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沖縄県と国との和解条項(2016年3月4日・福岡高裁那覇支部)を読んで考えた

 今晩(2016年3月4日)配信した「メルマガ金原No.2385」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
沖縄県と国との和解条項(2016年3月4日・福岡高裁那覇支部)を読んで考えた

 今日は、別のテーマを取り上げるつもりでしたが、福岡高等裁判所那覇支部において、国と沖縄県との間で和解が成立したという事態を受け、取り急ぎ速報的に和解内容を確認しておきたいと思います。
 まず、和解の概要を伝えた報道を引用します。
 
琉球新報 2016年3月4日 13:58
国と県、和解が成立 辺野古訴訟 工事中断し再協議へ

(引用開始)
 名護市辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐり、国が翁長雄志知事を訴えた代執行訴訟で、4日正午ごろ、福岡高裁那覇支部で国と県の和解が成立した。
 成立した和解内容は、国が代執行訴訟や埋め立て承認取り消しの執行停止などを取り下げ、工事を中断した上で、県と国が問題を再協議し、折り合いが付かなければ「最後の手段」とされる代執行よりも強権的ではない、地方自治法に基づく是正指示や違法確認訴訟をやり直し、決着を促す内容。
 同日午後、安倍晋三首相は、官邸で記者団に「裁判所の意向に沿って和解を決断した。今回の和解内容を誠実に実行することとし、埋め立て工事を中止する」と述べ、和解案の受け入れを明言した。  
(引用終わり)
 
沖縄タイムス=共同通信 2016年3月4日 18:23
首相、和解条項「誠実に実行」 翁長・沖縄知事と会談

(引用開始)
 安倍晋三首相は4日午後、翁長雄志沖縄県知事と官邸で会談し、米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる代執行訴訟で、福岡高裁那覇支部が示した工事中止を含めた和解の成立について「本当に良かった。(和解条項を)誠実に実行していきたい」と述べた。翁長氏も「大変意義がある」と述べた。会談には菅義偉官房長官が同席した。
 和解条項では、国や県が原告となり現在係争中の訴訟をそれぞれ取り下げることで合意。その上で、知事による埋め立て承認を取り消した処分に対し、国が是正指示をするところから手続きをやり直す。今後起こされる訴訟では双方が判決に従うとの内容。
(引用終わり)
 
 上京中の翁長知事に代わり、沖縄県庁で記者会見した安慶田光男副知事の読み上げコメントをご紹介します。
 
副知事読み上げ文(和解の成立を受けて)
(引用開始)
 本日、代執行訴訟及び関与取消訴訟について和解が成立致しました。
 和解の詳細な内容については弁護士から報告させていただきますが、和解条項はおおむね、
 第1に、国土交通大臣は代執行訴訟を取り下げ、沖縄防衛局長は審査請求を取り下げる。沖縄防衛局長は埋立工事を直ちに停止する。沖縄県知事は、関与取消訴訟を取り下げる。
 第2に、国と県は、円満解決に向けた協議を行う。
 第3に、仮に訴訟となった場合は、判決後、国と県は相互に判決に沿った手続を実施することを確約する。
という内容であります。
 今回の和解内容は、代執行訴訟等における県の主張に沿ったものであることから、県としましては、これを受け入れるべきであると判断しました。
 特に、本和解の成立により、辺野古埋立工事が停止することは、非常に意義があるものと考えております。
 裁判所には、双方の話し合いによる解決について格段のご尽力をいただいたことに、心から感謝申し上げます。
                平成28年3月4日
              沖縄県副知事 安慶田 光男
(引用終わり)
 
 今回、福岡高裁那覇支部で和解が成立したのは、以下の2つの事件についてです。
 
平成27年(行ケ)第3号
地方自治法第245条の8第3項の規定に基づく埋立承認処分取消処分取消命令請求事件
原 告 国土交通大臣 石 井 啓 一
被 告 沖縄県知事 翁 長 雄 志
 
平成28年(行ケ)第1号
地方自治法第251条の5に基づく違法な国の関与の取消請求事件
原 告 沖縄県知事 翁 長 雄 志
被 告 国土交通大臣 石 井 啓 一
 
 上記の内、平成27年(行ケ)第3号事件につき、福岡高等裁判所那覇支部が本年1月29日に両当事者に提示した「和解勧告文」が沖縄県のホームページ(知事公室辺野古新基地建設問題対策課)に掲載されていますので(和解の成立をうけて今日アップされたのかもしれません)、これを転記したいと思います。
 
代執行訴訟和解勧告文
(引用開始)
(注記 和解手続は非公開で行われることにご留意いただき、本書面は当事者限りとしていただきたい。)
 現在は、沖縄対日本政府という対立の構図になっている。それは、その原因についてどちらがいい悪いという問題以前に、そうなってはいけないという意味で双方ともに反省すべきである。就中、平成 11年地方自治法改正は、国と地方公共団体が、それぞれ独立の行政主体として役割を分担し、対等・協力の関係となることが期待されたものである。このことは法定受託事務の処理において特に求められるものである。同改正の精神にも反する状況になっている。
 本来あるべき姿としては、沖縄を含めオールジャパンで最善の解決策を合意して、米国に協力を求めるべきである。そうなれば、米国としても、大幅な改革を含めて積極的に協力をしようという契機となりうる。
 そのようにならず、今後も裁判で争うとすると、仮に本件訴訟で国が勝ったとしても、さらに今後、埋立承認の撤回がされたり、設計変更に伴う変更承認が必要となうたりすることが予想され、延々と法廷闘争が続く可能性があり、それらでも勝ち続ける保証はない。むしろ、後者については、知事の広範な裁量が認められて敗訴するリスクは高い。仮に国が勝ち続けるにしても、工事が相当程度遅延するであろう。他方、県が勝ったとしても、辺野古移設が唯一の解決策だと主張する国がそれ以外の方法はありえないとして、普天間飛行場の返還を求めないとしたら、沖縄だけで米国と交渉して普天間飛行場の返還を実現できるとは思えない。
 そこで、以上の理由から、次のとおり和解案を2案提示する。まずは、A案 を検討し、否である場合にB案 を検討されたい。なおA案B案ともアウトラインを示したものであり、手直しの余地はあるので、前向きな提案があれば考慮する。
 A案 被告は埋立承認取消を取り消す。原告(国)は、新飛行場をその供用開始後30年以内に返還または軍民共用空港とすることを求める交渉を適切な時期に米国と開始する。返還等が実現した後は民間機用空港として国が運営する。原告(国)は、埋立工事及びその後の運用たおいて、周辺環境保全に最大限の努力をし、生じた損害については速やかに賠償することとする。国は、普天間飛行場の早期返還に一層努力し、返還までの間は、特段の事情変更がない限り、普天間爆音訴訟一審判決(那覇地裁沖縄支部平成24年(ワ)第290号等)の基準(コンター図w75区域及びw80区域居住者につきそれぞれw75は一日150円、w80は300円とするもの)に従って、任意に損害を賠償する。被告(県)は、原告(国)がこれらを遵守する限りにおいて埋立工事及びその後の運用に協力する。
 B案 原告は、本件訴訟を、沖縄防衛局長は原告に対する行政不服審査法に基づく審査請求をそれぞれ取り下げる。沖縄防衛局長は、埋立工事を直ちに中止する。原告と被告は違法確認訴訟判決まで円満解決に向けた協議を行う。被告と原告は、違法確認訴訟判決後は、直ちに判決の結果に従い、それに沿った手続を実施することを相互に確約する。
                                        以上
(引用終わり)
 
 裁判所がどういう意図でA案、B案という2つの案を提示したのかよく分かりませんが、1つの解釈は、裁判所としても、沖縄県がA案をのむとは考えておらず(これをのんだら翁長知事は完全な公約違反になりますからね)、主眼はB案であったものの、いきなりB案だけを勧告しても国がのってこない可能性があるので、A案という餌を撒いた(少し表現が悪いですかね)ということが考えられます。あくまで1つの解釈に過ぎませんが。
 
 そして、本日成立した和解条項は、当然ながらB案に沿ったものです。以下に和解条項全文を引用します。
 
平成28年(2016年)3月4日に双方が受諾した「和解条項」
(引用開始)
1 当庁平成27年(行ケ)第3号事件原告(以下「原告」という。)は同事件を、同平成28年(行ケ)第1号事件原告(以下「被告」という。)は同事件をそれぞれ取り下げ、各事件の被告は同取下げに同意する。
2 利害関係人沖縄防衛局長(以下「利害関係人」という。)は、被告に対する行政不服審査法に基づく審査請求(平成27年10月13日付け沖防第4514号)及び執行停止申立て(同第4515号)を取り下げる。利害関係人は、埋立工事を直ちに中止する。
3 原告は被告に対し、本件の埋立承認取消に対する地方自治法245条の7所定の是正の指示をし、被告は、これに不服があれば指示があった日から1週間以内に同法250条の13第1項所定の国地方係争処理委員会への審査申出を行う。
4 原告と被告は、同委員会に対し、迅速な審理判断がされるよう上申するとともに、両者は、同委員会が迅速な審理判断を行えるよう全面的に協力する。
5 同委員会が是正の指示を違法でないと判断した場合に、被告に不服があれば、被告は、審査結果の通知があった日から1週間以内に同法251条の5第1項1号所定の是正の指示の取消訴訟を提起する。
6 同委員会が是正の指示が違法であると判断した場合に、その勧告に定められた期間内に原告が勧告に応じた措置を取らないときは、被告は、その期間が経過した日から1週間以内に同法251条の5第1項4号所定の是正の指示の取消訴訟を提起する。
7 原告と被告は、是正の指示の取消訴訟の受訴裁判所が迅速な審理判断を行えるよう全面的に協力する。
8 原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定まで普天間飛行場の返還及び本件埋立事業に関する円満解決に向けた協議を行う。
9 原告及び利害関係人と被告は、是正の指示の取消訴訟判決確定後は、直ちに、同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続を実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する。
10 訴訟費用及び和解費用は各自の負担とする。
(引用終わり)
 
 和解条項中の地方自治法の条項を引用しておきます。
 
地方自治法(昭和二十二年四月十七日法律第六十七号)
(是正の指示)
第二百四十五条の七
 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
2 次の各号に掲げる都道府県の執行機関は、市町村の当該各号に定める法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該市町村に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
一 都道府県知事 市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の担任する法定受託事務
二 都道府県教育委員会 市町村教育委員会の担任する法定受託事務
三 都道府県選挙管理委員会 市町村選挙管理委員会の担任する法定受託事務
3 各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、前項各号に掲げる都道府県の執行機関に対し、同項の規定による市町村に対する指示に関し、必要な指示をすることができる。
4 各大臣は、前項の規定によるほか、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認める場合、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認める場合において、緊急を要するときその他特に必要があると認めるときは、自ら当該市町村に対し、当該第一号法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

(国の関与に関する審査の申出)
第二百五十条の十三
 普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるもの(次に掲げるものを除く。)に不服があるときは、委員会(金原注:国地方係争処理委員会)に対し、当該国の関与を行つた国の行政庁を相手方として、文書で、審査の申出をすることができる。
一 第二百四十五条の八第二項及び第十三項の規定による指示
二 第二百四十五条の八第八項の規定に基づき都道府県知事に代わつて同条第二項の規定による指示に係る事項を行うこと。
三 第二百五十二条の十七の四第二項の規定により読み替えて適用する第二百四十五条の八第十二項において準用する同条第二項の規定による指示
四 第二百五十二条の十七の四第二項の規定により読み替えて適用する第二百四十五条の八第十二項において準用する同条第八項の規定に基づき市町村長に代わつて前号の指示に係る事項を行うこと。

(国の関与に関する訴えの提起)
第二百五十一条の五
 第二百五十条の十三第一項又は第二項の規定による審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該審査の申出の相手方となつた国の行政庁(国の関与があつた後又は申請等が行われた後に当該行政庁の権限が他の行政庁に承継されたときは、当該他の行政庁)を被告として、訴えをもつて当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し又は当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な国の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、国を被告として提起しなければならない。
一 第二百五十条の十四第一項から第三項までの規定による委員会の審査の結果又は勧告に不服があるとき。
四 国の行政庁が第二百五十条の十八第一項の規定による措置を講じないとき。
 
 とにかく、辺野古の埋立工事が中止されたことは評価すべきだと思います。
 ただし、以上の和解条項を読んでいただければ分かると思いますが、沖縄県は、工事中止の代償として、法廷闘争の手段が制約されることを受け入れました。
 従って、今後予想される地方自治法第二百五十一条の五に基づく訴え(高等裁判所が1審裁判所となります)の重要性が飛躍的に高まり、弁護団に対するプレッシャーは相当なものになるだろうと思わざるを得ません。
 ここで、沖縄県や弁護団にエールを送るだけではなく、国の姿勢を根本的に転換させるだけの政治勢力の交替を実現することこそ、国民に課された責務だろうと思います。