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日本教育学会「教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書」のご紹介

 2017年12月13日配信(予定)のメルマガ金原.No.3015を転載します。
 
日本教育学会「教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書」のご紹介 
 
 今年の3月31日、民進党(当時)の初鹿明博衆議院議員からの質問主意書に対する内閣答弁書において、政府は、「学校において、教育に関する勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切であると考えているが、憲法教育基本法(平成十八年法律第百二十号)等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではないと考えている。」との見解を明示しました。
 教育勅語に関するこのような「前のめり」というよりは、「後ろ向きに暴走している」と言った方が適切な安倍内閣の姿勢については、多くの批判の声があがり、私も教育研究者有志による「教育現場における教育勅語の使用に関する声明」(2017年4月27日)をブログでご紹介しました。
 
 以上は有志による声明でしたが、日本教育学会をはじめとする国内教育関連学会多数が、6月16日付で「政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明」を発表していましたので、遅ればせながらご紹介しておきます。
 
政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明
(引用開始)
 政府は、第193回国会での本会議や委員会での審議や答弁書において、「教育ニ関スル勅語」(教育勅語)には普遍的な価値が含まれており、日本国憲法及び教育基本法等に反しないかぎり教材として使用できる旨の答弁を繰り返しました。そのなかには、朝礼での教育勅語の朗読や暗唱・唱和さえ一概には否定しない旨の答弁もありました。
 一連の政府答弁は、戦前・戦中において教育勅語が日本の教育と社会にもたらした負の歴史を無視し、戦後国会が教育勅語を排除・失効確認した事実をも軽んじるものです。私たちは教育学を研究する者として、また大学等で教壇に立つ者として、これを容認することはできません。
 教育勅語は、戦前・戦中に君主たる天皇が「臣民」に対して国体史観に基づく道徳を押しつけ、天皇と国家のために命を投げ出すことを命じた文書です。天皇は現人神であり、日本は神国であるという観念の下、教育勅語は、誰もが抱く家族や同胞への愛情や世の中で役立つ人間になりたいという気持ちを絡め取りつつ、国民を排外主義的・軍国主義愛国心に導くことに使われました。このため、教育勅語国民主権基本的人権尊重・平和主義を基本理念とする日本国憲法とはまったく相容れないものであり、今日では歴史的資料としてしか存在することが許されないものです。
 日本国憲法公布前の1946年10月8日、旧文部省が教育勅語を唯一の理念(「淵源」)とする教育を否定する旨の通牒を発したため、一時は唯一の理念としないかぎり教育勅語に基づく教育も可能だとの理解がありました。そこで、日本国憲法施行後の1948年6月19日、衆議院教育勅語排除決議及び参議院の失効確認決議により、国会は国権の最高機関として学校教育から教育勅語を完全に排除するとの意思を示しました。文部省はこれらを受けて、同年6月25日、1946年通牒による教育勅語の取扱いを変更し、戦前・戦中に学校に配られた教育勅語をすべて返還するよう通知しました。このようにして、教育勅語は70年も前に、日本国憲法及び教育基本法に反するものとして学校教育から完全に排除されたのです。
 したがって、教育勅語は、戦前・戦中における教育と社会の問題点を考えるための歴史的資料として批判的にしか使用できないものであり、普遍的価値を含むものとして教育勅語を肯定的に扱う余地はまったくありません。
 ところが、政府は、教育勅語を教育の唯一の理念とすることは否定されたとしつつも、教育勅語には普遍的な価値が含まれており、日本国憲法及び教育基本法に反しないかぎり肯定的に扱うことも容認される旨の答弁を繰り返しました。その一方、どういう使い方が日本国憲法に反するのかとの質疑には答弁を忌避し、学校・設置者・所轄庁の判断に委ねるとの答弁に終始しました。これは国会軽視であるだけでなく、戦前・戦中のような教育勅語の使用を容認または助長しかねないものです。
 私たちは政府に対して、第193回国会における教育勅語の使用容認答弁を撤回し、戦前・戦中における教育と社会の問題点を批判的に考えるための歴史的資料として用いる場合を除き、教育勅語の使用禁止をあらためて確認するよう求めます。また、教師、学校、教育委員会には、第193回国会における政府の教育勅語使用容認答弁に惑わされることなく、普遍的価値を含むものとして教育勅語を肯定的に扱う余地はまったくないことをご理解いただくよう求めます。
 
  2017年6月16日
 
日本教育学会会長 広田照幸
関東教育学会会長 関川悦雄
教育史学会代表理事 米田俊彦
教育目標・評価学会代表理事 木村元・鋒山泰弘
子どもと自然学会会長 生源寺孝浩
大学評価学会代表理事 植田健男・重本直利
中部教育学会会長 吉川卓治
日本音楽教育学会会長 小川容子
日本学習社会学会会長 佐藤晴雄
日本家庭科教育学会会長 伊藤葉子
日本キリスト教教育学会会長 町田健
日本社会教育学会会長 長澤成次
日本生活指導学会代表理事(教育学) 折出健二
日本体育学会会長 深代千之
日本美術教育学会会長 神林恒道
日本福祉教育・ボランティア学習学会会長 原田正樹
幼児教育史学会会長 太田素子
(6月16日追加分)
日本教育制度学会会長 清水一彦
(6月18日追加分)
日本教師教育学会会長(理事長) 三石初雄
(6月23日追加分)
日本カリキュラム学会代表理事 長尾彰夫
(7月4日追加分)
日本環境教育学会会長 諏訪哲郎
(7月10日追加分)
日本体育科教育学会会長 岡出美則
(7月12日追加分)
日本地理教育学会会長 竹内裕一
(7月14日追加分)
日本学校保健学会理事長 衛藤隆
(7月26日追加分)
北海道教育学会会長 姉崎洋一
(7月31日追加分)
日本教育方法学会代表理事 深澤広明
 
付記1:教育史学会は2017年5月8日に別途独自に声明を公表しています。
付記2:日本カリキュラム学会理事有志・日本教育方法学会会員有志により、2017年5月25日付で別途独自の提言を公表しています。
印刷用PDF(2017年7月31日更新)はこちらから
(引用終わり)
 
 上記「声明」の中心となったと思われる一般社団法人日本教育学会が、このたび、「教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書」という報告書を文部科学省に提出するとともに、ホームページ上にPDFファイルをアップして公開し、誰でも読めるようにしてくれています。
 まず、昨日(12月12日)行われた記者会見の模様を伝えた東京新聞を引用します。
 
東京新聞 2017年12月13日 朝刊
教育勅語容認は「歴史ゆがめる」 教材否定せぬ政府に教育界反論
(抜粋引用開始)
 教育勅語を教育現場で肯定的に扱うことは否定されないといった今春の国会での政府見解について、教育学の研究者らでつくる日本教育学会は十二日、「歴史的事実をゆがめるものだ」と批判する報告書を文部科学省に提出した。東京都内で記者会見した広田照幸会長らは「道徳教育に(政府見解を)利用する人が出るかもしれない。現場の影響が心配だ」と危機感を示し、見解の撤回などを求めた。(原尚子)
 「戦後否定された価値観を子どもたちに押しつけることになる。大きな危惧を持っている」。同学会の教育勅語問題ワーキンググループの座長を務めた名古屋大学の中嶋哲彦教授は会見で声を強めた。
 政府見解が示されたきっかけは今年二月、大阪市の学校法人「森友学園」の系列幼稚園で園児に教育勅語を暗唱させていたことが取り上げられたことだった。これを問題視する野党議員に、政府は「普遍的な内容が含まれている」などとして、「(憲法教育基本法に反しない)適切な配慮のもとに」使用を容認する見解を示した。当時の稲田朋美防衛相も「(教育勅語の)核の部分は取り戻すべきだ」などと答弁した。
 報告書は、政府が普遍的とする「親孝行、兄弟仲良く…」というくだりは「危急の大事が起こったならば一身を捧(ささ)げて皇室国家のためにつくせ」という言葉に続いていると指摘。これは日本国憲法の三原則「国民主権基本的人権の尊重、平和主義」のいずれにも反すると批判している。
 さらに、「教育勅語を唯一の指導原理とする教育は許されないが、原理の一つとしてなら可能」とする政府見解にも、「根拠としている一九四六年の文部次官通牒(つうちょう)(通達)は国会決議で否定されている」と反論した。
 中嶋教授は会見で「憲法に反するのは明らかなのに、政府が教育勅語を違反と認めなかったので、現場がミスリードする可能性がある」と危ぶんだ。
 文科省は取材に「教育勅語憲法教育基本法制定の時点で失効し、もはや意味を成さないものと認識している。何が憲法教育基本法に反するかは個別の事例ごとに各学校の設置者や都道府県が判断するものと考える」と答えた。
(引用終わり)
 
 ちなみに、その「報告書」をざっと閲覧したところ、資料を含めて全291ページに及ぶ大部なものなので、ここでは、「はしがき」と「目次」のみ引用します。
 あと2週間ほどで年末年始休暇に入る人も多いと思いますが、少し時間のやりくりをして、この「報告書」に目を通す価値はあるのではないかと思い、ご紹介することとしました(私も何とか読んでみたいと思います)。
 第Ⅲ部・資料編だけで全体の約半分の分量を占めており、この「報告書」が、後世、第二次安倍政権下における教育勅語復活の動きを検証する際の必読・基礎文献となることは間違いないでしょう。
 
教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書
2017年12月
一般社団法人日本教育学会 教育勅語問題ワーキンググループ
(抜粋引用開始)
はしがき
 今春(2017年)の第193回国会では、教育勅語を教材として使用することの可否をめぐって論議が交わされました。その発端は森友学園の小学校設置に際しての国有地取得の不正疑惑でしたが、同学園の経営する塚本幼稚園で園児に教育勅語の「奉唱」をさせていたことなどをめぐり、野党議員らからこのような形で教育勅語を使用することは不適切ではないかとの質問が相次ぎました。しかし政府は、憲法教育基本法に反しない限りは使用できるという趣旨の閣議決定や答弁を繰り返し、その判断は都道府県と各学校にゆだねるとしました。なかには教育勅語の朗読や暗唱さえも可であると受け取られかねない答弁・発言もありました。こうした政府の姿勢は、今後、教育勅語を教材として学校教育で肯定的に扱う道につながりかねません。また、その判断を都道府県や教育委員会・学校現場にゆだねるということは、教育勅語の扱いをめぐって教育現場での戸惑いや混乱を広げることにもなりかねません。
 こうしたことから一般社団法人日本教育学会は、これまでの本学会等での研究蓄積を踏まえて、教育現場などを含め広く社会の中で考え、判断する際の指針となる報告書を作成・公開することとしました。
 報告書は3部構成となっています。第Ⅰ部本編ではこれまでの教育学界等での研究成果を踏まえ、教育勅語とは何であったのか、戦後改革においてその処理はどうなったかなど、これまでの歴史を確認した上で、現在の学習指導要領や教科書での教育勅語の扱われ方を検討しました。また第193回国会における教育勅語をめぐる審議について検討し、この事案に対する政府答弁の問題点を明らかにしました。こうした検討を踏まえ、教育勅語やその理念を指導原理にすることはできないなど学校教育で教育勅語がどう扱われるべきかの基本的観点を明らかにしました。
 第Ⅱ部Q&A集は本報告書のエッセンスを簡潔に理解していただくためのものです。但し短い文章で表現していることから、正確に理解いただくために、是非とも本編の該当箇所を併せてお読みください。対応する箇所(頁)をQ&A各項の末尾に明示してあります。
第Ⅲ部資料編では、教育勅語の原文等、1948年衆参両院の教育勅語の排除・失効確認決議をはじめとした戦後改革期における直後処理に関する基本的資料、第193国会での教育勅語問題審議に関する政府答弁書・議事録や閣僚の記者会見記録を収録しました。また併せてこの問題に関して学会等各団体が公表した声明や意見表明、各新聞社の社説等を収録しています。
 なお本報告書の作成に至る経過は以下の通りです。
 この問題が国会内外で注目されるようになる中で、本学会は法人理事会においてこの問題に対応するためのワーキンググループを組織するとともに、教育関連学会連絡会加盟の各学会会長に呼びかけて、教育関連学会会長連名の意見表明を行うこととしました。意見表明については「政府の教育勅語使用容認答弁に関する声明」(本報告書・資料編収録)として 2017 年6月 17 日、文部科学省記者クラブで公表・記者会見を行いました。記者会見には本学会会長のほかに、賛同学会長として日本社会教育学会・日本体育学会・幼児教育史学会の各会長が同席しました。(なお 2017年7月31日現在、26学会長が賛同)
 また日本教育学会は2回にわたり公開シンポジウムを開催し、この問題についての議論を深めてきました。6月18日にはその1回目として、早稲田大学戸山キャンパスを会場に公開シンポジウム「教育勅語問題を考える」を開催しました。シンポジウムでは下記の3人の報告を受けて、討論を行いました。
 「政府の教育勅語容認答弁の問題点」 中嶋哲彦(名古屋大学
 「1948 年教育勅語排除・失効確認決議の意義」 三羽光彦(芦屋大学
 「教育勅語と唱歌―儀式による共存関係を中心に」 有本真紀(立教大学
 ワーキンググループでは、このシンポジウムの成果も踏まえたうえで上記の趣旨の資料として「教育勅語問題に関する研究報告書」を作成することとして、シンポジウムは詳しく触れることができなかった部分を加え、報告書案をまとめました。この案について、日本教育学会会員並びに教育関連学会会長共同声明賛同学会から報告書案への意見を募るとともに、9月 30 日に第2回公開シンポジウムを法政大学市ヶ谷キャンパスで開催しました。
 「『教育勅語の教材使用問題に関する研究報告書案』の骨子について」中嶋哲彦(名古屋大学)
 「意見表明」米田俊彦(教育史学会代表理事お茶の水女子大学)瀧澤利行(日本生活指導学会理事・茨城大学)冨士原紀恵(日本カリキュラム学会理事・お茶の水女子大学
 本報告書は、このシンポジウム及び日本教育学会に寄せられた意見等を踏まえ、ワーキンググループを中心に推敲を加えたものです。
 戦後改革により公教育の場からは排除されたはずの教育勅語は、今回に限らず、これまでにも何度かその復活を示唆する政府閣僚等の発言が国会内外で繰り返されてきました。今後もそのような事態が生じる可能性は否定できません。そのためにも本報告書が広く活用されることを願います。
(文責・乾彰夫)
日本教育学会教育勅語問題ワーキンググループ
中嶋哲彦(座長・名古屋大学
乾彰夫(副座長・首都大学東京名誉教授)
大橋基博(名古屋造形大学
小野雅章(日本大学
折出健二(人間環境大学
澤田稔(上智大学
寺崎里水(法政大学)
村田晶子(早稲田大学
 
【 目 次 】
第Ⅰ部 本編
第1章 教育勅語の内容と実施過程―教育勅語は学校教育に何をもたらしたのか― 
     小野 雅章(日本大学
第2章 学校儀式と身体―教育勅語と唱歌の共存関係を中心に―
     有本 真紀(立教大学
第3章 戦後における教育勅語の原理的排除
     三羽 光彦(芦屋大学
第4章 教育勅語は学習指導要領・教科書でどのように扱われているか
     本田伊克(宮城教育大学
第5章 第193国会における教育勅語使用容認論とその問題点
     中嶋哲彦(名古屋大学
第6章 学校教育における教育勅語の扱いについて
     中嶋哲彦(名古屋大学
第Ⅱ部 Q&A
第Ⅲ部 資料編
(引用終わり)
 
(弁護士・金原徹雄のブログから/教育勅語関連)
2017年3月25日
鈴木邦男さんの「愛国」スピーチ@3/19国会正門前~全編文字起こし
2017年4月8日
教育勅語に関する安倍晋三内閣の立場を再確認する~初鹿明博衆議院議員質問主意書に対する答弁書を読んで
2017年5月7日
教育研究者有志による「教育現場における教育勅語の使用に関する声明」(4/27)のご紹介と賛同のお願い
2017年5月22日
越野章史さん(和歌山大学教育学部)スピーチ全文「教育勅語共謀罪がもたらす社会」~5/20「安倍政権に反対する和歌山デモ」から