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沖縄弁護士会「「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に基づく県民投票が全県下で実施されることを強く求める会長声明」を読む

 2019年1月13日配信(予定)のメルマガ金原.No.3391を転載します。
 
沖縄弁護士会「「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に基づく県民投票が全県下で実施されることを強く求める会長声明」を読む
 
 昨年10月26日に沖縄県議会で可決成立し、同月31日に公布(同日施行)された「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」に基づく県民投票が、来る2月24日に実施が予定されているところ、同条例13条で「投票資格者名簿の調製、投票及び開票の実施その他の規則で定めるものは、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の17の2の規定により、市町村が処理することとする。」とされているにもかかわらず、沖縄市宜野湾市宮古島市石垣市などが、「議会の意向を尊重する」などとして、県民投票への不参加を表明している問題に心を痛めている人も多いことと思います。
 
 正直に言って、同条例13条や、その規定が根拠を置く地方自治法252条の17の2の規定をどう読んだら、市町村に事務処理を拒否する権限があると解釈できるのか、さっぱり分かりませんでした。
 
 どうやらその理論的扇動元(?)はこれらしいという情報を沖縄タイムスがキャッチし、報道してくれたことを沖縄弁護士会の小口幸人さんのFacebookで知りました。
 
沖縄タイムス+プラス ニュース 2019年1月13日 05:00
自民系衆院議員の作成資料に県民投票「否決」への道筋 勉強会で配布
(抜粋引用開始)
 名護市辺野古の新基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票について、沖縄タイムスは12日までに、自民系衆院議員が作成し、保守系議員を対象にした勉強会などで配布された複数の資料を入手した。地方自治法(地自法)の解釈を示し、県の見解を否定する部分もある。住民から議員個人への損害賠償請求には「『門前払い』になる」と想定し、関連予算を否決することに対する議員の不安を払しょくする内容になっている。資料は予算案を否決する根拠となった可能性がある。
 自民党関係者によると、弁護士資格を持つ宮崎政久衆院議員が作成した。宮崎氏は12日、取材に「内容は後日紹介したい。レジュメはごく一部で、勉強会の中では義務的経費か、そうでないかなど、いくつかの考え方を説明した。それを聞いて、決めるのは当然、議員個人である」と答えた。
(略)
 資料では、関連予算を議会が否決した場合、地自法では市町村長が予算案を「執行できる」のであって、必ずやらなければならないわけではなく、「これに反して市町村長が予算案を執行することは議会軽視であり、不適切である」と展開している。
 実際に市議会が予算案を否決したことで、県民投票に不参加を表明した市長は一様に「議会の意向を尊重する」と理由に挙げており、この意見が反映された可能性がある。
 一方、昨年12月作成の別の資料では、議会が関連予算を否決した場合、「住民に対して損害賠償の責任を負うか」との項目では、「県民投票の結果に法的拘束力がない」「地自法で長と議会の『二元代表制』が採用されている」「県と市町村は対等な立場だ」と強調。「原告の法的利益、当事者適格を考えれば住民訴訟うんぬんは法的にあり得ない。たとえ提訴されても『門前払い』になると思慮する」と説明している。
(略)
(引用終わり)
 
 ちなみに、宮崎政久衆議院議員は、衆院沖縄2区に2012年以来3回連続して自民党公認で立候補したものの、社民党照屋寛徳氏(こちらも弁護士ですね)に3連敗を喫しながら、いずれも比例復活したという方です(一番最近の比例復活は、昨年11月に園田博之氏が死去したことにともなう繰り上げ当選)。
 そういえば、1月の通常国会召集までまだ間があるので、議員も地元で活動する時間が確保しやすく、沖縄で頑張って活動していたということなのでしょうね。
 
 ところで、昨年12月10日、日本政府が辺野古沿岸への土砂投入を始める4日前、「辺野古新基地建設が、沖縄県民にのみ過重な負担を強い、その尊厳を踏みにじるものであることに鑑み、解決に向けた主体的な取り組みを日本国民全体に呼びかけるとともに、政府に対し、沖縄県民の民意を尊重することを求める決議」という、なかなかこれ以上長い表題の決議はないだろうという渾身の総会決議を採択した沖縄弁護士会が、去る1月9日、県民投票問題についても会長声明を出してくれていましたので、以下に全文をご紹介します。
 
(引用開始)
          「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」
          に基づく県民投票が全県下で実施されることを強く求める会長声明
 
 2018(平成30)年10月26日、沖縄県議会において、「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例」(以下「辺野古県民投票条例」という。)が可決・成立した。辺野古県民投票条例は、条例制定請求者らからの地方自治法第74条第1項の規定による条例制定請求を受け、沖縄県議会において修正議決されたものである。同条例に基づく投票(以下「県民投票」という。)は、本年2月24日に実施されることが予定されている。  
 辺野古県民投票条例は、普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに関し、県民の意思を的確に反映させることを目的とするものであるところ(同条例1条)、同条例に基づく県民投票は、個々の県民が自らの政治的意思を表明するとともに、直接、県の意思形成に参加する機会を提供するものであり、表現の自由及び民主主義の見地から、極めて重要な意義を有している。また、地方自治体の意思決定がその構成員である住民の参加と同意に基づいて行われることが重要であるとする住民自治の観点からも、その意義は大きい。  
 ところで、県民投票に関する事務は知事が執行するものであり(同条例3条)、投票資格者名簿の調製、投票及び開票の実施等(以下「投票事務」という。)は、地方自治法252条の17の2の規定により、市町村が処理することとされているところ(同条例13条)、近時、複数の県内市町村の首長が、県民投票への不参加、つまり投票事務を実施しないことを表明する事態が相次いでいる。  
 しかしながら、前述のような県民投票の意義に照らせば、辺野古県民投票条例により投票資格を有する者(同条例第5条。以下「投票資格者」という。)には、全て等しく投票の機会が保障されなければならず、一部市町村首長の判断を受け、当該市町村において投票事務が行われないことにより、当該市町村に居住する投票資格者の投票の機会が失われることがあれば、それは、当該投票資格者の政治的意思を表明する権利をないがしろにし、直接民主主義の意義を没却する、由々しき事態といわなければならない。
 
 辺野古県民投票条例は、有効署名数9万2848筆にのぼる県民の条例制定請求に基づき、県民の負託を受けた沖縄県議会において可決・成立した法令である。市町村首長の判断で同法令に基づく投票事務が行われないことは、このような民主的プロセスを経て制定された法令を市町村首長の判断で無力化し、その結果、一部の県民から県の意思形成に参加する機会を奪うものであって、決して許されるものではない。また、同じ投票資格者でありながら、たまたま居住している地域によって投票できる者とできない者が生じることは、法の下の平等の見地からも、極めて不合理というべきである。  
 
 県民投票の実施に賛成しない県民は、県民投票を棄権する、白票を投ずるなどの方法により、その意思を的確に表明することが可能である。そのため、かような県民の意思をおもんばかり、投票を望む県民の政治的表現及び民主主義的参加の機会を損なってまで投票事務を実施しないとする判断は、その意味においても正しいものということはできない。
 
 以上のことから、当会は、この度の県民投票において、県内の全ての市町村に居住する投票資格者に投票の機会が保障されるよう、沖縄県及び県内各市町村が協力して、全県下で投票事務が実施されることを強く求めるものである。
 
                   2019年(平成31年)1月9日     
                      沖縄弁護士会         
                       会 長  天 方   徹
(引用終わり)
 
 どうでしょうか?読み通してみてどこか引っかかるところがありますか?私は「ない」と思いました。ということは、論理の筋道がしっかり通っている証です。
 
 これを、さらに憲法の視点から、投票不参加を表明した首長の判断を批判する論考が、1月10日に沖縄タイムス+に掲載されました。
 同紙に「憲法の新手(しんて)」という連載を続けている木村草太氏(首都大学教授・憲法学)による緊急寄稿「県民投票不参加は憲法違反」です。
 その主要部分を引用しましょう(全文ネットで公開されていますので、是非リンク先で全文をお読みください)。
 
沖縄タイムス+ 2019年1月10日 11:57
木村草太氏が緊急寄稿 「県民投票不参加は憲法違反」 2019年1月10日 11:57
(抜粋引用開始)
(略)
 しかし、宜野湾市宮古島市で、県民投票の事務処理を拒否する動きが進んでいる。この動きには、地方自治法・県条例のみならず、憲法の観点からも問題がある。
 一番の問題は、憲法14条1項が定める「法の下の平等」に反することだ。一部の市町村で事務執行がなされないと、住んでいる場所によって「投票できる県民」と「投票できない県民」の区別が生じる。「たまたま特定の市や町に住んでいた」という事実は、県条例で与えられた意見表明の権利を否定するだけの「合理的な根拠」とは言えない。したがって、この区別は不合理な区別として、憲法14条1項違反だ。
(略)
 この点については、昭和33年(1958年)の最高裁判決が、「憲法が各地方公共団体条例制定権を認める以上、地域によって差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところ」との判断を示していることから、自治体間の差異は許されるのではないか、との疑問を持つ人もいるかもしれない。
 しかし、この判決は、各自治体の条例内容の差異に基づく区別についての判断だ。今回は、各市町村が自らの事務について独自の条例を定める場面ではなく、県条例で与えられた県民の権利を実現する責任を負う場面だ。最高裁判例の考え方からも、地域による差別は許容されない。
 さらに、平等権以外にも、問題となる権利がある。県民投票は、県民全てに開かれた意見表明の公的な場である。県民の投票へのアクセスを否定することは、憲法21条1項で保障された「表現の自由」の侵害と認定される可能性もある。さらに、憲法92条の規定する住民自治の理念からすれば、「県政の決定に参加する権利」は、新しい権利として憲法13条によって保護されるという解釈も成り立ちうる。
 このように考えると、各市町村の長や議会には、県民の憲法上の権利を実現するために、「県民投票に関わる事務を遂行する義務」がある。議会が関連する予算案を否決したり、長が地方自治法177条の原案執行を拒否したりするのは、この義務に反する。訴訟を検討する住民もいると報道されているが、市町村が事務執行を拒否した場合、裁判所も厳しい判断をする可能性がある。
(略)
 ちなみに、県条例は棄権の自由を認めているから、県民投票反対の県民は、市長や市議会議員に代表してもらわなくても、棄権という形で抗議の意思を表明できる。市民全員に棄権を強制することは不合理だ。
(略)
 県民投票は、県民の重要な意見表明の機会だ。沖縄県内の市町村長・議会議員の方々には、ぜひ、県民の権利を実現する憲法上の義務のことも考えてほしい。(首都大学東京教授、憲法学者
(引用終わり)
 
 以下に、参考のため、辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例の全文、それから地方自治法日本国憲法の関連条文を引用しておきますので、是非ご自分でも考えてみていただければと思います。
 
沖縄県条例第62号
辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票条例
 (目的)
第1条 この条例は、普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立て(以下「本件埋立て」という。)に対し、県民の意思を的確に反映させることを目的とする。
 (県民投票)
第2条 前条の目的を達成するため、本件埋立てに対する賛否についての県民による投票(以下「県民投票」という。)を実施する。
 (県民投票事務の執行)
第3条 県民投票に関する事務は、知事が執行する。
(県民投票の実施等)
第4条 県民投票は、この条例の公布の日から起算して6月以内に実施しなければならない。
2 県民投票の期日(以下「投票日」という。)は、知事が定め、投票日の10日前までにこれを告示しなければならない。
 (投票資格者等)
第5条 県民投票において投票を行う資格を有する者(以下「投票資格者」という。)は、前条第2項の規定による告示の日の前日において、公職選挙法(昭和25年法律第100号)第9条の規定により、沖縄県の議会の議員及び知事の選挙権を有する者(同法第11条第1項若しくは第252条又は政治資金規正法(昭和23年法律第194号)第28条の規定により選挙権を有しない者を除く。)とする。
2 知事は、投票資格者名簿を調製しなければならない。
 (投票の方法)
第6条 投票は、1人1票に限る。
2 投票資格者は、投票日に自ら投票所に行き、投票資格者名簿又はその抄本の対照を経て、投票をしなければならない。
3 投票資格者は、本件埋立てに賛成するときは投票用紙の賛成の記載欄に○の記号を、これに反対するときは反対の記載欄に○の記号を自ら記載しなければならない。この場合において、投票資格者は、投票用紙を自ら投票箱に入れなければならない。
4 投票用紙には、投票資格者の氏名を記載してはならない。
 (点字投票等)
第7条 前条第3項前段の規定にかかわらず、投票資格者は、点字による投票を行う場合においては、投票用紙に、本件埋立てに賛成するときは賛成と、反対するときは反対と自ら記載するものとする。この場合において、規則で定める点字は文字とみなし、投票用紙の様式その他必要な事項は、規則で定める。
2 前条第3項並びに第9条第2項及び第3項の規定にかかわらず、心身の故障その他の事由により、自ら○の記号を記載することができない投票資格者は、規則で定めるところにより代理投票をさせることができる。
3 前条第2項及び第3項後段の規定にかかわらず、規則で定める事由により、投票日に自ら投票することができないと見込まれる投票資格者は、規則で定めるところにより投票をすることができる。
 (投票の秘密保持)
第8条 何人も、投票資格者の投票した内容を陳述する義務はない。
 (投票の効力)
第9条 投票の効力の決定に当たっては、次項又は第3項の規定に反しない限りにおいて、投票した投票資格者の意思が明白であれば、その投票を有効とする。
2 点字投票以外の投票については、次の各号のいずれかに該当する投票は、無効とする。
(1) 所定の投票用紙を用いないもの
(2) ○の記号を賛成の記載欄及び反対の記載欄のいずれにも記載したもの
(3) ○の記号以外の事項を記載したもの
(4) ○の記号を自ら記載しないもの
(5) ○の記号を賛成の記載欄又は反対の記載欄のいずれに対して記載したかを確認し難いもの
3 点字投票(第7条第3項の規定による投票であって、点字により行われるものを含む。)については、次の各号のいずれかに該当する投票は、無効とする。
(1) 所定の投票用紙を用いないもの
(2) 賛成の文字及び反対の文字をともに記載したもの
(3) 賛成の文字又は反対の文字のほか、他事を記載したもの
(4) 賛成の文字又は反対の文字を自ら記載しないもの
(5) 賛成の文字又は反対の文字のいずれを記載したかを確認し難いもの
 (投票結果の尊重等)
第10条 知事は、県民投票の結果が判明したときは、速やかにこれを告示しなければならない。
2 県民投票において、本件埋立てに対する賛成の投票の数又は反対の投票の数のいずれか多い数が投票資格者の総数の4分の1に達したときは、知事はその結果を尊重しなければならない。
3 前項に規定する場合において、知事は、内閣総理大臣及びアメリカ合衆国大統領に対し、速やかに県民投票の結果を通知するものとする。
 (情報の提供)
第11条 知事は、県民が賛否を判断するために必要な広報活動を行うとともに、情報の提供に努めなければならない。
2 前項の広報活動及び情報の提供は、客観的かつ中立的に行うものとする。 
 (投票運動)
第12条 県民投票に関する投票運動は、自由とする。ただし、買収、脅迫等により県民の自由な意思が制約され、又は不当に干渉されるものであってはならない。
 (事務処理の特例)
第13条 第3条に規定する知事の事務のうち、投票資格者名簿の調製、投票及び開票の実施その他の規則で定めるものは、地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の17の2の規定により、市町村が処理することとする。
 (委任)
第14条 この条例の施行に関して必要な事項は、規則で定める。
   附 則
 この条例は、公布の日から施行する。
 
地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)抜粋
 (条例による事務処理の特例)
第二百五十二条の十七の二 都道府県は、都道府県知事の権限に属する事務の一部を、条例の定めるところにより、市町村が処理することとすることができる。この場合においては、当該市町村が処理することとされた事務は、当該市町村の長が管理し及び執行するものとする。
2 前項の条例(同項の規定により都道府県の規則に基づく事務を市町村が処理することとする場合で、同項の条例の定めるところにより、規則に委任して当該事務の範囲を定めるときは、当該規則を含む。以下本節において同じ。)を制定し又は改廃する場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その権限に属する事務の一部を処理し又は処理することとなる市町村の長に協議しなければならない。
3 市町村の長は、その議会の議決を経て、都道府県知事に対し、第一項の規定によりその権限に属する事務の一部を当該市町村が処理することとするよう要請することができる。
4 前項の規定による要請があつたときは、都道府県知事は、速やかに、当該市町村の長と協議しなければならない。
 
日本国憲法(昭和二十一年憲法)抜粋
十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。