2017年10月31配信(予定)のメルマガ金原.No.2972を転載します。
予定では、会員の弁護士が分担して、
第2トーク 緊急事態条項
についてお話する予定です。
このうち、9条加憲論と緊急事態条項については、既に相当の議論の積み重ねがあり、短い時間でどうまとめるかが担当者の腕の見せ所だと思いますが、第3トークに割り振った「教育無償化+参議院の合区解消」は、憲法論として何をどう論じたらよいのか、担当者もとまどっているのではないかと、企画者(プロデューサー)的立場にある私は想像しています。
今日は、そのうちの「参議院の合区解消」について取り上げてみます。
第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
○2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)
第三章 選挙に関する区域
(選挙の単位)
3 略
4 略
(参議院選挙区選出議員の選挙区)
第十四条 参議院(選挙区選出)議員の選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数は、別表第三で定める。
別表第三(第十四条関係)
選挙区 議員数
附 則(平成二七年八月五日法律第六〇号)
第七条 平成三十一年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、参議院の在り方を踏まえて、選挙区間における議員一人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い、必ず結論を得るものとする。
上記のとおり、平成27年公職選挙法改正により、鳥取県及び島根県、徳島県及び高知県でいわゆる合区が行われ(法文上は「二の都道府県の区域を区域とする参議院(選挙区選出)議員の選挙区」と表記~同法5条の6以下)、平成28年(2016年)参議院議員通常選挙から、合区となった区域で選挙が実施されました。これに対し、全国知事会をはじめとする多くの団体から反発の声が上がり、参議院自民党も強く合区解消を主張したことが、今回、同党の改憲4項目の中に「参議院の合区解消」が盛り込まれた理由でしょう。
それでは、合区解消を求める側の主要な論拠は何でしょうか?ここでは、全国知事会が昨年(2016年)及び今年(2017年)採択した決議をご紹介しておきます。
参議院選挙における合区の解消に関する決議
(引用開始)
日本国憲法が昭和 21 年 11 月3日に公布されて以来、今日に至るまでの 70年間、二院制を採る我が国において、参議院は一貫して都道府県単位で代表を選出し、地方の声を国政に届ける役割を果たしてきた。
去る7月 10 日に憲政史上初の合区による選挙が実施されたが、意思形成を図る上での都道府県が果たしてきた役割を考えたときに、都道府県ごとに集約された意思が参議院を通じて国政に届けられなくなるのは非常に問題である。
また、投票率の低下や選挙区において自県を代表する議員が出せないことなど、合区を起因とした弊害が顕在化しており、合区解消を求める声が大きなものとなっている。
我が国が直面する急激な人口減少問題をはじめ、この国のあり方を考えていく上でも、多様な地方の意見が、国政の中で、しっかりと反映される必要がある。
今回の合区による選挙はあくまで緊急避難措置として、公職選挙法の附則において、抜本的な見直しが規定されていることもあり、合区を早急に解消させる対応が図られるよう求める。また、同時に将来を見据え、最高裁の判例を踏まえ憲法改正についても議論すべきと考える。
なお、この決議に対しては、一部反対意見(大阪府)及び慎重意見(愛知県)があったことを申し添える。
平成28年7月29日
全 国 知 事 会
(引用終わり)
(引用開始)
平成28年7月、参議院選挙において、憲政史上初の合区選挙が実施され、「投票率の低下」や「自らの県を代表する議員が選出されない」という国民の参政権にも影響を及ぼしかねない状況が発生したことを受け、全国知事会をはじめ、「地方六団体」の全てにおいて、「合区解消」や「参議院選挙制度改革」に関する決議が行われた。
国は、この「地方の声」を正面から受け止め、迫りつつある平成31年の参議院選挙に向け、早急かつ抜本的な合区問題の解決策を講じる必要がある。
また、「国民代表」としての衆議院と、さらに「地域代表」としての性格を持つ参議院という二院のバランスの上に、「国民主権」はより効果的に機能すると考えられており、そもそも、国民主権を実現する大きな側面をもつのが、「地方自治」である。
地方自治法施行70年を迎え、この間、「機関委任事務の廃止」や「国と地方の協議の場の法制化」など、国と地方の対等関係のもと、「住民自治」が国民主権を全うする手段として、地方公共団体は直接住民から負託を受けてきた。
以上のことから、次の事項について、国において速やかに実行すること。
記
1 平成31年の参議院選挙に向け、「合区問題」の抜本的解決策の結論を得、早急に示すとともに、国民に対して、十分に周知を図ること。
なお、一部反対意見(大阪府)及び慎重意見(愛知県)があったことを申し添える。
平成29年7月28日
全 国 知 事 会
(引用終わり)
以上の決議で言及されているのが「投票率の低下」や「自らの県を代表する議員が選出されない」という状況(誰がそう認定しているのでしょう?)くらいでは、あまり説得力があるようには思えませんけどね。
さて、以上は前置きというか前提知識です。「前置きが長過ぎる」とお思いでしょうね。私もそう思います。
第一、参議院の選挙区は、全て「法律でこれを定める」(憲法47条)とされているのですから、合区を解消したければ、公職選挙法を再改正すればよいことです。ただし、そうすると、1票の較差がとても最高裁判例の許容範囲におさまらず、違憲判決が出ることは確実(場合によっては、史上初の選挙無効判決になる可能性も)ということになるでしょうけど。
時事ドットコムニュース(2017/06/27-20:57)
(抜粋引用開始)
参院選挙区の合区解消に向け、参院自民党の「参院在り方検討プロジェクトチーム」がまとめた原案が27日、分かった。国会議員の選挙に関して規定した憲法47条を改正し、参院議員について「各都道府県で3年ごとに少なくとも1人が選出される」と明記することが柱だ。
憲法47条は、国会議員の選挙について「法律で定める」としている。原案は47条に参院議員についての規定を新たに加えるものだ。2019年の次期参院選に改憲が間に合わなかった場合、公職選挙法などの改正や、暫定措置として議員定数の是正で対応することも盛り込んだ。
(略)
(引用終わり)
そこで、最後に、「参議院の合区解消」を憲法に盛り込むということが、実は、そんなに単純な話ではないということを、分かりやすく解説してくれている文章(2016年8月発表)を見つけましたので、ご紹介します。
かねてから、私が「現代の末弘厳太郎(すえひろ・いずたろう)」と密かに称して尊敬している浦部法穂(うらべ・のりほ)さん(神戸大学名誉教授、法学館憲法研究所顧問)が、法学館憲法研究所サイトに連載している「浦部法穂の「憲法雑記帳」」の一編として書かれたものです。
もっとも、「ではどうするのがよいか?」と考えると、結局、「難し過ぎるので、現行憲法のままでよい。」ということに(私は)なるのですが。
第3回 「合区」解消へ「改憲」?
(抜粋引用開始)
(略)
「合区」解消と「憲法改正」が、どうつながるのか?最高裁は、参議院選挙区の「一票の格差」を「違憲状態」とした2012年の判決で、「参議院だから投票価値の平等の要請が後退してよいと考えるべき理由はない」、「より適切な民意の反映が可能となるよう、都道府県を選挙区単位とする方式を見直すなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを早急に行うべき」旨、述べていた(この判決では、「違憲状態」とした裁判官が12名、「違憲」としたのが3名、つまり15名の裁判官全員が「違憲」の状態であると判断したことになる)。つまり、都道府県単位の選挙区割りを合憲的に維持することはもはや不可能だ、ということである。だから、あくまで都道府県単位にこだわるなら、「憲法改正」しかないことになるのである。
では、その「合区」を解消するために、憲法のどこをどう変えるのか?憲法には、「選挙区」に関しては「法律でこれを定める」(47条)とあるだけで、参議院の選挙区を都道府県単位にするとは、どこにも書いてない。とすれば、たとえば47条に、「ただし、参議院選挙区選出議員の選挙区は、一の都道府県の区域とする」というような規定を加えれば、それで解決できそうにみえる。しかし、事はそれほど単純な話ではない。まず第一に、仮に都道府県単位の選挙区ということが憲法上規定されたとしても、だから「一票の格差」が許容されるということになるわけではない。これを両立させようとすれば、(都市部への人口集中が続くかぎり)参議院議員の総定数をその都度その都度増やしていくしかないことになるが、それでいいのか(2015年人口速報をもとに、都道府県単位の選挙区で「一票の格差」を可能なかぎり最小に押さえようとすれば、私の簡略な試算では、選挙区選出議員の総数はすでに424人必要になる)。あるいは、たとえば鳥取選挙区からは2人の議員、東京選挙区からは46人の議員(2015年人口速報をもとに計算すればそうなる)というように、都道府県間で選出される議員の数に極端な不均衡が生ずることになるが、こうしたことは都道府県単位ということを重視する立場と相容れるのか、というような問題が出てくる。
こうした問題を解決するためには、さらに憲法43条を改正して、参議院は「全国民を代表する」のではなく「各都道府県を代表する」議員で組織する、とすればいいようにみえる。都道府県代表ということなら、各都道府県から、その人口には関係なく、同数の議員を選ぶ、という形にすべきであるから、「一票の格差」問題は考慮する必要はないことになる(ここに下手に中途半端な人口比例原則を持ち込むことは、投票価値も不平等になり、かつ都道府県間の不平等も生じさせる、というように、何もかもが不平等な制度になってしまう)。しかし、それならば衆議院はどうするのか?衆議院議員は「全国民の代表」で参議院議員は「都道府県の代表」とするのなら、衆議院と参議院の関係やそれぞれの権限にかかわる憲法の規定は全面的に見直す必要が出てくるだろうし、なによりも、連邦制国家でもない国で明確に地域代表として位置づけられる院を置くというのは、どのような代表民主制観を前提としているのか、その「哲学」が問われることとなる。そういう根本的な議論を抜きにして安直に「都道府県代表」などとしたら、あちこち矛盾だらけの憲法になってしまうであろう。
そしてもう一つ、以上の議論のそもそもの前提問題として、都道府県という存在は少なくとも憲法上明確に位置づけられた存在ではない、ということに気付かなければならない。憲法は、地方自治の主体として「地方公共団体」というものを掲げるが、「地方公共団体」がどんなものかは、「地方自治の本旨」にもとづいて法律で定める、と規定するのみである(92条)。つまり、都道府県というのは法律上定められた存在であって(地方自治法1条の3第2項)、憲法は都道府県というものの存在を当然の前提としているわけではないのである。だから、もし参議院を「都道府県代表」として位置づけるのなら、都道府県というものを憲法上の存在として明確に位置づける必要がある。それは、日本国憲法における地方自治の位置づけをどう考えるかという問題にもつながっていく。「都道府県代表」というはっきりした位置づけにしないとしても、そもそも都道府県という単位を、憲法上明確に位置づけられているわけでないにもかかわらず、どこまで重要視するか、ということじたいが、地方自治のあり方についての本質的な議論を要求するものなのである。「合区」解消のための「改憲」というと簡単な話のように聞こえるが、それは、代表民主制のあり方、衆参両院の関係のあり方や二院制のそもそもの存在理由、あるいは地方自治のあり方など、憲法全体、とりわけ統治機構にかかわる規定の全体に、それもより根源的なところにかかわる問題として、関係してくるのである。
(略)
(引用終わり)
(弁護士・金原徹雄のブログから/安倍改憲メッセージ関連)
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書き起こしで読む立憲デモクラシーの会「安倍政権による強権的な国会運営と説明責任の放棄に対する声明」発表記者会見(6/26)
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「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」9.8 キック・オフ集会大成功~3000万人署名活動スタート!
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憲法(特に9条)についての各党「公約」比較~とても分かりやすくなっていた
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地域からの結集を!~「9条改憲NO!全国市民アクション・国立」の「キックオフ集会inくにたち」を視聴する
(弁護士・金原徹雄のブログから/浦部法穂氏関連)
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