時間47分57秒~
松尾恵美子人事院給与局長 1月24日に法務省の方にお出しした書面におきまして、再任用につきましては、フルタイム再任用と短時間再任用とにかかわらず、再任用は、検察官の職務の特殊性に鑑み適用になじまないことから、国家公務員法第81条の4及び第81条の5は適用されないと解されるとすべきであるという見解を付してお返しをしているところでございます。

 「1月24日に」そのような文書回答をしたのか否かの詮索はさておくとして、国家公務員の再任用を定めた国家公務員法第81条の4(フルタイム)及び第81条の5(短時間勤務)の規定が「検察官の職務の特殊性に鑑み」、検察官には適用されないというのが人事院の見解であることは分かりました。
 安倍内閣全体として、この人事院見解を是としているのか否かは不明です。・・・というか、前提(その1)でご紹介した、なぜ検察官の定年延長が可能なのかについての政府統一見解と上記人事院見解は矛盾するとしか考えられません。

 政府は、特別法である「検察庁法が定める検察官の定年による退職の特例は、定年年齢と退職時期の2点であること」とした上で、「勤務延長制度の趣旨は、検察官にも等しく及ぶというべきであること」から、勤務延長については、一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたというのですから、特別法たる検察庁法に再任用についての規定がない以上、一般法たる国家公務員法第81条の4及び第81条の5が適用されるとしなければ辻褄が合わなくなるでしょう。
 もしも、検察官に第81条の3(定年延長)は適用されるが、第81条の4と第81条の5(再任用)は適用されないとするのであれば、定年延長の「趣旨は、検察官にも等しく及ぶというべきである」が、再任用の趣旨には及ばないというべきであるということになってしまい、法的安定性など皆無の「どうとでも解釈できる」状態を認めることになり、到底「解釈」の名に値しません。

 そもそも、検察官に、国家公務員法の定年延長の規定は適用されるが、再任用の規定は適用されないという人事院の(2月19日以降の)見解自体、全く整合性のとれない解釈です。「検察官の職務の特殊性に鑑み適用になじまない」のは、再任用に限ったことではなく、定年延長もそうでしょう(従来ずっとそう解釈してきたのだし)。
 現在の人事院総裁は、元仙台高等裁判所長官であった一宮なほみ氏ですが、元法曹としての矜持を示していただきたいと切に祈ります。


(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

 (定年退職者等の再任用)
第八十一条の四 任命権者は、第八十一条の二第一項の規定により退職した者若しくは前条の規定により勤務した後退職した者若しくは定年退職日以前に退職した者のうち勤続期間等を考慮してこれらに準ずるものとして人事院規則で定める者(以下「定年退職者等」という。)又は自衛隊法の規定により退職した者であつて定年退職者等に準ずるものとして人事院規則で定める者(次条において「自衛隊法による定年退職者等」という。)を、従前の勤務実績等に基づく選考により、一年を超えない範囲内で任期を定め、常時勤務を要する官職に採用することができる。ただし、その者がその者を採用しようとする官職に係る定年に達していないときは、この限りでない。
○2 前項の任期又はこの項の規定により更新された任期は、人事院規則の定めるところにより、一年を超えない範囲内で更新することができる。
○3 前二項の規定による任期については、その末日は、その者が年齢六十五年に達する日以後における最初の三月三十一日以前でなければならない。

第八十一条の五 任命権者は、定年退職者等又は自衛隊法による定年退職者等を、従前の勤務実績等に基づく選考により、一年を超えない範囲内で任期を定め、短時間勤務の官職(当該官職を占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間が、常時勤務を要する官職でその職務が当該短時間勤務の官職と同種のものを占める職員の一週間当たりの通常の勤務時間に比し短い時間であるものをいう。第三項において同じ。)に採用することができる。
○2 前項の規定により採用された職員の任期については、前条第二項及び第三項の規定を準用する。
○3 短時間勤務の官職については、定年退職者等及び自衛隊法による定年退職者等のうち第八十一条の二第一項及び第二項の規定の適用があるものとした場合の当該官職に係る定年に達した者に限り任用することができるものとする。

  附  則
十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

人事院規則一一―八(11―8)(職員の定年)(昭和五十九年人事院規則一一―八)
 (勤務延長)
第六条 法第八十一条の三に規定する任命権者には、併任に係る官職の任命権者は含まれないものとする。
第七条 勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の一に該当するときに行うことができる。
一 職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。
二 勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。
三 業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。
第八条 任命権者は、勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合には、あらかじめ職員の同意を得なければならない。
第九条 任命権者は、勤務延長の期限の到来前に当該勤務延長の事由が消滅した場合は、職員の同意を得て、その期限を繰り上げることができる。
第十条 任命権者は、勤務延長を行う場合、勤務延長の期限を延長する場合及び勤務延長の期限を繰り上げる場合において、職員が任命権者を異にする官職に併任されているときは、当該併任に係る官職の任命権者にその旨を通知しなければならない。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(4)~「国家的悲劇」を象徴する痛ましい姿(小田嶋隆さんのコラムを読む)

 2020222日配信(予定)のメルマガ金原No.3446を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(4)~「国家的悲劇」を象徴する痛ましい姿(小田嶋隆さんのコラムを読む)

 最初から意図した訳ではありませんが、東京高等検察庁検事長定年延長問題をこのブログで取り上げるのも今日で4回目となりました。
 過去3回は以下のとおりです。

2020年2月8日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

2020年2月11日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

2020年2月16日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

 前回は、2月12日の衆議院予算委員会において、後藤祐一議員(国民民主党)の質問に対し、人事院の松尾恵美子給与局長が、人事院としては、国家公務員法に定年制を導入した際には、昭和56年4月28日衆議院内閣委員会での人事院任用局長の答弁の通り、「検察官については、国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識をしており」「現在までも特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き続いている(「引き継いでいる」?)ところでございます」と答弁したのに対し、翌2月13日の衆議院本会議において、安倍晋三首相が、検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていたことを認めながら、「他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家の公務員法が、国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。」と、「今般」解釈を変更したと答弁したというところまでをフォローした上で、「論点はでそろった」と判断し、現状を踏まえて書かれた、渡辺輝人弁護士、園田寿甲南大学法科大学院教授、海渡雄一弁護士の論考をご紹介しました。

 そして今週の動きですが、インターネット審議中継で詳細に追いかけるだけの時間的余裕がないため、インターンネットで無料公開されている報道記事を3本引用するにとどめたいと思います。

時事ドットコムニュース 202002192005
人事院局長、異例の答弁修正 検事長定年延長で審議紛糾―衆院予算委
(引用開始)
 黒川弘務東京高検検事長の定年延長をめぐり、人事院の松尾恵美子給与局長は19日の衆院予算委員会で、異例の答弁修正を行った。検察官には国家公務員法の定年延長規定が適用されないとした政府見解を「現在まで引き継いでいる」としてきたが、一転して引き継いだのは法務省から相談を受けるまでと変更。野党は反発し、審議はたびたび紛糾した。
 立憲民主党山尾志桜里氏は、安倍内閣が従来の政府見解を変更し、定年延長に関する規定は検察官にも適用されると決めたのはいつかとただした。
 森雅子法相は、1月17~21日に内閣法制局と、同22~24日に人事院とそれぞれ協議し、双方から「異論はない」との回答を得たため、同29日に黒川氏の定年延長を閣議に諮ったと説明した。(金原注:黒川検事長の定年延長を決定したのは1月31日開催の定例閣議
 ところが、2月12日の衆院予算委では、定年延長規定が検察官には適用されないとした1981年の政府見解について、松尾氏は「現在まで特に議論はなく、解釈は引き継いでいる」と明言しており、矛盾が生じた。
 山尾氏がこの点をただすと、松尾氏は「『現在』という言葉の使い方が不正確だった」と述べ、12日の答弁を撤回。反発した野党が退席し、審議は一時中断した。
 再開後、松尾氏は「現在まで」の部分を「1月22日に法務省から相談があるまでは」に修正。
(略)
(引用終わり)

(参考動画)
衆議院インターネット審議中継 2020年2月19日 (水) 予算委員会

中日新聞 2020222日 朝刊
解釈変更文書、正式決裁なし 検事長定年延長、法相答弁矛盾
(引用開始)
 法務省人事院は二十一日の衆院予算委員会理事会で、黒川弘務東京高検検事長の定年延長を巡る法解釈変更の経緯を示した文書に関し、正式な決裁を取っていないと説明した。森雅子法相は二十日の予算委で「部内で必要な決裁を取っている」と答弁しており、説明の矛盾が露呈。野党は森氏が虚偽答弁をした疑いがあるとの見方を強め、「進退に関わる」(立憲民主党安住淳国対委員長)として追及する方針だ。
 法務省は二十日に示した文書に日付がなかったとの指摘を受け、二十一日の理事会で「一月二十二日人事院へ交付」と追記した文書を提出。野党は「後付け」で日付を入れたとして反発した。
 立民の大串博志幹事長代理が記者団に理事会の内容を説明した。法務省人事院は「日時を証拠付けられるペーパーはない」とも報告した。大串氏は一連の対応を「国会答弁に合わせて注釈を付けただけで、証明するものがないと明らかになった。疑念がさらに強まった」と批判した。
 政府は一月二十四日に解釈を変更したと主張するが野党は国会答弁と矛盾点があるとして追及。理事会では、人事院が提出していた法務省への返答文書についても、法務省の注釈として「一月二十四日受領」と追記された文書が示された。
 法務省の文書では、黒川氏の定年延長を可能とした国家公務員法の勤務延長規定と、検事総長以外の検察官の定年を六十三歳と規定した検察庁法の関係について「検察官にも国家公務員法の規定が適用されると解するのが自然だ」と妥当性を主張。人事院文書は法務省の解釈変更を追認した。
(引用終わり)

東京新聞 2020222日 朝刊
法解釈変更記載なし 検事長定年延長 閣議決定前の政府文書
(引用開始)
 政府が黒川弘務東京高検検事長の定年を延長する閣議決定に先立ち、国家公務員法の解釈を変更した経緯を示す証拠として国会に提出した文書に、法解釈を見直す記載のないことが分かった。検察官は定年延長制の対象外とした一九八一年の政府見解にも触れていない。解釈変更は定年延長の閣議決定後だった疑いが強まった。
 政府は二十日と二十一日にかけて、定年延長を決める以前の検討状況を記録した文書計三通を衆院予算委員会の理事会に提出。法務省が一月に内閣法制局人事院にそれぞれ交付した文書は「定年延長制度の検察官への適用について」と題し、八五年の改正国家公務員法の施行後は、定年延長制が「検察官にも適用されると解するのが自然である」と結論づけた。
 内閣法制局の「応接録」と題した文書には、一月十七~二十一日にかけて法務省から照会を受け「意見がない旨回答した」と了承したことを明記した。人事院は翌二十二日に法務省の文書を受け取り、二日後に「特に異論を申し上げない」と文書で回答した。
 三通の文書には、法解釈の「変更」「見直し」といった表現はなく、解釈を改めたと理解できる記載もない。政府は定年延長は八五年当時から可能だったと解釈し、黒川氏の定年延長を決めたことになる。
 安倍晋三首相は閣議決定の二週間後の二月十三日に政府として初めて法解釈変更に言及。政府はその三日前に野党から八一年見解との整合性をただされ、答弁が行き詰まっていた。(清水俊介)
(引用終わり)

 今朝の東京新聞の記事で紹介されている、政府が衆議院予算委員会理事会に提出したという「定年延長を決める以前の検討状況を記録した文書計三通」を是非読んでみたいものだと思ったのですが、探し当てることができませんでした。
 その代わり(?)、日本共産党の山添拓参議院議員が2月14日のTwitterで公開した「衆院予算委に提出された文責者の記載もない政府文書」というのを書き写しておきましょう。

(引用開始)
                 検察官の勤務延長について
 昭和56年当時、検察官については、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識している。
 他方、検察官も一般職の国家公務員であるから、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にある。したがって、国家公務員法検察庁法の適用関係は、検察庁法に定められている特例の解釈に関わることであり、法務省において整理されるべきものである。
 そこで、検察庁法を所管する法務省において国家公務員法検察庁法との関係を検討したところ、
検察庁法が定める検察官の定年による退職の特例は、定年年齢と退職時期の2点であること
○特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に、定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を越えて勤務の延長を認めるとの勤務延長制度の趣旨は、検察官にも等しく及ぶというべきであること
から、一般職の国家公務員である検察官の勤務延長については、一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈することとし、このような解釈を政府として是としたもの。
(引用終わり)

 20日から21日にかけて、衆議院予算委員会理事会に提出されたという「文書」3通にしても、上記文書の「そこで」以下の文章と同工異曲なのでしょう(多分)。
 森雅子法務大臣の2月3日以降の国会(衆議院予算委員会)での答弁は、ひたすらこの「そこで」以下を繰り返すことに終始している訳で、これを一言で評するとすれば、「痛ましい」と言うしかありません。

 そして、森法相以上に「痛ましい」のが松尾恵美子人事院給与局長です。衆議院インターネット審議中継での松尾局長の姿は正視に耐えません。茂木敏充外相に犬のごとく追い払われる衝撃的な映像とともに、松尾局長は、今回の検事長定年延長問題による「国家的悲劇」を象徴する人物に、心ならずもなってしまったと言わねばなりません。

 そのことを鋭敏にも感じ取ったコラムニストの小田嶋隆さんが、以下のようなコラムを書かれており、心から敬服しました。全文無料で公開されていますので、是非ご一読ください。そして、周りの人にもお薦めください。

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」~世間に転がる意味不明 2020221
10人の部下を持つ人間がウソをつくと、10人のウソつきが誕生する
(引用開始)
(略)
 個人的に、このニュースは、現政権が「人間」を道具のように扱うやりざまのひとつの典型例だと思っているのだが、より専門的な見地から、今回の人事を、三権分立の原則を脅かすとてつもない暴挙だと評している人たちもいる。
 当稿では、そこのところには触れない。
 理由は、私が法の支配や三権分立に関して専門的な知識を持っていないからでもあるのだが、それ以上に、個人的な関心に訴えたのが、「ボスと下っ端の間のやりとり」という、より卑近なテーマだったという事情に依拠している。
(略)
 松尾局長は、山尾氏の
 「なぜ212日の時点で解釈変更に言及せず、解釈を引き継いでいると説明したのか」という追い打ちの質問に対して
 「つい言い間違えた」
と答えている。
 これには驚いた。あんまりびっくりしたので、この時のやりとりは、わざわざネット動画を探しに行って確認した。
 と、松尾局長は、本当に
 「つい言い間違えた」
と言っている。なんと。本当に、生身の人間が、国会で「つい言い間違えた」と言わされていたのである。
 私自身、こんな国会答弁を聞いたのは初めてだ。
 見ていて気の毒になった。いや、動画を見てもらえればわかる。彼女の表情はまったく生気を失っている。これほどまでにいたましい人間の振る舞い方を見て、心を痛めない人間はそんなにいないはずだ。
(略)
 本当のことを言ってはいけない立場に立たされた時、正直な人間は、正体を失う。自分自身をさえ失う。
 彼女は、自分が従事している仕事の職業倫理に反する回答を求められ、それを衆人環視の中で自分の口から吐き出さなければならなかった。
 とすれば、ロボットみたいな無表情で機械的な発話を繰り返すか、でなければ、3歳児の如き無垢を発揮するほかに対処のしようがないではないか。
(略)
 おそらく、公衆の面前であからさまなウソをついてしまった人間のうちの何割かは、二度とそれ以前の自分に戻れなくなっているはずだ。
 意に沿わぬウソをつかされた人間は、精神的に死んでしまう。
 中には本当に死んでしまう人もいる。
 松尾さんには、ぜひ立ち直ってもらいたいと思っている。
(略)
 ただ、上の立場の人間がウソを押し通す時、その下で働く人間は、ボスのウソをカバーする立場に追い込まれる。これは、当事者にとっては、非常に苦しいミッションだ。
 安倍さんは、その、とてつもなく不毛で罪深い仕事を、自分の足元にいる非常に広範囲の人間たちに強要している。私の個人的な考えでは、安倍政権の罪は、ウソをついたことそのものよりも、部下にウソをつかせ続けてきたことの中にあると思っている。
 ウソをつかされた人間は、死んでしまう。
 自分のウソを糊塗するためにウソをつくのもそれはそれでキツい仕事だが、他人が勝手に言い放ったウソの尻拭いのために自分が人前でウソをつかねばならない立場に追い込まれることは、誇り高い人間にとっては、死を意味している。
(略)
 うちの国の政権中枢に連なる人々は、これまで、財務省の官僚に不自然な答弁を強要し、公文書を改ざんさせ、ホテルの担当者に沈黙を求め、人事院の官僚に答弁を撤回させてきた。
 一つのウソを守るために、10のウソが必要になるというのは、よく言われる話で、実際、時系列に沿って考えればその通りなのだと思う。
 もう一つウソという同じ言葉について、権力勾配に沿って考える見方を推奨しておきたい。
 10人の部下を持つ人間がウソをつくと、10人のウソつきが誕生する。
 安倍首相ご自身は、あるいは、ウソをついている自覚を持っていないのかもしれない。
 しかし、ご自身が何百人何千人のウソつきを生産していることは、ぜひ自覚してもらいたい。ついでに、その何百人何千人のウソつきたちの心が、かなりの度合いで死んでいることも、できれば思い出してあげてほしい。ぜひ。
(引用終わり)

 実は、今日このブログを書き始めた時には、昨日(2月21日)立憲デモクラシーの会が公表した「検察官の定年延長問題に関する声明」をご紹介するつもりだったのですが、この1週間の注目すべき動きを簡単に紹介しようと思っているうちに、自然と松尾恵美子人事院給与局長に焦点が合ってしまい、そうすると、小田嶋隆さんのコラムをご紹介しない訳にはいかないということで、ここまでで相当長くなってしまいました。
 そこで、立憲デモクラシーの会による声明のご紹介は明日(多分書けると思います)に回すことにしました。


(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

 2020年2月16日配信(予定)のメルマガ金原No.3445を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(3)~論点は出そろった(渡辺輝人氏、園田寿氏、海渡雄一氏の論考を読んで)

 私は、東京高等検察庁検事長定年延長問題について、このブログで過去2回、自らの考えをまとめるための(頭の整理をするための)文章を書きました。

2020年2月8日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

2020年2月11日
東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

 そして、その後の事態の推移を踏まえ、昨日(15日)・今日(16日)の休日を利用して、以上の続きを書かねばならないかなと思っていました。
 そう考えた主な理由は以下のようなものでした。

 2月10日の衆議院予算委員会において、山尾志桜里議員(立憲民主党)が質問に立ち、一般職国家公務員に定年制度(「定年による退職の特例」としての勤務延長を含む)を導入するための国家公務員法改正案が審議されていた第94回国会(衆議院内閣委員会)において、当時の立法担当者が、既に別の法律で定年が定められている検察官には、国家公務員法改正案に定める定年制度(現在の第81条の2以下の諸規定)は適用されないということを明言していたことを明らかにしたところまでは、2月11日のブログでご紹介しました。

第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日
(引用開始)
○斧誠之助政府委員(人事院事務総局任用局長) 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(引用終わり)

 その後の「事態の推移」の中で、私が「ブログに続きを書かなければ」と思った主な「事態」は以下の2点です。

○2月12日の衆議院予算委員会における後藤祐一議員(国民民主党)の質問に対し、人事院の給与局長が、人事院として、昭和56年4月28日答弁の見解は変更していない旨答弁した。

○2月13日の衆議院本会議において、安倍晋三首相が、昭和56年当時の政府見解(検察官に国家公務員法の定年制は適用されないという)の存在を認めながら、今般、検察官に国家公務員法の規定を適用できると解釈するに至ったと答弁した。

 以上の答弁は、衆議院インターネット審議中継で確認できます。以下に、その書き起こしを掲載しますが、人事院給与局長の答弁については、後にご紹介する渡辺輝人弁護士の論考「東京高検検事長の定年延長はやはり違法」(2月14日)において、渡辺弁護士が文字起こしされたものを引用させていただき、動画を視聴しながら、一部修正を加えたものであることをお断りします。

 まず、はじめの松尾恵美子人事院給与局長の答弁です。

衆議院インターネット審議中継 2020年2月12日 (水) 予算委員会
問:過去の国会答弁の「定年制」に法81条の3の定年延長の規定が含まれるか
3時間02分30秒~
松尾恵美子人事院給与局長  お答え申し上げます。人事院といたしましては、国家公務員法に定年制を導入した際は、委員ご指摘の昭和56年4月28日の答弁の通り、検察官については、国家公務員法の勤務延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと認識をしております。
問:現在もその解釈は変わりないか
3時間04分26秒~
松尾人事院給与局長  お答え申し上げます。先ほどご答弁した通り制定当時に際してはそういう解釈でございまして、えー、現在までも特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き続いているところでございますが、他方、検察官も一般職の国家公務員でございますので、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。従いまして、国家公務員法検察庁法の適用関係は検察庁法に定められている特例の解釈に関わることでございまして、法務省において適切に整理されるべきものというふうに考えております。
※金原注 後半の答弁で最も重要な部分、渡辺輝人弁護士の書き起こしでは「現在までもそれについて特に議論はございませんでしたので、同じ解釈を続いている訳ですが」となっていましたが、何度も聞き直した結果、「現在までも特にそれについて議論はございませんでしたので、同じ解釈を引き続いているところでございますが」と修正しました。文脈から考えると、「同じ解釈を引き継いでいる」とした方がスッキリするのですが、どうもそうは聞こえないので。

 次に、2月13日の衆議院本会議における安倍首相の答弁です。

衆議院インターネット審議中継 2020年2月13日 (木) 本会議
1時間35分18秒~
まず、幹部公務員の人事については、内閣人事局による一元管理の下、常に適材適所で行っており、内閣人事局制度を悪用し、恣意的人事を行ってきたとのご指摘は全くあたりません。検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知しております。他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については、一般法たる国家の公務員法が、国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。ご指摘の黒川東京高検検事長の勤務延長については、検察庁の業務遂行上の必要性につき、検察庁を所管する法務大臣からの閣議整理により閣議決定されたものであり、何ら問題はないものと考えております。
※金原注 問題の黒川検事長の勤務延長を決定したという1月31日の定例閣議については、2月16日現在、まだ首相官邸ホームページにアップされていません(いつものペースに比べて遅くないですか?)。

 当初の構想では、以上の「事態」を踏まえ、「検察官に国家公務員法を適用して定年延長することが法的に可能なのか?」という問題についての3本目の記事を書くつもりでした。
 国家公務員法上の定年制度(くどいようですが、「定年による退職の特例」としての勤務延長を含む)は検察官には適用されないという(当たり前のというか、それ以外に解釈のしようがない)解釈を人事院がとり続けている中で、一内閣が閣議決定において、「検察官の勤務延長については、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。」って「一体何なんだ、これは」ということを書かねばと思ったのですが、それを書いたところで、ボヤキか鬱憤晴らしにしかならない可能性が高いなという懸念もありました。

 そう考えていた14日から15日にかけて、よくぞ書いてくださったという論考が3本、あいついでネット上に出現しましたので、これらの論考を1人でも多くの方に読んでもらえるように「拡散」に務めることが大事と思い至りました。
 その3本の論考というのは以下のとおりです。

2020年2月14日(金)12:04
渡辺輝人氏(弁護士)「東京高検検事長の定年延長はやはり違法」

2020年2月15日(土)10:26
園田寿氏(甲南大学法科大学院教授、弁護士)「検事長定年延長問題は、なぜこんなにも紛糾しているのか」

2025年2月15日(土)11:21
海渡雄一氏(弁護士)「法務大臣と検事総長が持たなければならない緊張関係 伊藤栄樹「新版逐条解説検察庁法」を読む」(Facebook)

 渡辺輝人(わたなべ・てるひと)弁護士の論考は、以下の5つの項目につき、帝国議会や国会における会議録など、立法者意思を知るための基礎資料を豊富に引用し、安倍政権による解釈が「非」であり、黒川検事長の定年延長を行った閣議決定は違法はであることを論理的に立証したものであり、現時点での「決定版」だと思います。

(「東京高検検事長の定年延長はやはり違法」の構成)
1 検察庁法の退官(定年)の規定は例外的延長制度を置かない趣旨
2 国家公務員法検察庁法の特例の関係
3 検察官には国家公務員法の定年制度は適用されないこと
4 今国会で示された「解釈の変更」
5 安倍政権による「解釈の変更」は成り立たない

 渡辺弁護士は、論考の末尾において、国家公務員法第1条の規定を引用しながら以下のように述べておられます。

(引用開始)
 国家公務員法1条3項は「何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令に違反し、又は違反を企て若しくは共謀してはならない。又、何人も、故意に、この法律又はこの法律に基づく命令の施行に関し、虚偽行為をなし、若しくはなそうと企て、又はその施行を妨げてはならない。」と明記しています。内閣が法律違反をする行為はそもそも許されませんが、憲法15条1項の「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。」、2項の「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」という規定に由来する国家公務員法を内閣が勝手に解釈変更することは、なおさら許されないでしょう。
(引用終わり)

 次に、園田寿(そのだ・ひさし)教授の論考は、「検事長の定年延長問題が紛糾しています。この混乱の背景にはさまざまな問題がありますが、ここでは法の解釈運用という技術的な観点から問題を整理したいと思います。」という意図をもって執筆されたものであり、とりわけ、、法解釈の技術として最も重要な「後法優先原理」と「特別法優先原理」が分かりやすく解説されていますので、前記渡辺弁護士の論考と併せ読めば、一層理解が進むものと思います。
 なお、園田教授は、その論考の末尾で以下のように述べられています。

(引用開始)
 報道によると、事前に「内閣法制局人事院とも相談し異論はないとの回答を得ている」とのことですが、正直言って驚きを禁じえません。このような極めて軽い、説得性のかけらもない理由で、閣議決定によって数十年の法的安定性を覆すことができるということに、日本という国が足元からグラグラと揺れるような恐怖を感じました。
(引用終わり)

 3つめの海渡雄一(かいど・ゆういち)弁護士の論考は、前二者とは趣を異にし、法務大臣による検事総長に対する指揮権の問題にフォーカスし、検察官のトップたる検事総長に求められる資質を、元検事総長であった伊藤栄樹氏(1925―1988)の著書『新版 逐条解説 検察庁法』(良書普及会)を読み解くことによって明らかにしようとしたものです。
 伊藤氏が検事総長に在任中の昭和61年(1986年)に刊行された新版(これが最後の版となった)において、法務大臣による指揮権発動についてどのように書いているか、誰しも興味深いものだと思います。海渡弁護士の文章からの孫引きですが、引用してみます。

(引用開始)
 本書旧版において、わたくしは、「しかし、このような事実上の措置にもかかわらず、不幸にして、終局的に相互の意見の対立をみた場合においては、検事総長のとるべき態度として、(1)不服ながらも法務大臣の指揮に従うか、(2)指揮に従わず、自らこれに反する取扱いをし、または、部下検察官に対して法務大臣の指揮に反する指揮をするか、(3)官職を辞するか、の三つが考えられる。(1)の態度をとる場合、ことがらの性質上、国民の前に、法務大臣の指揮を不当と考えるゆえんを発表して、検察の態度を明らかにすることは、許されるものと考える。また、(2)の態度をとる場合、法務大臣は、検事総長の任免権者である内閣に対してその懲戒を申し出て、内閣が懲戒権を行使することとなろう(国家公務員法第八二条)が、もし、検事総長がその懲戒を不服とすれば、国家公務員法所定の公開の口頭審理の手続(同法第九一条)等が行なわれることとなろう。これを要するに、検事総長が(1)(2)(3)いずれの態度をとったとしても、ことは、当然政治問題化し、国民の批判にさらされることとなろう。」と述べた。検事総長の対処ぶりとして考えられるのは、こんなところであろう。
(引用終わり)

※参考条文
検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第十四条 法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。

 以上の伊藤栄樹元検事総長の見解などを踏まえ、海渡弁護士が論考の「まとめ」として主張された部分をご紹介しましょう。

(引用開始)
 伊藤氏が、半生をかけて考え抜いた、法務大臣検事総長の関係について、みてきた。結局のところ、検察の独立性を守るのは最終的には指揮権発動を受ける可能性のある検事総長の識見、人物、独立不羈の精神に帰着することがわかった。だからこそ、検察組織は検事総長に清廉で権力に阿らない人材を配し、政治権力による検察権に対する不当な介入の防波堤を築こうとしてきた。そして、歴代自民党政権も、検事総長人事は聖域として、前任の検事総長の推薦をそのまま受け容れてきたのである。
 森法務大臣と内閣によって任期を延長してもらい、異例な形で検事総長になることが想定されている黒川検事長と森法務大臣あるいは官邸の間には、検察庁法が想定していたような厳しい緊張関係がないことは明らかだ。黒川氏が検事総長に任命されることは検察組織の独立性の根幹を脅かす危機をもたらすだろう。そして、それは政治権力にある者がどんな違法を繰り返しても、裁かれることのない法体制を招いてしまう。なんとしても、そのような事態は食い止めなければならない。
(引用終わり)

 以上、一昨日及び昨日公表された3つの論考をご紹介しました。法律の解釈という、法律家ならざる一般市民にとって、「縁遠い」とか「難しい」と思われるテーマについて書かれたものであり、分かりにくい点もあるかと思いますが、是非辛抱して読み通していただきたいと思います。
 3つの論考は全て筋の通った論理的な文章ですから、理解できないはずはありません。

 そして、読み通していただければ、3人の執筆者の皆さんの、「これ(政府による違法な措置)を黙視はできない」「許してはならない」という法律家としての使命感をひしひしと感じていただけると確信します。
 ご一読の上、是非周りの方にも広めてくださるよう、切にお願いします。


(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。

一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年

二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年

三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

 2020年2月11日配信(予定)のメルマガ金原No.3444を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について(2)~政府の解釈はこういうことだろうか?

 今日は、2月8日に配信した「東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない」の続編です。
 前回は、2月3日(月)の衆議院予算委員会における、渡辺周氏(国民民主党)の質問に対する森雅子法務大臣の答弁をご紹介したところですが、その後も、この問題を追及する野党議員の質問が続き、それに対する政府側(森法相)の答弁をフォローしなければと考えた次第です。
 ただ、委員会審議の議事録が公開されるまでにはある程度の時間を要するので、それまでは、動画(インターネット審議中継など)を視聴し、必要であれば自分で文字起こしすることになります。

 まず、2月4日(火)の衆議院予算委員会において、統一会派「立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム」の本多平直議員(立憲民主党)がこの問題について質問しており、法令の解釈にかかわる部分は短いものであったため(それが物足りなくもありますが)、文字起こししたものを以下に掲載します。

衆議院インターネット審議中継
2020年2月4日 予算委員会

※5時間05分経過頃

テレ東NEWS【ノーカット】前代未聞!高検検事長の『定年延長』は安倍政権の“守護神”だから?立憲・本多議員が追及(24分13秒)
※19分53秒~
  

本多平直委員)
これね、専門的過ぎて分かんないかもしれないですけど、この(註「逐条 国家公務員法」のこと)解釈によるとですよ、こういう解説本が、しかし今国会図書館に確認したら今出てるのは一個だけです。法務省の皆さんも裁判の時にはこれ持って使ってますよね。これにはどう書いてうかっていうと、「本条(注:国家公務員法第81条の3)の規定により勤務延長が認められる者は、前条(注:同法第81条の2)第1項の規定により、定年で退職することとなる職員である」と書いてるんですよ。ということは、検察官、東京高検検事長は含まれないですよね。延長ができないじゃないですか。違法じゃないですか。
森雅子法務大臣
はい、これにつきましてはですね、検察官は一般職の国家公務員でありまして、検察庁法は特例として定年の年齢と退職時期の2点を定めております。そうしますと、今ご指摘の条文があてはまり、勤務延長について一般法たる国家公務員法の規定が適用されるものと理解されます。
本多平直委員)
そういう風に、森雅子法務大臣のような人が法律家であることを笠に着て素人をだまさないためにこういう本(注:「逐条 国家公務員法」)があるんですよ。この本には反しているということでいいですね。あの、大臣はそれを主張してください、今後とも。この今1冊しかない解説書のさっき読み上げたところにはあてはまらんまいっていうことでいいですね。だけど大臣は、この解説書の、色々あるから、ここは間違ってると、違う解釈をとるといういことでいいですね。
森雅子法務大臣
ただいまご説明したとおりでございますけれども、勤務延長につきましては、一般法たる国家公務員法の規定が適用されるものでございます。他方、勤務延長について検察法上規定が設けられているかと申しますと、特段の規定が設けられておりません。これについてですね、国家公務員、今ご指摘の国家公務員法ができたあとに、検察庁法に検察庁法32(条)の2であったかと思いますが、特別にその特例である条文があげつらわれております。その中に先ほど私がご指摘いたしました22条、つまり定年とその退職時期、これが誕生日ということになっておりますが、それが特例であると書いてあって、それ以外にですね、特例であるということであればここに条文が載るはずなんでございますが、そこに書いていない勤務延長については、国家公務員法の規定を使わないということが特に記載されておりませんので、一般法の国家公務員法に戻りまして、勤務延長が適用されると理解されます。

 弁護士その他の法律家の皆さまに、法相の説明の意味が分かりますか?とお伺いしたいですね。少なくとも私には理解不能です。

 質問者が訊いているのは、定年延長を定めた国家公務員法第81条の3第1項は、勤務延長ができるのは、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」であると限定しており、検察官はそれに含まれないのだから(検察庁法で別に定年が定められている)、黒川検事長の勤務延長は違法ではないか、というものであるのに、森法相の答弁は、その点には全く答えていないのですから議論になりません。

 さらに、森法相の(というか、答弁起案官僚のというか)検察庁法第32条の2の解釈も非常に特異なものです。この条文は、「国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めた」8箇条(その中に第22条も含まれる)を列挙しているのですが、その第32条の2に「勤務延長については、国家公務員法の規定を使わないということが特に記載されておりませんので」一般法たる国家公務員法第81条の3の規定を適用して、検察官にも勤務延長ができるというのですが、この論理(?)は筋が悪過ぎます。
 この答弁を視聴した後、検察庁法(昭和二十二年四月十六日法律第六十一号)に第32条の2がいつ追加されたのか調べてみたのですが、私の手持ちの六法を見ても分からず、現在調査中です。ただ、そもそも国家公務員法に定年(第81条の2)と定年延長(第81条の3)の規定が追加されたのが昭和56年、施行日が昭和60年3月31日なので(それまで一般職国家公務員には定年すらなかった)、どう考えても検察庁法第32条の2の方が先でしょう。ですから、森法相(起案官僚)の説明は時期的な先後関係からしてもおかしいし、さらに、「特例であるということであればここに条文が載るはずなんでございますが」と言うけれど、昭和22年の検察庁法制定以来、検事総長は満65歳、その他の検察官は満63歳を定年としてきた検察官については、昭和56年の国家公務員法改正時に、同改正によって新設される定年制度(ここには定年延長も含む)は適用しないという明確な立法者意思があればこそ、わざわざ検察庁法を改正して「国家公務員法第81条の3の規定は検察官には適用しない」というような規定を設けたり、その条項を検察庁法第32条の2に追加する必要などさらさらなかったのですから、「ここ(注:検察庁法第32条の2)に条文が載るはず」などということがあるはずがありません。

 国家公務員法第81条の3を素直に文理解釈すれば、勤務延長が出来るのは、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」と限定されているのですから、昭和63年3月31日に施行された前条(国家公務員法第81条の2)の規定ではなく、昭和22年5月3日の日本国憲法施行と同時に施行された検察庁法に基づいて定年退職してきた検察官に適用がないことは一読して明らかなことです。第81条の3第1項の中には、また「同項(注:国家公務員法第81条の2第1項)の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」との規定もあり、この「同項の規定」というのは、「(原則満60年の)定年に達したときは、(略)退職する。」という規定なのですから、63歳や65歳で定年となる検察官の勤務延長など想定していないことは明白です。

 と、ここまで書いてきて、政府の見解がどういうものか、うっすらと分かってきたような気がします。黒川検事長の勤務延長を「合法化」するためには、以下のようなロジックをとるしかないと思います(森法相が明確にこのように言っているという意味ではありません)。

1 国家公務員法第81条の2第1項は、原則として検察官にも適用がある。同項に「法律に別段の定めのある場合を除き」とあるのは、定年制を採用しない特殊な国家公務員についての法律の規定がある場合と解釈する。
2 従って、検察庁法第22条の定年の規定は、国家公務員法第81条の2第2項の特例という位置付けとなる。
3 検察庁法第22条は、定年(満65歳または満63歳)及び退職時期(誕生日)を定めた国家公務員法の特例である。
4 検察庁法第22条は、検察官の定年を延長できるかどうかについては何も定めていない。
5 検察官も、国家公務員法第81条の3第1項にいう「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」に該当するのであるから(1参照)、要件を満たすと任命権者が判断すれば勤務延長は可能である。

 どうでしょう?森法相や法務省の官僚に尋ねた訳ではありませんから、この推測が正しいかどうかは分かりませんが、このように解釈しないと、勤務延長を合法だと主張することは不可能でしょう。
 もちろん、私はこれは無理筋の解釈だと思います。
 とりわけ、1の国家公務員法第81条の2第1項「法律に別段の定めのある場合」の解釈はアクロバティック過ぎますし、3、4の検察庁法第22条の解釈は、真っ当な論理解釈に耐えないだろうと思います。

 さて、以上が、2月4日の衆議院予算委員会における本多平直議員の質問に対する森雅子法務大臣の答弁を聴いた私の感想です。
 5日、6日、7日も衆議院では予算委員会が開催されていましたが、検事長勤務延長問題を質した議員がいたかどうか確認できていません。
 そして、昨日(2月10日)の衆議院予算委員会に、この問題を追及するための真打ちがいよいよ登場しました。4年近くの検事としての勤務経験を持つ山尾志桜里議員(立憲民主党)です。
 山尾議員は、皇位継承問題に次ぐ2つ目の質問項目として検察官定年延長問題を取り上げ、質問の冒頭で「誰かを念頭に置くというよりは、私は制度の話をしたい」と断ったとおり、豊富な資料博捜の成果を踏まえつつ、理詰めで、政府による勤務延長決定の違法性を浮かび上がらせていきました。
 会議録が公開されれば是非ご紹介したいと思いますが、まだしばらく時間がかかりそうなので、それまでは、以下の衆議院インターネット審議中継をご覧ください。

衆議院インターネット審議中継
2020年2月10日 予算委員会
※山尾議員は4時間36分から登場し、検察官定年延長問題については5時間00分頃から質問が始まります。

 ただ、私も30分近い質疑の内容を文字起こしするだけの時間も気力もないため、今日のところは、この問題を報じた東京新聞の記事の中から、山尾議員の質問に関する部分を引用させていただきます。

東京新聞 2020年2月11日 朝刊
検事の定年延長「違法」? 高検検事長の人事 検察からも疑義

(抜粋引用開始)
 十日の衆院予算委員会では立憲民主党山尾志桜里氏が、国家公務員法に定年制を導入した一九八一年の国会審議を引き合いに「違法な措置だ」と追及した。
 当時の人事院幹部が「検察官と大学教官は、(検察庁法などで)既に定年が定められている。(国家公務員法の)定年制は適用されない」と答弁しており、「今回も適用できないはずだ」と指摘。森雅子法相は「その答弁は把握していない」とし、「定年延長は、一般法の国家公務員法が適用される」と従来通りの説明を繰り返した。
(引用終わり)

 山尾議員が指摘した人事院幹部(政府委員)の答弁というのは、昭和56年(1981年)4月28日の衆議院内閣委員会における神田厚議員(民社党)からの質問に答えたもので、早速、私も調べてみました。
 山尾議員が指摘したのは多分以下の部分です。

第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日
(引用開始)
○神田厚委員 指定職の高齢化比率が非常に高いわけでありますが、五十四年現在で六十歳以上の者の占める割合は約四〇・一%。定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。たとえば一般職にありましては検事総長その他の検察官、さらには教育公務員におきましては国立大学九十三大学の教員の中から何名か出ているわけでありますが、これらについてはどういうふうにお考えになりますか。
○斧誠之助政府委員(人事院事務総局任用局長) 検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
(引用終わり)

 よく探し出したなと感心しますが、これは、国家公務員法第81条の2第1項にいう「法律に別段の定めのある場合」の解釈として、検察庁法など、既に国家公務員法よりも前から独自の定年制を定めている法律がある場合には、「法律に別段の定めのある場合」にあたり、国家公務員法第81条の2に基づく定年制は適用されないという当たり前の解釈を、当時の立法担当者も当然の前提にしていたことの裏付けとなる資料です。
 昭和56年の国家公務員法改正時には様々な議論があったのですから、当時の資料を博捜すれば、同趣旨の資料がもっと発見できるのではないかと思います。

 山尾志桜里議員は、以上の資料なども踏まえ、もしも立法者が、検察官にも定年延長の規定を適用できると考えていたのであれば、国家公務員法第81条の3第1項は、「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、(略)引き続いて勤務させることができる。」などとは書かず、必ず「任命権者は、定年に達した職員が退職すべきこととなる場合において、(略)引き続いて勤務させることができる。」と規定したはずという、法律家なら誰でも分かるロジックで法相を追及しています。
 さらに付言すれば、先ほど指摘したとおり、もしも立法者が、検察官にも定年延長の規定を適用できると考えていたのなら、国家公務員法第81条の3第1項に、「同項(注:国家公務員法第81条の2第1項)の規定にかかわらず」というような文言は書きこまなかったはずです。

 とりあえず、今日のところはこれまでとします。多分、(続く)ということになるだろうと思います。

(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

 2020年2月8日配信(予定)のメルマガ金原No.3442を転載します。

東京高等検察庁検事長定年延長問題について~法律の規定は読み間違えようがない

 去る1月31日、内閣は定例閣議において、2月8日に満63歳の検察官としての定年(検察庁法第22条)を迎える東京高等検察庁の黒川弘務検事長の勤務を半年間延長させることを、国家公務員法第81条の3第1項に基づいて決定したと報じられました(閣議の議事録はまだ公開されていません)。
 本稿は、上記閣議決定の「判断の適否」を論じようとするものではありません。純粋に、「法律上そんなことが可能なのか?」という素朴な疑問を自ら検証してみよう、というものに過ぎません。

 そして、その検証といっても、主として郷原信郎、渡辺輝人、海渡雄一各弁護士がいち早く公表された論考に導かれ、関連法条を読んでみたというのが実態であることを予めお断りしておきます。

郷原信郎「黒川検事長の定年後「勤務延長」には違法の疑い」
渡辺輝人「安倍政権による東京高検検事長の定年延長は違法ではないか」
海渡雄一「検察官に国公法の定年は適用されない!」(Facebook)

 この問題を考えるための関連法条は以下のとおりです(条文は巻末にまとめて引用してあります)。

検察庁法第22条(検事正及びその他の検察官の定年)
検察庁法第32条の3(国家公務員法の特例)
国家公務員法第81条の2(定年による退職)
国家公務員法第81条の3(定年による退職の特例)
国家公務員法附則第13条(国家公務員法の特例)

 いやしくも法律家であるならば、上記関連法条を一読するだけで、自ずから導かれる解釈は1つしかないと、少なくとも私は思います。
 ただ、それだけでは、法律家ならざる人にはよく分からないかもしれませんので、少し言葉を補って説明します。

 検察官も国家公務員である以上、国家公務員法の適用がある。そして、必要な場合には定年を延長できるという規定が、検察庁法にはないものの、国家公務員法第81条の3にはある。そこで、黒川弘務東京高検検事長の定年(勤務)延長もできる、というのが1月31日の閣議決定の論理のようです。

 けれども、「本当にそうか?」と多くの法律家が疑問をいだき、声をあげたのは、以下のように関連法条を読み取ったからだと思います。

 今回の勤務延長の根拠となった国家公務員法第81条の3第1項は、「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」と定めています。
 ここで読み過ごしてはならない最重要部分は「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」です。
  前条(第81条の2)第1項は以下のような規定です。
「職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年(注:同条第2項によって「年齢六十年」と定められています)に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。」
 つまり、国家公務員法第81条の3第1項によって勤務延長の決定が出来るのは、同法第81条の2第1項「の規定により退職すべきこととなる場合」に限定されているのであって、他の法令によって異なる定年が定められている公務員に適用はないと解釈するのがごく素直な文理解釈というものです。

 そして、検察庁法第22条は「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」と特別の定めを置き、全ての検察官は、国家公務員法第81条の2第1項ではなく、検察庁法第22条の「規定により退職」しているのですから、国家公務員法第81条の3第1項による定年延長など出来るわけがありません。

 ただし、それにもかかわらず、内閣が黒川検事長の勤務延長に踏み切ったのはなぜか?ということが疑問になってきます。

 この点について、去る2月3日の衆議院予算委員会において、森雅子法相は、国民民主党渡辺周氏の質問に答え、「検察庁法は国家公務員法の特別法。特別法に書いていないことは一般法の国家公務員法が適用される」と説明したそうです(中日新聞・共同)。
 まだこの日の会議録は公開されていませんので、衆議院インターネット審議中継を視聴してみました。
 全部で8時間28分もある中継動画の6時間45分経過頃からが問題の森雅子法務大臣による答弁がありました。書き起こししてみます。

「委員もよくご存知だと思うんですけれど、検察庁法は、国家公務員法の特別法にあたります。そして、特別法に書いていないことは、一般法である国家公務員法の方で、そちらが適用されることになります。検察庁法の22条を今お示しになりましたが、そちらには定年の年齢は書いてございますけれども、勤務延長の規定について特別な規定は記載されておりません。そしてこの検察庁法と国家公務員法との関係が検察庁法32(条)の2に書いてございまして、そこには(検察庁法)22条が特別だと書いてございまして、そうしますと、勤務延長については、同法が適用されることになります。」

 おそらく、法務省の官僚が用意したと思われる答弁用原稿を読み終え、自席に戻る森法相の姿を映像で眺めながら、私の頭には「?」がいくつも浮かんでいました。
 根本的には、「特別法に書いていないことは、一般法である国家公務員法の方で、そちらが適用されることになります。」と言うけれど、検察庁法に(勤務延長のことが)「書いていない」と言えるのか?(勤務延長できないという趣旨も含んでいるのではないか)ということが最大の問題ですが、検察庁法第32条の2を持ち出したことも疑問です。同法第32条の2というのは、同法の最後の条文で、こういう内容です。
「この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」

 具体的に言うと、
第15条 検察官の任免
第18条 二級検察官の任命及び叙級
第19条  一級検察官の任命及び叙級
第20条 検察権に任命できない者の特例
第22条 検事総長及びその他の検察官の定年
第23条 検察官の免官
第24条 検察官に剰員が生じた場合の特例
第25条 検察官の身分保障
などの諸規定が、国家公務員法の「特例」であることを念のために明示した規定です。

 なお、その根拠となった国家公務員法附則第13条は、「一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(略)を以て、これを規定することができる。」という規定です。

 まあ、ここまで読めば、検察庁法第22条が国家公務員法第81条の2の「特例」を定めたものであることは、共通認識(!)であることが確認できたと思いますが、それではなぜ政府は、検察官に国家公務員法第81条の3を適用して勤務延長(定年延長)が出来ると解釈しているのでしょうか?
 正直、森法相の説明を聞いてもさっぱり分かりません。
 元検察官の郷原信郎弁護士も、以下のような論説を書いておられます。

郷原信郎「「検事長定年延長」森法相答弁は説明になっていない」

 森法相の答弁を聞いて私の頭に浮かんだ最初の「?」についても、郷原弁護士は明確に主張されています。

(引用開始)
 問題は、検察庁法22条の「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」という規定が、「退官年齢」だけを規定したもので、「定年延長」については規定がないと言えるのかどうかである。検察庁法の性格と趣旨に照らせば、「退官年齢」と「定年延長は認めない」ことの両方を規定していると解するのが当然の解釈だろう。
(引用終わり)

 私の現時点での最後に残った疑問は、政府は、国家公務員法第81条の3第1項にいう「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において」という要件をどうクリアしようというのだろうか?ということです。
 もしかしたら、第81条の2第1項「職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、(略)退職する。」とあるのだから、検察庁法第22条という「法律に別段の定めのある場合」であっても、第81条の2第1項により「退職すべきこととなる場合」に含まれるとでもいうのでしょうか?まさかとは思いますけどね。

 なお、渡辺暉人弁護士や海渡雄一弁護士が引用されている国家公務員法についてのコンメンタール「逐条 国家公務員法」(森園幸男・吉田耕三・尾西雅博編/学陽書房2015年3月刊/2万円+税)に以下のような記載があるそうです(第81条の2についての解説の一部)。

逐条国家公務員法 [大型本]

学陽書房

2015-03-24


 
(引用開始)
「法律に別段の定めのある場合」には、本法の定年制度の対象とはならない。一般職の国家公務員については、原則的には本法に定める定年制度が適用されるが、従来から他の法律により定年制度が定められているものについては、その経緯等に鑑み、それぞれの法律による定年制度を適用しようとするものである。このようなものとしては、検察庁法第二二条による検事総長(六五歳)及び検察官(六三歳)の定年、教特法第三一条の規定に基づく文部科学省国立教育政策研究所の研究施設研究教育職員(六三歳)の定年がある。
(引用終わり)

 ここまで書いてきて、法律の解釈などには慣れていない一般の方にはさっぱり理解していただけなかったのでは、と思えてきました。
 私自身、国家公務員法第81条の3第1項の規定によって、東京高検検事長の勤務延長が出来るという解釈を編み出した官僚(いたはずです)の思考経路を跡づけようと試みたのですが、正直、途上で挫折した思いです。
 いやはや、とんでもない世の中になったものです。

(関連法令)
国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)
 (定年による退職)
第八十一条の二 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。
〇2 前項の定年は、年齢六十年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。
一 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師 年齢六十五年
二 庁舎の監視その他の庁務及びこれに準ずる業務に従事する職員で人事院規則で定めるもの 年齢六十三年
三 前二号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢六十年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの 六十年を超え、六十五年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢
○3 前二項の規定は、臨時的職員その他の法律により任期を定めて任用される職員及び常時勤務を要しない官職を占める職員には適用しない。

 (定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

  附  則
十三条 一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号)
第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

第三十二条の二 この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。