全国知事会「米軍基地負担に関する提言」(2018年7月27日)を読む~日米地位協定の抜本的見直しを求めて
2018年8月29日配信(予定)のメルマガ金原No.3254を転載します。
1か月遅れの情報ですが、やはり重要な出来事だと思いますので、ブログでご紹介しようと思います。
まず、報道の一例を引用します。
朝日新聞デジタル 2018年8月14日18時14分
(抜粋引用開始)
全国知事会は14日、日米地位協定の抜本的な見直しを日米両政府に提言した。8日に亡くなった翁長雄志・沖縄県知事の「基地問題は一都道府県の問題ではない」との訴えを受け、2年近くかけて提言にまとめ、7月の全国知事会議で全会一致で初めて採択した。
提言は、航空法や環境法令など国内法の適用や、事件・事故時の基地への立ち入りなどを日米地位協定に明記するよう要請。米軍の訓練ルート・時期に関する情報を事前提供すること、基地の使用状況などを点検して縮小・返還を促すことも求めている。
(略)
米軍基地を抱える15都道府県でつくる渉外知事会は、沖縄県で米兵による少女暴行事件が起きた1995年以降、日米地位協定改定を求め続けている。日米両政府は補足協定などで運用を見直しているものの、60年の締結以来、一度も改定されていない。(古城博隆)
(引用終わり)
全国知事会による「米軍基地負担に関する提言」自体は、本年7月27日、札幌市で行われた「全国知事会議」において採択されたものですが、上記朝日新聞の報道は、8月14日に行われた全国知事会による要請行動を機に掲載されたものです。
全国知事会ホームページ
平成30年08月14日 「米軍基地負担に関する提言」に係る要請活動等について
(引用開始)
8月14日(火曜日)、上田全国知事会長(埼玉県知事)、謝花(じゃはな)沖縄県副知事ほか3県(岩手県、神奈川県、大分県)は、外務省及び防衛省に対し、7月27日の全国知事会議で決議した「米軍基地負担に関する提言」について要請活動を行いました。また、在日米国大使館において、ジョセフ・M・ヤング 首席公使へ提言内容を説明し、意見交換を行いました。
(引用終わり)
全国知事会に設置された「米軍基地負担に関する研究会」の第1回は2016年11月21日に開催されていますが、もちろんその会議には翁長知事も出席し、配布した資料に基づき、沖縄の現状を説明されたものと思います。
※出席者名簿
※沖縄県配付資料
提言が採択された7月27日の全国知事会議には、翁長知事自身は病気のために謝花(じゃはな)喜一郎副知事が出席したのですが、全会一致で採択されたとの報を受け、きっと喜ばれたことでしょうね。お亡くなりになったのは、それからわずか12日後のことでした。
日米地位協定については、単に協定本文を読むだけでは全く不十分で、1960年1月の協定締結時の合意議事録、さらに、施行後の様々な日米合同委員会合意等まで読み込まないと全体像が分からず、さらに、実際の運用では、それらの合意すら守られていないものまであるという始末ですから、アウトラインを理解することさえ困難を極めます。
とはいえ、とにかくそれらの協定書及び付属文書が基本ですから、末尾に参考資料を掲げておきました。
ただし、外務省サイトのものは正直言って読みにくいです。ということで、私のお薦めは、沖縄県ホームページの中の「地位協定ポータルサイト」に集積された資料です。「地位協定ではどうなっているのか?」調べてみようという際には、まず最初に沖縄県「地位協定ポータルサイト」にあたってみるのが良いと思います。
例えば、今回の「全国知事会」の「米軍基地負担に関する提言」4項目の中の2項「日米地位協定を抜本的に見直し、航空法や環境法令などの国内法を原則として米軍にも適用させることや、事件・事故時の自治体職員の迅速かつ円滑な立入の保障などを明記すること」の内、後文については、2004年8月に発生した沖縄国際大学敷地への米軍ヘリコプター墜落事故の際、「消火作業が終わった後、アメリカ軍が現場を封鎖し、事故を起こした機体を搬出するまで日本の警察・消防・行政・大学関係者が現場に一切立ち入れなかった」(Wikipediaより)ことを想起するば、その言わんとするところを理解することは容易ですが、前文については、「航空法や環境法令などの国内法」が原則として米軍には適用されていないのか?と驚かれるでしょう。
全国知事会の提言にどのような政治的効果があるかではなく、この提言も活用して私たちに何ができるかが問題なのですが、まずその前提として、提言自体をしっかり読み込み、理解しなければと思い、ご紹介することとしました。
米軍基地負担に関する提言
(引用開始)
全国知事会においては、沖縄県をはじめとする在日米軍基地に係る基地負担の状況を、基地等の所在の有無にかかわらず広く理解し、都道府県の共通理解を深めることを目的として、平成28年11月に「米軍基地負担に関する研究会」を設置し、これまで6回にわたり開催してきました。
研究会では、日米安全保障体制と日本を取り巻く課題、米軍基地負担の現状と負担軽減及び日米地位協定をテーマに、資料に基づき意見交換を行うとともに、有識者からのヒアリングを行うなど、共通理解を深めてきました。
その結果、
① 日米安全保障体制は、国民の生命・財産や領土・領海等を守るために重要であるが、米軍基地の存在が、航空機騒音、米軍人等による事件・事故、環境問題等により、基地周辺住民の安全安心を脅かし、基地所在自治体に過大な負担を強いている側面がある。
② 基地周辺以外においても艦載機やヘリコプターによる飛行訓練等が実施されており、騒音被害や事故に対する住民の不安もあり、訓練ルートや訓練が行われる時期・内容などについて、関係の自治体への事前説明・通告が求められている。
③ 全国的に米軍基地の整理・縮小・返還が進んでいるものの、沖縄県における米軍専用施設の基地面積割合は全国の7割を占め、依然として極めて高い。
⑤ 沖縄県の例では、県経済に占める基地関連収入は復帰時に比べ大幅に低下し、返還後の跡地利用に伴う経済効果は基地経済を大きく上回るものとなっており、経済効果の面からも、更なる基地の返還等が求められている。
といった、現状や改善すべき課題を確認することができました。
米軍基地は、防衛に関する事項であることは十分認識しつつも、各自治体住民の生活に直結する重要な問題であることから、何よりも国民の理解が必要であり、国におかれては、国民の生命・財産や領土・領海等を守る立場からも、以下の事項について、一層積極的に取り組まれることを提言します。
記
1 米軍機による低空飛行訓練等については、国の責任で騒音測定器を増やすなど必要な実態調査を行うとともに、訓練ルートや訓練が行われる時期について速やかな事前情報提供を必ず行い、関係自治体や地域住民の不安を払拭した上で実施されるよう、十分な配慮を行うこと
3 米軍人等による事件・事故に対し、具体的かつ実効的な防止策を提示し、継続的に取組みを進めること
また、飛行場周辺における航空機騒音規制措置については、周辺住民の実質的な負担軽減が図られるための運用を行うとともに、同措置の実施に伴う効果について検証を行うこと
4 施設ごとに必要性や使用状況等を点検した上で、基地の整理・縮小・返還を積極的に促進すること
平成30年7月27日
全 国 知 事 会
(引用終わり)
(参考資料/沖縄県)
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)及び関連情報(外務省)
(参考資料/国立国会図書館刊行物掲載論文)
日米地位協定・環境補足協定と日本環境管理基準(JEGS)(佐藤毅彦/「レファレンス」第793号/2017年2月)
(参考資料/全国知事会)
全国知事会米軍基地負担に関する研究会
(参考資料/日本弁護士連合会の意見書・パンフレット)
2014年2月20日
日米地位協定に関する意見書
※【参考資料】要旨・現行日米地位協定と意見の趣旨との対照表
2014年10月
(参考サイト)
2016年7月14日 SYNODOS
(参考書籍)
(弁護士・金原徹雄のブログから/日米地位協定関連)
2013年4月14日
2014年11月9日
「日米地位協定」すら守られていない日米関係をどのように考えたらよいのか~基地騒音賠償金の「分担」をめぐって
2015年2月23日
沖縄で起こったこと、起こってはならなかったこと~地元からの報道で知る
2015年2月24日