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高浜原発3号機(運転中)、4号機の運転禁止を命じた大津地裁仮処分決定の大きな意義

 今晩(2016年3月9日)配信した「メルマガ金原No.2390」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
高浜原発3号機(運転中)、4号機の運転禁止を命じた大津地裁仮処分決定の大きな意義

 今日、2016年3月9日は、日本の裁判所が、史上初めて、運転中の原子力発電所の設置主体に対し
て、「運転してはならない」という仮処分決定を言い渡した日として記憶されることになりました。
 裁判所は大津地方裁判所(山本善彦裁判長)、設置主体は関西電力、運転が禁止された原発は高浜原子
発電所3号機及び4号機です。
 各種報道の中から、日本経済新聞WEB版の記事を引用します。
 
日本経済新聞 2016/3/9 15:42
関電高浜原発3・4号機の運転差し止め 大津地裁仮処分決定

(引用開始)
 関西電力高浜原子力発電所3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを滋賀県の住民が求めた仮処分申請で、大津地裁(山本善彦裁判長)は9日、運転を認めない決定をした。東京電力福島第1原発事故後に再稼働した原発の運転を禁止する司法判断は初めて。仮処分決定は、訴訟の判決と異なり直ちに効力が
生じるため、2基はいずれも運転停止の状態に追い込まれる。
 今後の司法手続きで判断が覆らない限り運転は再開できず、関電の経営にとって大きな打撃となりそう
だ。
 2基は2015年2月に国の安全審査に合格。3号機は今年1月に再稼働し、現在も運転を続けているが、
4号機は翌2月に再稼働しながら、直後にトラブルが発生したため停止している。
 争点は、耐震設計で想定する最大の揺れの強さである基準地震動を700ガル(ガルは加速度の単位)とし
た関電の想定や、原子力規制委員会が定めた原発の新規制基準の妥当性。
 住民側は関電の想定が「安全を担保するには不十分」とした上で、事故が起きれば、滋賀県の住民も被曝(ひばく)、琵琶湖が汚染され近畿地方の飲み水に影響が出ると主張。新規制基準も安全レベルは低く
、実効性のある避難計画も策定されていないと訴えている。
 関電側は「安全性は確保されている」などと反論していた。
 住民らは仮処分申請とともに運転停止を求める訴訟を起こしており、大津地裁で係争中。
 山本裁判長は高浜原発3、4号機について、再稼働前の14年11月の仮処分決定でも裁判長を務めており
、この際は「再稼働が差し迫っていない」との理由から申し立てを却下していた。
 2基を巡っては福井地裁でも争われ、昨年4月に再稼働を認めない仮処分決定を出したが、同12月に別
の裁判長が取り消し、住民側が名古屋高裁金沢支部に抗告している。
(引用終わり)
 
 この記事の掲載時刻が今日の「15:42」ということは、予告されていた決定時刻が今日の午後3時半でしたから、完全に「予定稿」として書かれていたものでしょう。住民(仮処分債権者)、弁護団、関西電力地元自治体などのコメントが一切ないことからも、そのことが分かります。
 もちろん、申立て却下(住民敗訴)に備えた「予定稿」も書かれていたに違いありませんが、仮処分認容(住民勝訴)の決定が出る可能性もかなりあると考えていたのではないかというのは、上記の記事にもあるとおり、今回と同じ山本善彦裁判長が2014年11月(27日)に、高浜原発再稼働禁止仮処分命令申立事件(第1次仮処分)について、これを却下する決定をくだしていたものの、それは再稼働が差し迫っておらず、「保全の必要性はない」ということが理由であって、原発の危険性自体はある程度認めていたため、高浜原発についての原子力規制委員会の適合性判断がなされ(この時点で第2次仮処分申立て)、さらに今年に入って現実に3号機、4号機が再稼働された以上、前回決定の論理を一貫させれば、運
転禁止の仮処分決定が出るのではないか、という予想もあったのです。
 その間の事情は、第1次仮処分決定当日に出された「原告団、弁護団声明」をご一読いただければ良く分かると思います。
 
 昨年4月14日の福井地裁(樋口英明裁判長)に続き、高浜原発3号機、4号機の運転禁止を命じた仮処分決定はこれが2件目となりましたが、今回は、再稼働して運転中の原発(4号機はトラブルで停止し
ていますが)の運転を禁止する初の司法判断という大きな意義があります。
 そして、1件と2件というのは、たった1つの差ですが、質的には非常に大きな違いがあります。1件だけであ
れば、たまたま変わった裁判長が担当したための特異な決定ということにされかねませんが、同種の判断が相次げば、「まともな裁判官なら原発の運転は認めない」という流れが生まれます。その意味からも、井戸謙一弁護団長以下の弁護団の皆さん、仮処分当事者となった滋賀県民の皆さん、彼らを支援した「福井原発訴訟(滋賀)を支える会」の皆さんに深甚なる敬意を表したいと思います。
 
 さて、ここで肝心の大津地裁決定をご紹介します。とはいえ、現在閲覧できる決定本文は、弁護団が公表したとおぼしいPDFファイル(55ページ)であり、裁判所公式サイトにはまだ掲載されていないようです。
 この種の重大事件の場合、裁判所から「決定要旨」がマスメディア等に配布されることが多いので、既
に「要旨」がネット環境で読めるようになっているのかもしれませんが、私はまだ発見できていません。
 そこで、とりあえず「決定」全文にリンクし、その結論部分を一部引用するとともに、「申立人団・弁
護団声明」を全文引用したいと思います。
 
大津地方裁判所 
平成27年(ヨ)第6号 原発再稼働禁止仮処分申立事件
決定(平成28年3月9日)

(抜粋引用開始)
主文
1 債務者は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及び同4号機を運転してはなら
ない。
2 申立費用は、債務者の負担とする。
理由
第1 申立の趣旨
主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、滋賀県内に居住する債権者らが、福井県大飯郡高浜町田ノ浦1において、高浜発電所3号機及
び同4号機(以下「本件各原発」という。また、本件各原発のうち、高浜発電所3号機を以下「3号機」と、高浜発電所4号機を以下「4号機」という。)を設置している債務者に対し、本件各原発が耐震性能に欠け、津波による電源喪失等を原因として周囲に放射性物質汚染を惹起する危険性を有する旨主張して、人格権に基づく妨害予防請求権に基づき、本件各原発を仮に運転してはならないとの仮処分を申し立て
た事案である。
2 前提事実 
 以下の事実は、当事者間に争いのない事実(反対当事者の主張を争うことを明らかにしない事実を含む
。)及び一件記録により容易に認められる事実である。
(1)当事者
ア 債権者ら
 債権者らは、本件各原発から70キロメートル以内の距離で、滋賀県内の肩書地において居住する者で
ある。
イ 債務者
 債務者は、昭和26年5月1日に設立された株式会社であって、大阪府京都府兵庫県(一部を除く)、奈良県滋賀県和歌山県三重県の一部、岐阜県の一部、福井県の一部における電力需要を賄うために、発電、送電、配電に至る電力供給を一貫して行う一般電気事業者であり、これら供給区域における
電力供給義務を負う者である。
(2)本件各原発の設置 略
(3)原子力発電の仕組み 略
(4)本件各原発の構造等 略
(5)使用済み燃料 略
(6)安全性の審査 略
(7)再稼働申請等 略
(8)本件申立て等 略
3 争点
(1)主張立証責任の所在(争点1)
(2)過酷事故対策(争点2)
(3)耐震性能(争点3)
(4)津波に対する安全性能(争点4)
(5)テロ対策(争点5)
(6)避難計画(争点6)
(7)保全の必要性(争点7)
4 争点1(主張立証責任の所在)に関する当事者双方の主張 略
5 争点2(過酷事故対策)に関する当事者双方の主張 略
6 争点3(耐震性能)に関する当事者双方の主張 略
7 争点4(津波に対する安全性能)に関する当事者双方の主張 略
8 争点5(テロ対策)に関する当事者双方の主張 略
9 争点6(避難計画)に関する当事者双方の主張 略
10 争点7(保全の必要性)に関する当事者双方の主張 略
第3 当裁判所の判断
(金原注:決定の41頁以下)
1 争点1(主張立証責任の所在)について 略
2 争点2(過酷事故対策)について 略
3 争点3(耐震性能)について 略
4 その余の争点について
(1)争点4(津波に対する安全性能)について 略
(2)争点5(テロ対策)について 略
(3)争点6(避難計画)について 略
5 被保全権利の存在
 本件各原発は一般的な危険性を有すること(前提事実(3)オ)に加え、東北地方太平洋沖地震による福島
第一原子力発電所事故という、原子力発電所の危険性を実際に体験した現段階においては、債務者において本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され、それにどう応えたかの主張及び疎明が尽くされない限りは、本件各原発の運転によって債権者らの人格権が侵害されるおそれがあることについて一応の疎明がなされたものと考えるべきところ、本件各原発については、福島第一原子力発電所事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や、外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点(前記2)、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点(前記3)について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残る(前記4)など、債権者らの人格権が侵害されるおそれが高いにもかかわらず、その安全性が確保されていることについて、債務者が主張及び疎明を尽くしてい
ない部分があることからすれば、被保全権利は存在すると認める。
6 争点7(保全の必要性)について
 本件各原発のうち3号機は、平成28年1月29日に再稼働し、4号機も、同年2月26日に再稼働し
たから(前提事実(7))、保全の必要性が認められる。以上の次第で、債権者らの申立てによる保全命令は
認められることになるところ、債権者らの主張内容及び事案の性質に鑑み、担保を付さないこととする。
第4 結論
 よって主文のとおり決定する。
   平成28年3月9日
     大津地方裁判所民事部
       裁判長裁判官 山 本 善 彦
            裁判官 小 川 紀代子
            裁判官 平 瀬 弘 子 

(引用終わり)
 
 なお、本決定のうち、「第3 当裁判所の判断」を中心にした「抜粋」が、NPJ(News for the People in Japan)に掲載されていました。
 
 
声明 2016年3月9日
大津地裁高浜3、4号機運転禁止仮処分申立事件申立人団、弁護団一同

(引用開始)
 本日、大津地裁は、関西電力高浜原発3、4号機の運転を禁止する画期的な仮処分決定をした。高浜原発3、4号機は、既に原子力規制委員会の設置変更許可その他再稼働に必要な手続を済ませ、4号機はトラブルによって停止中であるが、3号機は、現に営業運転中である。現に運転中の原発に対して運転を禁止する仮処分決定が出されるのは史上初めてである。そして、関西電力株式会社は、この仮処分決定によって、4号機を起動させることができなくなっただけでなく、3号機の運転を直ちに停止しなければならなくなった。
 福島第一原発事故は膨大な人々に筆舌に尽くしがたい苦痛を与えたが、それでも事故の規模は奇跡的に小さくて済んだ。最悪の事態を辿れば、日本という国家は崩壊しかねなかったのである。大多数の市民が、電力需要が賄える限り、可能な限り原発依存をなくしたいと考えたのは当然であった。そして、その後の時間の経過は、原発が1ワットの電気を発電しなくても、この国の電力供給に何ら支障がないことを明らかにした。もはや、速やかに原発ゼロを実現することは市民の大多数の意思である。
 しかるに、政府は、着々と原発復帰路線を進めてきた。まだ、福島第一原発事故の原因すら判っておらず、10万人もの人が避難生活を続けているのにもかかわらずである。
 そして、原発復帰路線の象徴が高浜3、4号機である。ここでは、危険なプルサーマル発電が行われている。もし高浜原発で過酷事故が生じれば、近畿1400万人の水瓶である琵琶湖が汚染され、日本人の誇りである千年の都京都を放棄しなければならない事態すら想定される。市民がこの政治の暴走を止めるためには、司法の力に依拠するしかなかった。そして、本日、大津地裁は、福島原発事故の原因を津波と決めつけ再稼働に邁進しようとする関西電力の姿勢に疑問を示し、避難計画を審査しない新規制基準の合理性を否定し、避難計画を基準に取り込むことは国家の「信義則上の義務」であると明確に述べるなど、公平、冷静に賢明な判断を示した。市民は、今晩から、いつ大地震が高浜原発を襲うか、いつ高浜原発がテロの対象になるかと脅えなければならない生活から解放される。担当した裁判官3名(山本善彦裁判長
、小川紀代子裁判官、平瀬弘子裁判官)に対し、深い敬意を表する次第である。
 関西電力に対しては、仮処分異議や執行停止の申立てをすることなく、直ちに高浜3号機の運転を停止させることを求める。関西電力をはじめとする原子力事業者に対しては、目先の利益にとらわれることなく、この美しい国土をこれ以上汚染することなく将来の世代に残していくために、もう一度、営業政策を見直すことを求める。私たちは、既に、将来の世代に対して、高レベル放射性廃棄物の10万年もの保管という負担を押し付けている。これ以上、負担を増やしてはならない。そして、原子力規制委員会は、今回の決定の趣旨を真摯に受け止め、新規制基準の見直し作業に着手すべきである。また、政府は、2030年に原発による発電を20~22パーセントとする等という現行のエネルギー政策を根本から見直して
原発ゼロ政策に舵を切るべきである。
                                          以上
(引用終わり)
 
 最後に、この決定を受けての関西電力のコメント及び3号機運転停止についてのリリースをご紹介しておきます。
 
(コメント)高浜発電所3、4号機再稼動禁止仮処分の決定について
(引用開始)
○本日、大津地方裁判所において、高浜発電所3、4号機の再稼動禁止を求める仮処分命令申立てが認め
られました。
○高浜発電所3、4号機は、新規制基準の適合性審査会合等で、当社が科学的・技術的観点から安全性に
ついての説明を重ねてきた結果、原子力規制委員会から原子炉設置変更許可等をいただいております。
大津地方裁判所において、仮処分の申立てがなされて以降、当社は、申立ての却下を求めるとともに、審査会合の中でご説明してきた内容も含め、発電所の安全性が確保されていることについて、科学的・技
術的かつ専門的知見に基づき具体的に主張・立証してまいりました。
○本決定については、当社の主張を裁判所に理解いただけず、極めて遺憾であると考えており、到底承服
できるものではありません。
○資源に乏しい我が国においては、安全確保(safety)の「S」を大前提に、エネルギー安定供給(Energy security)経済性(Economy)環境保全(Environmental conservation)の3つの「E」の同時達成を目指す「S+3E」の観点から、特定の電源や燃料源に過度に依存しないエネルギー供給体制を構築することが極めて重要であり、当社は、原子力が一定の役割を果たしていくことが不可欠であると考えております

○本決定に従い、当社は安全を最優先とした工程で運転中の高浜発電所3号機を停止いたしますが、今後、決定文の詳細を確認のうえ、速やかに不服申立ての手続きを行い、早期に仮処分命令を取り消していた
だくよう、高浜発電所3、4号機の安全性の主張・立証に全力を尽くしてまいります。
(引用終わり)
 
高浜発電所3号機の停止について
(引用開始)
 本日、大津地方裁判所において、高浜発電所3,4号機の再稼動禁止の仮処分命令が出されたことから
、当社は、稼動中の高浜発電所3号機を停止することとしました。
 今後の工程について、大津地方裁判所における決定後、速やかに電力需給状況や高浜発電所3号機を安全に停止させるための体制等について検討を行った結果、高浜発電所3号機は、平成28年3月10日10時頃に停止作業を開始し、3月10日20時頃に停止する予定としました。今後、停止作業を安全最優
先で行ってまいります。
 なお、当面、電力の安定供給に必要な供給力を確保できる見通しです。
(引用終わり)
 
 
 

(付録)
メルトダウン高田渡『値上げ』の替え歌)』 作詞・演奏:ヒポポ大王(?)