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憲法を大事にし、音楽を愛し、原発を無くしたいと願う多くの人と繋がれるブログを目指します

「実はなかった8億円のゴミ!?」~環境ジャーナリスト・青木泰氏インタビュー(UPLAN)を視聴する

 今晩(2017年4月4日)配信した「メルマガ金原No.2772」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「実はなかった8億円のゴミ!?」~環境ジャーナリスト・青木泰氏インタビュー(UPLAN)を視聴する

 今晩(4月4日)午後6時半から、桜の名所として名高い和歌山城で、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が花見を敢行しました。4月4日というと、例年ならもう満開を過ぎて散りかけという時期ですが、今年は何とまだ五分咲き(ところにより七分咲き)ということで、平日ということもあり、我々がビニールシートを広げたあたりは、他にいくつかのグループが来ていたものの、静かなもので、落ち着いて楽しむことができました。
 ただ、今日のメルマガ(ブログ)を1行も書いていなかった私は、かつらぎ町の自宅まで帰らなければならない藤井幹雄先生についで2人目の早退者となり、和歌山城近くの自分の事務所に戻りました。そして、ブログの素材を探すよりも先に、つい撮ったばかりの花見の写真をFacebookにアップする作業をしてしまいました。

 ということで、いよいよメルマガ(ブログ)を書いている時間がなくなってきました。
 実は、今度の日曜日(4月9日)に御坊市の日高教育会館で行う共謀罪学習会のためのレジュメを書き上げて今日主催者にメールで送ったところなので、そのレジュメを今日のメルマガ(ブログ)で紹介するという誘惑にかられたのですが、さすがにまだやっていない学習会のレジュメを、5日も前に公表するのはまずかろうと思いとどまりました。
 
 もう一つ、安倍内閣の閣僚による、教育勅語を教材として使用すること自体は否定されないという趣旨の相次ぐ発言も、いずれ取り上げなければとは思っているのですが、もう少し執筆に時間がかけられる時でないと満足のいく内容のものは書けないということと、初鹿博明衆議院議員民進党)による質問主意書は読めるものの、内閣の答弁がまだ衆議院ホームページにアップされていないので、それを待ってからでないと首尾一貫しませんからね。
初鹿議員の質問主意書
 
 といった紆余曲折の末、たどり着いたのは、UPLAN月島スタジオで収録されて今日公開された環境ジャーナリスト・青木泰さんに対するインタビュー動画で、非常に興味深い内容でした。
 それは、近畿財務局が森友学園に対してタダ同然で豊中市の国有地を払い下げる理由とされた「8億円分のゴミ」などそもそも存在しなかったのではないのか?という誰もが抱く疑問に対し、根拠を示して青木さんが「なかった」という推論を展開しておられるのでした。 
 青木さんの主張に全面的に同意するかどうかは視聴する人が個々に判断すれば良いことですが、私は相当に説得力があると思いました。視聴をお薦めします。
 
20170404 UPLAN 実はなかった 8億円のゴミ!? ―国の資料から読み解く―(33分58秒)
 

放送予告4/16『防衛フェリー~甦る徴用の記憶と現実~』(テレメンタリー)

 今晩(2017年4月3日)配信した「メルマガ金原No.2771」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送予告4/16『防衛フェリー~甦る徴用の記憶と現実~』(テレメンタリー

 興味深いTVドキュメンタリー番組をたびたび紹介しているこのメルマガ(ブログ)ですが、テレビ朝日系列各社が共同で制作する「テレメンタリー」をご紹介するのは久しぶりのような気がします。
 
テレビ朝日 2017年4月16日(日)午前4時30分~5時00分
朝日放送 2017年4月16日(日)午前5時20分~5時50分
テレメンタリー2017「防衛フェリー~甦る徴用の記憶と現実~」

(番組案内から引用開始)
 防衛省は、有事や災害の際に民間のフェリーを活用する制度を新設した。現行の「防衛計画の大綱」に基づき、陸上自衛隊の戦車部隊などを南西諸島などに運搬するのも役割のひとつだ。さらに国は民間の船員の希望者に、防衛出動の要員となる資格を持たせる制度を新たに導入した。全国海員組合は、「戦争中の“徴用”に繋がる」として強く反対している。事実上、防衛省専属となったフェリーを取材。民間船と戦争との「距離」を考える。
ナレーター:上田定行
制作:メ~テレ
(引用終わり)
 
 制作局の「メ~テレ」って何だ?と驚きましたが、「名古屋テレビ」のことらしいです。
 
 ところで、この番組案内を読んで、私がただちに思い出したのは、昨年12月2日に行われた安保法制違憲・東京国家賠償請求訴訟の第2回口頭弁論において意見陳述した本望隆司さんのお話でした。
 この意見陳述については、私のメルマガ(ブログ)で既にご紹介していますが(司法に安保法制の違憲を訴える意義(6)~東京・国家賠償請求訴訟(第2回口頭弁論)における原告による意見陳述/2016年12月10日)、以下に再掲します。
 
本望隆司さんの東京地裁における意見陳述
(引用開始)
 私は、1962 年から 1987 年まで、主にタンカーや鉱石船で資源を運搬する船舶に乗船しました。
 印象深いのは、1980 年に始まったイラン・イラク戦争の際に、ペルシャ湾内を航行する船舶を攻撃すると両国が言いだしたときです。日本船も対象になるということで、大変な問題になりました。この時、タンカー攻撃を避けて日本の石油輸送を守ることができたのは、憲法9条のおかげでした。つまり日本がいずれの国にも武力で加担しない中立国であるとの認識が国際的に確立していたからです。日本船をペルシャ湾の入り口にまとめ、船団を組んでペルシャ湾に入ることを外交ルートを通じて両国に通報し、タンカーにはデッキと船側に日本船と判明できるよう、大きな日の丸を描いて視認できる日中に航行しました。当時攻撃を受け被弾した世界全体の船舶は407隻、333人の死者、317人の負傷者が出ました。しかし日本船は被弾ゼロ、日本人船員は外国籍船の乗船者のみ2名の犠牲を出しました。(1999 年5月18日参議院「新ガイドライン関連法」特別委員会中央広聴会での海員組合・平山公述人の口述から)こうして、日本船は攻撃をまぬがれ石油輸送を守ったのです。
 ところが、政府が憲法9条の精神を捨て去り、海外での武力の行使が可能になる集団的自衛権閣議決定してから、我が海運業界もその影響が現れています。
 
2016 年には軍需物資の海上輸送に、防衛省と船舶会社との間で、既に、2隻のチャーター契約を結んでいます。これは、普段はこの船舶を通常利用してもよいが、有事の際には、防衛省の命令によって、これらの船舶を自衛隊に提供するというものです。そして、船舶を操船するのは、自衛官となっていますが、現役の自衛官では操船が無理ですから、船員を予備自衛官として、自衛官の身分で、船舶を航行させることになります。この契約は10年で合計250億円という金額ですから、船舶会社としては、黙ってもお金が入ってくる非常に魅力的な取引ですが、現場の船員にとっては、「後方支援」の名の下、いつ攻撃されるか分からない危険な状態におかれます。そして、これらの船舶会社に就職する際に、予備自衛官補になることを条件としています。それを拒否すれば下船させられます。
 政府は、あたかも「後方支援」は安全であるかのような説明をしておりますが、実際のところ、兵站活動です。前線部隊に兵員、食糧、武器弾薬、医療物資等を運ぶのですから、敵からみれば、それを攻撃し、補給を遮断するのがもっとも効率的であることは当然です。「後方支援」だからといって安全であることは全くなく、輸送船は反撃の手段を持っていませんから、むしろ前線より危険ともいえるわけです。このことは、第二次世界大戦中に、日本の民間の船舶が輸送船として徴用され、攻撃対象になって、約半数の船員が犠牲となり、保有船舶もわずか数隻にまで壊滅した歴史で明らかです。日本海運が立ち直るために長い年月を要したのです。これは我々船員としては繰り返してはならない歴史です。「海員不戦の誓い」は海運界の切実な願いです。
 さらには、集団的自衛権の行使容認を政府が決めてから、日本の船舶だから安全ということは全くなくなりました。先日のダッカでの日本人襲撃でも明らかなように、むしろ日本が攻撃対象として扱われる事態になっており、海運業界を初めとする運送に関わる業界にもろに影響が出て来るのではないかと非常に恐れています。イラン・イラク戦争の当時、憲法9条のもと日本は戦力を保持しない平和国家であると国際的に認知されていたが、その国際的認知は崩れ去り戦争やテロに巻き込まれる可能性が増大したと言わざるを得ません。船舶が攻撃される危険性に恐怖を感じます。正規の憲法改正の手続をとらず、専門家を初め多くの人たちが違憲であると言っている安保法制を強行採決し、海運業界がまた、再び戦争への協力をさせられる途がひらかれてしまったことに対し、海運業界にいた者として、これほどの苦痛はありません。 
(引用終わり/※下線は金原による)
 
 本望さんの陳述の中で「2016年には軍需物資の海上輸送に、防衛省と船舶会社との間で、既に、2隻のチャーター契約を結んでいます。」とあるのが、まさに今日ご紹介したテレメンタリーで取り上げられる「防衛フェリー」のことです。この事業は、防衛省が進めている「民間船舶の運航・管理事業」のことであり、その実施方針等については、昨年12月10日に書いた私のメルマガ(ブログ)でご紹介していますので、ご参照ください。
 
 以下では、全日本海員組合(番組案内に「全国海員組合」とあるのは多分誤記でしょう)が昨年1月29日に発表した声明をご紹介します。
 
(引用開始)
                                  平成 28 年1月 29 日
 
        民間船員を予備自衛官補とすることに断固反対する声明
 
                                     全日本海員組合
 
 一昨年からのいわゆる「機動展開構想」に関する一連の報道を受け、全日本海員組合は、民間船員を予備自衛官として活用することに対し断固反対する旨の声明を発し、様々な対応を図ってきた。しかしながら、防衛省は平成 28 年度予算案に、海上自衛隊予備自衛官補として「21 名」を採用できるよう盛り込んだ。われわれ船員の声を全く無視した施策が政府の中で具体的に進められてきたことは誠に遺憾である。
 
 先の太平洋戦争においては、民間船舶や船員の大半が軍事徴用され物資輸送や兵員の輸送などに従事した結果、1万 5518 隻の民間船舶が撃沈され、6万 609人もの船員が犠牲となった。この犠牲者は軍人の死亡比率を大きく上回り、中には 14、15 歳で徴用された少年船員も含まれている。

 このような悲劇を二度と繰り返してはならないということは、われわれ船員に限らず、国民全員が認識を一にするところである。
 政府が当事者の声を全く聞くことなく、民間人である船員を予備自衛官補として活用できる制度を創設することは、「事実上の徴用」につながるものと言わざるを得ない。このような政府の姿勢は、戦後われわれが「戦争の被害者にも加害者にもならない」を合言葉に海員不戦の誓いを立て、希求してきた恒久的平和を否定するものであり、断じて許されるものではない。
 
 全日本海員組合は、民間人である船員を予備自衛官補とすることに断固反対し、今後あらゆる活動を展開していくことを表明する。
                     
                         以 上
(引用終わり)
 
 『防衛フェリー~甦る徴用の記憶と現実~』の制作スタッフの問題意識は、「甦る徴用の記憶と現実」というサブタイトルに明確に現れていると思い、皆さまにも是非視聴していただきたいと思い、ご紹介しました。
 
(参考サイト)
 
(参考動画)
陸上自衛隊90式戦車 高速船ナッチャンWORLDで輸送~特大型運搬車へ搭載@大分-2015 JGSDF TYPE 90 TANK(10分53秒)
 
高速船「ナッチャンWorld」 船内見学会 2017.3.1.(6分18秒)
 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2014年2月3日
今年初めてETV特集の新作が見られる!(2/8『戦時徴用船~知られざる民間商船の悲劇~』)

2016年12月10日

植松健一氏(立命館大学教授)「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」講演レジュメを読む(守ろう9条 紀の川 市民の会 第13回総会)

 今晩(2017年4月2日)配信した「メルマガ金原No.2770」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
植松健一氏(立命館大学教授)「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」講演レジュメを読む(守ろう9条 紀の川 市民の会 第13回総会)

 昨日(4月1日)午後2時から、私も運営委員の1人に名前を連ねる地域9条の会「守ろう9条 紀の川 市民の会」(原通範代表)が13回目の総会を開きました。
 2005年1月に設立総会を開いて結成された当会は、毎年の総会開催時に記念講演を行うのを例としてきました。
 当初は、会員でもある和歌山の弁護士(私もその1人です)が講師を務め、やがて、会員ではない和歌山や関西圏の弁護士に講演を依頼したのですが、やがてそれも一巡し、「田舎の9条の会だけれど、当たってくだけろ」の精神で(?)、憲法研究者を中心に、大学教員の皆さんに講演を依頼するようになりました(春の総会だけではなく、秋の憲法フェスタも)。
 たいした講演料も払えない上に遠いという悪条件にもかかわらず、これまで、以下の学者の皆さんが「守ろう9条 紀の川 市民の会」の招きに応えて講演してくださっています。
 
吉田栄司先生(関西大学教授)→2012年 憲法フェスタ
二宮厚美先生(神戸大学名誉教授)→2013年 総会
森 英樹先生(名古屋大学名誉教授)→2014年 総会
清水雅彦先生(日本体育大学教授)→2014年 憲法フェスタ
高作正博先生(関西大学教授)→2015年 憲法フェスタ
石埼 学先生(龍谷大学法科大学院教授)→2016年 総会
 
CIMG6998 そして、昨日開かれた第13回総会における記念講演は、立命館大学法学部教授(憲法学)の植松健一先生に、「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」と題してご講演いただきました。
 なお、付言すると、植松先生は、清水雅彦先生、石埼学先生についで、当会で講演された3人目の明治大学雄辯部出身者です(先輩・後輩の序列は当会で講演された順番のとおりだそうです)。

 主催者から講師の植松先生に提案してご了解いただいた演題は、「安倍首相はなぜ憲法を変えたいのか~私たちの生活はどうなるのか~」でしたが、植松先生が書かれたレジュメやパワーポイント資料のタイトルは「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」となっていました。
 あえて、「憲法」に括弧書きで(constitution)という英語表記が付け加えられているのは、植松先生のご了解を得て以下に全文掲載する講演用レジュメの第1章のタイトルが、「Ⅰ すでに「憲法」(constitution)を変えてしまった(!?)安倍政権」とされていることからお分かりかと思いますが、ここで言う「憲法」とは、「日本国憲法」という名称を付された憲法典をさしているのではなく、憲法的慣行を含む「この国のかたち」を意味するものとして使われています(講学上のいわゆる「実質的意味の憲法」に近いかもしれません)。
 実は、昨日の植松先生のお話の中で、とりわけ私が感銘を受けたのは(ということは、私が講師を頼まれた際に「使える」と思ったということですが)、安倍政権は「すでに「憲法」(constitution)を変えてしまった」という部分でした。
 というのも、最近、家庭教育支援法案について考えた際、2006年(平成18年)12月の第一次安倍政権による教育基本法の全部「改正」が、実質的には「改憲」だったのではないかという感を強くしていたからです(「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む/2017年3月29日)。
 
 さらに、「文芸懇話会(1934年)」、「国防の本義と其強化の提唱(1934年)」、「唯研事件(1938年)」などの1930年代の動きとここ数年の政治状況との著しい近似性や公共の福祉のために基本的人権を利用する責任という考え方など、教えられることの多い講演会でした。

CIMG7001 昨日の講演会には、「守ろう9条 紀の川 市民の会」の会員でない方も来てくださっていましたが、本当なら、もっとたくさんの方においで戴きたかったと(いつものことですが)思います。私たち主催者の力不足であり、まことにもったいないことで、講師にも申し訳なく思います。
 既に、秋の憲法フェスタのメイン企画をどうするか、企画会議はこれからですが、個々の運営委員は(私を含め)もう既に具体的な検討を始めています(と思います)。必ずや、各地の「9条の会」のみならず、多くの方に喜んでいただける企画を実現したいと思いますので、是非、私たち「守ろう9条 紀の川 市民の会」の憲法フェスタに足をお運びください。
 
 さて、上にも書いたとおり、植松先生から、講演用にお送りいただいたレジュメやパワーポイント資料のメルマガ(ブログ)への転載を快くご了解いただきましたので、以下に掲載させていただきます。是非じっくりと考えながらお読みいただければと思います。
 転載の方針について若干説明しますと、まず、レジュメは全文引用します(黒色)。その上で、レジュ
メには記載されていないけれど、パワーポイント資料には記載のあった事項については、該当箇所に【PP(パワーポイント)より】と表記した上で引用しました(紺色)。
 なお、レジュメは6章構成(0、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ)となっていますが、時間の都合により、「Ⅲ 15
年安保体制下の自衛隊防衛省の力学の変動」の部分は、昨日の講演では省略されました。
 
CIMG7019 それから、昨日の総会では、第1部の記念講演が終わった後、総会議事が行われました。総会議案書の内、情勢分析のパート(私たちを取り巻く情勢)については、事前にメルマガ(ブログ)でご紹介していますが(植松健一立命館大学教授(憲法学)講演のお知らせと「情勢分析2016-2017」(守ろう9条 紀の川 市民の会)/2017年3月14日)、活動報告やこれからの活動方針なども含めた総会議案書全体もPDF化しましたので、お目通しいただければと思います。
 
 それでは、植松健一先生による講演「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」レジュメ全文をご紹介します。
 
 

守ろう9条 紀の川 市民の会(2017年4月1日:河北コミュニティセンター)
 
     安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか
 
                             植松健一(立命館大学憲法学)
 
0 はじめに――秘密保護法・共謀罪・政策芸術  
 哲学者・戸坂潤の時評(「文化統制の種々相」(1935年)『全集5巻』(勁草書房・1967年)所収245‐246頁(傍点は原文(金原注:赤字での表記に変えました)、下線は植松)
「現代の日本に於ける文化統制の内で、最も典型的なものは所謂国体明徴運動である。憲法学説に就いての一定の学的立場と学的解釈方法とをば、一個の行政府に過ぎない政府が公的に決定して之を施行するのだから、ここではこの問題に関する限り、言論の自由と信教の自由とが全く制約されるのであって、これ以上の公的な文化統制振りは今の処日本には先ず存在し得ないのである…。
 …統制がこのように一定の露骨な形を取ることが出来たのも、国民の或る意味における「総意」が之を支持するからなのである。というのは、国民が総体から云ってこの統制に対して、何等本当の抵抗を試みようとしないからなのである。というのは、別な言葉で云うと、実は国民は全体から云って、それ程、この問題に対して無関係だからなのである。統制政策はいつも、国民のこうした一種の無関心による支持見出し得る場合に限って容易に成功するのであり、或いはそういう無関心な支持を期待出来そうな場合だけを選んでも最も容易に発動するのである。」
 
【PP(パワーポイント)より】
唯研事件(1938年)
 1938年11月、雑誌『唯物論研究』改め『学芸』にかかわる主要メンバーの一斉検挙に始まる弾圧。戸坂
潤、岡邦雄、森宏一、古在由重、新島繁ら30名が検挙。
 40年1月の第2次一斉検挙後は、雑誌購読者にも捜査が及び、検挙者総数100人余ともいわれる。
 裁判所は「…日本共産党ノ目的達成ニ寄与…支援スルコトヲ目的トスル唯物論研究会ナル結社ヲ組織シ」(控訴審判決)と認定し、戸坂を懲役3年とする。戸坂は45年8月9日、栄養失調と腎臓不全で獄死。
 
【PP(パワーポイント)より】
文芸懇話会とは?

・1934年3月、内務省警保局長・松本学が、文化統制を目的に、直樹三十五らを抱え込んで創立した官民合
同の文学団体。 
 
安倍首相支持の勉強会「文化芸術懇話会」(産経デジタル2015年6月25日21:55)
自民党の若手国会議員有志は25日、芸術家を講師に招いて意見交換する勉強会を発足させた。出席者には、安倍晋三首相(自民党総裁)に近い議員も多く、9月の総裁選を前に首相の無投票再選の機運を高める狙いがある。新勉強会は「文化芸術懇話会」。設立趣意書によると、芸術家との意見交換を通じ「心を打つ『政策芸術』を立案し、実行する知恵と力を習得すること」を目的としている。
 この日、党本部で開いた初会合には加藤勝信官房副長官薗浦健太郎外務政務官萩生田光一総裁特別補佐ら首相を支持する議員を中心に37人が出席、作家の百田尚樹氏の講演に耳を傾けた。代表に就任した木原稔党青年局長は会合後、記者団に「党所属国会議員として、党や政府が進めようとしていることを後押しするのは当然だ」と強調。総裁選に向け、首相の「応援団」として活動するとみられる。…」
 
【PP(パワーポイント)より】
国防の本義と其強化の提唱(1934年・陸軍省新聞班)
・科学的研究機関を統制し、合理化し、其能率を向上し…
・発明を奨励し、資金供給、研究機関の利用の道を拓き特許制度に改善を加う。
・民族特有の文化を顕揚し、泰西文物の無批判的吸収を防止すること。
・智育偏重の教育を改め訓育を重視し且つ実務的、実際的教育を主とすること。 
 
【PP(パワーポイント)より】
国家安全保障戦略(2013年12月17日閣議決定
国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進
①防衛生産・技術基盤の維持・強化
②情報発信の強化
③社会的基盤の強化
④知的基盤の強化
 

Ⅰ すでに「憲法」(constitution)を変えてしまった(!?)安倍政権
・人事権をフル稼働させての権力内ブレーキの破壊
 日本銀行総裁NHK経営委員・会長、内閣法制局長官内閣人事局設置… 
 最高裁裁判官人事(山口厚氏の任命)も?
集団的自衛権の政府解釈変更による行使容認
・内閣もスキップする国家安全保障会議による意思決定
・「憲法の常道」の破壊⇒2015年臨時国会の非招集
小選挙区制効果としての、「自民1強」と自民党内の「安倍1強」
 
【PP(パワーポイント)より】
憲法(constitution)=「この国のかたち」
・国憲に関する法=(constitutional law)=憲法
・内閣が人事権を有していても、恣意的な行使はできない
日本銀行内閣法制局の専門性に基づく自立性
・大学、報道機関、農協などの自治の尊重
自民党内の派閥による「疑似政権交代
・少なくとも、集団的自衛権憲法上行使できない
 

Ⅱ では、なんのための改憲日本国憲法の改定)?
(1)そもそも安倍政権を担うのは、どのような勢力
①米国の権益の擁護(外務省・自衛隊統幕):「強固な日米同盟」・「積極的平和主義」
 自衛隊と米軍の運用一体化、自衛隊の権限拡大・装備充実(2017年3月護衛艦「かが」就役)、防衛省内部における制服組の台頭、大学での軍事研究誘導、辺野古基地建設の強行
②グローバル企業の利益の擁護(経産省・防衛装備庁):アベノミクス+成長戦略としての「積極的平和主義」
 ……金融緩和、TPP、国家戦略特区、「一億総活躍」、「官製春闘」、武器・原発の輸出促進
③右翼的勢力の擁護(日本会議):国粋・民族主義
 ……閣僚の靖国参拝、「日本第一」の教科書検定、道徳の教科化
 
第2次以降の安倍政権の特徴=後期新自由主義政権(渡辺治)・「関わっていく政治」(柿﨑明二)
①のための改憲集団的自衛権規定、愛国心条項(日の丸・君が代規定含む)、緊急事態条項
②のための改憲=健全財政条項、社会権条項の削除、首相公選制、道州制参議院見直し+フォローとしての愛国心条項、「公益」による人権制限、家族条項  
③のための改憲=「押しつけ憲法」の破棄、天皇の元首化、愛国心条項、個人尊重的要素の削減、「公益」による人権制限、家族条項、政教分離緩和
      ↓
①→解釈改憲(自衛のために必要な限定的な集団的自衛権行使は合憲)により必要なくなった
②→多くは法律レベルで対応可能(生活保護費や年金制度の切下げ)
③→実は①②に比べ優先順位は低い!?:=「保守」を語らなくなった安倍首相、一定のヘイトスピーチ規制、森友問題での「しっぽ切り」
 
(2)では、なぜ改憲なのか?
①「自分らしさ改憲」=保守層の結束、安倍首相の個人的思い入れ
②「どさくさ改憲」=緊急事態条項(まずは議員任期特例規定)、参議院の地方代表化、健全財政条項
③「思いやり(のふり)改憲」=高校無償化、同性婚
④「あわよくば改憲」=「限定」を取り払った完全な軍隊、基本的人権の制限規定
 
【PP(パワーポイント)より】
『あたらしい憲法草案のはなし』 自民党憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合(著)
あたらしい憲法草案のはなし
自民党憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合
太郎次郎社エディタス
2016-07-02



Ⅲ 15年安保体制下の自衛隊防衛省の力学の変動
1 安保関連法の本格始動
南スーダンPKO第11次要員(陸自第9師団第5普通科連隊等)の「駆け付け警護」「宿営地共同防護」「任務遂行型武器使用」(16年11月18日防衛大臣命令→17年5月末には撤退予定)
・日米共同統合演習(16年11月7日・うるま市沿岸)「重要影響事態」を想定した訓練
・空自と英空軍の共同訓練(16年11月3日・三沢基地
・日韓軍事情報包括協定(GSOMIA)締結(16年11月23日)

2 一体化する自衛隊・米軍(実際には米軍優位の「対等」化)
 「同盟調整メカニズム」の常設(15年ガイドライン)=日米の共同軍令機構(横田=市ヶ谷=ハワイ)
 「共同計画策定メカニズム」による計画策定 

3 台頭する制服組
(1)統合幕僚長の政治的役割の向上
・第2次安倍政権発足(2012年12月)以降~2016年4月23日段階までで首相と統幕長との面会は76回(2006年の統幕長ポスト発足から2012年12月の野田政権までは24回)
国家安全保障会議4大臣会合にも「首相の求めに応じて」出席可能
国家安全保障局にも影響力(6つの部局に幹部自衛官2名を配置)
 国家安全保障局顧問会議:座長・山内昌之(東大名誉教授)、特別顧問・三村昭夫(日本商工会議所会頭)、顧問・折木良一(富士通顧問・元統合幕僚長)、片岡晴彦(IHI顧問・元航空幕僚長)、香田洋二(ジャパンマリンユナイデット顧問・元自衛艦隊司令官)、細谷雄一(慶大教授・安保法制懇委員)ほか7名(2016年6月現在)
(2)防衛省設置法改定(2015年6月)
・内局優位から内局と統幕が「対等」に防衛大臣を補佐することを明文上明確に(12条)
・運用企画局(「自衛隊の行動の基本」についての大臣の補佐が所掌事務)の廃止→部隊運用は統幕に一元化
(3)日本型「文民統制」システムにおける「文官統制」の意義
①国会による統制→・批判的エキスパートの少なさ=エキスパートはミイラとり(防衛族)に…
・「特定秘密の壁」→国家安全保障会議4大臣会合は特定秘密以外でも「率直な意見交換」のため「非開示が原則」(衆院情報監視審査会2015・9・25の政府参考人答弁)
②内閣による統制→南スーダンPKO派遣部隊の「日報隠し」問題での稲田防衛大臣の統制力の無さ
③文官による統制→防衛参事官制度を中心とする文官統制がかろうじて、「軍」の統制を行ってきた⇒現在はこれが破壊された状態(「軍からの自由」保障の真空常態!)
(4)政治エリート化する幹部自衛官
陸自による自民党憲法草案(2004年)たたき台への関与
・安保関連法成立前に法案成立を先取りした自衛隊と米軍との覚書き
・元幹部自衛官の政界進出(中谷元衆議院議員[元2等陸尉]、佐藤正久参議院議員[元1等陸佐])
(5)増殖する軍産学複合体~司令塔としての防衛装備庁
「成長戦略」(グローバル競争国家路線)と「積極的平和主義」(対米従属型軍事大国路線)の一体的追及
 国家安全保障戦略(2013年12月)=「積極的平和主義の観点から、防衛装備品の活用等による平和貢献
・国際協力に一層積極的に関与するとともに、防衛装備品等の共同開発・生産等に参画する」
 デュアル・ユース技術などの一層の振興のため、「技術開発関連情報等、科学技術に関する動向を平素から把握し、産学官の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用するように努め」る。
・防衛装備庁の発足(2015年10月):事務官・技官1400名・自衛官200名
 「防衛装備庁は、装備品等について、その開発及び生産のための基盤の強化を図りつつ、研究開発、調達、補給及び管理の適正かつ効率的な遂行並びに国際協力の推進を図ることを任務とする」(防衛省設置法36条)⇒海外の武器輸入業者や外国政府などへの武器の購入資金の低金利融資や武器製造の海外合弁会社の設立などにも関与
・軍事下請け化される大学:「安全保障技術研究促進制度」(防衛装備庁所管):
 15年総額3億⇒16年総額6億円:自民党政調会国防部会は100億規模への拡大を提言
・歯止めなき軍拡予算
・2016年度予算5兆5千億円、2017年度概算要求5兆1千億円規模
・長期契約特例法(2015年4月成立):国庫債務負担行為の上限を5年とする財政法15条の縛りを解除し、最長10年の複数年契約を可能とする(護衛艦などの建造)⇒予算単年度主義(憲法86条)との関係で問題
・民間企業にとっての安保関連法:「存立危機事態」や「重要影響事態」において後方支援のために「民間が有する能力を適切に活用する」(15年ガイドライン)⇒⇒「武力攻撃事態」での空港や港湾などの民間施設の自衛隊・米軍の優先利用を可能にする特定公共施設利用法の「存立危機事態」への拡大 //フェリー船員の予備自衛官化の推進
 
 
Ⅳ 「政治的公正中立」論に抗う日本国憲法12条の論理
自治体における「憲法集会」の「後援」の取りやめ、安保法学習会などへの公民館の利用拒否(さいたま市の九条俳句不掲載事件、神戸市の後援取止め、姫路市の集会中止要請事件など)。
     しかし↓
 「憲法尊重擁護義務」(99条)から憲法立憲主義の普及・擁護を目的とする催しについて自治体がサポートすることは当然では?⇒⇒(憲法擁護以外の)特定の立場の政治的・社会的意見を内容とする催しであっても、住民への「多様な観点」の提供は自治体の責務だといえるのではないか?
・教育公務員特例法改定の動き:「政治的行為」をした公立高校の教職員に対して「3年以下の懲役又は百万円以下の罰金」程度の罰則を設ける
・「高等学校における政治的教養の教育と高等学校の生徒による政治的活動について(通知)」(2015年10月)、生徒指導者向けの「Q&A」(16年1月):高校生の学校外での政治活動を届け出制にすることも可能
・小中学校で政治活動をした教職員に罰則を科す「義務教育諸学校における教育の政治的中立の確保に関する臨時措置法」を私立高校教職員への適用も検討(2016年5月10日の産経新聞
・市立三重短期大学教員による安保関連法反対の活動に対する、市議会での追及
 
「公共の福祉のために基本的人権を利用する責任」:
 拙稿「『憲法擁護』・『公正中立』・『人権を利用する責任』」月刊憲法運動452号(2016年)4頁以下
より抜粋
「…もともと「立憲主義」(constitutionalism)とは当然に「ある」状態を指すのではない。「立憲主義」とは、複数の「ありうる」政治制度・憲法体制(例えば、専制君主制や独裁制)から「あるべきもの」
として選択された1つのスタンス(-ism)である。国民が主権者=憲法制定権者として、専制主義や全体主義ではなく、「立憲主義」の価値観と憲法体制を選び取ったという基本線においては、人は「中立」ではありえない。これは、日本国憲法という立憲主義憲法体制に関しても、当然の事理である。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」ものであり、かつ、これらの権利を国民は「常に公共の福祉のために」「利用する責務を負ふ」のだと説く憲法12条の文言は、この事理を表現したものといえるのではなかろうか。
 「不断の努力」とは同時に「普段の努力」でもある。日々の生活の中で、国や自治体や大企業の振舞いが憲法の観点からみておかしいと市民が感じたときに、抗議行動、抗議集会、SNSでの発信、反対請願、訴訟の提起など、いろんな手を尽くして抗議の意思表示をし、これを是正させる――その意味での国民の「普段からの努力」によって日本国憲法の精神は維持されるのであり、憲法97条との強い連関を持つ憲法12条後段の「公共の福祉」の意味も、そのように読まれるべきである。この12条に基づく基本的人権の行使は「人権の立憲主義回復的な行使」と呼ぶべきもので、いわゆる「国民の抵抗権」が問題となるような立憲主義秩序が根底から破壊されるような局面とは一応区別された、まさに「普段の」抵抗をバック・アップするものと理解できるのである。
 公権力が憲法の条規やその精神に反した行動をとるときには――「選挙」国民投票」という「非日常」での意思表出の機会はもちろんのこと、それにとどまらず――表現の自由、請願権、財産権、「知る権利」、平和的生存権、裁判を受ける権利など、多種多様な基本的人権の行使によって、これを是正する。さらに、報道機関、教員集団、大学人、弁護士会などの専門家集団、政党、労働組合NPOなどがそれぞれの「立場」「持ち場」において、基本的人権をこの意味での「公共の福祉のために利用する」ことも憲法12条に由来する「責任」といえるかもしれない。
 いずれにしても、国民ないし団体が憲法12条の「責任」を果たす場面では、その時々の公権力との関係において「中立」ではいられないはずである。とりわけ憲法尊重擁護義務を負っているはずの公権力がそれを無視する行為に及んだ局面において、それと対峙することをせず、「公正中立」を理由に沈黙を続けることは、そのような憲法違反の公権力への「加担」にほかならないし、憲法12条が訓示する「責任」の放棄とみなされるよう。
 こうした観点から、自民党改憲案が試みる現行憲法の改変の対象に12条後段が入っている事実も看過してはならない。自民改憲案の12条後段では、国民に「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公共の秩序に反してはならない」ことを求める内容に改められている。現行憲法にある「公共の福祉」を「公益及び公共の秩序」に替えたことの意図や「権利には義務が伴う」式の人権に対す無理解はかねてより批判されてきた点であるが、12条後段の削除は、「人権の立憲主義回復的な行使」という発想を憲法から消し去ることに他ならない。」
 

Ⅴ まとめ~排外主義・差別主義に抗い「個人として尊重される」(憲法13条)世界へ

・世界規模での排外主義・差別主義の台頭―「ポピュリズム権力者の暴言・放言」(橋下からトランプまで)が一般民衆の差別心を促進(「籠池小学校」からイスラム差別まで)
・沖縄への冷たい視点:国による「合法的暴力」(不服審査請求制度の趣旨外使用、反対派市民の不当拘束、知事への個人賠償請求の示唆など)が民間の「沖縄ヘイト」を援助・助長
★自らが「個人として尊重される」ことの重要性を知る者は、他者もまた「個人として尊重」されてしかるべきと考えることができる=他者に対する「共感力」「想像力」→共生のための「創造力」
 

(弁護士・金原徹雄のブログから/講演会レポート)
2013年2月13日
予告3/30「二宮厚美氏講演会と第9回総会」(守ろう9条 紀の川 市民の会)
 ⇒二宮厚美先生 ※レポートではなく予告記事です。
2014年3月30日
森英樹氏講演会を開催しました(守ろう9条 紀の川 市民の会・第10回総会)
 ⇒森英樹先生
2014年11月8日
『脱走兵』が日本の現実とならないように~11/8守ろう9条紀の川市民の会「第11回 憲法フェスタ」
 ⇒清水雅彦先生
2015年11月8日
「第12回 憲法フェスタ」(11/3 守ろう9条 紀の川 市民の会)レポートと11月中の和歌山での取組予定のお知らせ ⇒高作正博先生
2016年4月2日
石埼学龍谷大学法科大学院教授の講演をレジュメから振り返る~4/2「守ろう9条 紀の川 市民の会」第12回総会から ⇒石埼学先生
 

今この時点で「森友問題」を考えるために~木村真さんと神保哲生さんの発言に耳を傾けたい

 今晩(2017年4月1日)配信した「メルマガ金原No.2769」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
今この時点で「森友問題」を考えるために~木村真さんと神保哲生さんの発言に耳を傾けたい

 今日(4月日)午後2時から、私も運営委員の1人である「守ろう9条紀の川市民の会」(原通範代表)が13回目の総会を開き、立命館大学法学部教授の植松健一さんに、「安倍首相はなぜ憲法(constitution)を変えたいのか」と題した記念講演をしていただきました。
 当初は、そのレポートを書こうかと思ったのですが、「時間が足りない」と判断し、明日以降に回すことにしました。
 
 ということで、あまり時間もない中、今日は何を取り上げようかと考えた結果、「森友問題」とは何なのか、あらためてこの時点で考えてみるために大いに役立つと思われる動画を2本(というか3本)ご紹介することにしました。
 
 最初の2本は、昨日(3月31日)行われた「森友問題の今後を占う緊急集会!~木村真豊中市議を迎えて~」を収録したUPLANの動画2本(記者会見編と集会編です)。
 様々な方が発言されていますし、それぞれごもっともとは思うものの、私が注目したのはメインゲストである木村真豊中市議会議員のお話です。既に皆さん十分に知っていることばかりかもしれませんが、色々な事実、情報が乱舞し、このままでは訳の分からぬ迷路に踏み込んでしまって、「森友問題って何だったっけ?」と呆然と立ち竦むことになりかねません。ですから、原点を忘れないために、木村真さんのお話にあらためて耳を傾ける意義があると思うのです。
 
20170331 UPLAN【記者会見】~木村真豊中市議を迎えて~森友問題の今後を占う緊急集会!(46分)
 
20170331 UPLAN【緊急集会】~木村真豊中市議を迎えて~森友問題の今後を占う緊急集会!(2時間19分)

冒頭~ 木村真さん
32分~ 森ゆうこ参議院議員自由党
46分~ 福島みずほ参議院議員社民党
58分~ 初鹿明博衆議院議員民進党
1時間12分~ 佐高信
(以下略)
 
 もう1つの動画は、1週間前にアップされたビデオニュース・ドットコムのニュース・コメンタリー(神保哲生さんと宮台真司さんによる対話編)です。
 しみじみと神保さんの語るところに耳を澄ませば、「そうだよなあ」と頷かざるを得ないと思います。私も、「「日本改造計画」と呼んでも過言ではないほど、日本の将来に大きく影響を与えかねない」「天下の悪法と言っても過言ではない様々な法律の審議」にもっと注目しなければと思います。
 
ビデオニュース・ドットコム ニュース・コメンタリー (2017年3月25日)
異常な民間人の証人喚問と「森友国会」の裏で着々と進む悪法制定の動き(54分)

「これまで森友学園籠池泰典理事長の参考人招致を頑なに拒んでいた自民党は、籠池氏が「昭恵夫人を通じて安倍首相から100万円の寄付を受け取った」と発言したとたんに一転して籠池氏を証人喚問することを決定した。その理由は総理を侮辱したからだった。
 そして、国会が森友学園問題の追求に事件とエネルギーを割き、世間の目がそこに集中する間にも、国会の委員会では日本の将来に大きく影響を及ぼしかねない重大な、そして大変問題の多い数々の悪法の審議が着々と進んでいることも、われわれは忘れてはならない。
 証人喚問で籠池理事長が語った内容やそこで明らかにしたファックスなどの証拠の数々に対する評価は、いろいろあるだろう。疑惑は疑惑として、解明するべきだ。
 しかし、その前にまず国会が民間人を「総理を侮辱した」との理由で証人喚問まですることの是非は、厳しく問われなければならない。はっきりいってこれは異常だ。
 民間人を証人喚問という形で国会の場に強制的に引きずり出し、偽証罪の恐れがある状況下で国会議員からの厳しい追及に晒す行為は、著しい人権侵害につながる恐れがあり、それ相応の正当性が問われる。逮捕されたり起訴されたわけでもない私人に対しそのような扱いをする場合は、その人物の人権を一定程度制約してでも証言を得ることに国家的な利益があると判断される場合に限られるべきだ。
 しかし、3月23日の証人喚問の内容は、一体何だろうか。特に与党自民、公明や名指しされた維新の質問者は、繰り返し籠池氏を「偽証罪に問われるぞ」と脅した上に、そもそも喚問の目的だったはずの土地の払い下げ疑惑に関する質問よりもむしろ、籠池氏の信用を落とすことを目的とした無関係な問題への追求に時間を割いていた。その目的が氏の「総理から100万円の寄付を受けた」とする主張の信用性を弱めるところにあることは誰の目にも明らかだった。
 今回の瑞穂の國記念小学院の土地払い下げには不透明な点が多いのは確かだ。籠池氏側にも疑惑をもたれても仕方がないような不適切な行為が数多くあったことも事実だろう。しかし、政治目的のために私人を国会で喚問し、あのような行為を繰り返すことは、どう見ても国政調査権の濫用であり人権侵害だ。籠池氏個人に対する好き嫌いや森友学園の教育方針に疑問を持つことと、この問題ははっきりと分けて考えなければならない。
 そもそもこれまで民間人の証人喚問というのは、ロッキード事件小佐野賢治氏やリクルート事件江副浩正氏など、国家の根幹を揺るがすような事件に限られてきた。当初、籠池氏の参考人招致に慎重だった自民党が「私人の国会招致には慎重でなければならない」と主張したのは、正に正鵠を得た主張だった。それが一転して、参考人よりも遥かに重い証人喚問になってしまった。
 将来、国会に証人喚問された民間人のリストに、昭和電工疑獄やロッキード事件リクルート事件などと並んで「森友学園籠池泰典理事長」の名を見つけた時、「この人はなぜ国会に呼ばれたのか」との問いにわれわれは胸を張って答えることができるかどうかを、考えるべきだ。
 そして、日本中が森友劇場に現を抜かす間にも、国会では共謀罪はもとより、種子法の廃止法案、水道民営化法案、家庭教育支援法案、親子断絶防止法案、医療ビッグデータ法案、放射線防護基準緩和法案など、天下の悪法と言っても過言ではない様々な法律の審議が着々と進んでいる。これらの法案は「日本改造計画」と呼んでも過言ではないほど、日本の将来に大きく影響を与えかねないものばかりで、森友問題以上にメディアや市民による監視を必要としているものばかりだ。種子法の廃止案は既に今週、衆院の委員会を通過してしまっている。
 私人の証人喚問が孕む問題点と、森友学園問題の裏で着々と審議が進む「日本改造計画」法案の数々について、ジャーナリストの神保哲生社会学者の宮台真司が議論した。」

共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.7~4/9日高教育会館(御坊市)で学習会があります

 今晩(2017年3月31日)配信した「メルマガ金原No.2768」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.7~4/9日高教育会館(御坊市)で学習会があります

 共謀罪シリーズの第17回をお届けします。今日お届けする話題は以下のとおりです。盛り沢山ですが、いずれも共謀罪法案を考える上で有益な情報だと思いますので、ご活用いただければ幸いです。
 
(ニュースの部)
1 「共謀罪」の早期審議入り 自公、党首会談も平行線
2 野党、「共謀罪」廃案目指す=天下り集中審議を要求
3 共謀罪「NO!」実行委結成 文化人、弁護士ら39人賛同/新潟
(動画の部)
共謀罪を考える超党派の議員と市民の勉強会(第4回)
(海渡雄一弁護士、高山佳奈子京都大学法科大学院教授、西谷修立教大学特任教授)

(声明の部) 
1 日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明」(2017年3月31日)
2 和歌山弁護士会「テロ等組織犯罪準備罪法案の国会への提出に反対する会長声明」(2016年1月19日)
(学習会のお知らせ)
2017年4月9日(日)/日高教育会館(和歌山県御坊市湯川町財部254)
講師 金原徹雄(弁護士)
主催 憲法9条を守り・いかす日高連絡会
 
【その1 ニュースの部】
東京新聞 2017年3月31日 朝刊
「共謀罪」の早期審議入り 自公、党首会談も平行線

(抜粋引用開始)
 安倍晋三首相は三十日、公明党山口那津男代表と首相官邸で会談し、「共謀罪」の趣旨を含む組織犯罪処罰法改正案の早期審議入りに理解を求めた。山口氏は債権関係の規定を改める民法改正案と性犯罪を
厳罰化する刑法改正案の審議を優先すべきだと主張。会談は平行線だった。
 「共謀罪」法案を審議する予定の衆院法務委員会には現在、民法改正案や国際結婚の夫婦の離婚を巡る人事訴訟法改正案など六法案が付託されている。ここに「共謀罪」法案と刑法改正案が加わるが、裁判所
関連の二法案は三十一日に採決される方向のため、審議を待つ法案は六本になる。
 「共謀罪」法案は六法案のうち最後に提出された。公明党は「後から出した法案をなぜ先に議論しなければならないのか、分かりにくい」(山口氏)と提出順に審議し、成立させるべきだと強調。自民党は「
共謀罪」法案を「最優先」(竹下亘国対委員長)と位置付け、四月六日の審議入りを目指している。
(略)
(引用終わり)
 
時事ドットコムニュース (2017/03/31-12:27)
野党、「共謀罪」廃案目指す=天下り集中審議を要求

(引用開始)
 民進、共産、自由、社民の野党4党は31日午前、国会内で国対委員長会談を開き、「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案について、廃案に追い込む方針で一致した。文部科学省天下り問題の調査結果を踏まえ、衆院予算委員会での集中審議開催を求めることも確認し
た。
 学校法人「森友学園」への国有地売却問題では、安倍晋三首相夫人の昭恵氏らの証人喚問を引き続き要求。同学園の籠池泰典氏の「偽証」告発に向け、自民党国政調査権発動に言及したとして、野党として
も同調査権に基づき証人喚問や資料開示を求めていくことを申し合わせた。
 会談後、民進党山井和則国対委員長は組織犯罪処罰法改正案について「メールや携帯電話の通話が監視され、1億総監視社会になるかもしれない危険性をはらんだ法案だ」と記者団に指摘。天下りにも触れ、「国民の怒りは大きい。首相は率先して集中審議に応じるべきだ」と訴えた。
(引用終わり)
 
毎日新聞(新潟県) 2017年3月30日
共謀罪「NO!」実行委結成 文化人、弁護士ら39人賛同 /新潟

(抜粋引用開始)
 安倍内閣閣議決定したテロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法改正案(「共謀罪」法案)に反対する有識者らが「共謀罪NO!実行委員会in新潟」を結成、29日に県庁(新潟市中央区)で記者会見を開いた。会の賛同人らは「人の内心に踏み込む法律。思想信条の自由を保障した憲法に反する」などと口々
に危険性を訴えた。【東海林智】
 実行委員会は、安倍政権の安保法制(戦争法)に反対してきた県平和運動センターなど市民団体が発案
した。
(以下は会員登録しないと読めません)
(引用終わり)
 
 私が最後の新潟の記事に注目したのは、「共謀罪NO!実行委員会」の枠組みの地方版を素早く立ち上げたそのスピード感に感心したからに他なりません。和歌山は「総がかり行動実行委員会」方式ですが、これは「戦争させない・9条壊すな!」のために作られた枠組みですからね(どちらにしても構成団体は似たようなものになるでしょうが)。
 
【その2 動画の部】
共謀罪を考える超党派の議員と市民の勉強会(第4回)
共謀罪の問題点」高山佳奈子京都大学教授ほか(1時間39分)

冒頭~ 司会 福島みずほ参議院議員社民党
2分~ 挨拶 藤野保史衆議院議員日本共産党
3分~ 報告 海渡雄一弁護士
17分~ 講演「共謀罪の問題点」高山佳奈子さん(京都大学法科大学院教授)
1時間07分~ 講演「共謀罪で社会はどうなるか」西谷修さん(立教大学特任教授)
1時間36分~ 閉会挨拶 福島みずほ議員
 
【その3 声明の部】
 日本弁護士連合会は、2月17日に「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」を公表しましたが、いよいよ法案の閣議決定、国会上程という事態をうけて、以下の会長声明を発しましたのでご紹介します。
 
いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明
(引用開始)
 政府は、本年3月21日、いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案(以下「本法案」とい
う。)を閣議決定し、国会に本法案を上程した。
 当連合会は、本年2月17日付けで「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(以下「日弁連意見書」という。)を公表した。そこでは、いわゆる共謀罪法案は、現行刑法の体系を根底から変容させるものであること、犯罪を共同して実行しようとする意思を処罰の対象とする基本的性格はこの法案においても変わらず維持されていること、テロ対策のための国内法上の手当はなされており、共謀罪法案を創設することなく国連越境組織犯罪防止条約について一部留保して締結することは可能であること、仮にテロ対策等のための立法が十分でないとすれば個別立法で対応すべきことなどを指
摘した。
 本法案は、日弁連意見書が検討の対象とした法案に比べて、①犯罪主体について、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団と規定している点、②準備行為は計画に「基づき」行われる必要があることを明記し、対象犯罪の実行に向けた準備行為が必要とされている点、③対象となる犯罪が長期4年以上の刑を定める676の犯罪から、組織的犯罪集団が関与することが現実的に想定される277の犯罪にまで減じられ
ている点が異なっている。
 しかしながら、①テロリズム集団は組織的犯罪集団の例示として掲げられているに過ぎず、この例示が記載されたからといって、犯罪主体がテロ組織、暴力団等に限定されることになるものではないこと、②準備行為について、計画に基づき行われるものに限定したとしても、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びる必要がないことに変わりなく、犯罪の成立を限定する機能を果たさないこと、③対象となる犯罪が277に減じられたとしても、組織犯罪やテロ犯罪と無縁の犯罪が依然として対象とされていることか
ら、上記3点を勘案したとしても、日弁連意見書で指摘した問題点が解消されたとは言えない。
 当連合会は、監視社会化を招き、市民の人権や自由を広く侵害するおそれが強い本法案の制定に強く反対するものであり、全国の弁護士会及び弁護士会連合会とともに、市民に対して本法案の危険性を訴えか
け、本法案が廃案になるように全力で取り組む所存である。
    2017年(平成29年)3月31日
   日本弁護士連合会      
   会長 中本 和洋 
(引用終わり)
 
 それから、法案が上程されてしまった今になって紹介するのもやや気が引けるのですが、私が所属する和歌山弁護士会も、今年の1月に会長声明を出していますので、藤井幹雄会長の任期があるうちに(ということは今日までですが)ご紹介しておきます。
 
テロ等組織犯罪準備罪法案の国会への提出に反対する会長声明
(引用開始)
   2017年(平成29年)1月19日
   和歌山弁護士会
   会長 藤井 幹雄
 政府は,過去,世論の強い反対のために三度廃案となった,いわゆる共謀罪法案について,「共謀罪
という名称を「テロ等組織犯罪準備罪」と改め,これを含んだ組織的犯罪処罰法改正案(以下,「新法案
」という。)を国会に提出する動きを見せている。
 当会は,過去の共謀罪法案が,共謀をもって人の処罰を可能とする点で,人の内心を処罰することにもなりかねず,国民の基本的人権に対する重大な脅威となることから,過去2回にわたって,会長声明を公
表し,これに反対してきた。
 報道によれば,新法案は,二人以上の者が,「重大犯罪」について,「組織的犯罪集団」の活動として,具体的・現実的な「計画」を立て,その上で実行のための「準備行為」を行った場合を処罰する内容と
なっている。
 しかしながら,新法案は,以下のとおり,過去の共謀罪法案と同様の危険性などがあることから,当会
としては,新法案の国会への提出に強く反対する。
 第1に,新法案は「組織的犯罪集団」の定義を「目的が長期4年以上の懲役・禁固の罪を実行することにある団体」とするが,この定義は,「目的」という主観的事情の有無をもって要件該当性を判断する内
容となっており,捜査機関の判断によって,広く同要件の該当性が認められてしまう危険性がある。
 また,新法案の「計画」とは,「共謀」の言い換えに過ぎず,いかなる場合が「計画」に該当するのか
,その処罰範囲が不明確であることに変わりはない。
 さらに,新法案は,計画の上で,「準備行為」を行った場合のみを処罰するとしているが,ここでいう
準備行為自体には犯罪実現の危険性を要さないため,預金の引き出しなど市民の日常生活に関する行為が広く含まれてしまうことになりかねず,線引きが不明確である。
 このように,新法案の内容においても,その処罰範囲が不明確であって,国民の活動に萎縮が生じる恐
れがあり,基本的人権に対する重大な脅威となる。
 第2に,新法案は,禁止される「計画」の内容は,重大犯罪(法定刑長期4年以上の懲役・禁固が含まれる犯罪)に関するものに限られるとするが,上記重大犯罪の数は当初は600を超えるとされ,その中には,背任罪などテロ対策にはおよそ無関係である犯罪も含まれていた。日本政府が対象犯罪を300以下とする方向で調整をすすめるという報道もあるが,対象犯罪を300以下に絞ったとしても対象犯罪が多すぎ,関係のない罪にまでテロ等組織犯罪準備罪が適用されるのではないかという懸念は払拭できない

 第3に,上記のとおり,処罰範囲が不明確であり,適用対象も広範である新法案の捜査のため,テロ対策の名目で市民の監視が行われ,国民のプライバシー権が日常的に侵害される社会となることのおそれす
ら存在する。
 以上のとおり,新法案は,日本国憲法が保障した国民の思想・信条の自由,表現の自由,集会・結社の自由,プライバシー権などの基本的人権に対する重大な脅威となるものであり,人の内心を処罰すること
にもなりかねないことから,当会は,新法案の国会への提出に強く反対する。
(引用終わり)
 
【その4 学習会のお知らせ】
 来る4月9日(日)午後1時から、御坊市の日高教育会館で行われる共謀罪学習会の講師をお引き受けしました。主催者から送られてきたチラシを見ると、講演のタイトルが、3月3日に和歌山県平和フォーラムなどから頼まれて講師を務めた際の演題と一緒なので驚きましたが、共謀罪阻止の闘いは「総がかり行動実行委員会」の枠組みでやるのですから、かえって良いかもしれないと思いました。ということで、御坊・日高の皆さん、4月9日のご都合がつくようでしたら是非ご参加ください(※チラシ)。
 
憲法連絡会・緊急学習会
共謀罪”とは何か?・その狙いとは
日時 2017年4月9日(日)午後1時00分~2時30分
場所 日高教育会館(和歌山県御坊市湯川町財部254)
講師 金原徹雄(弁護士)
主催 憲法9条を守り・いかす日高連絡会(憲法9条を守る御坊・日高共同センターと日高地方の9条の
会との連絡会)
連絡先 日高教育会館 TEL:0738-22-0199 

(弁護士・金原徹雄のブログから)
2017年2月6日
レファレンス掲載論文「共謀罪をめぐる議論」(2016年9月号)を読む
2017年2月7日
日弁連パンフレット「合意したら犯罪?合意だけで処罰?―日弁連は共謀罪に反対します!!―」(五訂版2015年9月)を読む
2017年2月8日
「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」(2017年2月1日)を読む
2017年2月10日
海渡雄一弁護士with福島みずほ議員による新春(1/8)共謀罪レクチャーを視聴する
2017年2月21日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介
2017年2月23日
日本弁護士連合会「いわゆる共謀罪を創設する法案を国会に上程することに反対する意見書」(2017年2月17日)を読む
2017年2月24日
「安倍政権の横暴を許すな!」連続企画@和歌山市のご案内~3/3共謀罪学習会&3/25映画『高江―森が泣いている 2』上映と講演
2017年2月28日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.3
2017年3月1日
ついに姿をあらわした共謀罪法案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)
2017年3月3日
「共謀罪」阻止の闘いは“総がかり”の枠組みで~全国でも和歌山でも
2017年3月4日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.4

2017年3月6日
共謀罪に反対するのも“弁護士”、賛成するのも“弁護士”
2017年3月8日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.5~「テロリズム集団その他」のまやかし

2017年3月9日
3月9日、和歌山で共謀罪に反対する街頭宣伝スタート~総がかり行動実行委員会の呼びかけで
2017年3月17日
共謀罪をめぐる最新ニュース、動画、声明のご紹介vol.6~立憲デモクラシーの会が声明を出しました
2017年3月21日

「緑の大地計画」のこれまでとこれから~中村哲さん、日本記者クラブで語る(2016年8月26日)

 今晩(2017年3月30日)配信した「メルマガ金原No.2767」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「緑の大地計画」のこれまでとこれから~中村哲さん、日本記者クラブで語る(2016年8月26日)

 昨年の9月、ETV特集で放送された『武器ではなく 命の水を~医師・中村哲アフガニスタン~』をご紹介した際にも触れましたが、私は、和歌山市で行われた中村哲さんの講演会に3回とも参加しています。
 
2005年12月1日 和歌山市民会館小ホール
「氷河の流れのように~憲法9条に守られて~」
主催:9条ネットわかやま創立総会実行委員会
 
2008年4月19日 和歌山市民会館市民ホール
中村哲医師講演会 アフガン最前線報告」
主催:和歌山県平和フォーラム
 
2010年10月29日 和歌山市民会館小ホール
「アフガン最前線報告~アジアの同朋としての同じ目の高さをもって~」
主催:9条ネットわかやま、憲法9条を守る和歌山弁護士の会
 
 その後も、中村さんは毎年一時帰国されては、各地で講演されています。アフガニスタン現地の実情を多くの人に知って貰いたいという目的でお話されていることはもちろんであり、今日ご紹介する、昨年8月26日に日本記者クラブで行われた会見なども、そのような活動の一環でしょう。他方で、現地での活動資金を日本で集めるために、直接・間接に役に立つようにという目的も併せ持っていることは当然だと思います。
 
 日本記者クラブでの会見から既に7ヶ月経っていますが、アフガニスタンがどういう国かという前提から始まり、長年にわたる中村さんのこれまでの活動を、写真を交えて1時間程度にコンパクトにまとめて分かりやすく説明しておられますので、多くの人に視聴をお奨めしたいと思います。
 
中村哲 ペシャワール会現地代表 2016.8.26(1時間17分)

司会 原田正隆氏(前日本記者クラブ企画委員、西日本新聞
ゲスト 中村哲氏(ペシャワール会現地代表、PMS(平和医療団・日本)総院長)
 
会見リポート
(引用開始)
「一隅を照らす」記者へメッセージ
30年以上にわたるアフガニスタンでの活動を紹介した。医師として現地医療に携わる傍ら、2000年の大干ばつで必要に迫られた飲料水源の確保にも取り組み、約10年間で、砂漠化した土地に全長27㌔メートルの用水路を完成させた。「2020年までに1万6500㌶に及ぶ地域を緑豊かな土地によみがえらせ、65万人が暮らせるようにしたい」と今後の目標も語った。現在、その9割を達成しているという。
01年のアメリカによるアフガン空爆にも触れ「ピンポイント爆撃と説明していたが、あれは無差別爆撃。日本の人々はサッカー観戦でもするようにテレビにかじりついていた」と振り返った。IS(イスラム国)の今後や、日本の果たすべき役割についても言及し「日本はイスラムと欧州の対立構図にはのみ込まれないでほしい」と警鐘を鳴らした。
中村さんが最後に参加者に贈った言葉は「一隅を照らす」。これまでアフガンに懸けてきた自身の半生を踏まえ「浅く広くなってしまいがちだが、1つのテーマを深く追い、真実を見極める。それを眺めることで広く他のことも見えるようになる」と各記者の仕事に通じるメッセージを残してくれた。
静岡新聞社社会部 大沼 雄大
(引用終わり)
 
 私が、この会見動画で特に注目したのは、質疑応答に入ってからの部分です。JICAとの協力関係に言及された部分もそうですが、1時間12分~は是非視聴してください。ペシャワール会による「緑の大地計画」を、アフガニスタン政府(農業省)と連携して全土に拡げていく計画があることや(政府が全土を掌握しているかは大問題ですが)、国連食糧農業機構などと協力して、トレーニングセンター(研修所)を作り、人材を養成していく予定であることなどが語られており、昨年の9月で満70歳になられた中村さんが、中村さん以後を見据えた体制作りを本格化しておられることが分かります。一部文字起こししておきます。
 
「明らかに一つの計画が始まったばっかりで、具体的にはですね、アフガン政府、今までは我々を煙たく見ておりましたけれども、政府もですね、「この方法がいい」ということでですね、「是非このやり方を拡げよう」という動きが、特に農業省を中心に高まってきております。その結果として、山田堰を次々と訪問したりとかですね、そういうことが起きてます。それから具体的に、トレーニングセンターを開設する契約が国連のFAO、食料農業機構ですかね、と出来ておりまして、現在、まもなく着工致します。これによって、他地域からの研修者も受け容れまして、これを次々と隣接地帯に拡げていこうと。私、あと10年ぐらいすれば、ぼけるか死ぬかどっちかですけども、そのあともですね、限りなくこれは続いていくように、今手配中でございます。」
 
 なお、事業の拡大や研修所の計画については、2016年10月5日発行の「ペシャワール会報 No.129」に中村さんが書かれた報告「今秋から広域かつ大規模な事業展開 「緑の大地計画」の仕上げ―ミラーン堰対岸工事と研修所の設立」で詳しく説明されていますので是非お読みください。
 
 ペシャワール会が営々と実績を重ねてきた「緑の大地計画」を、JICA、国連アフガニスタン政府などが一致協力して、アフガニスタン全土に拡げていければ、どれだけ素晴らしいでしょう。そして、その計画が本当に実現するためには、計画の輪の中にタリバーンも入ることが必須だと思うのですが、無理でしょうか?
 

「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む

 今晩(2017年3月29日)配信した「メルマガ金原No.2766」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「家庭教育支援法案」を考えるための基礎資料のご紹介~(付)「和歌山市家庭教育支援条例」を読む

 自民党が今国会に上程すべく準備してきた「家庭教育支援法案(仮称)」については、様々な批判や懸念が表明されてきましたが、そのような意見に触れる機会があった人にとっても、法案自体が読めないのに批判だけを読んでも、なかなかポイントが掴みづらいところがあったと思います。
 とはいえ、共謀罪法案組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案)が3月21日に衆議院に提出され、新年度予算も27日に成立したことをうけ、与党が今国会での成立を図ろうとする未提出の重要法案は、上程のタイミングが近いと思わなければならないでしょう。
 そこで今日は煩をいとわず、「家庭教育支援法案」とはどういう内容の法案か?このような法案が上程されようとしている背景は何か?について(私自身の勉強も兼ねて)考えるための資料を集めてみました。
 
【家庭教育支援法案】
 何しろ、まだ国会に上程されていませんので、法案自体をネット上で読むことは出来ません。
 そこで、今この問題に関する情報を最も多く集積していると思われる「24条変えさせないキャンペーン」サイトに掲載された「家庭教育支援法案(仮称)」未定稿(2016年10月20日)をご紹介します。
 
 
(引用開始)
 今国会に上程されるといわれている「家庭教育支援法案」。昨年10月の段階での法案をアップします。
 
家庭教育支援法案(仮称)未定稿[平成28年10月20日]
 
(目的)
第一条 この法律は、同一の世帯に属する家族の構成員の数が減少したこと、家族が共に過ごす時間が短くなったこと、家庭と地域社会との関係が希薄になったこと等の家庭をめぐる環境の変化に伴い、家庭教育を支援することが緊要な課題となっていることに鑑み、教育基本法(平成十八年法律第一二〇号)の精神にのっとり、家庭教育支援に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、家庭教育支援に関する必要な事項を定めることにより、家庭教育支援に関する施策を総合的に推進することを目的とする。
 
(基本理念)
第二条 家庭教育は、父母その他の保護者の第一義的責任において、父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努める
ことにより、行われるものとする。
2 家庭教育支援は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、社会の基礎的な集団である家族が共同生活を営む場である家庭において、父母その他の保護者が子に社会との関わりを自覚させ、子の人格形成の基礎を培い、子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるようにすることができるよう環境の整備を図る
ことを旨として行われなければならない。
3 家庭教育支援は、家庭教育を通じて、父母その他の保護者が子育ての意義についての理解を深め、か
つ、子育てに伴う喜びを実感できるように配慮して行われなければならない。
4 家庭教育支援は、国、地方公共団体、学校、保育所、地域住民、事業者その他の関係者の連携の下に、社会全体における取組として行われなければならない。
 
(国の責務)
第三条 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、家庭教育支援に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
 
地方公共団体の責務)
第四条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、家庭教育支援に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。
 
(学校又は保育所の設置者の責務)
第五条 学校又は保育所の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校又は保育所が地域住民その他の関係者の家庭教育支援に関する活動の拠点としての役割を果たすようにするよう努めるとともに、国及び地方公共団体が実施する家庭教育支援に関する施策に協力するよう努めるものとする。
 
(地域住民等の責務)
第六条 地域住民等は、基本理念にのっとり、家庭教育支援の重要性に対する関心と理解を深めるとともに、国及び地方公共団体が実施する家庭教育支援に関する施策に協力するよう努めるものとする。
 
(関係者相互間の連携強化)
第七条 国及び地方公共団体は、家庭教育支援に関する施策が円滑に実施されるよう、家庭、学校、保育所、地域住民、事業者その他の関係者相互間の連携の強化その他必要な体制の整備に努めるものとする。
 
(財政上の措置)
第八条 国及び地方公共団体は、家庭教育支援に関する施策を実施するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
 
(家庭教育支援基本方針)
第九条 文部科学大臣は、家庭教育支援を総合的に推進するための基本的な方針(以下この条及び次条に
おいて「家庭教育支援基本方針」という。)を定めるものとする。
2 家庭教育支援基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 家庭教育支援の意義及び基本的な方向に関する事項
二 家庭教育支援の内容に関する事項
三 その他家庭教育支援に関する重要事項
3 文部科学大臣は、家庭教育支援基本方針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、
関係行政機関の長に協議するものとする。
4 文部科学大臣は、家庭教育支援基本方針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
 
地方公共団体における家庭教育支援を総合的に推進するための基本的な方針)
第十条 地方公共団体は、家庭教育支援基本方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における家庭教育支援を総合的に推進するための基本的な方針を定めるよう努めるものとする。
 
(学習機会の提供等)
第十一条 国及び地方公共団体は、父母その他の保護者に対する家庭教育に関する学習の機会の提供、家庭教育に関する相談体制の整備その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
 
(人材の確保等)
第十二条 国及び地方公共団体は、家庭教育支援に関する人材の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
 
(地域における家庭教育支援の充実)
十三条 国及び地方公共団体は、地域住民及び教育、福祉、医療又は保健に関し専門的知識を有する者がそれぞれ適切に役割を分担しつつ相互に協力して行う家庭教育支援に関する活動に対する支援その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
 
(啓発活動)
第十四条 国及び地方公共団体は、家庭教育支援に関する取組等について必要な広報その他の啓発活動を行うよう努めるものとする。
 
(調査研究等)
第十五条 国及び地方公共団体は、家庭をめぐる環境についての調査研究、海外における家庭教育支援に関する調査研究その他の家庭教育支援に関する調査研究並びにその成果の普及及び活用に努めるとともに、家庭教育支援に関する情報を収集し、及び提供するよう努めるものとする。
 
附則
この法律は、〇〇〇から施行する。
(引用終わり)
 
 以上が昨年10月段階の素案ですが、報道によれば、上記素案をブラッシュアップし、自民党の党内手続きも終えた最終案が固まったとのことです。
 比較邸詳細に伝えた朝日新聞デジタルの記事を引用します。
 
朝日新聞デジタル 2017年2月14日16時50分
家庭教育支援、地域住民に協力要請 自民の法案明らかに(水沢健一)

(抜粋引用開始)
 自民党が今国会で提出をめざす「家庭教育支援法案」の全容が明らかになった。国が家庭教育支援の基本方針を定め、地域住民に国や自治体の施策への協力を求めることなどが柱だ。一方、素案段階で「基本理念」にあった「子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるようにする」の文言を削除。与党
内からも、「公」が家庭に介入しかねないことへの懸念があり、考慮したとみられる。
(略)
 こうした内容については、昨秋の素案の段階で、与党内や識者から「家庭教育に公が介入するものと受け取られかねない」といった批判が出ていた。このため、今回明らかになった法案では、地域住民が「国又(また)は地方公共団体が実施する家庭教育支援に関する施策に協力するよう努める」との規定についても、素案で地域住民の「責務」としていた文言を「役割」と言い換えた。また素案では、家族を「社会の基礎的な集団」と位置づけていたが、この部分も削除された。識者からは、自民党憲法改正草案を想
起させるとの指摘もあった。
 一方で、素案にはあった「家庭教育の自主性を尊重」するとの文言は削除されており、法案が成立した
場合、基本方針に「公」と家庭教育の関係がどう具体的に位置づけられるのかが問題になりそうだ。
 自民党中曽根弘文・青少年健全育成推進調査会長は14日、党部会で「核家族化、地域社会の希薄化などの問題が発生し、これほど重要な課題はない。教育基本法にも家庭教育について明示されている。ぜ
ひ承認いただきたい」と述べた。(水沢健一)
自民党の家庭教育支援法案 こう変わった
【削除】
 ・家庭教育の自主性を尊重
 ・社会の基礎的な集団である家族
 ・国家及び社会の形成者として必要な資質
【追加】
 ・家庭教育支援の重要性
【文言の変更】
 ・地域住民等の責務→地域住民等の役割
 ・学習の機会の提供→学習の機会及び情報の提供
 ・地域における家庭教育支援の充実→地域における家庭教育支援活動に対する支援
(引用終わり)
 
 昨年10月段階の素案に、朝日新聞が伝えた変更を反映させれば、「家庭教育支援法案」の全貌が判明するかと思い、ためしにやってみましたが、どうもうまく文章が繋がらないところが出てきます。とはいえ、自民党「家庭教育支援法案」(最新版)がネットで読めない(少なくとも私は見つけられませんでした)現段階では、この辺のといころで我慢するしかありません。
 
【参考法令/廃止された法律・勅語及び憲法草案を含む】
 それでは、次に、この法案が国会に上程されようとしている背景を理解するために参照すべき法令等をご紹介しておきます。
 まず、法令ではありませんが、学校法人森友学園が運営する塚本幼稚園が園児に暗唱させているということでにわかに注目を浴びている教育勅語です。
 明治22年2月11日に公布された大日本帝国憲法には、教育に関して直接定めた規定は置かれず、翌年10月、憲法施行(明治23年11月29日)を前にして、天皇が教育に関する「勅語」を臣民に下すという形がとられました。
 戦前の学校では、この勅語奉読が行われたということで(塚本幼稚園はそれを模しているのですが)、戦後の右翼も一時期「勅語奉読」をしていたものの、「俺たちは右翼だから、やらなくちゃいけないんだということでやってる。そうすると、若い人が読むと、つっかえるんですね(笑)。難しいから、読めな
いんです。」ということになって、野村秋介氏の意見で止めてしまったとか(鈴木邦男さんの「愛国」スピーチ@3/19国会正門前~全編文字起こし/2017年3月25日)。それも宜なるかなですね。
 ということで、以下には振り仮名付きのヴァージョンもご紹介しておきます。
 
(引用開始)
朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世々厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ敎育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ學ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓發シ德器ヲ成就シ進テ公益ヲ廣メ世務ヲ開キ常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運
ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ獨リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顯彰スルニ足ラン
斯ノ道ハ實ニ我カ皇?皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施
シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其德ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ
明治二十三年十月三十日
御名御璽
(振り仮名付き)
朕(ちん)惟フニ(おもうに)我カ(わが)皇祖皇宗(こうそ こうそう)國ヲ(くにを)肇ムルコト(はじむること)宏遠ニ(こうえんに)德ヲ樹ツルコト(たつること)深厚ナリ(しんこうなり)我カ(わが)臣民(しんみん)克ク(よく)忠ニ(ちゅうに)克ク(よく)孝ニ(こうに)億兆(おくちょう)心ヲ一ニシテ(しんをいつにして)世世(よよ)厥ノ(その)美ヲ(びを)濟セルハ(なせるは)此レ(これ)我カ國體(こくたい)ノ精華ニシテ敎育ノ淵源(えんげん)亦(また)實ニ(じつに)此ニ(ここに)存ス(ぞんす)爾(なんじ)臣民(しんみん)父母ニ孝ニ(ふぼに こうに)兄弟ニ友ニ(けいていに ゆうに)夫婦相和シ(ふうふ あいわし)朋友相信シ(ほうゆう あいしんじ)恭儉己レヲ持シ(きょうけん おのれをじし)博愛衆ニ及ホシ(はくあい しゅうにおよぼし)學ヲ修メ業ヲ習ヒ(がくをおさめ しゅうをならい)以テ智能ヲ啓發シ(もってちのうをけいはつし)德器ヲ成就シ(とっきをじょうじゅし)進テ公益ヲ廣メ(すすんでこうえきをひろめ)世務ヲ開キ(せむ/せいむ をひらき)常ニ國憲ヲ重シ國法ニ遵ヒ(つねにこっけんをじゅうし こくほうにしたがい)一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ(いったんかんきゅうあれば ぎゆうこうにほうじ)以テ(もって)天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ(てんじょうむがいのこううんをふよくすべし)是ノ如キハ(このごときは)獨リ(ひとり)朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス(ちんがちゅうりょうのしんみんたるのみならず)又(また)以テ(もって)爾(なんじ)祖先ノ遺風
ヲ顯彰スルニ足ラン(そせんのいふうをけんしょうするにたらん)
斯ノ(この)道ハ實ニ(じつに)我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ(いくんにして)子孫臣民ノ倶ニ(ともに)遵守スヘキ(じゅんしゅすべき)所(ところ)之ヲ古今ニ通シテ謬ラス(あやまらず)之ヲ中外ニ施シテ悖ラス(もとらず)朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ(けんけんふくよう して)咸(みな)其
德ヲ(そのとくを)一ニセンコトヲ庶幾フ(こいねがう)
明治二十三年十月三十日
御名御璽(ぎょめい ぎょじ)
(引用終わり)
 
 その後、第二次世界大戦の敗戦(ポツダム宣言の受諾、降伏文書への調印)を経て、昭和21年11月3日に公布され、翌22年5月3日に施行された日本国憲法は、家族(家庭)及び教育に関し、以下のように規定しました。
 
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関して
は、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利
を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
(引用終わり)
 
 そして、この憲法の理念を具体化するため、内容的には憲法と一体をなす実質的意味の憲法の一部と言ってもよい(旧)教育基本法が、憲法施行の約1ヶ月前の昭和22年3月に制定されました。
 (旧)教育基本法で家庭教育という用語が登場するのは第7条ですが、この機会に、平成18年(2006年)12月、第一次安倍晋三内閣によってこの旧法が廃止され、新教育基本法が制定されたことが、そもそも今般の「家庭教育支援法案」に至る直接的な端緒であることを想起するためにも、(旧)教育基本法の全文を読んでみましょう。
 文部科学省ホームページの中の「教育基本法資料室へようこそ!」コーナーに、「昭和22年教育基本法制定時の条文」として掲載されています。
 
(旧)教育基本法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十五号/平成十八年十二月二十二日法律百二十号により全部改正)
(引用開始)
 朕は、枢密顧問の諮詢を経て、帝国議会の協賛を経た教育基本法を裁可し、ここにこれを公布せしめる
 
教育基本法

 われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉
に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
  われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてし
かも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。
 ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、
この法律を制定する。

第一条(教育の目的) 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 
第二条(教育の方針) 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。
 
第三条(教育の機会均等) すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。
2 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。
 
第四条(義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
2 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
 
第五条(男女共学) 男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであつて、教育上男女の共学は、認められなければならない。
 
第六条(学校教育) 法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
2 法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならな
い。

第七条(社会教育) 家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体
によつて奨励されなければならない。
2 国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方
法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。

第八条(政治教育) 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
2 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動を
してはならない。

第九条(宗教教育) 宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重し
なければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはなら
ない。

第十条(教育行政) 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われ
るべきものである。
2 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わ
れなければならない。

第十一条(補則) この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定さ
れなければならない。

附則
 この法律は、公布の日から、これを施行する。
(引用終わり)
 
 その教育基本法が、第一次安倍内閣によってどういうものに変えられたかを見てみましょう。全文はリンク先の総務省データベースでお読みいただくとして、以下には、前文と家庭教育を独立して規定した第10条を引用します。
 
  教育基本法(昭和二十二年法律第二十五号)の全部を改正する。

 我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家を更に発展させるとともに、
世界の平和と人類の福祉の向上に貢献することを願うものである。
 我々は、この理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教
育を推進する。
 ここに、我々は、日本国憲法 の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振
興を図るため、この法律を制定する。
 
(家庭教育)
第十条 父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものと
する。
2 国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。
(引用終わり)
 
 これで、ご理解いただけたことと思いますが、「家庭教育支援法案」第2条1項が「家庭教育は、父母その他の保護者の第一義的責任において、父母その他の保護者が子に生活のために必要な習慣を身に付けさせるとともに、自立心を育成し、心身の調和のとれた発達を図るよう努めることにより、行われるものとする。」と定めているのは、新教育基本法第10条1項を直接踏まえた規定であり、同法2項で国及び地方公共団体に課された「保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるよう努めなければならない。」という義務を果たすために「家庭教育支援法」が必要であるというのが、法案立案者の主張だろうと思います。
 もっとも、そういうことであれば、なぜ閣法ではなく、自民党議員立法を目指しているのかがよく分
かりませんが。
 
 いずれにせよ、2006年に実質的意味の憲法であった旧教育基本法が廃止された時点で、憲法改正手続を経ない、実質的な憲法改正がなされたのだということを踏まえておかないと、「家庭教育支援法案」を正しく理解することができないのではないかと思います。
 自民党改憲案が、「家族は、互いに助け合わなければならない。」という規定を新設しようと提案しているのも、2006年版・教育基本法から一直線に繋がっていると考えるべきでしょう。
 
 (家族、婚姻等に関する基本原則)
第二十四条 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなけれ
ばならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力に
より、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律
は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

 (教育に関する権利及び義務等)
第二十六条 全て国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有
する。
2 全て国民は、法律の定めるところにより、その保護する子に普通教育を受けさせる義務を負う。義務
教育は、無償とする。
3 国は、教育が国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に務めなければならない。
(引用終わり)
 
【家庭教育支援法案を批判するサイト】
 既にご紹介した「24条変えさせないキャンペーン」の他に、以下のサイトをご紹介しておきます。
 
 
和歌山市家庭教育支援条例を読む】
 家庭教育支援法案では、「地方公共団体は、家庭教育支援基本方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における家庭教育支援を総合的に推進するための基本的な方針を定めるよう努めるものとする。」(第10条)としていますが、地方自治体の中には、法律の制定を待たず、家庭教育支援条例を制定しているところがあります。
 都道府県では、2013年(平成25年)に熊本県が先陣を切って「くまもと家庭教育支援条例」を制定したことが知られています。
 そして、政令市・中核市の中で先陣を切ったのが、何と私の住む和歌山市だったのです。昨年(2016年)12月15日に「和歌山市家庭教育支援条例」が制定・施行されていました。
 パブコメも募集されていたようなのですが、気がついていなかったというのはうかつでした。
 和歌山市議会の戸田正人議員のブログに「我が至政クラブが提言した、政令指定都市中核市で初となる「家庭教育支援条例」が可決されことに大変満足のいった議会であったと思います。」という記事が載っていました。
 ホームページのカバー写真にわざわざ百田尚樹氏の著書を手に持つ写真を掲げる議員に「大変満足のいった議会」だったと言われるのも「なんだかなあ」ですが。
 ということで、反省の意味も込めて「和歌山市家庭教育支援条例」全文を転記しておきます。「良いことばかり書いてある」と思う人もいるでしょうが、今日ご紹介した資料なども参照しつつ、どこがおかしいのか、考えていただければと思います。遅ればせながら、私も考えてみます。
(引用開始)
 家庭は、教育の根幹である人づくりの基盤であり、家庭教育は、全ての教育の出発点である。子供の基本的な生活習慣及び生活力、豊かな情操、人に対する信頼、他者への思いやり、善悪の判断等の基本的な倫理観、自立心及び自制心等は、家族のふれあいを通じて、家庭で育まれるものである。
 私たちが住む和歌山市は、四季を通じて温暖な気候及び豊かな自然環境の下で先人が育んだ伝統、文化及び技術を受け継ぎながら、家庭及びその家庭を取り巻く地域社会が一体となって子供の健やかな成長を見守り続けてきた。
 しかし、近年では、核家族化、地域社会の人間関係の希薄化等により、家庭が孤立し、保護者の子育てへの不安や負担感の増大とともに、家庭や地域の教育力及び子育て力の低下が指摘されている。
 本市では、これまでも「ともに学び ともに支えあい 未来につながる教育」を基本理念とし、地域社
会全体で将来の和歌山市を創造できる人を育てる教育の充実に取り組んできたが、こうした家庭、社会等の変化を踏まえ、より一層の支援を進めていくことが求められている。
 私たちは、家庭教育の意義を見直し、家庭教育における家庭の果たす役割を改めて認識するとともに、家庭を取り巻く市、学校等、地域住民、地域活動団体及び事業者が家庭教育の自主性を尊重し、それぞれ適切な役割分担を果たしつつ、連携を深め、家庭教育を支えていくことが必要である。
 ここに、家庭教育に十分な支援がなされ、家庭教育が充実することにより、子供が健やかに成長することを願い、この条例を制定する。
 (目的)
第1条 この条例は、家庭教育の支援に関し、基本理念及びその実現を図るための施策の基本となる事項を定め、市、保護者(親権を行う者又は未成年後見人をいう。以下同じ。)、学校等、地域住民、地域活動団体及び事業者の役割を明らかにするとともに、家庭教育のための施策を総合的に推進することにより、保護者が親として学び、成長していくこと及び子供が将来親になることについて学ぶことを促すとともに、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達に寄与することを目的とする。
 (定義)
第2条 この条例において「家庭教育」とは、保護者がその現に監護する子供に対して行う教育をいう。
2 この条例において「子供」とは、おおむね18歳以下の者をいう。 
3 この条例において「学校等」とは、学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(大学を除く。)、児童福祉法(昭和22年法律第164号)第39条第1項に規定する保育所及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第6項に規定する認定こども園をいう。
4 この条例において「地域住民」とは、本市の区域内に住所を有する者をいう。
5 この条例において「地域活動団体」とは、社会教育法(昭和24年法律第207号)第10条に規定する社会教育関係団体、地方自治法(昭和22年法律第67号)第260条の2第1項に規定する地縁による団体その他地域的な共同活動を行う団体をいう。
6 この条例において「事業者」とは、法人及び事業を行う個人をいう。 
 (基本理念)
第3条 家庭教育への支援は、保護者が教育基本法(平成18年法律第120号)第10条第1項に定めるところにより、子供の教育について第一義的責任を有しているとの基本認識の下に、家庭教育の自主性を尊重しつつ、市、学校等、地域住民、地域活動団体及び事業者が、それぞれの役割を果たすとともに、相互に協力しながら一体的に行うものとする。
 (市の役割)
第4条 市は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、家庭教育を支援するために必要な体制を整備するとともに、家庭教育を支援するための施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。
2 市は、家庭教育を支援するための施策を策定し、これを実施しようとするときは、保護者、学校等、地域住民、地域活動団体及び事業者と連携して取り組むものとする。
3 市は、家庭教育を支援するための施策を策定し、これを実施しようとするときは、保護者及び子供の障害の有無、保護者の経済状況その他の家庭の状況に配慮するものとする。
 (保護者の役割)
第5条 保護者は、基本理念にのっとり、子供に愛情をもって接し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るとともに、自らが親として成長していくよう努めるものとする。
 (学校等の役割)
第6条 学校等は、基本理念にのっとり、保護者、地域住民及び地域活動団体と連携し、子供の基本的な生活習慣の確立並びに子供の自立心の育成及び心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする。
 (地域住民及び地域活動団体の役割)
第7条 地域住民は、基本理念にのっとり、保護者及び学校等と連携し、家庭教育を行うため、良好な地域環境の整備に努めるとともに、地域における行事、歴史、伝統、文化及び技術の継承を通じ、子供の健全な育成に努めるものとする。
2 地域活動団体は、基本理念にのっとり、保護者及び学校等と連携し、家庭教育を支援するための取組を行うように努めるものとする。   
3 地域住民及び地域活動団体は、市が実施する家庭教育を支援するための施策に協力するよう努めるものとする。
 (事業者の役割)
第8条 事業者は、基本理念にのっとり、家庭教育における保護者の役割の重要性に鑑み、その雇用する者の健康に配慮し、職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために必要な就業環境の整備に努めるものとする。
 (親としての学びの支援)
第9条 市は、親としての学び(保護者が子供の発達段階に応じた家庭教育に関する知識、子育ての知識その他の親として成長するために必要なことを学ぶことをいう。以下この条及び第14条において同じ。)を支援するための学習の方法を研究し、その研究結果に基づく普及を図るものとする。
2 市は、親としての学びを支援するための学習の機会を提供するものとする。
3 市は、学校等及び地域活動団体が親としての学びを支援するための学習の機会を提供することを支援するものとする。
 (親になるための学びの支援)
第10条 市は、親になるための学び(子供が家庭の役割、子育ての意義その他の将来親になるために必要なことについて学ぶことをいう。以下この条及び第14条において同じ。)を支援するための学習の方法を研究し、その研究結果に基づく普及を図るものとする。
2 市は、親になるための学びを支援するための学習の機会を提供するものとする。
3 市は、学校等及び地域活動団体が親になるための学びを支援するための学習の機会を提供することを支援するものとする。 
 (人材の養成)
第11条 市は、家庭教育の支援を行う人材の養成に努めるとともに、家庭教育への支援に関する人材のネットワークの構築及びその拡充に努めるものとする。
 (連携した活動の促進)
第12条 市は、保護者、学校等、地域住民及び地域活動団体が相互に連携して取り組む家庭教育を支援するための活動を促進するものとする。
 (相談体制の整備及び充実)
第13条 市は、家庭教育に関する保護者の相談に応じるため、相談体制の整備及び充実、相談窓口の周知その他の必要な施策を実施するものとする。
 (広報及び啓発活動の充実)
第14条 市は、家庭教育に関する情報の収集、整理、分析及び提供を行うものとする。
2 市は、家庭教育における家庭の果たす役割について、市民の理解を深め、意識を高めるため、親としての学び及び親になるための学びの重要性に関する研修の実施その他の必要な啓発を行うものとする。
3 市は、家庭教育の支援に関する社会的気運を醸成するため、家庭教育の支援に積極的に取り組む団体の活動を促進するための取組の実施、家庭教育の支援に関する事例の紹介その他の必要な施策を実施するものとする。
附 則
 この条例は、交付の日から施行する。
(引用終わり)

「自由なラジオ LIGHT UP!」最新アーカイブを聴く(050~052)~「森友」問題も「カジノ」問題も

 今晩(2017年3月28日)配信した「メルマガ金原No.2765」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「自由なラジオ LIGHT UP!」最新アーカイブを聴く(050~052)~「森友」問題も「カジノ」問題も

 「ラジオフォーラム」の事実上の後継番組として、昨年の4月にスタートした「自由なラジオ LIGHT UP!」ですが、いよいよ丸1年が経過することになりました。
 定期的に(3週もしくは4週に1回)、まとめてそのアーカイブをご紹介してきましたが、今日は最新の第50回~第52回の3本をご紹介します。
 今年に入って、「YouTubeアーカイブが開けない!」というトラブルが発生してドタバタしましたが、ようやく完全復旧しました。
 過去のアーカイブは以下のYouTubeチャンネルから聴取できます。

自由なラジオ Light Up!(001~039までのアーカイブが聴けます)
jiyunaradio funclub(039以降のアーカイブが聴けます)

 それでは、最新アーカイブ3本に是非耳を傾けてください。

050 2017.3.14
森友学園の謎に迫る!私たち国民の財産をうやむやにさせはしない!
PERSONALITY いまにしのりゆき(ジャーナリスト)
GUEST 福島伸享さん(衆議院議員・インタビュー取材)/田中龍作さん(ジャーナリスト・電話インタビ
ュー)


「今回は、今国会で大きな問題となっている大阪豊中市の国有地につくられた森友学園について特集します。なぜ国民の財産でもある国有地が1/10もの廉価でいとも簡単に売却されたのか?その根拠といわれる「8億円のゴミの山」には一体どんなからくりが仕組まれているのか?つぎつぎと明らかになる新事実をつなぎ合わせて見れば、私たち国民が気がつかない間に構築されていった、ある恐ろしい構造に気が付くことでしょう。
 番組前半では、今国会でこの問題を舌鋒鋭く追及してきた民進党所属の衆院議員・福島伸享さんにお話しを伺いました。森友学園と安倍首相夫妻、財務省の間で一体何が起こっていたのか?元官僚(経産省)でもいらっしゃる福島さんだからこそ知り得る政治と役人、そしてお金についてじっくりと語っていただ
きました。
 また番組後半では、この問題について現地で取材を続けておられるジャーナリストの田中龍作さんにお
電話をおつなぎして、ゴミ撤去や周辺住民の様子などについてレポートしていただきました。
 そして最後には、マスコミでも連日取り上げられている森友学園が経営する塚本幼稚園の独特な教育方針や行き過ぎた指導について、同園に我が子を通わせた経験のある保護者の方々の生の声(インタビュー
取材)をお届けします。
*当番組は2017年3月2日に収録したものです。収録時点では最新の情報をもとに番組を構成しております
が、放送時点では、取り上げた事実関係に変化がある場合もあり得ることをあらかじめご了承ください。
*ご協力いただいた方々のプライバシー保護の観点から、一部取材音の音声を加工していますことをご了承ください。」
 

■メインテーマ:「日本にカジノはいりまへん 隠された問題点を暴く」
 昨年12月15日IR推進法案は十分な議論を重ねることなく、衆院本会議で可決されました。ちなみにIR推
進法とは「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」のこと。ホテルやレストラン、ショッピングセンター、劇場やアミューズメントパークなどが一体となった複合型施設設置のための法律です。そして、何と言ってもIRに欠かせないのが「カジノ」。多くの国民がこの法案がすでに成立してしまった事実
を認識していません。
 そこで今回は、カジノ合法化の経緯と、なぜ今カジノなのか?また、成人人口の5%、500万人を超える人がギャンブル依存症という問題点を。また後半では、東京オリンピック共謀罪、そして大阪万博
とカジノの関係性、さらに「問題ギャンブル」という言葉についても言及します。
■ニュースの歩き方:「2月のアフリカ、ソマリア最新取材報告」
 西谷文和が世界の「ニュースの現場」で、見てきたこと、聞いてきたことを、分かりやすくお届けする
「ニュースの歩き方」のコーナー。今回は、長年、内戦状態にあり、世界で2番目に危険な国(1番めはシリア)と言われるソマリアの現地取材リポートです。未だに多くの市民、特に子どもたちが命の危機に瀕している理由は、実は内戦だけではありませんでした。日本にも大きく関係しているその理由とは何なのか?具体的に報告します。
■Light-Upジャーナル:「福島避難解除」について
電話インタビュー:今中哲二さん(京都大学原子炉実験所研究員)
東京電力福島第一原発事故による福島県内の避難指示が今春(3月末)、帰還困難区域以外のすべての区域で解除されます。新たに解除されるのは、福島県の川俣、浪江、富岡の3町と飯館村です。今回は、「福島避難解除」について、今中さんにお話を伺います。」
 

■メインテーマ:「幕引きを許すな!森友学園問題の核心に迫る」
 大阪の学校法人「森友学園」問題が目まぐるしく揺れています。当初は、同学園に払い下げられた国有
地について、非公開とされた売却額などを公開するよう、財務省近畿財務局に求めたのが事の発端でした
。しかし、国側が争いの姿勢を示したことから大きな問題に発展しました。
 そこで、今回は、そもそもこの訴えを起こされた豊中市会議員の木村真さんをゲストに迎え、政治家の口利きはあったのか?なぜ国有地の払い下げに8億円も値引きされたのか?なぜ小学校の認可がこれほど早く決定したのか?など、事の顛末をお聞きする他、戦前教育への回帰を目論む日本会議の影についても
、併せてお聞きします。
*当番組は2017年3月17日に収録したものです。収録時点では最新の情報をもとに番組を構成しております
が、放送時点では、取り上げた事実関係に変化がある場合もあり得ることをあらかじめご了承ください。
■Light-Upジャーナル:「関西電力大飯原発3、4号機「適合」」について
電話インタビュー:今中哲二さん(京都大学原子炉実験所研究員)

原子力規制委員会は、2月22日、関西電力大飯原発3、4号機の審査書案を了承し、新規制基準での「適合」と判断されました。これでまた電力事業者は、当然のように再稼働へと走り出します。そこで今回は、原子力委員会の審査と、次から次へと再稼働に突き進む原発の安全性について、改めて、今中さんにお聞きします。」

放送予告4/2『佐賀んオヤジのがばい挑戦~アフリカにともせ!希望の明かり~』(NNNドキュメント)

 今晩(2017年3月27日)配信した「メルマガ金原No.2764」を転載します。 
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
放送予告4/2『佐賀んオヤジのがばい挑戦~アフリカにともせ!希望の明かり~』(NNNドキュメント

 私は、太陽光発電と聞くと、田中優さんの影響からでしょうが、すぐに「オフグリッド」という連想が働きます。
 日本でオフグリッド生活を実践するということは、通常、電気の自給自足体制を整えた上で、電力会社との契約を解除し、送電線との接続を遮断するということを意味します。
 ところが、世界に目を向けると、遮断するも何も、はじめから送電線など来ていない地域・集落がいくらでもあります。
 そのようなところに、発電所で作った電気を、長い長い送電線を敷設して送り届けるためには、途方もない時間と経費がかかるでしょうし、それが果たして適切なやり方なのかも疑問です。
 ということで、途上国に対する援助プログラムとして、電気を自給するための太陽光などによる発電シ
ステムを提供するということは、比較的ポピュラーなことなのだろうと思います。

 今度、NNNドキュメントで放送される『佐賀んオヤジのがばい挑戦~アフリカにともせ!希望の明か
り~』は、そのような取組の実例の1つなのですが、どのような点に特徴があるのか、番組を通じてしっかりと学びたいと思います。
 
2017年4月2日(日)24時55分~(3日・0時55分~) 日本テレビ系列
NNNドキュメント『佐賀んオヤジのがばい挑戦~アフリカにともせ!希望の明かり~』

(番組案内から引用開始)
ふだんは屋根の設計施工を手がける佐賀県の中小企業の社長が「がばい」ことを思いついた。
「アフリカに明かりを届ける!」というものだ。福岡県に住むナイジェリア人が加わり、
そのどでかい夢は、日本政府も関わる一大プロジェクトへと広がっていく!
日本では、ほとんど活用されない技術を使い、
お金も技術もない貧しい地域に明かりをともしていく。
イデアと行動力で世界を変えるオヤジの5年間の挑戦に密着した。
ナレーター/水樹奈々  制作/福岡放送  放送枠/30分
再放送
4月9日(日)11:00~ BS日テレ
4月9日(日)5:00~/24:00~ CS「日テレNEWS24
(引用終わり)
 
 「佐賀県の中小企業の社長」というのは、佐賀県鳥栖市で屋根工事の設計施工を請け負う会社を経営する三代目社長の川口信弘さん。
 ところで、制作した福岡放送では、今年の1月29日深夜のドキュメンタリー番組「目撃者f」枠で、『サガンオヤジのがばい挑戦!~ナイジェリア太陽光発電計画~』というタイトルの番組を放送済みなのです。
 その番組を予告した福岡放送の番宣が視聴できます。
 
予告編「サガンオヤジの がばい挑戦!~ナイジェリア太陽光発電計画~」

「FBS浜崎正樹アナが企画!アフリカの電化に挑む鳥栖の小さな会社を追う
FBS福岡放送は2017年1月29日深夜1:25からドキュメンタリー番組「目撃者f」で「サガンオヤジの がばい
挑戦!~ナイジェリア太陽光発電計画~」を放送する。薄型太陽光パネルを使って、アフリカの非電化の村に明かりをともす活動を続けている佐賀・鳥栖の小さな屋根施工会社の社長・川口信弘さんを紹介。どんな屋根にも載せられる太陽光発電パネルを研究する中で生まれたのが「フィルム状の超薄型太陽光パネル」だ。電化製品に囲まれた生活をまかなえるほどの電力は作れないが、巻物のように巻くことができ、持ち運びも簡単だという。この日本の技術が生み出した明かりが、電気のなかったナイジェリアの村人の生活に劇的な変化をもたらすことに…。東南アジアの次の市場と言われるアフリカに目を向けた小さな会社の挑戦を追う。ilmoraで仕上げた作品」
 
 ただ、1月に福岡放送で放送された『サガンオヤジのがばい挑戦!~ナイジェリア太陽光発電計画~』と、これから全国ネットで放送されるNNNドキュメント『佐賀んオヤジのがばい挑戦~アフリカにともせ!希望の明かり~』は、どうやら全く同じものでもないようなのです。
 というのは、前者のナレーションは、企画者(だそうです)である福岡放送の浜崎正樹アナが自ら務め
ていたのに対し、NNNドキュメントでは、「ナレーター/水樹奈々」となっていますものね。
 楽しみに視聴したいと思います。
 
(参考サイト)
株式会社オーエスエム ホームページ
「Kens.coの”ナイジェリアにソーラ街灯を設置”活動にOSグループが協力」

※湾曲できる太陽光シートを提供した会社のホームページです。

「カジノあかん3・25大阪集会」動画のご紹介と12/12参議院内閣委員会での新里宏二弁護士と鳥畑与一静岡大教授の反カジノ意見陳述

 今晩(2017年3月26日)配信した「メルマガ金原No.2763」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
「カジノあかん3・25大阪集会」動画のご紹介と12/12参議院内閣委員会での新里宏二弁護士と鳥畑与静岡大教授の反カジノ意見陳述

 昨日(3月25日・土曜日)、和歌山市大阪市で気になる企画がいくつかあったものの、どうしても
外せない用事が和歌山県白浜町であったため(パンダを見に行ったわけではありません。もっとも、会場はアドベンチャーワールドのすぐ隣りでしたが)、いずれも参加できませんでした。
 
 和歌山市では、午後2時から、和歌山市あいあいセンターで、和歌山県平和フォーラムなどが主催する映画『高江―森が泣いている 2』(藤本幸久・影山あさ子共同監督)上映と大嶺克志氏(自治労沖縄県本部書記長)講演の集いが開かれました。多くの方が参加してくださったものと思いますが(※チラシ)。
 
 大阪市で気になった企画は2つあり、1つは、若い人たちが中心になって企画した「3.25安倍政権に反対するデモ」であり、大阪うつぼ公園を16時00分に出発するものでした。
 このデモを企画した実行委員会のメンバーである服部涼平さんからFacebookを通じて誘われており、他用がなければ大阪まで出かけ、まず、以下に紹介する「カジノあかん3・25大阪集会」に13時30分から参加し(エルおおさか2Fホール)、その後、デモに(途中からでも)参加したかもしれません。
 このデモの雰囲気をよく伝えてくれるダイジェスト動画がYouTubeにアップされています。
 
3.25安倍政権に反対するデモ(4分15秒)


 また、デモの途中からですが、IWJによるTwitcasting動画がアップされています(IWJによる中継が途中からになったのは、もしかしたら、「カジノあかん3・25大阪集会」を撮影してからデモに駆け付けたからかもしれません)。
 
 
 そして、大阪市で気になったもう1つの企画というのが、エルシアターで13時30分から開催された「カジノあかん3・25大阪集会」(実行委員会主催)です。

 昨年12月以降、私がメルマガ(ブログ)に書いた記事は、巻末リストにあるとおり4本あるのですが、昨年12月26日に施行された、いわゆるカジノ解禁推進法(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律)第五条にが、「政府は、次章の規定に基づき、特定複合観光施設区域の整備の推進を行うものとし、このために必要な措置を講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後一年以内を目途として講じなければならない。」と規定していることから、遅くとも今秋の臨時国会には、おそらく閣法(内閣提出法案)として、「必要となる法制上の措置」を定める法律案が国会に提出されるものと思わなければなりませんので、私がカジノについて取り上げる機会はまだまだありそうです。
 
 昨日の大阪集会のチラシから、その内容を一部引用しましょう。
 
(引用開始)
パチンコ、パチスロ、競馬、競輪・・・、現在でも日本は世界にまれなギャンブル大国で、依存症問題も深刻です。それなのに、さらにカジノをつくる!?大阪では、知事も市長もカジノ誘致に躍起で、あの危険な埋め立て地・夢洲に鉄道を通し、巨大な遊戯施設をつくるとか。そんなもんより、今あるギャンブル依存症をゼロにし、大阪の貧困、地場産業の衰退をなんとかしなあかんのと違いますか?私らはカジノ誘
致に反対です。
プログラム
お話 なぜ今、カジノ解禁か~賭博解禁法を運動でつぶそう
 新里宏二さん(弁護士・全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会代表)
映像 カジノあかんやんか(仮)
リレースピーチ 住民投票でカジノ誘致を否決した台湾・澎湖等からのゲスト/ギャンブル依存症被害者
/カジノ合法化反対で国会で奮闘された国会議員のみなさん/中小企業家/教育の現場から/若者、女性
などさまざまな分野のみなさん
(引用終わり)
 
 この集会についても、IWJによるTwitcasting動画が視聴できます。
 
カジノあかん3・25大阪集会 2017.3.25
0分~ 開会
1分~ 主催挨拶 桜田照雄氏(阪南大学教授)
5分~ お話 新里宏二氏(弁護士・全国カジノ賭博場設置反対連絡協議会代表)
      「なぜ今、カジノ解禁か~賭博解禁法を運動でつぶそう」
25分~ ギャンブル依存症被害者から
33分~ リレースピーチ
1時間35分~ 台湾・膨湖島から
1時間46分~ アピール・行動提起
 
 カジノ誘致の先陣を隣接する和歌山県和歌山市と争う勢いの大阪府大阪市。来たるべき衆議院総選挙の重要争点化する必要がある、少なくとも大阪と和歌山では、というのが私の意見です。ということで、今後も、カジノ問題については、しつこく取り上げていきたいと思います。
 
 ところで、昨日の集会でお話された新里宏二(にいさと・こうじ)さんは、仙台の弁護士さんであり、多重債務問題に長年取り組まれ、2011年度には日本弁護士連合会の副会長を務めておられます(※経歴)。

 昨日のミニ講演(約20分)の動画は、Twitcastingなので、画質が朦朧としているのは仕方がありませんが、音声は(音量レベルがもう少しあればとは思うものの)、耳を澄ませば聴き取れる範囲だと思います。
 
 ただ、もう少し明瞭な動画はないだろうか、と探したところ、昨年12月12日に開催された参議院閣委員会に新里さんが参考人として出席し、意見を述べている動画がありました。
 この日は、推進派2人、反対派2人の参考人が意見を述べています。
【推進派】
 美原 融氏(大阪商業大学総合経営学部教授)
 渡邉雅之氏(弁護士)
【反対派】
 新里宏二氏(日本弁護士連合会多重債務問題検討WG座長)
 鳥畑与一氏(静岡大学人文社会科学部教授)49:20 
 
2016 12 12 参議院内閣委員会「IR法案参考人質疑」(4時間08分)

参考人意見】
 2分~ 美原 融氏(大阪商業大学総合経営学部教授)
 14分~ 渡邉雅之氏(弁護士)
 33分~ 新里宏二氏(日本弁護士連合会多重債務問題検討WG座長)
 49分~ 鳥畑与一氏(静岡大学人文社会科学部教授)
【質疑】
 1時間04分~ 和田政宗氏(自民)
 1時間32分~ 神本美恵子氏(民進)
 2時間04分~ 里見隆治氏(公明)
 2時間35分~ 田村智子氏(共産)
 3時間05分~ 浅田 均氏(維新)
 3時間37分~ 山本太郎氏(自由)
 
 民進党が本気で止めようとしなかったため、あっさりと昨年12月14日に成立したカジノ解禁推進法。その2日前の参考人質疑です。
 様々な論点について、4時間にわたって質疑が行われており、成立してしまった今から言うのもなんですが、おおいに勉強になります。
 とはいえ、4時間の動画を視聴するのはつらい、という人も多いと思いますので(私もそうです)、会
議録をご紹介します。
 
 
 ここから、新里宏二弁護士と鳥畑与一教授の基調発言をご紹介したいと思います。少し長くなりますが全部引用します。いずれも、説得力豊かにカジノ推進に「理」も「利」もないことを説明されていますが、特に鳥畑教授の意見陳述から、多くのことを学ばせていただきました。皆さまも是非、動画もしくは会議録で、推進・反対両派の論客の主張に耳を傾け、カジノ問題についての認識を深めていただければと思います。
 
(引用開始)
参考人(新里宏二君) 弁護士の新里でございます。
 本日、参考人としてお呼びいただいて発言の機会をいただいて、本当に感謝申し上げるところでござい
ます。
 私は、このいわゆるIR法案、又はカジノ解禁推進法案と言いますけれども、反対の立場から御意を
述べさせていただきたいと思います。
 まず、カジノの経済効果ということでございます。統合型リゾート、IRは、投資、雇用が期待でき、経済を活性化させる切り札になるだろうとも言われております。アメリカの投資銀行は、日本のカジノの経済効果を四兆円などとも試算しております。その中で、その狙いが日本人の金融資産であることも明ら
かにしております。
 日本ゲーミング学会の谷岡一郎氏は、カジノの推進について、海外からの投資が盛んになり、高齢者の
たんす預金など世の中に出てきにくい金が回り始めると紙上で明言されております。
 平成二十六年五月、アメリカのカジノ運営会社であるサンズ社の会長は、日本のカジノに五千億ないし一兆円を投資するとも述べております。それだけ短期的に巨利を上げることができるということでしょう
か。
 日本にはカジノ産業についての蓄積はなく、海外からの資金及びノウハウに頼らざるを得ません。日本
人の金融資産がカジノを通じて海外に散逸することの危惧の念を抱くのは私だけでしょうか。
 カジノ賭博は業者がもうかり、事業者のもうけはカジノでの負けの総体でございます。私自身、多重債務問題に取り組み、ギャンブルで借金をつくり、仕事、家族を失い、自分の命まで失う悲劇をつぶさに見てまいりました。カジノ賭博は、多くの者が財産を失い、依存症へと追い込まれる。カジノは不幸をまき散らすビジネスではないのでしょうか。人の不幸を前提とした成長戦略に大きな疑問を感じざるを得ませ
ん。
 次に、日弁連の意見書についてでございます。
 平成二十六年五月九日、日弁連は、カジノ解禁推進法案に反対し、その廃案を求める意見書を採択しております。今日の資料一、二で付けておきました。カジノ解禁推進法案の問題点について、カジノ経済効果への疑問、暴力団対策上の問題、マネーロンダリング対策上の問題、ギャンブル依存症の拡大、多重債務問題再燃の危険性、青少年の健全育成への悪影響、民間企業の設置、運営によることの問題を指摘して
おります。
 本日は、その中でギャンブル依存症の問題及び民間企業の設置、運営によることの問題について触れた
いと思っております。
 まず、ギャンブル依存症でございます。ギャンブル依存症の問題は極めて深刻です。ギャンブル依存症
は、慢性、進行性、難治性で、放置すると自殺にも至ることもある極めて重篤な疾患でございます。
 我が国において、平成二十六年三月の厚生労働省研究班による調査結果、資料三で付けておりますけれども、成人男性八・七%、成人女性一・八%、全体四・八%で、推計数は五百三十六万人に達すると言われております。他方、アメリカでは、ルイジアナでは一・五八%、オーストラリア、男性二・四%、女性
一・七%、フランス一・二四%などと比べると極めて高い数値となっております。
 日本には、公営ギャンブルがあるほかにパチンコが地方の隅々にも存在しています。世界のスロットな
どの遊技機械の六割以上が日本にあることがギャンブル依存症問題を深刻化させております。
 カジノは、利益を上げるために多数の賭博客を得ようとするのは当然であり、カジノの設置によってギ
ャンブル依存症の患者が増加することは明白でございます。カジノの売上げによってギャンブル依存症対策を推進するとの見解もありますが、ギャンブル依存症問題の深刻さからすれば、ギャンブル依存症対策はカジノ解禁の問題とは別個にその対策を強力に推進すべきものと考えます。
 本年九月、九州の弁護士と弁護士会の集まりであります九州弁護士会連合会で、ギャンブル依存症のない社会をめざしてと題するシンポジウムを開催しました。弁護士会側から、ギャンブル依存症問題の解決
のために必要な基本法の制定を提案をしております。資料四でございます。
 次に、民間企業の設置、運営によるところの問題でございます。
 日本では、賭博は太古の昔から厳罰をもって禁止され、記録上確認できるのが持統天皇によるすごろく禁止令であることは、国会の議論でもなされているところでございます。現行刑法は、賭博及び富くじに関する規定、刑法百八十五条以下を設けております。他方、特別法、競馬法自転車競技法等により賭博罪、富くじ罪に該当する行為を正当化する規定が置かれており、実際上は、これらの公認された賭博、富くじの枠外で行われ、違法行為を惹起し、暴力団等の資金源となるような賭博、富くじが処罰の対象とさ
れております。
 カジノについて違法性阻却を求めるかどうかについては、本年十二月七日、法務省のペーパー、資料五
を付けておりますけれども、八項目が示されております。
 それによりますと、「これまで刑法を所管する法務省の立場からは、例えば、目的の公益性(収益の使途を公益性のあるものに限ることも含む。)、運営主体等の性格(官又はそれに準じる団体に限るなど)、収益の扱い(業務委託を受けた民間団体が不当に利潤を得ないようにするなど)、射幸性の程度、運営主体の廉潔性(前科者の排除等)、運営主体への公的監督、運営主体の財政的健全性、副次的弊害(青少年への不当な影響等)の防止等に着目し、意見を申し述べてきたところであり、カジノ規制の在り方につ
いても、同様である。」とされております。
 この括弧書きにつきましては、これまで明らかにされていないことが今般明らかになってきております。この八項目につきましては、日弁連の意見書でも指摘したところでございます。括弧内の指摘を前提といたしますと、民営カジノでは、従来の法務省の見解からすると合法の余地はないのではないかと考えて
いるところでございます。
 次に、韓国の江原ランドの問題について指摘したいと思います。
 韓国では、二〇〇〇年、国内十七番目のカジノとして、自国民が入れる江原ランドがオープンします。ソウルから二百キロほど離れた旌善郡に位置します。かつては炭鉱でしたが、二〇〇〇年、カジノリゾートとして、江原ランドとしてオープンし、当初はカジノの単体でしたが、二〇〇三年に、四百七十七の客室を有するホテルカジノとして全面リニューアルし、周囲にはスキー場やゴルフ場も併設した複合型観光
施設となっております。
 中毒管理センターも併設され、十三年間で利用者は五万人、ランド内で自殺した人は四十八人を数えているということでした。ランド側も、当初は二十四時間営業だったものを二十時間に短縮、客は入場記録
が管理され、一か月の利用は十五回に制限されているとも言われています。
 私は、平成二十六年八月に江原ランドにも訪問しております。二〇一二年の入場者数は約三百万人、国へ納める税金は年間四百七十五億円、三千人いる従業員の六割は地元採用と聞いております。それでも、カジノが開業した年から人口が減少し、子育て世代が出てしまい、人口減少に歯止めが掛からないと言わ
れています。
 実は、江原ランド最寄り駅であります舎北駅のバス停、電話ボックスには名刺大のおびただしいサチェ、日本の闇金の広告が出されております。これについては資料六を見ていただければと思います。昔の日本の風俗産業が電話機に名刺大の広告を出したものと同様でございます。明らかに闇金がばっこしている
ことが予想されます。
 駅へ上がる、駅に小型バスが止まっておりました。カジノホームレス宣教会の相談所のようでした。担
当者は不在でしたけれども、バスの後ろには少女がポスターを掲げている写真が貼ってありました。これがその写真でございます。お父さん、お母さん、自殺しないでくださいと書かれています。江原ランドの自殺者が急増し、このポスターになったのではないかと思っているところでございます。江原ランド周辺の質屋街については、その異様な雰囲気がNHKのニュースでも取り上げられております。
 他方、韓国でも、依存症対策としてカジノへの入場規制がなされております。家族要請、本人要請、一般入場規制もなされていると言われております。韓国では、カジノに関わる賭博中毒などが大きな社会問
題となっております。
 韓国では、ギャンブル産業の売上高が二〇〇九年に十六・五兆ウォンとなっております。他方、国家ゲーミング産業統合監視委員会のホームページの賭博問題の社会・経済的費用研究によると、経済と財政、雇用、犯罪及び法律、及び健康及び福祉、それぞれについての金額を推計し、賭博中毒者らの年間総社会
・経済的費用として七十八兆ウォンと指摘しております。資料七で付けているところでございます。
 負の影響が経済効果を大きく上回ることは、日本においてカジノを解禁するかの議論をする上では極め
て実証的なデータだと考えるところでございます。
 さらに、江原ランド依存症管理センターからいただいた資料の最後の記載が示唆に富むものでしたから
御紹介させていただきます。資料八でございます。
 どれだけ徹底した依存症管理システムを備えても、ギャンブル産業の副作用、家産の蕩尽、自殺、地域共同体の崩壊などを根本的に防ぐことはできないので、地域再生戦略としてカジノなどのギャンブル産業を誘致することは非常に慎重を期すべきであり、誘致の前には徹底した準備が必要であると記載されてお
るところでございます。
 次に、日弁連の平成二十六年八月のシンガポール調査についても少し触れたいと思います。
 シンガポール調査の目的は、日本のカジノが観光目的で解禁したシンガポールを参考に企画されていること、シンガポールではカジノの利用は自国民に許されていますが、百シンガポール・ドル、約八千円でしょうかの入場料を課し、家族、本人、政府からの入場規制を掛ける仕組みがあること、これについても日本で参考にするとされていること、シンガポールはカジノの負の影響を抑えることができているのだろ
うかということを依存症支援の現場から確認しようとしたものでございます。
 シンガポールは、御承知のとおり、カジノを解禁したのは二〇一〇年であり、カジノは二か所、MIC
Eを充実させたマリーナ・ベイ・サンズ、家族向けアミューズメントを充実させたワールド・リゾート・セントーサでございます。人口は約五百万人、都市国家でございます。
 依存症の支援組織であるワンホープセンターではギャンブル依存の相談が急増し、五年前には二百から三百件であったものが五百件台に急増しているということでございました。まさしくカジノが影響しているということでございます。自国民に入場料を取ることについては、入場料分を取り戻そうとすること、時間いっぱいゲームをすることから依存症対策として機能していないとのこと、さらに、入場制限につい
ても、ここへの相談者は制限者であり、それも機能していないとの認識でございました。
 平成二十五年秋から新しいガイドライン、ビジット・リミット・ガイドラインによって、賭博依存国家評議会、NCPGから月六回以上の利用者には通知を出し、銀行口座などを自己申告させること、カウンセリングを受けることを通知するというような仕組みとなっていることでございました。協力的でない者
に対しては、標準的な基準を基に個別ケースで調整をして、一か月のカジノへの入場回数の制限ができることになっているということも報告を受けました。
 調査結果からすると、自国民への入場料、入場制限は、依存症対策としては機能していないのではない
かと言わざるを得ません。
 また、支援団体二か所での聞き取りで、ローンシャークがばっこしていることも確認されました。依存
症と借金、ローンシャーク問題はほぼ重なっているとの認識でございました。
 最後になります。
 新聞各紙の世論調査では反対が賛成を大幅に上回り、各社説も拙速な審議に疑問を呈しております。特に、本日述べた賭博の違法性阻却が民間カジノで可能かどうか、十分御審議お願いし、意見陳述を終わり
ます。
 御清聴ありがとうございました。
 
参考人(鳥畑与一君) 静岡大学の鳥畑です。よろしくお願いいたします。
 お手元の資料、全部で三枚ありますが、文書を読ませていただきます。中の資料等については一つ一つ
説明をいたしませんので、御容赦をお願いいたします。
 この度は、参考人として本法案に対する意見発言の機会をいただき、ありがとうございます。
 衆議院内閣委員会等での質疑では、刑法百八十五条等で禁じられた賭博の違法性の阻却要件として八要件が議論されました。そこでは、国際観光や地域振興、そして財政に資することが統合型リゾート、IR
の公共性を担保するものとして答弁されていました。
 私は、IRの収益エンジンとして組み込まれたカジノをIR型カジノと呼んでおりますが、このIR型カジノの経済的効果なるものが刑法の違法性を阻却するものであるかという観点から、甚だ浅学ではあり
ますが意見を述べさせていただきます。
 現在、IR型カジノについて、投資額や収益からの経済効果のみが一面的に強調されています。しかし、米国議会国家ギャンブル影響度調査以降、ギャンブル収益は代替効果、共食いを伴うものであり、かつ
、多くの社会的コストを発生させることが共通認識として確立されています。
 ギャンブルの経済的特質については、ノーベル経済学賞受賞者であるポール・サミュエルソンは「経済学」で、新しい価値を生み出さない所得の移転でしかなく、所得格差を拡大すると指摘しています。フィラデルフィア連銀のアラン・マラハは「カジノ・ギャンブル導入の経済的・社会的影響」で、カジノの経済的効果としては、地域外からギャンブル収益をもたらす目的地効果、それから州外に流れているギャンブル収益を取り戻す奪還効果、そして地域内での消費を奪う、単なる置き換えであるという代替効果、それから地域外の資本によることによって利益が地域外に流出する効果を指摘しつつ、純粋な経済的効果や財政に与える影響は、これらを総合的に評価するほか、社会的コストを加味する必要があるとしています

 現在、米国各州では、新たにカジノを合法化する際にはカジノ設置に伴う経済的効果と社会的コストの総合的評価を行うことが一般化していますが、そこでは、カジノは経済的効果のみをもたらすものではな
いことが明らかになっています。
 例えば、カジノ推進派のダグラス・ウォーカーですら、「カジノ産業の本質」で、住民がギャンブルにより多く支出するようになれば他の財やサービスの支出が減る可能性もあるとして全米各州の調査を行っ
たところ、カジノが州の税収にプラスの影響を及ぼすことは確認できなかった、どうやらカジノは州の税収に対して何の影響も与えないか、ややマイナスの影響を与えるようだ、ギャンブル産業を合法化したり拡大したりすれば州政府収入にプラスの効果があるという言い分は成り立たないと述べています。
 カジノの純粋な経済効果はその立地や規模に左右されるため、一般論として結論できませんが、ニューハンプシャー州では、カジノ合法化するか否かの議論に当たって、超党派の調査委員会で地域別の経済効果と社会的コストの計量的評価を試みた結果、地域によっては経済的効果を社会的コストが上回ると結論
しました。この結果、ニューハンプシャー州ではカジノ合法化の議会での否決が続いています。
 IR型カジノでは、一兆円規模の投資と巨大なIR施設運営を支える数千億規模の収益が実現するとされています。例えば、関西経済同友会の構想では、毎年約五千数百億円、約五十億ドルの収益が想定されています。かつてカジノ単体の構想が基本であったお台場カジノの収益予想は約三百億円、これと比較して、IR型カジノに衣替えすることで桁違いのカジノ収益が実現するとされるわけですが、それは現実的
な推計なのでしょうか。
 IR型カジノのモデルでもあるラスベガス・ストリップ地区の大型二十三カジノのカジノ収益合計は約
五十三億ドルで、平均二・三億ドルでしかありません。アメリカ大手カジノ企業MGMのラスベガスを中心とする米国内十二カジノの収益合計は約二十七億ドル、平均二・二億ドルです。
 ところが、マカオのMGMチャイナだけで最盛期三十三億ドルの収益となります。なぜ一桁多いカジノ収益が実現するのか。その秘密は、二十一億ドルを占める中国富裕層、VIPからの収益です。スロットマシンを中心にミドルクラスや高齢者をマーケットとする限り、数百億円のカジノ収益というのが米国の
現実です。そして、ラスベガスですら赤字なのです。
 ところが、日本では中国富裕層を相手に荒稼ぎをしているマカオやシンガポールよりも高収益を上げることができるというその根拠は何なのでしょうか。普通の外国人観光客にちょっとカジノに寄ってもらう
だけでマカオ、シンガポールよりも更に大きなカジノ収益を実現できると想定するのは極めて困難ではないでしょうか。
 提案者は、日本国内ではIR型カジノ数を制限するので過当競争にはならないとしますが、肝腎のアジアのVIP市場におけるIR型カジノ数を日本はコントロールできません。マカオのカジノ収益がVIP収益減少によって最盛期から四割減少したように、アジアのVIP市場が縮小局面に突入している中、韓国のリゾートワールド済州を始め複数のIR型カジノの参入が予定されています。そこに周回遅れの日本が日本にしかないIRの魅力を強調しても、肝腎のカジノは世界中どこでも同じカジノです。米国アトランティックシティーのカジノ産業は、周辺州のカジノ合法化によって最盛期の収益六十五億ドルから一五年には三十五億ドルにほぼ半減し、十二カジノ中五軒が経営破綻に追い込まれていますが、日本も同じ運
命をたどる危険性が高いと考えます。
 提案者は、シンガポールにおけるギャンブル依存症対策の成功を大前提にして、日本でIR型カジノをオープンさせてもギャンブル依存症の発生を最小限に抑制できるとしています。カジノ収益を基にパチン
コ等の既存ギャンブル依存症対策を講じることでギャンブル依存者の総数も減少できるとしています。
 確かに、シンガポールのNCPGの二〇一四年調査によれば、ギャンブル依存症率は、一一年調査時の二・六%から〇・七%に大きく低下しています。しかし、データを子細に見れば、カジノ参加率が七%から二%に大きく減少しています。住民数に置き換えると、二十六・五万人から七・七万人への減少となります。一方で、自己排除制度でカジノ入場禁止措置を講じた人数は三十二万人へと大きく増大しています。入場回数を基準にした規制を行っているとも仄聞しております。実際、カジノの入場料収入も大きく減
少しています。
 NCPGは、ギャンブルは決して豊かにしてくれない、莫大な借金だけが残るだけだといった啓蒙ビデ
オの制作など、ギャンブルの危険性を徹底的に教育する活動も行っています。シンガポールギャンブル依存症対策は市民にカジノをさせない政策であり、市民がカジノに行かなくなったから依存症率が低下しているのではないでしょうか。
 さらに、上記調査の回答率が大きく減少しており、隠す病気と言われるギャンブル依存者が回答していない可能性も考えられます。ギャンブル依存症は時間を掛けて顕在化してくるとされており、二〇一〇年
オープンのカジノの負の影響を現時点で評価するのは早過ぎます。
 それでも、自己破産数が二〇一一年の五千二百三十二件から一四年には七千八百九十一件へ、そして犯罪件数も二〇一三年以降増加傾向に転じ、とりわけ詐欺、横領、コマーシャルクライムが二〇一二年の三千五百七件から一五年には八千三百二十九件に異常な増大を示しています。現に、NCPG自身が現時点で成功したと結論できないこと、カジノに通う十名のうち四名が依存症になる可能性があると言われてい
ると、常習者における依存症の危険性を述べていることは重要です。
 米国の一九九九年と二〇一三年のギャンブル依存症率の比較を行ったウェルテ等による研究によれば、責任あるギャンブルに基づく様々な取組にもかかわらず依存症率は減少していません。カジノに通いやすい環境にある住民の依存症率が高いことも改めて確認されています。カジノのギャンブルが他の既存のギャンブルよりも依存症率を誘発する危険性が高いことが明らかにされており、カジノ収益でギャンブル依
存症対策を取れば問題ないという姿勢は、日本のギャンブル依存症問題を一層深刻化させると考えます。
 提案者は、IRの中でカジノの占める面積はほんの一部でしかなく、あくまで家族みんなが楽しめる統合型リゾートであると言います。しかし、それは家族ぐるみでギャンブルに誘引する仕組みとも言えます。例えばラスベガスでは、ギャンブル目的の初訪問客は一%ですが、リピーターでは一二%に増大します。平均三泊四日の滞在中に七三%がギャンブルを経験することで、より多くの客がギャンブル常習者への道をたどることになります。IR型カジノは、家族ぐるみで来訪させ、お父さんもお母さんもギャンブル
を経験させることで、ギャンブル依存症になる可能性を国民全体に広げる施設だと考えます。
 しかも、シンガポールのIRで収益の八割をカジノ収益が占めるように、巨額投資の回収と他部門の赤字の補填を行いつつ二〇%以上とも言われる高い投資収益率を実現するために、毎年数千億円のカジノ収益実現が求められる収益エンジンとしてのカジノなのです。シンガポール政府は市民のカジノ参加率を二%に減少させましたが、大阪の夢洲構想では八二%が国内客とされるように、国内収益中心のIR型カジノではシンガポール型規制は不可能であり、逆に国民全体をギャンブル漬けにしていく極めて強い経済的
衝動を持つカジノというのがIR型カジノの本質だと考えます。
 外国観光客、とりわけ中国富裕層が獲得できず、国内客比率が高まるほど、国内における購買力の移転でしかなくなり、日本経済におけるマクロ的プラスは期待できません。ましてや、二〇一二年以来百四十八億ドルを株主に利益還元したと誇るラスベガス・サンズ等の外資がIR型カジノの運営を担った場合は、漏出効果、利益流出でマクロ経済的にもマイナスとなります。その上、ギャンブルで所得や貯蓄を失うことによる経済的困難者の増大等を通じた貧困格差を一層促進することになります。また、周辺地域のマネーがIRに吸い込まれることで、地域間の経済的格差や地域経済社会の破壊が進んでいくことになりま
す。
 IR型カジノの本質は、ギャンブル収益による他部門の赤字補填に見るように、コンプと呼ばれる価格
サービスを行う点にあります。ギャンブル収益のない既存の商店街やレストラン、ホテルなどは、不平等な競争を強いられ、淘汰されていく危険性が高まります。犯罪誘発などの社会的被害が地域社会に負わされていく危険性も高まっていきます。
 さらに、高齢者がギャンブルを通じて老後の生活資金を失う危険性が高まります。米国では、カジノ収益の六割前後がギャンブル依存症者によると言われるように、客を依存症状態に誘導することで高収益を上げるカジノビジネスにおいて、賭けに負けたあなたが悪いという自己責任論で片付けることは許されま
せん。IR型カジノは、通常のカジノよりも地域経済を破壊する危険性の高い施設と考えます。
 かつてチュニカの奇跡と呼ばれたミシシッピ州のチュニカも、地元カジノの破綻でチュニカの奇跡は終
わったとされています。アトランティックシティーも衰退が進んでいます。米国アトランティック誌、二〇一四年八月七日付けですが、地域経済を破綻させるいい方法、それはカジノを造ることと表現したような事例が顕在化しています。巨額投資のみが先行し、期待される収益が実現しないことで経営破綻に追い込まれたリゾート開発の繰り返しになる危険性が高いと考えます。国際観光数等も、IRなしでもシンガポール以上に増大しています。IR型カジノに刑法の賭博罪の罪を阻却する公益性があるとは思えません
 本法案では、シンガポールのNCPGのようなギャンブル依存症対策の専門機関設置を義務付ける条文がありません。また、カジノ設置の経済的効果のみならず社会的コストの調査や、最終的には住民投票などで受入れ地域の意思を尊重させる条文もありません。基本法と実施法を分離することで重要な欠陥を先送りすることは、国会の国民の未来に対する責任放棄であると訴えて、私の意見を終わらせていただきま
す。
 ありがとうございました。
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから)
2016年12月8日
カジノ推進法案をめぐる和歌山の現状と読売新聞による徹底批判

2016年12月13日
カジノ解禁推進法案の廃案を求める大阪弁護士会・会長声明(2016年12月12日)のご紹介~付・2014年10月の和歌山弁護士会・会長声明
2017年2月27日
和歌山弁護士会「いわゆる「カジノ解禁推進法」の成立に抗議し、同法の廃止を求める会長声明」(2017年2月27日)と和歌山でのカジノ誘致の動き
2017年3月10日
「カジノで観光・まちづくり!?ちょっと、おかしいんとちゃうか!緊急トーク集会」3/13@プラザホープのご案内と4月・5月の「予告編」

カジノあかん大阪集会チラシ