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日弁連から法務大臣宛「記録的な猛暑に対応し、速やかに効果的な熱中症対策を進めることを求める(要望)」(2018年8月9日)を読む

 2018年8月21日配信(予定)のメルマガ金原No.3246を転載します。
 
日弁連から法務大臣宛「記録的な猛暑に対応し、速やかに効果的な熱中症対策を進めることを求める(要望)」(2018年8月9日)を読む
 
 ようやく朝夕は、秋の気配を感じるようになりましたが、7月から8月上旬にかけての酷暑は、全国的にただならぬ状況であり、7月23日には気象庁が異例の記者会見を開き、同庁気候情報課の竹川元章予報官が「経験したことがないほどの暑さになっている地域がある。命に危険を及ぼすレベルで、災害と認識している」(同日付毎日新聞WEB版より)と述べるほどの事態となりました。
 
 このような暑さの中、大半の国民は、エアコンが無ければとても生活できないというい実感を持たれたことと思いますが、心ならずも、強制的に、あるいは半ば強制的に、エアコンのない生活を余儀なくされている多くの人々がいます。
 その一つが、小学校・中学校に通う生徒たちで、10年ほど前までは、学校にエアコンがないのが当たり前という状況でした。文部科学省のデータ(公立小中学校の空調(冷房)設備設置状況の推移(平成10年度~平成29年度))によると、平成22年10月時点での全国の公立小中学校の教室への空調設置率は18.9%に過ぎませんでした。それが、6年半後の平成29年4月には、41.7%にまで達したのですから、行政としてもそれなりの努力を払っていることが見てとれます。
 
 私の住む和歌山市の公立小中学校は、エアコン設置率が100%に達しましたが、県下市町村における普及率には相当の格差があり、7月末には、和歌山県教育委員会が、「県内30市町村の教育委員会を通じて、国の交付金を活用した公立小・中学校へのエアコンの導入を呼びかけていて、再来年度(2020年度)までに、すべての学校での整備を目指す」(和歌山放送ニュースより)と報じられています。
 ちなみに、小中学校への空調設備設置費用の1/3は国からの交付金でまかなえるようです。
 
 以上のような、小中学校における状況とは異なり、実際に熱中症による犠牲者を出しながら、遅々としてエアコンの設置が進まない施設があるのをご存知でしょうか。それが、刑務所、拘置所、少年院、少年鑑別所などの刑事(矯正)施設です。
 これらの施設に収容される受刑者、被疑者、少年等は、法律の規定によって移動の自由を制限された身であり(自分の意思で施設外はもとより、居室外にも出られない)、酷暑を避けるために、より涼しいところに移動する自由を剥奪されているという特殊性を考慮すれば、これほどの酷暑が続く中、小中学校並みのペースでエアコン設置が進むべきであると思いますが、これがとてもそのような状況ではありません。
 これらの刑事施設、矯正施設におけるエアコン設置率についてのデータは法務省で作っているはずですが、簡単なネット検索では見つけられませんでした。
 
 けれども、私自身の経験から言うと、和歌山県内の刑務所、拘置所、少年鑑別所などにおいて、エアコン設置が進んでいるとはとても言えないと思います。
 とりわけ、3年前の7月末に熱中症と見られる症状で3人の収容者が搬送され、その内、労役場留置中の男性が死亡した拘置所(丸の内拘置支所)では、翌年、4人収容の共同室用にエアコン3台が設置されたと報じられましたが、とても全室設置とはいきませんでした。
 拘置所に隣接する和歌山少年鑑別所でも、エアコンの設置は一部の部屋にとどまっています(ただし、扇風機は全室に設置)。
 これに対し、警察署の代用監獄(留置場)については、近年耐震化の必要もあり、県下の警察署の大半が建て替えられたため、ほぼ冷暖房完備となっています。
 このため、7月ころに起訴された被告人の多くは(起訴までは警察署に収容されているのが普通)、「拘置所に移監されたくない」と願うのですが、なかなかそうもいかず、順次、エアコンのない拘置所に移されていくことになります。
 ちなみに、和歌山の拘置所の弁護士接見室には、アクリル板の弁護士側に扇風機が取り付けられていますが、エアコンはありません。
 
 上述のように、和歌山の拘置所では3年前に死者が出ましたが、今年も名古屋刑務所で犠牲者が出ています。
 このような事態をうけ、日本弁護士連合会は、8月9日に、上川陽子法務大臣に対し、「記録的な猛暑に対応し、速やかに効果的な熱中症対策を進めることを求める(要望)」を提出しました。
 日弁連が要望書を出したからといって、すぐにエアコン設置のための予算がつくというものではありませんが、10年ほど前までは停滞していた小中学校におけるエアコン設置が急速に進むようになったのは、世論による後押しが国や地方自治体を動かしたという側面があるはずであり、刑事施設、矯正施設におけるエアコン設置についても、「設置されるのが当然」という世論の後押しが是非とも必要だと思います。
 その意味からも、この日弁連要望書を是非多くの方にお読みいただきたく、本ブログでご紹介することとしました。
 
(引用開始)
                                                                   日弁連総第23号
                                                  2018年(平成30年)8月9日
 
法務大臣  上 川 陽 子  殿
 
                             日本弁護士連合会
                               会長  菊 地 裕太郎
 
      記録的な猛暑に対応し,速やかに効果的な熱中症対策を
             進めることを求める(要望)
 
1 要望の趣旨
 当連合会は,法務省に対し,エアコン等の空調設備が設置されていない刑事施設において被収容者が,熱中症により死亡したり入院したりすることのないように,速やかに次の対策をとることを求める。
(1) 過去の記録を塗り替えるような酷暑への対応として,空調設備の設置を早急に行うこと
(2) 空調設備が導入されるまでの間,共同室だけでなく,単独室にも扇風機等の設置を進めること
(3) 被収容者に対して,作業場だけでなく,屋外,共同室及び単独室において十分な水分や塩分だけでなくスポーツ飲料等を含め,気温や湿度の変化などに応じて,昼夜を問わず適宜給与すること
(4) 空調設備の設置を直ちに行うことが困難である場合には,空調設備の設置を含む施設更新を計画的に進めること
(5) 上記のほか,これまでの対策を更に進展させ,より抜本的な熱中症対策,施設内環境整備を行うこと
 
2 要望の理由
(1) 記録的な酷暑
 記録的な猛暑が続いている。気象庁は,本年7月23日にこの猛暑について,異例の緊急記者会見を行い,「命の危険がある暑さ。災害と認識している」との見解を表明した。もはや,この猛暑は,地震や風水害並みの「災害」であり,過去に例をみないものである。
しかもこの猛暑は,地球温暖化に伴う異常気象の一部と言われており,今年以降も継続することが予想されている。
 こうした猛暑の中,熱中症による痛ましい死亡事故の報道が相次いでいる。
 愛知県豊田市の小学校では,7月17日に校外行事から帰ってきた小学校1年生の児童が熱中症で死亡するなどの被害があった(7月17日毎日新聞)。全国で,7月19日には一日で10名,7月21日には一日で11名の死亡が確認されている(7月19日・21日共同通信)。死亡者の多くが,室内で死亡していることが大きな特徴である。
 そして,刑事施設における熱中症による事故が報じられた。すなわち,7月19日に京都拘置所において2名の男性被収容者が搬送され(7月19日共同通信),7月24日に名古屋刑務所において男性受刑者が熱中症のため死亡した(7月25日中日新聞)。京都拘置所及び名古屋刑務所の各居室には空調設備は設置されていなかった。
(2) 監獄法改正時の日弁連の意見
 当連合会は,2006年3月16日「未決拘禁法案(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案)についての日弁連の意見」18頁において,当時の刑事施設の冷暖房設備の状況を指摘し,「居室の室温が適当な水準に保たれるよう,気候に応じた冷暖房などの適切な措置がとられるべきであり,このことを法律上も明確に保障するべきである。」との意見を述べた。
 さらに,当連合会は,2010年11月17日,「刑事被収容者処遇法『5年後見直し』に向けての改革提言」7頁の中でも,冷暖房設備の充実の提言を行っている。
(3) 刑事施設における空調設備の設置状況
 しかし,刑事施設においてエアコン等の空調設備の設置は目に見えるような進展がない状況にある。刑事施設のうち,警察の留置施設については冷暖房がほぼ設備されている一方,東京拘置所,横浜刑務所横須賀刑務支所,PFI施設などを除き,空調設備を設置していない刑事施設が圧倒的に多い。さらに,老朽化している刑事施設の中には,断熱設備すらも不十分であり,昼間に暖められた建物の輻射熱のため夜もずっと暑さが続き,安眠することができない施設も多い。
 夏の間は通路や共同室に扇風機を置いたり,単独室内ではうちわを貸与したりするなどの対策がとられているが,今年の記録的な酷暑ではこのような対策で十分な効果が上がっているかは疑問である。
(4) 最近の刑事施設における熱中症の発生状況等
 刑事施設における熱中症の発生は,本年が初めてではない。2010年7月17日,大阪刑務所において,保護室に収容中であった60代の男性受刑者が死亡した。この被収容者は水分をとっていなかったとされる。
 2015年7月31日には,和歌山市の大阪刑務所丸の内拘置支所で,男性被収容者2人が熱中症とみられる症状で病院に搬送され,40代の男性が死亡し,50代の男性が意識不明となった。続く8月1日にも,同拘置支所で,20代の被収容者が熱中症の症状で意識不明の重体となり市内の病院に搬送されたと報じられた。
 2017年8月8日には,高松刑務所で,50代の男性受刑者が倒れて意識不明となり,病院で死亡した。この男性には外傷はなく,熱中症の疑いがあるとみて死因を調べていると報じられた。
 2015年の和歌山での死亡事件を受けて,法務省は全国の矯正施設に対し,高齢者や病気の収容者が気温の高い居室や作業場に居ることがないよう配慮したり,体調不良を訴えたときはすぐに受診させたりするよう通知を出したとされる。今年の猛暑に当たっても,相当な対策を立てられているものと推察するが,先の京都拘置所及び名古屋刑務所における事故が発生したのである。
 これらの施設内の熱中症の多くは,室内で起きていることが特徴である。室内の温度が高すぎることが熱中症発症の原因であり,炎天下を避ければ熱中症が防げるというレベルを超えた酷暑となっていることが分かる。
(5) 当連合会の意見
 過去の記録を塗り替えるような酷暑が続く中,今や,刑事施設における酷暑状態は,生命に関わる事態であって,これまでの対策では十分ではないことが明らかである。被収容者の生命,健康を保持する責任を有する国としては,抜本的な対策をとることが責務であると考える。とりわけ,刑事施設への被収容者は,行動の自由が制限されているので,自ら熱中症を回避するための自己防御策を講ずることはできない。刑事施設はコンクリート造で蓄熱しやすく,居室も通風が確保されていないという構造上の特徴があることに留意すべきである。
 一部の施設では冷房が使用されているにもかかわらず,冷房が使用されていない又はエアコン等の空調設備が設置されていないところは灼熱の居室となっている。どの施設のどの居室に収容されるかが被収容者の生命にも関わるという状況は法の下の平等の観点から疑問である。
 現在の猛暑の進展,被収容者の生命,健康に対する国の責任を踏まえると,国は,早急に刑事施設にエアコン等の空調設備を設置すべきである。仮に,予算の都合上,直ちに実施することが困難であると認められる場合には,空調設備の整備を含む施設整備を計画的に進めることを求める。
 また,共同室や廊下だけでなく,単独室にも扇風機の設置を進めることが必要である。エアコン等の空調設備の導入が今すぐに困難であっても,より安価に涼をとることのできる「冷風扇」のような機器の有効性も試験してみるべきである。
 さらに,被収容者に対してやかんに水を入れて給与するだけでは不十分であり,スポーツ飲料あるいは塩分を,屋外,屋内また昼夜を問わず,暑さ指数(WBGT数値)を参考にするなど適宜に,十分な量を給与することが必要である。
 次の犠牲者を出さないために,緊急に可能なあらゆる対策を講じて欲しい。
 上記のほか,これまでの対策を更に進展させ,より抜本的な熱中症対策,施設内環境整備を行うことも必要である。
 以上のとおり,当連合会は,要望の趣旨のとおり,速やかに熱中症対策をとることを求める。
                                                                             以上
(引用終わり)
 
(参考資料/日弁連の意見)
2006年3月16日
未決拘禁法案(刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の一部を改正する法律案)についての日弁連の意見
2010年11月17日
刑事被収容者処遇法「5年後見直し」に向けての改革提言