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国連自由権規約委員会「総括所見」から考える~特にヘイトスピーチ規制について

 

 今晩(2014年8月2日)配信した「メルマガ金原No.1805」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
国連自由権規約委員会「総括所見」から考える~特にヘイトスピーチ規制について
 
 今日は8月の第1土曜日ということで、和歌山市では、毎年恒例の「紀州おどり」(今年は回を重ねて第46回)が開催される日であり、2005年以来、「憲法9条を守る和歌山弁護士の会」が中心となって結成を呼びかけている「九条連」が、10年連続の出場を果たすはずだったのですが、まことに残念ながら、昨夜来の雨が止まず、午後2時には中止が決定されました。過去46回のうち、荒天による中止はこれで2回目とか。
 憲法が最大の危機を迎えた今年だからこそ、9条の旗の下に多くの市民が結集する姿を披露したいと考えていたのですが、天候には勝てません。仕切り直して来年また頑張ろう。

(弁護士・金原徹雄のブログに掲載した昨年の「九条連」の活躍)
2013年8月4日
「九条連」が「紀州おどり」に“9年連続”出場(3分の1は子どもたち)
 
 ということで、今晩は「10年連続出場をはたした『九条連』が見据える未来」(仮題)という記事を配信すべく、予定稿(と言ってもサワリの部分だけですが)まで用意していたのですが、これは没にせざるを得ず、急遽別のテーマを探すことになりました。
 
 しかし、良いことなのかどうか分かりませんが、憲法原発を取り巻く諸問題が一つも見つからないことなどあり得ず、「どれにしようか?」と目移りする中から、今日選んだのは、国連自由権規約委員会が7月24日に採択した第6回日本政府報告に関する総括所見です。
 
 ヘイトスピーチ規制の強化が求められたとか、特定秘密保護法との関連で、国民の知る権利の保障への配慮が求められたなど、勧告の内容が断片的に日本のマスメディアでも伝えられていましたが、その全体像が詳しく報道されてはいないと思います。
 そもそもこの「総括所見」は、7月24日に公表されたばかりであり、日本政府(外務省)サイ
トにもまだ「仮訳」が掲載されるには至っておらず、民間団体の「試訳」も、部分的なものはあっても、全文の翻訳はまだネット上で容易に検索できるようにはなっていないようです。
 
 とりあえず、英語正文は、こちらのサイトからダウンロード(ワードファイルで9ページ)することができます。
 
CCPR - International Covenant on Civil and Political Rights
111 Session (07 Jul 2014 - 25 Jul 2014)
 
 この内、第6回日本政府報告書に対する総括所見をプリントアウトしPDFファイルにしておきました。
 
Concluding observations on the sixth periodic report of Japan
 
 そもそも、ジュネーブで何が行われていたかを理解するための基礎知識として、国連人権規約の内の自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約))の以下の条項を読んでおく必要があります。
 
第二十八条
1 人権委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、十八人の委員で構成す
るものとして、この部に定める任務を行う。
2 委員会は、高潔な人格を有し、かつ、人権の分野において能力を認められたこの規約の
締約国の国民で構成する。この場合において、法律関係の経験を有する者の参加が有益であることに考慮を払う。
3 委員会の委員は、個人の資格で、選挙され及び職務を遂行する。
 
第四十条
1 この規約の締約国は、(a)当該締約国についてこの規約が効力を生ずる時から一年以内
に、(b)その後は委員会が要請するときに、この規約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を提出することを約束する。
2 すべての報告は、国際連合事務総長に提出するものとし、同事務総長は、検討のため、
これらの報告を委員会に送付する。報告には、この規約の実施に影響を及ぼす要因及び障害が存在する場合には、これらの要因及び障害を記載する。
3 国際連合事務総長は、委員会との協議の後、報告に含まれるいずれかの専門機関の
権限の範囲内にある事項に関する部分の写しを当該専門機関に送付することができる。
4 委員会は、この規約の締約国の提出する報告を検討する。委員会は、委員会の報告及
び適当と認める一般的な性格を有する意見を締約国に送付しなければならず、また、この規約の締約国から受領した報告の写しとともに当該一般的な性格を有する意見を経済社会理事会に送付することができる。
5 この規約の締約国は、四の規定により送付される一般的な性格を有する意見に関する
見解を委員会に提示することができる。
 
 以上の規定に基づき、7月15日、16日の両日、自由権規約委員会(規約上は単に人権委員会」)による第6回日本政府報告書審査がジュネーブ国連欧州本部で行われ、その結果取りまとめられた総括所見が同月24日に公表されたという訳です。
 
 現時点において、この総括所見についての最も詳細な解説として、日弁連自由権規約WG座長としてジュネーブでのロビー活動にあたった海渡雄一弁護士が、「国連自由権約委員会は日本政府に何を求めたか=死刑・代用監獄慰安婦・秘密保護法・ヘイトスピーチ・技能実習生・福島原発事故=」という長文のレポートを発表しており(「本報告中意見にわたる部分は私の個人的見解であり、日弁連の見解を代表するものではない」という断りつき)、これにより、審査の経過を含め、勧告の趣旨を詳しく知ることができますので、是非熟読されることをお勧めします。
 この報告は、私の目に付いただけでも、以下のサイトに転載されていました。
 
レイバーネット日本(HTML) http://www.labornetjp.org/news/2014/0730kaido
秘密保護法対策弁護団(HTML) http://nohimituho.exblog.jp/23051739/
福島みずほのどきどき日記(PDF)
 
 全体についての詳細は、上記の海渡雄一弁護士の報告にゆずるとして、ここでは、総括所見12項「ヘイトスピーチと人種差別」を取り上げたいと思います。この問題については、本メルマガ(ブログ)でも、過去2回取り上げたことがありました。
 
2013年7月15日
ヘイトスピーチを考えるためのいくつかの視点(ビデオニュース・ドットコム)
 
2014年3月25日
ヘイト/スピーチと法規制~人種差別撤廃委員会一般勧告35から考える
 
 まず、海渡雄一弁護士の報告の中のヘイトスピーチ関連部分の記述を引用します。
 
(引用開始)
1 ヘイトスピーチの処罰を法制化せよ
 ヘイトスピーチについて、イスラエルのシャニイ委員が取り上げた。「韓国人を殺せ」などと叫
デモが全国で350件も報告され、広範に起きていることが委員会の場でも確認された。
 政府の答弁は特定の人や集団への名誉毀損や脅迫にあたる場合に民事責任と刑事責
任を問いうる、一般的なヘイトスピーチに関しては、啓発活動に取り組んでいるという答弁に終始した。このやりとりを通じて、日本に包括的な差別禁止法制がなく、ヘイトスピーチを禁止できていないことの問題点が明確になった。
 二日目のフォローアップ質問において、シャニイ委員は表現の自由の保障は重要であるとし
つつ、規約20条がバイオレンスの防止のため、人種差別の煽動をするようなヘイトスピーチ抑制しなければならないことを定めていると指摘し、民事法的な措置だけに委ねると民事提訴ができない場合もあり、国が抑制することが望ましいと述べた。
 人種差別撤廃委員会の前記の見解は、法律により処罰されうる流布や扇動の条件とし
て、委員会は以下の文脈的要素が考慮されるべきであると考えるとして、スピーチの内容と形態、経済的、社会的および政治的風潮(委員会は、ジェノサイドに関する指標において、人種主義的ヘイトスピーチの意味および潜在的効果を評価する際に地域性が関連することを強調した)、発言者の立場または地位、スピーチの範囲、スピーチの目的を考慮すべきだとしている。
 また、締約国は、扇動罪の重要な要素として上記の考慮事項に加えて、発言者の意図、
そして発言者により望まれまたは意図された行為がそのスピーチにより生じる差し迫った危険または蓋然性を考慮に入れるべきであるとされている。
 日本の状況は、放置すれば、人種差別的暴力への歯止めが利かなくなる一歩手前まで
来ている。委員会は、勧告12項において、規約2条、19条、20条、27条にもとづいて「朝鮮・韓国人、中国人および部落民などのマイノリティグループの構成員への憎悪および差別を扇動している広範囲に及ぶ人種主義的言説と、これら行為に対する刑法および民法上の保護の不十分さに懸念を表明する。委員会はまた、頻繁に行われている許可を受けた極端論者のデモ、外国人の生徒・学生を含むマイノリティに対する嫌がらせと暴力、並びに民間の施設や建物での“ジャパニーズ・オンリー(日本人以外お断り)”などの看板・貼り紙の公けの表示について懸念を表明」し、「締約国は、差別、敵意あるいは暴力の扇動となる人種的優越あるいは憎悪を唱える宣伝のすべてを禁止し、そのような宣伝を広めるためのデモを禁止するべきである。締約国はまた、人種主義に対する意識高揚活動のために十分な資源を割り当て、裁判官、検事および警察官が、ヘイトクライムや人種主義的動機による犯罪を見つける力をつける訓練を確実に受けるよう取り組みを強化するべきである。締約国はまた、人種主義者の攻撃を防止し、加害者とされる者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合は適切な制裁をもって処罰されることを保証するためにすべての必要な措置をとるべきである。」と勧告した。
 これは、明確にヘイトスピーチそのものの刑事的規制を求めた勧告である。表現の自由
保障しつつ、ヘイトスピーチに効果的な規制を行うことは難しい作業である。実は、日弁連ヘイトスピーチに対して、これを強く非難する意見を表明しているが、刑事法的規制が必要であるという意見をまとめるに至っていない。しかし、日本の現状は戦争とジェノサイドの危険が切迫しているものと認識しなければならない。政府も、われわれNGOも、この難問に取り組むべき時機が来ているのではないだろうか。
(引用終わり)
 
 なお、総括所見12項の部分訳が「一般財団法人アジア・太平洋人権情報センター(ヒューライツ大阪)」サイトに掲載されていましたので、該当部分の英語原文と併せて引用しておきます。
 
(引用開始)
ヘイトスピーチと人種差別
12. (自由権規約)委員会は、コリアン、中国人または部落民などのマイノリティ集団の構成
員に対する憎悪と差別を扇動している広範囲におよぶ人種主義的言論、および刑法と民法で付与されているこれらの行為からの保護の不十分さに対して懸念を表明する。委員会は、許可されて行われる過激論者による示威行動の多さ、外国人生徒・学生をはじめとするマイノリティに対するハラスメントと暴力、民間施設における「ジャパニーズ・オンリー」などのサインを公然と掲示することにも、懸念を表明する(2条・19条・20条・27条)。
国は、差別、敵意または暴力の扇動となる、人種的優越または憎悪を唱道するすべての宣
伝を禁止すべきであり、またそのような宣伝の流布を意図した示威行動を禁止すべきである。締約国は、人種主義に反対する意識啓発キャンペーンのために十分な資源の配分を行うとともに、裁判官、検察官、警察官が憎悪および人種的動機に基づく犯罪を発見する訓練を受けることを確保するために一層努力すべきである。締約国は、人種主義的攻撃を防止するために、また容疑者が徹底的に捜査され、起訴され、有罪判決を受けた場合には適当な制裁により処罰されることを確保するために、あらゆる必要な措置をもとるべきである。
 
Hate speech and racial discrimination
12. The Committee expresses concern at the widespread racist discourse against
members of minority groups, such as Koreans, Chinese or Burakumin, inciting hatred and discrimination against them, and the insufficient protection granted against these acts in the criminal and civil code. The Committee also expresses concern at the high number of extremist demonstrations authorised, the harassment and violence perpetrated against minorities, including against foreign students, as well the open display in private establishments of signs such as “Japanese only” (arts. 2, 19, 20 and 27).
 The State should prohibit all propaganda advocating racial superiority or hatred
that incites to discrimination, hostility or violence, and should prohibit demonstrations that intended to disseminate such propaganda. The State party should also allocate sufficient resources for awareness-raising campaigns against racism and increase its efforts to ensure that judges, prosecutors and police officials are trained to be able to detect hate and racially motivated crimes. The State party should also take all necessary steps to prevent racist attacks and to ensure that the alleged perpetrators are thoroughly investigated and prosecuted and, if convicted, punished with appropriate sanctions.
(引用終わり)
 
 委員会が参照している自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)の各条文もお読みください。
第19条・20条・27条 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html
 
第二条
1 この規約の各締約国は、その領域内にあり、かつ、その管轄の下にあるすべての個人に
対し、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等によるいかなる差別もなしにこの規約において認められる権利を尊重し及び確保することを約束する。
2 この規約の各締約国は、立法措置その他の措置がまだとられていない場合には、この規
約において認められる権利を実現するために必要な立法措置その他の措置をとるため、自国の憲法上の手続及びこの規約の規定に従って必要な行動をとることを約束する。
3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。
(a) この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する
者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。
(b) 救済措置を求める者の権利が権限のある司法上、行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。  
(c) 救済措置が与えられる場合に権限のある機関によって執行されることを確保すること。
 
第十九条
1 すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。
2 すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若し
くは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。
3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使につい
ては、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。
(a) 他の者の権利又は信用の尊重
(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護
 
第二十条
1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。
2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律
で禁止する。
 
第二十七条
 種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する
者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。
 
 「ヘイトスピーチと法規制」という問題については、自由権規約委員会の勧告を待つまでもなく、到底このまま放置できるような状況ではないでしょう。問題は、「規制するか、しないか」ということではなく、「どのような規制にすることが、憲法で保障された表現の自由とのバランス上、最も適切か」という段階に達しているのだと思います。
 その際、日本が締約国となっている国際自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)の規定に従うべきはもちろん(憲法98条2項参照)、同規約に基づく人権委員会からの勧告は、十分参考にする必要があるでしょう。
 

(付録)
『She said NO!』 作詞作曲:よしだよしこ 演奏:よしだよしこ 
 今日の記事と一緒に聴く曲としては、ローザ・パークス(Rosa "Lee" Louise McCauley Parks)を歌ったよしだよしこさんのこの曲がもっともふさわしいと思いました。
 長い歌詞の最後で、よしこさんは次のように歌います。
私の国はちいさな島国で62年前 
「絶対に戦争しない」という素晴らしい誓いをした国です 
でもうつむく人が多い国です 知らん顔して歩く人たちが 多い国なんです 
あ~そんなとき Sister ROSA バスの後ろの席で
貴方の勇気に思いを馳せます
あぁ なんてちっぽけな ちっぽけな私
でも 貴方の勇気を唄うことは出来ます
We shall overcome
We shall overcome
貴方が教えてくれた沈黙することの罪 
We shall overcome
We shall overcome 
貴方が教えてくれた何もしないことの罪 You said NO!You said NO!
貴方が教えてくれた微笑というチカラ 
You said NO!YES,I said NO!NO!NO!
歴史をつくる 一粒の種 JUST NO! JUST NO!