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全国戦没者追悼式で今年も貫徹された“安倍3原則”(付・天皇陛下「おことば」を読む)

 今晩(2016年8月15日)配信した「メルマガ金原No.2539」を転載します。
 なお、「弁護士・金原徹雄のブログ」にも同内容で掲載しています。
 
全国戦没者追悼式で今年も貫徹された“安倍3原則”(付・天皇陛下「おことば」を読む)

 8月15日の「全国戦没者追悼式」における内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」をメルマガ
(ブログ)で取り上げるようになったのは2年前からでした。
 過去の記事を振り返ってみましょう。
 
2014年8月15日
“コピペ”でなければ良いというものではない~全国戦没者追悼式での安倍晋三首相の式辞を聴いて

首相官邸ホームページに掲載されている歴代総理大臣の「式辞」(平成8年の橋本龍太郎首相以降の分が掲載されています)を全て確認した上で、平成25年(2013年)の安倍晋三首相に至り、アジア諸
国の人々に対する加害責任への言及と反省の言葉が削除されたことを跡づけました。
 従来の総理大臣「式辞」の一例として、平成21年(2009年)の麻生太郎首相「式辞」の該当部分
を引用します。
「また、我が国は、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えております。国民を代表して、深い反省とともに、犠牲となられた方々に、謹んで哀悼の意を表します。」
 
2014年8月18日
続 “コピペ”でなければ良いというものではない~“平和と繁栄”はいかにして築かれたのか
※歴代の総理大臣「式辞」において、戦後の“平和と繁栄”がいかに築かれたかに言及した部分の変遷を
検証してみました(やはり平成8年の橋本龍太郎首相以降)。
 以上2回の検証の結果を踏まえ、2度目に首相に就任した後の安倍首相「式辞」の著しい特色を、私は
以下のようにまとめています。
「以上で、昨年及び今年の全国戦没者追悼式における「式辞」において、安倍首相が、何を述べ、何を述
べなかったかが明らかになったと思います。要約すれば以下のとおりです。
① 村山富市首相から数えれば19年にも及んだ歴代首相によるアジア諸国民に対する加害についての反
省と哀悼の意の表明を削除した。
② 多くの首相が述べた「不戦の誓い」にも言及しなかった。
③ 戦没者の犠牲の上に“平和と繁栄”があると述べながら、“平和と繁栄”をもたらしたものが「国民
のたゆまぬ努力」との言及はなかった。
 以上を踏まえれば、安倍首相は、アジア諸国民に対する加害責任があるとは思っておらず、我が国の“平和と繁栄”をもたらしたのは戦没者らの「犠牲」によるものであり、今後、場合によっては日本が自ら武力行使に及ぶこともあると考えていると解するのがごく素直な解釈というものでしょう(これ以外の解釈
の余地ってあるでしょうか?)。」
 
2015年8月15日
全国戦没者追悼式総理大臣「式辞」から安倍談話を読み返す(付・同追悼式での天皇陛下「おことば」について)
※安倍首相「式辞」については、前日の14日に発表されたいわゆる「戦後70年談話」で使用されたキ
ーワード(「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「心からのお詫び」)のどれ1つとして(歴代首相が式辞で述べていたアジアへの加害と「深い反省」も)使われず、2013年、2014年と基本的に同じ
内容であったことを確認しました。
 これに対し、平成元年(1989年)以降の天皇陛下「おことば」を全て読み返してみた結果を次のよ
うにまとめています。
「私は、昨年、平成元年の即位以来の全国戦没者追悼式での「おことば」を全部読んでみました。
 その結果、毎年ほとんど同じ表現の「おことば」であるものの、平成7年(1995年)に初めて「戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い」という憲法前文を踏まえた表現が付け加えられ、その後
ずっと継承されているということを知りました。ちなみにこの時の総理大臣は村山富市氏でした。
 今年の「おことば」における「さきの大戦に対する深い反省と共に」という表現の付加は、平成元年(
1989年)の即位後、2度目の大きな変更(追加)です。
 さらに細かく言えば、昨年は「国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられました」とされていた部分が、「戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました」と手厚い表現になっており、とりわけ「平和の存続を切望する国民の意識」が強調されていることを見落とすことはできません。」
 
 以上が、昨年までの「おさらい」です。
 ということで、今年の内閣総理大臣「式辞」と天皇陛下「おことば」を、昨年のそれと比較し、何らか
の変化があったかどうかを検証してみましょう。
 
 今年の式典の動画として、政府インターネットテレビ配信のものをご紹介しておきます。安倍首相の「式辞」は2分48秒から、天皇陛下「おことば」は9分23秒からです。 
 
 
 まずは、安倍晋三内閣総理大臣の「式辞」です。
 昨年の戦後70年ヴァージョンの「式辞」と比較してみると、これでもやや抑え気味と言うべきなのでしょうね。いつも気に障る「安倍方言」も、「孜々(しし)として」(「熱心に」というほどの意味)くらいですから。
 結局、言っていることは2013年以来変わっていません。
 先に述べた安倍「式辞」の3大特徴、すなわち、
① アジア諸国民に対する加害についての反省と哀悼の意は絶対に表明しない。
② 「不戦の誓い」も述べない。
③ 戦没者の犠牲の上に“平和と繁栄”があることを強調しながら、“平和と繁栄”をもたらしたものが
「国民のたゆまぬ努力」であるとは言わない。
については、完璧に昨年までの「式辞」を踏襲しています。今やこれを「安倍3原則」と名付けても良い
でしょう。
 それでは、今年と昨年の「式辞」を読み比べてください。
 
安倍晋三内閣総理大臣 全国戦没者追悼式式辞 平成28年8月15日
(引用開始)
 本日ここに、天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、全国戦没者追悼式を挙行するにあたり、政府を代表し、
慎んで式辞を申し述べます。
 あの、苛烈を極めた先の大戦において、祖国を思い、家族を案じつつ、戦場に斃れられた御霊、戦禍に遭われ、あるいは戦後、遥かな異郷に亡くなられた御霊、皆様の尊い犠牲の上に、私たちが享受する平和と繁栄があることを、片時たりとも忘れません。衷心より、哀悼の誠を捧げるとともに、改めて、敬意と
感謝の念を申し上げます。
 未だ、帰還を果たされていない多くの御遺骨のことも、脳裡から離れることはありません。おひとりで
も多くの方々が、ふるさとに戻っていただけるよう、全力を尽くします。
 我が国は、戦後一貫して、戦争を憎み、平和を重んじる国として、孜々として歩んでまいりました。世
界をよりよい場とするため、惜しみない支援、平和への取り組みを、積み重ねてまいりました。
 戦争の惨禍を決して繰り返さない。
 これからも、この決然たる誓いを貫き、歴史と謙虚に向き合い、世界の平和と繁栄に貢献し、万人が心豊かに暮らせる世の中の実現に、全力を尽くしてまいります。明日を生きる世代のために、希望に満ちた
国の未来を切り拓いてまいります。そのことが、御霊に報いる途であると信じて疑いません。
 終わりに、いま一度、戦没者の御霊に永久の安らぎと、御遺族の皆様には、御多幸を、心よりお祈りし
、式辞といたします。
(引用終わり)
 
(参考)
安倍晋三内閣総理大臣 全国戦没者追悼式式辞 平成27年8月15日
(引用開始)
 天皇皇后両陛下の御臨席を仰ぎ、戦没者の御遺族、各界代表多数の御列席を得て、全国戦没者追悼式を
、ここに挙行致します。
 遠い戦場に、斃れられた御霊、戦禍に遭われ、あるいは戦後、遥かな異郷に命を落とされた御霊の御前
に、政府を代表し、慎んで式辞を申し述べます。
 皆様の子、孫たちは、皆様の祖国を、自由で民主的な国に造り上げ、平和と繁栄を享受しています。それは、皆様の尊い犠牲の上に、その上にのみ、あり得たものだということを、わたくしたちは、片時も忘
れません。
 七十年という月日は、短いものではありませんでした。平和を重んじ、戦争を憎んで、堅く身を持して
まいりました。戦後間もない頃から、世界をより良い場に変えるため、各国・各地域の繁栄の、せめて一助たらんとして、孜々たる歩みを続けてまいりました。そのことを、皆様は見守ってきて下さったことで
しょう。
 同じ道を、歩んでまいります。歴史を直視し、常に謙抑を忘れません。わたくしたちの今日あるは、あ
またなる人々の善意のゆえであることに、感謝の念を、日々新たにいたします。
 戦後七十年にあたり、戦争の惨禍を決して繰り返さない、そして、今を生きる世代、明日を生きる世代
のために、国の未来を切り拓いていく、そのことをお誓いいたします。
 終わりにいま一度、戦没者の御霊に平安を、ご遺族の皆様には、末永いご健勝をお祈りし、式辞といた
します。
(引用終わり)
 
 ついで、天皇陛下「おことば」です。基本的には昨年の踏襲であり、あえて言えば、「戦後70年」の特別モードであった昨年の「おことば」から、それ以前の「平年」モードに戻った感があります。
 細かく見れば、以下のような変化が認められます。
 
昨年「戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。」
今年「国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられました。」
 
昨年「戦後という,この長い期間における国民の尊い歩みに思いを致すとき,感慨は誠に尽きることがありません。」
今年「苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。」
 
昨年「ここに過去を顧み,さきの大戦に対する深い反省と共に」
今年「ここに過去を顧み,深い反省とともに」
 
 結論的には、先に書いたとおり、「戦後70年」モードから「平年」モードに戻ったもので、特に「後退」というべきではないでしょう。
 昨年から使われるようになった「深い反省」は、今年も使われています。「先の大戦に対する」という反省の対象が除かれているのは、そもそも「大戦」が何を指すかが明確ではないと考えられた上での削除
ではないかと推測します。
 この「深い反省」が、2013年以降の全国戦没者追悼式における総理大臣「式辞」から消え失せたことは先に述べたとおりですが、総理大臣も天皇も、どちらも「反省」という言葉を使わないことは許され
ない、首相があくまで使わないのであれば自分が述べざるを得ないという天皇の考えによるものであろう
と思います。
 これを、現行憲法天皇条項(特に4条の「国政に関する権能を有しない。」)に違反する越権行為だ
という解釈も聞こえてきそうですけどね。

 それより私が気になるのは、「平和の存続を切望する国民の意識に支えられ」という昨年新たに盛り込まれた表現が削除されたことです。一応、「平年」モードに戻しただけという解釈を示しておきましたが、先日の参院選の結果などを見るにつけ、本当に日本国民が「平和の存続を切望」しているのか?天皇陛下も確信が持てなくて削除したというようなことでなければ良いのですが。
 
 なお、今年の「おことば」から削除された「深い反省」の対象については、昨年1月1日に発表された「天皇陛下のご感想(新年に当たり)」が参考となります。
(抜粋引用開始)
 本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々,広島,長崎の原爆,東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に,満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています。 
(引用終わり)
 
全国戦没者追悼式 平成28年8月15日(月)(日本武道館)
天皇陛下「おことば」

(引用開始)
 本日,「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において
,かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
 終戦以来既に71年,国民のたゆみない努力により,今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが
,苦難に満ちた往時をしのぶとき,感慨は今なお尽きることがありません。
 ここに過去を顧み,深い反省とともに,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い,全国
民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心から追悼の意を表し,世界の平和と我が国の一層の発
展を祈ります。
(引用終わり)
 
(参考)
全国戦没者追悼式 平成27年8月15日(土)(日本武道館)
天皇陛下「おことば」

(引用開始)
 「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり,全国戦没者追悼式に臨み,さきの大戦において,かけ
がえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い,深い悲しみを新たにいたします。
 終戦以来既に70年,戦争による荒廃からの復興,発展に向け払われた国民のたゆみない努力と,平和の存続を切望する国民の意識に支えられ,我が国は今日の平和と繁栄を築いてきました。戦後という,この
長い期間における国民の尊い歩みに思いを致すとき,感慨は誠に尽きることがありません。
 ここに過去を顧み,さきの大戦に対する深い反省と共に,今後,戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い,全国民と共に,戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し,心からなる追悼の意を表し,世界の平和
と我が国の一層の発展を祈ります。
(引用終わり)