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広島高裁・伊方原発3号機運転差止仮処分命令「決定要旨」を読む

 2017年12月16日配信(予定)のメルマガ金原.No.3018を転載します。
 
広島高裁・伊方原発3号機運転差止仮処分命令「決定要旨」を読む
 
朝日新聞デジタル 2017年12月13日20時13分
伊方原発3号機、運転禁じる仮処分 阿蘇噴火の影響重視
(抜粋引用開始)
 四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)をめぐり、住民が求めた運転差し止め仮処分の抗告審で、広島高裁(野々上友之裁判長)は13日、広島地裁の決定を覆し、運転を禁じる決定をした。阿蘇山熊本県)が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流の影響を受けないとはいえないと判断した。原発の運転を差し止めた司法判断は高裁では初めて。
 申し立てたのは広島市松山市の住民。広島地裁では運転差し止めの訴訟も続いており、決定は訴訟で異なる判断が出る可能性をふまえ、差し止めを来年9月30日までと限定した。
 仮処分はただちに法的な拘束力を持ち、今後の司法手続きで覆らない限り運転はできない。伊方原発3号機は今年10月から定期検査のため停止中で、来年1月予定の再稼働ができない可能性が高まった。四電は広島高裁に保全異議申し立てと仮処分の執行停止の申し立てをする方針だ。
(略)
 原発と火山の位置関係を重視した今回の決定は、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)や同玄海原発佐賀県玄海町)など火山近くにある他の原発のリスクにも言及したといえ、高裁の判断として今後の訴訟や仮処分に影響を与える可能性がある。
 原発に対する仮処分をめぐっては、福井地裁が2015年4月、大津地裁が16年3月、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを決定したが、異議審や抗告審で取り消された。今回の決定について広島高裁で異議審が開かれる場合、別の裁判官による構成で審理する。(小林圭)
(引用終わり)
 
 このところ、心が躍るようなニュースになかなか接する機会がないと思っていた人も、12月13日に広島高等裁判所が、四国電力伊方原発3号機の運転を(2018年9月30日までという期限付きとはいえ)差し止める仮処分決定をしたという知らせには驚き、勇気付けられたことと思います。
 上の朝日新聞デジタルの記事にも書かれているとおり、福井地裁と大津地裁によって、関西電力・高浜原発3、4号機の運転差止めを命じる仮処分決定が出されたものの、いずれもその後の異議審や抗告審で取り消されていますが、今回は、運転差止めを認めなかった地裁決定を高裁が覆し、「原子炉を運転してはならない」という決定をくだしたのですから画期的です。
 ということで、とにかく広島高裁の「決定」が読みたいと考え、ネット検索したところ、
伊方原発広島裁判応援団が運営する「被爆ヒロシマが被曝を拒否する-過去は変えられないが未来は未来は変えられる-伊方原発運転差止広島裁判」というサイトに、豊富な裁判資料が集積されているのを見つけました。
 その中に、「広島高裁即時抗告審特設ページ」が設けられており、そこに「決定」や「決定要旨」もアップされていました。
 
「決定文(※当事者目録を除く)」 406頁
「決定要旨」 6頁
弁護団声明」 2頁
   
 さすがに406頁の「決定」を読み進めるだけの時間が今すぐには作れないため、とりあえず「決定要旨」を読んでみることにしました。
 上記「広島高裁即時抗告審特設ページ」に掲載されていた「決定要旨」をコピペしたのですが、全角の数字やアルファベット、コンマなどが半角になってしまったり、ア、イ、ウを〇で囲んだ文字がないため、やむなくア)、イ)、ウ)で代用するなどして、何とか読めるようなテキストにしました。
 というような手間暇をかけた後、ふと思いついてNPJサイトを閲覧したところ、既に「決定要旨」が掲載されており、これをコピペすれば良かったとやや後悔しましたが、ブログ掲載用のテキストを作成する過程でじっくりと「決定要旨」を通読することができたのですから、まあいいかと自らを慰め、ついでに、NPJからコピペをやり直すのではなく、自分でプリントアウトした「決定要旨」を参照しながら作成したテキストをそのまま掲載することにしました。
 
(引用開始)
平成29年(ラ)第63号伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立(第1事件,第2事件)却下決定に対する即時抗告事件(原審・広島地方裁判所平成28年(ヨ)第38号,同年(ヨ)第109号)
 
                               決  定  要  旨
 
                                  主    文
1 原決定を次のとおり変更する。
(1) 相手方は,平成30年9月30日まで,愛媛県西宇和郡伊方町九町字コチワキ3番耕地40番地の3において,伊方発電所3号機の原子炉を運転してはならない。
(2) 抗告人らのその余の申立てをいずれも却下する。
2 手続費用は,原審及び当審を通じ,各自の負担とする。
 
                          理  由  の  要  旨
1 事案の概要
(1) 本件は,四国電力伊方原発3号機(伊方原発)のおよそ100km圏内(広島市松山市)に居住する住民(抗告人ら)が,四国電力(相手方)に対し,伊方原発の安全性に欠けるところがあるとして,人格権に基づき,伊方原発の運転差止めを命じる仮処分を申し立てた事案である。
(2) 本件の争点は,①司法審査の在り方,②新規制基準の合理性に関する総論,③新規制基準の合理性に関する各論として,ア)基準地震動策定の合理性,イ)耐震設計における重要度分類の合理性,ウ)使用済燃料ピット等に係る安全性,エ)地すべりと液状化現象による危険性,オ)制御棒挿入に係る危険性,カ)基準津波策定の合理性,キ)火山事象の影響による危険性,ク)シビアアクシデント対策の合理性,ケ)テロ対策の合理性,④保全の必要性,⑤担保金の額である。
(3) 原審は,原子力発電所の安全性審査に関する新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとの原子力規制委員会の判断も合理的であるから,抗告人らの申立ては被保全権利の立証(疎明)を欠くなどとして,申立てを却下した(原決定)ところ,抗告人らが即時抗告した。
 
2 司法審査の在り方(決定175頁~184頁)
(1) 抗告人ら住所地と伊方原発との距離(広島市居住者につき約100km,松山市居住者につき約60km)に照らすと,抗告人らは,伊方原発の安全性の欠如に起因して生じる放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によってその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける地域に居住する者ないし被害の及ぶ蓋然性が想定できる地域に居住する者といえる。
(2) このような場合には,伊方原発の設置運転の主体である四国電力において,伊方原発の設置運転によつて放射性物質が周辺環境に放出され,その放射線被曝により抗告人らがその生命身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて,相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)する必要があり,四国電力がこの主張立証 (疎明)を尽くさない場合には,具体的危険の存在が事実上推定されると解すべきである。
(3) もっとも,四国電力は,原子力規制委員会から,伊方原発が新規制基準に適合するとして原子炉設置変更許可を受けている。そして,原子力発電所の安全性審査の基礎となる基準の策定及びその基準への適合性の審査は,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであり,原子炉等規制法は,基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解される。
 このような観点からすると,四国電力は,前記(2)の主張立証 (疎明)に代え,新規制基準に不合理な点のないこと及び伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことを相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)することができると解すべきである。
 
3 火山事象の影響による危険性以外の争点(決定184頁~349頁,367頁~398頁) 
 火山事象の影響による危険性以外の争点(前記1(2)②③ア)ないしカ),ク)及びケ)については,新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であると認められる。
 
4 火山事象の影響による危険性(決定349頁~367頁)
(1) 原子力発電所の立地評価(設計対応不可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)につき,火山ガイド(原子力規制委員会が策定した安全性審査の内規)は,以下のとおり定めている。
① 原子力発電所から半径160kmの範囲の領域(地理的領域)に位置し,将来の活動可能性がある火山について,原子力発電所運用期間中(原則40年)の火山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断する。
② ①の火山の活動可能性が十分小さいと判断できない場合は,原子力発電所運用期間中(原則40年)に発生する噴火規模を推定する。
③ ②の噴火規模を推定できない場合は,当該火山の過去最大の噴火規模を想定し,設計対応不可能な火山事象(火砕流)が原子力発電所に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価する。
④ ③の火砕流原子力発電所に到達する可能性が十分小さいと評価できない場合は,原子力発電所の立地は不適となり,当該敷地に原子力発電所を立地することは認められない。
(2) 本件では,伊方原発の地理的領域に位置し将来の活動可能性のある火山である阿蘇カルデラ伊方原発から約130km)について,現在の火山学の知見では,伊方原発の運用期間中に①の火山の活動可能性が十分小さいと判断することはできず,②の噴火規模を推定することもできないか ら,③により阿蘇カルデラの過去最大の噴火である阿蘇4噴火(約9万年前)の噴火規模(火山爆発指数〔VEI〕7)を想定し,火砕流伊方原発敷地に到達する可能性が十分小さいかどうかを評価することになる。
 しかし,四国電力が行つた伊方原発敷地周辺の地質調査や火砕流シミュレーションか らは,阿蘇4噴火の火砕流伊方原発敷地に到達した可能性が十分小さいと評価することはできないから,④により伊方原発の立地は不適であり,伊方原発敷地に原子力発電所を立地することは認められない。
(3) 原決定は,VEI7以上の規模の破局的噴火については,そのような規模の噴火が原子力発電所運用期間中に発生する可能性が相応の根拠をもつて示されない限り,原子力発電所の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても,安全性に欠けるところはないと判示する。
 確かに,現在の火山学の知見では,VEI7以上の破局的噴火の発生頻度は日本の火山全体で1万年に1回程度とされている一方,仮に阿蘇において同規模の破局的噴火が起きた場合には,周辺100km程度が火砕流のために壊滅状態になり,更に国土の大半が10cm以上の火山灰で覆われるなどと予測されているところ,わが国においては,このようにひとたび起きると破局的被害(福島第一原発事故の被害を遥かに超えた国家存亡の危機)をもたらす一方で,発生頻度が著しく小さい自然災害については,火山ガイドを除きそのような自然災害を想定した法規制は行われておらず,国もそのような自然災害を想定した対策は(火山活動のモニタリング以外は)策定しておらず,にもかかわらず,これに対する目立った国民の不安や疑問も呈されていない現状を見れば,前記のような発生頻度が著しく小さく,しかも破局的被害をもたらす噴火によつて生じるリスクは無視し得るものとして容認するというのが我が国の社会通念ではないかとの疑いがないではなく,このような観点からすると,火山ガイドが立地評価にいう設計対応不可能な火山事象に,何らの限定を付すことなく破局的噴火(VEI7以上)による火砕流を含めていると解することには,少なからぬ疑間がないではない。
 しかし,前述したとおり,原子炉等規制法は,原子力発電所の安全性審査の基準の策定について,原子力利用における安全の確保に関する各専門分野の学識経験者等を擁する原子力規制委員会の科学的専門技術的知見に基づく合理的な判断に委ねる趣旨と解されるから,当裁判所としては,当裁判所の考える社会通念に関する評価と,原子力規制委員会が最新の科学的技術的知見に基づき専門技術的裁量により策定した火山ガイドの立地評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもつて,原決定のように火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを
変更することは,原子炉等規制法及びその委任を受けて制定された新規制基準の趣旨に反し,許されないと考える。
(4) なお,火山ガイドが立地評価の次に評価すべきと定める影響評価(設計対応可能な火山事象が原子力発電所の運用期間中に影響を及ぼす可能性の評価)についても,現在の火山学の知見を前提とすると,伊方原発の運用期間中に阿蘇においてVEI6(噴出体積10㎞³以上)以上の噴火が生じる可能性が十分小さいと評価することはできないところ,VEI6の噴火の最小の噴火規模を前提としても,噴出量は,四国電力が想定した九重第一軽石の噴出量(6.2㎞³)の約2倍近くになるから,伊方原発からみて阿蘇カルデラ伊方原発から約130km)が九重山伊方原発から約108km)よりやや遠方に位置していることを考慮しても,四国電力による降下火砕物の層厚の想定(15㎝)は過少であり,これを前提として算定された大気中濃度の想定(約3.1g/㎥)も過小であると認められる。
 
5 結論(決定398頁~399頁)
(1) 以上によれば,火山事象の影響による危険性について,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理であり,抗告人らの生命身体に対する具体的危険の存在が事実上推定されるから,抗告人らの申立ては,被保全権利の立証(疎明)がなされたといえる。
(2) 伊方原発は,現在稼働中であるから,差止めの必要性(保全の必要性)も認められる。
 もつとも,本件は,証拠調べの手続に制約のある仮処分であり,火山事象の影響による危険性の評価について,現在係属中の本案訴訟(広島地方裁判所平成28年(ワ)第289号,第902号)において,証拠調べの結果,本案裁判所が当裁判所と異なる判断をする可能性もあること等の事情を考慮し,四国電力に運転停止を命じる期間は,平成30年9月30日までと定めることとする。
(3) 担保金の額については,事案の性質に鑑み,担保を付さないこととする。
(4) よ つて,以上と異なる原決定を変更し,主文のとおり決定する。
(引用終わり)
 
 以上の決定を子細に検討すれば、色々な評価が出てくるのだろうと思いますが、ここは弁護団の声明を読んでおくべきものでしょう。
 
(引用開始)
                               弁  護  団  声  明
                             (広島高裁決定を受けて)
                          
                           2017年(平成29年)12月13日
                           伊方原発運転差止広島裁判弁護団
 
1 広島高裁第2部(野々上友之裁判長,太田雅也裁判官,山本正道裁判官)は,本日,伊方原発3号機運転差止仮処分命令申立却下決定に対する即時抗告事件において,伊方原発3号機の運転差止を命ずる仮処分を求める住民らの申立てに対し,平成30年9月30日までの期限をつけて運転を差し止める旨の決定を出した。
2 高等裁判所として現実に原発の運転禁止を命ずるのは,史上初であり,また,被爆ヒロシマの裁判所においてこれ以上放射線による苦しむ人々を増やさない決定がなされた意義はひとまず大きい。これによって,四国電力は,伊方原発3号機について,現在行なわれている定期検査に伴う運転停止を終えた後も(送電開始予定日は2018年(平成30年)1月22日),運転を再開することはできなくなった。
3 もっとも,本決定の内容については,原発の危険性について正しく認定していない点も見られる。
 特に,傍論とは言いながら,地震動に対する原発の安全性については,地震科学の不確実性を見誤って事業者の楽観的な主張を踏襲している点,地震本部の策定したいわゆるレシピを絶対視して不確実性を踏まえない点で,福島第一原発事故の教訓を活かしきれておらず,再び深刻な事態が生じかねない内容となっている点で極めて不当である。ただし,これらの点はあくまでも傍論であり,判例的価値は有しないと考える。
4 なお,本訴において証拠調べをするためとの理由で平成30年9月30日までの期限付の差止めとしている点でも不合理である。現在本訴において証拠調べ等の審理の見通しは立っていない状況であり,被告側は反論すら出していない。
 そもそも,本決定で示された差止の理由は,火山事象に対して全面的に本件原発が安全性を有していないという点であり,火山ガイドの抜本的な見直しや十分保守的な対策が講じられない限り,期限を経過したとしても,本件原発が安全でないという事実は何ら変わるものではない。
 9月30日が迫った段階で本訴が終了していない場合,我々は,改めて本原発差止仮処分の申請をする予定である。また,四国電力に対しては,上記期限を経過した後も,本件原発を再稼働しないことを強く求める。
5 福島第一原発事故が発生してから6年9か月以上もの長い時間が経過した現在において,その被害は収束するどころか,深刻さを増している。国からは避難指示解除によって事故前の基準の20倍も汚染された地域で生活するように強いられ,必死の思いで避難して,ようやくみなし仮設住宅に落ち着いた人たちは,その住宅の明け渡し請求訴訟まで起こされている。避難指示が解除されても,汚染された地域へ戻る人は少なく,ふるさとの存続が危ぶまれる状況にある。
6 私たちは,本決定が現実に本原発の運転を差し止めたという事実を高く評価する。また,火山事象に対する問題点は,全国の原発においても同様に当てはまる問題であるから,他の原発においてもこの点を追求していく。原爆を投下され被爆を強いられた広島の地において二度と放射線による被害(被曝)を受けることを拒否するという申立人らの思いが実現するよう,原発事故による被害が二度と生み出されなくなるまで,闘い続けることを宣言する。
                                                                            以上
(引用終わり)
 
 この弁護団声明を読むことによって、本「決定」の意義と限界のアウトラインは理解できたのではないかと思います。
 
 最後に、広島高裁決定を受けて開かれた広島及び東京での記者会見の動画をご紹介しておきます。
 
2017-12-13_広島高裁・伊方原発運転差止仮処分即時抗告審_記者会見(1時間15分)
 
伊方原発3号機、運転差し止め~広島高裁(海渡雄一弁護士によるレクチュア)(15分)