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「改憲派」の準備はここまで進んでいる

 今晩(2015年2月22日)配信した「メルマガ金原No.2009」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
改憲派」の準備はここまで進んでいる

 「憲法改正」が、今年の4月に統一地方選挙があるとか、来年の7月に参議院議員通常選挙があるとかいうのとほとんど同じレベルで、来年の参院選挙後に具体的な政治日程にのぼることを当然視するかのような報道が目に付くようになってきました。
 そもそも、憲法のどの条項をどういう風に「改正」しようというのか、あるいはどういう条項を追加しようというのか、という具体的な中身の議論を抜きにして、とりあえず「改正」の日程だけ決めるなどというばかげたことがあってよいものではありません。
 しかしながら、日本の大手メディアには、そのような問題意識はほぼ皆無のようです。一例だけあげておきましょう。
 
日本経済新聞WEB版 2015年2月4日21時50分
憲法改正原案発議、参院選後が「常識」 首相

(抜粋引用開始)
 安倍晋三首相は4日、自民党船田元憲法改正推進本部長と首相官邸で会談し、憲法改正について協議した。憲法改正原案を発議する時期について、船田氏が「2016年夏の参院選前ではなく、選挙後になる」との見通しを示し、首相は「それが常識だ」と語った。会談後、船田氏が記者団に明らかにした。
(略)
 会談で、船田氏は「1回目の憲法改正は我々も国民も慣れていない。何回かに分けて改正していく」との考え方を示した。首相は「その通りだ」と応じたうえで「開かれた場でなるべく意見を聞いて、だんだん1回目の憲法改正の中身を絞っていく。こういうことは丁寧にやっていくべきだ」と語った。
 首相は具体的な改正項目について言及しなかったが、船田氏は最初に取り組む項目として、環境権、非常事態、財政健全化の3つが候補に挙がっていると伝えた。
(引用終わり)
 
 とはいえ、この動きは、いわゆる「改憲派」の一致した戦略に基づく「既定路線」であり、何も驚くにはあたらないのです。
 日本会議が首唱し、自民党が相乗りして推進している地方議会における改憲促進「意見書」採択の動きがまさにそれで、憲法の何をどう「改正」すべきかを特定せず、とにかく改憲案の発議を国会に求めるという奇っ怪な「意見書」が、全国の地方議会で続々と採択されています。
 一例として、2014年9月26日に和歌山県議会が採択した「意見書」(の本文)を引用しましょう。
 
(引用開始)
            
国会に憲法改正の早期実現を求める意見書
 日本国憲法は、昭和22年5月3日の施行以来、今日に至るまでの約70年間、一度の改正も行われていない。  しかしこの間、わが国を巡る内外の諸情勢は劇的に変化を遂げている。すなわち、我が国を取り巻く東アジア情勢は、一刻の猶予も許されない事態に直面している。さらに、家族、環境などの諸問題や大規模災害等への対応が求められている。
 このような状況変化を受け、様々な憲法改正案が各政党、各報道機関、民間団体等から提唱されている。国会でも、平成19年の国民投票法の成立を機に憲法審査会が設置され、憲法改正に向けた制度が整備されるに至った。
 新たな時代にふさわしい憲法に改めるため、国会は憲法審査会において憲法改 正案を早期に作成し、国民が自ら判断する国民投票を実現することを求める。
 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。   
(引用終わり) 
 
※注 和歌山県議会における「意見書」採択に至る一連の経過を追った私のブログは、以下の記事から全て読むことができます。
 
 4月には和歌山県議会議員選挙もあります。和歌山県有権者は、この議案に対して議員がどのような賛否の態度をとったかをじっくりと調べた上で、誰に投票するかを決めて欲しいと切に望みます。
 もっとも、調べるにしてても、県議会のホームページを閲覧しても、個々の議案についての議員個人の賛否は掲載されていません(掲載されている県もあるのにねえ)。
 知りたい方は私のブログをご参照ください(後日訂正がありましたので、記事は最後まで読んでください)。
 
 もう1つ、いわゆる「改憲派」の注目すべき動きは、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の設立でしょう。
 昨年(2014年)10月1日に設立された同会は、
  櫻井よしこ氏(ジャーナリスト)
  田久保忠衛氏(杏林大学名誉教授)
  三好 達氏(日本会議会長、元最高裁判所長官
の3人を共同代表とし、以下のような活動を推進すると宣言しています(設立宣言)。
 なお、設立宣言の文章自体、各地の地方議会「意見書」とほぼ同旨ですが(こちらが本家本元だから当たり前か)、現在の自民党の動きを理解するため、煩をいとわず全文引用します。
 
(引用開始)
                 
設  立  宣  言
 日本国憲法は制定以来、一度も改正されたことがなく、現実との乖離はますます拡大している。大規模自然災害の恐れや地球規模での環境破壊、中国による軍事的脅威を始め我が国をとりまく安全保障環境の劇的な変化、崩壊する家族など、我が国は憲法が想定しなかった危機的事態に直面している。
 こうした中、憲法改正手続きを定めた「国民投票法」が改正され、国会が憲法改正を発議し国民投票を実施するための条件は整えられた。
 世論調査においても、既に国民の過半数が憲法改正を支持しているにもかかわらず、国会の憲法審査会では、いまだ改憲発議に向けた現実的論議は開始されていない。
 国民投票法が改正された今、課題は憲法のどの条文をどのように改めるか、具体的にテーマと改正案を策定し、国会で速やかに憲法改正の発議を行うことにある。
 直近の国政選挙においては、憲法改正を掲げる諸政党が、衆参両院でほぼ3分の2を確保している。もはや一刻の猶予も許されない。
 私たちは、国会が発議可能な議席数を確保しているこの2年の間に改憲の発議がなされ、平成28年の参議院選挙にあわせて国民投票が実施されることを目指して、以下の活動を開始する。
一.憲法改正の早期実現を求める国会議員署名及び地方議会決議運動を推進する
一.全国47都道府県に「県民の会」組織を設立し、改正世論を喚起する啓発活を推進する
一.美しい日本の憲法をつくる1,000万人賛同者の拡大運動を推進する
 私たちはここに、志を同じくする国民各界各層を結集し、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」を設立し、憲法改正実現に向けた広汎な国民運動を力強く展開することを宣言する。
  平成26年10月1日 
    美しい日本の憲法をつくる国民の会 設立総会
(引用終わり)
 
 昨年10月1日に発表された「美しい日本の憲法をつくる国民の会」による改憲スケジュールによれば、「平成28年の参議院選挙にあわせて国民投票が実施されることを目指して」いたものが、「参議院選挙後」に微調整された他は、ほぼ「当初の予定通り」に進行させることを自民党首脳が公言するようになったというのが現在の事態です。
 
 同会ホームページに掲載された署名用紙には、「私は憲法改正に賛成します」という大きな文字の下に10人分の署名欄があり、氏名・郵便番号・電話番号・住所を記載することとなっており、「この名簿をFAX・郵送・メールでご送付ください」となっています。
 しかし、この署名用紙のどこを見ても、日本国憲法のどこをどのように「改正」するのかということが一言も書かれていません。こんな署名用紙って見たことあります?
 しかも、この用紙には、送付先は書いてありますが、宛名がありません。
 一体、この署名用紙で署名を集めてどうしようというのでしょうか?
 
 「Q&A」の中で、「1,000万人賛同者」については以下のように説明されています。
 
(引用開始)
Q 「賛同」の署名は、どのように扱われるのですか?
この「賛同」署名は、国会へ提出する請願署名ではありません。憲法改正が成立する「国民投票の過半数」は、過去の選挙から約3,000万票以上が必要と見込まれますが、「1,000万人賛同者」は、この過半数を実現するための国民ネットワークづくりです。憲法改正を実現のため情報提供や国民投票の際の呼びかけなどで活用させて頂きます。
Q 年齢制限はありますか?
高校生以上が対象となります。
Q 代筆は可能ですか?(用紙に記入の場合)
相手方のご賛同があれば代筆でも結構です。
Q 賛同者の欄が10名埋まりません(用紙に記入の場合)
必ずしも10名埋まらなくても結構です。お送りください。
Q 「賛同」署名の呼びかけは、いつまで行われる予定ですか?
平成28年夏に実施される参議院選挙に合わせて、憲法改正国民投票が行われることを目指していますので、その時期(例えば春頃)が一つの区切りとなります。
(引用終わり)
 
 たしかに、このフォーマットでは国会請願には使えません。もっとも、今の国会議員の8割以上は「改憲派」だとも言われており、請願の必要はないでしょうが。
 正直にその目的が書かれているのは「憲法改正を実現のため情報提供や国民投票の際の呼びかけなどで活用させて頂きます」という部分でしょう。
 実際、署名用紙の欄外には、「◎『ご紹介者』の皆様には、「国民の会」事務局から情報提供などご連絡させていただくことがあります」「◎『ご賛同者』の皆様には、国民投票の際、賛成投票へのご賛同の呼びかけをさせていただくことがあります」と注記されています。
 
 しかし、どんな「改正案」が発議されるかも不明であるのに、「賛成します」という賛同者を集め、実際に国民投票となれば「賛同の呼びかけ」をするというのですから、無茶苦茶ですが、そんなことにはお構いなしに「署名」を集めようとしているのです。
 日本会議国会議員懇談会日本会議地方議員連盟神道政治連盟などに所属する議員が本腰を入れて後援会中心に呼びかければ、短期間で相当数の「署名」を集めることも不可能ではないでしょうし、さらに自民党が組織的にこれに乗っかることになれば、私やあなたのところにも、知り合いの自民党地方議会議員から郵送で署名用紙が届くかもしれせんよ。

 そして、義理でも何でも、この署名用紙に名前が載れば、「憲法改正国民投票運動」のための、とりあえずの「支援者名簿」になるという訳です。
 実際の国民投票となれば、この名簿に記載した電話番号に手当たり次第に「賛成投票をお願いします」という電話をかけまくろうということでしょう。
 
 そういえば、賛同署名には、署名用紙を使う方法の他に「国民の会」サイトから電子署名する方法もあり、こちらの方は、氏名・郵便番号・メールアドレスが分かることになるので、インターネットを利用した「憲法改正国民投票運動」のための基礎資料にしようという目論見でしょう。
 
 「改憲派」による「憲法改正国民投票」に備えた準備が、ここまで組織的、計画的に実施に移されていることを知ってどう思われたでしょうか?
 2月4日の安倍首相との会談の際、船田元自民党憲法改正推進本部長が伝えたとされる第一次改憲3項目、すなわち、「環境権」、「非常事態」、「財政健全化」(と言っても、具体的にどんなものになるのか判然としませんが)について、いわゆる「護憲派」はどう対応するのか、来年の参議院選挙に向けて改憲阻止勢力1/3確保のための構想が描けるのかなど、はなはだ心配なことだらけです。
 
 とはいえ、可能なところから反撃していくしかないことも間違いありません。
 運動論・組織論ももちろん大事ですが、予想される「憲法改正案」の問題点を指摘することも重要です。
 そして、そのような問題意識からだと思いますが、素早く的確な反撃を加えたのが津久井進弁護士(兵庫県弁護士会)です。
 既に読まれた方もおられるとは思いますが、まだの方には是非ご一読をお勧めするとともに、「拡散」にご協力いただければと思います、
 津久井弁護士が「災害対策の現場からすると『国家緊急権』はいらない。理由は3つある」と述べるその本論はリンク先でお読みいただくとして、以下にはまとめの部分を引用します。
 
(抜粋引用開始)
■「災害対策」の大義名分による思考停止
 ところが、「大災害への対策だ」という大義名分を冠に載せると、社会もメディアも、何となく無批判に受け入れてしまう。
 国民も、何となく良いことと受け止め、それ以上は深く考えない。
 東日本大震災の直後に日経電子版が行ったアンケートでは、災害への対処や防災等のための私権制限に賛成する意見が約8割にのぼり、賛成派議員の論拠にもなった。国民の善意はよく理解できる。しかし、緊急事態条項を設けたら、真っ先に制限や束縛を受けてしまうのは、被災地の人々や避難した人々であるという想像力は働いていただろうか。
 2012年度の衆参両議院の憲法調査会でも国家緊急権について活発な意見交換が行われ、同年7月の中央防災会議が公表した最終報告では、現行の災害緊急事態の緊急措置を拡張して、有事法制である国民保護法制などを参考に、国家存立対策や法整備が必要だと指摘した。彼らは、本当に現行の法制度を正しく理解していたのだろうか。
 私たちは、国家緊急権を取り入れるがごとき愚行は、絶対に避けなければならない。
■忘れてはならない歴史の教訓
 忘れてはならない出来事を3点だけ挙げておく。
 第1に、関東大震災では、旧憲法下の国家緊急権(緊急勅令)が適用された。多数の外国人や思想家たちが虐殺されたが、その契機となった悪質なデマの出元は、海軍省船橋送信所の9月3日午前8時15分の各地方長官宛の打電であるというのが定説である。わずか約90年前の出来事である。
 第2に、最も優れた近代憲法といわれるドイツのワイマール憲法には第48条に国家緊急権の規定があり、社会不安の中でこれが乱用され、全権委任法が制定され、ナチスの独裁につながっていき、世界中を戦火に巻き込んでいった。
 第3に、ごく最近、10年前に米国で起きたハリケーンカトリーナ災害では、FEMAアメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の失態に加え、大統領の非常事態宣言の後に、警察による市民の誤殺事件や被災者の遺棄などの事件が起きた。レベッカ・ソルニットは著書「災害ユートピア」の中で、こうした為政者が陥るパニックを「エリートパニック」といって、災害のたびに起きる普遍的現象であると指摘している。
 東大の法哲学者の尾高朝雄は「国家の生命を保全せねばならぬ、という何人も肯わざるを得ない主張の蔭には、国家緊急権の旗旌をかざして国家の運営を自己の描く筋書き通りに専行しようとする意図が秘められやすい」と述べた(『国家緊急権の問題』法学協会雑誌62巻9号 1943年)。
 70年余経った今、社会は、まさに同じ状況に直面している。
(引用終わり)