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「安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-」(井上正信弁護士)を読む

 今晩(2016年2月24日)配信した「メルマガ金原No.2376」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-」(井上正信弁護士)を読む

 3月末までとされている施行期日が間近に迫り、安全保障関連法制に反対する企画の重点が、政府が具体的に自衛隊にどのような活動をさせる可能性が高いのか、それにはどのような問題点や危険性があるのかを考えようとするものに移行しつつあります。
 
 既にこのメルマガでもご紹介した(末尾参照)自衛隊を活かす会による連続シンポジウム「新安保法制の予想される発動事例の検証」では、南シナ海と南スーダンが取り上げられました。
 
2015年12月22日@東京
南シナ海─警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか(2時間39分)
 
2016年1月30日@札幌
スーダン─駆けつけ警護で自衛隊はどう変わるのか(2時間52分)


 また、一昨日(2月22日)には、日本弁護士連合会で、内藤正典氏(同志社大学大学院教授)、松井芳郎氏(名古屋大学名誉教授)、半田滋氏(東京新聞論説兼編集委員)を招いたパネルディスカッション「安保法の適用・運用の危険性と問題点の解明~PKO活動・IS空爆を素材に~」が開催されていますが、これも同じ問題意識による企画でしょう。
 
 
 今日ご紹介しようとするのは、昨年の6月に和歌山弁護士会の招きにより講演していただいた井上正信弁護士(広島弁護士会)が、NPJ(News for the People in Japan)に不定期連載されている「憲法9条と日本の安全を考える」に、3回分載して発表された新たな論考「安保法制の近未来-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-」です。
 様々な資料を博捜された上で、問題の本質に迫る井上正信弁護士の見識には常に敬意を抱いてきました。今回の論考も、南シナ海、アフリカ、中東という地域ごとに、これまで自衛隊がどのような活動を行ってきたかを踏まえつつ、安保法制によってどのような事態が想定されるのかについて、信頼すべき見通しを提示してくれます。
 是非皆さまにも通読されることをお奨めします。
 
【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信
2016年2月9日
安保法制の近未来①-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-

(抜粋引用開始)
南シナ海でプレゼンスを増す自衛隊
1 安保法制は本年3月末までに施行されます。政府、防衛省、米太平洋軍との間では、施行に向けて既に着々と既成事実の積み上げが進んでいます。
 安保法制を私たちは「戦争法」と断じてその危険性を訴えてきましたが、安保法制が施行された場合の具体的な危険性は、現在進行している安保法制施行準備の中ではっきりと浮かんできます。
 安保法制は2015年4月に日米間で合意された新しい日米防衛協力の指針(新ガイドライン)を実行するための法制です。新ガイドラインで合意された日米の軍事協力には、安保法制施行を前提にしなければ、公然と実施できない内容が多く含まれているからです。安保法制施行準備の動きをフォローしてゆく上では、新ガイドラインがどのように実行されようとしているのかということも見てゆかなければならないでしょう。そのことから安保法制の問題がより明らかになると思います。
2 新ガイドラインと安保法制は南シナ海での日米共同の軍事行動を目指しています。2012年8月に発表されたアーミテージ・ナイ第3レポートは、集団的自衛権行使を強く勧奨しながら、日米同盟の軍事的協力関係拡大の可能性がある分野として、ペルシャ湾の機雷掃海南シナ海での共同の警戒監視だとし、ホルムズ海峡の封鎖と南シナ海での武力紛争は、日本の安全保障と安全に深刻な影響を与えると述べています。
3 略(「航行の自由作戦」への支持とベトナムとの関係強化)
4 略(フィリピンとの軍事関係強化、訪問軍協定の交渉開始?)
5 略(2014年10月~11月「日米共同海外巡航訓練」を南シナ海に拡大)
6 昨年11月の南シナ海を巡る安倍首相、菅官房長官、中谷防衛大臣の発言や動きは、安保法制成立により浮上したものではなく、それまでに積み重ねられた日米の軍事協力を踏まえて、安保法制の制定によりこれをさらに進展させることを表明したものと考えるべきでしょう。
 日米の共同演習は、防衛省設置法第4条(防衛省の所掌事務)第9号「所掌事務の遂行に必要な教育訓練」を根拠に行われてきました。しかしながら、そこで行われている共同演習の内容は、集団的自衛権や米艦防護を前提にしたものです。2014年の「日米共同海外巡航訓練」での対潜戦、対水上戦、対空戦の共同訓練は、南シナ海で中国海軍の原子力潜水艦の索敵、威嚇や、中国海軍戦闘艦に対する威嚇、攻撃、防護、中国空軍戦闘機に対する威嚇、防空、攻撃の演習が含まれていたのかもしれません。海上自衛隊の対潜哨戒能力は世界トップレベルです。
 キーン・ソード演習や「日米共同海外巡航訓練」の内容は、憲法第9条に違反するものです。安保法制で米艦防護や、いざというときには集団的自衛権行使、戦闘地域での後方支援にも踏み込むことが可能な法制度ができましたので、今後の日米共同演習の内容は、これまで以上に実戦的なものになるのではないでしょうか。中国は「航行の自由作戦」に対して抗議をしましたが、総体的には抑制を効かせた対応をしました。米中の軍事交流はその後も続いています。しかしながら、自衛隊南シナ海での共同演習や警戒監視活動などの軍事行動をとる事態となればそうはいかないと思います。
7 日中間には歴史問題が横たわっており、自衛隊南シナ海で軍事活動を行えば、中国にとっての核心的利益、いわば「裏庭」とも言うべき地域ですから、対中軍事挑発と受け止められかねず、中国国内での反日ナショナリズムの高まりから(「日本にだけはぜったいに譲れない」!)、米国に対するような抑制的な対応は期待できなくなるでしょう。とりわけ南シナ海はアジア太平洋戦争期には日本の侵略に対して激戦が戦わされた地域です。
8 自衛隊が米軍とともに南シナ海での軍事行動を行うことの危険性はとても大きいものがあります。米艦防護や自衛隊自身の武器等防護活動が、中国との大規模な武力紛争に発展することを懸念せざるを得ません。
(引用終わり)
 
2016年2月12日
安保法制の近未来②--狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-

(抜粋引用開始)
スーダンはアフリカ大陸進出の実験場
9 南スーダンには国連PKO(UNMISS)が派遣されており、それに協力するために、改正前のPKO協力法で陸自の施設部隊を中心にした約350名の部隊が派遣されています。主たる任務は、道路などのインフラ構築で人道復興支援です。UNMISSは2011年7月8日、安保理決議1996号で創設されたものです。スーダン内戦を経て南スーダンが分離独立し、新たに南スーダン共和国が誕生しました。UNMISSは、スーダン内戦後の平和構築と南スーダン共和国の建国を援助するというものでした。
 ところが、独立後の南スーダン政府内では大統領派と副大統領派の対立が深刻化し、2013年7月に副大統領が罷免されたことからその後内戦となり、深刻な人道的危機が引き起こされる事態となりました。国連安保理は2014年5月27日、決議2155号によりUNMISSの任務を変更して住民保護に重点を置き、そのための国連憲章第7章による武力行使権限を付与しました。
10 自衛隊派遣部隊は当初の安保理決議1996号を受けて派遣されました。しかしその後の南スーダンの内戦により、PKO参加5原則は崩れたはずですが、撤退しないまま国連施設内にとどまって活動を続けています。安保理決議2155号によりUNMISSの性格と任務は大きく変化して、UNMISSのPKF部隊と武装勢力との激しい戦闘も想定されていました。実際に南スーダン政府軍がPKF部隊を攻撃したこともあったようです。2013年12月にはUNMISSへ派遣されていた韓国軍から、自衛隊派遣部隊へ銃弾1万発の提供の依頼がなされ、政府がそれを承認して提供したという出来事がありましたが、それは政府軍と反政府武装勢力との激しい内戦に直面して韓国軍派遣部隊が危機に直面したからでした。
11 略(2014年1月、自衛隊派遣部隊長は隊員に射撃許可を出した)
12 略(南スーダンの現状と任務拡大で予想される危険)
13 南スーダンでの自衛隊派遣はそれだけで終わる問題ではなさそうです。これを実験場にして、さらに日本政府と自衛隊は米アフリカ統合軍(AFRICOM)との軍事的連携を強化することを目指しています。
 2013年12月に閣議決定された新防衛計画大綱(25大綱)には、「国際平和協力活動等を効果的に実施する観点から(中略)自衛隊がジプチに有する拠点を一層活用するための方策を検討する。」と書き込まれています。ジプチはアフリカ大陸と中東をにらむ戦略拠点なのです。
 略(2014年12月18日、統合幕僚長ペンタゴンを訪問しジプチ自衛隊基地の積極的活用を明言、安倍首相もジプチ基地の活用を否定せず)
 中国がアフリカ大陸への経済進出と政治的影響力の拡大に積極的に動いており、日本は米国の副官としてアフリカを舞台に中国をけん制する動きをしています。
 その意味で今後将来にわたり、アフリカ大陸は日米にとり戦略的重要地域と思われます。2007年にAFRICOMを創設したのは、米国がアフリカ大陸への軍事的、政治的覇権を及ぼすためであったのでしょう。ジプチはこのような米国の戦略に日本が協力するための重要な拠点基地となるはずです。日本政府は、ジプチを拠点として南スーダン以外にもアフリカでのPKO活動へ自衛隊を派遣するつもりではないでしょうか。その際に安保法制が機能することになるでしょう。自衛隊は今後アフリカ各地のPKO活動に参加し、アフリカ各地での部族紛争、内戦などに巻き込まれる恐れがあります。
14 略(安倍政権のアフリカへの強い関心)
15 国連PKO活動は、停戦合意や受け入れ同意を前提にした兵力引き離しや停戦監視活動(ゴラン高原キプロスカシミールなど)や、新たな国家を建国・再建するための支援(カンボジア東チモールなど)から、住民保護へと大きく変質してきています。2000年以降のPKOは、安保理決議により武力行使権限が付与されるようになっています。内戦が収束していない状態や、武装勢力が活動しているような状態で、派遣されたPKOは住民保護や治安維持活動とそのための武力行使権限を付与されています。いわば維持すべき平和がない状態での平和維持活動です。
 南スーダンPKOがそうなっています。アフリカでの多くのPKO活動も同様です。
 安保法制で改正されたPKO協力法はこのようなPKOの変質に対応するものです。安保法制で新たに付け加わった活動である「住民保護、特定地域の治安維持活動」(第3条5号ト)、「駆けつけ警護活動」(第3条5号ラ)、「宿営地共同防護」(第25条7項)や任務遂行のための武器使用(第26条1項)がそれです。これらの任務や武器使用権限を付与された自衛隊は、派遣地域で治安維持活動や住民保護活動、それを妨害する武装勢力に対する戦闘行為を行うことが可能になります。
(引用終わり)
 
2016年2月24日
安保法制の近未来③--狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ-

(抜粋引用開始)
これからも自衛隊派遣の主要舞台になる中東
16 ISに対する攻撃作戦への自衛隊の後方支援が安保法制で可能になりました。現在イラクではイラク軍とIS部隊、シリアではシリア政府軍とIS部隊との地上戦闘が行われ、ロシア、米国、フランス、イギリス、アラブ諸国などがそれぞれの政治的思惑をもって空爆作戦を遂行しています。米国は少数の特殊部隊を派遣して地上戦闘を支援しています。
 ISに対して国連安保理はこれまでいくつかの決議を採択しています。2014年9月24日決議2178号は、ISへ参加目的での渡航禁止措置を国連加盟国へ要請するものです。2015年2月12日決議2199号は経済制裁決議です。2015年11月13日のパリでのテロ事件を受けた2015年11月20日安保理決議2249号はIS非難決議です。
 いずれの安保理決議も加盟国に対して武力行使権限を付与するものではありません。しかし、安保法制の一部として成立した国際平和支援法では「当該事態に関連して国連加盟国の取り組みを求める決議」を受けて、当該事態に対処する活動をしている外国軍隊への後方支援が可能となっています。上記の国連安保理決議がこれに該当します。
 ISに対する空爆作戦だけでISを敗北させてその支配地域を奪還し、ISを消滅させることは不可能であることは、国際社会の共通認識です。ISに対する地上戦闘に米国が参加する事態にでもなれば、米国政府が日本政府の後方支援を要請してくることは十分考えられます。国際平和支援法で可能となっている後方支援を日本政府が拒否することはありえないでしょう。
 現在ISによるテロ活動は拡大しています。パリに続いて1月21日インドネシアの首都ジャカルタでも起きました。さらにドイツやイギリスでもテロ攻撃を狙っていると報道されています。パリのテロ事件を受けてフランス軍が地中海へ空母を派遣して空爆を強化したことで、ドイツはフランスに対して軍事支援を行っているからです。日本がISとの戦闘行為の後方支援活動を行えば、日本もISによるテロ攻撃の標的にされると考えておかなければなりません。
17 略(ISへの各国による攻撃の国際法上の位置付けについて)
18 1990年代から自衛隊は海外へ派遣され始めました。最初は湾岸戦争が終結した後にペルシャ湾掃海母艦を含む6隻の掃海部隊が派遣されました。自衛隊法第84条の2の機雷掃海規定を拡大解釈して行われたのでした。その後1992年にはPKO協力法が制定されました。その前身は、湾岸戦争多国籍軍への後方支援を意図した国際平和協力法案でした(廃案になりました)。2001年の同時多発テロを受けて、同年にテロ対策特措法が制定され、アラビア海海上自衛隊給油艦護衛艦が派遣されました。2003年にはイラク特措法が制定されて、イラクサマーワ陸自部隊とクゥエートへ航空自衛隊が派遣されました。2012年には海賊対処法が制定されて、ソマリア沖やオマーン湾での海賊対処のために護衛艦とP3C対潜哨戒機2機が派遣されました。そして南スーダンです。こうしてみると、自衛隊の海外派遣は中東を中心にして行われてきたことがわかります。
 今後も中東地域へ自衛隊派遣の動きは続くでしょう。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2014年2月9日
井上正信氏『国家安全保障戦略、新防衛計画大綱、中期防衛力整備計画を憲法の観点から読む』を通じて学ぶ
2014年4月16日
安保法制懇「報告書」に直ちに反撃するために~井上正信弁護士の論考を参考に

2015年4月30日
開催予告・井上正信氏講演会(6/12和歌山弁護士会「市民集会 安全保障法制の内容と問題点」)
2015年11月20日
半田滋さんのミニ講演「安保法で自衛隊はどう変わるのか」(11/19)に注目した
2016年1月1日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」①動画編(付・札幌企画(1/30)のご案内)
2016年2月5日
国連PKOの変質を追及した志位和夫日本共産党委員長(1/27本会議&2/4予算委員会)
2016年2月14日
「自衛隊を活かす会」シンポジウムから学ぶ「南シナ海―警戒監視のための自衛隊派遣をどう見るか」②テキスト編(付・札幌シンポ(1/30)の動画紹介)