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3人の大学人からのメッセージ(大谷實同志社総長、田中優子法政大学総長、山本健慈和歌山大学(前)学長)

 今晩(2015年4月6日)配信した「メルマガ金原No.2051」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
3人の大学人からのメッセージ(大谷實同志社総長、田中優子法政大学総長、山本健慈和歌山大学(前)学長)

 先月末で退任された和歌山大学の山本健慈学長による「最後の卒業式学長式辞」を本メルマガ(ブログ)でご紹介したのは3月25日のことでした(山本健慈和歌山大学学長 最後の卒業式式辞(付・予告4/29山本健慈氏講演会「学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して」)。
 それは、危機の時代に卒業生を社会に送り出さなければならない大学人としての良心が言わしめたやむにやまれぬ言葉であると、少なくとも私は受け止めました。
 そして、そのような思いは、何も山本健慈氏に限ったものではなく、多くの大学人に共有されているはずだと思います。
 実際、何人かの総長、学長が3月の卒業式で卒業生に語りかけた式辞、祝辞がSNSなどで話題になっています。
 以下には、その内、
  学校法人同志社・大谷實総長による同志社大学卒業式での「祝辞」
  法政大学・田中優子総長による「総長告辞」
  和歌山大学・山本健慈学長による「学長式辞」
をご紹介します。
 もちろん、これ以外にも素晴らしい式辞を述べられた学長・総長はたくさんおられることと思いますが、全ての大学のホームページを渉猟している時間的余裕はとてもなく、以上の3人の方々に代表していただきました(和歌山大学の山本(前)学長の式辞は再掲ですが)。
 私は、後世、日本にとって2015年がどのような年であったかを振り返る時、これら3人の総長・学長が卒業生に贈った言葉は、時代の断面を切り取った珠玉の言葉として、必ずや回想されるだろうと思います。
 

 
 一言、お祝いの挨拶を申し上げます。
 
 皆さん、同志社大学のご卒業、また、大学院のご修了、誠におめでとうございます。学校法人同志社を代表して、心からお祝いを申し上げます。また、ご両親をはじめ、ご家族の皆様、本日は、誠におめでとうございます。心からお喜び申し上げます。
 
 さて、卒業生の皆さんのほとんどは、これから社会に出て活躍されるはずですが、私は、今日の我が国の社会や個人の考え方の基本、あるいは価値観は、個人主義に帰着すると考えています。個人主義は、最近では「個人の尊重」とか「個人の尊厳」と呼ばれていますが、その意味は何かと申しますと、要するに、国や社会で最も尊重すべきものは、「一人ひとりの個人」であり、国や社会は、何にも勝って、個人の自由な考え方や生き方を大切に扱い、尊重しなければならないという原則であります。個人主義は、利己主義に反対しますし、全体主義とも反対します。
 
 同志社の創立者新島は、今から130年前の1885年、同志社創立10周年記念式典の式辞のなかで、「諸君よ、人一人は大切なり」と申しましたが、この言葉こそ、個人主義を最も端的に明らかにしたものと考えられます。
 
 この個人主義について、日本の憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、国政の上で最大の尊重を必要とする」と定めています。遅ればせながら、68年前の1947年5月3日に公布された日本国憲法で、個人主義を高らかに宣言したのです。
 
 あの悲惨な太平洋戦争の原因の一つであった、全体主義あるいは天皇中心主義といった国や社会のあり方について、深刻に反省し、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」て、全体主義天皇中心主義の国や社会のあり方を180度転換して、「すべて国民は、個人として尊重される」としたのです。憲法13条は、まさに、日本国憲法の根幹を示すものとして規定されたのでした。
 
 ところで、諸君も十分判っていると思いますが、安倍首相の憲法改正の意欲は並々ならぬものがありまして、早晩、改正の動きが具体的になってくるものと予想されますが、そのために、自由民主党自民党憲法草案なるものをまとめて公表するに至りました。その中で、「個人の尊重」という文言は改められて、「人の尊重」となっています。起草委員会の説明ですと、従来の「個人の尊重」という規定は、「個人主義を助長してきた嫌いがあるので改める」というものであります。今日の価値の根源となっている個人主義を、柔らかい形ではありますが、改めようとしているのです。このことは、これまで明確に否定されてきた全体主義への転換を目指していると言ってよいかと思います。
 
 先にも申した通り、日本国憲法は、個人主義を正面から認め、人間社会におけるあらゆる価値の根源は、国や社会ではなく、一人一人の個人にあり、国や社会は、何よりも、一人一人の個人を大切にする、あるいは尊重する、といった原理であると考えています。
 
 自民党草案の他の規定を見ましても、個人よりも社会や秩序優先の考えかたがはっきりと表れており、にわかに賛成できませんが、私は、個人主義こそ民主主義、人権主義、平和主義を支える原点であると考えています。
 
 卒業生の皆さんは、遅かれ早かれ憲法改正問題に直面することと存じますが、そのときには、本日の卒業式において、敢えて申し上げた個人主義を思い起こしていただきたいと思います。そして、熟慮に熟慮を重ねて、最終的に判断して頂きたいと思うのであります。
 
 結びに当たりまして、卒業生、修了者の皆さんのご健康とご多幸をお祈りし、併せて、一国の良心としてご大活躍されますことを期待し、また、お祈りして祝辞とします。
 
 本日は、誠におめでとうございます。
 
同志社大学村田晃嗣学長による式辞もあったと思うのですが、見つけられませんでした。蛇足ながら、大谷総長の祝辞の中で「68年前の1947年5月3日に公布された日本国憲法」とあるのは「施行された」の誤記です。なお、大谷實総長は1934年生まれの刑法学者ですが、犯罪被害者支援に長年尽力してこられたことでも有名です。
 

 
皆様、卒業おめでとうございます。保護者の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。
 
ただいま入学式が執り行われましたように、皆さんの多くが入学なさった2011年4月、法政大学は入学式をおこなうことができませんでした。そのことが私たち教員にとってもたいへん心残りであり、ぜひ短くとも入学式をとりおこないたいと思っておりました。
 
2011年3月11日とその後、皆さんの中にはご自身や大切な方々が被災なさった方もおられることでしょう。直接の被災がなくとも、大きな衝撃を受け、さまざまなことを皆さんは考えられたことでしょう。
しかしその日を乗り越え、皆さんが入学し、今日卒業を迎えました。たいへん嬉しいことです。
皆さんはどうか、この入学と卒業を、ほかの世代の誰も持ち得なかった記憶として持ち続けて下さい。2011年3月11日の記憶は、これから皆さんが生きていく原点になるものなのです。
 
それはなぜなのか、お話しします。
地震は自然災害です。しかしこの震災の第一の特別な意味は、原子力発電所事故という文明災害でもあった、ということです。皆さんはまだ生まれていない時代ですが、1954年、国会議員原子力予算を国に提案しました。そして福島第一原発の誘致が1960年から始まり、運転開始は1971年でした。
私は1970年に法政大学に入学しました。その私が大学でたいへん充実した時間を過ごしていたとき、福島第一原発は稼動を始めたのです。
地震は日本列島では古代から無数に続いています。日本人はいつもそれを乗り越えて来ました。しかしこのたびの災害は、いまだに克服したとは言えません。それは、これが文明によって引き起こされた災害だからなのです。
 
私が生まれ育ったその時代に進められてきたことは、日本の経済成長を促しました。その結果、今では日本人の半分以上が、皆さんのように大学を卒業することができています。その上、多くの人が留学体験をしています。このことは、現在海外で起きている学校の破壊や、教育を受けられない多くの若者のことを考えると、素晴らしく恵まれたことなのです。
 
しかしその一方で、日本は大変な体験もしてきました。私が法政大学に入った年、ある先生が授業で石牟礼道子の『苦海浄土』の一部を朗読なさいました。その時の衝撃は今でも忘れません。水俣病の発生とその経過を書いたこの本は、今では多くの人が読んでいますので、内容はよくご存じだと思います。
この本に書かれた一連の事件が起こっているときに、各地で原子力発電所の建設が同時になされました。さらなる経済成長をするためです。そして今に至り、私たちはこの災害から再出発しなければなりません。2011年は、これからの日本を考える上で、とても重要な年なのです。
 
皆さんの多くは4月から社会に出ます。社会に影響を与える存在になります。どのような仕事につこうと、仕事をするということはそれ自体が、社会を創ることなのです。どうか、自分の仕事が世界をどのような方向に向けているのか、充分に学び、意識して下さい。それが、いまこそ世界が必要としている「世界市民」という存在なのです。
 
すでにホームページでお伝えしていますが、先月拘束されて亡くなったジャーナリストの後藤健二さんは、法政二高と本学社会学部を卒業した、皆さんの先輩です。紛争地帯の弱者によりそったその仕事は、まさに世界市民と呼ぶにふさわしい仕事でした。後藤さんが伝えたかったことは、「勝つ」ことではありません。争いの中で生きる場所を失っていく人々の存在に気がつくこと、その人々にまなざしを向けること、その立場に立ってものごとを考えていくことでした。
 
後藤さんだけでなく、多くの卒業生たちが世界で活躍しています。法政大学はこれからも、力強い市民を育てていきます。市民とは、自分の生き方を社会や他の人々と結びつけて考えることのできる人です。自らの中にある差別感や偏見を乗り越え、社会の格差や問題を少しでも解決しようと、自分と社会の関係の中で行動できる人です。自立しながらも孤立することなく、多様な人々と話し合い、協力して未来を創っていくのが市民です。多くの卒業生たちが、市民として世界で活躍しています。
 
また今年は、戦後70年という特別な年です。
皆さんが在学中、法政大学では「学徒出陣」をテーマにしたシンポジウムと展覧会を開催しました。戦争中は学校が閉鎖され、大学生は兵士としてかり出されました。総長である私が、「お国のため」と称してあなたがたを戦場に送ることを想像してみて下さい。それは現実に起こったのです。
本学でも前総長が「平和の誓い」をいたしました。「若者に過酷な道を歩ませた責任の重みを忘れることなく、この悲劇をもたらしたものをしっかりと見つめる」と誓いました。私はこの「平和の誓い」を、総長として受け継ぎ、さらに次の総長に手渡して行こうと思います。
 
何よりもひとりひとりが、自分だけでなく社会全体の理想の未来を思い描き、それに向かって日々の仕事を全うすることが大切です。その未来は皆さん自身の未来です。
 
日本は急激な流動化の時代を迎えています。皆さんがこれから入っていく職場は、従来の日本の職場とは様変わりしている可能性があります。海外に赴任するかも知れません。日本語を話せない同僚や取引相手と、日々コミュニケーションするかも知れません。しかし法政大学を卒業できた皆さんは、必ず乗り越えて行かれます。基礎的な学力と、状況を切り抜ける柔軟性があります。自信をもって下さい。
 
迷ったときは、大学時代の友人やゼミの先生や、校友たちと交流して下さい。法政大学は日本各地に校友会をもち、皆さんを支えようとしています。世界各国の校友会も今後次々に組織化され、海外に出る皆さんの力になります。
 
厳しい時代だからこそ、協力し合うことが必要です。法政大学は中にも外にも、皆さんが頼りにできる場を創っていきます。皆さんもぜひ、それを創る力になって下さい。そして一緒に未来の社会を創りましょう。
 
改めてお祝い申し上げます。ご卒業、おめでとうございました。
 
※「学位授与式」当日の3月24日、田中優子総長による卒業生へのメッセージ動画が公開されています。上記「告辞」と基本的に同一内容ですが、一部表現が異なる部分があります。

【法政大学】田中優子総長 2014年度卒業生へのメッセージ

 

 
 本日、学士の学位を得た 922 名の学部卒業生の皆さん、修士の学位を得た 213 名の大学院修士課程修了生の皆さん、博士の学位を得た6名の博士課程修了生の皆さん、そして6名の特別支援教育特別専攻科修了生の皆さん、おめでとうございます。
 御来賓の本学後援会の原会長ならびに本学同窓会の宮崎会長、そして列席の理事・副学長、学部長とともにご卒業を心からお祝いいたします。併せまして、ご家族あるいは関係者の皆さまにも、心からお慶びを申し上げます。
 さて、本日卒業の学部卒業生のほとんどは、東日本大震災直後の2011年4月に入学された皆さんです。3・11震災翌日の 12 日の後期入試を受験し入学された方もおられます。11年4月5日の入学式には、参加できなかった被災地からの大学院入学生もおられましたことを思い出します。4 年前の震災、そしてその後の見聞は、皆さんの胸の中にどのように刻まれているでしょうか。
 大震災直後の入学式で、私は以下のようなことを述べました。
 「今我々が直面している震災は、これまでの豊かさ、その前提としての安全という人間の生存の基本を問い直し、これまでの新たな社会への『模索』ではなく、新しい社会を『創造』することへの決断を迫っています。その意味では、皆さんのように過去の成功物語にとらわれない世代、『模索』の時代に育った世代こそ、過去を根本的に見直し、『未来の希望』を実現できる世代である」と、皆さんへの期待を述べました。そして新入生である皆さんに、四つのことをお伝えしたのですが、その第一に挙げたことは、「まずは自分の人生の幸福とはなにかについて、深く考えて頂きたいと思います。自分を考える、そしてなにが幸福なのかを考える、これを自分で考え、友人と語り合って頂きたいと思います。そして自分の幸福が、他者の幸福と通ずる生き方を確立して頂きたい」ということでした。
 2011年8月、2回にわたって被災地・岩手・陸前高田へボンランティバスを送り出しました。この被災地での経験の中で、自分の人生の課題をみつけ継続的なボランティア活動に取組み、また意欲的な学びに取り組んだ方もいます。一方、被災による学びの困難に思いをはせながら、学ぶ条件に恵まれていることを自覚し、自らの生きている時代と社会の課題に対して、社会的実践ではなく、理論的学びに励んだ方もいます。それぞれに被災地・社会の課題と向き合い、他者とともにある自分の幸せを追求した学生生活だったのだと思います。また2012年2月には、本日卒業する約20人がタイへの派遣プログラムに参加しました。彼らは、日本とは異なるタイの諸困難に出会い、自らの課題としてタイへの貢献の活動に取組み始めました。彼らもまた、他者とともにある自分の幸福を見出したのだと思います。
 そして、上記の学生達だけではなく、多くの皆さんが、教室・研究室で、地域で、そして課外活動で学び成長していく姿に、直接接することができましたことは、学長として最も嬉しく誇らしいことでした。地域の皆さん、卒業生の皆さんからも、「最近の和歌山大学生は、よく頑張っている」という声をかけられることが多くなりました。これも学長として嬉しく誇らしいことであります。
 4年間の皆さんの成長の姿を見る時、2011 年4月5日の入学式に述べた「皆さんのように過去の成功物語にとらわれない世代、『模索』の時代に育った世代こそ、過去を根本的に見直し、『未来の希望』を実現できる世代である」というメッセージを体現してくれていると頼もしく思い、本日確信をもって皆さんを社会に送り出せることを誇らしく思います。
 そして私は、皆さんの姿に励まされて学長職を全うできたことを率直に表明し、感謝をお伝えしたいと思います。
 皆さんの成長は、皆さんの努力もあってのことではありますが、「学ぶことの自由」「活動することの自由」が、社会によって保障されているからにほかなりません。2014年ノーベル平和賞を受賞したマララ・ユスフザイさんの言を引くまでもなく、世界には「学ぶ自由」が保障されていない多くの青少年が存在することを忘れてはなりません。そしてマララさんの言葉を使えば、(「(受賞は)終わりではなく、始まりに過ぎない」)(1)、皆さんの先輩たちの「学ぶ自由」を勝ち取る「始まり」の結果として、皆さんの自由があることを忘れてはなりません。
 本日このように「学ぶことの自由」の意味を強調するのは、「学習権は、人類の生存にとって不可欠な道具である」(1985年3月29日第4回ユネスコ国際成人教育会議採択)という一般的意義だけでなく、今日「学ぶ自由」への抑圧の危惧を強く持つからであります。
 皆さんは、「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」という俳句を聞いたことがあるでしょうか。この俳句は、公民館の俳句創作サークルで、戦争体験のある高齢の女性が詠まれたものです。この俳句は、サークルの推薦により「公民館だより」に掲載されるはずでした。しかしこれを受け取った一職員の戸惑いと、この句は政治的争点に触れているという公民館長の判断により不掲載になりました(2)。また各地の美術館、博物館では、政治的争点に触れるという理由で展示への干渉の事例が生じております。大学も無縁ではありません。「朝日新聞」バッシングの中で、「朝日」の元記者が、大学を追われた、また追われようとした事例もあります。こうしたことは、かつてはなかったことであります。
 「学びの自由」を含めて、私たちが今日享受している「自由」は、1945年8月の敗戦を経て制定された「日本国憲法」によって実現されました。
 今年は戦後70年という区切りの年です。日本および日本国民は、かつての戦争に対していかなる態度をとるのか、同じ敗戦国にあったドイツとの比較においても注目されています。
 私は、本日卒業生を送るにあたり、戦中において、当時の学長(校長)は、どのようなメッセージを卒業生に贈ったのかを調べてみました。残念ながら本学(当時は師範学校高等商業学校ですが)の資料は見つけることができませんでしたが、和歌山高等商業学校初代校長 岡本一郎先生の、転任先である山口高等商業学校における、昭和16年12月28日の「本科第三十五回卒業式校長告辭」を見付けることができました(3)。
 本来17年3月に行われるべきものが、12月8日の日米開戦もあって、3か月繰り上げて挙行された時のものです。
 この「告辭」の中で、岡本校長は、「之等學徒の在學中一旦延期せられて居た徴兵検査も、巳に現に之等の大多数の者に嚴正に執行され、其殆んど全部が検査に合格し、明十七年二月には夫々ペンを擲って劍に執り代へ、帝國軍人として君國の守りに就くことになつて居るのであります。」「思へば實に血湧き肉躍るの感あらしむるのでありますが、此時此際之等の卒業生は勇んで此御仲間となり得る光榮を有すのであります。かく考へますと今度の卒業式程重要な意義を含める卒業式は又とないのではないかと思はるゝのであります。父兄の御方々來賓各位、どうか之等のことを思ひ遣つて大に祝福し、大に激勵を加へて戴き」と述べられています。
 こうした告辞を述べられた岡本校長を、12月8日開戦当日訪ねた山口高商の教え子の記録が残っています。彼によれば、岡本校長は、欧米の力を熟知し、戦争の行方を心配し「さめざめと涙」を流したということです。岡本校長の当時の心情、判断を察することはできませんが、すでに本日の私のように「学ぶ自由」の大切さを卒業生に伝えることのできる状況にはなかったことは明らかであります。
 私は、長い研究生活の中で、「生涯学習の自由」「表現の自由」「報道の自由」が、市民の幸せ、社会の平和と深く結び付いていること、そして自由の侵害は、個人の幸福と社会における民主主義を阻害・抑圧することを学んできました。
 本日卒業する皆さんには、これから市民として、自らの幸福を追求するとともに、「自由の抑圧」に抗し、民主主義の発展のために尽力して頂きたいと思います。もちろん、私も終生の課題として取り組む決意です(4)。
 さて、皆さんにとって、和歌山大学は母校であります。私は、皆さんの入学時、「和歌山大学は、生涯あなたの人生を応援します」と、卒業後の「あなた」も応援することを約束いたしました。その約束を果たすためには、和歌山大学そのものが存在し続けることが必要です。
 今、国立大学法人の第3期中期目標期間(2016年から6年間)における運営費交付金等の配分の制度設計に関わる議論が、政府内で行われています。法人化後、政府は、財政的効率化や、産業競争力強化に資する研究への資金選択と集中を企図してきました。しかしこの議論においては、「地方国立大学」「地方自治体」「地方の企業・経済界」の視点が顧慮されていないように思われます。
 現在の作業中の枠組みが現実化するならば、誤解を恐れずに言えば、早晩地方国立大学は衰弱し、ひいては日本の高等教育のシステムが崩壊に至るのではないかと思います。いまこの事態の深刻さを憂慮され、本学経営協議会外部委員の皆さまは、現在進行する作業に疑念を表明されました(5)。本学の呼びかけに応え、山形大学福井大学福島大学奈良教育大学東北大学高知大学静岡大学等から同様な意見表明がされています。「地方創生」というスローガンのもとに、真に地方・地域の再生を実現しようとするならば、地方国立大学の財政的基盤を充実させることによって、人文社会科学を含めて多彩多様な研究に支えられた高等教育を実現し、皆さんが、和歌山という地方、地域で多くを学び成長されたように、都市の若者が地方に還流し、学ぶ機会とその体制を整備することこそ重要だと思います。和歌山大学が基盤としている紀伊半島南部は自然豊かな、日本の未来にとって価値ある国土です。また人間性を見失う都市環境とは違って「ヒト」を人間として形成する機能も豊かです。
 幸い、このたび和歌山大学の基盤を強化するために、来賓として御臨席頂いています和歌山大学後援会、同窓会を含むオール和歌山大学の組織を近く発足させることになっております。卒業生の皆さんには、自らの和歌山大学での学びの体験、その価値を社会に発信するとともに、本学の存在基盤を確固たるものとする活動に参加して頂きたいと思います。私もまた和歌山大学OBとして皆さんとともに、和歌山大学の基盤強化のために尽力をす
るつもりです。
 さて、私は、本年3月末をもって学長を退任し、同時に38年間に及ぶ和歌山大学生活を終えます。大学入学以来でいえば、48 年間、大学という舞台で多くの方に出会い、学び励まされてきました。この場をお借りいたしまして、皆さまに深い謝意を表したいと思います。
 最後に、本学は、今後も「和歌山大学は、生涯あなたの人生を応援します」というメッセージ通り、教職員は勿論のこと、全国各地にいる同窓会の諸先輩方とともに、卒業後も皆さんを応援する、とりわけ<学び続けること>を応援することを重ねてお伝えし、式辞といたします。
 
※山本健慈先生を講師にお招きした青年法律家協会和歌山支部主催による講演会の概要を再掲します。
 
青法協憲法記念講演会
学び続ける自由と民主主義~不安の時代に抗して
 第1部 基調講演 山本健慈氏(和歌山大学前学長)
 第2部 座談会 民主主義の危機を克服するために
    出演者 
     山本健慈氏
     花田惠子氏(9条ネットわかやま世話人代表)
     金原徹雄(弁護士)
    司 会 
     岡 正人(青年法律家協会和歌山支部長)  
日時 2015年4月29日(水・祝)
     開場 午後1時00分
     開演 午後1時30分
会場 和歌山勤労福祉会館 プラザホープ 4階ホール
     和歌山市北出島1丁目5番47号
入場無料 
予約不要
主催 青年法律家協会和歌山支部
連絡先 
 和歌山市岡山丁50番地2 電話:073-436-5517
  岡本法律事務所(弁護士 岡 正人)